( ^ω^)ブーンがネオファイターになるようです
- 4: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 18:53:07.29 ID:ixf1TaZQ0
第九話「界の狭間」
ブーンの体内にネオスが九個蓄積された。
孤徹、氣烈、羅刹、風靭、水靭、雷靭、軌瀞砲、虚連砲、そして荒巻。
第十二期ネオファイターが具現化させたウェポンがネオスとなり、一人のネオファイターの体内に蓄積されたとき、
一つの集合体となったネオスはその情報を引き出す。
情報、というのは少しだけ間違いかもしれない。正確には座標である。
その座標は即座に軸を越えて第十二期ネオファイター観測局に送信され、
それを受信した観測局は優勝者の身柄を軸の中心部【界の狭間】へと転移する。
人間が軸を越えようとする場合、そこで一度停止させなければ狭間の網に引っ掛かってどこに転移されるかわからなくなってしまう。
しかし【界の狭間】で停止するのは、自殺行為に他ならない。
そのことをブーンは当たり前の如く知らないし、今まで『ただの一人も【界の狭間】を抜けられた人間がいない』ことも、もちろん知らない。
- 6: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 18:55:16.64 ID:ixf1TaZQ0
一つの軸に対極になるように存在する二つの世界を結ぶ【界の狭間】の領域。
そこに足を踏み入れて生きていた者は一人もいない。そこの裏には、すべての世界に共通する暗黙の【掟】があるのだ。
――界を越えて対立を乱すな。乱す者は異端者として排除する――
いつからそんな【掟】があるのかは誰も知らないし、誰が作ったのかもわからない。
ただ、世界が成立したときには存在していたに違いないその【掟】。
そしてその【掟】を貫き通す存在。
その存在こそが、『今までただの一人も【界の狭間】を抜けられた人間がいない』ことに繋がるすべての元凶である。
対極に存在していた二つの番人。それが――
- 8: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 18:58:33.15 ID:ixf1TaZQ0
※
( ^ω^)「――――お?」
勝利の余韻に浸っていたブーンの視界の中で、唐突に世界が歪んだ。
まるでウェポンが具現化されるときのように辺りがぐにゃりと歪み、そこから膨大な量の緑の光の粒子があふれ出す。
それだけならもしかしたら何かのウェポンが具現化されるのかもしれない、と思ったはずだった。
しかし、その規模がおかしい。あふれ出ている粒子の量は、圧倒的に荒巻よりも多い。
ブーンの見ている範囲の空間がすべて緑の光の粒子で埋め尽くされ始めている。
(;^ω^)「な、何だお!?」
ブーンは、この光景をどこかで見たことがあるのに気づく。
その考えはすぐに確信に至る。午前零時に見た、あの光景とまったく同じ現象がまた起こっているのだ。
しかしなぜそうなっているのかがわからない。今は深夜の二時か三時くらいのはずだ。
午前零時ではない。
緑の光の粒子はブーンの体までも包み込む。
温かいようなその光に包まれていると、ジョルジュとの戦いで負った傷がみるみる内に治癒されていくのがはっきりとわかった。
- 9: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:01:43.74 ID:ixf1TaZQ0
( ^ω^)「お……なんか知らんけど、傷が治ってくお」
もしかしたら優勝者は無条件で体が回復するのではないか、という考えが湧き上がってくる。
そして一度そう考えてしまうと、その考えが正解であるように思えて仕方がなくなってしまう。
( ^ω^)「おっお。完全に治ったみたいだお」
先ほどまで激痛に蝕まれてはずの体から痛みが完全に消えた。
加えて自由に動かせるようになる。
ブーンの体の傷を完全に治癒し終えたのか、緑の光の粒子はゆっくりとブーンから離れていく。
しかし辺りの粒子はまだそこに存在し、それどころかさらに数を増やしているような気さえする。
(;^ω^)「何が起きてるんだお……?」
ブーンは今、緑の光の中に座っていた。
視線を彷徨わせるが見える光景は三百六十度どこも同じで、上も下も光に侵食されていた。
その実に奇妙な感覚に耐え切れなくなり、ブーンは立ち上がる。
そして立ち上がった刹那、一瞬の浮遊感を味わった。
