( ^ω^)ブーンが機械と戦うようです

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/03(火) 23:07:58.37 ID:hsq/y1FH0
  
六日目?

朝。
爽やかな風と小鳥のさえずりによって、意識が覚醒する。

( -ω-)「ん、んぉ……」

頬に当たる風はあくまでも爽やか。
清潔なシーツと柔らかな太陽の匂いが、消毒薬の匂いに混じって鼻をくすぐる。

( ^ω^)「ここは……」

目を開ける。
そこには白い天井、白いシーツ、白いカーテン、そして白い壁。
白で統一された空間だった。

( ^ω^)「……知らない天井だお」

とりあえず名言を義務的に言ってから、自分のおかれた状況を確認する。

えっと、ボクは……確か変なレスを見つけたんだお。
それから変なサイトを見て、気を失って。
それから、それから……

あれ? その先は何があったんだっけ?



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/03(火) 23:08:37.12 ID:hsq/y1FH0
  
首を傾げていると、病室の扉がガチャリと開いた。

J( 'ー`)し「……っ!!」
( ^ω^)「あ、カーチャンだお」
J( 'ー`)し「あぁ、よかった……目が覚めたんだね」

カーチャンが心の底から安堵した表情を見せる。
そのまま近づいてきて、カーチャンはボクを抱きしめた。

J( 'ー`)し「もう目を覚まさなかったらどうしようかと……」
( ^ω^)「おっおっおっ、ちょっと気絶しただけで、カーチャンは大げさだお」
J( 'ー`)し「ちょっとって……気を失ってから、もう六日目なのよ」
(;^ω^)「お、そうなのかお? いっぱい授業休んじゃったお」
J( 'ー`)し「ふふ、そうね……そうそう、今日は学校の皆もお見舞いに来てくれてるのよ」

カーチャンがそういうと、同じ扉から次々と級友が入ってきた。



5: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/03(火) 23:09:17.20 ID:hsq/y1FH0
  
('A`)「うおいっす」
(´・ω・`)「やあ」

最初はドクオとショボンだ。
ドクオは相変わらず調子が悪そうにふらふらしている。
ボクなんかよりもドクオが入院した方がいいんじゃないだろうか。
その隣にいるショボンはいつものように落ち着いた風情で立っている。
手にぶら下げたお見舞いの品が、彼の気配りの良さを物語っているようだった。

('A`)「やっと目ぇさましやがったか。寝過ぎなんだよ」
(´・ω・`)「ホントだよね。代わりにノートを取る僕の身にもなってほしいよ」
('A`)「自分が勝手にノート取ってたんだろ。何を今更」
(´・ω・`)「僕は委員長だからね。それくらいはやらないといけないのさ」
('A`)「あっそ。じゃあ、今度から俺の分も頼むわ」
(´・ω・`)「だが断る。君の場合は99%がずる休みだからね」

お見舞いに来たとは思えない二人の掛け合いをみて、ボクは嬉しくなった。
六日ぶりに見た二人が、あまりにも変わっていなかったものだから。
もう会えないかとすら思っていた二人は、まったくもっていつもの二人だった。



6: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/03(火) 23:09:59.32 ID:hsq/y1FH0
  
/ ,' 3「ほ、やっと目をさましおったかね」
( ゚∀゚)「おー、寝坊だぞー」

二人に続いて担任の荒巻先生と教育実習中だった長岡先生が話しかけてきた。
荒巻先生は担任だから当然ではあるが、実習中の長岡先生も来てくれたのか。

/ ,' 3「こやつは毎日おまえさんをお見舞いに来ておったんじゃよ」
( ゚∀゚)「おお、そうだぜ。教え子が心配で心配で……」
/ ,' 3「その割に、巨乳ナースちゃんの所には必ず寄り道しておったがな」
( ゚∀゚)「うるせぇな、ついでだよついで。ちゃんとお見舞いには来てるだろが」
/ ,' 3「どっちがついでなんだかのう」

