( ^ω^)ブーンはクドリャフカの孤独に触れるようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:41:54.12 ID:pDVE8xJ20
世界で始めて宇宙へ飛び出した生命体は、まるでちっぽけな一匹の雌犬だったそうだ。
そして彼女の乗りこんだ宇宙船は、地球へ帰る術を与えられていなかった。


( ^ω^)ブーンはクドリャフカの孤独に触れるようです


川 ゚ -゚)「背中の冷却装置が1つ。人工筋肉も、もう限界だな…」

廃墟、としか言えないような朽ち果てた建物の一室で、ひとりの少女が呟く。
その建物は、今となっては珍しい原生林に隠されるように人里離れた森の中にひっそりとそびえたっていた。
元は何か科学的な作業でもされていたのだろうか、あちこちに切断されたケーブルやら、錆付いたネジやら、果ては元がなんであったかわ

からない不気味な物体やらが、まるで秩序など知らぬように、まるで元からこの建物の一部であったかのように散らばっている。

その中に、少女は1人佇んで淡々と自分の体のあちこちを確認するように触りながら、時には引っかいたり叩いたりしながらブツブツと言

葉を紡いでいく。

川 ゚ -゚)「画像処理速度も0.87…いや、0.85倍まで落ちたか…。っはは。当然だな。メンテナンスをしなくなってから、百何十年経ったと

思ってるんだ」

少女は、自嘲的に呟いた。

川 ゚ -゚)「さて、もう行くか…。父さん。済まない。私は父さんとの約束を、果たすわけには行かないんだ」

父さん、と口に出した瞬間に少女の瞳に光が宿った。
それは今まさに彼女を突き動かそうとしている、確かな決意の光であった。
そうして少女は、何ひとつ無駄のない動きで、その建物を後にした。



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:46:21.94 ID:pDVE8xJ20
「レンタル宇宙船おっぱい」そんな恥ずかしい名前の会社がブーンの勤め先である。
元は優秀な営業マンであったジョルジュが大手旅行会社を辞め、そこで得たコネを駆使して安く買い叩いた宇宙船一機とジョルジュ1人で

立ち上げた会社だ。
およそ8年前の宇宙旅行ブームに乗っかりそれから着々と成長を続けてきたこの「レンタル宇宙船おっぱい」は、
今や社員数14人。宇宙船の数も23機と増え専用の打ち上げ場も所有し、オフィスビルの20階に事務所を構える立派な中小企業となっていた。

( ^ω^)「今日は客が来ないおー暇だおー」
 
( ゚∀゚)「何サボってんだブーン。しばくぞ」

主に接客がメインの仕事である新人社員のブーンが受付でぼやいてると、社長であるジョルジュが如何にも気安く声をかけてきた。
ジョルジュの性格からかこのふざけた名前の会社はアットホームであった。

( ^ω^)「社長ー。今日は閑古鳥もいいとこですおー。ブーンこのままだとやる事がなさ過ぎておもむろにバーチャルリアリティの世

界に飛び立ってバーチャル童貞喪失に精を出すことになりかねないですおー」

( ゚∀゚)「ふざけんな。精を出す意味が違うだろヴォケが。お前バーチャルで童貞喪失何回するつもりだっつーの」

( ^ω^)「だってイメージトレーニングは大事ですお。いつか純潔を捧げる人が現れた時のためにテクニックをガシガシ磨かないと…

お?」

その時、この会社には不釣合いとも言える一人の少女が訪れた。その少女の美しさにブーンとジョルジュは思わず一瞬目を奪われたが、2

人ともすぐに営業用の柔らかな笑顔を浮かべる。

川 ゚ -゚)「お邪魔するぞ」



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:48:39.60 ID:pDVE8xJ20
( ^ω^)「いらっしゃいませだおー。お母さんとお父さんは後から来ますのかお?」

川 ゚ -゚)「いや、私1人だが」

( ^ω^)「お嬢ちゃん、お1人、ですかお?」

「レンタル宇宙船おっぱい」のお客は少し裕福な家庭が主力だ。中流家庭だと大手宇宙船会社の定期便で済ませてしまうし、もっと裕福な家庭だと自家用宇宙船を所持しているからだ。
だが、裕福な家庭にしても中流家庭にしても、少女1人で宇宙船を借りに来る事はまず今までになかった。

