( ^ω^)ブーンがネオファイターになるようです

131: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:25:56

第五話「雷靭」


第十二期ネオファイターによるネオファイト本戦開始から十五日目。

その日は、朝から雨が降っていた。
垂れ流し同然に映し出されているテレビからは、ニュースキャスターが何ともいない表情で

( ・∀・)「本日は一日中雨になる模様。
     場所によっては夜に雷が鳴る可能性があり、外出の際には気をつけてください」

と述べている。

この時期に雷とは珍しいが日本の天気などよくわからないものである。
窓の外からは止むことなく雨がアスファルトを打ちつける音が響き続けていた。

/ ,' 3「おい、飯はまだか小僧」

( ^ω^)「今作ってるんだお。ったく、黙って待っててほしいお」

荒巻の催促にぶつぶつと文句を垂れながら卵焼きを作る。
卵焼きは、ここ数日では毎日のように食べている。
ブーンがバイトでいないときは仕方がないのだが、こうして作れるときは絶対に卵焼きが食卓に並ぶのだ。



132: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:26:15

ベーコンも同じだった。
卵焼きが最も幼いネオファイターのお気に入りであり、ベーコンが最も強いウェポンの好物である。

ちなみにベーコンは新しいのを買ってきたので賞味期限は切れていない。

( ^ω^)「出来たお。さっさと食べるお」

(*゚ー゚)「うん!」

おぼんをテーブルの上に置くと、ベットにイルカと一緒に寝転がっていたしぃがひょっこりと起き上がり、
チャーハンの上に並ぶ卵焼きを見て顔を輝かせる。

同時に、テレビの上で踏ん反り返っていた荒巻もベーコンを視界に収めると翼を広げて飛び立ってくる。

そんな光景を見ながら、ブーンはぼんやりとここは動物園ではないのかと思った。
自分は餌を運ぶ飼育員なのだろう。
その光景が強ち間違いではないのが少しだけ痛い。



133: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:26:44

( ^ω^)「美味いかお?」

(*゚ー゚)「うん。おいしい」

( ^ω^)「そっか。そりゃ良かったお」

ブーンも卵焼きとチャーハンを口の中に入れる。

( ^ω^)(ふむ、我ながら美味いではないか)

荒巻は相変わらず黙々とベーコンを貪っている。
食事中に荒巻が何も言わないのは、美味いと思っている証拠だった。

この数日でそれをすっかり理解してしまったブーンである。

そしてこんな光景に、すっかりと馴染んでしまった自分がいる。
うやむやのまましぃを泊めて以来、その関係がずっと継続されている。

当初はしぃをここに本当に泊めてもいいのかという戸惑いと、
荒巻に殺されはしないだろうかという恐れがあったのだが、
人間慣れれば何でもこなせるようになるらしい。

今ではこの光景が日常になりつつある。

抵抗はあるにせよ、今更にしぃを追い出す気にはなれず、
取り敢えず来る時まではこのままでいいか、とブーンは思っている。



134: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:27:24

チャーハンが半分ほど無くなったときにブーンは口を開く。

( ^ω^)「今日のバイトは一時から七時までだから、晩飯は金置いとくからコンビニで適当なの買えお」

口にスプーンを入れたまま、しぃはぽつりと、

(*゚ー゚)「ブーンは?」

( ^ω^)「いつも通りバイト先で食ってくるから待ってなくていいお」

わかった、と肯いてしぃは最後の卵焼きを食べる。
心なしかその姿が寂しそうに思える。これもいつもながらの光景である。

ブーンが自分の皿に残っていた卵焼きをしぃの皿に移してやると、しぃは嬉しそうに笑った。
それに笑い返しながら、ブーンは残りのチャーハンを平らげにかかる。

スプーンが皿に当たるカチ、カチという無機質な音が、窓の外から届く雨音と混ざり合っていた。



135: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:28:12

テレビの時刻は十二時三十八分を指している。
バイトは一時からなので、出かける準備を始める。

ブーンは煙草とライターをポケットに押し込み、壁に掛けてあるダウンジャケットを手に取る。
腕を袖に通してジッパーを閉めて用意完成。

( ^ω^)「外に出るときは鍵閉めて行ってくれお」

(*゚ー゚)「うん」

しぃは肯く。
それを確認してからブーンは玄関へ向かって歩き出す。

玄関にあるスニーカーに足を突っ込んで格闘していると、なぜかしぃがこっちに向かって歩いて来ていた。
靴を履き終わり、傘を手に持って玄関のドアノブに手を掛けてドアを開けた際に、しぃが笑ってこう言った。