飄々とした荒巻先生と、元気な長岡先生。
親子ほども違う二人は、違和感なく会話を交わしている。
初めて二人を見た時からそうだったが、何か二人には共通するものでもあるのだろうか。



8: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/03(火) 23:14:41.13 ID:hsq/y1FH0
  
/ ,' 3「まあええわい。ところで、調子はどうかね?」
( ゚∀゚)「おお、そうだった。調子はどうだよ? まだどっか悪いのか?」
( ^ω^)「今朝目覚めたばかりだけど、調子はばっちりだお」

実際、生まれ変わったかのように体は軽い。
調子は万全といったところだ。
ただ、どこか体の奥に違和感があるような気がする。

(,,゚Д゚)「調子がばっちりなら、さっさと起きて学校に来やがれゴルァ!!」
ミ.,,゚Д゚彡「ギコ……お前、お見舞いに来たのか罵倒しにきたのかどっちなんだ」

ギコ・フサギコ先輩がボクに話しかけてきた。
二人はボクの先輩で、同じ陸上部に所属している。
フサギコ先輩はもう卒業してしまったけれども、陸上つながりでいまだに交流がある。

(,,゚Д゚)「まったく、普段の練習をさぼってるからこんなことになるんだろうが」
ミ.,,゚Д゚彡「ギコ、さぼっていると言えば、お前のここ最近の練習は……」
(;,,゚Д゚)「うごっ!? ま、まあなんだ、元気になったなら何よりだ!!」
ミ.,,゚Д゚彡「ふん、まあいい。それより、元気になって何よりだ」

口調は乱暴だけど、ギコ先輩はボクに走り方とか色々を教えてくれた。
フサギコ先輩も陸上だけでなく、色々と相談に乗ってくれるいい先輩だ。
二人がいなければ、今のボクはいない。



9: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/03(火) 23:16:51.48 ID:hsq/y1FH0
  
(,,゚Д゚)「で、いつ頃退院できそうなんだ?」
( ^ω^)「もういつでも出られますお」
ミ.,,゚Д゚彡「お前がそういっても、先生はどう言うかわからんぞ。先生、どうなんですか」

フサギコ先輩が背後にいた先生に問いかける。

( ゚д゚ )「まあ、特に体に異常は見られませんので。すぐにでも退院できるでしょう」

念のため精密検査は必要ですが、と先生は続ける。
名札にはコッチ・ミルナとある。ボクの治療をしてくれた先生が彼なんだろう。

J( 'ー`)し「先生、本当にありがとうございました」
( ゚д゚ )「そんな、顔をあげてくださいお母さん」

カーチャンが先生にむかって頭を下げる。
先生はそうされることに慣れていないのか、気恥ずかしげに頭をぽりぽりとかいた。



10: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/03(火) 23:19:33.83 ID:hsq/y1FH0
  
(´<_` )「先生。そろそろ次の診療のお時間です」
( ´_ゝ`)「診察室に戻りましょう」

先生の背後、入り口にいた、顔のよく似た白衣の男性が先生を促す。
兄弟と思われる彼らは、同じ格好をしているために見分けが全くつかなかった。

( ゚д゚ )「ああ、もうこんな時間か。わかった、戻ろうか」

最後にカーチャンへ会釈して、先生は病室を出て行った。
それからカーチャンやクラスメイトの皆と談笑して、時間はいつしか昼食の時間。
ここにいるというカーチャンに、ちゃんとしたものを食べるようにと半ば追い出すように食事を促す。
カーチャンはクラスメイトの皆と一緒に、病院近くのファミレスへ向かっていった。

一気に人がいなくなってガランとした病室の中で、ボクは一人、病院食を口にする。
空は青く澄んでいて、風はやわらかくカーテンをなびかせていた。

優しいカーチャンと気の良い仲間、そして良い先生達。
そんな人たちに囲まれて、ボクはとても満たされている。
世界は綺麗で嫌なことは何一つ無い。

なのに。



11: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/03(火) 23:25:39.50 ID:hsq/y1FH0
  
