( ^ω^)ブーンがネオファイターになるようです

3: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 09:37:06.74 ID:ZbE1huax0

第七話「羅刹」


('A`)「……悪りぃ、約束守れなかった」

そう言って、ドクオは血塗れのまま目を閉じた。

排出されたネオスは意思を持つように緑の光の粒子と化し、
駆け寄ったブーンの体内に風靭と水靭のネオスが二つ蓄積された。

( ^ω^)「ドクオ……」

ドクオの上半身を起こして、しかし結局は何と言っていいかわからずに呆然としていた。
目の前の光景が何一つ理解できなかった。
ドクオが脱落者になったという事実を、脳が頑なに否定する。

肩口から流れ続ける赤い血が現実のものとは思えない。

ウェポンによって負わされた傷は午前零時になれば修復されるということを知っている分、
その光景はやはり現実味を帯びなかった。



4: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 09:39:07.06 ID:ZbE1huax0

(#^ω^)「ふざけんなお……! お前、最後まで生き残るっていったじゃないかお!」

もうドクオとは、戦えないのだろうか。

ネオスが排出され、ブーンの体に蓄積されたということは紛れもない事実である。
それは、正確にドクオがネオファイターではなくなったことを差していた。
だがそれが、あまりに呆気なかった。

最大の戦友の最後がこんなにも呆気ないことがどうしても納得できない。

(#^ω^)「ちくしょおおおおおお――――!!」

拳を握る。
悔しさだけが空回りする。

最後に戦うはずだった戦友の、唐突の脱落。
何のために自分がこのネオファイト戦を勝ち抜こうとしたのか、それが頭の中から消え失せた。

ドクオと戦って勝利する、それだけのために戦っていたはずなのに。
それがもう、不要になった。ならば、自分がネオファイト戦を行う意義はどうなるのだろうか。

ドクオがいないネオファイト戦を続行するだけの意味が、この自分にはあるのだろうか。



6: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 09:41:49.88 ID:ZbE1huax0

真剣勝負を邪魔されたのが納得できなかった。

甘ったれた意見だとは思う。他のネオファイターが聞いたら鼻で笑うような意見だろう。
だけど、せっかくこれからさらに強くなろうと心に決めたその瞬間にすべてが終ってしまったという事実は、
自分でも制御できない怒りとなって弾けた。

邪魔をしてくれたネオファイターに、怒りをぶつけてやろうと思った。

しかし結局、それさえもできなかったのだ。
ドクオを脱落者にしたネオファイターは、荒巻が殺した。

その荒巻は、今まで見たどの荒巻とも違った。圧倒的な壁に他ならない。

荒巻の力は、強大過ぎた。
そして、その強大な力の発現が、今までの生活のすべてを狂わせた。


( ^ω^)「しぃ、大丈夫かお?」

(*゚ー゚)「……ん」


――――ドクオが脱落者になったその日から、しぃの体調が悪化の一途を辿った。



9: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 09:43:36.96 ID:ZbE1huax0

しぃの残りの命は、後半年も無いのだ。

しぃは産まれ付き心臓に病を持ち、産まれたときから病院暮らしを余儀なくされていた。
しかし荒巻がしぃの体を変えたのだ。

荒巻のネオファイターになったときから、しぃの体は荒巻によって制御されていた。
心臓の病の進行を食い止め、自らの力の大半をしぃに託すことでその体を健康状態にまで引き上げていたのだ。

幻竜型ウェポン・荒巻にしかできない芸当である。

しかし、その均衡が崩れた。
しぃの中で暴走した荒巻の力は一気に霧散し、すべてを元通りにした。
つまり、しぃの体は、荒巻と出会う以前の状態に戻ったのだ。

今のしぃには、小鳥のように外を自由に駆け抜けるだけの力は無く、卵焼きだってお腹一杯食べれなくなった。



10: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 09:45:41.17 ID:ZbE1huax0

( ^ω^)「しぃ、やっぱり病院に戻った方がいいお。このままじゃ辛いお?」

(*゚ー゚)「いや!」

しぃは泣きながら首を横に振る。

(*゚ー゚)「……死んでもいいから、最後まで荒巻と一緒にブーンの所に居させて」

( ^ω^)「しぃ……」

泣きながらそんなことを頼まれたら、従うより他になかった。

日常と思っていた光景が歪んでいく。
ドクオはネオファイターではなくなり、しぃは元気に笑えなくなった。

ブーンは一人、何もできないまま拳を握り続ける。

残りネオファイター参加者数は三名。
ブーンとしぃ、そして打撃型ウェポン・羅刹を用いるネオファイターだけだ。



12: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 09:47:24.41 ID:ZbE1huax0

しぃの不調により、優勝するのはもはや誰かわからなくなった。

もしかしたらそのまましいが優勝するかもしれないし、ブーンかもしれないし、
もしかしたらもう一人のネオファイターかもしれないのだ。

考える。今、自分がするべきことは何なのか。
今、自分にできることは何なのか。

答えは、考えればすぐに辿り着ける場所に転がっていたのかもしれない。

ドクオが脱落した。最大の戦友と戦う機会を失った。
しかし、それがすべてではなかったのかもしれない。

自分の最終目的は、ドクオを倒して優勝することだったはずだ。
でもドクオは先に負けた。

――――だったら、自分はこの本戦で優勝して当たり前なのではないか。

最強の戦友がいなくなった今、自分が優勝しなければドクオに顔向けできないのではないのか。

( ^ω^)「……そうだお。弱音を吐いていたら、それこそドクオに殺されちゃうお」



13: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 09:49:18.39 ID:ZbE1huax0