(*゚ー゚)「いってらっしゃい」

( ^ω^)「――……あ、うん。いってきますお」



136: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:28:55

そうして、ブーンはアパートのドアを閉めた。
目の前で止むことなく降り注ぐ雨を見ながら、ブーンはゆっくりと歩き出した。

クソオヤジに実家を追い出されて以来、こうして誰かに「いってらっしゃい」と言われたことも、
もちろん「いってきます」と言ったこともなかった。

そんなことを言われたのも言ったのも、一人暮らしを初めてからは今日が初めてだった。
そんな極々当たり前のことが、今はなぜか無性に嬉しかった。

このアパートが今のブーンの家である。

そのことを今、初めて心の底から実感した。
誰かが家に居てくれるという喜びを、ここ数ヶ月はずっと忘れていたのだろう。
そこまでの過程はどうであれ、この家にはしぃと荒巻がいる。

それが、ただ単純に嬉しかった。

傘を差して雨の中を歩く。
頭上に広がる暗い雨雲の空の下を、ブーンは煙草を吸いながら歩き続けた。


( ^ω^)「さて。今日もバイトを頑張るかお」



雨が、降り続いていた。



138: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:30:28




( ´∀`)「……いい雷雲だモナ」

やっとこのときが来た、とモナーは思う。
ネオスを飲み込んでネオファイターとなり、ウェポンを手にして初めてこの町に訪れた雷雲の塊。

モナーはこれをずっと待っていた。
時期が悪かったのでもはや諦めていたもの。

このままウェポンの特性を発揮できないまま、他のネオファイターに殺されるのだと
脅えていた日々に終止符を打つときが遂に来たのだ。

この期を逃せば恐らく自分はもう勝つことはできないのだろう。
勝負を決めるのは今日しかない。
他のネオファイターが後何人残っているかは知らないが関係はないのだ。



139: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:31:18

このウェポンと雷雲が重なれば恐いものなど何一つない。
頭上に雷雲が広がる限り、自分は最強のネオファイターに値する。

( ´∀`)「雷靭……まさに、最高の攻撃力を持つウェポンだモナ……」

しかし逆に雷雲がなければ意味がない。
雷雲が無ければ、このウェポンは何の力も発揮できないのだ。

その場合は最弱のネオファイターに値する。

ウェポンの特性が強力過ぎる故の制限、といった所だろうか。
しかし、やっと条件が揃った。準備も整ってある。

( ´∀`)「今日一日で、僕は優勝するモナ……。ふふ、モナーハッハッハァ――――!」


雨の中、傘も差さずにモナーは外へと繰り出した。



140: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:32:00

この世に生まれて二十八年、馬鹿だの阿呆だの罵られ、挙げ句の果てには会社をリストラされた。
その屈辱を、世界中のゴミ共に恐怖という名の支配で思い知らせてやるための第一段階の始動である。

