( ^ω^)ブーンがネオファイターになるようです

66: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:06:53

第三話「荒巻」


順を追って説明していこう。

ブーンは、荒巻のたった一撃の、しかも本気ではない炎の弾丸を受け一発で敗北に近いダメージを負った。
このまま死ぬんだろうなと思って諦めたそのとき、荒巻のネオファイターが倒れた。

それが原因で荒巻は消滅し、偶然が重なって運良くブーンは助かることができた。

その際になって初めて、ウェポンを具現化させている状態のネオファイターは
身体能力ではけではなく、自然治癒能力まで向上していることに気づいた。

一時は身動き一つできなかったダメージも、三十分もすれば一通りは動けるようになっていた。

(;^ω^)「この子、病気みたいなんだお。だから、そのまま見捨てて死んだら後味悪いなぁ〜って……」

('A`)「それで、救急車を呼ぶわけにも行かずアパートに連れ込んだのか」

ドクオの目からは「このロリコン」という視線が発せられている。



67: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:07:56

ドクオは、少女の赤いコートのポケットに錠剤の入ったプラスチックのケースを見つける。
何だかよくわからなかったが、取り敢えず適当に飲ませてやれ的な行動で少女にそれを飲ませた。

さらに悪化したらどうしよう、という不安はこれでもかと言うくらいにあった。
しかしその錠剤を飲ませて数分後、少女の容態が落ち着いた。

小さな寝息を立てながら、少女は深い眠りへと着いたのだった。

そんな少女を見ながら、ブーンは体から魂が抜けるような安堵を覚えた。
これで殺されずに済む、と一瞬でも思ってしまった自分を心の奥底に押し込んむ。

そして訳もわからずここに呼ばれ、如何にも命に関わるような容態の少女を見せられて
さらに意味がわからなくなってしまったドクオに、詳細を説明しようと試みた。

しかしその途中にとんでもない睡魔に襲われ、何かを思う間もなく意識は深い闇へと落ちてしまった。

目が覚めたのは窓の外に太陽が見えてからで、ぼんやりと部屋を見回してすぐそこにいたドクオを見つけた。
どうして僕の部屋にお前がいるんだ、と思うのも束の間、ドクオにこう言われたのだった。

('A`)「……で、結局この子って誰?」



68: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:09:01

――――

――


てな訳で、今現在ブーンは朝食を作っている。

朝食と言っても手の込んだものを作る気はさらさらになくて、そもそもそんなものを作れるほどブーンは器用ではない。
だから今日の朝食も、いつもと変わらないトーストとコーヒーだった。

漆黒の髪を持つ少女が一人、気持ち良さそうに寝息を立てている。
どこからどう見てもその少女は十二、三歳の子供であり、あの幻竜型ウェポンのネオファイターであるとは到底思えない。

まさかとは思うが、あの真紅の竜が実はネオファイターなのでした、などというオチではないのか。
もしくはあの竜がこの少女を操っているのではないのか。

突拍子もない思考がコーヒーと共に喉の奥に流れて消える。

( ^ω^)「――昨日、どこまで話たかお?」

トーストにマーガリンを塗りながら目の前のドクオに問う。

('A`)「……ショボンってネオファイターを倒したってトコまで」



69: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:09:40

そう答えるドクオの様子がどこかおかしい。
何か酷く疲れたような雰囲気がある。

( ^ω^)「ドクオ、顔色が良くないけど大丈夫かお?」

('A`)「その女の子とお前の看病に追われて寝てねえんだよ」

(;^ω^)「……正直すまんかったお」

ブーン自身がドクオの体調不良の原因だった。
気を取り直す。

( ^ω^)「まあいいお、それで、そのショボンを倒したまではよかったんだお。
       けど、そこから帰ろうとしたときにその子に会ったお。最初は一般人だろうって思ったんだお。
       どう言い訳しようか迷ってたら、いきなり現れやがったんだお」