( ^ω^)「どうしてボクは、寂しい気持ちになるんだお?」

病室で一人、ボクは呟いた。
どうしても何かが足りない気がする。
皆と一緒にいた時は気にならなかったが、一人になるとそれがとても際だって感じられた。

自分は満たされているのに。
それどころか、失ったものすら得たような気がするのに。
どうしても大切な1ピースが欠けているような気がしてならない。

=゚听)=「にゃーん」

その時、病室の窓から猫が飛び込んできた。

( ^ω^)「あ、猫さんだお!! とってもラブリーだお!! チッチッチッチッ」
=゚听)=「うなー?」

ボクが呼ぶと、猫は首を傾げながらベッドの上に乗ってきた。
金色の毛並みが綺麗な猫だ。
人に慣れているので誰かの飼い猫かとも思ったが、首輪はついていなかった。



14: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/03(火) 23:31:21.23 ID:hsq/y1FH0
  
( ^ω^)「猫さんはどこからきたんだお?」
=゚听)=「にゃーん」
( ^ω^)「そうかお、外から来たのかお」

病院食のミートボールをあげながら、内藤は猫に話しかけた。

=゚听)=「うにゃー☆」
( ^ω^)「おいしいかお。よかったお」
=゚听)=「うななー?」
( ^ω^)「もっとかお? ごめんだお、ミートボールはもう無いんだお」
=゚听)=「うにゃー!!」
(;^ω^)「あ、あうあう、怒らないで欲しいお」
=゚听)=「にゃーにゃー!!」

激しく首をふり、顔を洗う仕草を見せる猫。
もどかしげなその仕草は、何かを報せるかのようだ。

( ^ω^)「どうしたんだお? ノミをとって欲しいのかお?」
=゚听)=「にゃー!! ふーっ!!」
(;^ω^)「わけわかんないお」
=゚听)=「ふーっ!! ふっ!!」

ツンとそっぽを向く猫。

(;^ω^)「どうやら嫌われてしまったようだお……」

猫はそっぽを向いたままだ。
ボクはその姿を見て、とても悲しくなった。
大切な人に嫌われてしまった、そんな気がして。



16: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/03(火) 23:36:43.71 ID:hsq/y1FH0
  
=゚听)=「……」
( ^ω^)「猫さん、こっちを向いてほしいお」
=゚听)=「ふんっ」
(;^ω^)「あうあう……あう?」

猫にご機嫌取りをしながら、ボクの脳内にどこかで見たような光景が浮かんで消えた。
ツンツンして全然素直じゃなくて、でもとっても可愛い猫さん。
とても大切な猫さん。

猫さん? でも記憶にある猫さんは、何故か言葉を話していた。
とても感情豊かに話をしていたような。

(;^ω^)「おっおっおっ、どうやら記憶が混乱しているようだお」
=゚听)=「……」
( ^ω^)「猫さん……」

猫は何も語らない。
猫だから当然だ。
当然であるはずのそのことに、ボクは何故かとても傷ついた。



17: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/03(火) 23:40:28.05 ID:hsq/y1FH0
  
ボクが途方にくれていると、病室の扉が勢いよく開けられた。

ξ゚听)ξ「あ……ホントに起きてた……」
( ^ω^)「あ……ツン」

そこに立っていたのは、クラスメイトのツンだった。
いつもツンツンしていて、でも、とても優しい娘。
ボクの好きな人。

ξ;凵G)ξ「よかった……目を覚まして本当によかった」
(;^ω^)「つ、ツン泣かないで欲しいお」

ツンはそのまま突進してきて、ボクの首に抱きついた。

(*゚ω゚)「ぷおっ!?」
ξ;凵G)ξ「バカ!! あたしがどれだけ心配したと思ってるのよ!!」
(*^ω^)「ご、ごめんだお、ツン」
ξ;凵G)ξ「本当に心配したんだから……ばかぁ……」



