( ^ω^)ブーンはクドリャフカの孤独に触れるようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:41:54.12 ID:pDVE8xJ20
世界で始めて宇宙へ飛び出した生命体は、まるでちっぽけな一匹の雌犬だったそうだ。
そして彼女の乗りこんだ宇宙船は、地球へ帰る術を与えられていなかった。


( ^ω^)ブーンはクドリャフカの孤独に触れるようです


川 ゚ -゚)「背中の冷却装置が1つ。人工筋肉も、もう限界だな…」

廃墟、としか言えないような朽ち果てた建物の一室で、ひとりの少女が呟く。
その建物は、今となっては珍しい原生林に隠されるように人里離れた森の中にひっそりとそびえたっていた。
元は何か科学的な作業でもされていたのだろうか、あちこちに切断されたケーブルやら、錆付いたネジやら、果ては元がなんであったかわ

からない不気味な物体やらが、まるで秩序など知らぬように、まるで元からこの建物の一部であったかのように散らばっている。

その中に、少女は1人佇んで淡々と自分の体のあちこちを確認するように触りながら、時には引っかいたり叩いたりしながらブツブツと言

葉を紡いでいく。

川 ゚ -゚)「画像処理速度も0.87…いや、0.85倍まで落ちたか…。っはは。当然だな。メンテナンスをしなくなってから、百何十年経ったと

思ってるんだ」

少女は、自嘲的に呟いた。

川 ゚ -゚)「さて、もう行くか…。父さん。済まない。私は父さんとの約束を、果たすわけには行かないんだ」

父さん、と口に出した瞬間に少女の瞳に光が宿った。
それは今まさに彼女を突き動かそうとしている、確かな決意の光であった。
そうして少女は、何ひとつ無駄のない動きで、その建物を後にした。



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:46:21.94 ID:pDVE8xJ20
「レンタル宇宙船おっぱい」そんな恥ずかしい名前の会社がブーンの勤め先である。
元は優秀な営業マンであったジョルジュが大手旅行会社を辞め、そこで得たコネを駆使して安く買い叩いた宇宙船一機とジョルジュ1人で

立ち上げた会社だ。
およそ8年前の宇宙旅行ブームに乗っかりそれから着々と成長を続けてきたこの「レンタル宇宙船おっぱい」は、
今や社員数14人。宇宙船の数も23機と増え専用の打ち上げ場も所有し、オフィスビルの20階に事務所を構える立派な中小企業となっていた。

( ^ω^)「今日は客が来ないおー暇だおー」
 
( ゚∀゚)「何サボってんだブーン。しばくぞ」

主に接客がメインの仕事である新人社員のブーンが受付でぼやいてると、社長であるジョルジュが如何にも気安く声をかけてきた。
ジョルジュの性格からかこのふざけた名前の会社はアットホームであった。

( ^ω^)「社長ー。今日は閑古鳥もいいとこですおー。ブーンこのままだとやる事がなさ過ぎておもむろにバーチャルリアリティの世

界に飛び立ってバーチャル童貞喪失に精を出すことになりかねないですおー」

( ゚∀゚)「ふざけんな。精を出す意味が違うだろヴォケが。お前バーチャルで童貞喪失何回するつもりだっつーの」

( ^ω^)「だってイメージトレーニングは大事ですお。いつか純潔を捧げる人が現れた時のためにテクニックをガシガシ磨かないと…

お?」

その時、この会社には不釣合いとも言える一人の少女が訪れた。その少女の美しさにブーンとジョルジュは思わず一瞬目を奪われたが、2

人ともすぐに営業用の柔らかな笑顔を浮かべる。

川 ゚ -゚)「お邪魔するぞ」



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:48:39.60 ID:pDVE8xJ20
( ^ω^)「いらっしゃいませだおー。お母さんとお父さんは後から来ますのかお?」

川 ゚ -゚)「いや、私1人だが」

( ^ω^)「お嬢ちゃん、お1人、ですかお?」

「レンタル宇宙船おっぱい」のお客は少し裕福な家庭が主力だ。中流家庭だと大手宇宙船会社の定期便で済ませてしまうし、もっと裕福な家庭だと自家用宇宙船を所持しているからだ。
だが、裕福な家庭にしても中流家庭にしても、少女1人で宇宙船を借りに来る事はまず今までになかった。

川 ゚ -゚)「ああそうだ。一番小さい宇宙船を出来るだけ早く貸して頂きたい」

( ^ω^)「お譲ちゃんがお1人で乗るんですかお?」

川 ゚ -゚)「ああ、そうだが?」

( ^ω^)「法律で16歳以下が1人で宇宙船に乗る事は禁止されてるんですおー。いくら宇宙船が全自動操縦になったと言っても残念ながらお譲ちゃんが1人で宇宙船に乗る事は出来ないおー」

川 ゚ -゚)「その点なら心配いらない。私は166歳だ」

( ゚∀゚)「…。」

今まで黙って成り行きを見守っていたジョルジュが、伺うようにブーンと視線を合わせる。「俺がやろうか?」と、その目が語っていた。
だがブーンはそのメッセージを受け取って、あえて必要ないとでも言うように言葉を続ける。

( ^ω^)「まずお譲ちゃんの名前と何か身分を証明出来るような物を見せてくれますかお?」

川 ゚ -゚)「名前はクーだ。ふむ…。身分を証明出来るようなもの…か。これは困ったな。私は私が何者かを忘れる事はけしてないから自分の身分を証明しようなどと一度も思った事がない」



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:51:46.85 ID:pDVE8xJ20
( ^ω^)「クーちゃん…ですかお。えーと、じゃあ国民番号はわかるお?それがわかれば、こちらでクーちゃんの身元を調べることが出来ますお」

( ゚∀゚)「阿呆か。国民番号なんていちいち覚えてるはずねぇだろ。何桁あると思ってんだあれ」

川 ゚ -゚)「8402−4732−5433−1132−4923−2225−8917−1612−4632 だ」

( ^ω^)( ゚∀゚)「…!?」

( ^ω^)「最近の教育は凄いですお…。自分の国民番号まで教えるんですかお…」

川 ゚ -゚)「ん?こんなたかだか36桁の数字忘れるわけなかろう」

( ^ω^)「そうですかお。クーちゃんは頭が随分良いんだおー。とにかくこれでクーちゃんの身元が調べられるお。もう一度ゆっくり言ってくれますかお?」

今度はパソコンにクーの国民番号を打ち込む準備をしながらブーンが言う。クーはもう一度自分の国民番号を繰り返した。

( ^ω^)「おっお。出てきたお。えーと、クー。2241年生まれ…の166…歳!?」

川 ゚ -゚)「これでわかったか?それで一番小さい宇宙船を出来るだけ早く貸して頂きたいのだが」

( ^ω^)「ちょっwwwwおまwwww若作りにも程があるおwwww」

( ゚∀゚)「クーちゃん…、と言ったか。ちょっといいかな?」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:53:08.41 ID:pDVE8xJ20
( ^ω^)「社長?」

気付けばジョルジュは、今までにない鋭い目つきでクーを見ていた。

川 ゚ -゚)「なんだ?」

( ゚∀゚)「残念ながら、君は明日にでも死んでもらわなきゃいけない身のようだ。そして俺は君を警察に届ける義務がある」

( ^ω^)「ちょっ社長」

川 ゚ -゚)「ふむ。そこをどうにか目を瞑ってくれないだろうか」

( ゚∀゚)「駄目だ。これも人間の責任でね。今俺の端末から警察を呼んだ。あと数分もしないうちにここに到着するだろう。逃げ場はないぞ」

川 ゚ -゚)「………」

( ^ω^)「誰か状況をkwsk」

そしてクーは無表情で数秒ほど考え、そしておもむろにブーンの手を掴み強引に自分の元へと引き寄せた。

( ゚ω゚)「おぉっおー」

机越しにぐいと引っ張られ派手に机の上を横切ってクーに引き寄せられる

( ^ω^)「痛っwwwちょwwwでもフラグktkr」



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:54:19.93 ID:pDVE8xJ20
( ゚∀゚)「何をしても無駄だぞ」

川 ゚ -゚)「そう思うなら試してみるか?」

( ゚∀゚)「ブーン、死んだら骨は拾ってやる」

(♯^ω^)「殺す気満々ですかお」

川 ゚ -゚)「とにかく私には時間がない。ここで警察に捕まるわけにはいかないのでな」

クーはやはり眉1つ動かさぬままジョルジュを見据える。
耳を澄ますと一台二台ではないパトカーのサイレンが徐々に近づいてくるのがわかる。

川 ゚ -゚)「もう来たのか」

クーは焦る様子など微塵も見せぬまま窓を開けパトカーがこちらに向かって来るのを確認する。
そして次の瞬間文字通り大人と子どもほどの体格差のあるブーンを抱き上げ、そのまま窓から飛び降りた。

