( ^ω^)ブーンがネオファイターになるようです

3: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:04:31.83 ID:tf8N9Bb30

第八話「覚醒」


無音の世界だった。
生き物の気配は何も感じない。それもそのはずだ。

そもそも辺りには何もないのだから。

幻竜型ウェポン・荒巻によって焼き払われた山の頂上付近の光景は、地獄と大差ないような気さえする。

( ^ω^)「…………」

指一本動かすことのできなかった体はすでに自由に歩き回れるくらいにまで回復しているのだが、
ブーンはいつまでも行動に移すことができないでいる。

つい数時間前に突き付けられた事実が、そして何より、ブーンが今見ているこの光景が全く受け入れられない。

そして受け入れられない事実と光景は、ブーンから行動する意思を根こそぎ奪い取っていた。

ブーンの視線は、終止ある一定の場所に注がれている。

(* ー )「……」

雲一つない夜空から射す満月の明かりに照らされたそこに、一人の女の子が横たわっている。
お気に入りの赤いコートを着込み、綺麗な髪を地面に散らばらせ、しぃは眠っているかのように目を閉じている。

もし、しぃが口から血を流していなかったのなら、しぃは本当に眠っているだけだったのかもしれない。



5: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:06:56.26 ID:tf8N9Bb30

( ^ω^)「しぃ……」

思考が停止したまま、ブーンは呆然としている。
そして時刻は午前零時を刻んだ。

辺りの光景がぐにゃりと歪み、そこから緑の光の粒子が止めど無くあふれ出し始める。
初めて見る光景だった。午前零時になると復元されることは知っていたが、その様子を見るのはこれが初めてだったのだ。

ブーンの視線がゆっくりと動く。
いつの間にか、周りを緑の光が満たしていた。

粒子は破壊されたすべてを元通りにする。
失われた木を甦らせ、焦げた大地を一掃するかのように色を変えていく。

すべての光景は、約六時間前まで遡っていた。そしてそれは、しぃもゆっくりと包み込む。
折れた骨を復元させ、傷をすべて治癒させる。口から流れていた血が蒸発したかのように消え、小さな心臓が確かな鼓動を打つ。

やがて唐突に、緑の光の粒子は弾けて消えた。辺りには夜が戻ってくる。

すべては、一瞬の出来事だった。瞬きをすれば見失ってしまうような僅かな時間だった。
しかしたったそれだけの時間で、緑の光の粒子は何もかも元通りにした。



6: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:09:10.15 ID:tf8N9Bb30

(*゚ー゚)「ん……」

( ^ω^)「しぃ」

しぃは目を擦りながらブーンを見て、不思議そうな顔をする。

(*゚ー゚)「……ブーン。どうして、泣いてるの?」

( ;ω;)「よかっ……くっ……」

しかしその答えを、ブーンは返せない。
余計なことを言ったら、自分では到底止められない量の涙があふれてきそうだった。

(*゚ー゚)「あらまき……?」

しぃが自分の力で体を起こした。
そして突然に大切なことを思い出したかのように辺りを見まわし、だけど結局は見つけられなくて、
玩具を隠された子供のような瞳でブーンを見つめて、しぃはこう言った。

(*゚ー゚)「あらまきは……?」

その瞳を、真っ直ぐに見ていられなかった。
視線を下に外した瞬間に、ブーンはそれを見た。

ブーンの視線を追ったしぃも、すぐにそれを見つけた。
しぃは、心のどこかではわかっていたのかもしれない。



8: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:12:02.38 ID:tf8N9Bb30

わかっていて、それでもなおそれを信じたくはなかったのだろう。

ブーンへの問い掛けは、しぃの一縷の希望だったのかもしれない。
答えを返さなかったブーンは、意地悪をしているのだと信じたかったのかもしれない。

だが、それは現実の光景としてそこに転がっていた。
まだ形を崩すことなく、幻竜型ウェポンのネオスはそこに存在していた。

(*゚ー゚)「……ヤだっ、ヤだよあらまきっ! 行っちゃヤだあっ!!」

小さな掌が最後の粒子を必死に掴む。
しかしそれは無情にも紀紗の掌をすり抜けてブーンの体へと消える。

(* ー )「う、うわぁぁぁぁぁぁん!!!」

しぃが泣いた。
光を追うようにしぃはブーンにしがみ付き、「行っちゃヤだ」と繰り返して大声で泣いた。
閉じられた瞳から流れ続ける大粒の涙がブーンの胸を濡らす。



11: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:14:41.50 ID:tf8N9Bb30

それは止まることがなかった。
しぃの涙を見るのはこれが初めてだった。

そしてもちろん、しぃがこんなにも感情的になった所も初めて見た。

しぃは泣き叫び続ける。
泣けば新巻が戻ってきてくれる、そしたらまた新巻は絶対に自分を守ってくれる。
しぃは、そう思っていたのかもしれない。

だけどその思いは、最後まで叶わなかった。

ブーンの服を掴んでしがみ付いたまま、しぃは小さな嗚咽を漏らし続ける。

(* ー )「あらまきぃ……ッ!」

何度その真名を呼んでも、やはり荒巻は具現化されない。
自分を守ってくれていた最強のウェポン。
たった一人の大好きだった友達は、最後まで帰ってきてくれなかった。

( ^ω^)「しぃ……」

(* ー )「……お願い……」

しぃの手に力が篭る、

(* ー )「お願い、ぶーん…………あらまきに、会わせて…………お願いだから、ぶーん……っ」



13: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:17:08.54 ID:tf8N9Bb30

大粒の涙が、再びしぃの瞳から流れた。
その涙を拭うこともせず、しぃは言い続けた。

(* ー )「あらまきに会わせて……まだお礼も言ってないのに、お別れなんて……ヤだよ……っ!
     ……だから、お願い、ぶーん……あらまきに、会わせて……っ!」

