( ^ω^)ブーンがネオファイターになるようです

6: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 15:57:33.44 ID:Z9CopG7U0

第二話「孤徹」


( ^ω^)「きたかお……」

ネオスを飲み込んでから七日後、ブーンのアパートの郵便受けに、
差出人は愚かブーンの名前と住所さえも書いていない一通の封筒が再び突っ込まれていた。

開け口を無造作に破き、中に入っていた一枚の手紙を引っ張り出す。
ついでにダウンジャケットのポケットから煙草を取り出して口に咥えながらライターで火を点ける。

目に沁みる煙を我慢しながら、折り畳まれていた手紙を広げた。


『 ブーン様。

 こちらネオファイト執行協会本部。ブーン様、ネオファイターにご登録頂き、誠にありがとうございます。
 第十二期ネオファイターの参加者数は、十人中、貴方を含めた九人という素晴らしい結果となりました。

 参加者数が九人に達したのはこれで二回目です。今回のネオファイターには期待が高まりました。
 九人で快く戦闘を行ってくれることを心から祈っております。

 では、最初にウェポンの説明をさせて頂きます。』



10: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:00:26.13 ID:Z9CopG7U0

『 まず、ウェポンには四つの型が存在します。
 
 一つ、打撃型。
 一つ、斬撃型。
 一つ、射撃型。
 一つ、幻竜型。

 そしてその中でも種類があります。
 打撃型に三種類、斬撃型に三種類、射撃型に三種類、幻竜型に一種類、計十種類。

 一つの型の中にもそれぞれの特性があり、どのウェポンが貴方の手元に来るかはランダムです。
 貴方に適したウェポンならば効率良く戦えることでしょう。

 しかし適したウェポンでなくても、戦術によってその効力は幾らでも伸ばすことが可能です。
 逆を言えば、適したウェポンでも戦術を間違えれば使えないということです。

 すべては貴方の戦術に掛かっています。貴方のウェポンに最も適した戦術を見つけ出し、
 戦闘を有利に切り抜けて優勝を目指しましょう。』

( ^ω^)「なんか、小学生の運動会のしおりみたいだお」

ずいぶんと危険な運動会だな、なんて思いつつ、続きを読む。



12: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:02:13.07 ID:Z9CopG7U0

『 それでは、貴方のウェポンを発表致します。
  ブーン様、貴方のウェポンは打撃型。



  真名を――【孤徹(こてつ)】



  このウェポンが貴方に適していることを願っております。
  本日より三十日間でネオスを参加者数分、つまり合計で九個のネオスを集めた時点で優勝です。

  しかし期限内に誰もネオスを九個集められなかった場合、優勝者は無しとみなされ、
  ネオスは自動的に体外へ排出される仕組みになっています。

  それでは、貴方の健闘を祈り、これで終わりとさせて頂きます。

  次回は、参加者数が五人にまで減った際に追って通知致します。

                                   ネオファイト執行協会本部 』



13: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:04:36.85 ID:Z9CopG7U0

煙草の煙を肺に入れ、ゆっくりと吐き出す。
無風の部屋を白い煙が漂う。

取り敢えず、呼んでみようと思い、ブーンはその真名を口にした。

( ^ω^)「……――孤徹」

一瞬だった。

部屋を漂っていた煙がぐにゃりとその形を変え、まるで空間そのものが歪んだように辺りの景色が捻じ曲がる。
すべてが一箇所に凝縮され、やがてその凝縮された物質が形を創るために動き出す。