いつも孤徹を訓練していた森へと足を向けた。
辺りに人の気配は無くて民家も無い森の入り口にブーンは一人佇む。

まずは、優勝者になる。そこからすべてが始まるのだ。

最初に叩き潰す相手は打撃型ウェポン・羅刹を持つネオファイター。
幻竜型ウェポン・荒巻はその次に倒す。こんな考えは卑劣なのかもしれない。

だけど、今のしぃと荒巻が相手なら、荒巻は超えられない壁ではない。

しかしそれでも、今の荒巻が相手でも限界に挑戦するほど高い壁なのだ。
今じゃなければ、荒巻を越えられない。
そして超えるためには、今以上の力が必要になる。

すべてを乗り越えるだけの力。それが、自分にはあるという絶対の自信。
闇の向こうに見える森の奥底を見据えながら、ブーンはその真名を呼んだ。

( ^ω^)「――孤徹」



15: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 09:51:54.54 ID:ZbE1huax0

空間が歪み、緑の光の粒子があふれ出す。
それは意思を持って漂い、ブーンの両手に収縮される。

やがてそれは形を造り出すために活動を開始する。
ズシリと重い感覚が両腕に伝わったその刹那、二体一対の鉄甲がその姿を具現化させた。

( ^ω^)「……ふぅ」

漆黒に鈍く輝く孤徹を見据えながら、ブーンは目を閉じて大きく息を吸う。

しぃは今頃、アパートのベットの上で眠っているのだと思う。
瞼の裏にいる、無邪気に笑うしぃに想いを巡らす。

初めてしぃと出会ったときのことを思う。
イルカとじゃれ合うしぃを思う。卵焼きを嬉しそうに頬張るしぃを思う。

「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」を言ってくれたしぃの笑顔を思う。
一緒にポテトチップスを食べたことを思う。
本当に嬉しそうに笑うしぃを思う。


――――そして、共に過ごした七日間のすべてを思う。



16: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 09:54:23.70 ID:ZbE1huax0

楽しかった。
家に誰かがいるという喜びが、純粋に心地良かった。

もし。もし自分が優勝者になれたのなら、しぃの望みを叶えてやろうと思う。
楽しかった時間をくれたしぃへの、ちょっとした恩返しだ。

しかしそのためには、全力で荒巻を打ち倒す必要がある。
恩返しは、自らの手で掴み取らねば意味がない。
優勝者になることが、ブーンの始まりなのだ。

ブーンが優勝者になったその瞬間、ドクオとの決着も、しぃへの恩返しも叶う。
自分自身の望みは、優勝者になること。ただそれだけだ。

(#^ω^)「おおおおおおおぉぉぉ――――!!」

荒巻の殺気と、まだ見ぬもう一人のネオファイターへと向かって、ブーンはその場で絶叫する。

自らを振るい立たす獣の叫びだった。



17: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 09:56:51.80 ID:ZbE1huax0




/ ,' 3「……」

ベットの上で眠るしぃの枕元に体を埋め、荒巻はジッとその寝顔を見つめている。

しぃの望みは、荒巻と一緒にいることだと言った。
しかし、それはもはや叶わなくなってしまったのだろう。

荒巻がこれからしぃの側にいても、しぃはもう助かりはしない。

今の自分にできることは何なのか。それは、しぃを助けてやること。
それしか思いつかなかった。

この自分が、唯一主と認めたネオファイターを、自らの手で助け出すのだ。
しぃを優勝者に出来れば、それは可能になる。
他のネオファイターが優勝しても、奴……杉浦が存在する限り望みは叶えられないだろう。

しかし、自分ならそれが可能なのだ。

勝ち残る必要がある。どんな手を使ってでも、例え【掟】を破ってでも、必ずしぃを優勝者にさせる。
目の前に立ちはだかる者はすべて皆殺しにしてやる。



18: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 09:59:33.84 ID:ZbE1huax0

(*゚ー゚)「う、ん……」

しぃが少しだけ苦しそうに寝息を荒める。
その瞬間、荒巻はネオファイターの戦闘反応が頭の中に湧き上がったことを知った。

/ ,' 3「これは……」

荒巻は首を上げ、窓の外に見える青空を見据える。
神経を集中させて状況を探る。二名のネオファイターが戦闘を行っている。

片方は小僧だ。そしてもう一方のネオファイターは――

毛布が擦れる音が耳に届いた。視線を移したそこに、ベットから上半身を起こしているしぃを見た。

/ ,' 3「しぃ」

(*゚ー゚)「――助けて、あげて……」

虚ろな瞳でそうつぶやき、しぃは荒巻を見つめる。
荒巻は、しぃのその言葉に対して何も言えなかった。

切実な感情が宿るその瞳には、もはやどの言い訳も通用しないだろう。

そしてしぃは、最強のウェポンの真名を呼んだ。

(*゚ー゚)「――……荒巻……――」



19: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:01:24.98 ID:ZbE1huax0




(;^ω^)「はぁ……はぁ……うあ」

あれから何時間、ブーンは孤徹に呼びかけ、辺りのものを壊したのかはわからない。
ただ、目の前にあるのは来たときとは随分と変わり果ててしまった森の頂上付近だけだった。

壊し過ぎた、とブーンは思う。

辺りには、いつの間にこんなに倒したのだろうと呆気に取られるだけの量の木が無造作に転がっていた。
無意識の内に起こしてしまった行動と言っても、幾らなんでもこれではやり過ぎである。

