( ^ω^)と夏の日のようです

89: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:43:02.03 ID:i1nggAI80
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第十四話



( ^ω^)「いふあいくっ、ふぁーいんでゅーなーう♪」

僕はお気に入りの歌を口ずさみながら、海岸沿いの道を歩いていた。
陽光を浴びた海面が、宝石のようにきらめいている。
目指すのは、ドクオさんの家。


――――夏ももう後半。
僕は一つの決意をしていた。

その気持ちを隠しているのが苦しくて、誰かに聞いてもらいたかった。
そこで僕は、ドクオさんに打ち明けようと思ったのだ。
ドクオさんは、いつだって弱い僕を導いてくれる。


頭の中で鳴るメロディーに合わせて、僕は歌詞をなぞっていく。
明るいのに、どこか切ない、そんな歌だった。



90: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:45:00.16 ID:i1nggAI80
( ^ω^)「ごめんくださいおー」

ドクオさんの家に着き、玄関の戸をこんこんと叩く。


川 ゚ -゚)「すまない、待たせた……って、ブーンじゃないか」

中から出てきたのは奥さんのクーさんだった。
ラフな格好なのに、美しさは微塵も損なわれていなかった。

( ^ω^)「クーさん、おはようございますお」

川 ゚ -゚)「おはようなのかこんにちはなのか微妙な時間帯だが……。今日はどうしたんだ?」

( ^ω^)「ちょっと、ドクオさんに話したいことがあって……」

川 ゚ -゚)「残念だが、まだドクオは漁から帰ってきてないぞ」

( ^ω^)「おっ? いつ頃帰ってくるか分かりますかお?」

川 ゚ -゚)「ううむ……そればっかりは海次第だからな、何とも言えんよ」

(;^ω^)「なんてこったい」



92: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:47:24.25 ID:i1nggAI80
僕はクーさんと一緒に、この家の主の帰りを待つことにした。

お日様を浴びて少しだけ黄ばんだ畳。
潮風が運んでくる海の気配。
まるで遠い日の記憶のように、その空間は居心地が良かった。


( ^ω^)「クーさんも大変ですお。朝も早いでしょうし……」

川 ゚ -゚)「大変なことは大変だが、私の選んだ道だからな。不満なんかないぞ」

クーさんはそう言って、目を海の方に向ける。
海上に漂う幾隻もの船を眺めながら、珍しく微笑んだ。

川 ゚ー゚)「それに、あいつの夢を支えてやるのが、私の夢だったからな」

( ^ω^)「それを聞いたら、ドクオさんも大喜びしますおwwwww」

僕もつられて、輝く海を見る。
あの広い海の上で、ドクオさんは夢を追いかけているんだ。



94: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:50:10.12 ID:i1nggAI80
川 ゚ -゚)「……そんな訳でな、私とドクオは20年以上の付き合いになるんだ」

( ^ω^)「おー、それで結婚までいくとは凄いですお」

一時間弱の間、僕はクーさんの昔話を聞いていた。
曰く、ドクオさんとは幼馴染で子供の頃からずっと一緒にいるらしい。

川 ゚ -゚)「ここまで来たら、もう後は同じような日々が続くだけだがな」

( ^ω^)「でも、それはそれで悪いことじゃないと思いますお」

川 ゚ -゚)「そうだな、幸せなことだと思うよ」

クーさんの言葉の一つ一つが、僕を穏やかな気持ちにさせてくれる。


そうしているうちに、玄関からドクオさんの声が聴こえた。
それとほぼ同時に、クーさんは出迎えに行っていた。



96: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:52:36.33 ID:i1nggAI80
('A`)「うぃっす、ブーン。来てたんだな」

いつものようにタオルを頭に巻いた姿のままで、ドクオさんは僕の対面に座った。

( ^ω^)「ちょっと、聞いてもらいたいことがあるんですお」

('A`)「ほう……、が、それは後回しだな。飯食ってから聞くぜ」


ドクオさんが時計を指差す。
その短針は数字の12を差していた。


(;^ω^)「おっ、すっかりお昼のことを忘れてましたお」

('A`)「あー、昼飯食ってきてないのか? ……だったらお前も食っていきな」

( ^ω^)「おっ? いいんですかお?」

('A`)「俺よりクーに聞いたほうがいいぜ」

( ^ω^)「クーさん……」

川 ゚ -゚)「構わんぞ。今から作るから簡単なものしかできないがな」

( ^ω^)「ありがとうございますお!」



98: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:55:05.37 ID:i1nggAI80
クーさんが「簡単なもの」と言って作ったのは、ぶっかけうどんだった。