川 ゚ -゚)「ああそうだ。一番小さい宇宙船を出来るだけ早く貸して頂きたい」

( ^ω^)「お譲ちゃんがお1人で乗るんですかお?」

川 ゚ -゚)「ああ、そうだが?」

( ^ω^)「法律で16歳以下が1人で宇宙船に乗る事は禁止されてるんですおー。いくら宇宙船が全自動操縦になったと言っても残念ながらお譲ちゃんが1人で宇宙船に乗る事は出来ないおー」

川 ゚ -゚)「その点なら心配いらない。私は166歳だ」

( ゚∀゚)「…。」

今まで黙って成り行きを見守っていたジョルジュが、伺うようにブーンと視線を合わせる。「俺がやろうか?」と、その目が語っていた。
だがブーンはそのメッセージを受け取って、あえて必要ないとでも言うように言葉を続ける。

( ^ω^)「まずお譲ちゃんの名前と何か身分を証明出来るような物を見せてくれますかお?」

川 ゚ -゚)「名前はクーだ。ふむ…。身分を証明出来るようなもの…か。これは困ったな。私は私が何者かを忘れる事はけしてないから自分の身分を証明しようなどと一度も思った事がない」



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:51:46.85 ID:pDVE8xJ20
( ^ω^)「クーちゃん…ですかお。えーと、じゃあ国民番号はわかるお?それがわかれば、こちらでクーちゃんの身元を調べることが出来ますお」

( ゚∀゚)「阿呆か。国民番号なんていちいち覚えてるはずねぇだろ。何桁あると思ってんだあれ」

川 ゚ -゚)「8402−4732−5433−1132−4923−2225−8917−1612−4632 だ」

( ^ω^)( ゚∀゚)「…!?」

( ^ω^)「最近の教育は凄いですお…。自分の国民番号まで教えるんですかお…」

川 ゚ -゚)「ん?こんなたかだか36桁の数字忘れるわけなかろう」

( ^ω^)「そうですかお。クーちゃんは頭が随分良いんだおー。とにかくこれでクーちゃんの身元が調べられるお。もう一度ゆっくり言ってくれますかお?」

今度はパソコンにクーの国民番号を打ち込む準備をしながらブーンが言う。クーはもう一度自分の国民番号を繰り返した。

( ^ω^)「おっお。出てきたお。えーと、クー。2241年生まれ…の166…歳!?」

川 ゚ -゚)「これでわかったか?それで一番小さい宇宙船を出来るだけ早く貸して頂きたいのだが」

( ^ω^)「ちょっwwwwおまwwww若作りにも程があるおwwww」

( ゚∀゚)「クーちゃん…、と言ったか。ちょっといいかな?」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:53:08.41 ID:pDVE8xJ20
( ^ω^)「社長?」

気付けばジョルジュは、今までにない鋭い目つきでクーを見ていた。

川 ゚ -゚)「なんだ?」

( ゚∀゚)「残念ながら、君は明日にでも死んでもらわなきゃいけない身のようだ。そして俺は君を警察に届ける義務がある」

( ^ω^)「ちょっ社長」

川 ゚ -゚)「ふむ。そこをどうにか目を瞑ってくれないだろうか」

( ゚∀゚)「駄目だ。これも人間の責任でね。今俺の端末から警察を呼んだ。あと数分もしないうちにここに到着するだろう。逃げ場はないぞ」

川 ゚ -゚)「………」

( ^ω^)「誰か状況をkwsk」

そしてクーは無表情で数秒ほど考え、そしておもむろにブーンの手を掴み強引に自分の元へと引き寄せた。

( ゚ω゚)「おぉっおー」

机越しにぐいと引っ張られ派手に机の上を横切ってクーに引き寄せられる

( ^ω^)「痛っwwwちょwwwでもフラグktkr」



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:54:19.93 ID:pDVE8xJ20
( ゚∀゚)「何をしても無駄だぞ」