午前零時になれば元通りにはなるが、木々も生きている。
それを何の目的も無しに薙ぎ倒すのはやはり良くない。

これからはここでの訓練を控えた方がいいのかもしれなかった。

( ^ω^)「結局……何も変わらなかったお」

その場に座り込み、それだけの木々を壊したのにも関わらず、傷一つついていない孤徹の漆黒を見つめる。
結局、孤徹はブーンの意思には最後まで応えてくれなかった。

強くなるのだと意思を送り続けたブーンを他所に、孤徹は沈黙を守り通している。



20: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:03:14.51 ID:ZbE1huax0

(#^ω^)「クソッ! どうして答えてくれないんだお!」

こうして止まっていると考えなくてもいいことばかり考えてしまう。
頭の中で意味を成さない自問自答が繰り返される。

それが嫌だった。だからこそ、木々を薙ぎ倒すことでその邪念を振り払っていたのだ。

しかしそれも、限界が近い。
いつまでもここでこうしていても何も始まらない。

( ^ω^)「……仕方ないお。家に帰るお」

しぃはまだベットで眠っているのだろうか。
家に帰ったら卵焼きを作ってやろう。少しくらいなら食えるはずだ。

しぃはまた、笑ってくれるだろうか。

面倒だがついでに荒巻のためにベーコンも焼いてやろうではないか。
一人と一匹が待つ家へ帰ろう。ブーンは孤徹を解除しようとして、止めた。



23: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:05:35.15 ID:ZbE1huax0

ブーンが気づき、振り向くより一瞬だけ早くにその声は聞こえた。

( ゚∀゚) 「うわっ、すっげえなぁこりゃあ。めちゃくちゃだ」

振り返ったそこに、一人の男を見た。知らない男だった。
年はブーンとそう違わないように見える。

服装は雑誌に載っているような感じのイマドキ風で、
金髪に染め上げた髪をワックスか何かでガチガチに固めて突き立ててある。

その顔は何とも言い難い表情で笑っていて、どこか擦り切れたような不気味な雰囲気を持つ男である。

( ^ω^)「……」

そして、理解した。
そう難しいことではない。知らない奴が今のブーンを訪ねてくる理由はただ一つだけだ。

この男も、ネオファイターである。

打撃型ウェポン・羅刹を持つネオファイター。
同時に、ブーンが荒巻の前に倒さねばならない相手である。



24: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:07:53.02 ID:ZbE1huax0

( ゚∀゚)「ふーん……。あんた、ここで訓練してんだ」

男は薙ぎ倒された木々を一通り見渡し終わると、座り込んでいるブーンに視線を向ける。

( ゚∀゚)「初めまして。ジョルジュッス。あんたと戦いに来ました」

そう言って、ジョルジュは笑った。
そしてジョルジュは、そのまま視線をブーンの両手に落とし、実に興味深そうにつぶやく。

( ゚∀゚)「それがあんたのウェポン? カッケーじゃん。おれもそんなのがよかったなあ。おれのウェポンってさ」

その声のすべてが耳障りで、ジョルジュの存在自体が今のブーンにとっては目障りだった。
沸々と湧き上がってくる頭の隅を渦巻いていた行き場の無い怒りが、ようやく行き場を見つけたのだ。

頭の中で押さえ込んでいた怒りの感情が、目の前の敵に注がれる。

( ^ω^)「……何の用だお」

( ゚∀゚)「言ったじゃん。あんたと戦いに来ましたって。おれの話聞いてる?」

それはそれはご苦労なこった、とブーンは思う。



25: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:10:09.39 ID:ZbE1huax0

小さく息を吐き出しながら腰を上げる。
態々倒されに来てくれるとは思ってもみなかった。
その敬意を表しジョルジュに感謝しよう。無駄な手間を省いてくれてありがとう。


――――そして、黙って死んでくれ。


体をジョルジュに向け、孤徹を打ち鳴らす。

( ^ω^)「ウェポンを具現化させろお」

( ゚∀゚)「せっかちだな。せっかくおれから会いに来てやったんだからもう少しのんびりと……」

( ^ω^)「黙れ。殺すお」

( ゚∀゚)「おやおや、お怒りのご様子で」

頭のどこかで何かが切れた。
無意識の内にブーンは拳を握り締める。

すべてに置いて腹立だしい。

ドクオが脱落してしまったこと。その敵討ちをできなかったこと。
超えられない壁が存在すること。しぃが笑えなくなったこと。

そして何より、自分が今以上に強くなれないことが最もムカつく。



26: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:12:04.06 ID:ZbE1huax0

( ゚∀゚)「んじゃまあ……取り敢えずやりますか」

ブーンの殺気を感じたジョルジュは、実に面倒臭そうに言葉を漏らして、その真名を呼んだ。

( ゚∀゚)「羅刹」

辺りの空間が歪み、緑の光の粒子があふれ出す。
その粒子の量が、荒巻には到底及ばないものの、孤徹よりかは多かった。

それはつまり、孤徹よりも大きなウェポンということになる。

ブーンが見ているそこで、粒子は意思を持ってジョルジュの体に収縮されていく。
しかしそれは、部分的な収縮ではなかった。粒子は、ジョルジュの体を覆い尽くすように集まっている。

