( ^ω^)ブーンと鬼のツンξ゚听)ξ のようです

109: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:59:40.98 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……縦令、君が鬼に為ったとしても」
ξ゚听)ξ「……?」
( ^ω^)「其れで僕は君が消えてしまったなんて思うことは無いお」
ξ゚听)ξ「……でも、私は……」

 言葉の続きを待たずにブーンは再びツンに其の唇を寄せた。其の様な強引な口封じもツンは
抵抗することなくゆっくりと目を閉じ受け入れた。そしてブーンは其の儘ゆっくり褥(しとね)へと
ツンを倒すと、覆い被さった儘一度口を離しツンの顔を見つめた。
 やがて閉じられていたツンの瞳が開き、視線の絡み合うこと幾許。ブーンはツンに微笑みかけ、
ゆっくりと頭を撫ぜた。そしてツンが再度目を閉じたのを確認すると、瞼に軽く口付けをした。

( ^ω^)「だから……最後などと云わないで欲しいお」
ξ゚听)ξ「……はい」

 そうして鬼も眠る妖しい夜に、雪原の花は月を見上げた。朝雲暮雨(ちょううんぼう)と為りては
何時々々迄もと夢見る花の、夜は更けていく――。


※朝雲暮雨=男女の交わりを表す



113: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:03:11.94 ID:pvNpc7Oh0


 やがて満月が彼は誰(かわたれ)に朧付いた頃、やけに静かで底寒い空気にブーンは目を覚ました。

( ^ω^)「……?」

 其れは本当に静かな、まるで時間が止まってしまったかの様な静寂。寝惚け眼と云う様に
寝惚け耳とやらがあるのなら其の仕業に違いないが、やはりどれだけ経っても音一つ聞こえない。
 若しくは本当に耳がおかしく為ってしまったのかと立ち上がると、衣擦れの音が聞こえた。
爪先を動かせば褥に擦れる音もした。
 それでは一体此の静けさは何なのかとブーンは辺りをもう一度眺め回した。

( ^ω^)「……ん?」

 耳だけでなく、其れは目にも静かであった。家具がひっそりと並ぶだけの部屋。敷いてある蒲団。
動きのまるで無い世界には、確かに先程まで在ったものが無かった。


※彼は誰=たそがれの朝版 ※朧付く=ぼんやりと曖昧になる ※底寒い=身体のしんまで冷えるように寒い



117: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:05:29.06 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「ツン?」

 途端に静寂は音も無く騒ぎ始める。時間は転がり落ちる様に動き始め、寒さが躰の心まで
染み渡る。足を持ち上げ枕を返す。部屋の中央まで歩き、改めて眺め回す。
 やがて時間はブーンを置き去りにした儘何処かへと走り去っていく。冷たさと不安だけが
背筋を纏わりつき、四肢への血巡りを鈍らせる。

( ;^ω^)「ツン!」

 ブーンは直ぐ様家を飛び出し辺りを眺めた。窒息しそうな程静かな雪景色。其の先に見たことの
ある寝衣を見つけ、ブーンは駆け出し其の腕を掴まえた。

ξ;゚听)ξ「わ!」

 突然の出来事に一驚を喫したツンの声にブーンは確信したのだが、同時にえも云われぬ違和感を
覚え、ぞくりとした。



121: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:07:35.04 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……ツン? 驚かすなお。てっきり居なくなったかと思ったお」
ξ゚听)ξ「?」
( ^ω^)「どうしたんだお? そんなにじろじろと僕の顔を見て」
ξ゚听)ξ「ブーン?」
( ^ω^)「そうだお。僕以外に誰が居るんだお」
ξ゚听)ξ「いつ、あいにきてくれたの?」
( ^ω^)「……ん?」
ξ゚听)ξ「ここ、そんなかんたんにこられないんだよ?」
( ;^ω^)「……ツン?」

 違和感が全身を包み、不安が心臓をざらつく舌で嘗め上げた。



123: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:09:25.29 ID:pvNpc7Oh0
ξ*゚听)ξ「あ、ブーン、あまざけもってきてくれた?」
( ;^ω^)「いきなりどうしたんだお。冗談は止めて欲しいお」
ξ#゚听)ξ「あまざけまたわすれたの?」
( ;^ω^)「ツン、君の其の口調、まるで……」
ξ(゚、゚#ξ「もうブーンなんてきらい! しらない!」
( ;^ω^)「……嘘だお。嘘……嘘だお!」