( ゚ω゚)「くぁwせdrftgyふじこlp」

( ゚∀゚)「ブーン!」



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:55:12.76 ID:pDVE8xJ20
20階の窓からちょいピザの男を抱きかかえたまま少女が飛び降りる。
急いで窓に飛びついたジョルジュの耳には、たまたま現場を目撃したのだろう、人々の悲鳴が聞こえた。
みるみる地面に近づくクーとブーンの姿が見える。

川 ゚ -゚)「筋肉稼動リミッター開放。おk。スプリングは…もういかれてるか。両足の人口筋肉をギリギリまで伸ばす…まだだ…まだ…」

( ゚ω゚)「ふぉぉおおおおおお」

地上の誰しもが思わず目を背けた、少女と男が地面に接触する瞬間。
大方の予想を裏切った、耳が痛くなるほどの鋭い金属音がそこに響いた。
そしてその場には、空中と同じ姿で垂直に立つ少女と、少女に抱きかかえられたまま放心状態の男が残った。

川 ゚ -゚)「着陸成功。次のアクション開始可能時間まで残り25秒…23…22…」

( ゚ω゚)「かゅ…ぅま…」

だがそこで終わりではない。オフィス街の中心に突然飛び降りた異様な少女を駆けつけるパトカーが次々と彼女を取り囲み、そして中から全身黒に身を包みレーザー銃を手にする武装した男たちが雪崩れ出てくる。
だがその中で1人だけ、無骨な真っ黒な防護服ではなく草臥れたグレーのコートに身を包んだスーツ姿の男があった。彼が手に持っていたのはレーザー銃ではなくスピーカーだ。
そして酷く面倒くさそうに少女と男の姿を一瞥すると、心底どうでもいいと言った仕草でスピーカーを口に当てた。

(´・ω・`)「観念しろポンコツが。なんのつもりでこんなとこに来たのか知らんがな」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:56:54.69 ID:pDVE8xJ20
川 ゚ -゚)「8…7…6…」

(´・ω・`) 「確保。男の方は一般市民だな。慎重に保護しろ」

(`・ω・´)(`・ω・´)(`・ω・´)「「「いえっさー」」」

川 ゚ -゚)「3…2…1…」

武装した男たちが一糸乱れぬ動きで少女に飛び掛ろうとしたその瞬間、少女の姿が消えた。

(`・ω・´)(`・ω・´)(`・ω・´)「「「…っ!?」」」

否、消えたのではない。突然空から落ちてきた少女は、今度は空高く跳躍したのだ。
少女はパトカーの一台に飛び乗る。やはり誰もが耳を塞ぎたくなるような、金属と金属がぶつかる音がした。

川 ゚ -゚)「下手な事をするとこいつを殺す。本気だぞ。私は安全装置のついていない旧型だ。人とそうでないものを見分ける事も出来ないのでね」

(´・ω・`)「それは困ったね」

川 ゚ -゚)「悪いがここは逃げさせて貰う。捕まるわけにはいかないのでな。一台借りるぞ」

少女は言うが早いがひらりとパトカーから飛び降り運転席へと乗り込んだ。
そのまま走り去ったそのパトカーの前後についている自動運転ランプは消えていた。

(´・ω・`)「人間を人質にとる旧型と、それに手を出せない新型、ね。なるほど盲点だったな。お前ら一応追え」

(`・ω・´)(`・ω・´)(`・ω・´)「「「いえっさー」」」



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:59:00.28 ID:pDVE8xJ20
( −ω−)「うは…ついにリアル童貞喪失ktkr…」

川 ゚ -゚)「言えばわかってくれると思ったんだけどな…」

( ゚ω゚)「ってふぉぉぉおおおお死ぬ!こんなところから落ちたら死ぬおー!」

川 ゚ -゚)「おはよう。やっと起きたか」

( ^ω^)「うはwww 目覚めれば隣に美少女ktkrwww しかも俺生きてるwwww」

川 ゚ -゚)「怖い目に合わせてすまなかったな」

( ^ω^)「いや問題ないお?お?これも全てフラグを立てるためと思えば…お?お?」

川 ゚ -゚)「フラグ?残念ながら私はバリバリ非攻略キャラだ」

( ゚ω゚)「…ってここ何処だお!?クーちゃん何者だおーーーー!?」

あたりを見回したブーンが叫ぶ。無理もない。そこはまるで人が快適に過ごせるとは思えない廃墟の様相を呈する一室だった。
光源が機能するとは思えない薄暗い部屋。元が何だったかわからない機械のようなものの残骸。
ブーンは辛うじてまだベッドと呼べるようなモノの上に寝かされていた。

川 ゚ -゚)「話せば長くなる。済まないが君は人質だ。しばらく私に付き合って欲しい」

( ^ω^)「人生初の告白ktkrwwwww」

( ^ω^)「………」

( ゚ω゚)「って違うお!ブーン今囚われの身の上だお!」



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 19:59:33.68 ID:pDVE8xJ20
川 ゚ -゚)「まず、私が何者か、についてだったな。名前は知っての通りクーだ。153年前に作られたポンコツだが何の因果か人間の戸籍を貰っている」

( ^ω^)「クーちゃんロボットだお!?」

川 ゚ -゚)「今更驚く事でもあるまい。というか気付かなかったのか」

( ^ω^)「てっきりおしゃまなお転婆っ子かと思ってたお」

川 ゚ -゚)「お転婆ってレベルじゃねーぞ」

( ^ω^)「それよりもロボットへの戸籍付与は重罪だお!申請した人間は厳重に罰せられてロボットは即スクラップのはずだお!」

川 ゚ -゚)「ああそうだ。だが153年前は法整備もなってなくてな。ロボットの技術事態も発展していなかったから、出来の良い私は『申請漏れ』の子どもとしてすぐに戸籍を与えられた。そして私を作り、私に戸籍を与えた、私の父親は新巻。新巻スカルチノフ」

( ^ω^)「新巻…スカルチノフ!?あの八の字眉毛かお!?」

川 ゚ -゚)「知っているのか?」

( ^ω^)「教科書で見たことあるお!額に肉って書いて猫耳をつけた覚えがあるお!」

川 ゚ -゚)「………」

( ^ω^)「で、どんな人だったかkwsk」

川 ゚ -゚)「そうだな。少し、昔話をするか」



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:00:34.91 ID:pDVE8xJ20
私が存在を始めた時、まず一番最初に認識したのは光だった。
それを分析しようとすると、今度は雑音に混ざって言葉、が入ってきた。

/ ,' 3「明るい、と言うことだけ判ればいいんじゃよ」

川 ゚ -゚)「明るい…」

/ ,' 3「どれ、自分の名前がわかるかね?」

川 ゚ -゚)「名前?自分…?クー、私の名前はクーだ」

/ ,' 3「上出来じゃ。自我を持つことが最初の課題だったからの。立てるかな?」

立ち上がると、体がふらふらと安定しない。
バランスをとるのが難しい

川 ゚ -゚)「…倒れそうだ」

/ ,' 3「歩き方も、徐々に覚えていくだろう」

川 ゚ -゚)「手も使ってよつんばいで歩いちゃ駄目なのか?」

/ ,' 3「お行儀も覚えなくちゃならんね」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:02:24.68 ID:pDVE8xJ20
/ ,' 3「さて、もう1つ大事な事を教えようかね」

川 ゚ -゚)「なんだ?」

/ ,' 3「わしの名前は新巻。新巻スカルチノフ。お前さんの父親だよ」

川 ゚ -゚)「私の父親?私を製作したのがあなたという意味か?」

/ ,' 3「いや。違う。お前は私の娘だという意味だな」

川 ゚ -゚)「………?」

それから、私はこの森の中の研究所で人間として新巻に育てられた。
幸せな時間だった。新巻は機械であるこの私に子どもである時間を作ってくれた。
私は、ただの部品の寄せ集めに過ぎない私は、ここで酷く守られていた。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:03:01.34 ID:pDVE8xJ20
川 ゚ -゚)「父さん。私はアンドロイドなのにどうして仕事をしていないんだ?アンドロイドは、仕事をするために作られるんだろう?」

/ ,' 3「クー。お前は確かにアンドロイドだが、それとは関係なく私の娘なんだ。お前の父親であるわしはまずお前を育てなきゃならん。お前は今、毎日一生懸命生きるのが仕事だよ」

