( ^ω^)ブーンがネオファイターになるようです

2: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:19:13.44 ID:6hqY4anX0

第四話「風靭」


( ーωー)「う〜ん……お?」

あまりの寒さに目が覚めた。

肌に感じる室温にまさか窓を開けたまま寝てしまったのだろうかと思い、
横になった状態で視線を上げるが窓はしっかりと閉まっていた。

そしてふと、視線がいつもより低いことに気づく。
辺りを見まわすと見える光景がいつもと違う。

どうやら自分はベットではなく床に直接寝ているらしい。

(;^ω^)「身体が所々痛いお。……なんで床なんかで寝たんだっけ?」

今度はちゃんとベットで寝直そうと思い立ち、のっそりと起き上がってベットに視線を移し、やっと気づいた。

ベットに、ピンク色のイルカのぬいぐるみを抱き締めて寝ている少女がいた。
それを視界に収めた瞬間に一発で眠気は吹き飛んで、僅かな動揺の次に頭が理解する。



4: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:21:26.83 ID:6hqY4anX0

すべてをはっきりと思い出した。
この少女は誰なのか、なぜ自分が床で寝ていたのか。

( ^ω^)「あー、そうだったお……」

しぃに、ベットを占領されてしまったのである。
それで仕方が無く、自分は床で寝たのだ。

/ ,' 3「zzz……」

その原因を作り出した幻竜型ウェポン・荒巻はしぃの枕元で丸まって目を閉じていた。

(;^ω^)「こいつ、寝るのかお……」

さてどうしたものか、とブーンは思う。
もう一度寝ようにも頭は冴えてしまったし、かと言って朝飯にはまだ早過ぎる。

荒巻はともかくとして、ベットでぐっすりと眠るしぃを起こす気にもなれない。

そこで思い至る。そうだ、昨日は忘れていた日課をしよう。

壁に掛けてあったダウンジャケットを着込み、煙草とライターを回収してアパートを出た。



6: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:23:45.64 ID:6hqY4anX0

( ^ω^)「さて、今日から再開するお」

日課、というほどのことでもないのかもしれない。
しかしそれでも、この十日間は一度も欠かさずにやってきたことだ。

それは、ブーンの住むアパートから離れた場所にある森に赴き、孤徹の訓練をする、というものだ。
孤徹の特性を理解するために十日間毎日行ったことである。

煙草のパッケージから一本取り出してライターで火を点け、煙を吸い込みながら思う。

孤徹に特性があるように、やはりウェポンにはすべて特性があるらしい。
もちろん荒巻にも特性があった。

昨夜気になって荒巻に聞いてみたところ、気が向いたのか荒巻は教えてくれた。
荒巻の特性。それは、思考を持っていて喋れることと、ネオファイターが真名を呼ばずとも具現化していられること。

戦闘面に関わることではないので教えてくれたのかもしれない。
そもそも荒巻はただでさえ反則染みて強いのに戦闘面に特性があれば本当に反則のような気がする。

しかし喋れる特性はともかくとして、具現化の方は力を制御されるようだった。

だからこそ、真名を呼ばず具現化されている状態の荒巻は小さいのである。



8: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:26:41.18 ID:6hqY4anX0

しかも幻竜型ウェポンというのは、今回のネオファイト戦が初めての本格参戦らしい。
それはどういうことなのかと聞いてみると、荒巻は笑いながらこう言った。

/ ,' 3「おれは今まで幾度かネオファイターを得てこの世界に具現化された。
    だが、おれのネオファイターは最も早くに脱落者になっている」

/ ,' 3「……なぜか、だと? 簡単なことだ。おれがすべて皆殺しにしたからだ。
    どいつもこいつもこのおれを扱うには弱過ぎる。だから真っ先に脱落者にしてやった。
    我がネオファイターを認め、ネオファイト戦に本格参加するのは今回が初めてなのはそういう訳だ。