 頭は事実を処理していたが、併し其の理由を掴めずに理解がまるで出来ていなかった。
夢でもまだ此れより整合性があると云うものだ。ブーンは思わず其の肩へ乱暴に手を伸ばす。

ξ;><)ξ「いやだ! いたい! はなして!」
 ( ;^ω^)「悪い冗談は止めるお! 君はもう廿に成るんだお! 恥ずかしくないのかお!」
ξ;><)ξ「しらない! やだ、ブーンきらい!」
 ( ;^ω^)「嘘だ……お……」

 其の体躯も立派なツンは、中身を出会った頃のものへと逆戻りさせていた。其れはまるで
平和であったあの頃に戻りたいと云うブーンの懐古心を嘲笑うかの様な、残酷な出来事であった。



127: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:11:50.45 ID:pvNpc7Oh0

(´・ω・`)「此の様なことがあるんですね……」

 壁を手で何度も叩き乍らはしゃぐツンを見てショボンは暫し呆然としていたが、不意にそう漏らした。
朝一番、ショボンの家の戸を叩き一頻り騒ぎ立てたブーンは、今では随分と大人しくなっていた。

( ^ω^)「ショボン、君は此れに心当たりはないのかお?」
(´・ω・`)「残念乍ら、此れは隠し事無しに僕の知るところではありません」
ξ゚听)ξ「ブーン! ひまー!」
( ;^ω^)「あーあー、壁を掘ったら駄目だお! しょぼくれおじさんに怒られるお!」
(´・ω・`)「誰がしょぼくれですか……」

 ショボンは立ち上がり近くにあった本棚に並ぶ書物の背表紙を横にずっと指でなぞっていったが、
其れを何段繰り返してもどうやら目当ての物には出会えなかったらしく、煙管に煙草の葉を詰めると
どっかと座り火を点け、其れを銜えると苦々しい表情で紫煙を吐いた。

ξ゚听)ξ「くも」

 ツンが指差した紫煙は尾を引き乍らゆるゆると昇り、天井にぶつかると音もなく其の儘曖昧に
なっていった。結局指差した先には煙すら許さぬ堅牢に組まれた天井板がただ在るだけであった。



130: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:14:00.88 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「それにしてもだ。君は此のツンに覚えがあるのですか?」
( ^ω^)「あるお。僕は幼い頃にもツンと出会っているんだお。其れは前に話した筈かと……」
(´・ω・`)「併し、其れにしては……幼過ぎはしませんか?」
( ^ω^)「……幼過ぎる?」

 ブーンはそう云われ、今一度過去の記憶を掘り返していた。過去に見たツンはやはり無邪気に
はしゃぎ、怒り、喜び、悲しんでいた。一体それでは何を以ってショボンは幼いと云っているのだろうか。

( ^ω^)「恐らく今は急な出来事で面食らっているだけだお」
(´・ω・`)「そう、ですか」

 燃え尽きた煙草の葉を捨てると、ショボンは新たに葉を詰めることなく煙管を玩び乍ら溜息を吐いた。

(´・ω・`)「君、此の様に為ってもやはり引越しはするのかい?」
( ^ω^)「勿論。其れは僕とツンが決めたことだお。今更変える必要も無いお」
ξ゚听)ξ「ねえねえ、ブーン」

 一人遊びに飽きたツンが二人の会話に興味を示したのか、胡坐(あぐら)を掻くブーンの膝の上に
乗ると、円らな瞳でブーンを見上げこう問うた。



133: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:16:03.74 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「なんで、おひっこしするの?」

 途端、眼の奥でぐらりと揺れが起こったかの様な錯覚に陥ったブーンは、其れを悟られまいと
考える仕草と混同させ目頭を押さえると、落ち着いたのを確認してから口を開いた。