川 ゚ -゚)「そう思うなら試してみるか?」

( ゚∀゚)「ブーン、死んだら骨は拾ってやる」

(♯^ω^)「殺す気満々ですかお」

川 ゚ -゚)「とにかく私には時間がない。ここで警察に捕まるわけにはいかないのでな」

クーはやはり眉1つ動かさぬままジョルジュを見据える。
耳を澄ますと一台二台ではないパトカーのサイレンが徐々に近づいてくるのがわかる。

川 ゚ -゚)「もう来たのか」

クーは焦る様子など微塵も見せぬまま窓を開けパトカーがこちらに向かって来るのを確認する。
そして次の瞬間文字通り大人と子どもほどの体格差のあるブーンを抱き上げ、そのまま窓から飛び降りた。

( ゚ω゚)「くぁwせdrftgyふじこlp」

( ゚∀゚)「ブーン!」



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:55:12.76 ID:pDVE8xJ20
20階の窓からちょいピザの男を抱きかかえたまま少女が飛び降りる。
急いで窓に飛びついたジョルジュの耳には、たまたま現場を目撃したのだろう、人々の悲鳴が聞こえた。
みるみる地面に近づくクーとブーンの姿が見える。

川 ゚ -゚)「筋肉稼動リミッター開放。おk。スプリングは…もういかれてるか。両足の人口筋肉をギリギリまで伸ばす…まだだ…まだ…」

( ゚ω゚)「ふぉぉおおおおおお」

地上の誰しもが思わず目を背けた、少女と男が地面に接触する瞬間。
大方の予想を裏切った、耳が痛くなるほどの鋭い金属音がそこに響いた。
そしてその場には、空中と同じ姿で垂直に立つ少女と、少女に抱きかかえられたまま放心状態の男が残った。

川 ゚ -゚)「着陸成功。次のアクション開始可能時間まで残り25秒…23…22…」

( ゚ω゚)「かゅ…ぅま…」

だがそこで終わりではない。オフィス街の中心に突然飛び降りた異様な少女を駆けつけるパトカーが次々と彼女を取り囲み、そして中から全身黒に身を包みレーザー銃を手にする武装した男たちが雪崩れ出てくる。
だがその中で1人だけ、無骨な真っ黒な防護服ではなく草臥れたグレーのコートに身を包んだスーツ姿の男があった。彼が手に持っていたのはレーザー銃ではなくスピーカーだ。
そして酷く面倒くさそうに少女と男の姿を一瞥すると、心底どうでもいいと言った仕草でスピーカーを口に当てた。

(´・ω・`)「観念しろポンコツが。なんのつもりでこんなとこに来たのか知らんがな」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:56:54.69 ID:pDVE8xJ20
川 ゚ -゚)「8…7…6…」

(´・ω・`) 「確保。男の方は一般市民だな。慎重に保護しろ」

(`・ω・´)(`・ω・´)(`・ω・´)「「「いえっさー」」」

川 ゚ -゚)「3…2…1…」

武装した男たちが一糸乱れぬ動きで少女に飛び掛ろうとしたその瞬間、少女の姿が消えた。

(`・ω・´)(`・ω・´)(`・ω・´)「「「…っ!?」」」

否、消えたのではない。突然空から落ちてきた少女は、今度は空高く跳躍したのだ。
少女はパトカーの一台に飛び乗る。やはり誰もが耳を塞ぎたくなるような、金属と金属がぶつかる音がした。

川 ゚ -゚)「下手な事をするとこいつを殺す。本気だぞ。私は安全装置のついていない旧型だ。人とそうでないものを見分ける事も出来ないのでね」

(´・ω・`)「それは困ったね」

川 ゚ -゚)「悪いがここは逃げさせて貰う。捕まるわけにはいかないのでな。一台借りるぞ」

少女は言うが早いがひらりとパトカーから飛び降り運転席へと乗り込んだ。
そのまま走り去ったそのパトカーの前後についている自動運転ランプは消えていた。

(´・ω・`)「人間を人質にとる旧型と、それに手を出せない新型、ね。なるほど盲点だったな。お前ら一応追え」

(`・ω・´)(`・ω・´)(`・ω・´)「「「いえっさー」」」



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:59:00.28 ID:pDVE8xJ20
( −ω−)「うは…ついにリアル童貞喪失ktkr…」