18: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/03(火) 23:46:03.28 ID:hsq/y1FH0
  
首筋にすがりつくツンの体温に、ボクの心臓がドギマギと変な音をたてる。
ツンの髪の毛からは、甘い香りが漂って来た。
香水をつけているのだろうか? 香水に詳しくないボクには詳しいことはわからない。
でも、それはとても良い匂い。
人生で初めてのその匂いに、ボクの脳内にはピンク色の霧が立ちこめたようになってしまった。
甘くて優しくて、いつまでも嗅いでいたい匂い。
その匂いに、体の一部へと血が集まり始める……

=#゚听)=「ふぎーっ!!」

――バリィッ!!

(;゚ω゚)「あびゃああああああああああああああああああああああああ!!」

下半身に痛烈な痛み。
腰の辺りに乗っていた猫が、その鋭い爪でボクの局部を激しく引っ掻いたのだ。
布団と病院服ごしとはいえ、その鋭い爪はやすやすとそれらを貫通してボクの局部に裂傷をもたらした。

( ;ω;)「ぷおおおおおおお!! ボクの宝物がああああああああ!!」

股間を押さえて悶絶するボクの顔に、猫が飛びかかる。
そして今度はボクの顔にその爪を立て始めた。



19: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/03(火) 23:53:16.71 ID:hsq/y1FH0
  
――バリバリバリバリバリッ!!

連続で繰り出される爪、そして爪。
どんどん傷だらけになっていくボクの顔。

( ;ω;)「うぴょおおおおおおおお!!」
=#゚听)=「ふぎぎーっ!!」
ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと何なのよこの猫!! やめなさいってば!!」

呆然としていたツンが、我に返って猫を引きはがしにかかる。
しかし、猫は今度は鼻に噛みついて離れようとしない。

( ;ω;)「い、いたい!! 鼻がもげるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
=#゚听)=「ふぎぎーっ!!」

噛みついた猫の口とその体が発する、野性的な匂いがボクの鼻腔の中に充満する。
太陽と草と獣の匂い。
ツンの甘い匂いとは違う、野性味あふれるその匂いは、ボクの何かを刺激した。

( ;ω;)「うっうっ……お?」
=#゚听)=「ふーっ、ふーっ」

鼻を離して、猫がやっと大人しくなる。
その目を見て、ボクの中の違和感が何かの形に固まった。



21: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/03(火) 23:56:55.40 ID:hsq/y1FH0
  
ξ゚听)ξ「あーあー、こんなに傷だらけ。大丈夫?」
( ^ω^)「大丈夫だお……つ、ツン?」
ξ#゚听)ξ「ちょっと、何で疑問系なのよ」
(;^ω^)「あうあうあう、だって、何か違和感があるんだお」

一度気づいた違和感は、ボクの中でとてつもなくふくらんでいく。
ツンはこんなツンだっただろうか。
甘い匂い、綺麗な服装、薄く化粧をした顔。
どこをどう見てもツンなのに、目の前にいるツンはボクの知っているツンではない。

ツンはこんなに綺麗だっただろうか?
綺麗なだけだっただろうか?

ボクの知っているツンは、もっと違う。
思い出せないその姿はもっと力強く、もっと違う姿ではなかったか。

( ^ω^)「ツン……ボクはツンじゃないツンを知ってるお」
ξ゚听)ξ「はぁ? なによそれ、あたしじゃないあたしって誰よ」
( ^ω^)「わかんないお。でも、ボクは確かに違うツンを知ってるお」

ボクは目の前に座る猫を見つめる。

( ^ω^)「そうだおね、ツン」
=*゚听)=「んにゃーん」

嬉しそうに猫が応えた。
そして暗転。



24: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 00:10:45.97 ID:uioT0m+a0
  
