('A`)がコンビニ店員になったようです

4: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 22:54:33.68 ID:vNhl7XZT0
  

 ――――――( ^ω^)「5だお。」―――――――


「原付の調子はどう? ドッくん?」

('A`)「すごくいいですよ。
   名前を付けて、かわいがっていますよ。」

「あら、なんて名前なの?」

('A`)「麻子です。」

「あらやだ、あたしの名前じゃないw
 もう、ドッくんったらwwwww」

('A`)「・・・・・・(名前、変えようかな。)」


そんな会話をパートのマダムと交わして、俺はコンビニを後にした。



5: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 22:58:09.27 ID:vNhl7XZT0
  
7月にもなると、早朝の空はすっかり明るい。
いつものように、公園のベンチに腰掛け、タバコに火をつける。

バイトあがりの一服は、最高だ。
野菜ジュースを飲みながら、吸う。
この組み合わせを、ほとんどの人は否定する。


野菜ジュースとタバコ。


このベストカップルの味がわからないなんて、みんなどうかしている。



6: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 23:00:28.35 ID:vNhl7XZT0
  
タバコを吸いながら、あたりの景色を眺める。


えさを求めて徘徊する鳩。
愛犬の散歩をする主婦。
太極拳にいそしむ老人達。


みんな、いつもの見慣れた風景だ。
そんな風景の中に、珍しいものがあった。


ブーンが、公園の中を走っていた。



7: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 23:01:22.36 ID:vNhl7XZT0
  
('A`)「おーい、ブーン。」

( ^ω^)「ありゃ? ドクオじゃあーりませんか。」

('A`)「ドクオであーりますよ。
   お前、こんな早朝に何やってんだ?」

( ^ω^)「暇だから走ってたんだお。」


そう言いながら、ブーンは俺の腰掛けるベンチに近づいてきた。


( ^ω^)「よっこらセックス。」


意味不明なかけ声をあげて、ブーンが俺の隣に腰掛ける。



8: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 23:03:06.89 ID:vNhl7XZT0
  
ブーンの話によれば、
週に何度か、このあたりを走っているとのことだった。

今日はたまたま、この公園を走っていたそうだ。


('A`)「しかし、何で走っているんだ?」

( ^ω^)「高校でせっかく痩せたんだし、
     もとのピザには戻りたくないんだお。」



なるほどね。



9: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 23:05:14.41 ID:vNhl7XZT0
  
俺は、二本目のタバコに火をつけた。
その隣で、ブーンはタオルで汗を拭いている。


俺とブーンは、ただ黙って公園の風景を眺めていた。


やがて、二本目のタバコが燃え尽きた。
タバコを灰皿に投げ捨てると、俺は、ブーンに話しかけた。


('A`)「この前、久しぶりに高校を見に行って来たよ。」

( ^ω^)「・・・・・・そうかお。」

('A`)「なんにも変わってなかったよ。
   校舎も、グラウンドも、中庭も、部室棟も。」

( ^ω^)「・・・・・・・・・。」


ブーンは、何も言わない。
そんなブーンの方を向いて、俺は言った。


('A`)「全部、あのときのままだったよ。
   まるで、今の俺達みたいにな。」



10: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 23:07:30.35 ID:vNhl7XZT0
  
それからまた、俺達は黙った。

俺は、三本目のタバコに火をつける。
そして、話を続けた。


('A`)「空手を挫折したのは、確かに辛かったよ。
   ・・・俺達、あれだけ頑張っていたもんな。
   
   退部届けを出したときの、あの虚無感は今でも忘れない。
   いや、忘れようと思っても、忘れられない。」

( ^ω^)「・・・・・・・・・・・・。」

('A`)「だけどさ、俺達がどんなに過去を悔やんでも、
   時間はその流れを止めてはくれない。
   
   それなら、俺達もいつまでも立ち止まってもいられない。
   そうだろ?」

( ^ω^)「・・・・・・・・・・・・。」



三度目の沈黙。



12: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 23:09:08.19 ID:vNhl7XZT0
  
やがて、三本目のタバコも燃え尽きた。
俺は、そのタバコを灰皿に投げ捨てた。


すると、ブーンが口を開いた。


( ^ω^)「ドクオは強いお。
     僕は、そんな風には考えられないお。」

('A`)「・・・・・。」
 
( ^ω^)「ドクオは、部活をやめた後、
     部活の代わりに今度は、受験勉強を頑張りだしたお。

     そんな風に、新しい目標を見つけられるドクオは強いお。

     でも僕は、部活をやめた後、何にも頑張ることが見つけられなくて、
     今ではこの通り、親に食べさせてもらっているニートだお。」



13: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 23:12:36.51 ID:vNhl7XZT0
  