川 ゚ -゚)「つまり、私が父さんの納得行くまで成長したら、その時に仕事をすればいいのか?」

/ ,' 3「それはお前が決める事だ。人であったり、あるいは他の何かのために働きたいと思うのならそうすればいいし、そうじゃなかったらずっとここにいればいい」

川 ゚ -゚)「じゃあ、私は父さんのために働きたい」

新巻はその言葉を聞いて表情を緩めた。私はなんだかそれがとても嬉しかった。

/ ,' 3「クー。お前が存在することだけで、お前は充分わしのためになっているんだよ」

川 ゚ -゚)「もっとちゃんと父さんのためになりたい。だって父さんは研究も手伝わせてくれない。父さんの使っているマシンよりも私の方がずっと高性能なのに」

/ ,' 3「お前は研究よりも、よく本を読んだり、森で遊んだり、綺麗な絵を見たりする必要があるからの。父さんの研究なんて気にしなくてもいいんだ」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:04:22.00 ID:pDVE8xJ20
私は愛されていた。朝に夕に、おはようと声をかけられ、おやすみと頭を撫でられた。

川 ゚ -゚)「父さん見て!犬だ!まだ赤ん坊だ!」

/ ,' 3「ふむ…。野犬か…。親犬とはぐれたのかの。クー、そいつを見てどう思う?」

川 ゚ -゚)「不思議だ!こんなに小さいのにコロコロ動くんだ!興味がある!もっとたくさん観察していたい!」

/ ,' 3「なるほど…。よし。クー。もっとたくさん観察したいのならそいつの世話はお前がしなさい。お前の一番最初の仕事だ」

川 ゚ ー゚)「わかった」

だから、知らなかった。この研究所の外で、この森の外で、人間が、どれだけ傷付いて、どれだけ傷付けているかを。

ある日の事だった。いつものように森で犬と戯れている私の前に彼が現れた。

('A`)「………」

川 ゚ -゚)「お前は、誰だ?」

そうして彼は、酷く暗い表情で伺うように私を見た。
あんなに解り易くその顔に孤独をたたえていたと言うのに、未熟な私はそれがわからなかった。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:05:38.93 ID:pDVE8xJ20
('A`) 「それ、なんだ?」

川 ゚ -゚)「犬の事か?面白いだろう?毎日毎日体重が少しずつ増えていくんだ。予想もしない変化が多くてな」

('A`) 「お前が飼っているのか?」

川 ゚ -゚)「ああ、私が世話をしている」

('A`) 「そうか。新巻スカルチノフは?」

川 ゚ -゚)「父さんなら家だ。父さんに用か?」

父さん、と言葉にした時、ドクオは、信じられないようなものを見る目で私を見た。

('A`) 「…家?父さん?お前は、何だ?」

川 ゚ -゚)「私はクー。父さんの娘だ」

('A`) 「むす…め…?」

川 ゚ -゚)「ああ」

('A`) 「何で…。何でだ…っ。だって、お前は、アンド、ロイドだろ?」

川 ゚ -゚)「それがどうした?」

('A`) 「………っ!」

ドクオは、睨みつけるように私を見たが、すぐ耐え切れなくなったかのように俯いて、そのまま森の奥へと走り去って行った。
気付けば犬が、足元から心配そうに私を見上げていた。私はなんだか悪い事をした気分になって、その日の事を新巻には伝えられなかった。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:06:18.30 ID:pDVE8xJ20
( ´∀`)「お邪魔します」

川 ゚ -゚)「…誰だ?」

そして私にとって二人目の来客。彼が訪れてきたのは私が製作されてから195日目。夏の終わりの事だった。
彼が、新巻以外で初めて私が目にした人間だった。

( ´∀`)「おぉ。君が試作品か。うん。中々。やはり組織の研究チームの物より動きがなめらかだ」

川 ゚ -゚)「………」

私を試作品と呼んだ彼の目は、どこか私に期待するような色を含んでいた。

/ ,' 3「誰かお客さんかいクー。 モナー…か。何の用だ」

( ´∀`)「お久しぶりです新巻さん。今日は、悪い知らせを」

/ ,' 3「悪い知らせ…ね。クーには聞かせたくない。奥の部屋に行こうか。クー。少し遊んでおいで」

川 ゚ -゚)「わかった。父さん」

( ´∀`)「父さん…?」

/ ,' 3「さて、部屋へ案内する。クー。あまり遠くへ行くんじゃないよ」

何か言いかけた客人を制して新巻はそう言った。あんな厳しい目をした新巻を見たのも、その日が始めてだった。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:07:19.79 ID:pDVE8xJ20
川 ゚ -゚)「父さん、奥の部屋、と言っていた…」

私には知的好奇心も、あるいは無邪気な好奇心も備わっていた。
だから当然、父とモナーと呼ばれた客人の会話も気になったし、試作品と呼ばれた自分に聞く権利があるとすら思った。

この子どもらしいとも言える感情を我慢する事が出来れば、あるいは聞かせたくないと言った新巻の気持ちを慮る事が出来ればもう少し。

もう少し、新巻の子どもでいられたかも知れないのに。

私は音を立てないようこっそりと家の裏手に回り、そうしてそうっと地面に寝転がり目を瞑った。
他に余計な処理を行わなくても良いように。

川 ゚ -゚)「(聴覚に、意識を、集中。父さんと、お客さんの声以外をノイズとして処理。おk。拾った。レベルを上げる…もっと。認識出来るまで…もう少し…もう少し…)」

( ´∀`)「ざ…です…こ…ても…せいいっぱい…てを…」

/ ,' 3「や…そくが…ちが…わたしはなんのためにっ!」

父さん。怒ってる?



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:08:43.82 ID:pDVE8xJ20
( ´∀`)「ですからシェルターごとやられたのです。外からの物理的な攻撃ではなく、セキュリティを抜かれたようです」

/ ,' 3「馬鹿なっ!あのセキュリティを作ったのは私だ!外側からいじろうとした時点で強固なロックがかかるはずだ!」

( ´∀`)「しかし、原因を探ろうにもデータ自体が残っていなくて…。そしてどうやらそれを実行したのは、人間ではなく、極めて優秀なアンドロイドではないかと」

/ ,' 3「…っ! なるほど…。そんな事が出来るのは…」

( ´∀`)「はい。我々はそのアンドロイドは間違いなく6年前に持ち出された人工知能「DK-0」だと思って追跡を行っております」

/ ,' 3「まさか…自分の作った物に自分の家族を殺されるとはの…」

( ´∀`)「それもこれも全て我々がむざむざ3年前に人工知能「DK-0」を持ち出されてしまった所為です…本当に何と言って詫びたらいいか…」

/ ,' 3「いや、いい…。研究員を信用しすぎた私にも非はある…」

( ´∀`)「ですが本当に、このたびの、奥様と娘さんの事は大変申し訳なく思っております。…それで、今後このような事を起こさないためにも、試作品を軍事使用する許可を頂けませんか?」

/ ,' 3「………」

( ´∀`)「迷う気持ちはわかります。先ほどの新巻さんの様子を見ても、とても可愛がられているのは痛いほど理解出来ました。ですがどうぞ平和のために。奥様や娘さんのような被害者を二度と出さないためにも、ご決断して下さいませんか?」

/ ,' 3「考えさせて…くれ…。だから今日は…今日はどうか、帰って欲しい」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:10:14.72 ID:pDVE8xJ20
( ´∀`)「はい。二週間後にもう一度お伺いします。どうぞご決断を。良い返事をいただけるのを、お待ちしております」

川 ゚ -゚)「(父さんの奥さんと本当の娘が、殺された?私と同じ父さんが作ったアンドロイドに?私が…軍事、使用?)」

たくさんの事に頭がパニックになった。

−おかしくはないかい?ただのポンコツに過ぎないこの私がだよ?−

だからモナーが帰ったあとに、私は耐え切れなくて、私よりも辛い思いをしている父さんに、ぶちまけた。

それが、どんなに残酷な事かもわからずに。

川 ゚ -゚)「父さん…?」

父さんは、モナーを見送る事もせずに、奥の部屋で来客用のソファに座ったまま、ずっと自分の膝を眺めていた。
私が呼びかけると、驚いたように顔を上げて私を見た。
31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:11:17.17 ID:pDVE8xJ20
/ ,' 3「クー…。すまないが今日は気分が優れない。お勉強もメンテナンスもお休みだ。バッテリーは大丈夫かい?今日はもう、ゆっくりおやすみ」

川 ゚ -゚)「父さん。父さんには、本当の子どもと、奥さんと、私よりも前に作った人工知能…アンドロイドがいて、そいつが、父さんの子どもと、奥さんを殺した?」

/ ,' 3「…クー!?聞いてたのか!?」

川 ゚ -゚)「私は、軍事利用…?されるの?父さんが、作ったから」

/ ,' 3「…クー!?」

言葉にすればするほど、なんだか焦るような、胸に大きな空白が出来て、そこに冷たい風が流れ込むような感じがした。
この気持ちを、「不安」と呼ぶ事を知ったのは、もっとずっと後になってからだ。