答えは、決まっていた。
それが、ブーンの望みであるのだから。

( ^ω^)「大丈夫だお。絶対、会わせてやるお……!」

しぃへの恩返し。今ここに、誓おう。

ブーンはしぃの頭に手を置き

( ^ω^)「……約束するお。僕が絶対に荒巻に会わせてやるお。だから、泣くなお」

ブーンにできる、精一杯の優しさの言葉だった。

( ^ω^)「泣いてたら、僕が荒巻に殺されちゃうお。だから泣くなお」

そして、しぃに笑いかける。
その言葉に俯きながら肯いて、しぃはまた泣いた。



15: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:19:12.28 ID:tf8N9Bb30

( ^ω^)「だから泣くなお」

(*゚ー゚)「……泣いてないもん」

しぃは泣き声で答える。
しぃの頭をゆっくりと撫でながら、ブーンは夜空を見上げる。

雲一つない夜空に、満月と星が輝いていた。

やっとすべてが決まったような気がした。
しぃには泣いていて欲しくない。しぃは笑って卵焼きを頬張っているのがいちばん良く似合う。

だから泣いていて欲しくない。
しぃには笑っていて欲しい。ずっとずっと、笑っていて欲しい。

そのためなら、何でもしてやる。
楽しい時間と温かい笑顔をくれたしぃへの恩返し。
それを叶えてやろう。しぃをもう、泣かせはしない。

ブーンの望みは決まった。もう一度、しぃと荒巻を会わせてやる。

――――しぃの笑顔を取り戻すため、ブーンは戦う。



16: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:21:16.62 ID:tf8N9Bb30




打撃型ウェポン・羅刹のネオファイター・ジョルジュ。

しぃを泣かせる原因を作った張本人。
今のブーンではジョルジュに勝てないかもしれない。

だけど弱音は受け付けない。

勝てないかもしれない、ではないのだ。それでも勝つのだ。
どんな手を使ってでも勝ち残ってやる。ジョルジュを倒す。
そしてしぃの望みを叶えてやろう。

荒巻の意思を継いで、今度は自分がしぃを守ってやろう。

( ^ω^)「今度はこっちが借りを返す番だお、荒巻……」

お前のネオファイターを泣かせた野郎を、この僕が代わりにぶっ倒してやる。

(* ー )「……ありがとう、ブーン」

しぃはそう言って目を閉じた。どうやら泣き疲れて眠ってしまったらしかった。
小さな寝息を立てるしぃを抱きかかえ、ブーンはアパートまで戻る。
鍵が掛かっていなかったドアを開け、電気のスイッチを入れながらベットの上にしぃを寝かせた。



19: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:23:18.37 ID:tf8N9Bb30

( ^ω^)「……」

踵を返して部屋の電気を消し、ドアに鍵を掛けて歩き出す。
未だに雲一つない夜空を見上げて、ブーンは真名を呼ぶ。

( ^ω^)「――――孤徹」

空間が歪み、そこから緑の光の粒子があふれ出す。
両腕に装着される二体一対の鉄甲。

夜の闇に溶け込むようなその漆黒を真っ向から見据え、ブーンは小さく息を吸い込む。
目を閉じて頭の中の出来の悪いレーダーへと意識を向ける。
そのときだけは、出来の悪かったはずのレーダーは正確無比の代物へと変貌を遂げていた。

残り一人のネオファイターの位置が、手に取るようにわかる。
ここから少しばかり離れているが、孤徹を具現化させたまま進めば十五分もかからないだろう。

( ^ω^)「……待ってろお、ジョルジュ」

ふわりと飛び上がり、一度の跳躍で近くの電柱の上に降り立つ。



21: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:25:45.99 ID:tf8N9Bb30

普段とは違う高い所からの眺めが気持ち良かった。
耳を澄ませば深夜なのにも関わらずいろいろな音が飛び込んでくる。

車の排気音に原チャリのエンジン音、微かな人の話し声に猫の鳴き声。
どこかの家から響く最近流行のラブ・ソングに合わせた下手糞なギターの音色。

風が吹き抜けた瞬間に木々がざわめいた。

そしてブーンは夜空を鳥のように駆け抜ける。
空中で身を捻りながら落下し、道路を弾いてまた舞い上がって加速する。

普通の人間から見れば、それはただの一陣の風としか思われないはずである。今のブーンは、自分の限界以上の速度を弾き出していた。
体はこれ以上無いくらいに煮え滾っているのに、頭の中が信じられないくらいに冷たかった。

――負ける気がしない。

これまで幾度となく思ってきたこと。しかし今以上にそう感じたことはない。
闇に溶ける漆黒の鉄甲に星が映り込んでいた。
それが自分を最強に仕立て上げる相棒。

不可能は何も無い。どんな相手でも敵ではない。

目の前に立ちはだかる全ての者を蹴散らして優勝者になってやる。
ドクオとの勝負の決着を着けるため、荒巻の意思を継ぐため、そして何より、しぃとの約束を果たすため。

――――そのためだけに、戦おう。



23: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:28:33.55 ID:tf8N9Bb30




孤徹で地面を抉り取る。
轟音と共にブーンは幾度目の跳躍を果たし、その体がついに目当ての場所へと辿り着いた。

( ^ω^)「ここだお……」

どこかの工場の倉庫のような場所だった。
もう使われていないのか巨大な壁の塗装は剥がれて所々に穴が開き、ガラスは誰かの手によって叩き割れていた。

大きな鉄の扉にはスプレーでよくわからない落書きが施されている。
廃墟と化しているのは一目瞭然だったが、どうやら電気はまだ生きているらしい。
倉庫から灯りが漏れていた。