('A`)「何が?」

( ^ω^)「幻竜型ウェポン」

ドクオの雰囲気が変わる。

コーヒーを持ったままドクオの真剣な視線がブーンから外れ、ベットに眠る少女に向けられる。
きっかりと五秒間、ドクオは少女を見つめていた。

やがてその視線がブーンに戻り、なるほどと肯いてコーヒーをテーブルに置く。



70: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:11:06

('A`)「つまりその子が幻竜型ウェポンのネオファイターって訳だ。
    で、ブーンはそのウェポンと戦って負けた。違う?」

( ^ω^)「……なんでわかったんだお?」

('A`)「わかるよ。おれが言ったでしょ、注意した方がいいって。他のウェポンの型と明らかに違う幻竜型。
    単純に考えればこれがいちばん強そうだしね。ただそれだけじゃない。
    もしブーンが勝ってたんならこの子をここまで連れて来ずに救急車でも呼んでるはずだ」

ドクオはコーヒーを一口のみ、続ける。

('A`)「でもブーンはここに連れて来た。
    救急車を呼んだらその子がネオファイターっていう異能者だとバレてしまうと考えたから。
    もしくはその子自身に救急車を呼ばないでくれと頼まれたのか、それともそうするしか道がなかったのか。
   ……一つだけ聞く。ブーンはまだ、ネオファイターだよね?」

( ^ω^)「当たり前だお」

ブーンはトーストを齧りながら答える。

('A`)「そっか。よかった。でも負けたのによくネオスを取られなかったね」



71: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:14:53

思い出したくはないが、答えねばなるまいと思う。

( ^ω^)「うん。でもただの偶然だったお。勝負は負けたお、これ以上ないくらい爽快に。
       その子のウェポン……幻竜型は冗談抜きで強い。いや、強いなんてもんじゃなかった。強過ぎるんだお。
       あんなモン相手にしてたらネオスが幾つあっても足りないって本気で思うお」

まくし立てるような早口のまま、続ける。

( ^ω^)「それでも僕が生き残れたのは、その子が倒れて気絶したからだお。
       だから竜のウェポンは消え、僕はネオスを奪われずに済んだお。
       あと少しでもその子が倒れるのが遅かったら、僕は間違いなく死んでたお」

もはや完全に開き直っていた。

あれは強過ぎるのである。それは間違いない。
それと戦って生き残っている自分が微かに誇らしくもある。

が、やはり心の奥底では悔しいという思いが拭い切れない。
次にもう一度やったら絶対に勝つ、などということは死んでも言えない。
しかし次にもう一度やったら昨日よりはマシな戦いができるとは思う。