川 ゚ -゚)「言えばわかってくれると思ったんだけどな…」

( ゚ω゚)「ってふぉぉぉおおおお死ぬ!こんなところから落ちたら死ぬおー!」

川 ゚ -゚)「おはよう。やっと起きたか」

( ^ω^)「うはwww 目覚めれば隣に美少女ktkrwww しかも俺生きてるwwww」

川 ゚ -゚)「怖い目に合わせてすまなかったな」

( ^ω^)「いや問題ないお?お?これも全てフラグを立てるためと思えば…お?お?」

川 ゚ -゚)「フラグ?残念ながら私はバリバリ非攻略キャラだ」

( ゚ω゚)「…ってここ何処だお!?クーちゃん何者だおーーーー!?」

あたりを見回したブーンが叫ぶ。無理もない。そこはまるで人が快適に過ごせるとは思えない廃墟の様相を呈する一室だった。
光源が機能するとは思えない薄暗い部屋。元が何だったかわからない機械のようなものの残骸。
ブーンは辛うじてまだベッドと呼べるようなモノの上に寝かされていた。

川 ゚ -゚)「話せば長くなる。済まないが君は人質だ。しばらく私に付き合って欲しい」

( ^ω^)「人生初の告白ktkrwwwww」

( ^ω^)「………」

( ゚ω゚)「って違うお!ブーン今囚われの身の上だお!」



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:59:33.68 ID:pDVE8xJ20
川 ゚ -゚)「まず、私が何者か、についてだったな。名前は知っての通りクーだ。153年前に作られたポンコツだが何の因果か人間の戸籍を貰っている」

( ^ω^)「クーちゃんロボットだお!?」

川 ゚ -゚)「今更驚く事でもあるまい。というか気付かなかったのか」

( ^ω^)「てっきりおしゃまなお転婆っ子かと思ってたお」

川 ゚ -゚)「お転婆ってレベルじゃねーぞ」

( ^ω^)「それよりもロボットへの戸籍付与は重罪だお!申請した人間は厳重に罰せられてロボットは即スクラップのはずだお!」

川 ゚ -゚)「ああそうだ。だが153年前は法整備もなってなくてな。ロボットの技術事態も発展していなかったから、出来の良い私は『申請漏れ』の子どもとしてすぐに戸籍を与えられた。そして私を作り、私に戸籍を与えた、私の父親は新巻。新巻スカルチノフ」

( ^ω^)「新巻…スカルチノフ!?あの八の字眉毛かお!?」

川 ゚ -゚)「知っているのか?」

( ^ω^)「教科書で見たことあるお!額に肉って書いて猫耳をつけた覚えがあるお!」

川 ゚ -゚)「………」

( ^ω^)「で、どんな人だったかkwsk」

川 ゚ -゚)「そうだな。少し、昔話をするか」



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:00:34.91 ID:pDVE8xJ20
私が存在を始めた時、まず一番最初に認識したのは光だった。
それを分析しようとすると、今度は雑音に混ざって言葉、が入ってきた。

/ ,' 3「明るい、と言うことだけ判ればいいんじゃよ」

川 ゚ -゚)「明るい…」

/ ,' 3「どれ、自分の名前がわかるかね?」

川 ゚ -゚)「名前?自分…?クー、私の名前はクーだ」

/ ,' 3「上出来じゃ。自我を持つことが最初の課題だったからの。立てるかな?」

立ち上がると、体がふらふらと安定しない。
バランスをとるのが難しい

川 ゚ -゚)「…倒れそうだ」

/ ,' 3「歩き方も、徐々に覚えていくだろう」

川 ゚ -゚)「手も使ってよつんばいで歩いちゃ駄目なのか?」

/ ,' 3「お行儀も覚えなくちゃならんね」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:02:24.68 ID:pDVE8xJ20
/ ,' 3「さて、もう1つ大事な事を教えようかね」

川 ゚ -゚)「なんだ?」

/ ,' 3「わしの名前は新巻。新巻スカルチノフ。お前さんの父親だよ」

川 ゚ -゚)「私の父親?私を製作したのがあなたという意味か?」

/ ,' 3「いや。違う。お前は私の娘だという意味だな」

川 ゚ -゚)「………?」

それから、私はこの森の中の研究所で人間として新巻に育てられた。
幸せな時間だった。新巻は機械であるこの私に子どもである時間を作ってくれた。
私は、ただの部品の寄せ集めに過ぎない私は、ここで酷く守られていた。



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