/ ,' 3「しぃはおれが受け入れた唯一のネオファイターだ。
    しぃに何かしたらそのときは、どんな手を使ってでもそいつを殺してやる」

冗談に聞こえないのが恐い。

いや、荒巻は冗談で言っているのではないのだろう。
もしブーンがしぃに何かしたら、そのときは本当に荒巻は躊躇い無くブーンを殺すのだろう。

荒巻は、しぃだけを守り、しぃのためだけに戦っているのだ。



10: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:29:03.29 ID:6hqY4anX0

そしてしぃに関して、最も重要なこと。

それが、しぃの命が後半年も無いということ。

本当かどうかわからないが、しぃの発作を見ているだけに否定できない。
もし事実だとすれば、かなり大変なことなのではないかとブーンは思う。

だが仮にもしぃは敵である。
今は変な展開に発展して同居などをしているが、いつかは戦わねばならない相手なのだ。
そのときに情が移って手加減などをしていては荒巻には絶対に勝てない。

それこそ、しぃを殺すつもりで行かねば荒巻には到底敵わないのだろう。

( ^ω^)「……」

しかし、でも、という考えがどうしても拭い切れない自分の意思を捻じ伏せる。
気づけば、足はしっかりとアパートから離れた森へと到着していた。

( ^ω^)「……考えても仕方ないお」

辺りに人の気配は無く、民家も無い。
要らぬ考えを吹き飛ばすために、今は全力で訓練に打ち込もうと思った。



13: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:32:43.19 ID:6hqY4anX0

( ^ω^)「――……孤徹」

冷たい空間が歪み、そこから緑色の光の粒子があふれ出してブーンの手に収縮される。
漆黒の二体一対の鉄甲が姿を現し、その重みをしっかりを噛み締めてブーンは拳を握る。

( ^ω^)「ふっ――――!!」

鉄甲を派手に打ち鳴らし、運動能力が向上している自らの体をフル活動させて山を一気に登り始める。
背後にとんでもないスピードで流れて行く景色を一つ一つ目で追いながらブーンは思い出す。

荒巻は、しぃを除くネオファイターの中ではドクオが最も強いと言った。
それは信じよう。斬撃型ウェポン・風靭を用いるドクオが最大の壁になることは本戦が始まった頃から知っている。

だから、その壁を超えるためにブーンは自らのウェポンを高めようとしているのだ。
風靭は一本の刀だとドクオは言っていた。
つまり、斬撃型とはその名の通り、相手を切るのが攻撃手段だと考えるのが妥当だろう。

そして切るということはつまり、物理攻撃に他ならない。
その軌道さえ見極められれば、自分はドクオというネオファイターの壁を超えられるはずだった。



15: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:34:22.91 ID:6hqY4anX0

( ^ω^)「っおぉぉ!!」

孤徹を地面に叩きつける。
瞬間、爆発したかのように地面が抉れ、ブーンの体が宙に高々と舞い上がる。
空中で体勢を立て直しながら、一本の木に狙いを定めた。


――どんな奴が相手でも上等である。すべてをぶっ倒して、この僕が最強だ。


空中を蹴ってブーンが加速し、孤徹を振り抜いた。
一本の木が、根元から圧し折れて吹き飛んで行く。

(#^ω^)「うおぉぉぉぉぉぉ――――!!!!!」

地面に着地しながら、空を見上げて獣のようにブーンは叫んだ。



17: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:36:14.01 ID:6hqY4anX0




それから約四時間後、場所はドクオ家に移る。

ドクオは今、勉強机の前の椅子の背凭れに寄りかかりながら指でシャーペンをくるくると実に暇そうに回している。
勉強机には大学のレポート用紙が広げられているものの、そこには白一色が広がっている。

('A`)「あーあ、首席なんてとるんじゃなかった……」

大学を首席で入学したまではいい。
だがそれが最近では重荷になりつつある。

成績は放っておいてもキープできそうなのだが、問題は講師の考えだ。
お前は首席なのだからレポートには期待しているぞ的な目つきで提出課題を渡されても面倒なだけだった。

時々、ブーンがすごく羨ましくなるときがあった。
ブーンは自分の生きたいように生きている。
何にも縛られずに思いっきり羽を伸ばしている。

まるで野良猫のように生きているブーンの姿が、微かな憧れだった。
窮屈な世界で生きているドクオにとって、それはとても羨ましいことで、しかしそれ故に真似できないことだった。