それこそもっと自分が強くなり、孤徹を最強の、幻竜型をも超えるウェポンにまで成長させることができたのなら……
もしかしたら、同等の戦いができるかもしれない。



72: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:15:43

とにかく時間が欲しい。幻竜型に勝てるほど強くなるだけの時間が欲しかった。

トーストを頬張りながらそんなことを考えていると、ドクオが本日二度目のことを口にした。

('A`)「……で、結局この子って誰なの? 名前くらいは聞いたんだろ?」

口の中にあるものを飲み込み、コーヒーを一口、

( ^ω^)「いいや、知らないお。その子と喋った訳じゃないし。喋ったのはむしろ幻竜型ウェポンの方だお」

ドクオが怪訝な顔をする。

('A`)「待った、ウェポンが喋ったのか?」

( ^ω^)「喋ったお、バリバリに喋ってたお。その子に何かしたら殺すとまで言われたお。――あ」

ふと思い至る。
ブーンに向かって幻竜型ウェポンが殺すと言った際に、ベットで眠る少女の名前を言わなかったか。
いや、確かに言ったはずだった。気のせいではない。

しかしその肝心の名前がどうしても出てこない。
顔はわかるが名前が思い出せない映画俳優のように、喉の奥で何かに引っ掛かっているような気さえする。



73: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:16:14

( ^ω^)「……その子の名前、聞いたんだけど思い出せないお。何だっけかお?」

('A`)「おれが知る訳ないだろ」

ドクオが返答を拒否し、トーストに齧り付いたときに思わぬ所から答えが転がり出てきた。

/ ,' 3「しぃだ」

( ^ω^)「おお、そう、しぃだお、しぃ、思い出し――」

頭の中が真っ白になった。
気づいたときには、その真名を呼んでいた。

(;^ω^)「こ、こここ孤徹ッ!」

声が裏返った。それでも孤徹はその姿を具現化させる。

部屋の空間が歪み、そこから緑色の光の粒子があふれ出す。
瞬間的にそれがブーンの両腕に収縮され、漆黒の鈍く輝く二体一対の鉄甲がその姿を現す。

(;'A`)「お、おいブーン! どうしたっ!?」

ブーンはドクオの質問に答える暇などなく、即座に立ち上がり臨戦体勢に入る。
神経を集中させて鉄甲を目の前に構えながら声の出所を探る。



74: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:17:14

先の声は間違いなく、昨夜聞いた幻竜型ウェポンのものだった。
ベットで眠る少女が真名を呼んだのではない。
もしかしたら空耳かもしれないが頭の中の出来の悪いレーダーがはっきりと知らせる。

この近くに、幻竜型ウェポンはいる、と。

ならば外しかないはずだった。あの巨大な真紅の体がこの部屋に入りきるはずもないのである。

( ^ω^)「そこかおっ!」

ドクオの後ろにある窓にまで駆け寄って壊すような勢いで開け放つ。
冬の凍てつくような寒い風が部屋の中に吹き込んでくる。

ブーンは身を乗り出して辺りを見まわすが、雲が混じる青空と見慣れた景色以外は何もなかった。

('A`)「寒い寒い、何だよ外には何もいないって早く窓閉めてよ」

こいつ正気かと本気で思った。何もいないもクソもないのである。
この近くにあのウェポンがいるのは間違いない。それになぜ気づかない愚か者め。

お前はあいつの力を知らないからそんな悠長なことが言えるのだ。
一度対峙してみればあいつの強さが嫌でもわかる。声を聞いただけで緊張が体を駆け巡る。

気を一瞬でも緩めた瞬間にあの炎の弾丸が突っ込んで来るような気さえする。

( ^ω^)(しかし何をしに来やがったんだおあの野郎、まさか本当に僕を殺しに来たのかお!?)

今度は、ベットで眠る少女がくしゃみをした。その際に、その声が聞こえた。

/ ,' 3「窓を閉めろ。殺すぞ小僧」



75: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:18:19

(;^ω^)「……!!」

体が操り人形のようにその声に従った。
窓を全力で閉め、部屋の中を見まわす。

声は、この部屋の中から聞こえた。

だが部屋の中には真紅の竜の姿は当たり前のようにない。

(;^ω^)(どこだお、どこに居やがるんだお!)

そう思って必死に部屋の中に視線を巡らせていたブーンが、ついにドクオの視線に気づいた。

(;'A`)「あ……」

ドクオがコーヒー片手に口をもごもごさせながらどこかをじっと見据えている。
その視線を追う。そこには、ベットで眠る少女がいる。

出来の悪いレーダーがやっと勘付いた。奴は、そこにいる。

(*゚ー゚) 「ん……」

少女に掛けられた毛布がもぞもぞと動いた。
爆発的な緊張が生まれる。孤徹を構えたまま、いつでも突っ込んで行けるように姿勢を低くする。



76: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:19:28

/ ,' 3「ぬう……」

やがてブーンとドクオの視線が向けられるそこから、幻竜型ウェポンがその姿を現した。
大空を縦横無尽に駆け抜けるための翼。燃え盛るような眼光。閉じた口からなおも覗くすべてを貫く鋭い牙。

昨夜と変わらない幻竜型ウェポンが、そこにはいた。

(;^ω^)「……へ?」

が、たった一つだけ違うものがある。

そのたった一つが、決定的に違うものだった。
緊張感が一発で抜けた。


         _,,..,,,,_
        ./ ,' 3 `ヽーっ
        l   ⊃ ⌒_つ
         `'ー---‐'''''"


