( ^ω^)ブーンがネオファイターになるようです

4: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:05:58.66 ID:GsQSrje40

最終話「戦いの鐘が鳴る」


杉浦の進撃を、荒巻は神速の速さを持って真っ向から受け止め返す。
互いに牙を剥き出し、遥か彼方の過去を思う。

( ФωФ)「血迷ったか、荒巻」

杉浦のその問いに、荒巻は笑う。

/ ,' 3「確かにな。貴様と本気で牙を交えるのは一体幾年振りか」

互いの爪が相手を切り裂くために蠢いている。

( ФωФ)「貴様が我の忠告を無視し、使命を捨て人間の手先に成り果てて以来だ」

/ ,' 3「馬鹿を言え。誰が人間の手先になど成るか」

杉浦は再度問う。

( ФωФ)「ならばなぜ貴様は我に牙を剥く。ならばなぜ貴様は使命を捨てた。ならばなぜ、貴様は【掟】を破る」



5: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:08:26.13 ID:GsQSrje40

真紅の竜は目を細め、白銀の竜を見据える。

/ ,' 3「おれが貴様に牙を剥くのは貴様が邪魔だからだ。おれが使命を捨てたのは己の欲望のためだ。
    おれが【掟】を破るのは、己の最も大切なものを守るためだ」

( ФωФ)「――下らぬ。そんなことのために、そんなもののために、貴様は死ぬと言うのか」

/ ,' 3「誰が死ぬものか。死ぬのは貴様だ、杉浦」

杉浦は鼻で笑う。

( ФωФ)「貴様が今まで一度でも、我に勝ったことがあるか。……奢るな、荒巻」

白銀の竜がその翼を広げて上空へ飛翔し、真紅の竜がそれを追う。
空中で二匹がぶつかり合った瞬間に白い閃光と赤い火花が飛び散った。

互いに旋回しながら獲物を再度視界に捕らえ、翼を同時に羽ばたかせて激突し、さらに旋回し空中戦を続ける。

/ ,' 3「――――そこだ」

( ФωФ)「ぬっ!」

繰り出された尻尾を避けた荒巻が杉浦の懐に潜り込む。
その突進を杉浦が阻止するために、振り抜いたはずの尻尾を強引に力で捻じ曲げて軌道を変え、真下から荒巻を狙う。



7: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:10:56.02 ID:GsQSrje40

それに気づいた荒巻は自らの尻尾で攻撃を防ぎ、口を抉じ開けて白銀の体に牙を剥く。
しかしその牙は空を切り裂き、杉浦が翼を折り畳んで高速落下を開始する。

その意図を察した荒巻も翼を閉じて急降下で地面を目指す。

それは、荒巻と杉浦の間で行われるある種の度胸試しのようなものだった。
簡単に言えばチキンレースの垂直版である。

漆黒の空間が作り出す地面に二匹の竜が同時に突っ込んで行き、数ミリ単位の距離感で互いに激突を回避する。
左右に別れた二匹はまたしても体の向きを同時に変え、全くの同時に口を抉じ開けた。

真紅の竜はオレンジ色の、白銀の竜は白色の光を喉の奥底に収縮させ、それを同時に撃ち放つ。

炎の弾丸と氷の弾丸が空間を切り裂いて激突する。
その衝撃で時空が出鱈目に歪み、そこから小さな雷が巻き起こった。

雷は空間の歪を修復するために活動し始めるが、その作業が終るより速くに二匹の竜は次の攻撃に移る。

/ ,' 3「ぬんッ!」

相殺した互いの弾丸から発生した煙を完全に無視し、絶対に向こうも同じことをするという確信の下にそこへと突進する。
爪が重なり合う音が響いた刹那に突風に煽られて煙が吹き飛ぶ。



8: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:13:17.18 ID:GsQSrje40

僅かに距離を取って互いを睨みつける二匹の竜の体から殺気が迸り、破壊を齎す咆哮を上げる。

それに共鳴するかのように荒巻の体を劫火が渦巻き、杉浦の体には冷気が取り巻く。

そんな光景を離れて見ていたブーンが一言だけ言葉を漏らす。

( ^ω^)「――……すげぇお」

遠く離れているのにも関わらず、こちらまで放たれている殺気が伝わってくる。
荒巻は紛れも無い最強である。しかしわかってしまうのだ。
荒巻は一歩も譲らないが、それでも確かに押されている。