- 10: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:04:58.47 ID:ixf1TaZQ0
―――…
―…
(;^ω^)「うおっ!」
バランスを崩した瞬間にいきなりどこかに放り出され、緑の光の粒子がパァアっと弾けて消え失せた。
緑の光から放り出されたそこは、漆黒の世界だった。
腕にまだ装着されていた孤徹がその闇に溶け込んでいる。
目を凝らすと、闇の中に小さな光の粒のような見える。
辺りを見まわして初めて、それがブーンから見える視界のどこにでもあることを理解した。
( ^ω^)「なんだお、これ……」
すぐそこにあるようなのだが手を伸ばしても空を掴むだけで触れることではない。
まるで星のような光だ、と思ったときに悟った。
- 11: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:08:34.56 ID:ixf1TaZQ0
( ^ω^)「……!」
自分の考えが外れて欲しいと思うと同時に、何となくそんな気がすると思う。
しかしこの漆黒の世界に瞬く光を例えるのなら、それがいちばん的確であるはずだった。
ブーンが見ているその光景。それは、宇宙に近いものだ。
宇宙のど真ん中に放り出されたような感覚である。
近いようで触れれない距離にある光は星の瞬きに他ならないのではないか。
だがどうやって宇宙に来たのすらわからないし、もし本当にここが宇宙だとするのなら自分はとっくの昔に死んでいるはずだ。
( ^ω^)「もしかして、優勝者はここで望みを叶えられるのかお……?」
何となく在りそうなので今はそれが有力となる。
それにしても不思議な場所だった。本当に宇宙のど真ん中にいるような気さえしてくる。
歩いても走っても見える光景は何一つ変わらず、それどころかこの空間はどこまでも続いていた。
少なくともちょっとやそっとじゃ終らないはずだ。
加えてブーンの足は確かに地面と思わしき場所に着いてはいるものの、手を伸ばしてもそこに触れることはできない。
下手をすれば転地が逆になる。だが、逆になったらなったで今度はその逆が正しい方向へと変わる。
- 14: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:11:09.61 ID:ixf1TaZQ0
そんな有り得ない現象が起こる度、ここはやはり本物の宇宙なのではないかとブーンに思わせる。
( ^ω^)「……」
それは、この空間に投げ出されてどれくらい経った頃だったのだろう。
一分かもしれないし五分かもしれないし、下手をすれば三十分以上経っていた可能性もある。
何分経ったかわからないその時空の中で、変化が訪れ始めていた。
ブーンの視界にあったはずの星がゆっくりと動き出している。
最初は目を凝らさなければわからない変化だったが、数秒事に速く多くなっていく。
(;^ω^)「お……?」
やがてそれはブーンの目前に収縮し、無数の星が重なり合うように何かの形を造り出すために活動を開始する。
- 15: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:15:14.04 ID:ixf1TaZQ0
集まった星は形を成し、見上げるような巨大な竜を造り出していた。
大きな翼が左右に開かれ、長い尻尾が波打ち、口から覗く牙までもはっきりと浮かび上がる。
その竜は、見れば見るほど、ブーンがよく知っているウェポンに思えた。
( ^ω^)「荒巻……?」
つぶやき、ぼんやりと竜を見上げていた。
そして竜を多い尽くしていた光が弾け、その姿を完全に現せた。
そこで、ようやく理解した。
――違う。『これ』は、荒巻ではない。
ブーンの目の前で作り出されたもの。
それは、荒巻と瓜二つの竜だった。
真紅と対立するかのような白銀の竜が、そこに眼光を開ける。
荒巻の眼光は燃え盛るようなものだったが、この竜の眼光は、氷のように冷酷なものだった。
荒巻とは異なる圧倒的な圧迫感と迸る殺気がブーンを真っ向から射抜き、その場に硬直させる。
- 18: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:18:35.15 ID:ixf1TaZQ0
(;^ω^)「!!」
体が冗談のように震え上がった。
今すぐにでも逃げ出したいと思うが体が一ミリたりとも動かせない。
こいつには勝てない、とかそういう次元の話ではないのだ。
白銀の竜に射抜かれた体の細胞の一つ一つが告げる。
こいつとだけは、絶対に戦うな、と。