このネオファイト戦に生き残り、世界を支配下に置く。

それがモナーの望みだ。

歯向かう者はすべて殺す。
独裁政治の始まりを告げる狼煙を、この雷雲と共に世界に上げるのだ。

( ´∀`)「……見つけたモナ」

モナーの視線の先。
そこには、黒い傘を差して、赤いコートを着た少女が歩いている。

体のすべてが告げる。
その少女が生き残っているネオファイターだと。

( ´∀`)「――……クク、クククク」

最初に戦うネオファイターが少女だということに、体が無意識の内に興奮していた。
運は今、自分の手の中にあるのだとモナーは思った。

楽しい楽しいショー・タイムの始まりだ。



141: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:32:39

頭の中ではすでに、少女はモナーに負けて言い成りになっているという妄想が進行し始めている。
一度始まってしまった妄想は留まる所を知らない。

楽し過ぎた。最高の気分だった。

ただ少女を、めちゃくちゃに壊したかった。

( ´∀`)「――……雷靭」

雷靭を具現化させる。一振りの刀を手に握り締めたまま、雨で足音を消しながら忍び寄る。

モナーは獣のような笑顔を浮かべ、ゆっくりと雷靭を振り上げ、


( ´∀`)「最高モナーァァァァァァァァ!!」


少女が振り返った。


そして、モナーは炎に包まれた。



142: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:33:23




(*゚ー゚)「……よし」

帰って来たときに真っ暗では恐いから、電気は点けたままで家を出ることにした。
時刻は午後の六時半を差している。お腹かが減ったので、しぃは荒巻と一緒にコンビニに行くことに決めた。

ブーンがテーブルの上に置いて行った千円札を手に取り、しぃ愛用の赤いロングコートを着て出発する。

(*゚ー゚)「鍵も閉めたし、しゅっぱーつ」

/ ,' 3「ああ」

荒巻は今、しぃのコートのフードの中にいる。
こうして小さい状態で具現化している荒巻にとって、近くに移動する際にはしぃのフードの中が密かに心地良かった。
辺りから聞こえる雨音に身を任せたまま、フードの中で荒巻は体を丸めて目を閉じる。



143: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:34:04

(*゚ー゚)「ん〜♪」

傘を差したしぃは水溜りが広がるアスファルトを楽しそうに歩いて行く。

しぃは、雨が好きである。

今まではただの一度も、雨の日に外に出たことがなかった。
そもそも晴れの日でも滅多に外には出れなかったのだ。

窓の外から見える雨にずっと憧れていた。

しかし荒巻と出会い、晴れの日でも外に出れるようになり、こうして雨の日でも出歩けるようになった。

荒巻が大好きだった。
自分の小さな世界の鍵を解き放ってくれた荒巻が、いちばんの友達だった。



144: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:34:50

コンビニには、あっと言う間に着いてしまった。
自動ドアの横にある傘楯に傘を入れ、明るい店内へと入るために自動ドアを抜ける。

最初はコンビニというものが未知の世界に思えた。
病院に居たときには絶対に来れなかった場所だったので尚更にそう感じていた。

だけど最近ではコンビニを大分わかってきた。
それがやはり、しぃには嬉しくて誇らしい。

(*゚ー゚)「どれにしようかなぁ……」

お弁当などが置いてある棚を眺めていると、フードの中の荒巻がもぞもぞと動いた。

(*゚ー゚)「何食べる?」

荒巻は顔を覗かせて食品を一通り見渡し、やがてその視線がある場所で止まった。

/ ,' 3「それを食う」

(*゚ー゚)「どれ?」

/ ,' 3「それだ」

その視線を追って、荒巻が食べたいものを手に取る。
パックに何か肉のようなものが詰まったものだった。商品名を読んでみる。



145: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:36:02

(*゚ー゚)「ミミガー……? なにこれ。おいしいの?」

/ ,' 3「知らん。ただ名前が気に入った」

しぃにはあまり美味しそうには見えなかった。
だが荒巻がこれを食べたいのだったら買ってあげよう、としぃはミミガーを買うことに決める。
自分は今、お金持ちなのだ。千円も持っている。何でも買えるのだ。


(*゚ー゚)「これも買おうっと」

サンドイッチとポテトチップスも手に取り、しぃはレジに向かう。

(*゚ー゚)「これください」

从 ゚∀从「いらっしゃいま……」

(*゚ー゚)「?」

それを持ってレジに向かい、コートから千円札を取り出して代金を支払うことにする。
その光景は、しぃから思えば極当たり前なのだが、他人の目から見れば少しだけ可哀想な光景だった。



