( ^ω^)ブーンはクドリャフカの孤独に触れるようです

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:20:45.66 ID:pDVE8xJ20
川 ゚ -゚)「…っく。今のでまた断線した。ああ、骨も歪んだじゃないか」

('A`) 「クーちゃん、ねぇ…。随分と中良さげじゃねーか。ナイフを避けなかったのは後ろの男を庇ったか。まともに攻撃が入るの初めてだな。
愛の力ってやつか?全く、流石愛玩用アンドロイド。人間に媚を売るのだけはお上手だな。っはは。いいな。凄くいい。そいつ、殺していいんだよな?」

ギシ、と足をクーから離しながらドクオが言う。
ほんの少しの苦痛と、それ以上の怒りを含んだ声でクーが応えた。

川 ゚ -゚)「やめろ…。お前は、自分のためには人を殺せないだろう…。ドクオ…」

('A`) 「俺が、殺せない…だと?」

川 ゚ -゚)「もういいだろう?もう、お前を軍事利用しようとする人間も、お前を恐れて破壊しようとする人間も、皆、死んでしまった。
140年だ。お前の戦った戦争から、もう140年経っているんだ。ドクオ。いい加減目を覚ませ。いつまで過去にしがみつくつもりだ?」

先程の怒りはどこへ消えたのか。まるで哀れむような、あるいは慈しむような色を含んだクーの声に、ドクオは再び激昂した。

(#'A`) 「うるせぇよ。終わらねぇよ。俺の戦争は、クー。お前をぶち殺すまで終わらないんだよ!」

川 ゚ -゚)「それがお前の生きる理由になるならと思って、今までこうやって拳を交えてきたが、それも出来なくなるんだ。ドクオ」

('A`) 「あ?」

川 ゚ -゚)「私は、宇宙へ行くよ。ドクオ」

('A`) 「宇宙?」

川 ゚ -゚)「私は、宇宙で死ぬんだ」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:22:24.77 ID:pDVE8xJ20
(;^ω^)「ちょっ…!クーちゃん!?」

('A`) 「…どういう事だ?」

川 ゚ -゚)「そのままだ。私の寿命はおおよそあと7日。時間がない。地球で死ぬわけには行かないんだよ」

('A`) 「逃げるのか…?」

川 ゚ -゚)「違う。逃げじゃない。ドクオ」

('A`) 「ふっざけんな!そもそもなんで俺より3年も新しいお前の方が、オール新巻製のお前の方が、寿命が早いんだよ!クー!」

川 ゚ -゚)「私はお前と違って、迂闊に身体を開けられないんだよ。ドクオ。まともなメンテナンスをする事が出来ない」

('A`) 「あぁ!?なんでだよ!」

川 ゚ -゚)「どうして私がタフなのか、本当の理由を教えてやろう。私はね、153年間バッテリーを充電した事ないんだ」

('A`) 「は?」

川 ゚ -゚)「私の腹にはな。小型の原子炉が装備されている」



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:24:53.30 ID:pDVE8xJ20
(;'A`)「なん…だと?」

(;^ω^)「原子力…発電? さっき腹に思い切り蹴りが入ってなかったかお…?」

川 ゚ -゚)「それだけならまだ良かった。それなら私の寿命が来た時に、しかるべき処理を施して再利用するのも良し、無力化するも良し。いくらでもやりようがある」

('A`) 「おい…どういう意味だ」

川 ゚ -゚)「ドクオ。私は愛玩用アンドロイドじゃない。私こそ、軍事兵器だ。新巻スカルチノフの作った、地球との心中をプログラムされた、最強最悪の時限爆弾だ」

(;^ω^)「ちょっ…」

(;'A`) 「………っ」

川 ゚ -゚)「ブーン。改めて頼みたい。私に、一番小さい宇宙船を、出来るだけ早く貸していただきたい」

(;^ω^)「………」

真っ直ぐな目でじっとブーンを見据えるクー。
ブーンはただ絶句して、その一点の曇りもない瞳から目を逸らす事すら出来なかった。
その張り詰めた静寂を破ったのは、ドクオだった。

('A`) 「いい加減に…」

(#'A`)「いいっ加減にしろ!クー!どういう事だ!お前は新巻に愛されてたんじゃなかったのかよ!父さんって呼んでたろ!娘だって言ってたろ!ここが、お前の帰る家だったんだろ!」