やがてジョルジュの体は緑の光に飲まれ、身動き一つせずにいること数秒の後、唐突に弾けた。

ジョルジュの体を覆っていた粒子は一挙に霧散し、そのウェポンを具現化させる。
緑の光の中から現れたその姿を見て、ブーンは僅かに息を呑む。



28: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:14:04.45 ID:ZbE1huax0

( ゚∀゚)「装着完了っと」

ジョルジュの体は、隅々まで灰色の甲冑に包まれていた。
いや、それは甲冑などという上等な代物ではない。まるで巻貝のような構造だった。

不規則に括れた歪な貝殻がジョルジュの体を覆い尽くしている、そんな感じがする。
その貝殻はブーンから見えるジョルジュのすべてを隙間無く鎧のように守っている。

例外があるとすれば、それは灰色のそこから覗くジョルジュの目だけだった。

その目が先ほどのジョルジュとは一転して、実に楽しそうに歪んでいた。

( ゚∀゚)「外見は最悪だろう? でもまあ、こいつがおれの相棒って訳だ。よろしく」

そこで思い出したかのようにジョルジュは問う。

( ゚∀゚)「……そうだ、まだあんたの名前聞いてなかったっけ。教えてくれねえか?」

( ^ω^)「ブーンだお。覚えておけお。今ここで、お前を殺す奴の名前だお」

( ゚∀゚)「へえ、そりゃすごい。だったら……こっちも本気で行かせてもらうよ」

刹那に、ジョルジュが吼えた。
唐突な叫びに一瞬だけ怯んだブーンを前にし、今までのジョルジュが嘘だったかのように口調で言い放つ。

( ゚∀゚)「始めようぜ、ブーンッ!」

そして、ジョルジュが地面を蹴った。



29: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:15:44.36 ID:ZbE1huax0

それをブーンは真っ向から見据えていた。
踏み込みの速さは中々だが目で追えない程ではない。

身体能力にものを言わせて行動に移すのは孤徹が軽量の分、ブーンの方が圧倒的に有利と見える。

問題なのは表情が鎧に隠されているのでどんな攻撃が繰り出されるのかがあまり予測できないことなのだが、
ジョルジュの動きがそのすべてを正確にブーンへと伝えてくれる。

( ゚∀゚)「ヒャハァッ!」

( ^ω^)「ふっ!」

首を僅かに傾げ、ジョルジュの右ストレートを紙一重だが絶対に当たらない距離で避ける。

ジョルジュの拳が空を切り、ブーンはすぐそこにある灰色の鎧から覗く目を睨みつけた。
この程度の強さでこの孤徹を相手にしようと思うのがそもそもの間違いなのだ。

ジョルジュの攻撃は、ブーンには通用しない。



30: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:17:26.63 ID:ZbE1huax0

(#^ω^)「らあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

拳を握り締め、頭の中で渦巻くすべての怒りを込めてジョルジュの腹部へと打ち放つ。
誰が見ても、その拳はジョルジュのそれよりかは圧倒的に速かった。

( ゚∀゚)「ガハァッ!」

鉄甲が装着されたブーンの拳はジョルジュの腹を強打する。

鉄甲を通してその手応えがはっきりと伝わった。当たりは上々、威力は上等。
その拳を食らえればコンクリートでも木っ端微塵に砕け散るだろう。

( ^ω^)「口ほどにも無いお」

鎧が砕けるほどの威力を込めた一撃だ。いくら鎧のウェポンでも耐え切れまい。
少しは腹も虫も治まっただろう、さっさとネオスを――

( ゚∀゚)「ヒャハ……ハハハハハハ」

至近距離にあるジョルジュの目が、愉快そうに歪んだ。

( ^ω^)「っ!?」

その瞬間に、背筋から体全体へと虫唾が駆け巡って無意識の内にジョルジュから離れる。
なぜかはわからない。ただ、体が「離れろ」という命令を無理矢理飛ばしている。



31: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:19:32.83 ID:ZbE1huax0

( ゚∀゚)「ククク……いい拳持ってんじゃねえか、オイ」

数メートルの距離を一度の跳躍で稼ぎ、真っ直ぐに灰色の鎧を見据えた。
そのときになってやっと、ブーンは気づいた。
頭の中で混乱にも似た疑問が浮き上がる。弧徹は確かに獲物を捕らえた、なのになぜ――――

( ゚∀゚)「次は俺の番だ!!」

ジョルジュが再度地面を蹴る。
答えが出なかった疑問を頭の中に残したまま、ブーンはその攻撃に対応する。

( ^ω^)「くっ!」

上段蹴りを膝を屈めることで流しながら軸となっているジョルジュの左足を払う。
バランスを崩して倒れる瞬間にブーンはジョルジュの体に重なり合うように地面を蹴って飛び上がった。

(#^ω^)「これなら……どうだおおおおおおおぉぉぉぉ!!!」

無防備なその鳩尾に孤徹を叩き込む。
その威力によりジョルジュの体は勢いを増して地面に激突し、辺りに砕けた石の破片が飛び散る。



33: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:21:53.57 ID:ZbE1huax0

( ゚∀゚)「いいねぇ。こうでなきゃ、スリルがねぇ。最高だぜ、ブーンさんよ!!」

(#^ω^)「いい加減黙れお……!」

突進してくるジョルジュをサイドステップで避け、射程範囲内まで接近する。

(#^ω^)「おおおおおおぉぉぉ!!」

懇親の一撃をジョルジュの顔面に放つと同時に、左腕を折り曲げて首に肘打ちを入れる。
豪快な音と鈍い音が響き合い、ジョルジュの体が宙を舞う。

大抵の奴ならそれで呼吸困難に陥ってしばらくは戦闘不能になる。

( ゚∀゚)「シャアアッ!」

それなのにも関わらず、やはりジョルジュは平然と起き上がり、さらに地面を蹴ってブーンに挑んでくる。



35: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:23:36.61 ID:ZbE1huax0

(;^ω^)(こいつ……一体どうなってるんだお!?)

鎧がジョルジュの体を守っているから攻撃が届かないのかもしれない、と最初は思った。
しかし違うのだ。そんな次元の話ではない。それなら鎧を壊せば済むこと。それはわかっている。