146: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:37:11

从 ゚∀从(夕飯の時間なのに、こんな子供が一人で夕飯を買いに来ているなんて……)

しかも財布ではなくポケットから千円札を出して代金を払っているし、
怪獣のフィギュアが宝物のようにフードに入れてある。

从 ;∀从「そうか。おじょうちゃん、頑張るんだよ!」

そう言いながら、レジのお姉さんは飴玉をしぃに渡した。

(*゚ー゚)「……? ありがとう」

それに首を傾げつつも、お礼を言いながらしぃはコンビニを後にする。

コンビニの袋を手にしたまま傘を差し、雨の道を引き返して行く。
ブーンが帰って来るのは七時だと言っていた。

袋の中に入っているポテトチップスを見ながら、帰って来たら一緒に食べようとしぃは思う。
ブーンは喜んでくれるだろうか。うん、きっと喜んでくれる。
ブーンと一緒にポテトチップスを食べている自分を想像し、嬉しくなるしぃである。



147: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:37:40

そして、コンビニから五分ほど歩いた頃だった。

フードの中で丸まっていた荒巻が、唐突に這い出てきた。

(*゚ー゚)「どうしたの?」

荒巻はやはりいつもと変わらずにこう言った。

/ ,' 3「振り向かずに歩いたまま聞いてくれ。しぃの後ろにネオファイターがいる」

言われて初めて、しぃは後ろにネオファイターの気配があることに気づく。

(*゚ー゚)「そっか」

が、しぃに別段何か変わった所は見られない。
しぃにとってみれば、後ろにネオファイターがいる、だからなに? に他ならないのだ。

それは、荒巻も同じだった。



148: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:38:29

/ ,' 3「おれが合図したら振り向け。そしたらおれが片付ける。いいな?」

しぃは無言で肯く。
雨の音だけが響くアパートまでの道のりを、しぃは歩き続けた。
ネオファイターの気配が段々と近くなっていることに気づく。

途中、ウェポンを具現化した感じが伝わった。
何かは振り向いてみないとわからないけど、たいじょうぶだ。荒巻が、負けるはずはないのだから。

/ ,' 3「――振り向け」

言われた通りに振り向いた。

そこに、雨に混じったブーンより遥かに大きい巨漢がいた。モナーである。

その手に握られた雷靭がしぃに振り下ろされそうになったその瞬間、
荒巻がフードから飛び出してその口を抉じ開ける。

/ ,' 3「――――消えろ」



149: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:39:12

一瞬だった。

荒巻の口から吐き出された火炎放射がモナーの体を覆い尽くす。
幾ら力が抑えられいると言っても、荒巻はウェポンの中では紛れも無い最強である。

小さくなっていても、人間の一人や二人丸焼きにするだけの力はある。

そしてこのとき、雨が降っていなければモナーは本当に焼き殺されていただろう。

(;´∀`)「ギャァァッァァァァァ――――!!」

炎に包まれたモナーは絶叫しながらアスファルトを転がり、必死で火を消そうとする。
そんな愚か者を見据えながら、荒巻はしぃに言う。

/ ,' 3「先に帰っていろ」

しぃが笑う。荒巻が必ず帰って来るということを信じて疑わない。

(*゚ー゚)「うん。待ってるからご飯一緒に食べよう」

/ ,' 3「ああ」

しぃが踵を返しながら、その真名を呼んだ。

(*゚ー゚)「――……荒巻」



150: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:40:09

雨が降り注ぐその世界が歪んだ。

まるで雨の一滴一滴が変化するかのように、膨大な量の緑色の光の粒子があふれ出す。
そしてその光は小さな荒巻の体に収縮される。
瞬間の内にその体は大きさを増し、気づいたときには見上げるような巨大な真紅の竜が姿を現している。