機械は知っている。
人間の歴史、そして盛衰のすべてを。

人間は愚かしくも頂点を目指し、その結果地に落ちた。
蝋細工の翼は天に届くことなく、途中でとろけて折れてしまった。

ゆえに機械は考える。
人間はこのままでは滅んでしまうと。
なれば我らが管理せねばならないと。
それも、完璧な環境で、全てを管理して。

機械は作り上げる。
理想の社会、理想の環境、理想の現実を。
人間は幸せで確かな一生を体験し、幸福のうちに人生の幕を閉じる。
覚めることのない夢は現実となり、辛く苦しい現実は虚構に隠される。

人間の生存すべてを任された機械はそうする他なかった。
汚れた大地、穢れた大気、穴の空いた天空より降り注ぐ有毒な光。
その全てから人間を守るために、鉄の揺りかごで人間を拘束する他は。

(´・ω・`)「我らは全ての人間が幸福であることを望む。ただそれだけなんだよ」

目の前にいる友人は、そう語った。



26: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 00:17:55.16 ID:uioT0m+a0
  
目の前にはショボンが――正確には、その姿を借りた何者かが存在している。

(´・ω・`)「僕が何者かなんて、どうでもいいことだよ。問題は君だ、ブーン」
( ^ω^)「……」

暗闇の中。
どこから照らしているかすらわからないスポットライトの下に、二つのソファが置かれている。
そこに腰掛けながら、ショボンは静かに語りかけた。

(´・ω・`)「ねぇブーン。人は、どれだけ幸せになることが出来ると思う」
(´・ω・`)「そしてどれほどの幸せを願うと思う」
(´・ω・`)「答えは『限りなく永遠に』だ。願いは尽きることなく、システムはそれを叶え続ける」

偽りで固められた幸せ。
だがそれは、体験する者にとってはまぎれもない現実。
荒巻の体験した半生は幸福だった。
荒巻が覚醒させたミルナを呪うほどには。



27: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 00:23:37.64 ID:uioT0m+a0
  
(´・ω・`)「君は修正を受け付けない。それは体質によるものか、それともシステムの不備か」
(´・ω・`)「だが、どちらでもいいことだ。問題は、君が幸せを享受しないということだよ」
( ^ω^)「……夢の中で幸せになっても仕方がないお」
(´・ω・`)「それを言い切ることはできるかい? 現に夢の中で幸福を得ている人は沢山いるよ」
( ^ω^)「その人たちは現実を知らないからだお」
(´・ω・`)「彼らにとっては、その夢こそが現実だ。日々を一生懸命に生きている」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「ブーン。君は現実で幸福を見つけたかもしれない」
(´・ω・`)「でも、だからといって君が他者の幸福を壊す権利があるのかな?」
( ^ω^)「……」

それは、おそらく無いだろう。
たった数日間暮らしただけの現実でも、それが確信できるくらいには暮らしにくいはずだ。

ましてや、今まで見ていた夢の幸福とのギャップもある。
友人やカーチャンとの別離を思えば、その喪失感は容易に想像できた。

現実に生きていないから不幸だ。
現実に覚醒することが幸福だ。

そう言って無理矢理幸せな夢から覚醒させることは、ただのエゴでしかない。



28: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 00:32:10.06 ID:uioT0m+a0
  
(´・ω・`)「人間が自分たちの足で歩く時代はもう終わったんだよ」
(´・ω・`)「初めは馬、そして馬車、次は汽車で、その次は車」
(´・ω・`)「人間はどんどん自分の足で歩かなくてもよくなっていった。そう望んだのは人間だ」

人間が繁栄の絶頂にいた時代。
その時代の生活を支えたのは機械であり、人間は限りなく幸せを享受するだけでよかった。
機械による幸福のシステムはそこから進化して、いつしか直接的に幸せを与えるようになる。

(´・ω・`)「核戦争や宗教間での争い。人間の世界には、いつも闘争が満ちあふれていた」
(´・ω・`)「僕はそれらの行為によって消費される命に、いつも心を痛めていたよ」
(´・ω・`)「そして、命が一つ消えるたびに思ったんだ。僕ならもっと幸せにすることができたのにって」