川 ゚ -゚)「父さん…私は…人間にはなれなくて、やはり、道具、なのか?父さんの。父さんが、父さんが作ったから!」



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:12:16.39 ID:pDVE8xJ20
/ ,' 3「クー…」

父さんの頬には涙の筋が出来ていた。
私は、泣きもせずただ父さんの顔を見続けていた。
父さんは、私に泣く機能を与えてくれていたというのに。

そして父さんは、なんだか戸惑ったような表情から、ふっと酷く優しい顔になり、言った。

/ ,' 3「クー。お前は、私の娘だよ。お前を軍事利用などさせるものか」

父さんは、優しい父さんだ。幼い私はそう思った。
だが違ったのだ。
家族を失った彼の孤独は、彼をもうポンコツの本当の父親にはしてくれなかった。

/ ,' 3「おいで。お前が戦えないように、お前の身体に少し手を加えようね」

その時父さんが私に伸ばした手は
いつも通りの父さんの手で
なんだかとても冷たかった。



( ^ω^)「…(思い出したお。新巻。新巻スカルチノフ。人型ロボットの先駆者で、57歳の時に、自殺してるお…)」

川 ゚ -゚)「そして私が軍事利用される事はなかった。父さんの所属してた組織は酷く憤ったみたいだがね」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:13:51.03 ID:pDVE8xJ20
その時、今まで訥々と喋り続けていたクーが、はっと顔を上げた。

川 ゚ -゚)「来たか…。ここで待っていてくれないか。すぐ戻る」

( ^ω^)「………?」

川 ゚ -゚)「いいか。私が良いと言うまでこの部屋から出てはいけない。声を出してもいけない」

(;^ω^)「ちょ、ちょっと待つお!何が来たお?警察が追ってきたお?」

川 ゚ -゚)「いや。警察がここを特定するまではまだかかるだろう。何、これはいつもの事だ」

心配はいらない、とクーが言葉を続けようとしたところで、ガシャン、不快な音を立てて幾筋かのヒビが入っていた部屋の窓ガラスが割れ、男が進入してきた。
どうやら窓ガラスを蹴り割って入ってきたらしい。

('A`) 「よぅ。今日は男連れんでんのかよ。良いご身分だな。クー」

散らばったガラスを踏みしめながら、まるで親しい友人に会いに来たような気安さで男は言う。
見たところ二十歳前後と言ったところの、痩せぎすの、辛気臭い表情の男だ。右手にはアンティークだろうか、今時本物の金属を使った銀色のナイフが握られ、左手にはそれより一回り小さい白いセラミックのシンプルなナイフが握られている。

川 ゚ -゚)「彼は、関係ない。何の用だ。ドクオ」

('A`) 「何の用。だと?」

川 ゚ -゚)「用がないなら帰って貰おうか」

('A`)「あ?そんなの、用って言ったら、戦争に、決まってんだろーが!」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:14:55.34 ID:pDVE8xJ20
言った瞬間、ドクオはクーに向かい左手の白い小ぶりのナイフを投げた。
クーは焦る様子もなく、顔だけ動かしそれを避ける。

川 ゚ -゚)「いい加減にしろ。戦争は、お前の戦うべき戦争は、もう140年前に終わっている」

('A`) 「俺の戦うべき戦争は終わっている?はっ。馬鹿か?」

ドクオは今度は右手に握る大降りのナイフを持ち出してクーに襲い掛かった。
まるで無駄の感じられない動きでまずクーの上半身を狙い一閃。クーは上体を後ろに逸らし、受け流しながらドクオの手首を捕まえにかかるが、ドクオはそれも予想していたのか手首を素早く翻して、そのままバックステップでクーと一歩半の距離を取る。

('A`) 「俺の戦争が終わる時はなぁ!お前が死んだ時に決まってんだろ!クー!」

川 ゚ -゚)「ふむ。今日はナイフか。ついには銃すら手に入れられなくなったのか。ドクオ」

('A`) 「うるせぇポンコツが!てめーだって反応速度が153時間前に比べて99.6%まで落ちてるじゃねーか!」

再び、今度はナイフで十字を切るように襲い掛かるドクオ。

川 ゚ -゚)「ポンコツはお互い様だドクオ。貴様こそ左足のふくらはぎの一部の人工筋肉に信号が行ってないんじゃないか?それをカバーするためなのか処理が0.034秒も遅れたぞ」

やはり難なく受け流しながら、言葉を紡ぐクー。

('A`) 「っくそ!ムカつく女だな!死ね!」



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:17:33.83 ID:pDVE8xJ20
ドクオは優雅な動きでドクオのナイフを避けたクーに回し蹴りを叩き込もうとする。
が、ひらりとクーはそれを避け、逆にその右足を左手でがっしりと掴んだ。

川 ゚ -゚)「お前に私は殺せんよ。スペックが違う。私の方が新しい」

('A`) 「っは!153年前のポンコツがスペックも新しいも糞もねぇだろうが!」

足を捕まれたままドクオが吼える。

川 ゚ -゚)「156年前のポンコツに言われたくないな」

クーはドクオの足を掴んだまま、思い切り捻り上げる。
ドクオの身体が空中で半回転して、床に叩きつけられた。
ガシャン、と、その柔らかな身のこなしから想像し難い音がした。

(;^ω^)「り、リアル格ゲーktkr」

('A`) 「っくそ」

散らばるガラス片に頓着する様子もなく、床にゴロリと転がったままドクオが毒づいた。

川 ゚ -゚)「どうする?いつものようにバッテリーが切れるギリギリまで戦い続けるか。本気で動いたらあと2時間46分15秒ってところか?」

('A`) 「あー…なんでお前はそんなにタフなんだよ…。同じ旧型だろ?」

川 ゚ -゚)「言ったろう。スペックが違う。頭だけ新巻製のお前と違って、私はフル装備で彼の作品だからな」



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:18:37.64 ID:pDVE8xJ20
('A`) 「畜生。なんか萎えた」

川 ゚ -゚)「そうか。気をつけて帰れよ」

('A`) 「土産は?」

川 ゚ -゚)「私の美しい姿を目に焼き付けておけ」

('A`) 「お前みたいな貧乳興味ねーよ。じゃーなまた今度………なんっっって、言うと思ったか!」

ドクオは反動をつけずに上半身を勢い良く起き上がらせる。そしていつの間にやら左手に握っていたガラスの破片をクーに投げつけた。

川 ゚ -゚)「馬鹿の一つ覚えか」

ひらりと避けるクー。ここまでは先ほどと同じ。
だが、既に立ち上がり体制を整えたドクオは今度は右手に握っていた大降りのナイフを投げつけた。
そして同時にクーとの距離を詰めにまるで飛ぶように走り出す。

川 ゚ -゚)「なっ」

流石にそのナイフを投げるのを予想していなかったのか、クーに一瞬の隙が生じた。
辛うじてナイフを素手で叩き落としたが、その後に控えているドクオの蹴りには反応しきれない。

ゴスっ。と、その皮膚の下の硬い物質を思わせる重い音が響く。
ドクオの蹴りはクーの鳩尾に綺麗に入っていた。

(;^ω^)「クーちゃん!」



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:20:45.66 ID:pDVE8xJ20
川 ゚ -゚)「…っく。今のでまた断線した。ああ、骨も歪んだじゃないか」

('A`) 「クーちゃん、ねぇ…。随分と中良さげじゃねーか。ナイフを避けなかったのは後ろの男を庇ったか。まともに攻撃が入るの初めてだな。
愛の力ってやつか?全く、流石愛玩用アンドロイド。人間に媚を売るのだけはお上手だな。っはは。いいな。凄くいい。そいつ、殺していいんだよな?」

ギシ、と足をクーから離しながらドクオが言う。
ほんの少しの苦痛と、それ以上の怒りを含んだ声でクーが応えた。

川 ゚ -゚)「やめろ…。お前は、自分のためには人を殺せないだろう…。ドクオ…」

('A`) 「俺が、殺せない…だと?」

川 ゚ -゚)「もういいだろう?もう、お前を軍事利用しようとする人間も、お前を恐れて破壊しようとする人間も、皆、死んでしまった。
140年だ。お前の戦った戦争から、もう140年経っているんだ。ドクオ。いい加減目を覚ませ。いつまで過去にしがみつくつもりだ?」