雨に濡れてもなお変化が無い、燃え盛る眼光を宿らせて、幻竜型ウェポン・荒巻は具現化した。

(;´∀`)「が……モナ……!?」

体の火を消したモナーは、その荒巻を目にして息を呑んだ。
予想外のはずだった。目の前に、恐ろしいほどの力を発しているウェポンが存在しているのだ。

/ ,' 3「貴様が誰かは知らん。が、しぃを相手にしようとしたのが間違いだったな。諦めて―−」

荒巻の言葉が最後まで紡がれる前に、モナーの顔に獣のような笑顔が戻って来る。
無様な体勢から一発で立ち上がり、自らの手に持つ雷靭を雷雲の広がる暗い空に突き上げた。

(#´∀`)「発動するモナァァァ――――雷靭っ!!」

刹那の瞬間に、辺りの光景が一瞬で空白に包まれた。

荒巻がそのウェポンに気づいたときにはすでに、それは、直撃していた。


――――落雷だ。



151: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:41:15

荒巻の真紅の体が閃光に飲まれて地面が弾け飛ぶ。

斬撃型ウェポン・雷靭。
その特性は、雷雲が存在するときに限り、意のままに落雷を落とすことが可能になる。

だが雷という強力な力を操るのにはそれなりの条件が必要だった。
それが雷雲だ。雷雲が無ければ特性は発動されない。

しかし雷雲があれば、雷靭は最も威力のある自然現象を味方につけることができるのだ。

条件が満たされた場合に限り、雷靭は最も攻撃力の高いウェポンと化す。

(#´∀`)「ひゃっはぁああああっ!! 図体ばかりでかくてもこの雷靭の前じゃ意味ねんだモナっ!!
      僕が最強モナっ!!」

確かに、雷雲が頭上に広がる限り、雷靭は最強に近い。



152: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:42:00

/ ,' 3「成る程な……」

(;´∀`)「も、モナ!?」

だがしかし、それは荒巻には通用しない。

落雷が直撃して煙に包まれたその中から、二対の燃え盛る眼光が一直線にモナーを貫いた。
モナーの絶叫が止まり、何事かをつぶやきながら僅かに後退する。

雨が打ちつけるそこから、真紅の竜が再び姿を現す。
荒巻は、傷一つ負っていなかった。

全身から発生する煙を引き伸ばしながら、巨大な口を裂かせて実に楽しそうにモナーを見下げる。

/ ,' 3「雷靭か。しかも特性による条件が揃っている。他のウェポンなら跡形も残らんだろう。……だが」

荒巻の口の奥底に、オレンジ色の光が集まり出す、

/ ,' 3「その程度でこのおれに勝とうなどとは、驕りが過ぎる」

真紅の竜が、抉じ開けられた口から炎の弾丸を撃ち出す。



153: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:42:45

(;´∀`)「ウァァァァァァァ!!」

絶叫するしかモナーに道は残されていなかった。
それでもモナーを動かしたのは、己の望みに対する欲望だった。

間一髪で炎の弾丸から避けることに成功したモナーのすぐ背後から、圧倒的な破壊が巻き起こる。
アスファルトが抉り取られて轟音と共に爆風が襲う。

(;´∀`)「ぐぎゃぁぁぁ!!」

その風圧でモナーの体は吹き飛ばされ、電流にぶち当たって骨が軋む音が響き渡る。

荒巻は、手加減などしなかった。
しぃを狙うネオファイターに、そんなものは不要だった。



154: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:43:30

(;´∀`)「あ……がぁ……ヒッ……」

もはや身動きできないモナーに向き直り、つぶやく。

/ ,' 3「相手が悪かったな。諦めて……死ね」

荒巻が再び炎の弾丸を撃ち出す。
それでモナーは死ぬはずだった。


(#^ω^)「――――おおおおおお!!」


しかし、そうはならなかった。

モナーを吹き飛ばして助け、なおかつ炎の弾丸を避けて、荒巻の前に現れた。
二体一対の漆黒の鉄甲を構えながら、ブーンが荒巻と対峙する。

/ ,' 3「……どういうつもりだ、小僧?」



雨が、降り続けていた。



155: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:44:06




( ^ω^)「お……?」

バイトが終ってしぃと荒巻の待つアパートへ帰ろうと歩き出した瞬間に、本当にすぐ近くに雷が落ちた。
体を震わせて耳を塞ぎ、反射的に雷が落ちたと思われる場所へ視線を移す。