( ФωФ)「――我が名は狭間の番人・杉浦。異端者を、排除する者なり」
気づいたときには遅かった。
抉じ開けられた杉浦の口から咆哮が弾け、ブーンを突風のように吹き抜ける。
(;゚ω゚)「お……あ……!!」
頭の中が攫われた。
まるで体の内部だけを破壊するかのような叫びだった。
巨大な何かで内臓を抉り出されるような感覚。
津波のような吐気が押し寄せ、目の前が白く染まる。
気分がどうのとかで表せる状態ではない。
自分が今、こうして立っているのが不思議なくらいだった。
いや、もしかしたら体はすでに死んでいて、そのまま硬直しているのかもしれなかった。
- 20: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:21:49.60 ID:ixf1TaZQ0
( ФωФ)「――――…ッ」
(;゚ω゚)「あ……」
杉浦の眼光が細くなる。
抉じ開けられた口の奥底に、白色の光が収縮される。
荒巻が炎の弾丸を撃ち出す際と同じ現象が起こっているのだということはすぐにわかった。
逃げなければ死ぬということもわかった。
しかしわかっているのだが、どうしても体が動かせない。
脳の隅々から「死にたくなければ早く逃げ出せ」という命令が飛び交うが体が言うことを聞かない。
それは、杉浦の眼光から放たれた束縛に近い拘束だった。
( ФωФ)「――――滅せよ」
杉浦の口から氷の弾丸が撃ち出される。
その軌道を驚くほど正確に目で追えた。
だが避けることがついにできなかった。
- 21: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:24:34.33 ID:ixf1TaZQ0
(;゚ω゚)「がっ……!!」
氷の弾丸はブーンの目の前で炸裂し、すべてを凍らす爆風が巻き起こる。
ブーンの右手を動かしたのはブーン自身の意思ではなく、孤徹自らの意思だったように思う。
爆風からブーンを守るように突き出された漆黒の鉄甲が冷気に晒されて嘘のように凍りつく。
それは孤徹が装着されていたブーンの右腕も飲み込んだ。
氷の重さが腕に伝わった瞬間に、自分の腕が凍っているという事実を脳が認識する。
刹那に冷たさではなく、焼けるような熱さを感じた。
(;゚ω゚)「ぐあああぁぁぁぁッ!!」
その場で凍った右腕を左手で掴みながら絶叫する。
腕が凍りついた、という恐怖がブーンの束縛を解いた。
- 23: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:27:47.60 ID:ixf1TaZQ0
(;゚ω゚)「おっおっ……! うああああ!!」
右腕を垂らしまま踵を返して走り出す。
自分の腕がそこにあるはずなのに動かせない感覚が何よりも恐ろしかった。
気づいたときには右腕からは何も感じなくなっている。
寒さも熱さも、そもそも無機質な何かのように何も感じないのだ。
孤徹の爆散を使った反動で砕けて使いものにならなくなるのとはまた違う。
右肩から下が切り落とされてしまったかのようだった。
自分の凍った右腕を見る度にその恐怖に負けて泣き出しそうになる。
(;゚ω゚)「はぁっ……はぁっ……!」
何を置いてもまず、杉浦から逃げなければならなかった。
戦う、なんて意思はこれっぽっちも出てこない。
建前もクソも放り出して逃げ出さなければ間違いなく殺される。
ただ単純に、白銀の竜が恐ろしい。
荒巻とは違う、地獄の底から沸き上がってくるような迸る殺気。
- 24: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:30:11.45 ID:ixf1TaZQ0
(;゚ω゚)「――――あ」
風がブーンの横を吹き抜け、気づいたら白銀の竜がそこに飛来していた。
力任せに振り回された尻尾がブーンを狙う。
無意識の内に左腕に装着された孤徹を差し出し、その衝撃を吸収する。
が、風圧にやられてブーンの体が木の葉のように宙を舞う。
(;゚ω゚)「痛ッ!!」
どっちが天か地かわからない空間に激突し、何度も転がった。
その途中で嫌な音が耳に入った。
体勢を立て直して我が右腕を凝視する。
右腕を覆っている氷の塊に罅が入っていた。
もし下手をして氷が砕ければ、ブーンの右腕ごと砕けることになる。
それだけは何としてでも避けたい。自分の腕が砕ける様を見るなど、死ぬより遥かに恐ろしいことだった。
- 25: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:32:19.46 ID:ixf1TaZQ0