それは中に誰かがいるという合図であり、その誰かというのは他の誰でもないジョルジュである。

(#^ω^)「おッ!」

遠慮無く、スライド式の分厚い鉄の扉を真っ向からぶん殴った。
鈍い音が響いた刹那に表面がぐにゃりと圧し曲がり、金具が外れて倒れ込んでいく。



26: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:31:04.84 ID:tf8N9Bb30

照明器具に照らせた倉庫内も外見と何ら変わりなく荒れていて、空き缶などが数多く転がっている。
その中に真新しい煙草が転がっているのが何ともおかしな光景だった。

その煙草にはまだ火が点いていて煙を上げてる。
誰かがついさっきまで吸っていた証拠だった。

その誰かは、考えなくてもわかるだろう。

( ゚∀゚)「よぉブーン。八時間振りくらいだな」

そう言って、ジョルジュは口から煙を吐き出しながら笑う。
ジョルジュは倉庫の一番奥の棚の上に腰掛けており、あのときと変わらない何とも言い難い表情をしていた。

午前零時に、あの緑の光の粒子はジョルジュの体も例外無く復元したのだろう。
荒巻に負わされた傷は、完全に完治していた。

頭から流れていた血も、火傷を負った体も、捻じ曲がった左腕も、無くなった右手の中指と人差し指も、すべて完治している。

ハンディはない。ブーンもジョルジュも万全の状態である。
勝負を決めるのは我がウェポンと、自分自身。体はやはり煮え滾っているのに、ジョルジュを前にしても頭は冷静だった。

ジョルジュは大儀そうに腰を上げ、ニヤニヤと笑いながら背伸びをする。



28: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:33:13.72 ID:tf8N9Bb30

( ゚∀゚)「あの子はどうなった? ちゃんと生き返ったかい?」

( ^ω^)「……」

( ゚∀゚)「釣れねえなあオイ。まあいいや、そんじゃまあ早速……始めますか」

ジョルジュが真名を呼ぶ、

( ゚∀゚)「羅刹」

歪んだ空間からあふれ出た緑の光の粒子はジョルジュの体を覆い尽くし、それが弾けた瞬間に括れた鎧を具現化させる。
気味の悪い灰色が倉庫の証明に照らされて笑っているような気さえする。

鎧の隙間から見えるジョルジュの目は、やはり狂ったように歪んでいた。

( ゚∀゚)「今度は最初から本気で行くぜ。手加減は、ナシだ」

( ^ω^)「ッ!」

刹那に地面が抉れる。
ジョルジュの体がブーンの視界から消えた。音が聞こえない。
やはり速さだけならジョルジュの方が上なのかもしれない。

しかし、それは数時間前までのブーンが相手だったのなら、の話だ。

今のブーンには、数時間前にはまったく見えなかったはずのジョルジュの動きが、はっきりと目で追えた。
加えて体もその動きについて行ける。遅れは取らない。二度も負けるなんてのは真っ平御免だ。



31: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:35:57.72 ID:tf8N9Bb30

( ゚∀゚)「おらよっ!」

( ^ω^)「ふっ!」

背後から繰り出された拳を、ブーンは振り向きざまに孤徹で捌く。
一瞬だけ時が止まり、微妙な角度でブーンとジョルジュの視線が噛み合う。

( ゚∀゚)「へぇ……前よりかは――――」

ジョルジュがまた笑った。孤徹に無力化された拳を引き、ジョルジュは地面を蹴りながら飛び上がる。
その姿を追って上を見上げたブーンへと空を蹴って突撃し、拳を真っ直ぐに打ち出す。

( ゚∀゚)「やるじゃねぇか!!」

孤徹を上段に構えたブーンの動きを、ジョルジュは予測していた。
有り得ない動きで体を捻って拳を止め、孤徹を避けながら地面に着地して無防備な脇腹へ拳を叩き込む。

( ^ω^)「おっ!」

完全に裏を掻いたはずのその攻撃を、ブーンの孤徹は再度止めた。

( ゚∀゚)「……!? へぇ。なら、これでどうよ!」

困惑の表情を浮かべたジョルジュは、そのまま目にも止まらぬ連続攻撃を繰り出し続けた。
それを悉くブーンは孤徹で無力化していく。



32: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:38:20.52 ID:tf8N9Bb30

徐々に攻撃が当たらないことに対する苛立ちがジョルジュの頭の中に湧き上がり、
それが原因で攻撃が単調になり、終いには顔面しか狙わなくなった。

体のどこを狙っても完璧に無力化させたブーンには、そんな攻撃は無意味に他ならない。
ジョルジュの一撃一撃を捌きながら、ブーンは笑う。

( ^ω^)「遅いお」

ジョルジュの攻撃が、面白いくらいはっきりと見えた。
まさか高々精神状態の一つや二つでここまで戦況が変わるとは思ってもみなかった。

ジョルジュの言う通りだな、とブーンは思う。
怒りは拳を鈍らせる。確かにそうだったのだろう。

しかも怒りは拳だけではなく、ブーンから冷静さそのものも奪い取っていた。

だから本当は見えて捌けるはずの攻撃がまったく見えなかったのだ。
結果、ブーンはジョルジュに負けた。しかし今は違う。
見えなかったジョルジュの攻撃は、冷静さを持って受ければ何でもなかった。何もかも見通せる。



34: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:40:35.50 ID:tf8N9Bb30

(#゚∀゚)「クソがぁぁぁッ!!!」

ジョルジュの蹴りを上段で防いだブーンが反撃に徹する。
身を翻して受け止めた足を弾き、灰色の鎧を掴んで引き寄せた。

(#^ω^)「せぇあッ!!」

目前に捕らえたジョルジュの顔面に、孤徹を叩き込む。
破壊音が響いた。反動でジョルジュの体が吹き飛び、背後にあった倉庫の壁に激突する。

(;゚∀゚)「ガッ……!」

その拍子に倒れてきた木材に圧し潰され、ジョルジュの体がブーンの視界から消えた。
しかしすぐに木材を弾き飛ばして起き上がり、真っ向からブーンを睨むつけて罵声を吐こうと口を開け、

(;゚∀゚)「へ、羅刹の特性を忘れたのか。てめぇの攻撃じゃ――――」

それが止まった。

(;゚∀゚)「な……に……?」

ジョルジュの顔面を守っていた鎧が、まだ傷を残していた。
簡単なことだ。先の孤徹の攻撃が、羅刹の高速自動修復を追い越すだけの威力があったのだ。

今のブーンにとっては当たり前のことである。
極限まで高められた集中力は、孤鉄の能力を最大限に引き出していた。



36: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:42:57.75 ID:tf8N9Bb30

だがジョルジュにとってみれば、それは予想外であったはずである。
なにせ数時間前まではまったく相手ではなかったネオファイターが、この羅刹に傷を残したのだ。

( ゚∀゚)「ククク……ヒャハハハハハハハッ!!」

それがジョルジュのプライドに触った。
絶叫を上げた刹那に傷は一瞬で修復され、木材を砕いてジョルジュは加速し、拳を放つために突っ込む。

が、やはりそれをブーンは苦もなく孤徹で受け止めた。

(#゚∀゚)「ハァ……ァァァァァアアア!! クソがっ!!」

息を荒げるジョルジュを見据え、ブーンは笑い、そして言う。

( ^ω^)「一体何を怒ってるんだお? 怒りは拳を鈍らせるって言葉聞いたことないかいかお?
       ……まさにその通りだったお。ジョルジュ、今のテメえは、僕には勝てないお」

