( ^ω^)と夏の日のようです
- 3: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:11:18.55 ID:md+Pbzs90
- 『( ^ω^)と夏の日のようです』 第十六話
僕がツンに想いを告げてから二日。
その間、二人が口を聞くことは一度もなかった。
廊下ですれ違う度に気まずい空気が流れる。
なるべく目を合わさないように、伏し目がちにして横を通り過ぎる。
……だけどツンがそうなのではなく、避けているのは僕の方。
食事の時はいつも隣同士だったのに、臆病な僕は違う位置に座るようになった。
本当は、答えをちゃんと言うようにツンに要求すべきなのかも知れない。
だけど僕には、そんな事をする勇気はもう残されていなかった。
悲しくて、悔しくて、死んでしまいそうなほどの憂鬱は不思議と感じなかったけれど、
僕はただ、自己嫌悪に陥っていた。
あんなに逃げないと誓ったのに、僕はまた辛い現実から逃げてしまっていた。
- 5: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:13:50.79 ID:md+Pbzs90
- ひとつ、奇妙な点がある。
僕はあの日以来、肌身離さず付けていたペンダントを外した。
それが重くて、苦しくて、自分の首を絞めているように感じたからだ。
だけどもツンは、今もペンダントを首からぶらさげ続けている。
僕は訳が分からなかった。
そういうものなのだろうか?
あの時の事は思い出なんかじゃなくて、ただの一瞬の出来事だったのだろうか?
……僕は、嫌われたんじゃなかったのか?
でも今となっては、聞くこともできない。
あの日から三日目の昼下がり。
僕は時間帯を少しずらして、今日も日課の散歩に出掛けた。
いつも見ていた景色も。
いつも歩いていた道も。
今の僕の目には、寂々として見えた。
- 8: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:16:28.41 ID:md+Pbzs90
- (*゚ー゚)「お兄ちゃん、おかえりー」
散歩から帰ると、玄関でしぃが出迎えてくれた。
( ^ω^)「ただいまだお」
僕は精一杯、いつも通りに振る舞おうと努める。
(*゚ー゚)「……お兄ちゃん、ふられたからって気にしちゃダメだよ?」
( ;ω;)「うぅ……しぃは優しいお……」
……とはいえ、もうしぃにはバレていた。
態度がどこか普段と違うことを見抜かれて、その理由を尋ねられた。
僕はお茶を濁そうとしたが、そうはしぃが許すはずもなく。
結局、洗いざらい、一切合切を話す羽目になった。
僕の話を聞いている間、しぃはいつになく真剣な表情をしていた。
でも、口にしてしまうことでほんの少しだけでも心が晴れたのは事実で、
僕は話を聞いてくれたしぃに、感謝していた。
- 9: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:18:56.11 ID:md+Pbzs90
- (*゚ー゚)「……あのね、ちょっと提案があるんだけど」
( うω;)「おっ? 何だお?」
(*゚ー゚)「今日はね、私がお兄ちゃんとデートしてあげる!」
(;^ω^)「……はひぃぃぃぃ!?」
(*゚ー゚)「……だって、お兄ちゃんずっと寂しそうだったから……」
(*゚ー゚)「お姉ちゃんの代わりに、私が一日彼女になってあげるね」
(;^ω^)「mjsk?」
あまりにも突拍子な申し出。
ふられた相手の、妹@12歳とデート。
( ^ω^)「(……これなんてエロゲ?)」
という率直な感想が頭の中に浮かぶ。
それに、今の僕の心境を考えればこんなことはとても言える筈はないだろうに。
……でも、しぃはしぃなりに僕を慰めようとしてくれているのだろう。
塞ぎ込んで、またここに来る前の自分に戻りかけていた僕に、もう一度チャンスをくれている。
僕はその気持ちが嬉しくて、しいの提案に喜んで賛同した。
- 10: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:21:06.95 ID:md+Pbzs90
- デートと言っても何のことはない。
特に開けた町に出掛けるでもなく、僕たちは海を目指して山道を下りていった。
目に映る、青い海、青い空、青い風、青い緑。
――――僕には悲しみの色としか捉えられなかった。
そんな沈んだ気分を和らげてくれたのは、隣にいてくれる少女。
僕はしぃの歩幅に合わせて、ゆっくり、ゆっくりと下りていった。
(*゚ー゚)「もう、夏も終わっちゃうね」
( ^ω^)「おー、あと少し九月になって、秋が訪れるお」
(*゚ー゚)「夏が終わっちゃったら、お兄ちゃんも帰っちゃうんだよね……」