最強だと思っていた荒巻を越える存在がそこにいる。
紛れもない化け物が、そこにいるのだ。

そんな化け物と荒巻は戦っている。
ブーンには到底辿り着けない領域の戦いだ。

すべてを決する戦いは、ブーンが想像していたものより遥かに凄まじかった。



10: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:15:12.66 ID:GsQSrje40

ブーンは無意識の内に拳を握り締め、今までには浮かべたことのない笑顔を浮べる。

――――戦いたい。ただ純粋にそう思う。

恐らく、自分一人では荒巻にも、ましてや杉浦になんて絶対に勝てないだろう。
悔しいがそれは認める。だが、今の状況はそうではない。

敵はただ一人、杉浦だ。
自分とドクオと荒巻の史上最強のトリオで臨む相手にとって、不足は無い化け物である。

ジョルジュと戦ったときと同じ状況に陥った。
体は焼けるくらいに煮え滾っているのに、頭の中が嘘のように冷たい。

そしてその冷たい中では一途に考えている。戦いたいのだ。考えもクソもない。

ただ信念の下に戦いだけを望む。ここで戦わなければ男じゃない。

('A`)「なぁ、ブーン。俺、うずうずしてきた」

( ^ω^)「……僕だって、同じだお」

隣にいたドクオも、ブーンと全く同じことを考えていたのだろう。
その顔が、笑顔に染まっている。



12: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:17:08.34 ID:GsQSrje40

ドクオは目の前の戦いを見つめながらつぶやく。

('A`)「……ブーンは、強くなった?」

同じく最強の戦いを見つめながら答える。

( ^ω^)「……当たり前だお。孤徹を完璧に理解したお」

('A`)「特性は?」

( ^ω^)「攻撃の吸収と爆散」

ドクオの視線がブーンへと向けられる、

('A`)「吸収と爆散って……それは攻撃を受ければ受けるほど威力が増すって意味だよね?」

ブーンが肯くと、ドクオはその一瞬で戦闘状況を頭の中に思い浮かべた。



14: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:19:28.23 ID:GsQSrje40

('A`)「だったら、ブーンは防御に回って。杉浦の物理攻撃を片っ端から吸収して最後の一撃に使う。
    それが切り札になる。氷の弾丸と冷気は荒巻に全部任せればいい。荒巻には防御と攻撃の両面を全面的にサポートしてもらう。
    ……悪いけど、最初の美味しい場面は全部おれが掻っ攫うよ。風靭が早く戦わせろってうるさくてさ。質問や口答えはナシな」

ドクオは、言いたいことを早口で言い、

('A`)「そんじゃ――行こうか風靭」

その場で一振りの刀を掲げた。
刹那にドクオの体から突風が舞い上がり、風が見えないカマイタチを形成する。

その数は瞬時に膨れ上がって移動を開始し、ドクオにゆっくりと纏わり付く。
触れるものすべてを切り裂く風の鎧を身に纏い、ドクオが跳躍した。

('A`)「よっ、と!」

風を操って空を飛ぶように睨み合う二匹の間に割って入り、踊るように踵を返す。
刀の向きを変え、切っ先を真っ直ぐに杉浦へ突きつける。

ドクオが震えている。恐いのではない。嬉しいのだ。



15: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:21:11.26 ID:GsQSrje40

('A`)「荒巻、戦闘開始だ」

肯く荒巻を見据えながら、杉浦が冷気を放つ。

( ФωФ)「人間風情が我に刃を向けるか。その愚行、死を持って後悔するがいい」

刹那に杉浦の体が翻る。
尻尾が遠心力にものを言わせて強靭な一撃と化す。

('A`)「――――……っ!」

人間の目では到底追いつけない速さで繰り出されるその攻撃を、ドクオは見るのではなく体全体で感じ取る。
風がすべてを教えてくれるのだ。大気を動かさずに移動できるものはこの世には存在しない。

