('A`)達は月に願い事をするようです

1: ◆iFirHT6FV. :2007/08/03(金) 23:39:14.28 ID:gPNUV3L5O
月は気が遠くなるくらい、遥か昔からこの星を眺めていた。
淡く、黄色い光を放ちながら、何時からか思い始めた。

『つまらない』

夜には街を照らし、朝にはその役目を終える。
月は、ただ、飽きていた。
長い長い時間を費し、画策する。

『楽しもう。あの時の様に』

誰が、最初に言ったのだろうか。
月には魔力が在る、と。

『力を授けよう』

月は笑う。
満月の夜に。
月は人を狂わせる。

『最後まで生き残った者には、願い事を一つ』

さぁ、月下で狂え、踊れ、愚人共。



3: ◆iFirHT6FV. :2007/08/03(金) 23:41:27.91 ID:gPNUV3L5O
( ^ω^)「ドクオが好きな子って誰なんだお?」

(*'A`)「禁則事項です」

(;^ω^)「みくる……。似てないし、きめぇお」

高校生に有りがちな話をしながら、ブーンとドクオは歩く。
彼等は学校を出てから、ゲームセンターへと寄り道をし、
現在は家への帰路についている。
明日から夏休みという開放感からか、夜遅くまで遊んでいた。
故に、辺りはすっかり暗くなり、街の様相は夜のソレへと変化している。

('A`)「大分、遅くまで遊んじまったなぁ」

ドクオが携帯電話で時刻を確かめると、22時23分と表示されている。

空には満天の星空と、お月様。
まぁるい、まぁるい、お月様。



6: ◆iFirHT6FV. :2007/08/03(金) 23:43:20.22 ID:gPNUV3L5O
( ^ω^)「…………」

('A`)「ん?どうした?ブーン」

全く人気の無い路地に差し掛かった時、ブーンの足は止まった。
ブーンは沈黙し、夜空を見上げた。
星を、いや、月をブーンは、じっと見つめている。
ドクオもブーンと同じ様に夜空を見上げて、素直な感情を言葉で表す。

('A`)「満月か。綺麗だな」

( ^ω^)「そうだお。だから狂ってしまうんだお」

('A`)「ブーン、何を言っているんだ?」

ドクオは満月から視線を外し、ブーンの横顔をちらりと見た。
月の光に照らし出されているブーンの表情は、笑顔だった。
だけど、何時ものブーンの笑顔とは何かが違うと、ドクオは思った。



9: ◆iFirHT6FV. :2007/08/03(金) 23:45:23.32 ID:gPNUV3L5O
「お前だったのか」

その時、背後から女性の声が聞こえた。
ドクオはその声に心臓が飛び上がり、胸が苦しくなった。
ドクオは、ブーンから声のした方向へとゆっくりと振り向く。
腿、胸、喉、そして顔と順々にドクオの目に映って行く。
そこにはドクオの想い人の姿が在った。
ブーンは、まだ満月を見つめている。

(*'A`)「クー!」

ドクオは大きな声を張り上げたが、緊張の余り変な声色になった。
緊張に照れが加算され、ドクオの顔は真赤になる。
街灯の光によって映える、腰まである長い黒髪。
端整な顔立ちに、気品の良い珈琲の様な黒い双眸。
ドクオは彼女の目が特に好きだった。
夜の暗さのせいで、よく見えないのが、酷く残念に思えた。

(*'A`)(でも、いつ見ても可愛いな……)

しかし、ドクオが好きなその目は、今はブーンに向けられている。
クーは、ドクオの隣で未だ満月を見つめているブーンへと問い掛けた。



11: ◆iFirHT6FV. :2007/08/03(金) 23:47:03.09 ID:gPNUV3L5O
川 ゚ -゚)「狂った気配を捉えて来たが、ブーンが『月極』とはな」

(;'A`)「げっ……きょ……く…?」

淡々とはしているが、何処か優しい印象を覚えるクーの声。
声の調子は、学校での彼女の物と差異は無かった。
しかし、決定的に違う部分があった。

川 ゚ -゚)「……私の声が聞こえなくなるまでに狂ったか?」

もう一度、クーはブーンに問い掛ける。
ブーンはやっと満月から視線を外して、クーへと振り向く。
そして、ブーンはゆっくりと返答する。

( ^ω^)「流石にそこまでは狂っていないお」

ドクオは何時もとは感じが違う二人に不快感を覚え、声を荒げた。
先程から繰返されている『狂う』という言葉。
ドクオ達の普段の日常では、冗談で言う時にしか使わない。
だが、今、ブーンとクーは大まじめに真剣に使っている。
決定的に違う部分に、ドクオは一種の気持ち悪さを覚えた。