空間の歪みから緑色の小さな光があふれ、それが一つ一つブーンの両腕に集まり、その形体を具現化させる。

肘より少し下の腕の部分にズシリと重い感覚が伝わり、気づいたときにはそれが装着されていた。

( ^ω^)「これが……僕のウェポンかお」

鈍く輝く漆黒の形体。

海老の甲羅のような鋼が五枚ずつ重なり合って構成されており、腕を曲げるとガチャリと音を立てて動く。
それが両腕に違和感無く装着されている。

二体一対の鉄甲。真名を孤徹。それが、ブーンのウェポン。

この瞬間を持って、ブーンは正真正銘のネオファイターとなった。



16: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:06:43.44 ID:Z9CopG7U0

――消えろ、と念じる。

具現化されたのと同じくらい唐突に、それは緑色の粒子の光となって消えた。

( ^ω^)「出したい時に出せるのかお。こりゃ便利だお」

両腕をまじまじと見つめながら、ブーンは携帯電話を出す。
ボタンを押し込んで呼び出しを開始。ドクオは、四回目の呼び出し音の後に出た。

('A`)『……もしもし?』

( ^ω^)「……ドクオかお?」

それっきり、しばらく二人は無言だった。
やがてブーンが言う。

( ^ω^)「手紙、届いてたかお?」

('A`)『届いてた』



17: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:08:48.47 ID:Z9CopG7U0

また無言。そして沈黙。
今度は、ドクオだった。

('A`)『俺は斬撃型。ブーンは?』

( ^ω^)「僕は打撃型だったお」

('A`)『そっか』

( ^ω^)「うん」

今度の沈黙は、長く続いた。

電話をした要件はお互いわかっていて、言いたいこともわかっている。
だけど切っ掛けがない。どうやって切り出していいのかがまったくわからない。

これは紛れもない現実で、自分は後戻りできない電車に乗っていて、そしてネオファイターになった。

それは、果たして幸か不幸か。
答えはどちらなのだろう。いや、答えはもう出ている。だって。



20: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:11:11.95 ID:Z9CopG7U0

(*^ω^)「うおおおお――――――っ、すっげえぇえお―――――――――――――っ!!」

('∀`)『マジでっ!! マジでネオファイターになれたんだよおれたちっ!! 何だこれ、ありかよこんなのっ!!』

互いがその真名を呼ぶ。

(*^ω^)「「孤徹っ!!」

('∀`)『風靭(ふうじん)っ!!』

一度は消滅したはずのブーンのウェポンが再構築される。

今度はさっきよりも速いような気がする。空間が歪んで、漆黒の鉄甲はブーンの両腕に装着された。

受話器の向こうでも何かが起こった気配が伝わってくる。
姿は見えない。だけど、ドクオの手にも斬撃型のウェポンが握られているのは確かだった。

('∀`)『ブーンのウェポンってどんなの?』

( ^ω^)「僕のはあれだお、ほら、鉄甲っていうのか、そんな感じのが両腕に付いてるお。ドクオは?」

('A`)『斬撃型って言うだけあってそのままだよ。日本刀に似てる刀が一本だけ』

( ^ω^)「めっちゃ格好良くないかお!?」

('∀`)『……めっちゃ格好良い』



21: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:13:09.92 ID:Z9CopG7U0

必死に口調を抑えようとするものの、それを上回る勢いで感情が昂ぶっている。
夢のような光景が現実に訪れたこの瞬間は、まさに最高と呼ぶに相応しかった。

何もかも上等だった。
ネオファイター同士の戦いなどすべて無傷で勝てる自信がある。

――――この孤徹に勝てるヤツなど、ただの一人も居はしない。

両腕に装着されているウェポンは、それほどまでに神々しくて、それほどまでに禍々しかった。

( ^ω^)「おっしゃ! 早速、他のネオファイターを探すお!」

しかしそれを、ドクオは制する。

('A`)『やめた方がいい。まだ早い』

( ^ω^)「どうしてだお?」

これから話すのは真剣は話だから黙って聞いて、とドクオは続けた。



23: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:15:54.25 ID:Z9CopG7U0

('A`)『ネオファイター同士の戦いっていうのがどういうのなのかはわからない。
    たぶん誰も知らないと思う。だからまず、このウェポンを徹底的に調べなくちゃならない。
    そして調べたら、今度は徹底的に訓練する。どうすればこれを最も有効に活用できるのか。
    それをまず理解しなくちゃたぶん勝てない』

