( ^ω^)と夏の日のようです

54: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 20:53:47.56 ID:i1nggAI80
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第十三話



今日はじめじめとした蒸し暑さとは無縁の、からっとした陽気な気候。
もちろん暑いことに変わりはないが、これまでよりはずっと快適だった。

そんな日の昼下がりのこと。
僕はモララーと一緒に縁側に腰掛け、ラムネを飲んでいた。

からん、と涼しげに鳴るビー玉の音色。
爽やかな炭酸が僕の心を弾ませる。
喉を通る冷たい感覚が、真夏の熱気を逆説的に伝えてくれる。

夏の日にしか味わえない快感。
そんな「らしさ」を感じつつ、太陽の下に広がる大洋を眺めた。



55: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 20:56:16.29 ID:i1nggAI80
空いた瓶の中でビー玉をからからと鳴らせていると、モララーが話しかけてきた。

( ・∀・)「兄ちゃん、今日は虫取りに行こうよ!」

( ^ω^)「おっ、虫取りにかお?」

( ・∀・)「そうだよ。僕、いい場所を知ってるんだ!」

( ^ω^)「んー、どうしようかお……」

最後に虫取りをしたのはずっと前だし、そもそも虫自体何年も間近で見ていない。
興味をそそられつつも、少し敬遠してしまう自分がいた。

( ・∀・)「楽しいよー!」

モララーが瞳を爛々と輝かせて僕を見てくる。
本当に純真で、正直で、憎めない子だなと思った。



57: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 20:59:49.30 ID:i1nggAI80
( ^ω^)「……よし、分かったお! 一緒に行くお」

( ・∀・)「やった!」

そんなモララーのお願いを、僕が断れるはずがなかった。


空を見上げると、ギンヤンマが飛んでいた。
郷愁を誘うその姿に僕は見とれた。

木々の葉は、今もなお青々としている。
目の前に広がる夏景色は、ますます鮮やかに広がっていった。



59: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:02:07.96 ID:i1nggAI80
僕は部屋に戻り、服を着替え、カメラを入れたリュックサックを背負った。
首にかけたペンダントは、そのままに。

……僕はあの日以来、肌身離さずこのペンダントを身に付けている。
これを付けているだけで、ツンと繋がっているような気がするからだ。


準備を済ませ、いざ部屋を出ようとすると、しぃが部屋に入ってきた。

(*゚ー゚)「あれ、お兄ちゃんどこかに出掛けるの?」

( ^ω^)「おっおっ、モララーと虫取りに行くんだお」

(*゚ー゚)「そっか……」

( ^ω^)「何か、僕に用事があったのかお?」

(*゚ー゚)「うん、宿題を見てもらおうと思って……」

(;^ω^)「それはごめんだお。でも、モララーとの約束も……」

(*゚ー゚)「……ううん、いいよ。いってらっしゃい」

僕の言葉を遮って、しぃは部屋を出ていった。
笑顔の中に隠していた寂しげな瞳が見えて、僕は心にちくっとした痛みを覚えた。



61: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:03:51.03 ID:i1nggAI80
( ・∀・)「兄ちゃん遅いよー!」

(;^ω^)「おー、すまんお」

早々と準備を済ませていたモララーが玄関先で僕を待っていた。
右手に二つの虫取り網を持ち、虫カゴを肩からさげている。
深めにかぶった大きめの麦わら帽子が、底抜けに明るい少年によく似合っていた。

( ・∀・)「さっ、早く行こっ!」

( ^ω^)「ちょい待つお。ちゃんと虫よけを噴いておかないとダメだお」

( ・∀・)「うひゃっ、冷たいよー」

( ^ω^)「我慢するお」

モララーの露出している肌に虫よけスプレーを噴きかけた。
独特の匂いが辺りに漂う。
僕は自分の肌にもスプレーを噴き、きっちり予防をしたところでようやく出発した。



63: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:06:13.05 ID:i1nggAI80
山道に響く蝉の声は、より一層大きくなっていた。

僕たちはそんなけたたましい音を聴きつつ、目的地に向けて歩いていた。
夏の小道は芳しい匂いに満ち、僕の気分を昂らせる。

(;^ω^)「うひぃ、やっぱり暑いお」

いくら過ごしやすい気候とはいえ、夏は夏。
流れる汗は首筋を伝わり、足下に滴り落ちた。

( ・∀・)「もうすぐ着くから、我慢してよー」

(;^ω^)「はーいだお」

この暑さでもモララーは相変わらずだ。


身を焼くような太陽の光が僕に降り注ぐ。
堪らず、木陰を見つけては涼んだ。
その度にモララーに急かされ、僕はますます汗をかくことになった。



65: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:08:23.56 ID:i1nggAI80
やがて、ある林の中へ入っていった。