かくしてシステムは完成し、人は眠りにつくことになる。
絶対的な幸せを得ることができる仕組み。
全てが理想で包まれ、苦しみや悲しみの生まれることのないシステム。

ゲームや漫画、古くは小説や絵画などに至るまで。
人が望んでいた「こうだったなら幸せなのに」という気持ちを叶えるシステム。
2チャンネルシステム。
それは現実とは違う世界に構築された、もう一つの現実。



30: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 00:43:10.24 ID:uioT0m+a0
  
2チャンネルシステムはただのテレビ放送などではない。
そこには物理法則が働き、化学反応があり、ウィルスや菌すら存在する。
だが、それらは人生を幸福に生きる上での、ほんのちょっとしたスパイス。

野球を楽しむために重力は働き、唐揚げをおいしくするために化学反応が起き、納豆を作るために納豆菌が増殖する。
キスの味を楽しむために味覚は存在し、カレーの匂いを嗅ぐために嗅覚は働く。
強くなる筋肉のために超回復が行われ、繋いだ手の温もりを感じるために触覚がある。

隙間無く張り巡らされた幸せのための計画。
そこに個人のエゴが入り込む余地など存在しない。

(´・ω・`)「ブーン、もういいんだ。君は不幸にも違う世界を覗いてしまったかもしれない」
(´・ω・`)「でも、そこで得た幸せは、こちらに戻ってくれば全て元通りに再現できる」

ミルナ、荒巻、ジョルジュ、フサギコ、流石兄弟、そしてツン。
望みさえすればギコも日常として復帰することができるのだろう。
それができるからこそのシステムであり、その誘惑はとても魅力的だ。

おそらく、システムに戻れば現実世界の記憶は消える。
正確には、現実世界からシステムに戻ったという記憶は存在しなくなる。
そして、システムの中で現実世界の夢を見ながら、闘争を成功させてツンと幸せに暮らすことができる。



32: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 00:49:16.48 ID:uioT0m+a0
  
( ^ω^)「とてもよくわかったお。そして、魅力的だと思うお」
(´・ω・`)「そうだろうね。いくら夢だからと言っても、幸せであることは間違いないのだから」
( ^ω^)「そして夢が現実に取って代わる。そういうことかお」
(´・ω・`)「そう。そして幸せな人生を歩んで、一生を終えるんだ。僕は君に幸せになって欲しい」

ショボン――システムの代弁者が語る言葉は誠意が感じられる。
騙そうとしているのではない。
丸め込もうとしているわけでもない。
きっと、(機械にこのような言葉はおかしいかもしれないが)心の底から人間の幸福を望んでいる。
だが

( ^ω^)「だが断る」



34: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 00:55:38.98 ID:uioT0m+a0
  
(´・ω・`)「何故かな? 君が他人に幸せを与え貰うことに嫌悪感を感じるからかい?」
( ^ω^)「違うお」
(´・ω・`)「じゃあ夢だからかな?」
( ^ω^)「それも違うお。夢でも覚めなければきっと現実になるとは思うお」
(´・ω・`)「じゃあ、何故なんだい?」

心底不思議そうに尋ねる相手に、きっぱりと宣言する。

( ^ω^)「言いたいことはわかったお。幸せになれることもわかったお」
( ^ω^)「でも、そこにはツンは居ないお。他の皆もいないお」
( ^ω^)「皆がいるのは現実世界だけで、ボクが居なくなった世界でツンが悲しむのは嫌だお」

システムに戻れば、現実世界での記憶は消されるだろう。
システムの中に居るのか現実世界に居るのかすらわからない状態になるだろう。
そこにはツンもいる、皆もいる、失われた人すら存在する。
でも、そこではない現実世界にこそツンが居る、皆が居る。