ジョルジュの頭の中で何かが切れる音がはっきりと伝わった。

(#゚∀゚)「るせえクソがあッ!!」

ブーンから拳を引いたジョルジュの体が翻り、ブーンの顔面へと蹴りが繰り出される。
一度目の戦いと、立場は逆になっていた。
怒りで鈍ったジョルジュの攻撃は、もはやブーンには通用しない。

蹴りはいとも簡単に孤徹で無力化された。
ジョルジュに逃げる時間も反撃する時間も、ブーンは与えなかった。



39: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:45:31.84 ID:tf8N9Bb30

(#^ω^)「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」

全身全霊の力を込め、拳を灰色の鎧に打ち込む。

(;゚∀゚)「ガハァッ!!」

一撃目でジョルジュの体がくの字に折れ曲がり、さらに落ちてきた顎へと打撃を加える。
無防備に広がる羅刹には、傷がまだ残っていた。孤徹の攻撃が格段に上がり始めている。

勝負を決めるのはここしかないとブーンは思う。
手加減は、ナシだ。

(;゚∀゚)「ア……ガッ……!」

ぐらりと傾くジョルジュの体を射程距離に捕らえたまま、ブーンは顔面を狙い続ける。
逃げる暇も反撃する暇も、そして倒れる暇さえも与えない。

数時間前とは比べ物にならない轟音と振動が辺りを包み込んだ。

孤徹が羅刹を打ち付ける度に天井の照明器具が揺れて木材が振動に作用されて僅かに移動する。

(#^ω^)「おおおおおおぉぉぉぉぉぉッッッ!!!」

神速の拳だった。
普通の人間から見れば、空を切り裂く漆黒の残像すら見えなかったはずである。
ジョルジュの足が宙に浮き始める。それでもブーンは拳を緩めない。



40: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:48:33.24 ID:tf8N9Bb30

(#^ω^)「おおおおおおおおおあああああああああぁぁぁぁッ!!!」

やがてブーンの拳が羅刹を完璧に凌駕する。
高速自動修復が追いつかない速度で繰り出されていた孤徹が、ついにジョルジュの素顔を捕らえた。

(;゚∀゚)「がぁぁぁぁっ!!」

その一撃でジョルジュの鼻が圧し折れ、次の一撃で歯が数本砕けた。
返り血がブーンの顔に飛び散り、一瞬だけ拳を大きく構える。

羅刹の向こうから見えるジョルジュの目が、白目を剥いていた。

しかしそれでも、ブーンは手加減しない。
敵にそんなことをする必要すらない。この男が相手なら尚更だ。

(#^ω^)「――――この一撃がすべてを終らせるお。しぃを泣かせたお前を絶対に許さないお」

恨むんなら自分の弱さを恨め。

これで終わりだジョルジュ。食らいやがれ。



45: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:50:54.81 ID:tf8N9Bb30

(;゚∀゚)「て、てめ――――ッ!」

(#^ω^)「るあああああああッ――――!!!!」

ジョルジュの足が地面に着くか否かの瞬間に、ブーンは孤徹を放った。
骨の軋む音が聞こえた。血液を辺りに撒き散らしながら、ジョルジュの体が宙を舞う。

だがそれも一瞬だった。

(  ∀ )「……がっ……」

木材の弾ける音と共にジョルジュは壁に激突し、天井の照明器具がその反動で大きく揺れた。

(  ∀ )「……」

(;^ω^)「ハァ……ハァ……」

揺れる光の中、それまで感じなかったはずの疲労がブーンへと一気に落ちてきた。
膝に手を置いて荒い息を整える。倉庫内にはしばらく、ブーンの呼吸だけが響いていた。

息が整い、ゆっくりと顔を上げ、壁に凭れるように俯いているジョルジュを真っ直ぐに見据える。
そこで初めて、勝った、という思いが沸き上がる。



47: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:53:48.80 ID:tf8N9Bb30

( ^ω^)「ふう……。これでこの間の借りは返したお」

口から乾いた笑い声が漏れた。
天井を仰ぎ、拳を握り締めながら「勝ったお」とつぶやく。

数時間前までは絶対に勝てなかった相手をぶっ飛ばした。
その達成感が何よりも心地良い。こんな心地良さは初めてだった。
これで何もかも巧く回る。自分はドクオと決着を着けられるし、そしてしぃは荒巻と出会える。

最高の気分だった。やはり、孤徹が最強である。他のウェポンなど孤徹に比べれば……

「クク……ヒャハハハハッ!!」

笑い声が聞こえた。ブーンのものではない。
一瞬で視線を向けたそこに、未だに俯いていたジョルジュが一人、不気味な笑い声を出しながら肩を震わせて笑っている。

(;^ω^)「なっ……!」

勝った、という意思が奪われ、心地良さが消し飛んだ。
まだ生きてやがったのかこの野郎、とブーンはそう思う。

しかし考えればすぐにわかったことなのかもしれない。
なぜなら、羅刹はまだ、消滅していないのだから。

笑い声の中、ジョルジュはつぶやく。



50: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:55:51.15 ID:tf8N9Bb30

( ゚∀゚)「……あんたは……ウェポンの声を聞いたことが、あるかい……?」

ジョルジュが何を言っているのかわからなかった。
まさか殴り所が悪くて気が違ったのではないだろうか。

だが、そうではなかった。

( ゚∀゚)「……三日前から、おれにははっきりと聞こえんぜ、羅刹の声が。羅刹は、こう言ってる……」

ジョルジュの体がゆっくりと起き上がる。
鎧は修復されずに血塗れの顔をそのままに、ジョルジュは狂ったような笑顔を見せた。

( ゚∀゚)「……奪い尽くせ、ってな」

羅刹が高速自動修復を開始する。
血塗れのジョルジュの顔が灰色の鎧に再び隠れ、傷を完全に消し去ったジョルジュは立ち上がって右手を前に差し出した。

(;^ω^)「何を……!」

ジョルジュが何をしたいのかがさっぱりわからなかった。
そもそもブーンには、ウェポンの声というものの意味がわからない。
本当にジョルジュの頭がおかしくなってしまったのではないかと思った。