幾ら速くても、全く見えなくても、音が聞こえなくとも、そんなものは関係ないのだ。

風靭の前にはどんなものの動きでも手に取るようにわかる。
速さなど無意味だ。

風を極めた者が到達する領域。
風靭と同調したドクオは、その領域に達している。



17: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:23:27.95 ID:GsQSrje40

('A`)「はっ!」

どうオは目を閉じながら刃を地面に突き立て、体を浮かせその一撃をかわす。
杉浦が不可解そうに目を細めたその瞬間に、ドクオが刀を振るう。

('A`)「切り裂け、風の刃――――!」

それが合図となり、ドクオを纏っていた風が牙を剥く。
合計で十八枚のカマイタチは容赦無く空間を切り裂き、杉浦の体を切り刻む。

( ФωФ)「ッ!」

すべてのカマイタチが杉浦の体に命中し、鉄を抉るような鈍い音が響き渡って火花が飛び散った。

('A`)「ビンゴ」

完全な手応えを感じ、ドクオが笑う。

( ФωФ)「ほう。この程度か」

('A`)「……ッ!」

しかしカマイタチがすべて無くなったそこから現れるのは、切り傷程度しか傷を負ってない白銀の巨体である。
しかもその傷は一瞬で癒え、今度は杉浦が口を裂かして笑った。



18: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:25:32.85 ID:GsQSrje40

( ФωФ)「実に愚鈍」

杉浦が牙を研ぎ澄ます。
宙に浮くドクオへと口を抉じ開けながら首から上に狙いを定める。

('A`)「くっ――――!」

幾ら攻撃が見えなくても、ドクオは風を感じて避けることが可能だった。
だが、杉浦の攻撃は速過ぎたのだ。

杉浦の動きを見極められても、体がそれについて行けない。
加えて攻撃が命中したことに無防備な体勢を晒したのが致命的だった。

瞬きをする暇も無い速さで突っ込んで来る牙をどうすることもでず、全神経を集中させてドクオが風に意識を送り込んだ瞬間。

( ^ω^)「っらあああぁッ!!」

漆黒の鉄甲がドクオと杉浦の間に割って入った。
ブーンが両腕に装着された孤徹で杉浦の突進の衝撃を完全に吸収し、その動きを封じる。

( ФωФ)「滅ッ」

しかしそれで終る杉浦ではない。
一瞬の停止の後、目前にいる敵を睨みつけながら圧倒的な量の冷気を放つ。
空気そのものを凍りつかせ、ブーンの体を包み込む。



19: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:27:36.73 ID:GsQSrje40

(;^ω^)「やべぇおっ!」

冷気は物理攻撃ではない。孤徹ではどうしようもない攻撃である。

が、そんなことは最初から百も承知。
自分の役目は物理攻撃を吸収するだけだ。ここから先は、荒巻の役目だ。

/ ,' 3「オオオオオオォォォッ――――!!」

ブーンの後ろから劫火が荒れ狂い、冷気を片っ端から燃やし尽くす。
白銀の竜が鉄甲から後退した刹那に、ブーンの横を通り抜けて真紅の竜が追撃。

( ФωФ)「破ッ!」

/ ,' 3「ッ!」

だが、瞬間に杉浦の口から氷の弾丸が吐き出さる。
対し、荒巻は炎の弾丸で対抗する。

('A`)「ぜぁぁぁぁっ!!」

空間を揺るがす衝撃の中、煙が舞い上がったその上空からドクオが杉浦の脳天を狙う。
杉浦がその接近に気づいたときにはもう遅い。



20: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:29:19.30 ID:GsQSrje40

杉浦の脳天を風靭の刃が一直線に貫、

('A`)「何ッ!」

抜かなかった。
杉浦の鱗は、鋼鉄以上の強度を持っていた。

ただの斬撃など、杉浦には通用しない。
ガリィッ、と気味の悪い鈍い音が響いた際にドクオのバランスが崩れる。

( ФωФ)「鬱陶しい蟲め」

杉浦の視線がドクオの注がれ、

/ ,' 3「余所見とは余裕だな。杉浦」

しかし荒巻が杉浦に体当たりをかける。

( ФωФ)「ちぃっ! 荒巻……!」

('A`)「おっと、こっちだ!」

轟音の後に白銀の体が宙を舞い、落下途中のドクオが風を一箇所に凝縮させて杉浦にぶち当てた。



22: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:31:48.53 ID:GsQSrje40

( ФωФ)「人間如きがッ……!」

('A`)「今だ! 荒巻!」

/ ,' 3「オォォォォッ!!」

その質量に押し潰され、巨体が地面に這い蹲った瞬間に荒巻が牙を剥き出しにして追い討ちに出る。

しかし杉浦は不可能と思える体勢から驚くべき速度で身を翻し、尻尾で真紅の竜を薙ぎ払う。
真横に吹き飛ぶ荒巻を横目に、爆発的な咆哮を上げてドクオに飛来する。

( ФωФ)「オオオオオオォォォォォォ――――!」

('A`)「ブーンッ!」

( ^ω^)「まかせろお!」

しかし、それはドクオに到達する前にブーンによって再度阻止された。
杉浦の体から発せられるすべての衝撃を吸収し、目前に捕らえたその氷の眼光を見据えながらブーンは拳を打ち込む。

(#^ω^)「おぉッ!!!}

だがやはり、杉浦には普通の攻撃は通用しない。
鋼の鱗には傷一つつかないのだ。

ブーンが戦った羅刹とはまた違う。攻撃そのものが通用しないのだ。
人間が直接的に振るう攻撃では、杉浦には絶対に勝てない。



23: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:35:32.52 ID:GsQSrje40

(;^ω^)「ちっ!」

だったら、自分は最後の一撃にすべてを賭けるしかない。
役目は徹底的に防御に専念し、爆散の威力を極限までに高めることだ。

それまではドクオと荒巻の役目である。今はまだ、自分の出番ではない。

ブーンの視界の隅で真紅の竜が口を抉じ開けて炎の弾丸を吐き出す。

( ^ω^)「荒巻――――……ッ!」

/ ,' 3「……」

ブーンがつぶやき、新巻を見る。
荒巻は、視線で無言の答えを伝える。


――――勝て、荒巻。


( ФωФ)「ぬあああああああああッ!!!!」

荒巻の攻撃に気づいた杉浦は首を力任せに振り回してブーンを弾き飛ばし、翼を広げて再度飛翔する。
炎の弾丸の軌道から外れた杉浦が口を開け放って荒巻に対抗するべく、喉の奥底に白色の光を収縮させた。

そうはさせない、と誰もが思う。



25: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:37:12.09 ID:GsQSrje40

('A`)「はっ!」

ドクオが風を操り、炎の弾丸の軌道を捻じ曲げる。
杉浦に狙いを固定して加速させ、その周りにカマイタチを纏わせる。

( ФωФ)「――――ッ! 小癪!」

再び突っ込んで来る炎の弾丸に勘付いた杉浦が翼を広げて軌道から逃れようと、

(#^ω^)「おぉぉぉぉぉッ!!!」

そうはさせない。荒巻が杉浦の頭上に回り込み、その背に乗っていたブーンが落下する。
上へと飛び上がるために生じた衝撃を完璧に吸収して杉浦の動きを止め、体を捻って地面に向かって落ちていく。