(;'A`)「…………ブーンさ、まさか『これ』に負けたの?」

ベットで眠る少女の顔のすぐ側に仁王立ちのように踏ん反り返っている竜を見て、ドクオがそう言う。

(;^ω^)「そのはず、なんだけど…………てゆーか待て、テメえ何モンだおゴラァ」



77: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:21:04

竜がその真名を口にする。

/ ,' 3「幻竜型ウェポン・荒巻。貴様等もネオファイターの端くれであろうが。そんなこともわからぬのか小僧共」

ブーンは孤徹を構えたまま荒巻を見つめ、ドクオは口の中にあったものを飲み込んでコーヒーを一口だけ啜る。


(;^ω^)「えぇぇぇぇぇ!?」


世界が、アホらしくなった。

今、ブーンの目の前にいるのは確かに昨夜戦った幻竜型ウェポン・荒巻である。

しかしその威圧感がまるで違う。
見ただけで荒巻との力の差を嫌と言うほど味わされたあの威圧感など今の新巻からは微塵も感じない。

あの圧倒的な威圧感はどこへ行ったのか。
絶対に勝てるはずがないと瞬時にブーンへと悟らせたあの殺気はどこへ消えたのか。

これが昨夜死闘を繰り広げた相手と同一など信じたくはないと頑なに脳が否定する。
ベットで踏ん反り返っている荒巻は、本当にちっぽけに思えるくらいに、小さくなっていた。

('A`)「生きたフィギュアみたいだな」

どちからと言われればそっちの方が納得できるような気もする。
荒巻は、どこぞのデパートでお手頃価格で買える値段の、怪獣フィギュアみたいに小さくなってしまっていた。



78: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:22:07

(;^ω^)(何だおこれ。こんな奴、今なら楽勝で――)

/ ,' 3「――勝てる。とでも思っているのか」

心の中で思っていたことを、先に荒巻に読まれていた。

圧倒的な威圧感が荒巻に宿る。

/ ,' 3「驕るなよ」

(;^ω^)「う……!!」


ブーンが一瞬で視線を向けたそこに、荒巻から迸る殺気を真っ向からぶつけられた。
部屋の空気が凍りつく。燃え盛る眼光から目を外せない。

外したその瞬間に殺されるような錯覚に陥る。
殺気にアテられたブーンの体から呆れるほどの汗が吹き出し、頭の中が揺れて息が詰まる。

荒巻に見られただけ。たったそれだけのはずだった。
しかしたったそれだけのことで、体の動きすべてを封じ込まれて愚かな考えさえも悉く抹消された。



79: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:23:01

荒巻が鼻で笑う。

/ ,' 3「貴様などこの姿でも十分過ぎる。身の程を知れ」

(;^ω^)「はぁ……はぁ……」

一瞬ですべての感覚が戻って来た。
頭が落ち着いて呼吸ができるようになり、吐気が遠のく。

先ほどまで自分が地底の奥底にいたような感覚に包まれている。
反則だろこんなの、と必死に息を整えながら悪態をつく。

('A`)「……」

部屋の中には荒々しいブーンの呼吸と、ドクオのコーヒーを啜る音と、そして少女の寝息が微かに聞こえている。

そんな中で、唐突に荒巻が言った。

/ ,' 3「腹が減った。小僧、何か食い物を出せ」

(;^ω^)「はあっ!? な、何言ってんだお!」

/ ,' 3「黙れ。二度は言わせるな」

(;^ω^)「……わ、わかったお」

反論は、できなかった。
負け犬は強者に尻尾を振って媚を売らねば生きて行けはしないのだということを、
今ほど実感したことはかつて無い。



80: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:23:45

ただ単純に、ベットで踏ん反り返っている小さな荒巻が恐かった。
格好付けて反論などしようものなら殺されるのだろう。

荒巻は、うるさいガキの一匹や二匹、簡単に殺してのけてしまうのだろう。
思考より早くに、感情を押し退けて理性がそう理解していた。

/ ,' 3「肉なら何でもいい。焼いて持って来い」

( ^ω^)「……ベーコンしかないッスけど」

/ ,' 3「それで構わん。早く行け」

ブーンは無言で立ち上がり、台所へと負け犬の風格で赴く。

その背後で、ドクオと荒巻の会話が自然と耳に入って来る。

/ ,' 3「……貴様も、ネオファイターだな?」

('A`)「もちろん」



81: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:24:43

/ ,' 3「ウェポンは?」

('A`)「それは言えないよ。もし戦うことになったらおれが不利になる」

/ ,' 3「お前はあの小僧よりは利口らしいな」

('A`)「まあね。でも利口なだけじゃない。おれの方が強い」

( ^ω^)(あ、このベーコン賞味期限切れてるお。まぁいいや、僕が食う訳じゃないし)