13: ◆iFirHT6FV. :2007/08/03(金) 23:48:50.50 ID:gPNUV3L5O
ドクオの叫び声を無視し、ブーンとクーは沈黙しながら、じっと見つめ合っている。
ドクオの目には、二人が恋人同士の様に映り、少し腹が立った。

('A`)(え?何で、俺、こんな時に……)

夏の夜独特の温い風が吹き、三人の髪を撫でる。
次の瞬間、ブーンとクーは同時に口を開いた。

「―――さぁ、殺し合おう」

今度こそ、ドクオは本当に気持ちが悪くなった。
どうやら、二人が言うには殺し合いが始まるらしい。
ドクオはただ、笑う事ぐらいしか出来なかった。

(;'∀`)「ははっ!何だ、お前ら!?」

玉響の静寂の後、ブーンとクーは再度、同時に口を開いた。
ブーンは力強く。
クーは静かに。

( ^ω^)「僕に力を貸せお!『文月』!!」

川 ゚ -゚)「私の願いに応えてくれ。『霜月』」



15: ◆iFirHT6FV. :2007/08/03(金) 23:51:01.09 ID:gPNUV3L5O
突如、激しい風が巻き起こった。
街灯の鉄柱が揺れ、地面の砂が飛散し、景色が歪む。
堪えきれなくなったドクオは、後方へと石ころの様に転がった。
俯せの状態になったドクオは、少し目を開き、ブーンの背中を見る。
ブーンの右肩に、幅広の大剣が携えられているのが視認出来た。
長い柄に、ブーンの身長よりも長い、銀色の刀身。

('A`)(何だ、あれ?ツヴァイハンダー?かっけぇな)

( ^ω^)「クーは『霜月』だったのかお。久し振りに見たお」

川 ゚ -゚)「ブーンは『文月』か。それの使い手は何人殺したかな……」

('A`)(文月って何だっけ?霜月は同人アーティストだったか?)

興味が沸き、ドクオは風や砂塵で目が痛いのを我慢し、
目を凝らし、ブーンの先に居るクーを見遣る。
クーはだらりと左腕を下ろしている。
その先、彼女の小さな左手には黒く、細い小太刀が軽く握られている。

('A`)(クーは左利きだったのか。知らんかった)

('A`)(良いな。俺にもあんな武器出せるのかな)



17: ◆iFirHT6FV. :2007/08/03(金) 23:52:54.00 ID:gPNUV3L5O
('A`)(って、ありゃ?)

ドクオは、この状況にそぐわない思考を張り巡らせている、自分自身に驚く。
何故、絶望的なまでに意味不明なのに、こうでいられるのか?
ブーンとクーの事は一先ずシャットアウトして、理由を考える。

―――どうでも良くなったから?
違う。
むしろ、興味津津だ。

―――脳がこの状況を否定したがっているから?
これも違う。
目の前の光景は現実で、肯定している。

―――じゃあさ、○○○から?
正解。
百点満点。
花丸をくれてやる。

('A`)(あぁ、忘れてたわ。あの時から俺はそうだった)

いつの間にか、風は止んでいた。



18: ◆iFirHT6FV. :2007/08/03(金) 23:54:41.69 ID:gPNUV3L5O
( ^ω^)「朔」

棒立ちのまま一言呟くと、ブーンの姿が消えた。
いや、『消えた』という表現は正確ではない。
目にも止らぬ素早さで、彼は動いているのだ。

川 ゚ -゚)「遅い。既望」

今度はクーの姿が目視出来なくなった。
絶え間なく響く金属音と、それと同時に咲く火花。
その二つの事象だけがドクオの脳で処理され、言葉を吐かせる。

('∀`)「ずりぃよ。俺も混ざりてえよ」

ドクオは立ち上がり、ふらふらと火花に近寄る。
彼は縋る様に腕を延ばし、ブーンかクー、どちらかを掴もうとする。

('∀`)「どうやんの!?教えろよ!なぁ!!」



19: ◆iFirHT6FV. :2007/08/03(金) 23:58:13.63 ID:gPNUV3L5O
叫びながらドクオは、見えない二人を掴まえようとする。
あちこちで咲く火花だけを頼りに、闇雲に腕を延ばす。
反射神経を鍛えるゲームの様に、ドクオは二人を追う。
だが、このゲームはやたらと難易度が高い様だ。
我慢出来なくなったドクオは、本音を二人にぶつけた。