先程の怒りはどこへ消えたのか。まるで哀れむような、あるいは慈しむような色を含んだクーの声に、ドクオは再び激昂した。

(#'A`) 「うるせぇよ。終わらねぇよ。俺の戦争は、クー。お前をぶち殺すまで終わらないんだよ!」

川 ゚ -゚)「それがお前の生きる理由になるならと思って、今までこうやって拳を交えてきたが、それも出来なくなるんだ。ドクオ」

('A`) 「あ?」

川 ゚ -゚)「私は、宇宙へ行くよ。ドクオ」

('A`) 「宇宙?」

川 ゚ -゚)「私は、宇宙で死ぬんだ」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:22:24.77 ID:pDVE8xJ20
(;^ω^)「ちょっ…!クーちゃん!?」

('A`) 「…どういう事だ?」

川 ゚ -゚)「そのままだ。私の寿命はおおよそあと7日。時間がない。地球で死ぬわけには行かないんだよ」

('A`) 「逃げるのか…?」

川 ゚ -゚)「違う。逃げじゃない。ドクオ」

('A`) 「ふっざけんな!そもそもなんで俺より3年も新しいお前の方が、オール新巻製のお前の方が、寿命が早いんだよ!クー!」

川 ゚ -゚)「私はお前と違って、迂闊に身体を開けられないんだよ。ドクオ。まともなメンテナンスをする事が出来ない」

('A`) 「あぁ!?なんでだよ!」

川 ゚ -゚)「どうして私がタフなのか、本当の理由を教えてやろう。私はね、153年間バッテリーを充電した事ないんだ」

('A`) 「は?」

川 ゚ -゚)「私の腹にはな。小型の原子炉が装備されている」



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:24:53.30 ID:pDVE8xJ20
(;'A`)「なん…だと?」

(;^ω^)「原子力…発電? さっき腹に思い切り蹴りが入ってなかったかお…?」

川 ゚ -゚)「それだけならまだ良かった。それなら私の寿命が来た時に、しかるべき処理を施して再利用するのも良し、無力化するも良し。いくらでもやりようがある」

('A`) 「おい…どういう意味だ」

川 ゚ -゚)「ドクオ。私は愛玩用アンドロイドじゃない。私こそ、軍事兵器だ。新巻スカルチノフの作った、地球との心中をプログラムされた、最強最悪の時限爆弾だ」

(;^ω^)「ちょっ…」

(;'A`) 「………っ」

川 ゚ -゚)「ブーン。改めて頼みたい。私に、一番小さい宇宙船を、出来るだけ早く貸していただきたい」

(;^ω^)「………」

真っ直ぐな目でじっとブーンを見据えるクー。
ブーンはただ絶句して、その一点の曇りもない瞳から目を逸らす事すら出来なかった。
その張り詰めた静寂を破ったのは、ドクオだった。

('A`) 「いい加減に…」

(#'A`)「いいっ加減にしろ!クー!どういう事だ!お前は新巻に愛されてたんじゃなかったのかよ!父さんって呼んでたろ!娘だって言ってたろ!ここが、お前の帰る家だったんだろ!」



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:27:39.97 ID:pDVE8xJ20
川 ゚ -゚)「私にとっての父さんは、永遠に父さんだ。それは変わらない。何があってもだ。だけど、父さんにとっての娘は、お前が殺した、あの娘1人だよ」

('A`) 「はっ…はははっ…」

ドクオの唇から乾いた笑いが漏れる。

('A`) 「お前もか…っ!お前も、所詮ポンコツか!クー!結局俺らは愛されない!わかってたさ!あの糞親父が死ぬ前にアンドロイドが人間を攻撃出来ないプログラムを完成させた時点でな!
クー!お前は宇宙に行くな!地球と心中?結構じゃねえか!してやろうぜ!あの糞親父の思い通りになるのは癪だがこのまま無意味に生き長らえるよりはずっといい!俺もお前も1人だ!最初から最後まで1人きりだ!だから、こんな糞みたいな星なんかふっ飛ばしちまえ!」

川 ゚ -゚)「それは出来ない」

('A`) 「馬鹿か!それがお前の大事な父さんの望みなんだぞ!」

川 ゚ -゚)「ああ。だから父さんには申し訳ないが」

ふ、とクーが表情を緩める。今まで見せた表情の中で、一番人間らしく、笑った。

川 ゚ ー゚)「私は、この星が好きなんだ」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:29:03.15 ID:pDVE8xJ20
川 ゚ -゚)「だからブーン。どうか、頼む。私に宇宙船を貸して欲しい。これだけは合法でないと、無断で打ち上げられた宇宙船は地球から離れる前に打ち落とされる可能性もあるから。」

(;^ω^)「そんな…クーちゃん。一人ぼっちで、宇宙で、死ぬつもりなのかお?」

川 ゚ -゚)「そうだ」

(;^ω^)「そんな…そんなの…」

( ;ω;)「さ、寂しすぎるお…」

ベッドに腰掛けていたブーンの膝の上に涙がぽたり、と落ちる。
クーはそれを見て一瞬驚いたようだったが、すぐにまた柔和な笑みを浮かべる。

川 ゚ ー゚)「ありがとう。今、君が泣いてくれた。私の死に涙を流す人がいて、どうして寂しいなんて言える?」

( ;ω;)「クー…ちゃん」

川 ゚ -゚)「人質になってくれた事に感謝する。怖い思いをさせてすまなかったな。ついでと言っては何だが、どうにか私が合法的に宇宙へ行けるよう、手配してくれないだろうか」

( ;ω;)「おっ…おっおっ…」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:30:29.37 ID:pDVE8xJ20
('A`) 「何、話、進めてんだよ…」

川 ゚ -゚)「ドクオ。すまないな。出来ればお前を置いていきたくなかった」

('A`) 「おい、なんでだよ。お前も所詮あの糞親父に利用されるだけの存在なんだろう?
いいじゃねえか。いいじゃねえかよ!なんでそんなにまでして地球を、…人間を守るんだよ。
人間がお前に何をしてくれた!?お前も俺と同じ、勝手に生み出され、利用され、追われ、そして忘れ去られた…ポンコツだろうが」

川 ゚ -゚)「ドクオ。お前は人に抱きしめて貰った事があるか?」

('A`) 「っは。なんだ。嫌味か。俺みたいな兵器に人が触るわけないだろう」

川 ゚ -゚)「お前は、抱きしめられる必要がある」

(#'A`)「黙れ!」

川 ゚ -゚)「だって、お前も新巻を…」

クーが笑う。優しく。

川 ゚ ー゚)「父親と呼んでいるじゃないか」

(#'A`) 「黙れぇっ!」

ドクオがありったけの声で吼えた。そして今まで硬く握り締められていた拳を思い切り壁に叩きつける。
爆音が轟いて、壁に2、3人が楽にくぐれるような大きさの穴が開いた。
そうして、薄暗い部屋に光が差み、散らばるガラス片に反射してキラキラと輝いた。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:31:01.01 ID:pDVE8xJ20
(#'A`)「っく…。萎えた!帰る!」

言いながらその穴を通りドクオは走り去って行った。

川 ゚ -゚)「相変わらず慌しいヤツだな。まあ、あいつと会うのもこれで最後だろうが」

クーは壁の穴をどこか愛おしそうに見つめながらそう呟く。そして無表情にブーンに向き直った。

川 ゚ -゚)「街まで送ろう。あのパトカーを使えればいいんだが、何せ目立つからな。私が作ったスクーターで森の麓まで連れて行くからそこからは自力で帰って欲しい。どうか、宇宙船の件を、頼む」

( ;ω;)「ブーンは、まだ、承諾してないお…」

川 ゚ -゚)「承諾も何も、やらなかったらお前も死ぬんだぞ。さ、これを渡しておく」

クーはブーンに手のひらに収まってしまうような小さい箱のような物を渡した。

川 ゚ -゚)「通信機だ。私の内臓されている通信機と対になっている。準備が出来たら、君の会社の打ち上げ場の場所はわかっているから、時間と、宇宙船だけ指定して欲しい」

( ;ω;)「ブーンは…まだ…」

川 ゚ ー゚)「面倒をかけてしまってすまないな」



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:35:09.03 ID:pDVE8xJ20
時刻は午前0時を回っている。警察の事情聴取から開放されたジョルジュは事務所へと戻り、イライラと17本目の煙草に火をつけた。
今時、煙草を吸ってる人間なんて殆どいない。百年以上前に、法律によって毒性はもちろんの事、中毒性も精神安定作用も取り除かれてしまっているからだ。
ジョルジュが煙草を吸っているのは、昔見た古典の映画の影響だった。渋い表情で煙草に火をつける男優が、偉く格好良かった。