これで体調不良になるならなれやクソフィギュアが。
僕のせいじゃねえっつーの。もっと賞味期限が切れててもよかったのに、惜しいことをした。

('A`)「じゃ、次はこっちの番。その子……しぃ、だっけ?」

/ ,' 3「このおれに質問をする気か」

('A`)「当然。おれが答えたんだから次は荒巻の番に決まってる。全世界共通の決まりだ」

/ ,' 3「……くっくっく。よかろう。この子はしぃ。おれのネオファイターだ」

('A`)「十二歳くらい?」

/ ,' 3「十三だと聞いている」

――微妙にぬめっとしたベーコンをフライパンの上に乗せると、油の焼ける音が響いた。

/ ,' 3「焦がしたら殺す」

(;^ω^)「は、把握したお」

クソ、見抜かれてたか。



82: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:25:16

本当は真っ黒の炭になるまで焦がしてやろうと企んでいた。
それを貪るクソフィギュアを見て大笑いしてやろうと思っていたのに失敗に終った。

/ ,' 3「今度はおれの番だな。貴様は、おれが恐くはないのか?」

('A`)「どういう意味?」

/ ,' 3「あの小僧に殺気を放った際に、貴様は何の変化も起こさなかった。
    おれの殺気を近くで受けてもなお動じない人間を初めて見たのだ」

('A`)「ああそういうこと。恐いに決まってるよ。ブーンの言ってたことが今ならわかる。荒巻は、強過ぎる」

/ ,' 3「……貴様、このおれを愚弄する気か」

('A`)「とんでもない、本音の感想だよ」

フライパンからベーコンの香ばしい匂いが漂う。味付けは何にしてやろうか。

/ ,' 3「肉はそのままで持って来い。余計なことをしたら殺す」

( ^ω^)「……チッ」

塩と砂糖を間違えて味付けしてやろうかと思っていたブーンは肩を落とす。
荒巻はこっちの心を読んでいるのではないかと本気で思った。



83: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:26:04

('A`)「それじゃおれからの最後の質問。しぃちゃんは、一体何の病気?」

/ ,' 3「――……貴様」

('A`)「昨日の発作を見て思ったんだよ。しぃちゃんの病気は軽いものじゃない。
    もしかしたら命に関わることなんじゃないの?」

/ ,' 3「…………」

('A`)「別に答えてくれなくてもいい。ただおれは彼女の面倒を看てそう思っただけだから」

/ ,' 3「……しぃは、心臓が悪い。生まれたときから病院暮らしだ。そして、その命は後半年も保つまい」

('A`)「……そっか」

ベーコンが完成する。どこからどう見ても完璧なベーコンである。
我ながらベーコンだけは焼くのが上手い。
ベーコンを焼かせれば世界でも五指に入るのではないかと少しだけ思う。

これが賞味期限が切れていたベーコンであるとは誰も思うまい。

( ^ω^)(ふひひww特と味わうがいいお、クソフィギュア)

/ ,' 3「……」

('A`)「……」

……って、何だその空気。
ベーコン持って気軽に入れるような会話してねえじゃねえかチクショウ。



84: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:26:44

そんなことを思って台所で立ち往生していると、荒巻が「出来たのなら早く持って来い」と面倒臭そうに促す。
何とも微妙な気分のまま、ブーンはベーコンの乗った皿を持ちながらドクオと荒巻がいる部屋へ向かう。

テーブルの上に皿を乗せると、荒巻は翼を羽ばたかせてベットからベーコンのすぐ側へと降り立つ。
器用に首を曲げ、皿に乗ったベーコンに食らい付いて呆れるような勢いで貪る。