(;^ω^)「お……」

('A`)『それに紙にも書いてあっただろ? 一つの型の中にもそれぞれの特性があるって。
    つまり、打撃型なら殴るだけ、斬撃型なら切るだけ、っていうそんな単純なことだけじゃないってことさ。
    まぁ、それでもブーンが早速戦闘に行くならいいよ。最後に笑うのは俺だから。返答は如何に?』

こいつはやっぱ秀才君なんだよな、とブーンは思った。
そしてこういう場合、熱血系の馬鹿よりは慎重系の秀才の意見の方が正しいのである。

それが全部だとは言わない。
ただ、ドクオの言っていることはこれ以上ないくらいにわかる



26: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:17:48.72 ID:Z9CopG7U0

( ^ω^)「わかったお。僕もドクオの話に乗る。
       一応言っとくお。忠告ありがとうだお」

通話口の向こうでドクオが笑う。

('A`)『どうってことないよ。だた、やっぱりブーンとは最後に戦いから。
    それまで生き残ってくれないとおれが困る』

( ^ω^)「その考え、後悔させてやるお」

('A`)『無理だね。おれが絶対に勝つから』

( ^ω^)「上等だお!」

電話越しに考えることは同じ。

――――最後に勝つのは、このおれだ。

長年の付き合いだからこそわかる。
最後の戦いになるまで、必ず二人は生き残る。



28: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:19:15.73 ID:Z9CopG7U0

そして存分に戦おう。
遠慮したらその時点でぶっ飛ばす。

友達だから、などと甘ったれたことを抜かしたらその時点で死刑である。

残りの七人のネオファイターなど眼中にはない。

ただそいつらは最後に戦う相手のための練習台だ。存分に楽しもうではないか。

人生という名のレールの上で、イレギュラーで起こったこのイベントを、楽しもうではないか。


――――なあ、戦友。共に最後まで生き残ろう


ブーンは孤徹を見ながら、ドクオは風靭を見ながら、電話越しにそう誓い合った。

戦いの狼煙は、ここに上がる。



30: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:21:09.53 ID:Z9CopG7U0

('A`)『……そういや、一つだけ気になる所があるんだ』

( ^ω^)「気になる所?」

('A`)『そう。届いた紙を見て。どこか変な所ってない?』

テーブルの上に置いてある手紙を手に取る。
流し読みをしてみるがどこにもおかしな点はないと思う。

( ^ω^)「お……?」

ふと、ある単語が目に留まった。

('A`)『気づいた?』

( ^ω^)「気づいたお。これだお、型の四種類」

ビンゴ、とドクオが笑う。

('A`)『そう、それだ。大まかに言うと打撃型は殴る、斬撃型は切る、射撃型は撃つ。――じゃあ、幻竜型は?』
    幻竜型。それは一体どんなウェポンなのか』

名前から察することができる他のウェポンの型とは明らかに違う。



32: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:23:19.25 ID:Z9CopG7U0

( ^ω^)「しかも幻竜型っつーのだけ一種だお。レアモンなのかお? これ」

('A`)『わからない。だけど、最も注意しなくちゃならないのがこの幻竜型だと思う。
    想像できないのがいちばん恐い』

確かにそうだろう。
他の三つの型は想像できる。

打撃型はブーン自身が持っているのでこれからの訓練でさらに深くわかるだろう。
斬撃型もドクオが持っているので大まかなことはわかる。
射撃型も銃とかを想像すれば最も近いはずだ。

しかし、幻竜型だけは想像できない。
名前だけを見れば幻の竜。だが竜のウェポンって何だ?