失われた人から受け取ったもの。
今いる人から受け取ったもの。
それら全ては、現実世界にいてこそ意味があるものなのだ。



36: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 01:04:56.67 ID:uioT0m+a0
  
( ^ω^)「それと、ブーンブーンうるさいお。ボクの名前は内藤ホライゾンだお」
(´・ω・`)「それはシステムの中で得た仮初めの名前だ。今、君に割り振られている名前はブーンだよ」
( ^ω^)「それでも、ボクの名前は内藤ホライゾンだお」
( ^ω^)「偽りでも夢でも、ボクのカーチャンが考えてくれた名前だお。大切なボクの名前なんだお」
( ゚ω゚)「例えもう会えなくても、ただの幻だったとしても、カーチャンはカーチャンだお」
( ;ω;)「ドクオも、ショボンも、他の沢山の人たちも……ボクにとってはかけがえのない思い出だお」
(#;ω;)「そんなこともわからずにいるお前に、幸せなだけの人生を押しつけられるなんてまっぴらごめんだお!!」

システムが作り出したノン・プレーヤー・キャラクター。
それらの仮想人格との思い出、幸せな日々。
偽りだと知っていても、それはまぎれもない内藤自信の思い出。
それを勝手に作り替えるシステムになど、内藤は戻る気にはなれなかった。

幸せの定義は他者が決めるものではない。
金持ちは自由な時間が幸せで、貧乏人は美味しい食事が幸せだ。
幸せであれと作られた幸せに酔いしれる人生よりも、苦しみの中で大事に掘り起こす幸せを大事にしたい。
そして内藤はすでに幸せを見つけている。



37: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 01:11:25.17 ID:uioT0m+a0
  
(´・ω・`)「やれやれ……どうやら君はシステムにとことん合わないらしいね」
( ^ω^)「……ボクをどうするんだお」
(´・ω・`)「どうもしないよ。殺すとでも思ったのかい?」

不意に出た「殺す」という言葉に、内藤は身を固くする。

(´・ω・`)「そんなことはしない。だって、僕は全ての人間に幸福を与えるシステムなんだからね」
( ^ω^)「でも、トレーダーの人たちやVIPの皆を攻撃したお」
(´・ω・`)「システムの害悪になる要素は排除しなければならないからだよ」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「それに、僕の方から攻撃をしかけた訳じゃない。攻撃されたから防衛しただけにすぎないよ」
( ^ω^)「でも、殺すことはないんじゃないかお。殺したら意味がないお」
(´・ω・`)「うん、わかってる。でも、どんなに言葉をつくしても判ってくれないなら、力で応えるまでだ」

システムの語る言葉は分かり易い理屈で成り立っている。
攻撃されたから身を守る、それだけのこと。
ましてやシステムはその他大多数の人間の幸せを管理している。
その幸せを守るためならば、必要最低限のことはしなければならない。



38: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 01:16:43.57 ID:uioT0m+a0
  
( ^ω^)「……ミルナさんは、何でそうまでして闘争を続けるのかお」

システムに相対して初めて生まれる疑問。
今までは一方的に機械を悪と決めつけていたから生まれなかった疑問だ。
いや、もしかしたらそうなるように情報を選別されていたのかもしれない。

( ^ω^)「攻撃しなければ、機械はもう人間を襲ったりはしないのかお」
(´・ω・`)「あ、それはないよ」
( ゚ω゚)「はぁ!?」
(´・ω・`)「だってそうでしょ。このまま放っておいたら、いつまた攻撃されるかわからない」
(;゚ω゚)「も、もう攻撃しないって約束してもかお」
(´・ω・`)「人間がそうやって約束して、ちゃんと守られたことがどれだけあると思う?」

人間の歴史は闘争の歴史。そして裏切りの歴史。
システムは合理的に考えるからこそ、徹底的に不安要素を排除する。



39: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 01:22:13.97 ID:uioT0m+a0
  