/ ,' 3「小僧にしては上出来だ」

ちっとも嬉しくない。

荒巻がベーコンをすべて平らげ、炎のゲップを一発カマして笑う。

/ ,' 3「そう言えば、まだ貴様の名を聞いていなかったな」

荒巻の視線がドクオに向けられる。

/ ,' 3「名乗れ」

ドクオが和やかに笑い返す。

('A`)「ドクオ」

/ ,' 3「ドクオ……憶えておいてやろう。なにせ貴様は、」

一人と一匹の視線が噛み合う。

(;^ω^)「……」

そこには、ブーンの入る余地などこれっぽっちも残っていなかった。

そしてただ、荒巻はこう思う。――やはり、この小僧は気づいている、と。



85: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:28:03

/ ,' 3「……ドクオ。礼を言う。しぃが世話になった」

('A`)「いえいえ、とんでもない」

ドクオは、友達の母親に答えるかのような仕草で首を振る。
ドクオは荒巻が恐いと言っていた。しかしそれが本音であるとは到底思えない。

そもそもドクオに恐いものなど存在しないのではないかと思う。

(#^ω^)「ちょっと待つお、僕に対しての礼は無いのかお?」

確かにしぃの看病をしたのはドクオである、それは認めよう。
しかしショボンと戦ったあの場所から倒れたしぃをここまで連れ帰って来たのは他の誰でもないブーンである。

その道中、どれだけ大変な目に遭ったと思っているのか。
見知らぬ土地で迷うわ野良犬に追いかけられるわ、警官に誘拐犯と間違われるわの大騒ぎだったのだ。

それらをすべて死に物狂いで乗り越えてしぃをここに連れて来てやったのだ
。そんなブーンに対して礼の一つや二つ送ってやっても罰は当たるまい。



86: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:28:54

しかし荒巻は、ただの一言で一喝する。

/ ,' 3「黙れ。死にたいか」

っんだとこの野郎、調子コクのも大概にしよけおクソフィギュア、と言えたらどれだけ心地良いだろう。
幻想の世界に身を沈めるブーンであった。

(*゚ー゚)「ん……」

そして、ベットで眠っていたしぃが目を覚ましたのは、ちょうどそのときだった。
毛布が擦れる音が部屋に響き、それに気づいた全員がベットへと視線を向ける。
ゆっくりと上半身を起こしたしぃは寝ぼけ眼を手で擦りながらぼんやりと辺りを見まわす。

やがてその視線が荒巻を捕らえ、綺麗な笑顔でつぶやく。

(*゚ー゚)「…………あらまk――」

その口を、瞬間的に移動したブーンの手が押さえ付けた。
そしてブーンは叫ぶ。

(#^ω^)「お前バカかおっ!! こんなトコで真名呼んでみろおっ!! このアパートぶっ壊れるおっ!!
       わかっ、おおおっ!?」

/ ,' 3「しぃに触るな小僧ッ!!」



87: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:29:54

荒巻の口から吐き出された火炎放射がブーンの足を熱する。
規模はライターの火程度だが、大きさ云々の前に火である。熱いのである。
服が焦げるのは至極当然のことだった。

(;^ω^)「うおぉっちぃぃぃぃ!!」

慌ててしぃの口から手を離し、散らかった床を絶叫しながら転げ回って足を摩る。
そんな無様この上ないブーンをしぃは不思議そうに見つめ、やがて羽ばたいた荒巻がその肩に乗る。

('A`)「……もしかしてさ、ウェポンの真名を呼んだら無条件で具現化されるって思ってない?」

( ^ω^)「へ? 違うのかお?」

('A`)「全然違う。ウェポンの真名を呼んでその都度具現化されてちゃ敵わないよ。
    てゆーかネオスにも詰まってたでしょ。ウェポンの真名を呼ぶときに『出て来るな』って思えば具現化はされない。
    試してみたら?」

床に倒れ込んだまま、出るな出るな出るなと念じながら真名を呼ぶ。

( ^ω^)「……孤徹」

孤徹は、具現化されなかった。



88: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:30:35

('A`)「ほらね」

ブーンは何も無い自分の両手を見つめながら、何ともやるせない気持ちに陥った。

/ ,' 3「青二才が」

荒巻が吐き捨てるように言う。

(;^ω^)「あう……」

今まで自分は何をしていたのだろう、と漠然と思った。

孤徹の真名を呼んだら無条件で具現化されるものだとばかり思い込んでいた自分は一体何なのか。
当たり前のように知っているドクオとは違い、そんな初歩的なことも知らなかった自分は馬鹿の極みではないのか。