――――だからさっきからずっと『鎧を壊すつもりの威力で攻撃を仕掛けている』のだ。

手応えは常にある。上々の当たり、上等の威力。
普通ならそれだけで戦闘不能になってもおかしくない。ましてや鎧などすでに全壊していてもおかしくはないのだ。

だが、そうはならない。

打撃型ウェポン・羅刹は、孤徹の攻撃を幾らその身に受けても、傷一つ残らなかった。

( ゚∀゚)「シャァァァァ――――!!」

疑問が頭に浮かんだ瞬間にジョルジュの動きを一瞬だけ見逃した。
気づいたときにはジョルジュの拳は打ち出されていて、避けるのには手遅れな段階にまで加速している。

( ^ω^)「チッ!」

舌打ちをしながら、ジョルジュの攻撃を初めて孤徹で無力化させた。

( ゚∀゚)「……あ?」

拳から手応えが伝わらないことを不思議に思ったジョルジュの目に僅かな困惑の色が入る。
そこに生じた隙をブーンは突いた。



37: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:25:40.74 ID:ZbE1huax0

(#^ω^)「おおおおおおお!!」

全力で振り抜いた鉄甲をジョルジュの後頭部に叩き込んだ。
威力は今までで最高だった。普通のウェポンなら砕けるのは必至だろう。
それだけの威力を込めたつもりだった。

( ゚∀゚)「おっとぉ!」

孤徹で殴れた反動でジョルジュの体は後ろに吹き飛び、足でブレーキを掛けて勢いを殺しながら静寂の中に佇む。
最高の威力を持ってしても、やはり羅刹には傷一つ残らない。

ジョルジュは孤徹に無力化された手を閉じては開き、閉じては開けるということを繰り返しす。

( ゚∀゚)「……そのウェポンの特性は、攻撃の無力化か?」

( ^ω^)「だったら何だお」

( ゚∀゚)「だったら厄介だな、と思ってさ。無力化か……おれの羅刹より手っ取り早い特性だ」

『特性』という言葉に反応したブーンの瞳の揺れを、ジョルジュは見逃さない。



38: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:27:29.53 ID:ZbE1huax0

( ゚∀゚)「おれの羅刹の特性を教えてやろうか? 知りたいって顔に書いてあんぜ。教えてやるよ」

(#^ω^)「黙れお」

聞く必要などない。関係ないのだ。羅刹がどんな特性を持っていようが所詮はウェポン。
物質だ。手応えはある、つまりは攻撃が命中しているということだ。

ならば話は早い。一撃で壊れないのなら、壊れるまで攻撃を続ける。

その薄気味悪いウェポンを破壊するまで攻撃の手を緩めない。
そして羅刹が崩壊したときがお前の最後だ。全身の骨を砕いて殺してやる。覚悟しやがれ。

(#^ω^)「おおおおおおお――――!!!」

今度はブーンが地面を蹴る。全身全霊の一撃を叩き込むために危険を省みず大振りの攻撃を仕掛ける。
大振りでは威力は上がるが避けられたときの隙が大きい。だがジョルジュが相手ならその隙は帳消しにされる。

もし避けられて攻撃を繰り出されたとしても、孤徹で無力化できるだけの自信がある。
速さでは絶対有利。それは今までの攻防で得た確信だった。

( ゚∀゚)「クク……」

しかしブーンの大振りを、ジョルジュは避けようとはしなかった。
願ってもないことだった。よほど羅刹の特性に自信があるのだろう。

ブーンの攻撃では羅刹を破壊できないという自信が、ジョルジュにもあるに違いない。



41: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:30:02.96 ID:ZbE1huax0

(#^ω^)「上等じゃねえかお――――!!」

完全に無防備なその鎧に、ブーンの鉄甲が打撃を送り出す。
そしてそれは一撃だけでは済まない。一度打ち込んだら、そこから先は一気だった。

(#^ω^)「おおぉぉぉ――――!!」

右を叩き込んだら次は左、休む間もなく右でまた左。
反撃する暇を与えない。反撃などさせはしない。体力の許す限りに拳を打ち込み続けた。

ブーンの体力が失われるのが先か、羅刹が壊れるのが先か。根比べた。ぶっ壊してやんよ。

( ゚∀゚)「……!! ……」

ブーンが孤徹の一撃を放つ度にその衝撃がジョルジュの体を伝わって足から地面に流れる。
まるで地震でも起きたかのように辺りが揺れ、衝撃音が大きくなるに連れて地面が土煙を上げ始める。

(#^ω^)「っらぁぁぁ!!!」

やがて二人の姿が完全に煙に呑まれて消えた。

しかし衝撃音と揺れはいつまでも止まない。
きっちり三分間、ブーンは孤徹を煙の向こうにいるはずの羅刹へと打ち込み続けた。

手応えは常にある。
ジョルジュがそこから動いた気配はない。

この土煙が晴れたそのとき、すべては決するはずだ。だったら――



42: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:32:12.23 ID:ZbE1huax0

――…

―…

土煙がゆっくりと晴れていく。
そしてその中から現れたのは、荒い息を肩で整えるブーンと、傷一つ残っていない羅刹を纏ったジョルジュだった。

胸に当てられたままの鉄甲を無造作に押し退け、ジョルジュは笑う。

( ゚∀゚)「ご苦労様。でもやっぱ無駄だわ。おれの羅刹には無意味」

ゆっくりとその姿勢を屈め、ジョルジュがブーンを下から覗き込む。

( ゚∀゚)「頑張った褒美に教えてやろうか。羅刹の特性はな、自動修復だ。
     しかもその効力は極限まで高めてある。随分と苦労したよ、ここまで高めるのに。
     最初は違ったんだぜ? 自動修復っつっても修復される速度が遅いんだ。
     それじゃ意味がない。だから訓練したんだよ。その結果が、これだ」

ジョルジュは両手を広げ、灰色の歪な鎧をまるで神聖なものを見るかのように見据える。

( ゚∀゚)「羅刹はおれが使うことでその能力を完全に発揮した。
     鍛え上げられたことにより、完璧な高速自動修復が可能になった。
     壊されてから修復するんじゃない。衝撃を与えられたその瞬間から修復を開始する」



44: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:34:25.57 ID:ZbE1huax0

ジョルジュはブーンを見下すように見つめ、続ける。
 
( ゚∀゚)「あんたのウェポン程度の攻撃じゃあ小さな傷が残ってる所さえも見れないだろうよ。
     何せあんたの拳が引かれたときにはすでに、傷は修復されてるんだからな。
     あんたの攻撃は、ただの一発もおれに届いてない。――諦めな。あんたじゃおれにゃあ勝てねえよ」