('A`)「ほいっ、と」

ブーンが地面に激突する瞬間にドクオの風が勢いを殺してくれた。

( ^ω^)「サンキューだおドクオ!」

(#ФωФ)「ぐッ……! おおおぉぉぉぉ!!」

空中で一瞬だけ停止したその瞬間が杉浦の命取りだ。
荒巻の放つ劫火が冷気を覆い尽くしてすべての動きを封鎖する。



26: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:39:23.91 ID:GsQSrje40

炎の弾丸が杉浦を捕らえ、カマイタチが白銀の体を抉り取りながら爆発する。

(#ФωФ)「――――ッ!!!」

炎と煙が渦巻く中で爆音が弾け続けていた。

(;^ω^)「ハァッ……ハァッ……」

/ ,' 3「小僧」

( ^ω^)「大丈夫。最後くらい、僕に任せてくれお」

しかしこれで終るとは思ってもいない。
ブーンが孤徹を前に差し出した刹那の内にカマイタチが発生し、漆黒の鉄甲に斬撃に似た衝撃を送り込む。

その衝撃を一瞬たりとも逃さずにブーンは吸収し、爆散の威力を高める。

/ ,' 3「ふんっ!!」

荒巻が地面に下り立ち、孤徹へと巨大な一撃を繰り出す。
孤徹が無かったら一瞬で体中の骨が砕けるような衝撃を受けてもなお、鉄甲は傷一つ残さずに吸収する。

( ^ω^)「うっし! これで十分だお!」

爆散の準備は整った。残るは、それを確実に杉浦に打ち込むことだ。



27: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:41:11.63 ID:GsQSrje40

('A`)「さて、敵さんは……」

煙の中から白銀の竜が姿を現し、全身から煙を噴き出しながらも杉浦は牙を剥いて咆哮を上げた。

(#ФωФ)「ぬ…………あ、あああああああ――――!!」

体を覆う炎を自らの冷気で氷漬けにして無傷の状態にまで引き戻す。


         ( ФωФ)「――――…」


そして、その眼光から光が消えた。
それだけではない。杉浦の全身から冷気は愚か殺気までもが消え失せていた。

白銀の竜がその場で完全に停止してしまったのだ。

( ^ω^)「……え?」

('A`)「殺気が……消えた」

まさか死んだのはないか。
そんな考えが脳裏を過ぎった刹那、



29: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:42:48.24 ID:GsQSrje40

/ ,' 3「――――逃げろッ!!」

荒巻の怒号を聞いたときにはブーンの体が吹き飛んでいた。

(;゚ω゚)「ぐ、あああぁぁぁぁぁぁッ!!!」

目の前にあるものが何なのかまったくわからなかった。
それが杉浦の顔だと気づくまでにかなりの時間が必要で、気づいたときには漆黒の空間が作り出す壁へと激突していた。

目の前が一瞬だけ空白に染まり、口から驚くほどの血が噴き出す。
虚ろな視界の中で信じられない速度で動く白い影は、次の獲物をドクオと見なして行動を開始する。

(;'A`)「くっ!」

虚ろな視界で見ているその白い影は、杉浦の残す残像でしかない。

( ФωФ)「――――滅」

ドクオへと到達した杉浦は問答無用でブーンとは逆側の壁へと弾き飛ばす。
風靭が高々と舞い上がって地面に突き刺さるのが最後の合図だ。

(;'A`)「がッ……」



30: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:45:09.68 ID:GsQSrje40

氷の眼光が糸を引いて漆黒の空間を横切る。
荒巻が神速の速さで飛翔し、しかし杉浦はそれに一瞬で追い着き、そして追い抜く。

/ ,' 3「ちっ!」

炎の弾丸が撃ち出されるのと氷の弾丸が撃ち出されるのは同時だが、その威力が全く違った。
氷の弾丸は圧倒的な力で炎の弾丸が砕き去り、真紅の竜の目前で炸裂してその体を冷気の塊が飲み込む。

/ ,' 3「……ッ!」

( ФωФ)「破ッ!」

荒巻が地面に落下する際に杉浦は追い討ちをかけ、懇親の力で攻撃を加える。

荒巻が地面に激突した瞬間に轟音が響き渡る。
その真紅の体からは劫火が消え去っており、それどころか所々が氷に侵食されてしまっていた。

( ФωФ)「オオ……ウオオオオオオオオオオオ――――!!!」

一瞬の内に敵を一掃した杉浦は、上空に飛翔したまま咆哮を上げる。
それは、今まで戦っていた杉浦ではなかった。



31: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:47:01.40 ID:GsQSrje40

(;^ω^)「ぐっ……!」

吹雪のような冷気を身に纏い、何もかも凍りつかせる眼光を宿らせ、空間そのものを凍死させようとしている。
その姿が、いつか見た荒巻と重なる。

ドクオが脱落したあの日、しぃのストッパーが外れて暴走した荒巻と、今の杉浦が完全に一致していた。
予想外の攻撃を受けたことに杉浦の知性と理性が崩壊したのだ。

それは抑えられない本能となって暴走する。
杉浦の本能は荒巻と全く同じだった。

敵は皆殺し。それだけだ。

(;^ω^)「……畜生ッ……」

体が言うことを聞かない。
今すぐにでも起き上がって孤徹を叩き込まなければならないのに、どうしても動かせない。

この一撃でいいのだ。衝撃を吸収した今の孤徹でなら杉浦を倒せる。
この期を逃せばもはや勝ち目はなくなる。自分が動くしかない。
今の状況をどうにかできるのは孤徹しかないのだ。

動け、動け、動いてくれ。

地面に横たわったまま歯を食い縛り、拳を握り締める。
足が僅かに動く、だいじょうぶだ、行ける。



34: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:49:33.07 ID:GsQSrje40

( ФωФ)「――――……」

ゆっくりと体を起こしたその瞬間に、上空から殺気を伴う眼光がブーンを射抜いた。

(;^ω^)「うっ……!」

息が詰まる、体が束縛される。
痛みからなる束縛ではない。いつの間にかブーンの体を冷気が渦巻いている。

まるでドクオが操る風のように、冷気は意思を持ってブーンの体を完全に束縛していた。

( ФωФ)「オォォォォォ――――!!」

上空で杉浦が翼を折り畳む。
とんでもない速さで一直線にブーン目掛けて落下してくる。どうすることもできなかった。
反撃することも避けることも、そもそも動くことすらできなかった。