まさか本物の竜がウェポンって訳ではあるまい。

( ^ω^)「……だけど、関係ないお。来るものは全部ぶっ倒せばいいんだお!」

ドクオが苦笑する。

('A`)『まあそうなんだけどね』



35: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:27:39.46 ID:Z9CopG7U0

( ^ω^)「それじゃ、僕はこれからしばらく訓練に没頭するから連絡を取るのはナシだお」

('A`)『それがいいね。次に連絡を取るのは……そうだね、どっちかが負けたときと、
    残りが五人になって通知が来たとき。これでどう?』

( ^ω^)「把握だお。それじゃあ、僕が優勝するこの本戦を大いに盛り上げてくれお」

('A`)『それはこっちの台詞。じゃあね』

そうして通話は切れる。

沈黙した携帯電話をテーブルの上に置きながら、ブーンは孤徹を見つめる。

この腕に装着されている漆黒の鉄甲、孤徹を理解しよう。
そして徹底的に訓練して最強のウェポンにしてやろう。

ドクオに後悔させてやろうではないか。

自分を止めたその愚かしさを。
自分に忠告したことがどれだけ己の不幸になるかを。

それを、思い知らせてやる。勝負だ。
どちらが本当に最強のネオファイターになれるか。
最後に笑うのはどちらか、ガキの頃から勝負の行方を、この舞台を持って決しよう。

( ^ω^)「よろしく頼むお、相棒」

第十二期ネオファイター同士の戦いの本戦が、こうして始まる。



36: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:29:26.33 ID:Z9CopG7U0





打撃型ウェポン、孤徹。

この孤徹の本質を、本戦開始から十日という時間をかけてじっくりと研究した。
まず、具体的な戦闘手段はそのままである。ぶん殴って相手を叩きのめす。

打撃型の典型的な攻撃手段だと思う。

もともと素手での喧嘩は得意分野だったブーンにとって、このウェポンは愛称が抜群に良かった。

(#^ω^)「おぉぉ――――!」

気合と共に、岩に拳をぶち当てる。
瞬間、轟音と共に岩は粉々に砕け散った。

(;^ω^)「やっぱ、半端ねー威力だお……」



38: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:31:18.40 ID:Z9CopG7U0

ウェポンを具現化したネオファイターは、身体能力が著しく向上する傾向にあるらしい。
それがどれほど上がっているのかを試してみた所、普通の人間なら死ぬようなことでも平気で行えた。

( ^ω^)「……さて、孤徹の特性も理解したし、そろそろ動くかお」

ブーンは他のネオファイターの場所を特定する方法を、吸収したネオスから察知していた。

( ^ω^)「……」

意識を集中する。
ブーンの頭の中に、レーダーのような物が思い浮かんだ。
漠然とだが、近くにいるネオファイターの場所を察知する。

( ^ω^)「とりあえず、これを頼りに動いてみるかお」

ブーンは、レーダーの指し示す方向へと歩き出した。



40: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:33:29.87 ID:Z9CopG7U0

――……

―…


( ^ω^)「ここだお……」

ビルでも建築しようとして途中で中止になって放置されたのか、
骨組みだけ組み上げられてビニールシートで覆い尽くされた汚い場所だった。

辺りに人の気配はなく、民家もない。

立ち入り禁止と書かれたフェンスを乗り越え、ビニールシートを破って骨組みの内部に入る。
天井が真上を向いて初めて見えるほど高く、四角に切り取られたそこから夜空が見えた。

ネオファイターを探しに出掛けたのが今日の午後三時くらいだ。
随分とまあ時間が経ったものだ、とブーンは思う。

そしてその天井の月明かりに照らされるそこに、一人の男が立っている。



41: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:34:52.19 ID:Z9CopG7U0
(´・ω・`)「……」

紺のスーツに身を固めた手に革の鞄を持っていて、七三分けで、ローファーを履いている。
どこからどう見ても会社帰りのサラリーマン風三十代前半の男だった。

ただ、雰囲気が普通のサラリーマンとは違う。
ブーンと同じように、誰かと存分に戦闘したくてうずうずしているような、そんな雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。