- ( ФωФ)「愚かな」
杉浦が追撃をかける。
物理攻撃が無意味と一度の攻防で悟ったのか、口を抉じ開けて氷の弾丸を吐き出す。
その大きさが、先の氷の弾丸より遥かに大きく速かった。
(;゚ω゚)「あ……あ……」
それは逃げることはできない速さであり、そして逃げても無意味に終る威力を持っていることは一目瞭然だった。
もし死ぬなら無駄に苦しみを負うよりこの一撃で完全に凍り漬けにされた方が楽なのではないか。
そうなれば右腕のことで苦しまなくて済む、だったら、
――――守り抜け、
しぃの笑顔が頭の中に浮かんで消えた。
- 26: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:34:39.14 ID:ixf1TaZQ0
( ゚ω゚)「く、うあああああぁぁぁ――!!」
すべての意思を捻じ伏せ、絶叫しながらブーンは孤徹を突き出す。
負けてたまるか、死んでたまるか。
自分を振るい立たせて目の前の氷の弾丸を睨みつける。
まだ約束を守り切っていない。しぃと荒巻を会わせてやるんだ。
こんな所でこんな訳のわかない奴に殺されてたまるか。
お前が誰かは知らない。お前が圧倒的に強いことは百も承知だ。
だけど、守り抜くために、おれはここにいる。おれは、戦――
氷の弾丸が炸裂する。
何もかも凍てつかせる爆風が吹き荒れ、ブーンの体を覆うように包み込み、
(;゚ω゚)「――――!」
そして、劫火が荒れ狂う。
ブーンの後ろから冷気を吹き飛ばすかのように炎が押し寄せ、すべてを相殺した。
その炎に晒されてブーンの右腕の氷が一瞬で溶ける。
目の前にいたはずの杉浦が翼を広げ、大きく距離を取るために飛翔する。
空間に着地するや否や、牙を剥き出しにしてブーンを見据えた。
- 27: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:36:59.07 ID:ixf1TaZQ0
いや、違う。
杉浦が見ているのはブーンではない。その後ろだ。
( ^ω^)「え……?」
ブーンが振り返る。しかしそこには何もなく、漆黒の世界だけが広がっていた。
一体杉浦は何を見据えているのか。そう思った刹那、
/ ,' 3「ぐ、ぬぉぉぉぉぉぉッ!」
空間を圧倒的な力で捻じ曲げ、界の軸を越えて漆黒の中から真紅の竜がその姿を現す。
小さな雷のような光が飛び散るそこから、荒れ狂う劫火を身に纏い、灼熱の眼光を宿らせ、
幻竜型ウェポン・荒巻がこの時空に具現化された。
( ФωФ)「……!」
白銀の竜の冷気を威嚇するように劫火は漆黒の世界を取り巻いている。
その劫火の中心から杉浦を見据えていた荒巻が口を抉じ開けて咆哮を上げた。
それに対抗するかのように杉浦も咆哮を上げる。
空間を埋め尽くすその叫びにブーンの頭の奥底が大きく揺れた。
- 29: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:39:57.60 ID:ixf1TaZQ0
/ ,' 3「……久しぶりだな、杉浦」
杉浦の白銀の体から冷気と殺気が迸る、
( ФωФ)「……荒巻……、貴様……ッ!」
そして荒巻は、視線を杉浦に固定したままブーンに言う。
/ ,' 3「界の軸を抜けるのに手間取った。すまない。そしてしぃのことに対して礼を言う。
本来ならおれがあのネオファイターを殺してやりたがったがそうも言ってられなかった。
何を差し置いてもまず、おれは杉浦と殺し合うより他にないらしい。……下がっていろ、小僧。後はおれが引き受ける」
聞きたいことは山ほどあった。しかしどれも口にはできなかった。
ただ、荒巻の劫火を見ていると、なぜかこんなことを言ってしまう。
( ^ω^)「……遅せえお…………もうちょういで死ぬトコだったお……」
/ ,' 3「黙れ。泣きそうな顔で偉そうなことを言うな」
( ^ω^)「……うるせえお……」
- 32: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:42:57.16 ID:ixf1TaZQ0
燃え盛る紅蓮の炎が今は何より頼もしい。
敵に回せばこれほど恐いウェポンはいないだろう。
しかしその脅威が味方になったときの心強さは計り知れない。
正真正銘の最強である幻竜型ウェポン・荒巻。
それが今、ブーンの味方となり戦おうとしている。
最後には倒さねばらないと思ってた相手だが、この際それはもうどうでもいい。
燃える炎はブーンの心の底から意思を運んでくる。