昨日の緊迫した自分はどこへ言ってしまったのだろう。
今日は酷く疲れたと思うのは気のせいだろうか。



89: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:31:25

放心状態になっているブーンを置き去りに、ドクオが立ち上がる。
上半身だけを起き上がらせているしぃの側に歩み寄り、人柄の良い笑顔を浮かべる。

('A`)「初めまして、しぃちゃん。おれはドクオ。よろしく。気分はどう? どこか痛い?」

いきなりのその問いに僅かに動揺するしぃだが、荒巻が敵対心を持っていないことを感じ取って、
ぎこちなく笑ってふるふると首を振った。

('A`)「そっか、それはよかった」

ドクオは肯く。そして踵を返し、まだ倒れたままのブーンに向かって言う。

('A`)「しぃちゃんも心配なさそうだから、おれは帰るよ。さすがに眠たくなってきた」

( ^ω^)「おお、サンキュウだお……」

ぼんやりとした頭で、そう返答する。
それを聞き届けたドクオが立ち去ろうと歩き出すその際に、視線が一瞬だけ荒巻と噛み合う。

('A`)「……」

/ ,' 3「……」

そして、ドクオは笑う。荒巻は何も言わず、ドクオを見送った。



90: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:32:31

アパートのドアが閉まると、部屋には未だ放心しているブーンとベットに座るしぃ。
その肩に乗る荒巻だけが残される。

しばらくは、誰も何も言わなかった。しかしその沈黙は、荒巻のその一言によって打ち破られる。

/ ,' 3「――小僧。しばらく、おれとしぃはここで暮らす」

脳みそが一発で活動を開始する。
体の神経をすべて導入して起き上がり、口を開いて絶叫する。

(;^ω^)「はあっ!? 何言ってんだお! ふざけんなおっ!!」

だがその抗議の叫びなど荒巻はもちろん受け入れない。

/ ,' 3「しぃをおれの羽で寝かせるのはそろそろ限界だ。だからしぃはここで寝かせる」

(#^ω^)「馬鹿言うなおっ! ベットは一つしかないんだお! どうやって寝かせんだお!」

/ ,' 3「お前が出て行けば問題は無かろう」

(#^ω^)「ここは僕ん家だおっ!!」



91: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:33:25

荒巻から有無を言わせぬ爆発的な殺気が迸る、

/ ,' 3「黙れ小僧。口答えは許さぬ」

(;^ω^)「くっ……ぬぅ、テメえ……」

それは反則だろうがこのクソフィギュア、などと思っているブーンの目の前で、しぃが行動を開始する。

荒巻の言うことに真っ向から納得したのか、それともブーンの意見などしぃも気にしないのか、
新しい寝床と化した散らかり放題のブーンの部屋を猫のように探索し始めた。

(*゚ー゚)「んー……」

その辺に転がっているものを手に取り、まじまじと見つめてから興味が無いものだと判別するとぽいっと捨てる。
そして、また新たなものを手に取り、まじまじと見てぽいっ、を繰り返す。

( ^ω^)「っくしょう……なんなんだお……この展開は」

何をどう間違ってこうなってしまったのか。何をどう勘違いして荒巻はここで暮らすなどと言ってのけたのか。
こちらの迷惑を考えろ、という意見は荒巻には無意味なのだろう。



92: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:34:06

荒巻の前では、ブーンに人権が無いのは明白だった。
荒巻がここで暮らすと言った以上、負け犬には反論する権利など存在しない。

しかし、仮にも敵のネオファイターを何が楽しくて家に泊めなければならないのか。
もし寝ている間に殺されたら洒落にならない。笑えない冗談である。

そのブーンの考えを読んだのか、しぃの肩から飛び立ってテーブルの上に降りた荒巻がまたしても鼻で笑う。

/ ,' 3「安心しろ。貴様の寝首を掻こうとは思わん」

そこで荒巻の雰囲気が一転し、真剣な口調でこう言った。

/ ,' 3「時に小僧。貴様はあいつのウェポンを知っているのか」

( ^ω^)「あいつって、ドクオ?」

荒巻が肯く。
なぜそんなことを訊くのかがわからなかったが、無意識の内に答えていた。

( ^ω^)「確か斬撃型の風靭ってヤツだったような……」



93: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:34:44

そうか、と荒巻が言葉を漏らしたとき、どこからか「きゅー」という間抜けな音が聞こえてきた。
視線を移すと、いつの間に押入れから引っ張り出したのか、しぃがピンク色のイルカのぬいぐるみを持っていた。