しかし、そんな息苦しい状態をぶち壊す代物が、ここにある。



19: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:37:53.90 ID:6hqY4anX0

('A`)「風靭」

緑色をした光の粒子がドクオの掌からあふれ出し、長い刀の形を具現化させる。
粒子が消え失せたとき、ドクオの手には一振りの刀が握られていた。

典型的な型の、刃が輝く日本刀。それが斬撃型ウェポン・風靭の姿だった。

まだ風靭を使っての実戦経験は無い。
この十一日間はずっと、この風靭の特性を理解すると同時に使いこなすために費やしてきた。

その甲斐あって、ドクオは風靭のすべてを理解することに成功した。

他のウェポンがどんな特性を兼ね揃えているかはわからない。
だが、この風靭の特性を持ってすれば、ブーンに宣言した通り無傷で優勝することさえ可能になる。

しかも自分は気づいたのだ。

風靭だけではないはずだ。すべてのウェポンに共通するそのことに。
恐らく、このことに気づくネオファイターは少ないはずだった。
ウェポンを理解しようとしない奴には、絶対にわからないことだ。



21: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:40:44.76 ID:6hqY4anX0

('A`)「ブーンの奴、まだ気付いてないだろうな」

このままブーンが成長しないようならば、最後に戦う相手は荒巻だ。

('A`)(何にせよ、そろそろ実戦経験が欲しいな)

並大抵のネオファイターでは自分には勝てないだろう。
かと言ってブーンや荒巻に挑む気はさらさらにない。

練習台となるネオファイターが必要だった。

ベットに寝転がったまま時計を見上げる。
時刻は正午を指していた。面倒だが仕方が無い。

こちらから出向くか。

風靭を解除しながらそう思って腰を上げようとしたとき、インターホンの音が鳴り響いた。



23: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:42:41.21 ID:6hqY4anX0

('A`)「近所の人か郵便屋かセールスマンか、それとも――」

そしてドクオは、その場で笑った。
体にある細胞の一つ一つが反応を起こす。

客は、このドクオが目当てで来た。間違いない。
頭の中のセンサーが告げていた。

ξ゚听)ξ「……」

玄関を開けて外を見まわすと、庭にどこかの学校の制服を着た女の子が一人、立っていた。
整った顔立ちを持った、高校生くらいの女の子のである。

その子が玄関から顔を出したドクオを見つけると、真剣な目で睨みつけた。

('A`)「俺ん家に女の子が来るなんて、初めてだよ。場所を変えようと思うんだけど、いい?」

女の子は無言で肯く。それに「ちょっと待ってて」と言いながら一旦引き返し、靴を履いて改めて玄関を出た。



27: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:44:15.56 ID:6hqY4anX0

ξ゚听)ξ「……」

女の子の隣を通り過ぎ、裏路地に近い道路を歩き出す。
女の子は無言でドクオの後に付いて来ていた。
どうやらいきなり襲いかかってくるつもりは無いらしい。

良い心構えだ、とドクオは思う。
もし襲いかかってきたのなら、自分は問答無用で切り捨てていただろう。

('A`)「おれはドクオ。十九歳の大学生。君は?」

背後からの返答は聞こえない、

('A`)「あのさ、せっかくおれが名乗ったんだから君も」

ξ゚听)ξ「ツン。高二」

('A`)「そっか。よろしくね、ツンちゃん」

ツンが殺気を放つのがはっきりとわかった。
荒巻には到底及ばないものの、普通の人間に比べれば威圧感のある殺気だった。



29: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:47:00.12 ID:6hqY4anX0

ξ゚听)ξ「あんたもネオファイターでしょ。だったらよろしくなんて言葉はいらない」

ドクオは苦笑する、

('A`)「まあそうなんだけどさ、一応礼儀として言っとかないと。
    こうして会えたのも何かの縁な訳だし。――あ、ここでいい? 人はいないしたぶん来ない」

振り返ったドクオから視線を外し、ツンは辺りを見渡す。

住宅地から少しだけ離れた空地だった。
ここは幼少時代、人が来ないのを良いことにブーンと一緒に火遊びなどをした思い出のある場所だ。

ネオファイター同士の争いをするのには持って来いの場所だ。

ツンが笑いながら肯く。そして、その真名を口にした。

ξ゚听)ξ「水靭」

目の前に差し出されたツンの掌から緑色の光の粒子があふれ出し、ウェポンを具現化させる。
一振りの刀がツンの手に握られ、空気を切り裂くように振り抜く。

ツンの手にあるそれは、ドクオのウェポンと全く同じに見えた。
少なくとも、そのウェポンの持ち主以外には同一にしか見えないはずだ。
つまり、ツンのウェポンはドクオと同じ斬撃型なのだろう。