( ^ω^)「……そうだお。僕がこっちにいるのも、あと少しだけだお」
(*゚ー゚)「うん、だから……」
(*゚ー゚)「今日はいっぱい、思い出作ろうね!」
- 12: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:23:37.09 ID:md+Pbzs90
- 山を下り、海沿いを進み、海岸を目指す。
長くて、暑い道のり。
そんな道程を、僕たちはゆるやかなペースで歩いていった。
( ^ω^)「やっと海に到着したお!」
目の前に広がる大海。
太陽で熱された白い砂浜。
静かに響く波の音。
鼻をくすぐる潮風の香り。
頭で捉えきれないほどの堂々たる光景。
僕は全身で海を感じていた。
(*゚ー゚)「私、今年海に来るのは初めてなんだ」
( ^ω^)「僕も、こうして海浜に来たのは初めてだお。やっぱり海はいいものだお」
(*゚ー゚)「うん、夏が終わる前に、来られて良かった……」
しぃがきらきら光る海面を見つめる。
押しては返すさざ波の音色が、心の奥底にまで沁み渡った。
- 13: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:26:25.31 ID:md+Pbzs90
- 僕たちは砂浜に腰を下ろして海を眺めていた。
ここに着いた時には既に4時過ぎ。
まったりとした空気が漂う中で、僕としぃは談笑した。
(*゚ー゚)「落ち着くねー」
( ^ω^)「まったくだお……こうして眺めているだけで、穏やかな気分になれるお」
(*゚ー゚)「本当だね……」
海はすべてを優しく包んでくれる。
母なる海とは、昔の人は上手い事を言ったものだ。
僕はそんな雰囲気に乗せられて、身も心も遠くに預けてしまいそうになった。
太陽はだんだん落ちてきて、暑さも薄らいでいく。
昼間あれほど目立っていた日差しも、もうどこかへ消えていってしまった。
- 15: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:28:49.80 ID:md+Pbzs90
- 腕時計にちらりと目をやると、とうに5時を過ぎているのが分かった。
もうすぐ、海へと沈む夕日が見られるだろう。
僕たち二人はその時を待った。
真っ赤に燃える太陽が水平線へと消えていく。
その景色が訪れる瞬間を、安らいだ表情で、のんびりと待ち続けた。
やがて辺りが茜色で染まる頃。
ゆっくりと沈んでいく夕日が、僕たちの目の前に現れた。
( ^ω^)「……」
(*゚ー゚)「……」
赤い光が、深い青をたたえていた海を覆う。
吸い込まれそうな程真紅に輝く夕日が、大海原の彼方に沈んでいく。
夕焼け空は、茜雲を携えて悠然と広がっていた。
僕たちはただそれを眺めるだけで。
言葉に出来ないほど美しい光景の中に溶け込んでいた。
- 16: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:31:03.27 ID:md+Pbzs90
- (*゚ー゚)「……ねぇ」
絶景に見とれる僕に、しぃがそっと話しかけてきた。
(*゚ー゚)「この夕日が沈むと、今日が終わっちゃうんだね」
( ^ω^)「……そう、だお」
(*゚ー゚)「……最近、どんどん一日が早くなってる気がするの」
しぃが呟く。
(*゚ー゚)「どんどん、夏の終わりが迫ってきて……」
その声はどこか寂しげで――――。
(* ー )「……お兄ちゃんも、思い出になっちゃうんだよね……」
何かを隠しているように思えた。
- 17: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:33:25.64 ID:md+Pbzs90
- 目を伏せるしぃ。
何気ない会話の中に潜む想いが、言葉の節々から滲み出ている。
(* ー )「……お兄ちゃんは……」
……しぃはそこで顔を上げ、僕の目をじっと見た。
(*゚ー゚)「……お兄ちゃんは、まだお姉ちゃんのことが好きなの?」
(;^ω^)「っ!?」
僕ははっと息を飲む。
心臓が飛び出しそうなほど大きく揺れた。
(*゚ー゚)「……きっと……まだ、好きなんだよね……」
再び寂しげに呟くしぃ。
何度も何度も、その言葉が僕の中を駆け巡る。
夕日は、今にも沈み切ってしまいそうな程に、その姿を海に隠していた。
- 19: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:35:43.45 ID:md+Pbzs90
- ……僕は考える。
僕はよく分らないままにツンにふられた。
返事は無かったけれど、恐らくそうなんだろう。
だけど、ちゃんとした答えを貰えるまでは諦めきれない自分がそこにいて、