そこから、白い煙が上がっていた。
どこかの家に落ちたのかもしれない。

( ^ω^)「しぃが怖がってるかもしれないお……」

早く帰ろうと思った際に、やっと気づいた。
頭の中の出来の悪いレーダーが警告を発する。

( ^ω^)「……!」

近くで、ネオファイターとウェポンが戦っている。
しかもウェポンの力の波動が冗談のように巨大だった。

そしてブーンは、その波動を知っている。

忘れもしない五日前、自分はその強大な力の前に対峙したのだ。



156: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:44:35

(;^ω^)「――――荒巻!?」

状況は、一発で理解できた。
荒巻が、誰かと戦っている。しぃが近くにいないのは荒巻が離れていろとでも言ったからだろう。

思考を巡らす。
恐らく、荒巻と戦っている方のネオファイターが先に仕掛けたのだろう。
だったら、状況はかなり緊迫してくる。

荒巻は、しぃに牙を剥く者を許しはしない。
この五日間でそれはよくわかったつもりだ。

下手をすれば、荒巻は相手のネオファイターを殺してしまう。

悪いのはそのネオファイターだとしても、殺されるとわかっている人間をみすみす殺させてはならない。
その殺すウェポンが荒巻なら尚更だった。

( ^ω^)「弧徹――――!」

傘をその場に捨て、真名を呼びながら走り出す。

雨を切り裂きながら具現化された孤徹で地面を弾いて暗い雨雲が広がる空に舞い上がり、
二撃目で電柱を砕いてさらに加速する。



157: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:45:11

ブーンが目指すその先から、轟音が響いていた。

( ^ω^)「この波動……やっぱり荒巻だお!」

手遅れになるな、と心の中で叫びながら、ブーンはそこへ突っ込んだ。

( ^ω^)「!!」

状況は、一刻一秒を争っていた。
完全に具現化した真紅の竜・荒巻の目の前に、身動き一つしない男・モナーが横たわっている。

荒巻から圧倒的なまでの力が放出される。
炎の弾丸が荒巻の口から撃ち出され、それがモナーに直撃するか否かの瞬間に、ぎりぎりで間に合った。

(#^ω^)「――――おおおおおお!!」

孤徹を地面に打ちつけて加速し、モナーの体を蹴り飛ばして炎の弾丸の軌道から外す。
蹴り飛ばした遠心力を利用して、今度はブーン自身も炎の弾丸の軌道から離脱した。

雨で濡れたアスファルトの上を滑りながら立ち上がる。

爆発が起こる中、ブーンは荒巻と対峙した。
荒巻が不可思議そうにつぶやく。

/ ,' 3「……どういうつもりだ、小僧?」



158: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:46:05

( ^ω^)「……どうもこうもねえお。お前今、あいつを殺そうとしたお」

何を当たり前なことを訊くのだ貴様は、というな視線でブーンを見て、荒巻は言い切った。

/ ,' 3「当然だ。以前貴様にも言ったはずだ。脱落者となるネオファイターは必ず、殺せと」

孤徹を打ち鳴らして叫ぶ、


(#^ω^)「ふざけんなおっ!! 勝負は着いてんなら殺す必要ないおっ!
       ウェポン破壊してそれで終わりだおっ! なんで殺す必要があるんだおっ!!」

荒巻が首をゆっくりと傾げ、そしてようやく納得したかのようにため息を吐く。

/ ,' 3「貴様は勘違いしている。いいか、ネオファイトでネオファイターを殺すということはつまり、
    ――……見ろ、殺さぬからそうなるんだ小僧」

その意味を、ブーンは一発で理解した。

背後を振り返りながら孤徹を頭上に構える。
刹那に漆黒の鉄甲に雷靭の刃がぶち当たる。

しかし、物理攻撃を無効化する孤徹には通用しない。