灰色の鎧に包まれた拳がゆっくりと構えを取る、

( ゚∀゚)「お遊びはここまでだ。ここからは……本気であんたを倒すぜ」

( ^ω^)「くっ……!」

ブーンが見ているそこから拳が放たれる。

( ^ω^)(左フック……! 避け――――)

頬をぶん殴られて意識が飛んだ。
喉の奥にマスタードでもぶち込まれたような衝撃が走る。

慌てて意識を引き戻し、何とか踏み堪えて第二撃目に備えようと孤徹を構える。

( ゚∀゚)「オラァッ!!」

(;^ω^)「がっ……!?」

瞬間、今度は腹を殴られた。
体が前に傾いて口から胃液を吐き、その痛みに襲われて体勢を立て直す暇もない。



45: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:36:45.89 ID:ZbE1huax0

( ゚∀゚)「くたばれ」

気づいたときには遅かった。

振り上げられた灰色の拳が瞬時にブーンへと襲い掛かる。

避ける間もなく拳は振り抜かれ、顎を強打されてブーンの体が宙に舞う。
地面に背中から倒れ込み、口の中が鉄の味で一杯になる。

(;^ω^)「うがっ……! ゴホッ!」

殴られたのは三箇所のはずなのだが、体中が痛みに蝕まれていた。

( ゚∀゚)「あんた何か勘違いしてたんじゃねえの?
     おれのウェポンは打撃型だぜ。特性が守りにあるっつーだけで、本質は打撃。
     あんたのウェポンと同じだ。舐めてるとそうなることは百も承知のはずだろう?」

悶えるブーンを睨みながら、ジョルジュは言う。

( ゚∀゚)「ついでに、このおれを甘く見るな。おれはあんたより速いし強い。
     そのウェポンで無力化させる暇は与えない。
     さっきの攻撃を避けれないようなら、そんな小細工も必要ねえけどね。
     ……言ったろ? あんたじゃおれにゃあ勝てねえって」

倒れ込んだまま拳を握り締める。
ジョルジュの言葉が耳には入ってくるが頭には入らなかった。



47: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:39:01.65 ID:ZbE1huax0

(#^ω^)「クソッ……う、あああああああああ!!!」

一度は忘れかけていた怒りが再発する。
体の痛みをすべて押し退け、無理矢理起き上がって目の前の敵に襲いかかる。

( ゚∀゚)「へっ。遅ぇんだよバーカ」

しかしブーンの拳は呆気なくジョルジュにかわされ、カウンターで左の拳を腹に食らった。

(;^ω^)「ぁ……!」

あまりの激痛にその場に膝を着く。
しかしその痛みが逆に体を煮え滾させる。
頭の中で弾ける「ぶっ殺してやる」という思考が何もかも押し潰す。

冷静な判断など何一つできない。殺してやる、という思考以外、何も考えられなかった。



48: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:41:09.42 ID:ZbE1huax0

(#^ω^)「ガハッ……! 殺す、殺してやるお……!」

膝を着くブーンを見下ろしながら、ジョルジュはつぶやく。

( ゚∀゚)「最初から思ってたんだけどさ、あんた一体何を怒ってるワケ?
     怒りは拳を鈍らせるって言葉聞いたことないかい? まさにその通りだよ。
     最初からずっと、あんたの攻撃は鈍ってる。
     冷静なあんたが強いって訳じゃないだろうけど、今のあんたは弱過ぎる」

(#^ω^)「……黙れお」

( ゚∀゚)「よくそれでここまで勝ち残ってこれたね。
     それだけ戦った相手が弱かったのか、それとも誰とも戦わずに逃げていたのか。
     どっちにしろ関係ないか。どうせ、あんたはここで負けるんだから」

(#^ω^)「黙れおッ!!」

振り上げられた漆黒を避け、ジョルジュは口を閉じてブーンを見据える。



49: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:43:28.95 ID:ZbE1huax0

立ち上がったブーンは口の中に充満する血を吐き出しながら言い捨てる。

(#^ω^)「テメえなんか鈍った拳で十分なんだお、ごちゃごちゃ言ってねえでかかって来いお」

そんなブーンを見ていたジョルジュの目が、今まで以上に歪んだ。

( ゚∀゚)「あんたとおれのウェポンで決定的に違うものは何か。
     それは――……どこで攻撃しても威力を保てるか否かだ」

刹那にジョルジュの体が翻り、

( ^ω^)「っ!」

その行動に気づいたときには、ブーンの顔面に蹴りが炸裂していた。

目の前が真っ白になった。今度は目でも追えなかった。

ジョルジュの言いたいことがやっとわかった。
それは、孤徹は腕にしか具現化されない。つまり孤徹の威力を引き出すには殴るしか方法がないということだ。

しかし羅刹は違う。
ウェポンが全身を覆っているということは、どこで攻撃しても均等に羅刹の力を引き出せるということ。
羅刹は、全身から成る打撃型に他ならない。

それは同時に守りにも最適であり、加えて高速自動修復を備えた羅刹に隙は無かった。



51: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:45:14.83 ID:ZbE1huax0

(;^ω^)「っ……!」

衝撃の次に体が地面に横たわる。見上げる空には夕日の朱が混じっていた。
体に力が入らない。指一本動かせない。あの夜、荒巻と対峙したときと同じ状況だった。

そして、こう思うのもあの日と同じで二度目だ。

(;^ω^)(駄目だお……こいつには、勝てないお……強過ぎだお……)

いや、あるいはブーンが冷静な状態で戦っていたのなら戦況は違う結果になっていたのかもしれない。
しかしこのネオファイト戦は一回限りである。そのときの精神状態ですべてが変わる戦闘だ。