それが、気づいたネオファイターとそうではないネオファイターの強さを別つ壁だと、ブーンは気づかなかった。



53: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:57:45.34 ID:tf8N9Bb30

( ゚∀゚)「まさかあんたにここまで噛みつかれるとも。
     まさかこれをさっきまで勝ってたはずのネオファイターに使うとも、思ってなかったぜ……。
     ……だから喜べ。おれが実戦でこれを使うのはあんたが初めてだ」

そしてジョルジュは、その真名を呼んだ。

( ゚∀゚)「――虚連砲(きょれんほう)」

ジョルジュの突き出された右手の掌に緑の光の粒子があふれ出す。
目を見張ったブーンの視界の中で、それは具現化される。
灰色の鎧に包まれたジョルジュの右手が虚空から掴み出したもの。

それは、一丁の銃だった。ただ、その形は羅刹の鎧の如く歪なものだった。

小型の自動小銃のようにも見えるが、何かが違う。
一見しただけではトリガー以外にははっきりとした名称がつけられない、異形の拳銃だった。

( ゚∀゚)「射撃型ウェポン・虚連砲。これが、こいつの真名――――」

虚連砲の銃口らしき部分がブーンに向けられる。
ジョルジュがトリガーを絞るのが見えた。銃口から射撃音が連になって響き渡る。



54: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 18:59:27.57 ID:tf8N9Bb30

( ^ω^)「ッ!!」

その音だけでそれが単発式ではなく連射式なのだと悟った。
しかも弾が見えなかった。速過ぎて見えないのではない。
そもそもその弾に、形がないのだ。

(;^ω^)「くッ! 何だおこれ!!」

空気を切り裂く音だけを頼りに、ブーンはその場から左に転がる。
直後、背後から撃音が一定の間隔で聞こえた。それが教えてくれた。

虚連砲から撃ち出される弾に形は無いが、そこに弾は存在する。
見えない弾なのだ。

姿勢を低くしてジョルジュを見据えるブーンに、笑い声が届く。

( ゚∀゚)「羅刹の二つ目の特性は、ぶっ倒した相手のウェポンを具現化できることだ。
     あのとき、幻竜型ウェポンのネオスがいらねえっつったのはそういう訳だ。
     あんなモンを出したらおれの方が逆に殺されちまうからな。……ブーン、こっからが本番だぜ」

ジョルジュが銃口を向けた。

( ゚∀゚)「お前は、どこまで避け切れる?」



56: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:01:28.83 ID:tf8N9Bb30

(;^ω^)「おっ!」

虚連砲のトリガーが引かれた。
頭の中が混乱しているが、それでもブーンは音だけを頼りにその見えない弾を避ける。
ブーンが逃げる道のりに沿って地面が抉れて壁に穴が開く。

一発一発の威力は低そうだが当たれば致命傷までには至らないまでも不利になる。
それこそ足を撃たれたら形勢は最悪だ。止まることが許されない。
常に逃げ回るしか道はなかった。

(;^ω^)「くそったれぇぇ――!!!」

射撃音と何かが壊れる撃音は止まることなく鳴り響く。
これだけ無闇に連射しているのだから、恐らく弾切れはないのだろう。
弾切れがあるのだとしたらジョルジュはこんな無駄撃ちはしない。

つまり、逃げ切っているばかりではいつかは負けるということだ。



59: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:08:52.37 ID:tf8N9Bb30

頭の中を整理する。
羅刹が他のウェポンを具現化できることはもうどうでもいい。
虚連砲の他には具現化できないはずなのだから。

ジョルジュは今まで、一人しかネオファイターを倒していない。
だから虚連砲だけだ。問題はそれをどう避け、なおかつジョルジュに攻撃を仕掛けるか、である。

( ゚∀゚)「ヒャハハハハハッ!! さっきまでの威勢はどうしたよ、ブーンッ!」

(;^ω^)「ちっ!」

連射式に接近戦を挑むのは無謀過ぎる。
かと言って遠距離で攻撃できる手段をブーンは持っていない。
だが避け続けるのには限界がある。

ならば取るべき道は一つしかない。孤徹を信じるんだ。

ブーンはその場で立ち止まる。
ジョルジュがすかさず銃口をブーンに向け、見えない弾を撃ち出す。

( ^ω^)「――――ッ!」

音だけを頼りにブーンはその場で孤徹を構える。
幾ら見えないと言っても避けることはできる。
つまり速さには付いて行けるということであり、言い換えれば受け止めることもできるということだ。



61: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:11:17.32 ID:tf8N9Bb30

加えて幾ら連射式だと言っても弾が同時に発射されている訳ではない。
マシンガンのようなものだと思えば手っ取り早い。弾は必ず連になり、一つの線で結べるはずだ。

最初のタイミングだ。それさえを見極められれば――

( ^ω^)「……」

耳を澄まして、すべての神経を導入させた。
そして最初の一発を、孤徹が捕らえた。見えない弾は無力化され、ブーンが笑う。

( ^ω^)「ここだお!」

そこから先は一気だった。
冷静な頭が僅かな音の変化を驚くほど正確に感知し、それに合わせて孤徹を逸らしていく。

連になった弾はまるで吸い寄せられるかのように漆黒の鉄甲に突っ込んですべて無力化される。
行けると思った。

( ゚∀゚)「へぇ……」

射撃音が止まる。弾を見切られたのにも関わらず、ジョルジュはまだ笑っていた。

( ゚∀゚)「うまく受け止めるな。……だったら、これでどうだ?」

ジョルジュが虚連砲を出鱈目に振り回してトリガーを引いた。
その狙いは、明らかにブーンではなかった。
ヤケクソになって乱射しているようにも見えなくはないが、ジョルジュの笑い声がそれは違うと訴えている。



