('A`)達は月に願い事をするようです

2: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 22:32:57.77 ID:yHSYnGmOO
髪の毛を引っ張られる。
雑草を引き抜くような、強い力で引っ張られる。
私は、素直に拒絶の言葉を口にする。

痛い。
やめてくれ。
痛いから、やめてくれ。

私の髪の毛を引っ張っているソイツは、笑いながら言った。
ソイツの周りに居る奴等も、皆同様に笑っている。

『それが人に物を頼む態度ぉ?』

『ねぇ、こいつマジウザイからー。やっちゃおっか』

その言葉を皮切りに、私は集団に取り囲まれた。
沢山の手が、私の制服を掴む。
そして、シャツが、スカートが脱がされて行く。
必死の抵抗も空しく、私は全裸に剥かれた。

教室の片隅へ、私はゴミ屑の様に、捨てられた。
教室に居る人間達は、ニヤニヤと私を見ていた。



3: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 22:34:28.58 ID:yHSYnGmOO
川 ゚ -゚)「…………」

高層ビルの屋上で、クーは沈黙しながら立っている。
半袖の白いYシャツに黒いネクタイ、黒いロング丈のスカート。
端整な顔立ちに、スマートな体付きの彼女には、とても似合っていた。
但し、身体や服は赤く染まっているが。
屋上に吹き付ける風が、クーの長い黒髪を揺らす。

川 ゚ -゚)「今回の屑は弱かったな」

呟き、左手に軽く握られている霜月を、横へと振った。
霜月にこびりついていた血が、地面へと飛散する。
クーはその血の元の持ち主へと、目を遣った。
そこには、人間など居なかった。
そう、居なかったのだ。
正確に言うと、人間の形をしていたモノが、有る。
そのモノに向け、クーは汚い物を見る様な目をしながら、言う。

川 ゚ -゚)「まるでゴミ屑だな」



4: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 22:35:58.24 ID:yHSYnGmOO
クーの視線の先、そこには―――。
地面に広がる血溜まりの上に、細切れにされた肉片と、
バラバラに裁断された骨片があった。
顔だけが残っていて、クーを見つめている。
全て元通りに繋ぎ合わせたら、再び甦るか?
そんな馬鹿な事を考え、クーは心の中で呆れた。

川 ゚ -゚)「私は馬鹿か。そんな事、時間が掛かり過ぎるだろう」

馬鹿な考えの答えを導き出した、クーは再び沈黙した。
そして、脳に録画された映像を巻き戻し、再生する。
目の前の、ゴミ屑との殺し合いの映像だ。

名前は弟者。
金髪で、長身で、細身で、顔も良い。
ホストクラブの店員の様な格好であった。
得物は銀色の光沢を放つ銃、『水無月』
水無月は無限に、光弾を放つ事が出来る、扱い易い武器だ。
しかし、クーは水無月所持の月極を相手にする事が得意であった。

川 ゚ -゚)「一瞬で、懐に踏み込めば、終わる」



5: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 22:37:20.00 ID:yHSYnGmOO
クーは弟者との殺し合いを、何度も再生する。
殺し合いという名の、あの『いじめ』を。

**********

(´<_` )『何としてでも願いを叶えて貰う!!寝待月!!』

弟者の右手に握られた水無月から、連射される光弾。
高速で迫る光弾を、いとも容易く躱しながら、
弟者の眼前に辿り着いたクー。

(´<_` )『!?』

川 ゚ -゚)『屑は屑らしくなれ。暁』

**********

川  - )「ここから。ここからが楽しくて……」

再生を停止し、ほんの少しだけクーの心が踊る。
数回、呼吸を繰返してから、もう一度再生した。



7: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 22:38:57.30 ID:yHSYnGmOO
まずは、霜月で左手首を両断。
驚いた弟者が、右手に握られている水無月を、私に向けた。
だから、今度は右手首を両断。

ほら、武器を持てなくなったな。

次は左足首。
その次は右足首。

すまん、立てなくなったか。

前のめりに倒れた弟者。
俯せになりながら、悲鳴を上げている。
あまりに煩かったので、私は―――もっと悲鳴を聴きたくなった。

弟者の背中を、霜月の刃先でスーッと裂く。
何度も、何度も、何度も裂く。
その度に聞こえる悲鳴。

凄く気持ち良いぞ。
だが、もう背中の皮膚は、切傷で一杯だな。

なら次はだな……。
この屑を、仰向けにさせてだな……。



8: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 22:40:18.81 ID:yHSYnGmOO
足だ。
その為に、足首を両断したんだ。

しゃがみ込み、右指を猫の手にして、弟者の右足首へと添えた。
そして霜月を、振り降ろす。
野菜のみじん切りの様に、順々に移動して行く。
足首から脛、脛から膝、膝から腿へと。

今日の料理は焼肉か?