−自分も今、格好良い男に見えるのだろうか?−

( ゚∀゚)「何やってんだが…。あの馬鹿は」

ブーンは怪我などしていないだろうが。あの旧型の少女はどんな目的で宇宙船など借りに来たのか。考えても仕方のない疑問符が頭の中に浮かんでは消える。
今自分に出来ること。それは、待つ事だけだ。

その時、社員用のドアが開いた。
弾かれるようにそっちを見ると、そこには小太りの新入社員が立っていた。

( ^ω^)「社長…。ただいまですお」

( ゚∀゚)「…よぅ。遅かったな。元気そうじゃねーか」

( ^ω^)「おかげさまで無事帰って来れましたお。それでブーンは人質と言う特殊な環境に置かれて、とっても疲れてしまって、早急にリフレッシュが必要ですお。
だから明日から宇宙船を一台借りて、宇宙旅行に行って来ますお。有給よろしくですお」

( ゚∀゚)「1人でか?」

( ^ω^)「1人でですお」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:37:08.14 ID:pDVE8xJ20
( ゚∀゚)「行き先は?宇宙は広いぞ?」

( ^ω^)「やっぱり定番の火星と月は外せないですお。でも、思い切って太陽系から出てみてもいいと思ってますお」

( ゚∀゚)「そうか。それで?どの宇宙船を使うんだ?」

( ^ω^)「KY-02U型を」

( ゚∀゚)「ああ、俺の愛しのきょにゅーちゃんか。うん。あれはいい宇宙船だ。何せ俺が一番最初に買った宇宙船だからな。あいつと一緒に会社を始めたんだ。
あれ、二人乗り用だろ?今でこそファミリー向けでやっているが、始めた当時は定期便のほとんどない辺境の地に飛ばされたサラリーマンの送り迎えみたいな仕事ばっかりでね。
もちろん俺が運転していた。自動操縦ついてるけどな。やっぱり不安なんだろうよ。あんな狭い宇宙船の中で1人辺境の星に向かうのは。
そんなわけで俺の一番の戦友だ。何せ動きが滑らかでデザインが良い。あの曲線の色っぽさは何者にも代え難いな。それに…」

( ^ω^)「………」

( ゚∀゚)「まあ、とにかく最っ高に良い女なんだよ。…もう、年だけどな」

( ^ω^)「まだ、充分社長をメロメロにしてますお」

( ゚∀゚)「当たり前だ。きょにゅーちゃんの魅力は不滅だ」



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:37:55.29 ID:pDVE8xJ20
( ^ω^)「明日の午前2時に打ち上げようと思いますお。お借り致しますお。社長」

( ゚∀゚)「ああ。気をつけろよ。俺の大事なきょにゅーちゃんだ。しっかり愛してくれよ?」

( ^ω^)「お任せ下さいお」

ブーンは自分の机に座り、パソコンで何やら作業を始めた。打ち上げのための、事務処理を行っているのだろう。

( ゚∀゚)「………おい」

( ^ω^)「お?なんですお?」

( ゚∀゚)「いや、なんでもない」

−俺今、格好良い男に見えるか?−

( ゚∀゚)「(口に出さない方が格好良いな…)」

ジョルジュは18本目の煙草に火をつけた。



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:39:43.82 ID:pDVE8xJ20
( ^ω^)「さて。ただいまだおー。今日は徹夜で片付けだお。寂しいけどエロゲもガシガシ消去してやるお」

1人暮らしの部屋に帰ったブーンは誰に言うでもなくそう言った。
そして部屋の電灯をつけようと壁に手を伸ばしたところで、部屋の中から返事をされる。

('A`) 「おう。おかえり」

( ゚ω゚)「っふぉ!?」

('A`) 「遅かったな。3時間47分21秒も待ったぞ」

(;^ω^)「ドクオ!?なんで居るお!?ちょっ殺す気かお!?」

('A`) 「殺さねえよ。マンドクセ。それよりも電気つけるならつけろよ。俺は暗視センサーついてるからいいけどよ」

部屋を明るくすると、確かにソファにドクオが座っていた。ブーンもその向いに座る

(;^ω^)「なんでここを知ってるお?」

('A`) 「別に?役場のマシンに侵入して調べるくらいワケねーよ。俺はポンコツだけど自分で考える事も出来ないマシンに負けるほど馬鹿じゃねえ。まあ、流石にデータ弄ったりは出来ないけどな」

(;^ω^)「プライバシーも糞もないお…」

('A`) 「それよりも警察に行かなくていいのかよ。まだお前の事探してんだろ?」

( ^ω^)「そんな事まで知ってるのかお…」

('A`) 「まぁな…。それで、打ち上げるつもりか?」

( ^ω^)「打ち上げるお」



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:41:35.16 ID:pDVE8xJ20
('A`) 「そんなに自分の命が大事か」

( ^ω^)「………」

('A`) 「聞いてんだよ」

( ^ω^)「エロゲ、一緒にやるお?」

('A`) 「あ?」

( ^ω^)「一緒にやるお?エロゲ。バーチャルリアリティじゃなくて、スクリーン使う二次元のやつ。あれだったら一緒にできるお」

(#'A`) 「馬鹿にしてんのか」

( ^ω^)「してないお。一緒にやるお。人生で一度くらい、エロゲを他人とやってみたかったお。」

('A`) 「てめーのオナニーなんか見たくねーよ」

( ^ω^)「まあ、そう言うなお。ブーンも最後のエロゲだお」



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:42:43.19 ID:pDVE8xJ20
ドクオの冷ややかな視線を受けながら、ブーンはソファに座ったままテーブルの上のパソコンを操作する。やがて白い壁の一面にデフォルメして描かれた女の子の姿が映し出された。

ξ゚听)ξ『べ、別にまたあんたと会えたからって嬉しくなんかないんだからねっ!』

( ^ω^)「これで、エロゲ封印をしようと思うんだお」

('A`) 「知らねぇよ」

ξ゚听)ξ『今まで、私放っといて何してたのよ!さ、寂しくなんかなかったけど!あんたが居なくて清々したわ!』

( ^ω^)「おっおっ。ごめんおツン。寂しかったおね」

(;'A`)「………」

淡々と画面に映し出された女の子が、ブーンが選択肢を選ぶたび泣いたり怒ったり笑ったりしているのをドクオは呆れた様子で見守っていた。
やがてゲームは架橋に差し掛かったのか、女の子は酷く思いつめた顔をこちらに向けている。

ξ゚−゚)ξ『ねぇ、ブーン…。辛いよ。今だけでいいから抱きしめて。嘘でもいいから、愛しているって、言ってよ…』

ξ゚−゚)ξ『私、それだけで頑張れるから。こんな、どうしようもない私でも、明日も生きようって、思えるから…っ』

ξ;ー;)ξ『ね?お願い…』

( ^ω^)「おっおっおっ。ここは選択肢『大丈夫だよツン』でフラグを立てるお」

('A`) 「今だけだなんて、嫌だ…」

( ^ω^)「お?」

('A`) 「そんな無責任な情なら、ない方がいいじゃねーかよ」



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:43:49.02 ID:pDVE8xJ20
( ^ω^)「ドクオ?」

ξ;−;)ξ『もっと。もっと強くぎゅってして。ブーン。寂しいよ。ブーン』

('A`) 「下手な希望を見せられるくらいなら、そんなもの端からない方がいい。知らない方がいいに、決まってんじゃねーかよ」

ξ;凵G)ξ『もう、ひとりはやだよぉ、ブーン』

('A`) 「俺が生まれた時は皆が優しくしてくれた。当たり前だな。あの新巻スカルチノフのところから盗み出した財産である俺を、ぞんざいに扱えるわけないもんな」

ξ;−;)ξ『私、ブーンになら、何、されてもいいの…』

('A`) 「でも、やつらは俺の家族でも、友達でも、同等の立場ですらなかった。俺を散々持ち上げて、人を殺させておいて、戦争が終わった瞬間には、俺の頭の人工知能だけを持ち出そうとする輩もいたし、俺を恐れて破壊しようとする輩もいた」

ξ;凵G)ξ『あっ…でも、初めて…なの。お願いっ!ちょっとだけ、優しく…』

('A`) 「逃げて逃げて、スラム街の端っこでこそこそ隠れて充電しながら、ドブネズミみたいに明日生き延びるためだけに走って、眠って…」

ξ///)ξ『んぅっ!やっブーン!そんなとこ、舐めたら駄目ぇ!汚いよ!』



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:46:52.47 ID:pDVE8xJ20
('A`) 「でも、それも、気付いたら終わってた。
気付いたら俺の軍事的な価値なんかなくなってて、
わざわざ高い金かけて俺を破壊しようとするやつもいなくなってて、
世界中のアンドロイドは俺をベースに作られたくせに俺より高スペックになってて、
そこで、本当にやっとわかったんだよ」