64: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:13:16.07 ID:tf8N9Bb30

( ^ω^)「何を……!?」

何を狙っているのかがまるでわからない。
まさか天井を打ち抜いてそれをブーンに命中させようと思っている訳ではあるまい。

ならばなぜ、ジョルジュは出鱈目に虚連砲を連射しているのか。
本当にヤケクソにでもなったのではないか。もしそうなら、

――違う。そうじゃない、


(;^ω^)「なっ!?」

やっと、その事実にブーンが気づく。出鱈目に乱射された虚連砲は、ただの一発も命中していない。
ブーンに、ではない。

それ以前に、先ほど撃ち出された虚連砲の弾は、天井にも壁にも地面にも、そもそも『どこにも命中していない』のだ。
まるで弾が途中で消えてしまったかのような感覚。
何がどうなったのかまったくわからなかった。



66: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:15:30.61 ID:tf8N9Bb30

(;^ω^)「消えた……!?」

( ゚∀゚)「ククク。周りに気をつけろや」

辺りを見ましていたブーンの視線が、ジョルジュの笑い顔を見た。

刹那に、四方八方から風を切り裂いて何かが突っ込んでくる。
それに気づいたブーンは一瞬でその場から転がり、

(;^ω^)「ぐッ!!」

間に合わない。
避け切れなかった数発が孤徹で無力化され、しかし孤徹を掻い潜った見えない弾丸がブーンの右足と右肩を掠めた。
少量の血が地面に散り、先ほどまでブーンがいたはずの場所に見えない弾が雨のように炸裂する。

微かに感じる痛みを押し退け、ブーンはゆっくりと起き上がる。

(;^ω^)「がっ……くそっ……!」

ブーンの傷口を見ながら、ジョルジュが再度笑う。

( ゚∀゚)「まだ避けれたか……。が、もはや時間の問題だな」



67: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:17:44.19 ID:tf8N9Bb30

トリガーが押し込まれ、虚連砲の銃口から弾が乱射される。
その弾はやはり、どこにも命中せずに消えたかのよう沈黙してしまった。
そしてそれこそが、射撃型ウェポン・虚連砲の特性だった。

撃ち出された弾の停滞及び軌道修正。
撃ち出された見えない弾はネオファイターの意志によって空間に停滞し、獲物を狙うためにその軌道を変更させることができる。

そして停滞していた弾はそれもネオファイターの意志のままに解除でき、撃ち出すことができる。
つまり、停滞させる弾の数が多ければ多いほどその威力は増し、巧く使えば死角無しの全方向による完全包囲が可能になるのだ。

(;^ω^)「ッ!!」

停滞していた弾はタイミングをズラしながらブーンを襲う。
二発同時発射までなら何とか防げる。しかしそれ以上弾数が多くなると防ぎ切れない。
孤徹で無力化させるのは二発までが限界である。

だが虚連砲から撃ち出され停滞している弾は、一桁ではない。
おそらくこの空間の中には数十発と停滞しているはずだった。

加えてジョルジュはなおも虚連砲を乱射している。弾数は増える一方だった。



69: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:20:06.15 ID:tf8N9Bb30

( ゚∀゚)「おら、もういっちょ!」

(;^ω^)「うっ!」

十数発が同時に発射されるのを頭のどこかが感知する。
右に走り抜けながら孤徹で防ぐが無駄な抵抗に終る。

孤徹を掻い潜った五発の弾がブーンの体を切り裂いた。

直撃は逃れたが腕に二発と足に二発、そして額に一発食らった。
刃物で切られたかのようにその傷口に線が入り、赤い血がじわりと流れ出てくる。

( ゚∀゚)「ヒャハハハッ!! どうした? もう逃げるのは終いか!?」

(;^ω^)「くそっ……!」

このまま避け続けるのはもはや限界だった。
血を流せば流すほど不利になるのは明白で、何より避けてばかりいてはジョルジュに攻撃を加えることもできない。

賭けに出るしかなかった。



71: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:23:08.50 ID:tf8N9Bb30
(#^ω^)「行くお! 弧鉄――――!!」

ブーンを目掛けて雨のように降り注ぐ弾丸の中を駆け抜け、ジョルジュへと突っ込んで行く。
しかしその進撃をジョルジュは許さない。虚連砲の特性を打ち切り、ただの連射銃として発砲する。

多少の傷は仕方が無いと諦め、体中から噴き出す血を無視して力の限りにジョルジュへと向かった。

(; ω )「ッ! おおおぉぉぉッ!!」

一発の弾が腹を抉り取るのを代償に、ブーンは孤徹の一撃をジョルジュの鎧へと打ち込む。

( ゚∀゚)「……っと。それだけか?」

(; ω )「!!」

だが、所詮は単発の攻撃でしかない。
ジョルジュの羅刹に、単発は何の意味も成さない。
荒巻以上の力があれば一撃で十分だが、当たり前の如くブーンにはそんな力はない。



72: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:25:27.31 ID:tf8N9Bb30

( ゚∀゚)「たっぷりくらいやがれっ!」

(;゚ω゚)「がッ!」

羅刹に傷が僅かに残っただけで、虚連砲の連射により逆に返り討ちにされる。
孤徹で防御に回って後退したのが命取りだった。
虚連砲を連射し続けたまま、ジョルジュが反撃に出る。

見えない弾に守られたジョルジュに、手出しすることはできなかった。
大きな傷を負った腹を徹底的に攻撃された。
拳を受ける度、蹴りを食らう度、この世のものとは思えないほどの痛みと地獄のような吐気が押し寄せてくる。