正直な自分の気持ちを、胸の奥にしまい込んでいた。
僕はジーンズのポケットに触れる。
毎日身に付けていた、星を模ったペンダント。
あの日から、僕はペンダントを外した。
だけども僕は。
今もそれを、ポケットの中にしまい込んでいる。
――――僕は。
――――僕はまだ。
( ^ω^)「……ツンのことが、好きなんだお」
- 21: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:38:29.40 ID:md+Pbzs90
- (*゚ー゚)「……」
しぃは黙ったまま、夕日を見ている。
その遠くを見つめる横顔が、とても印象的だった。
(* ー )「……ずるいよ……」
しぃの漏らした声が、かすかに聞こえた。
(*;ー;)「……ずるいよ……お兄ちゃん……」
(;^ω^)「ちょっ、い、いきなりどうしたんだお!?」
一瞬の沈黙の後、しぃが急に泣き出した。
あまりに突然だったので、僕は狼狽して何を言うべきなのか分からなかった。
しぃの涙は夕焼けの明かりを受けて、ぽろぽろと流れ続ける。
僕はただ、しぃの言葉を辿るだけだった。
- 22: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:41:18.73 ID:md+Pbzs90
- しぃが秘め事のすべてを、一気に吐き出す。
(*;ー;)「……私ね、お兄ちゃんが来るって聞いた時、凄く嬉しかったんだ」
(*;ー:)「お兄ちゃんが出来るんだと思って、凄く、どきどきしてたの」
(*;ー;)「……それでね、久しぶりに見たお兄ちゃんは……」
(*うー;)「遠い昔の思い出よりも、ずっと、ずっと格好良かった」
流れる涙はそこで止まった。
僕は黙って、顔をそむけずに聞いていた。
(* ー )「……それに、何年も会ってなかった私に、お兄ちゃんは優しくしてくれて……」
(* ー )「私も、そんなお兄ちゃんに甘えちゃって……」
(*゚ー゚)「……私は……私は、お兄ちゃんのことが、好きになっちゃたんだ」
そう言ってしぃは僕を見つめ返した。
僕は動揺して、目を逸らしてしまいそうになる。
瞳の奥に灯る想いが、こうして目を合わせているだけでも伝わってきた。
- 23: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:43:24.18 ID:md+Pbzs90
- (* ー )「……だけど……」
再びしぃが目を伏せる。
(* ー )「……きっと、お兄ちゃんは私みたいな子どもの話なんか聞いてくれないだろうから……」
(* ー )「……私は……その気持ちを、ずっと我慢してたの」
しぃが、ぎゅっと拳を握る。
手の甲には、零れ落ちた涙の跡がありありと残っていた。
(* ー )「それに……お兄ちゃんが、お姉ちゃんを好きなことも、分かってたから……」
(* ー )「……私なんか、相手にしてくれないと思ったんだ」
隠していた想いが、潮風に紛れて僕の耳に届く。
それは叶うことのない夢のように儚くて、一言ごとに僕の胸を締め付けた。
- 24: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:46:15.62 ID:md+Pbzs90
- (* ー )「……でも、お兄ちゃんがお姉ちゃんに返事を貰えなかったって聞いて……」
(* ー )「……その時……私は……」
しぃの声が震える。
まるで、言葉にすることを恐れているかのように。
(* ー )「……私は、チャンスだ、って思ったの」
うつむいたまま、自分を責めるようにそう言った。
赤く染まったしぃの髪が、風でさらりと揺れて、僕の胸の奥をくすぐる。
僕はしぃの独白を、真っ白な頭の中で噛み締めながら追っていった。
(* ー )「今なら……今ならお兄ちゃんの気を惹けるって……」
(* ー )「お兄ちゃんの気も考えないで……そんな風に思ってデートに誘って……」
(*;ー;)「……本当に、私って最低な女の子だよね……」
- 26: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:48:22.78 ID:md+Pbzs90
- まだあどけなさの残る少女。
その裏に潜む想いは、あまりにも利己的で、あまりにも残酷で、
あまりにも、純粋過ぎていた。
(*;ー;)「……でもっ! ……お兄ちゃんは……っ!」
(*;ー;)「……やっぱり、まだお姉ちゃんのことが好きなのっ!」
(*;ー;)「……私なんかじゃ……勝てないの……っ!」
- 28: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:50:45.48 ID:md+Pbzs90