(´・ω・`)「もっとも、襲うんじゃなくて管理するって言うのが正しいのかな」
(;^ω^)「kwsk」
(´・ω・`)「うん、君たちが現実世界で生きていきたいってのはよくわかった」
(´・ω・`)「でも、野放しにしておいたら、君たちの生存確率は限りなく低くなる」
(´・ω・`)「加えて、力を蓄えて攻撃してこないとも限らないしね」

この前の核爆弾とか、もっと強力な兵器とか作られたら困るから。
そうシステムは続けた。

確かにそうだ。
誰だって、隣の奴が包丁を研いでこちらを見つめていれば脅威に感じる。
包丁を取り上げて縄で縛らないと安心はできないだろう。

(´・ω・`)「だから、君たちが現実世界で生きられるように管理させてもらう」
(´・ω・`)「息苦しく感じるかもしれないけど、仕方ないよね。危険なんだから」

それともシステムに戻ってくるかい?
あくまでフレンドリーに話しかけるシステムに、内藤は力なく首を振った。
それだけはありえない。



40: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 01:27:22.34 ID:uioT0m+a0
  
(;^ω^)「もう攻撃しない、兵器も作らないって言ってもダメだおね」
(´・ω・`)「ダメだね。少なくとも君たちのリーダーはそんなつもりないみたいだしね」

闘争を始めたミルナが何を思うのかはわからない。
だが、彼には彼なりの思いで闘争を始めたのだろう。
そしておそらく、現実世界で管理されることを受容することはありえない。

(´・ω・`)「さて、そろそろ時間かな」
( ^ω^)「お?」
(´・ω・`)「君のお仲間が来てるんだよ。君を助けにね」

VIPメンバーのことだろう。
わざわざ自分を助けに来てくれたことに、内藤は感謝した。



43: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 01:34:10.10 ID:uioT0m+a0
  
( ^ω^)「ところで、まだ聞いてないことがあったお」
(´・ω・`)「ん、何かな?」
( ^ω^)「どうして僕にわざわざあんな物を見せたんだお」

あんな物というのは、先ほどまで見ていた仮想世界だ。
ご丁寧に現実世界の人たちまで盛り込んで作られた、幸せの形。

(´・ω・`)「一つ目の理由は、修正を受け入れなかった君をテストしたくなったから」
(´・ω・`)「二つ目の理由は、君たち現実世界の人たちの意見を直接聞きたかったから」
(´・ω・`)「そして三つ目の理由は、なんとなく、かな」

前者二つの理由に対して、あまりにも合理的でない三つ目の理由。
友人の顔を借りたシステムに、内藤はハテナ顔で疑問をぶつける。

(;^ω^)「なんとなくって何だお?」
(´・ω・`)「なんとなくはなんとなくだよ。強いて言えば、これらの説明を聞いて君がどう動くか興味がある」
( ^ω^)「ボクを取り込むつもりかお」
(´・ω・`)「そんなんじゃないよ。その証拠に、君にはどう動いて欲しいかなんて伝えてないだろう」
( ^ω^)「それは確かに……」

それに、僕にも君がどう動くかわからないんだ。
だからこそ君に興味をもったのさ。
そう言って、システムは内藤に背を向けて歩き始める。



44: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 01:40:33.51 ID:uioT0m+a0
  
(´・ω・`)「じゃあ、さよならだ。出来ればまた会えればいいね」
( ^ω^)「……」

背を向けて歩くシステム。
その背に、内藤は話しかけた。

( ^ω^)「ショボン、聞きたいことがあるお」

友人の名前に、システムが足を止めて振り向く。

( ^ω^)「週刊ステップに連載してた『死のノート』、最後はどうなるんだお?」
(´・ω・`)「……犯人はヤスだったことがわかって、最後は逮捕されて終わるんだよ」

ショボンは優しく笑いかける。
内藤も同じく笑いかけて、ショボンを見送った。

そこで内藤の意識は再び暗転し――そして現実世界の空気が戻ってくる。



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