――――そして、その真名を水靭。



31: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:50:16.32 ID:6hqY4anX0

やっぱり、とドクオは思う。

('A`)「ツンちゃんも斬撃型なんだ。おれと一緒だね。
    風靭っていうんだけど、その真名を知ったときからふと思ってたことがあるんだよ。
    風靭という名の斬撃型。斬撃型には三種ある。その内の一つが風靭とくれば、残りは自然と決まってくる。
    たぶん斬撃型三種の真名はそれぞれ、風靭、水靭、雷靭だと思うんだけど……」

ξ゚听)ξ「御託はいいです。早くウェポンを具現化してください。じゃないと、何もできないまま……死にますよ?」

ツンが水靭を構える。
その構えは、明らかに素人とのそれとは違った。

端から見ても、ドクオより剣たるものが何なのか理解しているのが一目瞭然だった。
そしてその構えを、ドクオは知っている。

中学の頃に一度だけ、友人から見せてもらったことがあるのだ。
あの周囲の景色と一体化したような静かな構え。

('A`)「……剣道、だね。しかも、かなり強い」



34: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:52:08.56 ID:6hqY4anX0

ξ゚听)ξ「ええ、そうです。よくわかりましたね。こう見えてもわたし、都大会優勝者なんですよ」

('A`)「へえ、それはすごい。だったら――」

――――実験台には、最高だね

('A`)「風靭」

ドクオの掌から緑の光の粒子があふれ出て、一振りの刀を造り出す。
それをしっかりと握り締め、ドクオはツンを見据える。

ツンの言うことは本当なのだろう。
都大会での優勝者だとしたら、これだけの威圧感を放つことにも納得できる。
剣道有段者に取って、斬撃型は最高のウェポンと言えよう。

だがしかし、それだけでは決して勝ち残ることができないのがネオファイト戦の面白い所である。
それに、ツンには負ける気がしない。

同じ斬撃型を持つドクオは、水靭の特性も大方理解しているつもりだった。
そして恐らく、ツンは特性にすら気づいていないはずだ。

その証拠に、ツンは『ここで』戦おうとしているのだから。



37: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:53:33.46 ID:6hqY4anX0

ξ゚听)ξ「――構えないんですか?」

不動の構えを取っていたツンは、何の構えも取らないドクオに不可思議そうに問う。

('A`)「まあね。って言うより、これがおれの構えだから」

両腕をだらりと下げたままの実に隙だらけの構えである。
風靭の切先が地面に着いている時点で、攻撃時差に差が出るのは明白だった。

剣道有段者のツンから見れば、馬鹿としか思えなかったはずである。

ξ゚听)ξ「…………死んでください」

その声がドクオに届いたときにはすでに、ツンは行動を開始していた。

元々剣道で鍛えられていた身体が、ウェポンの影響でさらに強化されているのだ。
その速さたるは、音速と呼ぶに相応しかった。



40: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:56:13.34 ID:6hqY4anX0

そんな速さに、幾ら身体能力が向上しているから言っても元の素体の鍛え方が違うのだ。
動きに差が出るのは当然だった。

ドクオは、呆気ないくらい簡単にツンの姿を見失っていた。

ξ゚听)ξ「はっ!!」

ドクオがツンを視覚で捕らえた時、水靭の刃がドクオ目掛けて振り下ろされる。

その一撃を、ドクオは紙一重でかわす。
スローモーションのように過ぎ去る映像の中、ドクオの視線とツンの視線が噛み合う。

ξ゚听)ξ「よく避けれてましたね」

('A`)「……まあこのくらいはね」

ツンの表情から感情が消え失せ、振り抜いた水靭を一瞬の内に引き戻して横一線に薙ぎ払う。
空を切るその刃を跳び上がることでドクオが避けると同時に、獲物を逃したツンの水靭が追撃を開始する。

ξ゚听)ξ「ハァッ――!」

それは、目にも止まらぬ連続攻撃だった。
右に振り抜いたと思った次の瞬間には左からの斬撃が迫り、有無も言わせず上下から攻撃が繰り出される。



42: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 11:58:18.13 ID:6hqY4anX0

それをすべて紙一重で避け続けるドクオもさることながら、それだけの連続攻撃を行っているのにも関わらず、
息切れどころか終止隙の一つも見せないツンもたいしたものだった。