159: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:46:42

(#´∀`)「モナァァァァァ!!」

雷靭を力の限りで握り締めているモナーは、もはや正気ではなかった。
狂気に染まった目が真っ直ぐにブーンを捕らえている。

口から血を流し、それでもモナーは戦闘を止めようとはしない。
体の節々から筋肉が切れる音が鳴り、骨が軋みを上げる。

痛みはあるはずだ。それなのに、モナーは表情一つ変えずに雷靭を振り上る。

(;^ω^)「やめろおっ! もう勝負はついてるお!」

その攻撃を孤徹で正確に受け止めながらブーンは叫ぶが、モナーには届かない。
次から次へと出鱈目に繰り出される斬撃を鉄甲が防ぎ続ける。

なぜ負けを認めないのか。もう勝負は着いている。
大人しくウェポンを破壊されろ。それが、当たり前だろ。


――――それ以上傷を負って戦った後に、一体何が残るというのだろう。



160: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:47:34

そんなに戦い続けたいのか。そんなに優勝者になりたいのか。
自分の体がぶち壊れてもなお、なぜお前は戦い続けるんだ――。

(#´∀`)「「がぁぁぁあああ!!」

雷靭の最後の一撃を、孤徹は無効化する。

( ^ω^)「……もう勝負は着いたお、負けを認めるお」

雨が降り続けるその中で、ブーンはそう叫んだ。
しかしモナーは負けを認めることなどせず、狂気に染まった顔をブーンに向け、獣のように笑って絶叫した。

(#´∀`)「発動するモナァァァァ!! 雷靭――――!!」

(;^ω^)「お!?」

瞬間、体が吹き飛ばされた。
モナーによる攻撃ではない。ブーンの体は、荒巻によって吹き飛ばされていた。



161: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:48:08

スローモーションのように真紅の巨体が遠ざかるその中で、なぜ荒巻が自分を突き飛ばしたのかわからず、
声を張り上げようとした刹那に、視界が空白に染まった。

目前にいた荒巻に、落雷が直撃する。

世界を塗り潰す閃光と共に、大地を揺るがす轟音が鳴り響く。


荒巻が死んだと、本気で思った。


そして、ブーンが見ている空白の世界から、二撃目の落雷を受けてもなお無傷の真紅の巨体が現れ、


――――荒巻が、モナーを噛み殺した。


(メメ∀`)「が……」

真紅の体に返り血が噴射され、雨と混じり合ってゆっくりと流れ落ちていく。
雷靭が緑の光の粒子となって荒巻の体に吸収される。

モナーの体が雨に濡れたアスファルトに投げ出される。


雨の音だけが、響いていた。



162: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:49:33




( ^ω^)「……なんだお、そういうことなら最初からそうだって言えお。
       本気でお前があいつを噛み殺したと思ったお」

安心した瞬間に体からすべての力が抜けた。

そんなブーンに向かって、テーブルの上にいる荒巻は面倒臭そうにつぶやく。

/ ,' 3「だから敗者は殺せと言っているんだ」

( ^ω^)「まあそうなんだけど……でもあれだお?
       幾ら死なないって言っても、やっぱ人を殺すのは気分悪りぃお」

/ ,' 3「それは個人の問題だ。――それより、何だこれは? こんな不味いもの食ったことがない」

(;^ω^)「当たり前だお。ミミガーなんて買って来るお前が悪いお。
       流石の僕でも食ったことねえお、不味そうだし」

荒巻はしぃに開けてもらったパックのミミガーを一つだけ貪ると、ただただ「不味い」を繰り返す。
ミミガーから興味を失った荒巻は、挙げ句の果てに「もうこんなものはいらん。ベーコンを焼け」と命令してきた。