('∀`)「俺も!俺も殺し合いたい!だからお前等、止まってくれ!!」

そんなドクオの胸に、凄まじい衝撃が走った。
吹き飛ばされ、背中から地面に叩き付けられる。
今度は仰向けに倒れたドクオに、激しい痛みが襲った。

('∀`)「背中がすっげぇ痛ぇ!肋骨もイったかも分からんね!」

ははは、と笑いながらドクオは口から垂れている血を腕で拭う。
そして、再び立とうとするが、脳がそれを制止する。

('A`)「ちくしょう!!」

予想外の邪魔者に苛立つドクオ。
不貞腐れながら、大の字になり夜空を見る。

('A`)「満月。あの日と同じ満月だ」



20: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:01:10.69 ID:qojffEzcO
川 ゚ -゚)「邪魔をするな、屑が」

( ^ω^)「級友を蹴り飛ばすとは、ひでえ女だお」

川 ゚ -゚)「屑が一人ぼっちで可哀相だから、
     仕方無く友達を演じているお前には言われたくない」

( ^ω^)「フヒヒ!さもありなんだおー」

ブーンとクーは10m程距離を取り、ドクオに目もくれず話している。
想い人に屑呼ばわりされ、全てが偽りだった友情。
心が跳ね上がった。

('∀`)「そうか、そうだったのか!」

満月を見つめていたドクオの耳に入って来る、愉快な事実。
ドクオは余りにもおかし過ぎて、笑い死にしそうになる。

('∀`)「はぁっ……はぁっ……あぁ、痛ぇ……」

ドクオは満月へと手を開きながら、腕を延ばす。
そして、ひたすら願い、掴んだ。



22: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:03:39.88 ID:qojffEzcO
満月。
綺麗だ。
綺麗過ぎる。
そうだ、五歳の頃だ。
両親を殺したあの夜。
あの夜の満月と同じだ。
仮面が剥れ落ちる。
幼き頃の狂った自分が姿を現す。
右手にはナイフを持っている。
服は血塗れ。
天使の様な笑顔。

('∀`)「さぁ、俺を殺してくれ」

少年は笑顔でこくん、と頷きドクオの心臓を突き刺した。

('A`)「…………」

さようなら、正常者を演じて来た自分。
こんばんは、ありのままの狂った自分。



24: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:06:28.01 ID:qojffEzcO
('A`)「ん……ここは?」

ドクオが目を覚ますと、一面が淡い黄色の光で包まれた空間に居た。
地面も天井も壁も無い。
どっちが上で下で左で右であったか。
前後とはどちらの事を指すのだろうか。
自分は立っているのか、浮いているのか。
そんな当たり前の定義すら曖昧な場所に、ドクオは居る。

('A`)「誰かいねえのかー?」

ドクオは呼び掛けてみる。
返事は、意外な場所から来た。

『ようこそ、月の世界へ』

ドクオの脳内に声が響く。

('A`)「月。……女……か?」

『些末な事を聞くのだな。面白い』

('A`)「確かにどうでも良いな」



25: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:08:30.69 ID:qojffEzcO
『力を望むか』

('∀`)「勿論だ。殺し合いたい」

ドクオは即答した。

『では、唯、狂い、殺し合う事を約束しろ』

('∀`)「約束も何も、既に狂ってるし、殺したい」

('∀`)「何なら、今ここで、あんたを殺してやっても良い」

『君は本当に面白い。契約完了だ』

ドクオの脳内で何かが弾けた。
それと共に、全身に力が、知識が、吸収される。
ブーンとクー、二人と同等の立場になったドクオは舌打ちをした。

('A`)「ちぇっ。あいつら……こんな愉快な世界で生きていたのか」

『君で99人目。最後の契約者だ』

('A`)「あーあ、ずっりぃの」



26: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:11:17.24 ID:qojffEzcO
ドクオは声を無視し、愚痴を零しながら、月の世界から消えて行く。
爪先から上へと、風で砂が舞う様にさらさらと。