どこまでも続く木々の回廊は、僕の感覚を狂わせる。
僕たちは歩き続け、モララーの指す場所に向かった。

( ・∀・)「よし! 到着だよ!」

( ^ω^)「うはwwwww蝉うるせぇwwwwwwww」

辿り着いた場所は、林の奥の奥。

蝉の声はこれまで以上に響き渡り、聴覚までもが麻痺させられる。
視覚、聴覚、嗅覚。
ほとんどの感覚が魅了され、林の中は幻想と化し、僕は夢を見ているように思った。


( ・∀・)「――――兄ちゃん、ぼーっとしてないで虫取りしようよぉ」

( ^ω^)「おっおっ、ごめんだお」

モララーの一言で僕は現実に返る。
気がつくと、虫よけを噴いていたにも関わらず、腕を蚊に噛まれていた。
僕は腫れあがった部分に爪で十字を作り、気を紛らわせる。

僕はモララーと一緒に、虫取りを開始した。



67: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:10:50.52 ID:i1nggAI80
( ^ω^)「ほいさっ!」

じぃじぃと鳴くアブラゼミに向かって、虫取り網を振り落とす。
網の中をそっと見ると、じたばたと暴れるアブラゼミがいた。

( ^ω^)「なんだ、意外と簡単だお」

網の中に手を入れアブラゼミを掴みとり、優しく虫カゴに入れてやる。
これで捕まえた蝉は3匹目。
宙を飛ぶトンボは難しいが、木に止まった蝉を捕まえるのは思ったより容易だった。


(;^ω^)「それにしても凄い樹木の数だお」

僕は辺りに目をやった。
見渡す限り、木また木が視界を覆っている。
木の葉の影が降りてきて、僕をからかうように細かく揺れた。

立ち並ぶ木々からは、大自然の生命力が溢れ出している。
僕はカメラを構え、大地に根ざした樹木をレンズの中に収めた。



68: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:12:53.44 ID:i1nggAI80
( ・∀・)「えいっ! とぉっ!」

モララーも順調に虫を捕まえている。
さげられた虫カゴには、もう既にたくさんの虫が入っていた。

(*・∀・)「やった! 兄ちゃん見て見て!」

遠くでモララーが大声を上げた。
興奮した様子で僕の名を呼び、網の中の獲物を見せる。

( ^ω^)「どうかしたのかお?」

( ・∀・)「ほらほら、カブトムシだよ!」

(*^ω^)「うおー、凄いお! 久しぶりに見たお!」

網の中にいたのは、立派な角を持ったカブトムシ。
大きさもまずまずで、厚い装甲のような皮膚が重戦車のようで格好いい。
僕はそれを見て、年甲斐もなく興奮してしまった。

それと同時に、僕にも少年の心が残っているということに気が付いた。
僕は少しだけ、童心に帰れたような気がした。



70: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:15:15.31 ID:i1nggAI80
( ・∀・)「えへへー、もっといっぱい捕まえるもんね!」

( ^ω^)「おっおっ、僕もがんばるお!」


モララーが捕まえたカブトムシに刺激され、僕は網を今まで以上に振り回した。

アブラゼミ、クマゼミ、オニヤンマ、ギンヤンマ。
いろんな虫を捕まえたが、カブトムシやクワガタは見つからない。


(;^ω^)「(落ち着くお。やみくもに振り回しても無理だお)」

ここで僕は思い出す。
甲虫を捕まえるには、木を蹴って落とすのが手っ取り早いことを。
早速、僕は実行に移すことにした。

(#^ω^)「トェェェェェェイ!!」

僕は全身の力を込め、そびえ立つ大樹を思いっきり蹴りつける。

……ただ足が痛むだけで、虫は一匹も落ちてこなかった。
その代わりに、何枚かの新葉が、僕を慰めるようにはらはらと降ってきた。



72: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:17:33.84 ID:i1nggAI80
脱力した僕は木陰で休むことにした。
モララーはまだ元気に走り回って、虫取りに励んでいる。


太陽の日差しを浴びて、ますますモララーは活気づいていた。
飛び散る汗を気にすることもなく、目を輝かせてトンボの尾を追いかけている。


夏色に染まった少年の姿は、太陽よりも眩しかった。


( ^ω^)「うーむ、あの元気は一体どこから来るんだお……」

僕は走り回るモララーを見る。
ずり落ちそうな麦わら帽子が、足取りに合わせて上下に揺れた。



74: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:19:56.27 ID:i1nggAI80
木にもたれて座っている僕の元に、モララーが駆け寄ってきた。
天真爛漫なその顔が、僕の心を和ませる。