男もブーンと同じように、戦えるネオファイターを待っていたに違いない。
はっきりとわかる。この男は、ネオファイターである。

( ^ω^)「……おっさん、何してるんだお。こんなトコにいると危ないお」

男の視線がゆっくりとブーンに向けられる。にっこりと、男は笑う。

(´・ω・`)「そうかもしれないね。でも、それを言うなら君も危ないよ」

( ^ω^)「僕は別にそんなことねえお。だって、」

その言葉を、男は先に紡ぐ。

(´・ω・`)「ネオファイター、だから。だね?」

ブーンが笑い返す。



42: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:36:23.71 ID:Z9CopG7U0

( ^ω^)「おっさん、名前はなんていうお?」

(´・ω・`)「ショボン。見ての通りのサラリーマンだよ。君は?」

( ^ω^)「ブーン。フリーター兼――……ネオファイター。勝負しよう、ショボンさんよ」

ショボンと名乗ったサラリーマンが鞄を捨て、スーツの上着を脱いでネクタイを外した。
ショボンの目つきが険しくなって行く。

(´・ω・`)「手加減はしないよ。ぼくはね、望みを叶えなくちゃならないから。
       教えてあげよう。ぼくのウェポンは打撃型だ」

( ^ω^)「へえ、奇遇だお。僕もそうだお」

(´・ω・`)「そうか。それは……楽しみだねっ!」

ショボンが自らのウェポンの真名を呼ぶ。

(´・ω・`)「氣烈(きれつ)っ!!」



44: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:38:26.74 ID:Z9CopG7U0

その瞬間にショボンの手に緑色の粒子の光が湧き上がる。
それは真っ直ぐに集まってその形体を創り出す。

明らかに、同じ打撃型でもブーンとショボンのものは違った。
ショボンが手に持っているそのウェポン。それは、巨大なハンマーに近かった。

非力そうなサラリーマンが持つには余りに不釣合いな巨大なハンマーがぐらりと揺れて、
地面にぶつかった際に轟音を立てて土煙を舞わせる。

打撃型ウェポン、三種類の内の一つ。それが氣烈。

(´・ω・`)「どうした、早く君もウェポンを出したまえ」

( ^ω^)「上等だお」



45: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:40:05.70 ID:Z9CopG7U0

孤徹を試すのには持って来いのウェポンが相手である。
やはり、負ける気がしない。
ブーンはその真名をつぶやいた。

( ^ω^)「孤徹」

空間が歪み、そこから緑色の粒子の光があふれ出る。
その光がブーンの腕を覆い尽くし、闇に溶け込むかのような漆黒の鉄甲が二対一体となって具現化する。

この感覚はやはり最高だった。気分が透き通るかのようだ。
やはり我が相棒、打撃型ウェポン孤徹が最強だ。

クソハンマー如きに、負ける気がしない。

( ^ω^)「覚悟しろお、今すぐそれを――ぶっ壊す」

ショボンが少しだけ驚いた顔をする。



46: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:42:02.93 ID:Z9CopG7U0

(´・ω・`)「ほお。打撃型にはそんなものもあるのか。いや、奥が深い。
       ……けど、そんな陳腐な代物でぼくのウェポンを防ぎ切れると思わない方が、いいねっ!!」