荒巻が味方についているのなら、絶対に負ける訳はない。
( ^ω^)「なんだかよくわかんねーけど、そいつを倒さないと願いは叶えられないってことみてーだおね」
やっとまともに動くようになった右腕の拳を握り締め、孤徹を打ち鳴らした瞬間。
ブーンのすぐ後ろで空間が歪んだ。
小さな雷が弾け、ぐにゃりと捻じ曲がったそこから『何か』が排出される。
『何か』は空間を無造作に転がり、やがて静止していきなり立ち上がった。
ブーンが見ているそこで、この空間に投げ出された『何か』が、口を聞いた。
- 34: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:45:30.21 ID:ixf1TaZQ0
('A`)「荒巻、置いてくなよ、迷ったかと思ったじゃないか」
自分の目がどうにかなってしまったのではないかと本気で思った。
『何か』は、ブーンがよく知る人物だった。
( ^ω^)「……ドクオ……、お前、どうして……?」
歪んだ空間から吐き出されたドクオはすぐそこにいたブーンを見つけると、
意外な奴に会った、とでも言いた気な顔をした。
('A`)「荒巻に呼び出されたんだよ。面白いことがあるからお前も来いって。
そんで付いて行ったらいきなり荒巻が先に行っちまって逸れたかと思った。
ああそうそう、ブーン。優勝おめでとう」
その視線がゆっくりとブーンから外れ、未だに荒巻と対峙している杉浦へと向けられる。
('A`)「あれが……杉浦だね、荒巻」
荒巻が肯く。
ブーンの頭の疑問が浮き上がる、
( ^ω^)「ドクオ、あの竜をを知ってるのかお……?」
視線は杉浦に向けたまま、ドクオが言い始める。
- 37: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:48:41.80 ID:ixf1TaZQ0
('A`)「ブーンには言ってなかったけどさ。
ネオファイト執行協会本部から初めて手紙が来たときからずっと思ってたことがあるんだ。
ネオスやウェポンは、異世界の産物だと考えて間違いないと思う」
('A`)「そしてその異世界はこっちの世界よりもすべての技術に置いて発達していて、
こっちの世界への通信手段も持っていて、そしてウェポンなんてものを造り出してそれを送って来た。
詳細云々はこの際どうでもいいよ、おれもわからないから。ただね、矛盾があるんだよ。
( ^ω^)「矛盾?」
('A`)「うん。それが、ネオファイト執行協会本部から初めて送られた来た手紙に書いてあった『優勝者の望みを叶える』ってヤツ」
ドクオは、実に楽しそうに話す、
('A`)「簡単に望みを叶えるっていうけど、本当にそんなことが可能なのか。
だってそうでしょ? 今までネオファイターに選ばれた奴が全員、
おれやブーンみたいにただ単純に戦いだけを楽しむために優勝者を目指すって有り得ないんだから」
('A`)「単純計算で今までネオファイト戦は十一回行われている。つまり、十一人優勝者がいることになる。
その中の全員が、っていう訳じゃないけど、その中に一人はいるはずなんだ。
優勝者になって、世界征服、なんて望みを叶えようとする奴が」
でも、今までそんな望みを叶えた奴はいない、とドクオは言い切る。
- 38: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:51:13.89 ID:ixf1TaZQ0
('A`)「もし誰か一人でもそんな望みを叶えていたのなら、おれたちの世界はもっと息苦しくなってるはずだ。
それこそ、そこら中にその世界征服した奴の銅像なんて立っててもおかしくない。
しかし当たり前のようにおれたちの世界を征服した支配者なんて奴はいないし、ましてや銅像も立っていない」
( ^ω^)「……!」
('A`)「……では、ここで問題が一つ。
なぜ、今までただの一人もネオファイト戦の優勝者が世界征服という望みを叶えていないのか」
ドクオはブーンの答えを待っているかのような素振りを見せるが、結局はほったらかしで話を続ける。
('A`)「おれが考えるにいちばん近そうな答えが二つ。
一つ目が、望みを叶えると言ってもそれには限界があるという説。
二つ目の説がこれだ。……望みを叶えることはできるが、今まで唯の一人も、望みを叶えられた奴はいない」
そしてドクオは、目の前の『答え』を見据える。
- 42: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:54:21.40 ID:ixf1TaZQ0