(;゚ω゚)「ごふっ……ッ!」

( ゚∀゚)「シャッ!」

口から驚くほどの血が吐き出された刹那に、顔面に灰色の鎧を纏う踵を打ち込まれて成す術なく吹き飛ばされた。
壁に激突した際に木材が砕け、容赦無くブーンの体を覆う。
口から流れる血を拭うこともせず、ブーンは必死に木材を破壊して立ち上がる。



76: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:28:38.01 ID:tf8N9Bb30

(;゚ω゚)「ハァ……ハァ……」

( ゚∀゚)「おせーよ」

しかしそのときにはすでに、ジョルジュの攻撃準備は完全に整っていた。
もはや拳を構えることもままならないブーンを包む空間には、三桁の見えない弾が停滞している。
すべてを発射されれば、ブーンは避けることもできずに蜂の巣にされるだろう。

体中から流れる血が漆黒の鉄甲を伝わって地面に滴り落ちる。
もし身体能力が向上していなければ、とっくに出血多量で動けなくなっているほどの量の血だった。

( ゚∀゚)「終いだ」

ジョルジュの体がふわりと舞い上がり、空中で加速を備えた上段回し蹴りが棒立ちのブーンの首を直撃する。

(  ω )「がっ……!!」

目の前が真っ白になった。
衝撃とは違うものが体をぶち抜いた。まるで玩具のように空を抜けて瓦礫の山へと突っ込んだ。
何かが圧し折れる音が豪快に響き、木材が再びブーンの体を埋め込む。



78: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:31:20.88 ID:tf8N9Bb30

光の届かない中で倒れたまま、ブーンの意識がゆっくりと闇の底へと落ちていく。

暗闇の中で、ただ思う。
やはり勝てなかった。自分の考えの甘さに腹が立つ。

結局は強くなれなかったのに、しぃに約束してしまった。
荒巻に会わせてやるなどと大それたことを言ってしまったのだ。

勝てないくせに。強くなんてないくせに。

それなのにしぃにあんな約束をしてしまった。

どんな顔をしてしぃに会えばいいのかわからない。悔し過ぎて死にたくなった。

( ゚∀゚)「ヒャハハハハハ!! てめ―――なん―――よ!!」

ジョルジュが何かを言っているような気がするが、もはや聞きとることが出来ない。



79: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:33:49.43 ID:tf8N9Bb30

ただ、それでもブーンは思う。
しぃに笑っていて欲しかった。
荒巻にもう一度会わせてやることができれば、しぃはまた笑ってくれる。

自分が優勝者になればそれができるのだ。
優勝者になる、たったそれだけでいい。
目の前の敵を倒せば望みは叶う。後一歩で笑ってくれるはずなのだ。

後少しで、すべてが巧く回るはずなのだ。
だから、まだ負ける訳にはいかない。勝ち残らねばならない。

(  ω )「しぃと……約束……勝たな……きゃ……」

だけど、体は動いてくれなかった。
幾ら勝ちたいと願い思っても、それを押さえつけるだけの攻撃を我が身に受けてしまっている。
体はすでに、機能停止に近い段階にまで侵食されていた。

拳を握り閉め、暗闇の底に存在する漆黒を見据える。
もう一度だけ、立ち上がりたい。最後に一人だけ、ぶっ倒したい奴がいる。
そいつだけは許してはならないのだ。

しぃを泣かせたそいつだけは、絶対に許してはならない。



81: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:35:40.11 ID:tf8N9Bb30

例えこの体がぶち壊れようとも関係などない。
どんな手を使っても、必ず倒してやる。
最も幼いネオファイターを守っていた、最も強いウェポンから受け継いだ意思。

(  ω )「……しぃを……守る……」

それだけを頼りに、ブーンは再び立ち上がろうとする。


――――守りたい。

――――しぃを、そしてしぃと交わした約束を、それだけを守りたい。


お前は守るためにいるはずだ。何のための漆黒だと思ってやがる。
すべてを無力化するその二体一対の鉄甲は何のためにある。

こんなときに力を貸さないで何が強さだ、何がウェポンだ。

応えろ孤徹。
力を貸せ。
僕はただ、守りたいんだ。
しぃとの約束を。


ただそれだけなんだ。だから――――



85: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:38:30.54 ID:tf8N9Bb30



        『――――守り抜け』



暗闇を彷徨っていたブーンの思考が浮上する。
ぼんやりと目を開け、視線を腕に落とす。

そこに装着された漆黒の鉄甲を見つめながら、ブーンは乾いた笑いを漏らした。
簡単なことだった。どうして今まで気づかなかったんだろう、とすら思う。

最初からそれはすぐそこに転がっていたのに、気づけなかった。

ドクオの言っていた意味がようやくわかった。
実に簡単なことに、本当に自嘲染みた乾いた笑いが出た。
拳を握りながら心の中でつぶやく。



……何だよお前……、聞こえてたんじゃねえかお……



88: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:41:18.23 ID:tf8N9Bb30

そして、空を切り裂き、停滞していたすべての弾がブーンの埋まる木材目掛けて撃ち放たれた。
轟音が響き、木っ端微塵に砕けるその光景の中で、ジョルジュが狂ったように笑っている。

( ゚∀゚)「ヒャハハハハ! あばよぉ、ブーン!」

しかしそれが静かな笑みと移り、やがて笑いは消え去って険しい表情へと変わった。

( ゚∀゚)「……あ?」

土煙が舞い上がるそこから、全身血塗れの一人のネオファイターが姿を現す。
二体一対のウェポン・孤徹を装着したブーンが血を流しながら天を仰ぐ。

先の弾を避けたのではない。
先の弾は、大半がブーンに命中している。
ただ致命傷を何とか避けているだけだ。

だがそれで戦闘不能に陥っても何ら不思議は無く、普通なら立ち上がることもできないほどの傷だろう。
それでも、ブーンは立ち上がり、笑った。

漆黒の鉄甲が鈍く輝いていた。



90: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:43:43.59 ID:tf8N9Bb30
( ^ω^)「……お前の言う、ウェポンの声ってのがやっとわかったお……」