(;^ω^)「クソッ! くそぉぉぉッ!!」

空を切り裂きながら杉浦が牙を剥く。
その牙が一瞬でブーンに到達し、

赤い血液が舞い散る。



35: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:51:46.31 ID:GsQSrje40

(;^ω^)「――……?」

目の前の光景が、すぐには理解できなかった。
杉浦の牙は、荒巻の肩口を噛み砕いている。

/ ,' 3「ぐ、おおおおおおぉぉぉ――――!!!」

そこから噴き出した血がブーンの顔を染め上げ、絶叫にも似た咆哮が荒巻の口からあふれ出た。
狙いは違えど、一度捕らえた獲物を杉浦は簡単に逃しはしない。

強靭な力を持って荒巻の体を貪ると、海老の甲羅を砕くような音が響き渡った。
呆然とつぶやく。

( ^ω^)「……あらま、き……?」

杉浦に肩口を噛み砕かれながらも、荒巻は笑う。

/ ,' 3「……決めろ、小僧!!」

視線を杉浦に向け、真紅の竜が吼える。



36: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:53:31.99 ID:GsQSrje40

/ ,' 3「終わりだッ!! 杉浦ぁッ!!」

荒巻が咆哮を上げ、口を抉じ開けて至近距離から最大級の炎の弾丸を杉浦に撃ち出す。
それに気づいた杉浦が上空に逃げ出そうと、

――遅い。

炎の弾丸が杉浦の顔面を捕らえて爆発する。

/ ,' 3「ぐっ……」

力を弾き出した荒巻が血を噴き出しながらその場に倒れ込み、眼光を閉じた。

しかし撃ち出された弾丸はその威力を完全に発揮していた。

(#'A`)「行くぞ、ブーンッ!! 一回きりだ!! きっちり決めろよ!!」

爆風と轟音が巻き起こるその中で、ブーンはドクオの叫びを耳にする。
視線を移したそこに、突き刺さった風靭を手に取って踊るように踵を返すドクオを見た。

風靭の刃が天から地に振り抜かれ、そのまま切っ先が濛々と煙が舞い上がるその場所へ向けられる。

(#'A`)「らぁぁぁぁぁッ!!!」

瞬間に風が吹き荒れて煙を吹き飛ばし、そこから現れるのは顔面を溶岩のように溶かした白銀の竜だ。
ドクオが残りの力を振り絞り、風靭と最後の同調を開始する。



38: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:55:19.07 ID:GsQSrje40

それに応えるかのように風靭は満面の笑みで叫び返し、風を意のままに操った。
辺りに存在するすべての風が凝縮され、竜巻にも似た突風が杉浦を完全に覆い尽くして動きを停止させる。

( ФωФ)「ぐ、ぬぁぁぁぁぁ――――!!!」

突然の拘束に我を忘れ、杉浦が力の限りに風を振り払おうと身をもがくがドクオは逃がさない。
杉浦が暴れる度に風の強度が硬くなり、しかし同時に風靭の刃に亀裂が生じる。

(#'A`)「逃がすかよッ!!!」

それでもドクオは同調を止めない。
風靭が最強の相棒だと信じるが故の行動。
勝ち抜けと叫ぶ風靭の意思を無駄にはしない。

最後の力を有りっ丈注ぎ込んで、暴れる杉浦を完全に静止させた。

( ^ω^)「……!」

ここで動かなければ、自分に生きる価値はないとすらブーンは思う。
孤徹を地面に打ち付けて舞い上がり、杉浦の脳天に降り立つ。

(#ФωФ)「グァァァァ……!!」

見下げられることが気に食わないのか、杉浦の眼光から圧倒的な殺気が迸る。
身動きはできないでも冷気は一瞬であふれ出し、杉浦に触れている両足が徐々に凍りつき始めた。



39: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:57:16.77 ID:GsQSrje40

それでもブーンは引かない。
殺気はこれ以上ないくらいに恐ろしいし、冷気はこれ以上ないくらいに強い。

しかしそれでも、これが最後の好機だ。
例え精神がイカれようが体が凍りついて砕けようが知ったとこではない。

この一撃に、すべてを賭けてぶっ倒す。

(#^ω^)「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ――――!!!!!」

孤徹を振り上げる。
頭の中には孤徹の叫びが響き渡っている。

守り抜け、と。

今はいないしぃを思う。
待ってろ、しぃ。今すぐにこいつをぶっ倒してお前と荒巻を会わせてやるから。
約束は死んでも守ってやる。だからお前は笑ってくれ。

しぃには、笑顔がいちばん良く似合うから。守ってやる。僕が、お前を守り通してやるよ。
この漆黒の二体一対の鉄甲、我が最強の相棒と一緒に。



40: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 01:59:36.63 ID:GsQSrje40

(#^ω^)「――――くらえぇぇぇぇ杉浦ァァァッ!!! これで終わりだッ!!!!」

( ФωФ)「グッ――――!?」

杉浦の脳天を目掛けて、孤徹を叩き込み――――


刹那の一秒、孤徹が爆散する。


この戦いで吸収し続けてきた衝撃が一陣の衝撃波となり一気に吹き抜ける。

(#ФωФ)「ガアァァァァァァァァァァッ!!!」

それは杉浦の外部ではなく、内部を木っ端微塵に砕き去った。
衝撃波は杉浦を突き抜けて波紋のように辺りを舐めて消える。

空間を揺るがす衝撃音の後に、白銀の体の至るとこから何かが圧し折れる音が響き渡った。

( ФωФ)「ァ…………」

僅かな静寂が過ぎたとき、氷の眼光から光が失われ、口から大量の血液を吐き出しながら杉浦の体がゆっくりと傾いて倒れていく。
その途中、ブーンの腕から骨が軋みを上げた。
羅刹を倒したときよりも遥かに大きな爆散は、ブーンの右腕を完全に砕いていた。