挑発をさせようという魂胆で、ドクオは避ける度に「ほっ、はっ、とりゃっ」などと余裕を現す声を出してみる。

だが、ツンは全く乗ってこない。
それは、強者故の集中力があるからなのだろう。

('A`)(流石に、小細工が通用するほど甘くないか)

ξ゚听)ξ「セヤァァァァ!!」

ツンの追撃は、留まる所を知らなかった。
恐らく、これがツンの戦い方なのだろう。

攻めて攻めて攻め抜いて、相手が疲労して隙が出来たその一瞬を待っているのだろう。

それを行うだけの体力がツンにはある。
持久戦になれば不利になっていくのはわかっていた。

でももう少しだけ、このまま戦っていたいとドクオは思う。

初めての実戦がただ単純に楽しいのだ。


――――何か一つでも間違えば死に至るこの攻防が、何にも代え難いほど楽しい。



45: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 12:00:09.19 ID:6hqY4anX0

そんな思考を巡らせていたせいで気づけなかった。
避け続けていたドクオの足が、伸び放題になっていた雑草に一瞬だけ取られた。

(;'A`)「おわっ」

ξ゚听)ξ「……!」

その刹那の瞬間を、ツンは見逃さない。
待っていた隙が、そこに出来たのだ。

それまでとは全く違う、神速の速さを持つ水靭の刃が上段から振り下ろされた。

避けるのは不可能な速さだった。
迫り来る斬撃を見据えながら、ドクオは呟く。

('A`)「――――お遊びは、ここまでだね」

水靭の一撃を、ドクオの風靭が初めて弾いた。
それまでの長い攻防の中で、ドクオはただの一度も風靭を使わなかった。
すべて自らの力で避け続けていたのだ。

その意味を、ツンも薄々と勘付いてはいた。
そしてそれが、たった一度だけ使用されただけで確信に変わる。

水靭が弾かれ、風靭の刃が一瞬だけ揺らぐ。
そのときに見たドクオの瞳が、今まで見た何よりも恐ろしかった。



47: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 12:02:12.35 ID:6hqY4anX0

ξ゚听)ξ「くっ……!」

死ぬ、と思った瞬間に風靭の刃が鈍り、隙が出来上がる。
しかしツンには反撃できず、その場から離脱するのが精一杯だった。

互いに距離を取り、それまで何一つ変化を表さなかったツンの呼吸が乱れる。

ξ゚听)ξ「……どう、して……っ」

首を傾げていたドクオがツンに視線を向ける。

ξ゚听)ξ「どうしてっ、反撃してこないのっ!?」

('A`)「どうして、と言われても困るなぁ」

なぜ自分が風靭を引いたのかはよくわからない。
勝ったと思ったその瞬間、体のどこかが制御を掛けた、そんな感じがする。



49: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 12:03:22.49 ID:6hqY4anX0

課題が見えてきた、とドクオは思う。

自分は知らずの内に人を傷つけるのが恐くなってしまっているのだろう。
だから体が無意識に力を抑えつけて制御してしまう。

今後の課題はその制御を外すことだ。
傷つけるときは迷わず傷つけ、殺すときには迷わず殺すことのできる体を身に付けなければ、
これからのネオファイト戦では生き残れないだろう。

ましてやそんな甘ったれたことでは、荒巻には愚かブーンにも負けてしまうだろう。

今回の戦いではそれがわかっただけでも十分だ。
そろそろ、本気で反撃に出ようか。

ξ゚听)ξ「あんたはわたしを馬鹿にしてるのっ!?」

ツンの叫ぶ声が耳に入る。
それを聞きながら、ははっ、とドクオは笑う。



52: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 12:06:16.82 ID:6hqY4anX0

('A`)「違うよ。さっきのはごめん、おれも予想外だった。
    ただ、なぜ反撃しなかったのかと言うと、君が隙を見せないのと、ある実験がしたかったのが原因。
    でも、もういいや。実験は終ったから。はっきりと結果がわかった。君の攻撃は、おれには届かない。
    試してみる? 今の君じゃ、絶対におれには傷一つつけられない。だって、君は弱いから」