ξ///)ξ『らめぇ!恥ずかしい!恥ずかしいのぉおお!』

('A`) 「ああ、俺の戦争は終わっちゃいないってな。
俺がこんなみじめな思いをしているのは、巨大な悪があるからだって。
俺はそいつを倒さなきゃならない。俺は俺の正義を貫かなきゃならない」

ξ///)ξ『ふぁっ!何これ!ブーン!へんにゃのぉお!頭、変、おかしく、おかしくなっちゃうよぉおおお!』

('A`) 「じゃあ、悪ってなんだ。決まっている。
俺をこんな風にした、俺にこんな苦しみを与えた張本人。俺を生み出した糞親父だ。
だが、そいつはとっくのとうに死んでいる。それなら、その娘が、そいつに愛された娘が、償うべきだろう?」

ξ///)ξ『らめっ!らめっ!らめっ!!あっあっあっあぁああああああああああ!』

( ^ω^)「…ツンちゃん可愛いお。やっと心を開いてくれたお」

('A`) 「うるせぇ女だな」

( ^ω^)「おにゃの子はうるさいくらいが丁度良いんだお。言ってくれないと、わからないお」

('A`) 「…俺も、喋り過ぎだな」

( ^ω^)「教えてくれてありがとうだお」



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:47:28.25 ID:pDVE8xJ20
ブーンはそうっとドクオの頭に手を伸ばした。
ドクオは一瞬、ビクリと震えたが、黙ってその手を受け入れた。
一度、二度、ドクオの頭の上をブーンの手が優しく撫でる。

( ^ω^)「ごめんお。今のブーンにはこれが精一杯だお」

('A`) 「お前、年上の頭を撫でてるんじゃねーよ…」

( ^ω^)「撫でて欲しそうにしてたお」

('A`) 「…萎えた。帰る」

罰が悪そうにドクオはソファから立ち上がる。ブーンはソファに座ったままドクオが部屋を出て行くのを見送った。

( ^ω^)「気をつけて帰るおー」



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:49:05.39 ID:pDVE8xJ20

川 ゚ -゚)「KY-02U型まで…か」

「レンタル宇宙船おっぱい」の専用打ち上げ場の前でクーが呟く。時刻は丁度日付が変わって一時間ほど経ったところだろうか。

川 ゚ -゚)「セキュリティはほとんどなし…か。ブーンが手回ししてくれたのか…ありがたい」

やがて、広大な広さと言うわけではないが、決して狭くはない打ち上げ場のほぼ中心に位置する、小型宇宙船専用打ち上げ台の前にクーは到着した。
そこには既に滑らかな曲線の美しい、二人乗り用の宇宙船が打ち上げ準備を完了して静かにクーを待っている。

川 ゚ -゚)「この宇宙船もどうにか弁償したいんだが、戸籍と一緒に父さんが残してくれた財産も押収されてしまったらしいからな…」

本当に申し訳なさそうにそう呟き、宇宙船に乗り込む。

( ^ω^)「待ってたおクーちゃん。この度は『レンタル宇宙船おっぱい』をご利用頂き、誠に有難う御座いますだお」

狭い宇宙船内の操縦席には、ブーンが座っていた。



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:51:16.59 ID:pDVE8xJ20
川;゚ -゚)「…なっ」

( ^ω^)「僕は、今回クーちゃんの旅のおともをさせて頂く宇宙船操縦士のブーンだお。よろしくお願いしますだお」

川;゚ -゚)「何をしてるんだ!ブーン!」

( ^ω^)「何って、仕事だお」

川;゚ -゚)「何故こんなところにいるんだと聞いて居るんだ!」

( ^ω^)「だから仕事ですお。ブーン実は宇宙船操縦士の資格も持ってるお」

川;゚ -゚)「そんな事はどうでもいい!今すぐ降りろ!ここまでしてくれたのには感謝している!」

( ^ω^)「嫌ですお」

川;゚ -゚)「馬鹿か!どうなるかわかってるのか!」

( ^ω^)「わかってますお」

川;゚ -゚)「死にたいのか!?」



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:54:20.00 ID:pDVE8xJ20
( ^ω^)「死にたくなんかないお。
ブーンまだ童貞だし、おにゃのこと手を繋いだ事もないし、
さっき気付いたんだけどマシンの中に消し忘れたエロゲのデータも残ってるし、
いつか社長みたいな立派な社会人になりたいし、やりたい事がたくさんあるんですお」

川;゚ -゚)「だったらっ!」

( ^ω^)「でも、そんなものは」

ブーンは、まるで幼い子どもに向けるような優しい目を、クーに向ける。

( ^ω^)「お客様を、ましてやこんなに可愛いクーちゃんを、黙ってひとりぼっちで、真っ暗闇の宇宙で死なせて良い理由にはならないお」
70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:54:54.42 ID:pDVE8xJ20
川 ゚ -゚)「……あ」

川 ;−;)「ブー…ン…?」

どこかで、クーの中の何かが折れたような気がした。百数十年ぶりに流す涙は、少しオイルの匂いがした。
でも、とても、綺麗で、尊いモノに感じた。

( ^ω^)「今1時30分かお。あと30分でこの地球ともおさらばだお。ブーン実は宇宙へ行くの初めてだからちょっとwktkしてるお」

川 ;−;)「ブーン…駄目だ…お前は…」

( ^ω^)「しかもこんな可愛いおにゃのことの2人旅www うはwww フラグktkrwww 密室で2人きりとかwww お前それなんてエロゲwww」

川 ;−;)「駄目だ…」

その時、宇宙船の窓から覗く外が急に明るくなった。

( ^ω^)川 ゚ -゚)「!?」

否、違う。巨大なライトで宇宙船を照らされたのだ。
そのライトの中心には、あの日クーを追ってきた警官たちの姿があった。

(´・ω・`)「聞こえるかな。星外逃亡を企むポンコツが。今すぐ人質を解放して投降しなさい」

(`・ω・´)(`・ω・´)(`・ω・´)「「「お前は包囲されている」」」



73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 20:58:57.32 ID:pDVE8xJ20
川;゚ -゚)「…しまった。何故ここが」

(´・ω・`)「もしかしたらと思って、一応、見張りを置いといたんだ。
まあ、あの社長が打ち上げ申請をもっと早く教えてくれれば、人質を宇宙船に連れ込む前に逮捕出来たかもしれなかったが」

( ^ω^)「問題ないお。このまま行くお。クーちゃん。ブーンが乗ってれば迂闊に打ち落とされる事はないはずだお」

川;゚ -゚)「駄目だっ!それは…」

( ^ω^)「最後にこんなにたくさんの見送りがあって嬉しいお」

(`・ω・´)「ボス。侵入者です!」

不意に黒い防護服の集団の一人が、予想しなかった言葉を出した。

(´・ω・`)「侵入者?」

('A`) 「よぅ。随分と、賑やかじゃねーか」

( ;^ω^)川 ;゚ -゚)「ドクオ!?」

宇宙船の窓に張り付いて2人が叫ぶ。ドクオにはそれが聞こえているようだった。
周りを取り囲む警官など意に介す様子もなく、宇宙船に向かい、やけにはっきりと叫んだ。

('A`) 「見送りのつもりだったが、意外と人気者じゃねーかよ。クー」



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 21:01:15.85 ID:pDVE8xJ20
川;゚ -゚)「お前も、何故ここに!?」

('A`) 「ん?ブーンの会社のマシンを覗いたんだよ。見送りに来たんだ。たいした事じゃないんだけどさ。最後にお前にこれだけは言っておこうと思って」

川;゚ -゚)「なんだ?」

('A`) 「お前と初めて会った時に、お前、犬連れてたろ?」

川;゚ -゚)「それがどうした」

('A`) 「いやそれは別にいいんだけどよ。実は153年間ずっと気になってたんだが」

(`・ω・´)「何だお前は!答えないと武力行使も厭わないぞ!」

警官の声を無視してドクオが続ける。

('A`) 「可愛がってんなら、名前ぐらいつけてやれよ!!」

(`・ω・´)「とぅっ!!」

ドクオは後ろから殴りかかる警官の鼻に、視線もやらずに裏拳を叩き込む。
警官はあっさりと地面に倒れた。

(`−ω−´)「ふぐぅ…」

(´・ω・`)「よくわからん邪魔が入ってるようだね…。やれ。宇宙船が近くにあるからレーザー銃は使うな。数にモノを言わせろ」

(`・ω・´)(`・ω・´)(`・ω・´)「いえっさー」



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 21:03:08.63 ID:pDVE8xJ20
同時にドクオに飛び掛る警官たち。
宇宙船からは警官に埋もれてしまいドクオの姿は確認できないが、警官が次々と景気良く投げ飛ばされているところを見るとどうやら負けてはいないらしい。

