( ^ω^)と夏の日のようです

137: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/15(日) 01:23:51.31 ID:isTVpX110
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第十話



ちょっと背伸びして買ったジーンズ。
いつもより大人っぽいシャツ。
滅多につけない整髪料。

出来る限りのお洒落をして、僕は家を出る。
その隣に、ツンを連れて。


ξ゚听)ξ「まさか、あんたからデートに誘われるとはね……」

(;^ω^)「僕もOKしてもらえるとは思わなかったお」

ξ゚听)ξ「ひ、暇だっただけなんだからねっ! 別に変な意味なんかないんだから!」


今朝、僕は思い切ってツンをデートに誘ってみた。
色々と理由を付けたけれど、どの理由も嘘だった。

僕が変わろうとしていることを、ツンに分かってもらえたくて。
そして――――自分の気持ちに、素直になりたくて。



142: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/15(日) 01:26:37.46 ID:isTVpX110
僕たちは山を下り、停留所でバスを待っていた。
ツンは真っ白な帽子とワンピースに身を包んでいる。
涼しげな白が空の青に映えて、僕は目を奪われた。

( ^ω^)「……遅いお」

ξ゚听)ξ「あら、この辺りのバスなんて一時間に一本あるかどうかよ」

(;^ω^)「それは不便だお」

ξ゚听)ξ「そうね……こればっかりは仕方ないわね」

ツンは溜息をついた。

( ^ω^)「……でも、ツンと一緒なら嫌じゃないお」

ξ;゚听)ξ「えっ……あっ、な、何言ってんのよっ!」

(;^ω^)「いっ、いや、変な意味じゃないお」

ξ゚听)ξ「……ばか」

ツンの帽子が風でそよそよと揺れる。
夏の香りを乗せた風は、僕たちを包んで、どこかへ行ってしまった。



146: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/15(日) 01:29:08.68 ID:isTVpX110
数十分待って、ようやくバスが来た。
僕たちはバスに乗り込んで、後ろの方の席に座った。

ξ゚听)ξ「ふぅ、クーラーが効いてて涼しー♪」

( ^ω^)「あー、生き返るお……」

僕たちを乗せたバスは、隣町を目指して進んでいく。

その速度はゆっくりで、だけど確実に目的地まで近づいていった。


( ^ω^)「おー、この道は僕が来た道だお」

今走っているのは、僕が駅から歩いてきた道だ。
来た時と少しも変わっていないのどかな風景。
きっとこの風景は、僕が子どもの頃初めて見た時から変わっていないんだろう。

そんなことを思いながら、バスの心地よい揺れに身を任せていた。



151: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/15(日) 01:31:32.91 ID:isTVpX110
くだらない話をしているうちに、バスは隣町の停留所に到着した。
開かれたドアが外の景色を直に伝えてくれている。

( ^ω^)「おっおっ、やっと着いたお」

ξ゚听)ξ「あー、お腹すいちゃった。早くお昼食べましょ」

(;^ω^)「それはまたいきなりだお……」

ξ゚听)ξ「いいじゃない。ほら、行くわよ」


ツンの希望通り、僕たちは最初に昼食をとることにした。

町と言っても、僕がいた街のような都会ではない。
店舗だって商店街まで行かないと見つからなかった。

セピア色に彩られた町を、二人並んで歩いていった。



155: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/15(日) 01:34:57.62 ID:isTVpX110
ξ゚听)ξ「うーん、どこで食べようかしら……」

( ^ω^)「どうせなら、普段食べられないものにするお!」

僕たちはお店を探すため、商店街を歩き回った。
レトロな雰囲気漂うその空間は、どこか懐かしく感じた。


( ^ω^)「――――おっ、ここにパスタのお店があるお」

しばらくして、小さな店が目に止まった。
看板には「Buona Fortuna」と、何やら難しそうな字体で書かれている。
何の言葉かは分からなかったが、下にある「Pasta」の文字でパスタのお店だと分かった。