('A`)「ん?あー、100人目はあんただろ?」

『さぁ、ね』

月は、歯切れの悪い言葉を言った。
ドクオはそれでも確信している。
もう、彼の身体は、喉の辺りまで消えている。

('∀`)「いつかあんたを殺しに来てやんよ」

『待っている』

月の声色が少し高くなった。
きっと、楽しみに待っていてくれるんだろう。
ドクオは月をも殺す決心をし、完全に消えた。

『…………』

『君なら、私の願いを、叶えてくれるか』



28: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:13:50.64 ID:qojffEzcO
クーに蹴り飛ばされ、無様に倒れているドクオ。
そんな彼を一瞥もせず、ブーンとクーは嘲る。

( ^ω^)「ドクオ、カワイソス」

川 ゚ -゚)「死ななければどうでも良い。一般人を殺すのは契約違反だからな」

( ^ω^)「わろたお。クーは最高に屑だお」

川 ゚ -゚)「失敬な。屑とは私以外の全ての生き物の事だ」

ブーンは笑い、クーは無表情。
学校での彼等と、寸分違わぬやり取りである。
違う所を挙げるとすればなど、今となっては些細な事だ。

( ^ω^)「さて、おしゃべりはここまでだお」

川 ゚ -゚)「私の願いの為、お前には死んで貰う」

ブーンは上段に文月を構えた。
クーはやはりだらりと腕を下ろしている。
二人が攻撃の所作へと移ろうとした時、声が響いた。

「俺も混ぜろっつってんだろうがよ!」



30: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:16:19.19 ID:qojffEzcO
声にでは無く、全身に流れ込み、駆け巡る強烈な思想に驚く二人。
ソレから放たれている純度100%の狂気が、二人を振り向かせた。

( ^ω^)「お!?」

川 ゚ -゚)「……これは」

二人が振り向いた先には、人間であり人間ではなくなった者が立っていた。
ソイツは傷を庇う事無く、制服に付いた砂埃を手で払っている。

('A`)「こんくらいか?まだ付いてるかな?」

( ^ω^)「おー?ドクオは綺麗好きだったのかお」

川 ゚ -゚)「邪魔者が増えた。……別に良いがな」

ドクオをじっと見遣り、それぞれが思い思いに感想を述べる。
二人の視線にドクオが気付き、制服から顔を前に移した。

(*'A`)「今までシカトしてた分か?そんなに見つめられると照れるぜ」



32: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:20:19.58 ID:qojffEzcO
(*'A`)「だが、こっち見るなとは言わん。もっと見てくれ」

そう、もっともっともっともっともっとだ!!
ドクオは余りの嬉しさに狂喜する。
最高に気分を良くした彼は、左腕を天高く延ばし、叫んだ。

('∀`)「白道の軌跡を描いてやるぜ!」

一旦言葉を区切り、深呼吸。
息を吸って、吐いて、また吸って。
そしてもう一度、狼の遠吠えの様に叫ぶ。

('∀`)「―――『弥生』!!!!!」

虚空から幾多もの黄色い光の線が、緩やかなカーブを描きながら、
ドクオの掌にゆっくりと降り注ぎ、集合する。
集合した光の線はドクオの掌の上で丸く固まり、攪拌される。

('∀`)「こいつが俺の武器……」

ドクオは呟き、球状の光をぎゅっと握り締めた。
すると、光球はぐにゃりと歪み、形状を変えた。
真直ぐな棒状になり、両端を先頭に、下へとゆっくりと反り返って行く。

光が色を失った時、ドクオの武器が姿を現した。



34: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:22:53.80 ID:qojffEzcO
川 ゚ -゚)「これが『弥生』か……」

( ^ω^)「おっお、僕には扱い難そうだお」

ブーンとクーは初めて見る武器に、興味を示した。
全長2mは越えているであろう、黒色の和弓。
月の輪郭の様に優雅に曲がったフォルム。
そして弓である筈なのに弦が無い。