- 僕は言葉を失った。
何の慰めの言葉も掛けられず、ただしぃの顔を見つめて謝るだけだった。
(;^ω^)「……ごめんだお……全然気付いてあげられなかったお……」
(*;ー;)「謝らないでよ……ずるいよ……」
(*;ー;)「……そんな風に優しくするから……嫌いになんてなれないの……っ!」
しぃが僕に抱き寄る。
熱い涙がシャツをじゅんと濡らして、熱い想いが心にまで響く。
まだ沈み切らない夕日。
最後の最後まで、この世界を熱く、熱く照らしていた。
- 29: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:53:11.78 ID:md+Pbzs90
- しぃが泣き止むまで、僕は胸を貸し続けた。
想いを叶えてあげられなかった僕には、これが精一杯のことだったから。
(*うー;)「……うっ……でも……もう分かってるの……」
(*;ー;)「……私が……本当にお兄ちゃんのことを想っているなら……」
(*;ー;)「……お兄ちゃんの恋を、優先するべきだって……」
しぃが顔を上げる。
真っ赤に腫れた瞼は、夕焼けよりも悲しく、愛しい赤をしていた。
(*;ー;)「……どんなに好きでも……お兄ちゃんは、私なんか……」
( ^ω^)「しぃ、それは違うおっ!」
(*;ー;)「っ!?」
僕は思わず大声を上げ、しぃがびくっと反応する。
受け止めた想い。
……僕は、その想いに答えなくちゃいけないんだ。
- 32: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:57:09.03 ID:md+Pbzs90
- ( ^ω^)「……確かに、僕はまだツンのことが好きだお」
( ^ω^)「だけど、しぃのことも大好きだお!」
( ^ω^)「それはツンに対する『好き』とは違うけれども……」
( ^ω^)「しぃの気持ちは、ちゃんと受け取ったお」
( ^ω^)「……僕は、伝えてくれた想いが嬉しかったお」
そう言って、しぃをぎゅっと抱き寄せる。
(*うー゚)「……っ!?」
( ^ω^)「やっぱり、ツンのことを忘れられないから……こんなことしかできないけど……」
( ^ω^)「……僕は出来る限り、しぃの気持ちに答えてあげたいお」
……こっちに来る前なら、こんな事はできなかっただろうな。
だけど今ここにいるのは、変わり始めた自分。
真っすぐで、正直で、前向きなかつての自分の姿。
僕は今再び、それを取り戻せたような気がした。
- 33: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/28(土) 23:59:39.26 ID:md+Pbzs90
- しぃのすすり泣く声が耳に突き刺さる。
こうしているだけで、僕は心を引き裂かれそうになる。
(* ー )「……やっぱり、お兄ちゃんはずるいよ」
(* ー )「こんなにも優しくて、あったかいのに……」
(*゚ー゚)「……諦めるしか、ないんだもん」
その体勢のまま、何分が過ぎただろう。
しぃがようやく泣くのを止めて、笑顔を見せた。
- 36: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:03:16.29 ID:7IZKqER00
- (*゚ー゚)「……初恋って、叶わないって本当だね……」
( ^ω^)「……しぃ、ごめんだお」
(*゚ー゚)「……だけど、お兄ちゃんはきっと上手くいくよ」
(*゚ー゚)「お姉ちゃんのこと、諦めないでね」
しぃは顔を近づけて――――
(;^ω^)「おぉっ!?」
――――僕の頬にそっとキスをした。
僕の顔が燃える夕日よりも紅くなる。
(*゚ー゚)「私、応援してるからっ!」
- 38: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:05:28.61 ID:+xDvCRSJ0
- しぃは勢いよく立ち上がり、茜空を背景に微笑む。
これまでとはうってかわって、いつものような明るい声で語りかけてくる。
だけど、僕にはどこか無理をしているように感じられて、
その無垢な笑顔を見て、胸が張り裂けそうになった。
その言葉の裏には、どんな心情が隠されているのだろう。
僕にはそれを聞くことは、とてもじゃないけど出来なかった。
二人を見守っていた夕日は、もう居なくなっていた。
夜の帳が下りる前に、僕たちは家路につく。
波の音は静けさを増し、少しずつ白い砂を運んでいった。
帰り道、僕たちは手を繋いで歩いた。
握りしめたしぃの手は、暖かくて、切なかった。
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