ショボンの足が地面を弾いて宙に跳び上がる。
通常の人間では考えられない跳躍、オリンピック選手が見ても目を剥くような光景。

(´・ω・`)「ふんっ!!」

空中で体勢を立て直すショボンは、跳んだ反動で氣烈を背後に構え、全身全霊を込めた一撃を振り下ろす。

ブーンは姿勢を低くしてその一撃を避けた。
直後、先ほどまでブーンがいたそこがミサイルでも落とされたかのように爆発した。

それは、爆発と呼ぶに相応しい破壊だった。

土煙がもうもうと舞い上がり、宙に散っていた破片が雨のように降り注ぐ。

(´・ω・`)「せぇい!」

茶色い土煙が舞うその中で、ショボンは出鱈目に氣烈を振り回す。
氣烈が空を切る度に土煙は掃除機で吸われているかのように晴れていく。



49: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:45:07.28 ID:Z9CopG7U0

(´・ω・`)「どうした! ビビって手も足も出ないのかね!?」

やがて土煙が納まった頃、少し離れた所にブーンがいる。
ショボンはにたりと笑って再度跳躍する。

一撃必勝の氣烈の攻撃が繰り出され、それをブーンは目で追いながら避ける。
一撃でも食らえばそれだけ致命傷の攻撃を紙一重で避け続けた。

( ^ω^)「おっとっと、今のはちょっと危なかったお」

(´・ω・`)「ちょこまかと逃げ回りやがって……! 潰れろぉ!」

氣烈が空を切る度、地面を無意味に抉る度、ショボンの顔が焦りと共に狂気に歪んで行く。
焦りは冷静さを失わせ、狂気は戦術を奪い取る。

もはやショボンににすべては見えていない。

ハンマーを振り回すだけの単調な攻撃しか繰り出せず、
目の前のガキをゴキブリのように叩き潰す以外に何も考えられない。



51: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:46:50.18 ID:Z9CopG7U0

( ^ω^)「……」

そんなショボンを見ながら、ブーンは笑った。

ドクオの言う通りだ。
このショボンという男は、当初の自分と同じ考えを持っているに違いない。

ただウェポンの能力に魅入られ、必ず勝てるという自信。
それだけを頼りに、訓練は愚か氣烈の特性さえも理解せずにこの戦闘に望んでいる。

もしドクオがいなければ、自分もショボンと同じ道を辿っていたはずだった。

最大の戦友に最高の感謝を送ろう。
そして、こんな程度で自分に勝てると思っていた哀れなこいつに制裁を下そう。



64: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:52:35.61 ID:Z9CopG7U0

ブーンは、氣烈の一撃を避けるのをやめた。
その一瞬を、狂気に染まったショボンの眼は逃さずに捉えた。

(´・ω・`)「死ねぇぇぇぇぇ!」

奇声を発して氣烈の一撃を振り下ろす。
ショボンの考えでいけば、たった一撃さえ食らわせればそこで勝負が決すると思っていたに違いない。

そしてもしこれが他のウェポンなら勝負がついていたのだろう。

しかし、相手のウェポンが悪かった。孤徹には、そんなものは通用しない。

( ^ω^)「ふう……」

振り下ろされた一撃を、ブーンは左腕の鉄甲で受け止めた。
砕けた、とショボンは思ったはずだった。しかし鉄甲は砕けることはなく、
それどころか氣烈のハンマーは漆黒の甲羅に傷一つ付けることができなかった。

まるで鉄甲にそっとハンマーを置いたかのように、孤徹は氣烈の一撃を相殺していた。
静寂が辺りを包み込み、その中でただブーンだけが笑う。



68: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:55:41.40 ID:Z9CopG7U0

( ^ω^)「ショボンさんさ、ウェポンに特性があるって、知らないお?」

(´・ω・`)「――……は?」

( ^ω^)「それじゃ、僕には勝てねえお」

ブーンは右腕の鉄甲を固め、拳を握る。
孤徹の特性。それは、孤徹に触れた物理攻撃を完全に無効化させること。

木を孤徹で壊した際に、倒れてきたそれを受け止めて初めて気づいた。
攻撃面にはない守りにある特性。

孤徹で攻撃を受け止める限り、自分は無傷でいられる。

つまり相手の攻撃さえ孤徹で受け取れさえすれば、このウェポンは無敵なのである。
これさえ極めれば、ドクオにも勝てる――――。

そしてもちろん、このショボンにも。



70: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 16:57:28.83 ID:Z9CopG7U0

( ^ω^)「僕の、勝ちだお」

右の拳を全力でショボンの腹に叩き込む。

(´・ω・`)「キェッ……!?」

久しぶりに聞く、人を殴る音。
その一撃でショボンの体がぐらりと揺れ、眼から狂気が消え失せる。

ふらふらの足取りを何とか押さえ付けた際に氣烈が持ち上がる。
その一瞬でブーンは叩き込んだ拳を引き戻し、氣烈に狙いを定めて再度打ち出した。

それは、完全なる手応えがあった。

孤徹の鉄甲が氣烈のハンマーを粉砕する。
粉々に砕けた鋼は土煙のように舞い上がり、やがてその一粒一粒が緑色の光となる。

粒子が蛍のように漂い、それはゆっくりとショボンへと近づて行く。
立っていたままだったショボンの体が背後に倒れ、その上で粒子は舞い続ける。



71: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 17:00:20.59 ID:Z9CopG7U0