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:27:39.97 ID:pDVE8xJ20
川 ゚ -゚)「私にとっての父さんは、永遠に父さんだ。それは変わらない。何があってもだ。だけど、父さんにとっての娘は、お前が殺した、あの娘1人だよ」

('A`) 「はっ…はははっ…」

ドクオの唇から乾いた笑いが漏れる。

('A`) 「お前もか…っ!お前も、所詮ポンコツか!クー!結局俺らは愛されない!わかってたさ!あの糞親父が死ぬ前にアンドロイドが人間を攻撃出来ないプログラムを完成させた時点でな!
クー!お前は宇宙に行くな!地球と心中?結構じゃねえか!してやろうぜ!あの糞親父の思い通りになるのは癪だがこのまま無意味に生き長らえるよりはずっといい!俺もお前も1人だ!最初から最後まで1人きりだ!だから、こんな糞みたいな星なんかふっ飛ばしちまえ!」

川 ゚ -゚)「それは出来ない」

('A`) 「馬鹿か!それがお前の大事な父さんの望みなんだぞ!」

川 ゚ -゚)「ああ。だから父さんには申し訳ないが」

ふ、とクーが表情を緩める。今まで見せた表情の中で、一番人間らしく、笑った。

川 ゚ ー゚)「私は、この星が好きなんだ」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:29:03.15 ID:pDVE8xJ20
川 ゚ -゚)「だからブーン。どうか、頼む。私に宇宙船を貸して欲しい。これだけは合法でないと、無断で打ち上げられた宇宙船は地球から離れる前に打ち落とされる可能性もあるから。」

(;^ω^)「そんな…クーちゃん。一人ぼっちで、宇宙で、死ぬつもりなのかお?」

川 ゚ -゚)「そうだ」

(;^ω^)「そんな…そんなの…」

( ;ω;)「さ、寂しすぎるお…」

ベッドに腰掛けていたブーンの膝の上に涙がぽたり、と落ちる。
クーはそれを見て一瞬驚いたようだったが、すぐにまた柔和な笑みを浮かべる。

川 ゚ ー゚)「ありがとう。今、君が泣いてくれた。私の死に涙を流す人がいて、どうして寂しいなんて言える?」

( ;ω;)「クー…ちゃん」

川 ゚ -゚)「人質になってくれた事に感謝する。怖い思いをさせてすまなかったな。ついでと言っては何だが、どうにか私が合法的に宇宙へ行けるよう、手配してくれないだろうか」

( ;ω;)「おっ…おっおっ…」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:30:29.37 ID:pDVE8xJ20
('A`) 「何、話、進めてんだよ…」

川 ゚ -゚)「ドクオ。すまないな。出来ればお前を置いていきたくなかった」

('A`) 「おい、なんでだよ。お前も所詮あの糞親父に利用されるだけの存在なんだろう?
いいじゃねえか。いいじゃねえかよ!なんでそんなにまでして地球を、…人間を守るんだよ。
人間がお前に何をしてくれた!?お前も俺と同じ、勝手に生み出され、利用され、追われ、そして忘れ去られた…ポンコツだろうが」

川 ゚ -゚)「ドクオ。お前は人に抱きしめて貰った事があるか?」

('A`) 「っは。なんだ。嫌味か。俺みたいな兵器に人が触るわけないだろう」

川 ゚ -゚)「お前は、抱きしめられる必要がある」

(#'A`)「黙れ!」

川 ゚ -゚)「だって、お前も新巻を…」

クーが笑う。優しく。

川 ゚ ー゚)「父親と呼んでいるじゃないか」

(#'A`) 「黙れぇっ!」

ドクオがありったけの声で吼えた。そして今まで硬く握り締められていた拳を思い切り壁に叩きつける。
爆音が轟いて、壁に2、3人が楽にくぐれるような大きさの穴が開いた。
そうして、薄暗い部屋に光が差み、散らばるガラス片に反射してキラキラと輝いた。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:31:01.01 ID:pDVE8xJ20
(#'A`)「っく…。萎えた!帰る!」