41: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:01:18.02 ID:GsQSrje40

(;^ω^)「はっ……はぁっ……」

杉浦が地面に倒れ込んだのと同時に、その周りを纏っていた風が消える。
背後で何かが砕ける音が聞こえた。

それは、風靭の刃が砕ける音だった。

ドクオの手に握られていた一振りの刀は形を失って緑の光の粒子となり、意思を持って漂いながらブーンの下へと向かう。

('A`)「ありがとう、風靭」

その光を見送りながら、ドクオは倒れこんだ。
横たわりながらドクオは笑い声を漏らし、今は無い風靭を思って掌を握り締める。

風靭のネオスがブーンの体内に戻ってくる。
それを感じた刹那に、ブーンの体から緊張の糸が完全に切れた。

( ^ω^)「お……」

ドクオ同様にその場に倒れ込み、漆黒の空間を見据える。
右腕が本当に動かない。今度は何かで束縛されているのではない。
痛みのあまり動かせないのだ。

指を少し動かすだけで全身を激痛が駆け巡って蝕む。



43: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:03:54.30 ID:GsQSrje40

しかし、もういいのだ。杉浦はぶっ倒した。これで何もかも巧く回るのだ。

第十二期ネオファイター戦優勝者・ブーンの役目はあと一つだけ。

願いを叶えよう、そして約束を守ろう。
家に帰ったら卵焼きとベーコンを焼いてやろうではないか。

それを頬張っているしぃの顔と、何も言わずに黙々と食べる荒巻の姿が――――


骨が砕ける音を聞いた。瞬時に、思考が凍りつく。


( ФωФ)「グッ……オオ……ア……」

全身の骨を砕かれたのにも関わらず、杉浦は立ち上がる。
体を自らの冷気で凍りつかせ、感覚をすべて捨て、杉浦は再び戦闘を開始する。

(;゚ω゚)「そ……そん……な」

杉浦はもはや立っているのがやっとなのだということはすぐにわかった。
しかしそれでも、ブーンは右腕が使いものにならず孤徹も使えない。
ドクオは風靭を失っているし、荒巻はまだ倒れたままだ。

立っているのがやっとの杉浦でさえ、起き上がった白銀の竜を相手にできる者は、ここには誰一人として残ってはいなかった。



44: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:05:58.28 ID:GsQSrje40

孤徹の爆散が弱かった、と今更に悔やんでも仕方が無い。
もっと威力が高くても、恐らく杉浦は起き上がるのだろう。

杉浦は、意識を完全に失っている。
それでも杉浦を突き動かすのは本能だた一つだ。

敵は皆殺しにする。たったそれだけの命令の下に杉浦はなおも活動している。

( ФωФ)「……滅……破……!」

首から下が完全に凍りついているのに、杉浦は首だけを起用に回してブーンの体を視界に捕らえた。
口を抉じ開け、喉の奥底に白色の光を収縮させる。

(;^ω^)「ぐっ……!」

逃げれなかった。
起き上がろうとすると右腕から激痛が伝わって動くことすらできない。

(;'A`)「ブー……ン……!」

ドクオがこの事態に気づいて、立ち上がろうとするが間に合わない。
ネオファイターではなくなったドクオにできるこは、もう何も残っていないのだろう。



46: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:08:13.18 ID:GsQSrje40

最強のトリオで望んでも、杉浦には勝てなかった。
杉浦はやはり、化け物に他ならない。

( ФωФ)「オオオオォォッ!!」

白銀の竜の口から氷の弾丸が吐き出される。

( ^ω^)「あ――――」

終わった。
敗北という二文字と、死という結末が頭に浮かび――――

ブーンの目前でそれが炸裂する瞬間、劫火がそれを覆い尽くして消滅させた。

( ^ω^)「……荒巻ッ!」

状況を一発で理解し、ブーンが視線を向けたそこで、真紅の竜が起き上がる。
肩口の傷などものともせず、すべての力を注ぎ込んで劫火を身に纏い、灼熱の眼光を宿らせ、

己の大切なものを守るためだけに、荒巻は戦う。

/ ,' 3「ぬっ……ぐぬぁぁぁぁ!!」

荒巻を突き動かすは一つの信念。

――しぃのため。ただ、それだけだ。



48: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:10:11.01 ID:GsQSrje40

真紅の竜と白銀の竜が対峙する。

/ ,' 3「……貴様のそんな姿など、見たくはなかったぞ」

( ФωФ)「ウオ……オオオオ!!!」

荒巻のその言葉は杉浦には届かない。
杉浦は咆哮を上げ、再び氷の弾丸を撃ち出すために白色の光を収縮させる。

/ ,' 3「言葉まで失ったか。……だが、言ったはずだ。おれは最も大切なものを守るのだと。
    そのためには貴様が邪魔なのだと。遥か彼方から続くおれと貴様の関係に終止符を打とうではないか。
    おれが唯一尊敬した貴様に、ここで別れを告げる」

撃ち出された氷の弾丸を劫火で一蹴し、荒巻が口を抉じ開けてオレンジ色の光を収縮させる。

【界の狭間】を越えて対立した世界を乱す者が現れないように生み出された二つの番人。
狭間の番人、真紅の竜・荒巻、そして白銀の竜・杉浦。
一体何の因果だったのだろう。こんなことになるのなら番人に自我など必要なかったのではないだろうか。

もし自我がなければ、こんなことにはならなかったのだろう。
なぜ、意識を持ったときからずっと共に過ごしてきた友を自らの手で殺さねばならないのだろうか。

最も尊敬し、最も慕い、最も近かい存在。
それが荒巻であり、そして杉浦だった。



49: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:12:19.40 ID:GsQSrje40

しかしいつしか二つの自我に歪みが生じ、こういう事態を招いてしまった。
それは人間に加担した荒巻に責任があるのだろう。

しかし、荒巻は見つけたのだ。

すべてを捨ててでも守り抜こうと思える、最も大切な存在を。

その存在のためならすべてを捨てられる。そう、過去さえも。

杉浦と過ごしたすべてに、今ここで終止符を打つ。
最も尊敬し、最も慕い、自らと最も近い存在は、ここで消え失せる。

すべてを断ち切る刹那、

荒巻は、言った。


/ ,' 3「――…………すまない、杉浦」


空間が劫火に包まれ、白銀の竜が砕け散る。


紅蓮に染まるその中で、荒巻はただ、泣くように咆哮をあげた。



50: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:14:11.23 ID:GsQSrje40




緑の光の粒子に包まれ、ブーンが転移された場所は学校の教室くらいの大きさの部屋だった。
ただ、その部屋は天井にも床にも壁にも隙間無く鏡のようなものが埋め込まれてあった。