(´・ω・`)「……ち……畜生……こんな餓鬼に………」

ショボンの体の中からも、粒子があふれ出していた。
それは引き寄せられるように集まり、小さな球体を創り出す。

空中でその光が収まったとき、地面に一つの緑色をしたビー玉が転がった。

( ^ω^)「終わったお……」

それが、ショボンのネオスだった。
これでショボンは脱落者となる。

ブーンがそれを拾い上げると、ネオスはまたその形を崩して粒子となり、孤徹へと吸収されるように消えた。
それを確認した後、倒れるショボンを見つめる。

息はしてる。ただ気絶しているだけみたいだ。



72: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 17:02:23.18 ID:Z9CopG7U0

( ^ω^)「ふ、ふふふ……ハハハハハハ!! おおおおおおおおッ――――!!」

ブーンは、その場で再度笑い、腹の底から叫んだ。

手を広げて回りたいような気分だった。

ネオファイター同士の戦いが、ただ単純に楽しい。

最高だった。

もっと強いヤツと戦いたい、という欲求が胸の底から湧き上がってくる。
間違いないと思っていた考えが本当の確信に変わる。


――――僕は、強い。



73: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 17:04:20.70 ID:Z9CopG7U0

さて、ここにはもう用無しである。
今回はネオファイター同士の戦いがどれだけ楽しいか知れただけで十分だ。

( ^ω^)「家に帰って、初勝利祝いに茶漬けでも食うお」

ブーンが踵を返し、骨組みだけの建物を出ようとその一歩を踏み出して、
 

――――体の動きが凍りついた。


頭の中が真っ白になった。
しまった、そう思ったときにはもうすでに手遅れだった。

(*゚ー゚)「あ……」

月明かりに照らされたそこに、一人の少女が佇んでいる。
孤徹のような漆黒の髪を携えた、赤いロングコートを着込んだ十代前半と思わしき女の子だった。

それは紛れも無く一般人であり、そしてこの子にはショボンとの戦闘を見られてしまった可能性がある。
……いや、間違いなく見られた。

頭の中で色んな考えがごちゃ混ぜになり、収集がつかなくなっている。



74: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 17:05:32.47 ID:Z9CopG7U0

(;^ω^)「え、と。あの、これは……」

(*゚ー゚)「……ぃ」

瞬間、少女が、何事かを一言だけつぶやいた。

ブーンには聞こえなかった。
しかしそれは、間違いなく、少女のウェポンの真名だった。

(;^ω^)「なっ……!?」


空間が歪んだ。
ブーンから見えるすべての空間から緑色の光の粒子があふれ出す。

それは、氣烈の比でなかった。
もちろん孤徹とも比べ物にならない。

先ほどまで自分が思っていた『強い』という概念が一瞬で消え失せた。
武者震いではなく、恐怖で体が震え出す。
強いヤツと戦いたいとは思った。

しかし、これでは相手が強すぎる。こんなものに、勝てる訳がない。



75: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 17:08:13.26 ID:Z9CopG7U0

(;^ω^)「これは……!?」

粒子が集まったそこに現れたウェポン。
それは、冗談で思い描いていた、一匹の竜だった。

漫画の世界そのままだった。
見上げるほど巨大な真紅の竜が、燃えるような眼光でブーンを覗き込む。

彼女がつぶやいた言葉。それは、幻竜型唯一のウェポン。


その真名を――荒巻。


荒巻の口から突き出る牙が不気味に歪み、そして、

/ ,' 3「貴様が、勝者だな?」

ウェポンであるはずの荒巻が、口を聞いた。

そしてその視線が動き、ブーンの背後に横たわるショボンに向けられる。
しかしすぐにその目つきは不可解さに染まり、不機嫌そうに言う。

/ ,' 3「……憶えておけ小僧。ネオファイター同士の戦闘の場合、敗者は必ず」

荒巻に、躊躇いなど微塵も存在しなかった。

/ ,' 3「――――殺せ」



77: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 17:11:18.05 ID:Z9CopG7U0