ξ゚听)ξ「うるさいっ!!」

ツンが初めて挑発に乗った。
力の限りの跳躍でドクオに詰め寄り、懇親の力で怒りのまま水靭を振るう。

('A`)「――――これで、終わりだ」

それをやはり紙一重で避けたドクオが、初めて反撃に出る。
向かって来た力をそのまま利用するかのように、ツンの手首を掴んで足を掛け、一発で地面に這わせた。

ξ;゚听)ξ「ぐッ……!」

苦痛の声を漏らすツンが急いで起き上がろうとしたときにはすでに、風靭の切先がツンの首に突き付けられている。
勝負は、呆気ないくらい簡単に決したのだった。



55: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 12:07:56.34 ID:6hqY4anX0

ξ゚听)ξ「なんで……っ! 構えも、振る舞いも、体捌きも、何もかも素人なのに……っ!
     なんでわたしの攻撃が当たらないのよっ!?」

ツンを見下げて、ドクオは再び笑う。

('A`)「それがネオファイター同士の戦いの面白いところだ。
    幾ら剣道が強くても、ウェポンを理解しないことにはこの戦いを勝ち抜くことは不可能なんだよ。
    君はさ、ウェポンに特性があるってこと自体、知らないでしょ?」

ξ゚听)ξ「……特性っ?」

('A`)「ああ。ウェポンにはそれぞれ特性がある。たぶん君のウェポンの特性は、水を感じることだと思う。
    まあおれのウェポンじゃないし、はっきりとしたことは言えないけど、それがいちばん可能性がある。
    もしそうだとしたら、君はこの場所で戦うことを選んだときにもう負けだったんだよ」

ツンは辺りを見回す。

ξ゚听)ξ「そう……。それで、水気の無いここに連れてきたのね」

('A`)「そうだ。でも知らなかった君が悪い訳じゃない。ただおれが強かっただけ、それだけなんだよ。
    ……それと、どうして君の攻撃がおれに当たらなかったのかのタネ明かしだ」

ドクオがそう言った瞬間、辺りに風が吹き荒れた。
その風がゆっくりと風靭の刃に纏わりつく。



57: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 12:09:14.34 ID:6hqY4anX0

('A`)「これが風靭の特性。風靭は風の動きを読める。風、つまりは大気だ。
    この世界に大気を動かさずに動けるものはない。そしてその大気の変化が、おれにはわかる。
    言い直すと、君がどう動くのかが手に取るようにわかるんだよ。だから君の攻撃はおれには届かない。
    もし君がウェポンの特性を知っていて、辺りに水があったのなら、勝負はもっと違う結末を迎えていたかもね」

風靭がゆっくりと動いた刹那、ツンが最後の力を振り絞って水靭を振り払った。

ξ゚听)ξ「やぁぁぁぁ!!」

風靭と水靭の刃が交錯し、一瞬だけドクオに隙が生じる。
その隙を見逃さずにツンは体を転がしながらで立ち上がり、ドクオに背を向けて走り出す。

その背中を見据えながら、ドクオはため息を吐く。

('A`)「やれやれ、往生際が悪いな……」

それでも正々堂々と剣道をしている女の子なのだろうか。

だけど、そっちの方が今は好都合だ。もう一つの実験を開始しよう。

風を感じて相手の攻撃を避けるという実験は見事成功という結果に終った。
ならば次は、風を操る実験に移ろう。



59: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 12:11:15.96 ID:6hqY4anX0

それが、ドクオが気づいた風靭の本当の特性だ。

ウェポンには、特性が二つある。
一つ目は誰でも簡単に気づくことができる。しかし二つ目は違う。

それは、ウェポンとの同調が必要だった。
ウェポンにも意思がある。極単純なものだ。
荒巻のように考えたり喋ったりはできないが、それでも意思はあるのだ。

それを感じて初めて、二つ目の特性を発動できる。
ウェポンを理解しようと思っていない奴には絶対にわからないことだった。
そしてその二つ目の特性こそが、ウェポンの最強の武器と成り得る。

('A`)「いくぞ……風靭ッ!」

ドクオは目を閉じて風靭と同調する。
風靭からはしっかりと意思が伝わってくる。
風靭の意思はただ一つ。

――――勝ち残れ。

その意思を感じながら、ドクオは自らの手がツンの足を掴むイメージを抱く。



61: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 12:13:12.03 ID:6hqY4anX0