( ^ω^)「村長さんに迷惑を掛けるからだお」
ξ゚听)ξ「どうしてめいわくなの?」
( ^ω^)「其れは……」
ξ゚听)ξ「ブーン、そんちょうさんに、いじめられてるの?」
( ^ω^)「そんなことないお」
ξ゚听)ξ「じゃあブーンは、しあわせなの?」

 此れ以上無く答えにくい質問であった。全く理論的な段階を踏んでいない質問の筈であるのに、
其れは正に現状を踏まえた上でブーンに対して問われていた。

( ^ω^)「……ツン、暫くショボンと遊んでいて呉れお」

 堪らずブーンはツンを置いて、其の場を後にしてしまった。



135: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:17:50.52 ID:pvNpc7Oh0

 一人、家に戻りブーンはひんやりと冷たい床に躰を預けた。其の儘天井を見上げ何も考えることなく、
ただ茫と木目を数えたりしていた。
 幸せかと問われて、ブーンは即座に幸せだと云えなかった。ツンと居られることが幸せではないのか
と問われれば、首を横に振るだろう。今居るツンが、ツンでないのかと問われても首を横に振るだろう。
 詰まりはこう云うことだ。ツンが居るだけで幸せだと、ブーンは云い切ることが出来なかっただけなのだ。

 此れから先始まる二人だけの暮らしを前に、ブーンは気付いてしまった。其れはやがて心を蝕む
不安と為り、天井の木目も何処まで数えたのか分からなくなってしまった。

( ^ω^)「どうしたら好いんだお……」

 終には口から弱音が零れてしまったが、其れに答える音は無く、ただ反響する音を拒む様に
ブーンは両手で頭を抱えて丸くなった。



138: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:19:18.30 ID:pvNpc7Oh0
 家に差し込む光も乏しくなった頃、ブーンは大仰に床を叩くと腹の底から叫んだ。仄暗い静寂を
ビリビリと意味も無い大声が引き裂き、ブーンは腹の底が少し許り熱を持ったのを感じた。

( ^ω^)「……ふう」

 悩んでも解決策は出なかった。併し結論は出た。今は唯ツンと居る一日を大事にしよう、と。
其れならば今こうしている時間のなんと無駄なことか。ブーンは飛び起き、乱暴に戸を開けると
其の儘の勢いでショボンの家へ飛び込んだ。

( ^ω^)「ショボン! 世話を掛けたお!」
(´・ω・`)「ん? あぁ、君か」

 履物を脱ぎ捨て、炉辺で読書をする彼の元へ駆け寄ると、ブーンは辺りを見回した。

( ^ω^)「ツンは何処だお?」
(´・ω・`)「ん? 君の所じゃないのかい?」
( ^ω^)「どういうことだお?」

 ばたん、と本を閉じるとショボンは首を捻りブーンの顔を眺めた。



141: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:21:20.52 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「あの子なら先程ブーンが何たらと云って飛び出していきましたよ」
( ^ω^)「……何? 何故止めなかったんだお!」
(´・ω・`)「止めるも何も、『家に行くのかい』と訊いたら『うん』と返事をしたんですよ?」
( ^ω^)「家に行くと?」
(´・ω・`)「えぇ」

 自分の家以外に態々行く様な家が在っただろうかとブーンは考えた。他に家と云えば明日
越す家だろうか。それとも考え難いことではあるが元居たツンの家、即ち隠の住処の事だろうか。

(´・ω・`)「何やら穏やかではない様ですね。僕も探しに行きましょうか」
( ^ω^)「あぁ、助かるお」

 交わす言葉もそこそこに二人は外へと飛び出した。一層冷えた外気に晒されて、ブーンの心は
冷え冷えとした不安にぐらついていた。此の頃、好くない予感許りが現実に為るのだ。



144: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:23:06.71 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「とりあえず此処等一帯を探してみましょう。未だそう遠くへは行っていない筈です」
( ^ω^)「じゃあ僕はこっちを探してくるお」

 頷き合い二手に分かれた後、ブーンは目を皿の様にしてツンを探し回った。身を切る様な
寒気が頬を撫ぜていくが、雪が降っていないだけ増しだと云えた。
 とは云え、足許には踏めば音がする程度の雪が既に降り積もっていた。息が上がり速度を
緩めると、ぎゅ、ぎゅ、と雪の踏み締める音が聞こえる。其れに気付いたブーンは、立ち止まり
耳を澄ましたが、ただ自らの乱れた気息のみが煩いだけで無駄に終わった。