何もかも貫けるような牙がずらりと立ち並ぶ荒巻の口が抉じ開けられる。
その奥底から、オレンジ色の光があふれ出す。

狙いは間違いなく、脱落者であるショボンに向けられていた。

その意味を、直感で理解した。

震える体を押さえつけ、真名を口にする。

(#^ω^)「孤徹――――ッ!!」

ブーンの腕に孤徹が具現化されるのと、荒巻の口から炎の弾丸が吐き出されるのはまったくの同時だった。
とんでもない速さの炎の弾丸とショボンを繋ぐラインを一発で見極めてそこに立ちはだかる。

両腕を重ね合わせ、炎の弾丸の軌道に孤徹を乗せる。
何かを思ってやったのではない。ただ、殺させはしないと体が自然と反応していた。



79: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 17:12:22.84 ID:Z9CopG7U0

(;^ω^)「おぉぉぉっ!!」

衝撃、などという生易しいものではなかった。

孤徹で無効化できるのは物理攻撃だけであって、炎の弾丸は物理攻撃ではなかった。
下手をすればこの時点で孤徹が砕けていたかもしれない。

もしこれが荒巻の全力の攻撃だったのなら、本当に砕けていたはずだ。

本気ではない攻撃なのに、それなのに、荒巻の炎の弾丸は、氣烈の一撃とは次元が違うほどの威力があった。
孤徹が砕けなかったのはまったくの偶然で、これが孤徹でなかったら自分は死んでいたに違いない。

/ ,' 3「面白いことをする。実に興味深い。立て小僧」

(;^ω^)「ぐ……」

立てるくらいなら言われる前に立つに決まっている、と声にならない悪態をつく。

全身に力が入らない。
これでまだウェポンが消滅しないのが不思議なくらいだった。



80: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 17:13:42.20 ID:Z9CopG7U0

漠然と頭が理解した。こいつが、幻竜型のウェポン。

ドクオ、お前の予想は当たってる。こいつに出会ったらお前でも勝てない。迷わず逃げろ。
だってお前、こんなの、反則じゃねえか。

拳を握り締める。悔しくて涙が出そうだった。

虚ろなブーンの瞳と、燃え盛る荒巻の眼光が噛み合う。
そして、荒巻が何かを言おうと口を開けた瞬間に、その顔が歪んだ。

/ ,' 3「む……?」

目の錯覚かと思った。
しかし間違いなく、荒巻の顔どころか、体全体が歪み始めている。

集まっていた膨大な量の緑の光の粒子が徐々に消滅していく。

荒巻が悪態を付きながら背後を振り返る。



81: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 17:15:38.05 ID:Z9CopG7U0

/ ,' 3「しぃ」

(*゚ー゚)「う……ぁ……」

地面にうつ伏せに倒れながら、ブーンは荒巻の視線を追う。

そこに、先ほどの赤いコートを纏った少女が蹲っている。
口元を手で押さえながら咳き込んでいるようにも見える。

そしてその体が、ゆっくりと倒れた。

それに比例するかのように、真紅の竜の消滅速度が速まる。
膨大な量の粒子は、確実のその数を減らしていた。

消えかかった荒巻の眼光がブーンに向けられる。
そこから、もうブーンは消えていくのにも関わらず、そんなことなど微塵も感じさせない殺気が迸る。

/ ,' 3「もしおれがいない間にしぃに何かしてみろ。そのときは【掟】を破ってでも」

/ ,' 3「貴様を、殺してやる」



83: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/16(月) 17:16:48.72 ID:Z9CopG7U0

その捨て台詞を最後に、荒巻の体が完全に消えた。

残されたのは未だ倒れたままのショボンと、敗北に近いダメージを負わされたブーン。
そして幻竜型ウェポンの荒巻を用いるネオファイターの少女だけだった。

その少女に、意識はないようだった。

どうやらネオファイターの意識が失われるとウェポンは消滅するらしい。
その御かげで命拾いしたという感が強く残った。

痛みを堪えて起き上がる。

(;^ω^)「…………どうしろっつーんだお、バーロー」

真上を向かなければ見えない夜空を仰ぎながら、ブーンは言葉を漏らした。



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