右足が終わったら、次は左足。
また、悲鳴が聞こえる。

こんな時、月極の治癒能力向上って便利だな。
ふう、左足の輪切りも完成。
しかし、霜月を振り降ろすのも疲れたな。
よし、次の料理は串料理にしよう。
私は串かつとか大好物だ。



10: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 22:41:43.85 ID:yHSYnGmOO
立ち上がり、弟者の周りを歩く。
霜月を引きずりながら、どの部位が良いか、見定める。

腕かな。
足は動いていないのに、腕が動いているのはおかしい。
む、足はもう無いんだったな。

霜月をアイスピックの様に、持ち替える。
そして弟者の右腕目掛けて、突き刺した。
ズシュ。

良い感触だ、もう一度刺したい。
もう一度、もう一度。

右腕に刺せる場所が無くなってしまった。
次は左腕。
ズシュ。

こっちも良い感触だ。
ん?同じ身体なのだから当たり前か。

ズシュ、ズシュ、ズシュ―――。
左腕も刺せる場所が無くなった。

むう……、使えなくなった部位は廃棄だな。だから、両腕はもう要らん。

霜月で両腕を切断した。



11: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 22:43:41.57 ID:yHSYnGmOO
次に何をしようかと、考えていると、微かな声が耳に聞こえた。

( <_  )『……すまん、兄者。あんたの病気、治せん様だ』

( <_  )『俺、兄者の為なら、なんだってして来たんだぜ』

何だと?
悲鳴や命乞いでは無くて。
この屑。
私の嫌いな言葉を。
私の嫌いな感情を。
人の為に願い事だと。兄者とは名前からして兄の事か?
気分が悪い。
さっきまで、あんなに気持ちが良かったのに。
友達、兄、両親。
誰も、私を、助けてくれない。

ああああああああああああ!!!!!
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね―――。



12: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 22:45:03.50 ID:yHSYnGmOO
川 ゚ -゚)「…………」

この先からはノイズが酷くなり、再生不能になる。
気が付けば弟者の身体は、ゴミ屑の様にバラバラになっていた。

川 ゚ -゚)「人の為に願い事だと?ふざけるな」

クーは少し声を強くし、霜月をぎゅっと握る。
そして、一つだけ料理し忘れていた弟者の顔へと、放り投げた。
霜月が弟者の顔に突き刺さり、ボールの様に転がって行く。

川 ゚ -゚)「取りに行くの面倒だな」

やれやれと呟きながら、クーは霜月を拾いに行った。
クーの今日の日常生活は、ここまで。
夜が明けて、非日常生活が始まる。

川 ゚ -゚)「私には神なんて居ない。だから私が神になる」



13: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 22:46:54.24 ID:yHSYnGmOO
クーは、とても素直な性格の少女だ。
思った事を素直に言葉にし、態度にも表す。
とても、分かりやすい少女なのだ。
本来ならば、周りから好かれるタイプの性格だろう。

しかし、些か度が過ぎている様だ。
それ故、周りから反感を買い、同級生にいじめられて来た。
保護すべき両親からも、疎まれている。

川 ゚ -゚)「ん……今何時だ」

三畳程の狭い部屋で寝ていたクーは、目を覚ました。
側に置いてある小さな置き時計を見て、時間を確かめる。

川 ゚ -゚)「十二時……。また叱られる……」

乱雑に置かれている衣類を手に取り、寝間着から私服へと着替える。
そして、木造の引き戸を開け、廊下へと出た。
足音を立てない様に、ゆっくりと玄関へと歩く。



14: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 22:49:01.61 ID:yHSYnGmOO
そろりそろりと歩く、玄関まで後少し。
靴を履こうとした時、後ろから怒鳴り声がした。

「あんた!何時まで寝てるの!!」

クーの体は凍り付き、ゆっくりと顔を後ろに向けた。
そこにはクーの母親が立っていた。

川 ゚ -゚)「お母さん……ごめんなさい」

謝るクーに、怒りの表情で近付いてくる母親。
クーは、ただその場で固まっていた。
母親はクーの目の前まで来て、いきなり彼女の頬に平手打ちをした。
そして、再び怒鳴る。

「シャキンは朝早くから働きに行ってるのに、あんたって娘は!!」

シャキンとはクーの兄で、一流の大学を卒業し、一流の会社勤めている。
人当たりも良くて、明朗快活な性格の兄。
その為か、両親からは凄く可愛いがられている。

川メ゚ -゚)「ごめんなさい……ごめんなさい……」



17: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 22:51:02.21 ID:yHSYnGmOO
ひたすら謝り続けるクーに対し、母親の説教は一層酷くなって行く。
クーはただ謝り、堪え忍んでいた。

「まったく!部屋まで使わせてあげてるのに!」

部屋とはあの物置の事だろうか。
クーは暗い表情を浮かべ俯いた。

「ちょっと!聞いてるの!?」

突然、母親に前髪を思い切り引っ張られた。
クーは少し驚くも、再び謝り始める。

川メ - )「ごめんなさい、聞いてませんでした……」

その言葉に母親は激怒し、今度はクーの鼻を握り拳で殴った。
手で鼻を押さえると、指の隙間から血が漏れ出した。
そして、母親は髪の毛を掴んでいた手を放し、
両手でクーをゴミ屑の様に突き飛ばす。
クーは背中を玄関の扉へと、叩き付けられた。