( ゚∀゚)「なに……?」

ジョルジュは虚連砲の銃口をブーンに向ける。
ブーンは天を仰ぎ続ける。

( ^ω^)「孤徹が言ってるんだお……ただ一言だけ……」

孤徹は言う。

――守り抜け、と。

なぜ最初に気づかなかったのだろう。
孤徹の特性は守りにある。それが孤徹と同調するための条件の手掛かりとなっていたのに。
それになぜ、気づけなかったのだろう。

強くなりたいと願ったブーンに孤徹が応えなかったのは、意思が違うからだ。
強くなりたい、じゃ駄目なのだ。何かを守りたい、その願いが本当の孤徹を呼び覚ます。

やっと理解した。
孤徹は何かを守るという意思に反応する。
長い時間を懸けてそれをようやく悟り、ブーンは孤徹と同調した。



92: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:45:47.73 ID:tf8N9Bb30

加えて孤徹の声を聞けた瞬間に、孤徹のすべてを理解できたのだ。
今更だと孤徹は思っているかもしれない。だけど、礼を言いたい。力を貸してくれて、ありがとう。

孤徹の特性が無力化? 否。それ自体がそもそもの間違いだったのだ。
孤徹の本当の特性は衝撃の無力化ではなく、衝撃の吸収。

そして、孤徹本来の特性は吸収した衝撃の爆散。

もはや一撃しかジョルジュに攻撃するだけの力は残っていない。
しかしその一撃で十分である。この一撃こそが孤徹の本当の力だ。
孤徹が最強だと証明する最大の一撃。

( ^ω^)「一気に決めるお、孤徹。しぃとの約束を守り抜くために、今ここで、終焉の一撃を放つお」

ブーンが咆哮を上げる、

( ゚ω゚)「勝負決めようじゃねえかお……ジョルジュゥウッッ!!」



97: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:47:54.16 ID:tf8N9Bb30

虚連砲のトリガーに置かれた指に力が篭る。

( ゚∀゚)「死に損ないが、このおれに上等な口聞くんじゃねえよ!」

トリガーが押し込まれ、虚連砲から見えない弾が撃ち出される。
ブーンは、そんなものなど端から無視するように真っ向から突っ込んだ。

音だけを頼りに迫り来る衝撃を孤徹で吸収し、見逃した弾は避けることもせずにすべて我が身に受けた。
弾がブーンの体を掠る度に血が辺りに飛び散り、痛みが冗談のように膨れ上がる。

完全に見逃した弾に左肩が撃ち抜かれ、そこから下が激痛に蝕まれてイカれたが知ったことではなかった。

( ゚ω゚)「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ――――!!!!」

右腕さえ動けば他がどうなろうと関係は無い。
すべての神経を右腕に集め、拳を握った。

( ゚∀゚)「チッ!」

銃弾を受けてもなお怯まないブーンに業を煮やしたジョルジュは、虚連砲を放り出して自らの拳を構える。
ジョルジュは羅刹のネオファイターである。やはり最後は我がウェポンに頼るのだろう。

羅刹なら耐え切れる、そしたら反撃だ。
ジョルジュはそう思っている。
その考えは、間違いではなかったはずだ。



99: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:50:07.18 ID:tf8N9Bb30

しかしそう思っても、もはや何もかも手遅れだった。
ジョルジュの拳が打ち出された瞬間には、

( ゚ω゚)「おおおおおおおおおおおあああぁぁぁぁぁぁッ!!!」

ブーンの鉄甲が、ジョルジュを捕らえた。
その瞬間に、一瞬だけすべてが停止する。

( ゚∀゚)「……え?」


羅刹に打ち込まれた孤徹から、吸収され続けていた衝撃があふれ出す。
止まっていた時間が動き出した刹那の一秒、



孤徹が、爆散する。



102: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:52:29.84 ID:tf8N9Bb30

それは、何もかも破壊する衝撃波だった。
音の無い風のように荒れ狂う巨大な波動。

孤徹から爆散された無音の衝撃波は、辺りを舐めるように吹き抜け、すべてを破壊しながら吹き飛ばした。

孤徹が打ち込まれたそこから灰色の鎧が根こそぎ剥ぎ取られる。
まるで石が風化するのを早送りで見ているかのような光景だった。

( ゚∀゚)「アアアアアアアアアアァァァァッ!!!!」

羅刹の高速自動修復を完全に凌駕し、衝撃波はジョルジュを一気に突き抜ける。

灰色の鎧が消え失せたそこにあるのは、体の骨を粉々に砕かれたジョルジュの素体だった。

(  ∀ )「ぁ…………」

ジョルジュの意識は衝撃波ですでに消滅させられていて、停止していたその体が後ろへ倒れ、小さな砂煙を舞わせる。
ジョルジュの体内から排出されたネオスと虚連砲のネオスが緑の光の粒子となって漂う。

それは、すべてが決したのにも関わらずまだ孤徹を突き出しているブーンへと蓄積される。



103: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:54:25.54 ID:tf8N9Bb30

(;^ω^)「はっ……はっ……ハァッ……!」

静寂が支配するその空間に、ブーンの右腕から骨の軋む音がした。
その痛みに耐え切れずに孤徹を無造作に下ろした瞬間に、もはや右腕が使いものにならなくなってしまったことに気づく。

左腕も使えない。それ以前に、体中が激痛に蝕まれて機能を麻痺させている。

(;^ω^)「――――お」

ゆっくりと後ろに倒れ込む。
先の孤徹の衝撃波で倉庫の天井が弾けて飛んでおり、そこから四角に切り取られた夜空がはっきりと見えた。

ぼんやりとそんな光景を見つめながら、ブーンはつぶやく。


(;^ω^)「…………勝ったお……っ、………チクショウめ………っ!」

喜びを噛み締める言葉だった。

夜空を流れ星が一つだけ横切ったのが、ブーンにははっきりと見えた。
馬鹿みたいに痛い体を押さえつけながら、使いものにならないはずの右腕を突き上げ、

ブーンはもう一度、先の言葉を叫んだ。



106: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/19(日) 19:55:48.36 ID:tf8N9Bb30

――――…


 第十二期ネオファイター観測局よりネオファイト執行協会本部へ。
 第十二期ネオファイター戦優勝者・ブーン。
 これより、【界の狭間】への転移を開始します――。



                          …――――



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