ξ゚听)ξ「っ!?」

ドクオに背を向けて走っていたツンの足元に小さな旋風が巻き起こる。
それは見えない形を生み出し、まるで生き物のようにツンの足に纏わりついた。

その瞬間に体のバランスが一気に崩れ、ツンが前のめりに地面に倒れ込んだ拍子に水靭が前方へ弾け飛ぶ。

('A`)「……実験、成功だ」

後は風の操り方を完璧に使いこなして、意識せずとも相手の動きを止められるようにすれば、
もはや自分に攻撃を与えられる者はいなくなるはずだった。

ξ゚听)ξ「くっ!」

倒れ込んだツンが離れた所にある水靭に駆け寄る。
しかし、すでにドクオがその間に割って入っていた。

('A`)「大人しく負けを認めてくれないかな。手荒な真似はしたくないんだけど……」



63: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 12:15:14.46 ID:6hqY4anX0

ξ゚听)ξ「……冗談でしょ。こんな所で負けてたまるもんですか」

キッとツンがドクオを睨みつけた瞬間に、背後にあった水靭が緑色の光の粒子に飲まれて消滅する。

ツンは乾いた笑いを漏らした。

ξ゚听)ξ「ウェポンは具現化されない限り破壊されない。ネオスを取り出す方法は後一つだけ。
     わたしを殺すしか方法はない。どうする? わたしを殺す?
     あんたにそんな勇気があるとは思えないけどねっ!」

最悪でも引き分けにしたい、というのがツンの考えなのだろう。

しかしドクオは、それで引き下がるほど甘くは無い。

('A`)「……悪いことは言わないからさ、水靭を具現化させて。そっちの方が君に取っても楽だから」

ξ゚听)ξ「お断りよ。どうせあんたじゃわたしに何もできない。殺せるなら殺してネオスを取り出せば?」

聞き分けのない女の子は嫌いなんだよな、とドクオはため息を吐く。



65: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 12:16:25.17 ID:6hqY4anX0

いつまでもこんなことをしている暇は無いのである。
今すぐにでも帰って風靭の強化を続けたい。こんな所でのんびりとお話している時間すら惜しいのだ。
勝ち負けは決まったのだから、早く負けを認めればいいのに。もういいか。我慢しなくても。

自分はちゃんと忠告したのだ。それなのにツンが拒んだ。
ツンも納得してこのネオファイトに参加したのだろう。

だったら、どうなろうと自己責任だ。自分には、何がどうなろうと関係ない。

('A`)「……仕方がないか」

ドクオはその一歩を踏み出し、

('A`)「これが最後の通告。水靭を出して。じゃないと、」

ξ゚听)ξ「どうするっていうの? わたしを殺――」

風靭を一瞬で逆手に持ち替え、それをそのままツンの右手に突き刺した。



67: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 12:17:56.23 ID:6hqY4anX0

少なくとも、ツンにはそう見えたはずだった。
風靭の刃は、ツンの人差し指と中指の間に突き刺さっている。

しかしその事実はツンには見えていない。
殺されはしないと高をくくっていた。やられても殴られる程度だと思っていた。
それなのに、目の前のドクオは手を突き刺してきた。

ξ;凵G)ξ「い、いやぁぁぁぁぁ!!」

本当は刺されていないのにも関わらず、ツンの右手は信じられない苦痛に蝕まれている。
それは、一種の暗示のようなものだったのかもしれない。

('A`)「……」

ドクオが姿勢をゆっくりと低くして、手をそっと伸ばす。
その手がガタガタと震えるツンの頬に触れ、耳元でそっとこう囁いた。
 
('A`)「――――じゃないと、死ぬより辛い生き地獄を味わうことになるよ」

止めだった。

ツンが震える唇を必死で動かし、ぽつりとその真名を呼んだ。



69: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/19(木) 12:19:20.28 ID:6hqY4anX0

ξ;凵G)ξ「……水、靭……っ」

一振りの刀が姿を現すのを見ながら、ドクオは手をツンの頭にそっと置く。

先とは打って変わった明るい笑顔で、ドクオはこう言った。

('A`)「いい子だ」

風靭が水靭を打ち砕く。
すると、ツンの体からネオスが排出された。

('A`)「はい、お疲れさん」

ξ;凵G)ξ「……ぅ……ぁ……」

それを回収しながら、ドクオは全身で風を感じていた。

思うことは、ただ一つだけ。



――――やべえ。めちゃくちゃ楽しい。



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