ブーンからは合わせ鏡のように同じものの繰り返しにしか見えない不思議な場所。

しかしそれでも複数の人の気配を感じるのがどこか異様である。
恐らく、ブーンからは何も見えないがこの鏡の向こう側にいる者はブーンをしっかりと視界に捕らえているのだろう。

マジックミラーみたいな構造なのだと思う。

僅かなノイズの後、マイク越しのような男の声が聞こえた。

『我々はネオファイト執行協会本部だ。おめでとうブーン。
 君が第十二期ネオファイター戦優勝者であり、同時に初めてここまで辿り着いたネオファイターだ。
【界の狭間】の杉浦を倒し、よくぞここまで来た。誇りに思いたまえ』

演説臭いその喋り方がなぜか気に食わなかった。



51: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:16:11.11 ID:GsQSrje40

『それでは早速に望みを言いたまえ。杉浦がいない今、我々の力を持ってすれば向こう側の世界など簡単に操作できる。
 さあ、君の望みは何だ?』

ブーンは一秒も待たなかった。荒巻と共に決めた望みを口にする。

( ^ω^)「あんたらが第十二期ネオファイターに選んだ、しぃの心臓の病気を治して欲しいお」

鏡の向こうでざわめきが漏れた。
当然の反応だろうとブーンは思う。

世界を左右できるほどの望みを叶えることができるのにも関わらず、たった一人の少女を守るためにそれを棒に振るったのだ。

この男には欲望が無いのではないか、そう考えさすには十分過ぎる望みである。
しかしブーンにしてみればそれは世界征服なんかよりも遥かに大きな望みであり、同時に絶対に叶えねばならない望みなのだ。

『そんな望みでいいのか? よく考えたまえ、望みは一つしか叶えられ、』

男のその言葉が癇に障る、

( ^ω^)「黙れお。何も知らないあんた達が偉そうなことを言うなお」

『――……よかろう。後悔はしないことだ』



52: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:18:21.98 ID:GsQSrje40

誰が後悔などするものか。それが今、自分が叶えるべき望みなのだ。
頭の中で、荒巻との会話が再生される。荒巻は言ったのだ。

/ ,' 3「杉浦が消滅したということは、この【界の狭間】で【掟】を貫き通す者が必要になるということだ。
    それができるのはおれしかいない、だからしぃの望みを叶えることはできない」

/ ,' 3「それよりしぃの病気を治してやってくれ、しぃが死んではおれが杉浦を殺した意味が無くなる」


――――だから小僧、恥を承知で貴様に頼む。しぃを、守ってやってくれ、と。


( ^ω^)「……」

しぃとの約束を守ることができなかったのが唯一の心残りだ。
後悔があるとすればそれである。

しぃと荒巻をもう一度会わせてやることが、自分にはついにできなかったのだ。

それだけのために戦ってきたというのに、なぜたったそれだけのことが叶えられなかったのだろうか。

ただ、荒巻は言う。もし自分としぃがまた会っても、遅かれ早かれ別れがくる、だったら会わない方がいい、と。



53: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:20:16.45 ID:GsQSrje40

荒巻の言いたいことはわかる。
しぃの病状は荒巻の力を持ってしてもどうしようもない段階にまで悪化している。

もし、しぃと荒巻を出会わせてやっても別れは必ずくるのだ。
そのときに悲しむには他の誰でもない、しぃである。
しぃの泣き顔を、荒巻は見たくないのだろう。

しかし、それではしぃの気持ちはどうなるのだろうか。
荒巻ともう一度会って今までのお礼を言いたいと泣いたしぃの涙は、どうなってしまうのだろう。

そのことも荒巻には話した。
だがそれでも、荒巻は断固として譲らなかった。

杉浦を消滅させた責任を取るのは自分しかいない、と最後まで首を縦に振らなかった。

ただ、荒巻は言うのだ。

/ ,' 3「もししぃが本当にお礼を言いたいのなら、いつか必ず自分の手で【界の狭間】に辿り着く。そのときに聞いてやる」

荒巻もしぃと会いたいのだろう、とブーンは思う。
ブーン同様に、荒巻もしぃのためだけに戦っていたのだから。



56: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:22:32.29 ID:GsQSrje40

ならば自分は、荒巻の言葉を信じよう。
いつか必ず、しぃが自らの手で荒巻に出会うための道を切り開くのなら、それを見守ろう。

そのためには時間が必要だ。
今のしぃにはその時間さえも残されていない。

だったら、その時間を与えよう。だからしぃの病気を治そう。

そしてしぃが荒巻に出会えたとき、状況は違えど間接的に約束を果たしたことにもなるのだろう。

そう考えるのは、卑怯なのかもしれない。
だけどやはり、しぃを大切に想う一人の者として、最終的には荒巻のようにその考えに辿り着くのだった。


――――しぃにはずっと笑っていて欲しい。

           たったそれだけを願い、望み続ける。



57: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:24:12.98 ID:GsQSrje40



(* ー )「ん……」

アパートの一室で、ベットの上の毛布に包まってイルカのぬいぐるみを抱き締めながら、しぃは一人寝息を立てている。

そんな静かな部屋の空間がぐにゃりと歪んで緑の光の粒子があふれ出し、しぃの体をゆっくりと包み込む。
数秒後にその光はパァアっと弾けて、ブーンの望みを正確に叶えた。

しぃを縛るものは、これで本当に無くなったのだ。しぃは自由になる。
卵焼きだってお腹一杯食べられるし、小鳥のようにくるくると回りながら歩き出すこともでき、
雨の日に出歩くことだってできるのだ。