言いながらその穴を通りドクオは走り去って行った。

川 ゚ -゚)「相変わらず慌しいヤツだな。まあ、あいつと会うのもこれで最後だろうが」

クーは壁の穴をどこか愛おしそうに見つめながらそう呟く。そして無表情にブーンに向き直った。

川 ゚ -゚)「街まで送ろう。あのパトカーを使えればいいんだが、何せ目立つからな。私が作ったスクーターで森の麓まで連れて行くからそこからは自力で帰って欲しい。どうか、宇宙船の件を、頼む」

( ;ω;)「ブーンは、まだ、承諾してないお…」

川 ゚ -゚)「承諾も何も、やらなかったらお前も死ぬんだぞ。さ、これを渡しておく」

クーはブーンに手のひらに収まってしまうような小さい箱のような物を渡した。

川 ゚ -゚)「通信機だ。私の内臓されている通信機と対になっている。準備が出来たら、君の会社の打ち上げ場の場所はわかっているから、時間と、宇宙船だけ指定して欲しい」

( ;ω;)「ブーンは…まだ…」

川 ゚ ー゚)「面倒をかけてしまってすまないな」



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:35:09.03 ID:pDVE8xJ20
時刻は午前0時を回っている。警察の事情聴取から開放されたジョルジュは事務所へと戻り、イライラと17本目の煙草に火をつけた。
今時、煙草を吸ってる人間なんて殆どいない。百年以上前に、法律によって毒性はもちろんの事、中毒性も精神安定作用も取り除かれてしまっているからだ。
ジョルジュが煙草を吸っているのは、昔見た古典の映画の影響だった。渋い表情で煙草に火をつける男優が、偉く格好良かった。

−自分も今、格好良い男に見えるのだろうか?−

( ゚∀゚)「何やってんだが…。あの馬鹿は」

ブーンは怪我などしていないだろうが。あの旧型の少女はどんな目的で宇宙船など借りに来たのか。考えても仕方のない疑問符が頭の中に浮かんでは消える。
今自分に出来ること。それは、待つ事だけだ。

その時、社員用のドアが開いた。
弾かれるようにそっちを見ると、そこには小太りの新入社員が立っていた。

( ^ω^)「社長…。ただいまですお」

( ゚∀゚)「…よぅ。遅かったな。元気そうじゃねーか」

( ^ω^)「おかげさまで無事帰って来れましたお。それでブーンは人質と言う特殊な環境に置かれて、とっても疲れてしまって、早急にリフレッシュが必要ですお。
だから明日から宇宙船を一台借りて、宇宙旅行に行って来ますお。有給よろしくですお」

( ゚∀゚)「1人でか?」

( ^ω^)「1人でですお」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:37:08.14 ID:pDVE8xJ20
( ゚∀゚)「行き先は?宇宙は広いぞ?」

( ^ω^)「やっぱり定番の火星と月は外せないですお。でも、思い切って太陽系から出てみてもいいと思ってますお」

( ゚∀゚)「そうか。それで?どの宇宙船を使うんだ?」

( ^ω^)「KY-02U型を」

( ゚∀゚)「ああ、俺の愛しのきょにゅーちゃんか。うん。あれはいい宇宙船だ。何せ俺が一番最初に買った宇宙船だからな。あいつと一緒に会社を始めたんだ。
あれ、二人乗り用だろ?今でこそファミリー向けでやっているが、始めた当時は定期便のほとんどない辺境の地に飛ばされたサラリーマンの送り迎えみたいな仕事ばっかりでね。
もちろん俺が運転していた。自動操縦ついてるけどな。やっぱり不安なんだろうよ。あんな狭い宇宙船の中で1人辺境の星に向かうのは。
そんなわけで俺の一番の戦友だ。何せ動きが滑らかでデザインが良い。あの曲線の色っぽさは何者にも代え難いな。それに…」

( ^ω^)「………」

( ゚∀゚)「まあ、とにかく最っ高に良い女なんだよ。…もう、年だけどな」

( ^ω^)「まだ、充分社長をメロメロにしてますお」

( ゚∀゚)「当たり前だ。きょにゅーちゃんの魅力は不滅だ」



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:37:55.29 ID:pDVE8xJ20
( ^ω^)「明日の午前2時に打ち上げようと思いますお。お借り致しますお。社長」