 そうして走り続け、幾つか角を曲がったときの事であった。遠くの方で動く小さな人影が確かに
確認できたのだ。其れが縦令ツンでなくとも何かを見ていたなら手掛りが掴めるかも知れぬと
ブーンは駆けた。
 其の人影は近づく程に明瞭になり、やがて其れがツンであると判った。



146: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:25:12.33 ID:pvNpc7Oh0
 併しブーンの足は其の速度を増すことは無く、それどころか徐々に減速し、終には立ち止まって
しまった。彼は近づきたくなかったのだ。ツンにではなく、事実に。

( ;^ω^)「……ツン」
ξ゚听)ξ「あ、ブーン」

 破顔一笑、ツンが立ち止まったブーン目掛けて駆け寄ってきた。其の手に何かを引き摺り乍ら。

( ;^ω^)「ツン、其れは……」

 其の手が掴んでいたのは人であった。長い間襟を掴み引き摺ったのか、其の着物は大分乱れていた。
そして不自然なまでの力の抜け具合は、其の人の死を予感させた。


※破顔一笑=顔をほころばせて、にっこりと笑う



148: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:26:45.05 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「ねぇ、ブーン。このひとが、わたしたちの、じゃまなんだよね?」

 云って掴んでいた襟を持ち上げ、手首を捻り其の顔を見せた。眉間にシワを寄せ蒼白の顔をした其の
人は、此の村の長であった。
 惨い。そう思わざるを得ぬ程に血に塗れた姿であった。

ξ゚听)ξ「ね?」

 併し、着物の至る所を血に染め上げて尚、彼女は笑っていた。其の所得顔(ところえがお)はまるで
童子の様に曇り無く、彼女は鬼や人と云うものとは関係無しに、彼女が彼女たる何かを何処かに
落としてしまった様だと感じられる程に晴れやか過ぎた。


※所得顔=満足そうなさま



150: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:28:27.77 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「ブーン、これでわたしたち、しあわせにくらせるね」
( ;^ω^)「……莫迦な」

 ツンの顔をしてツンの声で喋る彼女は、果してツンであろうか。

――縦令鬼に為ったとしても

 自らの言葉は髄に張り付き、萎えそうになる信念に活を入れ、併し一方では云い知れぬ不安を
助長する。此れが鬼なのかと、ブーンは心の沈み往かんとするのをただ堪え続けていた。

 其処へ唐突に一人の人物が現れた。見慣れた其の顔であったが、やはり此の光景を前にして
尋常ならざるものを感じたのか、いつもの力の抜けた顔はどこかへ消えてしまっていた。

(;´・ω・`)「……君達、一体何事だ」
( ;^ω^)「……」



152: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:29:52.80 ID:pvNpc7Oh0
 未だ亡骸の襟を掴むツンと、立ち尽くすブーン。其の最初の目撃者がショボンとなったのは
彼等にとっては不幸中の幸いと云うべきか。ショボンは右の手で自らの髪を乱暴に掴み唸ると、
懐から煙管を取り出し、其れをブーンに向かって差し口元を歪めた。

(;´・ω・`)「君は早く何とかして其の子を連れて来い。僕の家だ。早くし給え」
( ;^ω^)「……分かったお」
(;´・ω・`)「ああ、其の人も運んでくるんだ。兎に角、早くだ」

 慌しく駆けていくショボンの背を茫と眺め乍ら、ブーンは袖を引くツンの声をただ聞いていた。

ξ゚听)ξ「ねえ、ブーンほめてくれる? ねぇ、ブーン?」
( ;^ω^)「……なんと……云う……」

 立て直した心が足許から瓦解していくのをブーンは感じていた。



154: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:32:04.69 ID:pvNpc7Oh0

 幸いなる哉(かな)、村長の流血は収まっており、道案内を残すことなくショボンの家へ着くことが
出来た。それでも現場には真白な雪を血で赤黒く侵した跡は残っているだろうが、今の彼等には
其れをどうすることも出来なかった。
 若しやまだ助かるのではと、二人は村長に手を施そうとしたのだが、着物を脱がせた所で既に
手遅れだと云うことが判る程に損傷が酷かった。寧ろ顔を判別出来たのが奇跡とも云えた。