(*'A`)「凄くね!?凄くね!?」

ドクオは左手に握られている弥生を振り回し、子供の様にはしゃぐ。

('∀`)「フヒヒ!よぉっし!」

子供は与えられた玩具を、直ぐにでも使いたくなるものだ。

('∀`)「まずはブーン、お前からだ!」

ドクオはそう言い放つと、弓を構え、ブーンに狙いを定めた。
矢も弦も無い弓だが、彼は扱い方を知っている。
月から貰った膨大なデータは、脳にインストール済みだ。
息を整え、精神を集中させる。
弦の無い部分を、恰も在るかの様に引っ張る仕草をする。
すると、淡く黄色い光を放つ、矢が形作られて行く。



36: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:25:12.05 ID:qojffEzcO
('∀`)「矢は俺の心、その物だ―――弓張月半月」

ドクオの笑いを堪えた声と共に、矢がブーンに向け、一直線に放たれた。
淡く黄色い矢が、光の粒子の尾を引きながらブーンへと迫る。

( ^ω^)「まだまだだお」

標的まであと少しという所で、ブーンの姿が掻き消えた。
光の矢はブーンが居た所をすり抜け、コンクリートの壁に突き刺さる。
刹那、轟音と共にコンクリートの壁は、粉々に爆破された。

('A`)(見失うとは……戦闘経験不足か。ブーンはどこへ)

全神経をフルに集中させ、ブーンの気配を探る。
そしてドクオは、闇夜に怪しく光る双眸を捉えた。

('A`)(目の前!?速すぎるッ!!)

  ゚ ゚ 「幾望」



40: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:29:51.84 ID:qojffEzcO
小さな声と、文月が風を斬る音がドクオの耳に届く。
縦斬りか、横薙ぎか、または突きか、どんな動作か分からない。
ドクオは勘に頼る他無かった。
賭けに打って出、ドクオは上へと跳躍した。
ドクオの直ぐ下では文月が横に薙がれた音。
文月が空を描いた先の壁、電柱、街灯が両断され崩れ落ちる音。

('A`)(幾望ね……。実力が違い過ぎるか)

( ゚ω゚)「運が良かったのかお?それとも実力かお?」

ブーンは夜空を見上げ、睨んだ。
双眸は完全に彼岸にイってしまっている。
ブーンはドクオを見ていない。
もっと、遥か遠くを見ている。
今にも飛び掛かって来そうな、威圧感を放っている。

('A`)(んー……。パーティーはまた今度かな)

( ゚ω゚)「逃がさないお。殺すお」



41: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:32:30.47 ID:qojffEzcO
('∀`)「だが断る―――下つ弓張」

二階建の建物の屋根ぐらいまで跳躍したドクオは、
追撃しようとしたブーンに向け、真下に矢を放った。
今度のは先程の物より小振りな光の矢。
だが、その速度は格段に速く、
光の矢の数も五本、それぞれ弧を描き、トリッキーな物であった。

( ゚ω゚)「足止め?姑息だお」

不規則な動きで、ブーンへと降り注ぎ、迫る五本の矢。
ブーンは中段の構えを取り、矢を切り払おうと文月を振るう。
一本、二本、三本、四本―――。
目にも止らぬ速さで文月に斬られ、光の矢は四散していく。

( ゚ω゚)「ッ!!」

だが。
一本、たった一本だけ、ドクオの心が、ブーンの左頬を掠めた。
ブーンは少し驚き、頬に左手を当てる。
左手には、液体の、感触がした。

( ゚ω゚)(……まぐれだお)



42: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:34:25.71 ID:qojffEzcO
('∀`)「おっ!?まさに一矢報いたな!」

崩れた壁の上に着地したドクオは愉悦し、笑う。
そして後方に高く跳躍し、民家の屋根の上に立ち、ブーンとクーを見下ろし叫んだ。

('∀`)「まだまだ慣れてねぇみたいだわ!全然楽しめねぇ!!」

('∀`)「だからまたな!ブーン!そして殺したい程好きなクー!」

ドクオは屋根から屋根へと飛び移りながら、足早に去って行った。

( ^ω^)「…………」

川 ゚ -゚)「今夜はもう殺し合えんな」

先程の轟音を聞いた付近の住民が通報したのだろうか、
遠くからパトカーのサイレンの音が近付いて来る。

( ^ω^)「別の場所に移っても良いけどお」

川 ゚ -゚)「……興が、いや、狂が殺がれた」



43: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:36:46.14 ID:qojffEzcO
クーはブーンに背中を向け、歩き出した。
左手に握られている霜月が、スッと姿を消す。