163: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:50:42

それに重たい腰を上げながらも、ブーンは素直に従った。

元々荒巻の前では圧倒的なまでの力関係で従わされており、
それに加えて落雷から救ってもらうという借りまで作ってしまった。

ブーンには、もはや反論できるだけの権利は無かった。

(*゚ー゚)「あ、ブーン……」

( ^ω^)「はいはい。卵焼きだおね」

ついでに卵焼きもよろしく。しぃの視線は、そう言っているのだ。
何を賭けてもいい。それに間違いない。面倒ではあるが、ついでだから作っておこう。

小さなフライパンを取り出し、ベーコンと卵焼きを同時に調理し始める。



164: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:53:09

少しだけ、説明しておこうと思う。

雨の降る中で荒巻がモナーを噛み殺した際に、ブーンは怒りに我を忘れて荒巻に食ってかかった。
しかしそれは呆気なく弾き返され、強制的にアパートまで引き摺り戻される。

そこで荒巻に聞かされたのだ。
ウェポンを使ってネオファイターを殺した場合に限り、その生命及び負傷箇所は
午前零時になると自動的に復活及び治癒されることを。

ネオファイター同士で殺し合いをした時、正々堂々と戦って敗者になり死んだ場合、その日一日は間違いなく死ぬ。
だが、次の日になれば蘇ることができるのだった。

だから荒巻は、牙を剥かれる前に敗者は殺せと言ったのだろう。

物質についても同じだ。
ブーンが森で訓練をしていた時に起こったこと。

それは、ウェポンで破壊したものは元通りになるが、ブーンが素手で破壊したものは元通りにならなかったのだ。

もう一つ、ウェポンではないものでネオファイターを殺めた場合。
例えば台所にある包丁などでネオファイターを殺してしまった場合は蘇れない。



165: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:54:12

手紙に書いてあった『殺人犯にならない』というのはそういう意味なのだろう。
ネオファイト執行協会本部の言いたいことをまとめれば、

「ウェポンで殺してしまった場合はこちらで責任を取って蘇らせてやる。
 だが、他のもので殺してしまった場合は知らねえぞ」

というようなことだと思う。

理不尽のように思えるが、ウェポンを用いて戦うことを知っているブーンにとってみれば、
ネオファイター相手に普通の刃物など何の役にも立ちはしない。

即ち、最初からウェポンだけを用いて戦い合うように仕組まれているのだろう。



166: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:55:12

「……」

そして、ブーンはこのときになって初めて、ネオファイト執行協会本部というものを恐ろしく思った。

いや、ネオスを飲み込んでネオファイターになったときから心の奥底では常に思っていたのだ。
しかし楽しかったので深くは考えないようにしていたこと。
ここに至ってやっと、それを考えた。

最初に来るはずだった生の疑問。
それが、ネオファイトとは一体何なのか、である。

こんなものがこの地球上に存在するとは思えない。
しかもそれで壊したものは午前零時になると自動修復される。
果てには死んだ人間を蘇らすこともできるのだ。

そんな技術を、今現在の人間が持っているなどとは、到底思えなかった。

無意識の内に作っていた卵焼きとベーコンを皿に移してテーブルへ運ぶ。

――――ブーンが考える疑問の答えを知っているのは、恐らく荒巻だけだろう。

ベーコンを貪ろうとした荒巻に向かって、ブーンは言葉を紡ぐ。

( ^ω^)「なあ、ネオファイトって……一体何なんだお?」



167: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/20(金) 16:56:22

荒巻の視線が一瞬だけブーンに向けられる。
だがすぐに視線を外し、僅かな間を置いて、荒巻はこう答えた。

/ ,' 3「貴様等とは違う軸を生きる人間の戯れの産物だ」

( ^ω^)「違う軸?」

/ ,' 3「それ以上は【掟】に反する。もし貴様が優勝者になったら自ずとわかることだ。
    今はまだ知る必要はない」

そう言って、荒巻はベーコンを貪った。隣ではしぃが卵焼きを頬張っている。
ブーンは煮え切らないまま、そんな光景を見つめる。


その夜、しぃが買ってきたポテトチップスを一緒に食べた。
そして次の日の早朝、何も書かれていない封筒が二通、郵便受けに突っ込まれていた。


それは、ネオファイト執行協会本部が、ブーンとしぃに宛てた通知だった。



――――第十二期ネオファイター参加者数が、五名にまで、減った。



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