( ゚∀゚)「ああ。気をつけろよ。俺の大事なきょにゅーちゃんだ。しっかり愛してくれよ?」

( ^ω^)「お任せ下さいお」

ブーンは自分の机に座り、パソコンで何やら作業を始めた。打ち上げのための、事務処理を行っているのだろう。

( ゚∀゚)「………おい」

( ^ω^)「お?なんですお?」

( ゚∀゚)「いや、なんでもない」

−俺今、格好良い男に見えるか?−

( ゚∀゚)「(口に出さない方が格好良いな…)」

ジョルジュは18本目の煙草に火をつけた。



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:39:43.82 ID:pDVE8xJ20
( ^ω^)「さて。ただいまだおー。今日は徹夜で片付けだお。寂しいけどエロゲもガシガシ消去してやるお」

1人暮らしの部屋に帰ったブーンは誰に言うでもなくそう言った。
そして部屋の電灯をつけようと壁に手を伸ばしたところで、部屋の中から返事をされる。

('A`) 「おう。おかえり」

( ゚ω゚)「っふぉ!?」

('A`) 「遅かったな。3時間47分21秒も待ったぞ」

(;^ω^)「ドクオ!?なんで居るお!?ちょっ殺す気かお!?」

('A`) 「殺さねえよ。マンドクセ。それよりも電気つけるならつけろよ。俺は暗視センサーついてるからいいけどよ」

部屋を明るくすると、確かにソファにドクオが座っていた。ブーンもその向いに座る

(;^ω^)「なんでここを知ってるお?」

('A`) 「別に?役場のマシンに侵入して調べるくらいワケねーよ。俺はポンコツだけど自分で考える事も出来ないマシンに負けるほど馬鹿じゃねえ。まあ、流石にデータ弄ったりは出来ないけどな」

(;^ω^)「プライバシーも糞もないお…」

('A`) 「それよりも警察に行かなくていいのかよ。まだお前の事探してんだろ?」

( ^ω^)「そんな事まで知ってるのかお…」

('A`) 「まぁな…。それで、打ち上げるつもりか?」

( ^ω^)「打ち上げるお」



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:41:35.16 ID:pDVE8xJ20
('A`) 「そんなに自分の命が大事か」

( ^ω^)「………」

('A`) 「聞いてんだよ」

( ^ω^)「エロゲ、一緒にやるお?」

('A`) 「あ?」

( ^ω^)「一緒にやるお?エロゲ。バーチャルリアリティじゃなくて、スクリーン使う二次元のやつ。あれだったら一緒にできるお」

(#'A`) 「馬鹿にしてんのか」

( ^ω^)「してないお。一緒にやるお。人生で一度くらい、エロゲを他人とやってみたかったお。」

('A`) 「てめーのオナニーなんか見たくねーよ」

( ^ω^)「まあ、そう言うなお。ブーンも最後のエロゲだお」



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:42:43.19 ID:pDVE8xJ20
ドクオの冷ややかな視線を受けながら、ブーンはソファに座ったままテーブルの上のパソコンを操作する。やがて白い壁の一面にデフォルメして描かれた女の子の姿が映し出された。

ξ゚听)ξ『べ、別にまたあんたと会えたからって嬉しくなんかないんだからねっ!』

( ^ω^)「これで、エロゲ封印をしようと思うんだお」

('A`) 「知らねぇよ」

ξ゚听)ξ『今まで、私放っといて何してたのよ!さ、寂しくなんかなかったけど!あんたが居なくて清々したわ!』

( ^ω^)「おっおっ。ごめんおツン。寂しかったおね」

(;'A`)「………」

淡々と画面に映し出された女の子が、ブーンが選択肢を選ぶたび泣いたり怒ったり笑ったりしているのをドクオは呆れた様子で見守っていた。
やがてゲームは架橋に差し掛かったのか、女の子は酷く思いつめた顔をこちらに向けている。

ξ゚−゚)ξ『ねぇ、ブーン…。辛いよ。今だけでいいから抱きしめて。嘘でもいいから、愛しているって、言ってよ…』

ξ゚−゚)ξ『私、それだけで頑張れるから。こんな、どうしようもない私でも、明日も生きようって、思えるから…っ』

ξ;ー;)ξ『ね?お願い…』

( ^ω^)「おっおっおっ。ここは選択肢『大丈夫だよツン』でフラグを立てるお」

('A`) 「今だけだなんて、嫌だ…」

( ^ω^)「お?」

('A`) 「そんな無責任な情なら、ない方がいいじゃねーかよ」



戻る次のページ