熱々のうどんにネギと天かすをたっぷりと入れ、きんきんに冷やしただしをかける。
そして大根おろしをのせ、好みでおろし生姜を加えたら、後はずるずると頂くだけ。

熱いままのうどんは冷たくしたものとは違って、独特のもちもち感が楽しめる。
そこに冷たいだしを注ぐことで、きゅっと引き締まった味になる。
クーさんイチオシの、「あつひや」という食べ方らしい。

ネギと大根おろしのおかげで、濃厚なだしなのに後味はさっぱりとしている。
さらにすだちを絞ると、ぐんと爽やかさが増した。

箸は休まることなく、するするとうどんが胃の中に入っていく。
僕は二玉はあろうかという量を、あっという間に平らげた。



101: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 21:58:22.17 ID:i1nggAI80
('A`)「……で、話ってのは何なんだ?」

食後、僕はドクオさんと縁側に座った。
クーさんは後片付けをしている。
ドクオさんが咥えている爪楊枝が、口の動きに合わせて上下に揺れた。


( ^ω^)「……もう、夏も残りちょっとですお」

僕は遠くを見つめながら、これまでのことを思い出す。
思えばいろいろなことがあった。
そのすべてが、懐かしくて、優しかった。

('A`)「あぁ、盆も過ぎたしな。それがどうかしたのか?」

( ^ω^)「僕は、決めたんですお」


( ^ω^)「――――この夏が終わる前に、ツンに告白しようって」



104: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 22:01:27.16 ID:i1nggAI80
僕は、決意を口にした。
口にすることで、曖昧な予定がこれから起こる事実に変わったような気がした。


('A`)「ほぉ……」

ドクオさんがにやつく。

(;^ω^)「ちょっ、本気ですお!」

('A`)「分かってる、分かってるってwwwwww」

(;^ω^)「じゃあ何で笑ってるんですかお!」

('A`)「いやいやいやwwwwwそりゃあなwwwwwww」


僕は慌てながらドクオさんに言い寄った。
きっと今、僕の顔は真っ赤になっているだろう。



108: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 22:03:23.81 ID:i1nggAI80
ようやく笑う事を止めたドクオさんは、真剣な顔つきに戻った。

('A`)「……まっ、お前がマジだってことは顔見りゃよく分かるぜ」

(;^ω^)「おー……」

僕はちょっとだけ、からかわれたような気持ちになった。
だけどドクオさんは、ちゃんと僕の言葉を真正面から受け止めてくれていた。


正午を過ぎて、ますます暑さは増していく。
僕は話を続けた。

( ^ω^)「それで、ドクオさんの意見を聞きたくて……」

('A`)「俺から言うことなんてねぇよ。全部お前次第だ」

('A`)「お前の気持ちを伝えられるのは、お前だけだからな」



110: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 22:06:13.18 ID:i1nggAI80
( ^ω^)「それじゃ、お邪魔しましたお」

話を聞いてもらった僕は、すっきりとした面持ちでさよならを言うことにした。
ドクオさんの家を一歩出ると、蒸し暑くてすぐに汗が噴き出した。

( ^ω^)「お昼まで頂いて、本当にありがとうございましたお」

川 ゚ -゚)「礼には及ばんぞ。飯ぐらいいつでも御馳走してやる」

( ^ω^)「ドクオさんも、僕の話を聞いてくれてありがとうございましたお」

('A`)「おぅ、がんばれよ」

川 ゚ -゚)「何があったかは知らんが……またあとで教えてもらうぞ、ドクオ」

('A`)「へいへい、一から十まで喋りますよ」

(;^ω^)「できれば秘密にしておいてほしいお……」



112: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 22:08:25.97 ID:i1nggAI80
( ^ω^)「それじゃ、バイバイですおー!」

僕は手を振り、二人に別れを告げる。
二人が小さく手を振り返しているのが見えた。


僕はまた、海沿いの道を歩いていった。
行きと同じように、お気に入りの歌を口ずさみながら。

( ^ω^)「いふあいくっ、ふぁーいんでゅーなーう♪」

開放感溢れるサビのメロディー。
青い海と太陽にぴったりの曲調だ。

僕は、歌詞の意味を思い出す。



113: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 22:11:01.11 ID:i1nggAI80
If I could find you now, things would get better.
(もし今君を見つけられたら、何もかも良くなっていくのに)

We could leave this town, and run forever.
(この町を離れても、僕たちはいつまでも走り続けられた)

I know somewhere, somehow, we'll be together.
(どこかで一緒になることは、なんとか分かっている)

Let your waves crash down on me, and take me away, yeah.
(君の波を思いっきり浴びせて、僕を連れて行っておくれよ)



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