この勝負は、完璧にブーンの負けだった。

( ゚∀゚)「さて、と。そろそろ死んでもらうかな」

夕日が影に遮られ、広げたままだった両腕を上から容赦なく足で押さえられた。

( ゚∀゚)「あばよ」

逆行で黒い影が纏わり付く灰色の鎧を見据える。
思うことは、二つだけあった。

悪いドクオ、僕、負けちまった。
ごめんしぃ、恩返しできなかった。

振り上げられたジョルジュの拳が、一気にブーンの顔面に振り下ろされ――――



52: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:47:27.79 ID:ZbE1huax0

( ^ω^)「……お?」

上に乗っていたはずのその体が消えた。
消えたかと思うくらいに速く、ジョルジュの体は吹き飛ばされていた。

(#゚∀゚)「ガアアァァァッァァァッァア!!!」

悲鳴。遅れて轟音と共に圧倒的な破壊が巻き起こる。
視界の中で確かに捉えた炎の弾丸。それがジョルジュの体を飲み込んだのだ。

( ^ω^)「まさか……」

体を振るい立たせて辺りを見渡す。

――――そしてブーンは、夕日の中に幻竜型ウェポン・荒巻を見た。

夕日から降り立ったかのように、その背にしぃを乗せて真紅の竜は飛来する。



53: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:49:17.54 ID:ZbE1huax0

地面に着地した瞬間に揺れが伝わり、地響きが鳴り響く中で慣れた動作でしぃが荒巻から降りた。
それを確認した荒巻は首をゆっくりと曲げ、上半身を起こして呆然としているボロボロのブーンを見て笑う。

/ ,' 3「しぃに感謝しろ。これで借りは返したぞ小僧」

借りって何の話だ、と思ったブーンの目前で、荒巻が咆哮を上げる。
大気を揺るがすその咆哮の中から、先の破壊によって覆い被さってきた瓦礫を弾き飛ばしながら灰色の鎧が姿を現す。

(;゚∀゚)「……プハァ。冗談じゃねーよ」

その鎧は、今までの羅刹とは全く違った。

修復が開始されているのにも関わらず黒く焼け焦げ、荒巻の攻撃が直撃した左半分は溶岩のように赤く光りながら溶けていた。
あれだけブーンが攻撃しても傷一つ残すことができなかった羅刹を、荒巻はいとも簡単に凌駕してのけたのだ。

やはり荒巻は最強で、超えられない壁に他ならない。

しかしそれだけの攻撃を受けてもなお、羅刹は修復を加速させ、ついに無傷の状態にまで引き戻した。



54: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:52:02.85 ID:ZbE1huax0

( ゚∀゚)「お前が、幻竜型って奴か……」

体の自由を確かめながらジョルジュは問い、一方の荒巻は退屈そうにつぶやく。

/ ,' 3「他に何がある」

( ゚∀゚)「まさか羅刹がここまでやられるとは思ってもみなかった。
     さっきのヤツを何発も食らえばさすがにおれでもやべえだろうな。
     ……けど、お前じゃおれには勝――――」

/ ,' 3「口の聞き方に気をつけろ餓鬼」

その言葉を境に、ブーンの目の前にいたはずの荒巻の体がぐにゃりと歪んで消えた。

( ゚∀゚)「――――は?」

そして荒巻の姿をブーンが再度捉えた瞬間にはすでに、ジョルジュの体が吹き飛んでいた。
神速のスピードで舞った荒巻は、その遠心力にものを言わせて尻尾でジョルジュの体を弾いたのだ。

一見すれば地味な攻撃に他ならない。

それもそのはずだ。荒巻はただ尻尾を振り回しただけなのだから。
しかしその威力は、孤徹の一撃などとは比べ物にならない破壊力を持っている。

その威力を真っ向から受けて吹き飛ばされたジョルジュの体が無造作に宙を舞い、
激突した木と共に森の奥へと消える。



57: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:53:45.66 ID:ZbE1huax0

/ ,' 3「死ね」

荒巻の口が開き、ジョルジュが吹っ飛んだ方向へ向け間髪いれずに炎の弾丸を繰り出す。
轟音が鳴り響く。一瞬で視界が赤く染められ、目を開けたときには炎が全てを覆っていた。

そして、燃えさかる炎の中から、灰色の鎧が姿を現した。

(#゚∀゚)「がぁあ゛ッ、あ゛あ゛ッッ、あァあああァァああああァああああァァァああああああァあああああああッッッ!!!!」

それでもジョルジュは立ち上がった。
しかしその姿は変わり果てている。

羅刹の鎧を三分の二近く剥がされた上、生身の体を炎に晒して火傷を負い、全身から血を流している。
立っているのがやっとのはずだった。もはや敗北が確定したダメージを受けたのにも関わらず、ジョルジュは戦闘意欲を失わない。

頭から血があふれ出て左目を覆い尽くしている。
左腕がおかしな方向に捻じ曲がっている。
右手の中指と人差し指が無くなっている。

それでも、ジョルジュは荒巻と対峙することを止めない。



59: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:55:40.32 ID:ZbE1huax0

(#゚∀゚)「羅刹――――!!!!」

ジョルジュが真名を叫ぶ。
それに呼応するように羅刹が高速自動修復の速度を上げる。

曝け出されていた傷だらけの生身は一瞬の内に灰色の鎧に包まれて消える。
そこにあるのは、傷一つついていない羅刹だった。

しかしジョルジュ自身の傷が癒えた訳ではあるまい。
鎧から覗く左目は赤に染まっていて、左腕はやはりおかしな方向に捻じ曲がったままだ。
右手の中指と人差し指の部分は鎧が具現化されていない。

/ ,' 3「羅刹をそこまで使いこなしたのは貴様が初めてだろう。他のネオファイターでは到底勝てまい。
    だが、相手が悪かったな。このおれに、勝てる訳がない」