 遺骸は其の後、綺麗にしてから着替え等をさせようとしたのだが、何分損傷が激しかった為
下手に手を加えることが出来ず、今はただ大きい布を掛けただけになっている。其れを複雑な
面持ちで眺め乍ら、ブーンが奥の間から姿を現した。

(´・ω・`)「彼女はどうしましたか?」
( ^ω^)「奥で眠っているお」
(´・ω・`)「そうですか……」

 胡坐を掻き視線を床に戻したショボンを凝(じ)っと見詰めると、ブーンは視線を逸らしやや離れた場所に
腰を据えた。


※幸いなる哉=運のよいことに



158: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:34:05.72 ID:pvNpc7Oh0
 ショボンはと云えば、時々火の点いた儘煙管を手に茫と考え事をしては、ふと思い出したかの様に
口に銜え、また考えに耽る。其の様なことの繰り返しをして時間を過ごしていた。
 隙間から寒風が吹いて来たのを感じ、ブーンは短く身震いをした。其れを見たショボンが何かを
云おうと口を開きかけたが、チラリと物云わぬ大布を見て、口をへの字に曲げた。

 停止していた。生きている二人は今停止していた。有意な意見を練ることも無く、過去に立ち返り
嘆くことも無く、ただ二人は停止していた。併し取巻く世界は音を立てて時を刻み続け、彼等を
急き立てる。時々其れを感じては、彼等は咳をしたり、煙管を銜えたりするのだ。

(´・ω・`)「……ん、あぁ。君」

 咳払いをしてショボンがブーンに呼びかけた。



161: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:35:51.48 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……なんだお」
(´・ω・`)「僕の中で結論が出たよ」

 時間による絶え間ない責め苦を受け続け、ショボンは屈したのか神妙な面持ちでブーンの方へと
向き直った。

(´・ω・`)「今こそ君に全てを話すべきだと、そう考えました」
( ^ω^)「……何?」
(´・ω・`)「過去に僕が何を体験したか、今の君は知らなければならない」

 コォン、と煙管の灰を落とす音が辺りに響いた。其れを合図に、再び夜は動き始めた。



164: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:37:28.04 ID:pvNpc7Oh0

(´・ω・`)「僕は嘗(かつ)て妻を持っていました」
( ^ω^)「君が? ……其れは初耳だお」
(´・ω・`)「其の名をデレと云い、それは目も眩む様な玉容(ぎょくよう)の持ち主でした」
( ^ω^)「……其の名、何処かで聞き覚えのあるような……」
(´・ω・`)「昔にあの子、ツンが騙(かた)った名です」
( ^ω^)「……ああ。其の様なこともあったお。なれば君もあの時は大いに驚いたろうに」

 内心驚きを隠していたのかと当時を振り返り、ブーンは薄く笑った。

(´・ω・`)「ええ、それはもうひっくり返りそうになりました。何せ彼女は本当にデレにそっくりでしたから」
( ^ω^)「それは……また凄い偶然が重なったものだお」
(´・ω・`)「まさか、偶然な筈が無い。彼女はデレの一人娘なんですから」

 袖の内で腕を掻いていたブーンの手がピタリと止まった。


※玉容=玉のように美しい容貌



166: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:39:21.06 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……ん、今なんと?」
(´・ω・`)「彼女は、ツンはデレの一人娘だと」
( ;^ω^)「待て。莫迦な事を云うなお。其れだと君は僕の……」
(´・ω・`)「老後は、頼んだよ、君」
( ;^ω^)「なんと……。本当なのかお?」
(´・ω・`)「話を戻しましょう。全てを聞き終えてから、また判断して下さい」
( ^ω^)「……わかったお」
(´・ω・`)「……僕の故郷は此の村とは随分離れたところにあるのですが、其処で僕はデレと
      出会いました。今は昔の事……そう、妙に寝付きの悪い晩でした――」

 ショボンは煙草の葉を丸め乍ら視線を床に落とし、滔々と語り始めた。



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