('A`)「荒巻から聞いてすべてに合点がいった。
今までのネオファイト戦で優勝した者は皆、この【界の狭間】に引っ張り出されるんだ。
この【界の狭間】さえ抜け出せれば勝手に異世界へと連れて行ってもらえるらしい」
('A`)「そこで本当に望みが叶えられるんだってさ。しかし誰一人として、この【界の狭間】を抜け出した者はいない。
優勝者は皆、望みを叶える前にこの【界の狭間】で殺されてるんだ。
……そして、すべての元凶がそこにいる白銀の竜、狭間の番人・杉浦。……だったよね、荒巻?」
荒巻が無言で肯くのを確認しながら、ドクオはその一歩を踏み出す。
話の展開について行けなかったブーンの目の前に立ったドクオがそっと手を差し伸べる。
('A`)「……少しの間だけ、返してもらうよ」
ドクオの掌がブーンの胸に押し当てられる。
刹那に、体から何かが抜けて行くような感覚に包まれた。
そして事実、ブーンの体からはそれが排出されていた。
( ^ω^)「これは……!」
緑の光の粒子がブーンからあふれ出し、それがゆっくりとドクオに集まり出す。
やがてそれは形を成し、一振りの刀をドクオの掌へと造り出した。
それをしっかりと握り締め、ドクオはその真名を呼ぶ。
- 43: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:57:20.99 ID:ixf1TaZQ0
('A`)「風靭」
刀を覆っていた緑の光の粒子が弾け、そこに斬撃型ウェポン・風靭が具現化された。
ドクオは輝く刃を見据え
('A`) 「久しぶり、風靭。負けてごめんな。けど……これで帳消しにしてくれ。
最高の戦いがここにあるんだ」
と笑った。
ドクオと完全に同調した風靭の刃を風が取り巻き、その規模と威力を大幅に拡大させる。
ドクオが刀を振り抜くと風が大きく舞い上がり、小さな旋風を発生させる。
その姿はまるで、風がドクオと戯れているかのようだった。
風靭が、大声で笑っている。
そんな光景をぼんやりと見つめていたブーンへと、荒巻が視線を向けた。
/ ,' 3「……小僧。恥を承知で頼みたいことがある」
荒巻のその言葉と態度に度肝を抜かれた。
驚いて視線を荒巻に移すブーンを見据え、荒巻は、言う。
/ ,' 3「お前の望みが何かは知らん。だが、それでも頼みたい。
……しぃを、助けてやって欲しい。そこに辿り着くまでの道のりはおれとドクオで開いてやる。だから」
- 44: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 19:59:15.57 ID:ixf1TaZQ0
やっと話についてこれた、とブーンは思う。
細かいことなど沢山だ。男は黙って拳を振るえ。
ぐだぐだ考えるのは後回しである。
ブーンが再度孤徹を打ち鳴らす。
( ^ω^)「……取り敢えず、それには条件があるお。戦いに僕も混ぜるお。
僕とドクオと荒巻で戦うなんてこれが最初で最後だろうし。
しかも相手は荒巻以上の化け物だお」
( ^ω^)「こんな面白い戦いに参加できねえんじゃ悔いだらけで終っちまうお。
だから、お前の話はあいつをぶっ倒した後でちゃんと全部聞いてやるお」
荒巻が実に楽しそうに笑う。
/ ,' 3「小僧、このおれに取り引きを持ち掛ける気か?」
( ^ω^)「おっお」
/ ,' 3「くっくっく。よかろう、その代わり、死んでも知らんぞ」
( ^ω^)「上等だお!」
('A`)「待て待て、おれも混ぜろって」
ドクオが風靭を振り上げて話しに割って入る。
- 46: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/20(月) 20:01:29.05 ID:ixf1TaZQ0
/ ,' 3「まさか貴様等と肩を並べて戦うなどとは思ってもみなかった」
( ^ω^)「そりゃこっちの台詞だお」
('A`)「いいじゃん別に。面白そうだし」
間違いない、とブーンが肯く。
そして事の成り行きを何も言わずに見ていたはずの杉浦が唐突に言い放つ。
( ФωФ)「何のつもりかは知らぬが……荒巻共々貴様等を異端者と見なし――排除するッ!」
神速の速さで杉浦が空を舞った。
そして、ブーンが、ドクオが、そして荒巻が、それに真っ向から討って出る。
最終決戦の、幕開けだ。
*
第十二期ネオファイター観測局からネファイト執行協会本部へ。
ブーン、及びドクオ、そして荒巻が、
【界の狭間】にて、杉浦と交戦開始――。
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