そんなことはない。
俺は、部活をやめた後から今でも、言いようのない虚無感と共に生きている。

その虚無感から逃げ出すため。
そのために、受験勉強に打ち込んだだけなんだ。

目標なんて、俺には無かった。
何もしていないことが、怖かった。
一生懸命、部活や他のことに打ち込んでいるみんながうらやましかった。

そんな気持ちから逃げ出すために、
それだけのために、受験勉強に打ち込んだだけなんだ。

そんな俺だから、大学に入学した瞬間に、何もする気がなくなった。
逃げ出すために打ち込むものがなくなったからだ。



ブーン。
俺は、お前の思うような強い人間なんかじゃないんだよ。



14: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 23:14:00.61 ID:vNhl7XZT0
  
そのことを言いかけたとき、ブーンが先に口を開いた。


( ^ω^)「・・・ドクオ。
      僕にとって、あれ以上に熱くなれるものを見つけるのは、もう無理なんだお。

      いや、無理とは言わないお。
      だけど、限りなく不可能に近いんだお。

      だって、一度あきらめたり、失ったものを振り返るとき、
      それは、そのとき自分が感じていた以上に熱く感じられるものなんだお。」

('A`)「・・・・・・。」



15: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 23:15:16.70 ID:vNhl7XZT0
  
ブーンの言いたいことが、痛いくらいに俺に伝わってくる。


あの時あきらめていなければ、もっと先に進めた。
あの時見失っていなければ、今でも、心の底から笑っていられた。


あきらめたものや、失ったものに対するそんな希望的観測が、
そのとき感じていた熱さを、そのとき以上のものに感じさせる。


冷え切った今の自分が、昔の熱さに触れるとき、
そのときの熱さが、あのとき感じた以上に熱く感じられるのは、仕方のないことだ。



17: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 23:17:51.80 ID:vNhl7XZT0
  
しばしの沈黙の後、ブーンは続ける。


( ^ω^)「そんな僕に、
     あの時以上の熱さを見つけだすことは、不可能に近いお。

     だって、今の僕が感じるあの時の熱さを越えるものは、
     あの時感じた以上に熱いものでなければならないんだお?」

('A`)「ブーン・・・。」

( ^ω^)「高校時代のように、
     ただ一つのことだけを追い続ければいい時代は、僕たちにはもうこないお。

     僕たちは、もう大人だお。
     最低でも、自分が生きていくための算段は考えなくてはいけないお。

     そんな片手間な状況で、あの時以上の熱さを見つけだすなんて、
     不可能じゃないかお?

     少なくとも、僕みたいな弱い人間には、無理なことなんだお。」



19: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 23:20:16.98 ID:vNhl7XZT0
  
そんなこと無いよ、ブーン。

普通の人間なら、失った熱さから目をそらし、
今感じられる熱さを、過去に感じた以上のものだ、と思いこむものだ。

そう思いこんで、今の自分を納得させる。
そうして、自分の本当の思いに向き合おうとしない。


だって、それは怖いことだから。
今の自分を否定することは、恐ろしいことだから。


そんな恐怖に、真正面から向き合っているブーンは、弱くなんか無い。

少なくとも、過去から感じ続けている虚無感から逃げ出すために
受験勉強に走った俺なんかより、ずっと強い人間だ。



だけど・・・だけど・・・。



20: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 23:22:29.26 ID:vNhl7XZT0
  
俺は、この想いを、できるだけ言葉に乗せてブーンに話した。
しかし、俺の口から出た言葉は、自分でも何が言いたいかわからないような内容だった。


そんな俺の言葉を、ブーンは微笑みながら、ただ黙って聞いてくれた。


俺のこの想いが、すべてブーンに伝わらなくて良い。

ただ、少しだけ。
ほんの少しだけで良い。

ブーンに伝われば、それで良かった。


俺のはき出したタバコの煙の一部が、ブーンの体に触れるみたいに。
俺のタバコのにおいが、ブーンの服に、わずかに残るみたいに。



21: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 23:23:58.16 ID:vNhl7XZT0
  
やがて、日が高くなり出した。
街中が、活動をはじめる時間だ。


( ^ω^)ノシ「・・・・・・もう行くお。バイブー。」


ブーンは立ち上がると、手を振りながら、公園から出ていった。


そんなブーンが去ったあと、
俺は、どうしても言えなかった言葉を呟いた。






('A`)「・・・・・だけど、お前のその生き方はしんどいぞ? ブーン。」



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