( ・∀・)「兄ちゃん、どうだった?」

(;^ω^)「うーん、カブトムシとかは無理だったお」

( ・∀・)「僕も、結局クワガタは無理だったな……カブトムシは2匹見つけたけど」

( ^ω^)「でも、蝉やトンボは結構捕まえたお!」

( ・∀・)「僕だって……ほら、こんなに!」

(;^ω^)「SUGEEEEEEEEEE!!!!」

僕たちはお互いの成果を見せあった。
どこか懐かしい感覚に襲われる。
カゴから取り出した蝉は、今にも羽ばたき出しそうに羽を鳴らした。



77: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:22:11.18 ID:i1nggAI80
( ・∀・)「ねぇ兄ちゃん、知ってる?」

さっきまで蝉を弄っていたモララーが、急に話を振ってきた。

( ^ω^)「何をだお?」

( ・∀・)「蝉ってね、土の中に何年もいて、外に出られるのは数週間だけなんだって」

( ^ω^)「おー、聞いたことはあるお」

蝉という生き物は、実は虫の中でも長寿な方らしい。
とはいえ、その生涯のほとんどを幼虫として土の中で過ごしている。
成虫になって空を自由に飛び回れるのは、一生のうちのほんの一瞬だけ。
昔読んだ図鑑からの知識が、僕の記憶の片隅に残っていた。

( ^ω^)「……だから、蝉は儚い生き物って言われているお」

( ・∀・)「うん……」



80: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:24:37.05 ID:i1nggAI80
( ・∀・)「……でも、僕はそうは思わないんだ」

( ^ω^)「おっ?」


モララーが言葉を紡いでいく。
明るい声のトーンはそのままに、だけどどこか意志が込もっていたように感じた。

( ・∀・)「みんなね、蝉のことをかわいそう、かわいそうって言うんだ」

( ・∀・)「……だけど、蝉はそんな生き物じゃないよ!」

( ・∀・)「幼虫でいる間、いつか空を飛ぶことを夢見ながら……」

( ・∀・)「ずっと、ずーっと土の中でがんばり続けてるんだよ」


そこでモララーは、蝉を手から解き放った。
蝉は羽を広げ、大空へと飛び上がった。


( ・∀・)「……そして願いを叶えて、空を飛び回る成虫になる……」

( ・∀・)「僕は、そんな蝉のことを『すごいなぁ』って思うんだ」

( ・∀・)「僕たちだって、今をがんばらないと立派な大人になれないでしょ?」



82: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:27:17.37 ID:i1nggAI80
モララーの真っすぐな言葉が僕の心に響いた。
一瞬だけでも、輝くために、一生懸命に土の中で努力し続けている。

――――今の僕はまだ幼虫だ。
いつか大空に羽ばたくために、がんばらないといけない時期。

本当に大事な時期は、とっくに来ていて、もう終わりかけていた。


(;・∀・)「うーん、あまり上手く言えないけど……」

( ^ω^)「モララーの言いたいこと、凄くよく伝わったお」

( ・∀・)「えっ?」

( ^ω^)「……本当に、蝉は立派な生き物だと思うお」

僕はモララーの顔を見る。
その純真な瞳の奥には、こんなに深くて、こんなに素敵な感性が潜んでいたのか。

僕はそう思いながら、ありったけの笑顔をモララーに向けた。

( ^ω^)「それに、そんな風に考えられるモララーも立派だと思うお!」

(*・∀・)「えへへ……なんか褒められちゃった」



86: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:30:09.71 ID:i1nggAI80
すっかり日は落ちて、夕日が辺りを紅で照らしていた。
僕たちはこの辺で虫取りを止め、暗くなる前に帰ることにした。

( ^ω^)「今日は楽しかったお」

( ・∀・)「僕も!」

( ^ω^)「……それに、ありがとうだお」

( ・∀・)「えっ? ……僕、兄ちゃんに何かしたっけ?」

僕は独り言のように呟き、モララーが不思議そうな顔をする。

( ^ω^)「モララーのおかげで、気付くことができたお」

( ・∀・)「うーん、よく分かんないや!」


僕たちは帰る前に、捕まえた虫たちを自然の中に逃がしてあげた。
自由になった虫たちは、遥か彼方の夕焼け空に向かって飛んでいった。



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