そして何より、これからずっと、しぃは笑っていられる。
小さな世界の鍵は完全に開け放たのだ。

しぃはどこにだって、旅立って行ける。

窓の外から朝日が昇る。
綺麗な朝靄に照らされるその中で、しぃは寝言をつぶやく。

(* ー )「…………………………あらまき…………………………」

イルカが「きゅー」と鳴き声を漏らした。

世界に光が射し込む。しぃはどこにでも、羽ばたいて行ける。



58: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:26:21.97 ID:GsQSrje40

――……

―…


『それでは縁があればまた会おう、ブーン』

そんな声を最後に、ブーンの体は【界の狭間】に転移される。
そこにはまだ荒巻がいてくれた。
しかしどこを見渡しても、ドクオの姿が見えなかった。

その意図を察したのか、荒巻は言う。

/ ,' 3「ドクオなら先に貴様等の世界に帰しておいた。
    ネオスを持たない奴を留めておくのは限界だったからな」

( ^ω^)「そうかお」

だったら自分もそう長くはここにはいられないのだろう。
自分の体にはもうネオスは無い。全て向こう側の人間の元へと戻っていってしまったのだ。



60: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:28:20.97 ID:GsQSrje40

しかし最後にこれだけは、もう一度だけ聞いておきたかった。

( ^ω^)「……本当にいいのかお、荒巻。しぃに会わなくても……。
      お前がその気になれば、」

/ ,' 3「言うな小僧。おれはもう幻竜型ウェポン・荒巻ではない。本来の姿、狭間の番人・荒巻だ。
    番人ならば【掟】は絶対。杉浦がいない今、対立を乱して貴様等の世界には行けん」

それにな、と荒巻は笑う。

/ ,' 3「しぃは強い。おれが唯一認めたネオファイターだ。必ずおれに会いに来る。
    今はそれだけで十分なのだ」

灼熱が宿るその眼光は、誰よりも紀しぃを認めている。
笑い返すしかなかった。

( ^ω^)「そうかお……。それにしてもあれだおね、荒巻。
       お前、キャラ変わったお」

/ ,' 3「……そうかもしれぬな」

( ^ω^)「何だお、怒らないのかお?」

荒巻は答えずに視線をブーンから外す。



62: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:30:16.64 ID:GsQSrje40

そして随分と何かを悩んでいるような間を置いてから、荒巻は言った。

/ ,' 3「……しぃに、伝えて欲しいことがある」

( ^ω^)「伝えて欲しいこと?」

そして飛び出してきた言葉は、荒巻からは想像もつかないものだった。

/ ,' 3「ありがとう。それと…………お前と出会えてよかった」

茶化す場面ではない、というより、茶化せなかった。
最強のウェポンからの、最後の頼みだ。

( ^ω^)「……うん、約束するお。絶対に伝える」

/ ,' 3「礼を言う」

刹那に、ブーンの体から緑の光の粒子があふれ出す。
別れの時間だった。

( ^ω^)「荒巻」

/ ,' 3「なんだ」

( ^ω^)「しぃがここに来るとき、僕も一緒に来ていいかお?」

面食らったように、荒巻が目を丸くする。
しかしすぐに体に劫火を纏わせて荒巻が笑う。



63: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:32:09.62 ID:GsQSrje40

/ ,' 3「よかろう。来れる度胸があるのなら来い。
    だがそのときは覚悟しておけ。しぃ以外の人間が対立を乱すのなら、おれは容赦なく殺すぞ」

ブーンは満面の笑みで笑い返して拳を突き出す。

( ^ω^)「上等だお。僕は第十二期最強のネオファイターだお。
       ……――それじゃ、さよならだお、荒巻」

/ ,' 3「ああ。じゃあな、小僧」


最後の最後までお前、僕のこと名前で呼ばなかったな。

そう言おうとしたときにはすでに、視界のすべては緑の光の世界に染まっていた。
真紅の竜がその中に飲み込まれて消えた。

そしてその光は一瞬で霧散し、気づいたときにはどこか知らない山の中に突っ立っていた。



64: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:34:14.20 ID:GsQSrje40

( ^ω^)「お……」

辺りを見回して初めて、すぐ側にドクオがいることに気づく。

('A`) 「……おはよ、ブーン」

ここがどこなのかと聞けば、ドクオは「知らない」と言って苦笑する。
あの野郎、最後の最後まで迷惑かけやがって、とブーンは悪態をつく。

見知らぬ森に朝日が射し込んで来る。

朝靄の光に身を預け、ブーンは天を仰ぐ。

まるで夢のように過ぎた一ヶ月だった。

ある日送られてきた封筒に入っていたビー玉を食ったらネオファイターになって。
ウェポンを具現化させて戦って。
何度も死にそうになって。

でも最後にはこんな清々しい気分になっている。



65: たけし ◆SXCV.2heRo :2007/08/22(水) 02:35:47.49 ID:GsQSrje40

( ^ω^)「荒巻……」

朝日の中に真紅の竜を思う。
紛れもない最強のウェポン・荒巻。いや、狭間の番人・荒巻だ。

いつか必ずしぃと共に会いに行ってやるから覚悟しておけ。
そのときは目一杯茶化してやるからな。今までの仕返しだ。

( ^ω^)「……」

深呼吸を一度だけする。息を吐いたそのとき、ブーンは踵を返す。

( ^ω^)「さて、アパートに帰るかお。しぃが待ってるお」



そして帰ったら、卵焼きでも作ってやろう。


もちろん、ベーコンも一緒に。



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