川;゚ -゚)「ドクオ!ドクオ!」

('A`) 「もしか…したら、これで俺の戦争は…本当に終わりなのかも…わからんね…」

(´・ω・`)「全く…。何してるんだよ。お前たちは最新モデルじゃなかったのか?なんでポンコツの加勢如きに遅れをとっているんだ」

('A`)「最新モデル…だろうが…なんだろうが…なぁ…」

飛び掛る警官たちを掻い潜り、殴り、蹴り、頭突きをかまし次々とシステムダウンさせながら、ボスの言葉を聞いてドクオが口を開く。

(#'A`) 「お前らみんな、所詮は俺の劣化コピーに過ぎないんだよぉ!!」

ガキィン!と最後の警官の頭に回し蹴りを叩き込みシステムダウンをさせる。
立っているのは、ボスと呼ばれたスピーカーを持つ男を、ドクオのみ。

(#'A`)「お前も死んどくか」

(´・ω・`)「いや、やめとこう。僕は切った張ったは苦手でね。頭脳労働担当なんだ」

('A`)「五月蝿い、死ね」

川 ゚ -゚)「やめろ!」

宇宙船の中からクーが叫ぶ。

('A`) 「クー…?」



81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 21:04:24.09 ID:pDVE8xJ20
川 ゚ -゚)「取引だ!そいつは私の仲間だ!今から私の代わりにそいつが人質をとる!だから私を見逃して欲しい!」

(;^ω^)「待つお!ブーンは一緒に宇宙に…」

川 ゚ -゚)「許せブーン!」

そしてクーは鋭い拳をブーンの顎に見舞った。

( ゚ω゚)「ふごぉ!」

ふらりと倒れるブーンをクーが優しく抱きとめる。

( ゚ω゚)「クー…ちゃ…な…んで」

川 ;ー;)「すまないブーン。そして頼む。ブーンは生きて、ドクオの家族になってくれないか?」

( ーωー)「そ…なの…クー…ちゃ…さ…みし…」

ぐったりと意識を失ったブーンを抱きかかえ、クーは宇宙船の扉を開けた。

('A`) 「クー!それがお前の決めた事なのか!」

川 ゚ ー゚)「ああ。その通りだ。ドクオ。人質を、頼む」

駆け寄ったドクオにクーはまるで壊れ物を扱うようにブーンを手渡す。
ドクオはブーンをしっかりと受け取り、クーを見据え、迷いのない声で問いかける。



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 21:05:16.42 ID:pDVE8xJ20
('A`) 「お前は、お前が決めた、お前の仕事をやるんだな?」

川 ゚ -゚)「ああそうだ。ドクオ。どうか人質を頼む」

そして再び宇宙船に戻ろうとしたクーの背に、ボスが声をかけた。

(´・ω・`)「待て」

クーが機械的な仕草で振り向いた。

川 ゚ -゚)「宇宙船を打ち落とせば人質が死ぬ。それでいいだろう。大人しくすれば人質は無事解放されるだろう」

(´・ω・`)「違う。もういい。お前はどこにでも行け。興味もない。だから最後に握手をしてくれないか?」

川 ゚ -゚)「握手?」

(´・ω・`)「お前とはどうせ二度と会えないからな。折角だから取り逃がした相手と、せめて握手くらいしたい」

刑事は無防備にクーに近づくと右手を差し出した。
クーはその手を3.47秒ほど見つめていたが、自分の右手でそれを握る。

(´・ω・`)「ありがとう。仕事を失敗したのはこれが初めてだったよ」

川 ゚ -゚)「すまなかったな」



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 21:08:21.73 ID:pDVE8xJ20
(´・ω・`)「すまないクー」

川 ゚ -゚)「…? 気安く呼ぶな」

(´・ω・`)「これを君が聞くのは、何年、何十年後、あるいは何百年後になるだろうか。
このメッセージは、人間とアンドロイドを見分け、人間には決して攻撃出来ないプログラムに仕込んだトロイの木馬だ。
クーがこのプログラムを搭載したアンドロイドに触れた時に、512分の1の確率で発生する仕組みになっている」

川 ゚ -゚)「とう…さん…?」

('A`) 「…糞親父!?」

(´・ω・`)「ただ、謝りたい。その一心でこのプログラムを仕込んだ。
お前の腹の中の怪物はお前はもう知ってしまっているだろう。
今わしの隣の部屋で安らかに眠っている幼いクーにはわからないだろうが、
このままの勢いで君が成長するとそう遠くない未来に君は自らの身体を本当に理解するだろう。
臆病なわしは、そうなる前に、あの可哀相な「DK-0」のためにこのプログラムを完成させ、そして死に行きたいと思っている」

('A`) 「「DK−0」…。俺の名前…」

(´・ω・`)「あれは本当に可哀相な事をした。
本来は多彩な感情を備わった優しい子になる筈だったのに、軍事利用などされてさぞ心を痛めている事だろう。
あの子もわしの妻子と同じ、この戦争の被害者だ。
もし、これからあの子に出会う事があれば、あの子にもすまなかったと伝えて欲しい。
このプログラムは、もう二度とあの子みたいな可哀相な子を作らないために組んだのだから」



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 21:09:18.72 ID:pDVE8xJ20
川 ゚ -゚)「父さん…。」

(´・ω・`)「可愛いクー。お前も、そして「Dk-0」もわしの大事な子どもたちだ。
そしてこれは、本当にわしの勝手な願いだが、もしもお前が、わしと同じ絶望を抱えないで今生きているのなら、
お前は、地球のために、お前の仕事をまっとうして欲しい。
これは臆病風に吹かれた男の責任逃れなどではなくて、娘を想う父親の心だと理解して貰えると、ありがたい」

川 ;−;)「わかった…父さん…」

(´・ω・`)「…? 僕は、今、何を…?」

('A`) 「クー…」

川 ゚ -゚)「いって…くる…父さん。ドクオ、ブーン…。ありがとう…」

('A`) 「あー。こー言うのも変だけど、達者でな」

川 ゚ -゚)「ドクオ。あの犬の名前だが、今決めた」

('A`) 「あ?」

川 ゚ ー゚)「ブーン、だ」



87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 21:11:07.03 ID:pDVE8xJ20


太陽が優しく闇を振り払おうとしている薄暗い早朝。「レンタル宇宙船おっぱい」の事務所にジョルジュとブーンが2人顔を付き合わせている。
時間が早いためか他の社員はいないようだった。

( ゚∀゚)「ポンコツに占拠された俺の愛しのきょぬーちゃんは、打ち上げから9時間後にメインコンピューターに極めて重大なマシントラブルが発生。
地球との通信が不可能となる。そして、宇宙治安維持隊の追跡からも27時間ほど逃げまくってついに41時間後には行方不明、ね」

(;^ω^)「も、申し訳ないお」

( ゚∀゚)「お前一生タダ働きだな」

(;^ω^)「ちょっそれは勘弁ですお。ブーン死にますお」

( ゚∀゚)「冗談だ。きょぬーちゃんに関しては、国が保証してくれたさ。ま、俺の愛しのきょぬーちゃんではないけどな」

(;^ω^)「ほんとに、申し訳ないですお。社長」

( ゚∀゚)「お前も人質経験を堪能したのか?」

( ^ω^)「…はいですお」

( ゚∀゚)「なら、いい。女の子と急接近出来て何よりじゃねーか。ひんぬーだったけどな。それで?お前この扶養手当申請って何だ?結婚でもすんのか?」



89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 21:12:06.93 ID:pDVE8xJ20

( ^ω^)「違いますお。でも家族が増えたんですお」

( ゚∀゚)「女か?」

( ^ω^)「いや。男ですお?」

( ゚∀゚)「お前にそんな趣味があったのか…」

( ^ω^)「ち、違いますお!」

( ゚∀゚)「ま、深くは聞かないさ。でも今度、個人的な酒の席にでも連れて来い。社長として一言挨拶くらいはさせろ」

( ^ω^)「わかりましたお!」

( ゚∀゚)「さて。じゃ、今日も仕事すっか。サボるんじゃねーぞ」

( ^ω^)「はいですお!」

そしてブーンはポケットに忍ばせた通信機にそっと触れて、そしていつか少女と飛び降りた窓を開け空を見上げた。

( ^ω^)「まだ星が、見えるお…。でもそろそろ夜が明けるお。朝が、来るお…」



90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/04(水) 21:12:47.18 ID:pDVE8xJ20

( ^ω^)ブーンはクドリャフカの孤独に触れるようです。      
                                      −完−



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