そして荒巻の羽の内側にいたしぃが、そっと呼びかける。

(*゚ー゚)「……荒巻」

言うべきことは、ただ一つだけ。

(*゚ー゚)「勝って」



60: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:57:22.05 ID:ZbE1huax0

荒巻はその言葉に従う。

しぃをその場に残し、神速の速さで荒巻が再び宙を舞う。
残った残像がぐにゃりと歪んで消えたときには、荒巻はジョルジュに向かって口を抉じ開けていた。

すべてのものを貫く強靭な牙が剥き出しになり、それがジョルジュを噛み殺すために突き出される。

(#゚∀゚)「クソが……!!」

ジョルジュには抗うだけの力は残っていなかった。
例え残っていたとしても、この神速の牙から逃れられる術を持たない。

一度狙われたら最後、荒巻からは誰も逃れられないのだ。荒巻は紛れも無い最強であるのだ。

そしてこのとき、それが起きなければ、ジョルジュは間違いなく殺されていた。

(*゚ー゚)「うっ……ごほっ!」

/ ,' 3「――――しぃ!」

しかし運は、ジョルジュを味方したのだ。
荒巻の背後で、しぃが咳き込んでゆっくりと倒れ込む。

瞬間に荒巻の牙が停止し、目の前の敵を差し置いて背後を振り返る。



61: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 10:59:02.66 ID:ZbE1huax0

( ゚∀゚)「――――ク」

その隙を、ジョルジュは見逃さない。
その隙がすべてを教えた。ジョルジュが荒巻の唯一の穴に勘付いた。

どこまで強かろうが荒巻は所詮ウェポンで、そして荒巻がウェポンである限り、最大の穴がある。

( ゚∀゚)「なーんだ……弱点、あるじゃねーか……」

幻竜型ウェポン・荒巻には絶対に勝てない。だったら、


――そのネオファイターを、殺せばいい。


羅刹に覆われた鎧の下で、ジョルジュは獰猛な笑みを浮かべる。
荒巻が振り返ってしぃに気を取られたその決定的な隙を、ジョルジュは最大限に利用した。



63: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 11:00:29.01 ID:ZbE1huax0

(;^ω^)「荒巻――――!!」

/ ,' 3「ぬっ!?」

すべての力を搾り出し、荒巻に引けを取らない速さで地面を抉って加速する。
荒巻がジョルジュに意識を戻したときにはすでに、ジョルジュは荒巻の背後に滑り込んでさらに加速していた。

一秒にも満たないその差が命取りだった。

/ ,' 3「貴様――――」

ジョルジュの意図に気づいた荒巻が阻止しようと神速の速さで空を舞う。
しかし完璧に虚を突いていたジョルジュの行動は、荒巻の追撃を許さない。

(* ー )「……」

(;^ω^)「しぃ――――!! ジョルジュ、やめろおぉぉ――――!!」



しぃの背中が地面に着くか否かの瞬間に、


――――ジョルジュの一撃がその小さな体を襲った。



65: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 11:02:40.70 ID:ZbE1huax0

(* ー )「ぁ……」

骨が砕ける音が耳障りに思えるほどはっきりと聞こえた。
舞い上がるしぃの髪がスローモーションのように滑らかな動きを見せる。

しぃの体が弓なりに反り上がり、口から大量の血を吐き出す。

しぃには、ジョルジュの一撃は威力が大き過ぎた。
たった一撃で、しぃの心臓は簡単に停止する。

幻竜型ウェポンのネオファイターに限り、身体能力は向上されないことをジョルジュはもちろん知らない。
だがもししぃの身体能力が向上されていたとしても、どの道辿る結果は同じだったのかもしれない。

( ゚∀゚)「ヒャハハハ……幻竜形、破れたりぃ……!」

真紅の竜が光の粒子となって消え失せ始める。

だが荒巻にはそんなことなど見えていない。
血を吐いて倒れているしぃ。我がネオファイターから感じない力の波動。

それが、再び荒巻の知性と理性を狂わせた。

/ ,' 3「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
    オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

ジョルジュに向かって破壊の咆哮を上げ、荒巻は神速を超える速度で獲物の首から上を狙う。

しかし一秒にも満たないその差が、すでにすべてを決していた。



67: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 11:04:20.82 ID:ZbE1huax0

( ゚∀゚)「――――消えろ」

ジョルジュが真紅の竜に腕を振り払った瞬間に、荒巻の体は完全に緑の光の粒子となって消滅した。

一陣の風が光と共に真っ向からジョルジュを吹き抜ける。
幻竜型ウェポン・荒巻は、ネオファイター・しぃの脱落により、強制転送された。

心臓が停止したしぃの体内から幻竜型ウェポンのネオスが排出され、
消え失せた荒巻からは蓄積されていたネオスが二つ分排出されて無造作に地面へと転がった。

( ゚∀゚)「ヒャハ――ハハハハハハハ!!」

静けさだけが残る中、ジョルジュが狂ったように笑う。
そんな笑いを耳に入れながら、ブーンはただ何もできずにその場に取り残されている。



68: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/07/25(水) 11:05:21.29 ID:ZbE1huax0

(  ω )「そん……な……」

荒巻が負けたということが信じられない。
言葉は何も出ず、脳はその機能を停止させていた。

無意識の内に孤徹が消滅し、横たわるしぃを見つめる。

しぃのその姿が、そして粒子に包まれて消えた荒巻の姿が何よりも信じられない。

脳がすべてを頑なに否定する。

夕日が暮れ、夜が迫っていた。

( ゚∀゚)「このネオスはいらねえ。あんたにくれてやる。あいつはおれでは扱い切れねえしな」

そんな捨て台詞を吐いて、幻竜型のネオスをブーンのほうへ投げ、ジョルジュは灰色の鎧と共に夜の闇に消えた。

いつまで経っても、ジョルジュの狂ったような笑い声だけが頭の中で反響していた。




しぃ――脱落。
第十二期ネオファイター残り参加者数――二名。



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