ξ゚听)ξ「いいわね、ここにしない?」

( ^ω^)「賛成だお」

僕たちはこの店に決め、緊張しつつ中へと入っていった。



158: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/15(日) 01:37:29.74 ID:isTVpX110
店内はやはり小さく、テーブルもたったの二つしかなかった。
だけども、内装やインテリアは洒落ていて、いい雰囲気だった。


(,,゚Д゚)「お客様、ご注文はお決まりでしょうか」

店の雰囲気を楽しんでいると、コック帽をかぶった男の人がやってきた。

( ^ω^)「おっ? このお店はウェイターさんはいないんですかお?」

(,,゚Д゚)「この店は、私一人でやっていますもので。それでは、ご注文を」

( ^ω^)「えーと、僕はこの『海鮮と青のペペロンチーノ』をお願いしますお」

ξ゚听)ξ「私は『アスパラとベーコンのアルフレッド』にするわ」

(,,゚Д゚)「かしこまりました。すぐにお持ちいたします」

注文を聞き終わると、早々とオーナーは厨房へ駆け込んだ。



160: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/15(日) 01:41:08.76 ID:isTVpX110
ξ゚听)ξ「……ところで『ぺぺろんちーの』とか『あるふれっど』とかって何?」

( ^ω^)「まったく分からないお」

こうした小洒落たお店に来るのは初めてだった。
適当に頼んでみたはいいものの、一体どんなものが運ばれてくるのだろう。
僕はそう思いながら料理を待った。


十数分の後、オーナーがパスタを両手に僕たちのテーブルまでやってきた。

(,,゚Д゚)「お待たせいたしました。『アスパラとベーコンのアルフレッド』でございます」

ξ゚听)ξ「あら、どうも」

(,,゚Д゚)「そしてこちらが、『海鮮と青のペペロンチーノ』になります」

( ^ω^)「おー、おいしそうですお」

(,,゚Д゚)「それでは、ごゆっくりお召し上がりくださいませ」

そう言ってオーナーは厨房に戻っていった。
机の上に置かれたパスタは、見た目も美しく、運ばれてくる匂いはたまらなかった。



164: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/15(日) 01:44:03.88 ID:isTVpX110
(*^ω^)「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」

僕は溢れてくる食欲のままにパスタを口に運んだ。
麺は少し細めで、程よい固さ。
具はざく切りの海老とブロッコリー、そして酒蒸しされたムール貝。
全てがにんにくと唐辛子の香りのオイルにまとわれ、僕の味覚を刺激する。

ξ*゚ー゚)ξ「あら、これおいしー!」

ツンの料理はクリームソースのパスタだった。
パスタと言っても、僕が食べているような麺状ではなく、短い棒状の形をしている。
一つ一つをじっくり味わいながら、ツンは満面の笑みを浮かべて頬張った。



165: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/15(日) 01:46:27.10 ID:isTVpX110
(,,゚Д゚)「お会計、2700円になります」

ξ゚听)ξ「あ、私出すわね」

( ^ω^)「いやいや、ここは僕が出すお」

ξ゚听)ξ「どうぞどうぞ」

(;^ω^)「…………」

結局僕が全額支払うことに。
でも、最初からそのつもりだった。

ちょっとだけ、ツンにいいところを見せたかった。


( ^ω^)「ところで、お店の名前……あれはどういう意味なんですかお?」

(,,゚Д゚)「ああ、『Buona Fortuna』はですね」


(,,゚Д゚)「日本語で、『幸運』という意味でございます」



166: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/15(日) 01:49:14.67 ID:isTVpX110
僕たちは店を出た後、商店街の中をぶらぶらと歩いた。
並んで歩くツンの横顔を、嫌でも意識してしまう。