それをしぃがぎゅっと抱き締めると、腹の辺りから「きゅー」と音が鳴る。

(*゚ー゚)「ん!」

どうやそのイルカがしぃのお気に入りなったらしく、実に嬉しそうにきゅーきゅー鳴らし続けている。

/ ,' 3「――一つだけ、教えてやろう」

唐突に、荒巻がそうつぶやいた。

/ ,' 3「十日後にはどうなっているかはわからんが、もし今、このおれを除くすべてのウェポンが総当りでぶつかったとき、
    生き残るのはドクオだろう」

きゅー。

荒巻は、言い切った。

/ ,' 3「この本戦で生き残っているネオファイターの中では、」

きゅー。

/ ,' 3「奴が、最も強い」

きゅー。



94: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:36:20

(#^ω^)「「……」

無意識の内にしぃに歩み寄り、イルカを没収する。

(*゚ー゚)「あ……」

と、しぃは泣きそうな顔でブーンを見上げた。
その視線を受けたことにはどうすることもできず、結局はまたしぃにイルカを返してしまう。

(*゚ー゚)「……えへへ」

イルカを受け取ったしぃは本当に嬉しそうに笑い、そして抱き締めてきゅーきゅー。
その音のせいで、かなり重要な荒巻の話がちっとも緊迫感を帯びない。

(;^ω^)「はぁ……とんだ居候だお」


しぃから視線を外し、窓の外の広大な青空を見ながら思考を巡らす。

ドクオが、今現在生き残っているネオファイターの中で最も強い。
その荒巻の考えが、妙にはっきりと納得できている自分がいた。



95: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:37:54

ドクオとはガキの頃からの仲である。
だからこそブーンが一番理解できる。

あいつがちょっとやそっとのことで負けるはずはない。

ああ見えてドクオは喧嘩が強い。
しかもブーンには無い知性まで兼ね揃えている。

そんなドクオが一筋縄で負けるとも、そしてこの自分が楽に勝てるとも思ってはいない。

ドクオとは、最後に最大の死闘を繰り広げて戦うのだろう。

最強の戦友と対等に戦うため、荒巻の忠告を肝に銘じる。

( ^ω^)(ドクオ……お前を倒すのは、僕だお。待ってろお……!)



96: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:39:09

/ ,' 3「……」

荒巻は思う。

まだネオファイトの本戦が始まって十一日しか経っていない。
その短期間の中であのことに気づいたのは、恐らくドクオが初めてだろう。

今まではそのことに気づいたネオファイターの方が少なかった。
気づいた少数のネオファイターとて、本戦の後半になってやっと思い至っている。

それなのに、この段階で奴は勘付いていた。
そして厄介なことに、気づいただけではなく、ドクオは完璧に使いこなしているはずだった。

ドクオと話していて、そのことを確信した。

斬撃型ウェポン・風靭。
それは、前回の優勝者が用いたウェポン。

その力を、奴は完全に理解している。



97: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/18(水) 12:40:06

しかも今回のネオファイターには優秀な人材が多い。

我がネオファイター・しぃは言わずもがな、そしてまだ発展途上だが小僧も含まれる。

そしてもう一人、大きな力の波動を感じる。
その輩がどのウェポンを得たのかはわからないが、恐らくそいつも生き残るであろう。

第十二期ネオファイターは、優秀である。
荒巻が初めて本格的に参戦するネオファイト戦が、過去最高のネオファイト戦になることは容易に想像できた。


荒巻が、実に楽しそうに笑う。


――――随分と、楽しめそうだ。



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