( ^ω^)「クーの願い事って何だお?」

ブーンは遠くなって行くクーの背中に向かい、問い掛けた。
クーは足を止め、振り返らずに抑揚の無い声で、質問に答える。

川   )「……その世界では、私が神だ。
     神は絶対であり、それ以外は屑だ。
     屑は神に尽くし、その生涯を終える」

( ^ω^)「素敵な夢をお持ちですおー」

川   )「お前の願い事は何だ?」

今度はクーがブーンに問い掛ける。
ブーンは数秒考え込み、トモダチの真似をしてみた。

(*^ω^)「禁則事項です」

川   )「下らん」

再び歩きだし、クーの背中が夜の闇に溶け、見えなくなって行った。

(  ω )「僕の夢は……普通過ぎてつまらんお」



45: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:40:31.07 ID:qojffEzcO
ドクオは、宙を舞っている。
民家の屋根を蹴り、飛ぶ。
高層ビルの外壁を駆け、飛ぶ。
星と星の間を飛び回る。

('A`)「はぁ、殺せんかった」

思い通りに行かなかったドクオは苦い顔をしながら愚痴を零す。
夜空を飛びながら、ブーンとクーの会話を思い出した。

('A`)(あいつらはもう何人か殺してんだろうなぁ。良いなぁ)

そんな事を考えていると、遥か前方に円柱型の大きな建物が目に映った。
モリタポ市が誇る、去年完成したばかりの複合施設、VIPタワーである。
高さは200mを超えていて、敷地面積も相当な広さだ。

('∀`)「あれの屋上まで届くかな?」

('∀`)「よっし、行っくぜええぇぇぇ!!!」

ビルの屋上のコンクリートを、全身全霊を込め、蹴った。
重力の鎖を断ち切り、風を味方に付け、上昇する。
ドクオは下から獲物を狙う鳥の様に、上へ、上へ、翔んだ。



46: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:43:02.79 ID:qojffEzcO
(*'A`)「きたこれ!」

ドクオはVIPタワー屋上への跳躍に成功し、歓喜の声を挙げる。
辺りを見回すと、事故防止用の柵しか無かった。
円状で、徒っ広く、障害物が無い屋上。
殺し合いには打って付けの場所だな、とドクオは思う。

('A`)「そうだ。お礼を言わんとな」

呟き、その場にゆっくりと座り、足を延ばす。

('A`)(ここは少しだけ月に近い場所だ。きっと届く)

ドクオは夜空を見上げ、満月を見つめた。
綺麗だ。
昔から変わらない。
あの日から変わっていない。
良い思い出として残っている記憶が、ドクオの口を開かせる。

('∀`)「今、俺を見てるんだろ?聞いてくれ」



50: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:45:38.94 ID:qojffEzcO
('∀`)「俺に力を与えてくれてありがとな」

('∀`)「月極。月を極めし者しか殺せんのが残念だが、それでも嬉しいぜ」

ドクオは微笑し、感謝の気持ちを満月に投げ掛ける。

('∀`)「それと話は変わるが……」

微笑は萎み、今度は満面の笑みが咲いた。
月下に狂った花が咲いた。

('∀`)「何で俺が親を殺したか知ってる?」

('∀`)「欲しい玩具を買ってくれなかったんだ」

('∀`)「ムカついてグズったけど、そん時は流石に殺意は無かったな」

でもさぁ、と聞き取れない程の小さな声で言葉を繋ぐ。

('∀`)「あの日の満月が綺麗だったんだ」

('∀`)「殺意が湧いた、狂った、殺した」

('∀`)「そんだけだ」



51: ◆iFirHT6FV. :2007/08/04(土) 00:48:45.06 ID:qojffEzcO


満月が無粋な雲によって隠される。
時間を経て、ゆっくりと雲が流れて行く。
そして、再び満月が姿を現した時には、ドクオの姿は無かった。

月は謂う。

『勿論、知っている』

『私が仕組んだ事だから』

月は笑う。

満月の夜に。

月は人を狂わせる。



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 00:51:02.42 ID:qojffEzcO
第一月話

『月下狂人』



終わり



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