ξ*゚听)ξ「あっ、これかわいー♪」

( ^ω^)「おっ?」

突然、ツンが装飾品店の前で立ち止まった。
視線の先には、ハート形の銀のペンダント。
ツンはそれを手に取り、しばらく眺めていた。

ξ゚ー゚)ξ「ねぇ。これ、どうかな?」

ツンはペンダントを首に当て、僕に感想を求める。

( ^ω^)「よく似合ってると思うお」

僕はその言葉を、嘘偽りなく述べた。
本当に、ツンにぴったりだと思ったから。



169: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/15(日) 01:52:15.46 ID:isTVpX110
数分間悩んだ末、ツンが答えを出した。

ξ゚听)ξ「―――よし、買っちゃおっと」

( ^ω^)「おっおっ、思い切りがいいお」


ξ゚听)ξ「……そうだ、あんたもこれ買いなさいよ」

( ^ω^)「へっ?」

ξ゚听)ξ「ほら、この星のデザインのやつ」

(;^ω^)「ちょwwwwwwなんで僕までwwwwwwww」

ξ゚听)ξ「思い出よ、思い出」



173: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/15(日) 01:54:49.17 ID:isTVpX110
ツンに強引に渡されたペンダントを手に、店内のレジに向かった。
僕はレジの前で、ちょっとした冒険をしてみた。


( ^ω^)「そうだお。お互いが相手の物を買って、プレゼントしあうのはどうかお?」

ξ゚听)ξ「えー、めんどくさい……」

(;^ω^)「(今、結構勇気を出してみたお! めんどくさいとか言わないでくれお……)」

ξ゚听)ξ「まあいいわ。あんたのペンダントの方が安いし」

(;^ω^)「結局、そんな理由かお……」

僕たちはペンダントを買い、その場でお互いにプレゼントをした。
あまり高価なものじゃないけれど、僕にとって、とても貴重な物になった。



175: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/15(日) 01:57:50.57 ID:isTVpX110
当てもなく彷徨いながら商店街を巡っていると、もう夕刻を過ぎていた。


( ^ω^)「……遅いお」

ξ゚听)ξ「だから、この辺りのバスなんて一時間に一本あるかどうかだって」

僕たちは停留所で帰りのバスを待っていた。
季節外れのアキアカネが、赤い体を翻し、赤く染まった空を飛んでいる。

(*^ω^)「そうだお! ツン、写真を撮ってあげるお!」

僕は懐からカメラを取り出して、ツンにそう提案する。

ξ*゚听)ξ「なっ、何よ、いきなり」

( ^ω^)「今日の思い出だお」


カメラを構え、夕暮れを背景にツンの姿をレンズに収める。

色褪せてしまう思い出は、こうして永遠の形になる。
茜空の中のツンは、胸が締め付けられるほど綺麗だった。



176: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/15(日) 02:00:30.87 ID:isTVpX110
帰りのバスの中には、僕たち以外に乗客はいなかった。

ξ--)ξ「すぅ……ん……」

(;^ω^)「…………」

ツンは疲れていたのか、僕の肩に頭を乗せて眠りこけていた。

僕は細心の注意を払った。
ツンを起こさないように。
そして、高鳴る鼓動が聴こえないように。


ξ--)ξ「すぅ……むにゃ……」

安らかな顔で眠るツン。
胸元には、きらりと光るハートのペンダント。
窓からは夕焼けの明かりが差し込んでくる。

バスの中には、僕と、ツンの二人だけ。



177: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/15(日) 02:02:33.60 ID:isTVpX110
( ^ω^)「(僕の、気持ちは―――――)」


自分を変えるには、変えたいという気持ちを伝えなくちゃいけない。
僕は、自分に素直になろう。


ツン、だめだ。

やっぱり、僕は。

君のことが、好きみたいだ。


僕は心の中でそう呟きながら、窓の向こうに広がる景色を見ていた。

僕たちを乗せたバスは、長い凸凹道をゆっくりと進んでいった。



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