19: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 22:52:43.98 ID:yHSYnGmOO
「あんたの鼻血、私の服に付いてないでしょうね!?」

川メ - )「はい、お母さん。ごめんなさい」

「もう、あんたの顔なんか見たく無いわ!!」

クーは毎日のやり取りで、その言葉の意味を知っていた。
『私が寝る時間まで、どこかに行って来い』という意味である。

川メ - )「はい、行って来ます」

クーは母親に背中を向け、玄関の扉を開けた。
夏の暑い陽射が、クーの体に突き刺さる。
玄関の扉を閉めようとした時、微かに聞こえた母親の声。

「あんな娘、生まなければ良かったわ……」

川メ - )「ごめんなさい、ごめんなさい」

もう母親の姿は見えないのにも関わらず、謝るクー。
謝らなければ、もっと酷い事をされる。
既に、癖になっていた。



20: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 22:55:07.68 ID:yHSYnGmOO
暑い陽射が照り付ける中、クーは門扉を開き外に出た。
牢獄からやっと脱出が出来たのだ。
頬の腫れや、鼻血は既に治っている。
月極の恩恵、自然治癒能力の向上に感謝した。
あてもなく道を歩くクーは、違和感にとらわれた。

川 ゚ -゚)(靴を履き忘れた)

川 ゚ -゚)(……よくある事だし、良いか)

アスファルトの熱さが直に伝わって来る。
それでも、クーは歩き続ける。
その様子を道行く人々が奇異の目で見るか、
と言われればそんな事は無い。
近隣の人々は、クーが置かれている境遇を知っているのだ。
それでも、誰も助けてくれない。
神なんて、どこにも居ない。



23: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 22:56:57.99 ID:yHSYnGmOO
川 ゚ -゚)(あそこに行くか)

人目を避ける様に、路地裏を通ってわざわざ遠回りをし、
目的地へとクーは歩みを進める。
足の裏は熱さと擦り傷で、酷い物となって行く。

川 ゚ -゚)「!?」

クーは陽炎が揺れる前方に、少女の集団を捉えた。
中学生の頃、クーを執拗にいじめていたグループだ。
咄嗟に電柱の影へと隠れた。
電柱の影と言っても夏場は熱い。
堪えながら、クーはグループが通り過ぎるのを待つ。
近付いて来るに連れ、心臓の鼓動が速くなる。

川 ゚ -゚)(早く行ってくれ)

クーがそう願っていると、楽しそうな笑い声が聞こえた。
電柱の影からチラリとグループを見る。
皆、流行りのファションをしていて、楽しそうにはしゃいでいる。それに対し、クーは安物の服を着て、この有様だ。

川  - )(足が……全てが……痛い……)



24: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 22:59:08.31 ID:yHSYnGmOO
グループが通り過ぎた事を確認すると、クーは再び歩き出した。
数十分後、目的地の入口に着いた。
既に足の裏の皮膚はずる剥け、血が出ている。
月極の自然治癒が追い付かない程、傷付いていた。

川 ゚ -゚)(さて、行くか)

クーの眼前には鬱蒼と草木が生い茂った山。
入口とは言い難い、木と木の間へと入って行く。
延々と続く坂道を登って行く。
草や枯れ枝が足の裏の痛みを加算させて行くが、
熱く無いだけマシだ、とクーは思う。
太陽の光があまり届かない山道を、ただ、ひたすら登り続ける。
そして一時間程経った時、少し開けた場所に着いた。

川 ゚ -゚)(いつも思うが、ちょっとした登山だな)

クーの眼前には木造のベンチと、古びた小屋が建っていた。
昔、誰かが住んでいたのだろうか。



25: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 23:01:46.53 ID:yHSYnGmOO
ベンチへとクーはよろよろと歩きながら向かう。
そして、クーはベンチへと腰掛けた。
街中とは違う、心地良い風が、クーを優しく撫でる。
心が安らいで行くのを、クーは感じた。

川 ゚ -゚)(…………)

この場所は小学生の頃、唯一出来た友達に教えて貰った秘密基地だ。
小学生にはここまでの道は、大冒険であった。
しかし、唯一出来た友達と歩いたのが嬉しくて、疲れなど無かった。
その友達の名前は……何だったか。
壮絶な記憶の中に埋もれてしまって、思い出せない。
ただ、その友達がよく言っていた言葉は思い出せる。

『ここは、かみさまがすんでいたところなんだ』

川 ゚ -゚)「神様か……」

青く透き通った空を見上げ、クーは呟く。
ほんの一筋の幸せを握っている時、クーは気配を感じ取った。



26: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 23:03:52.25 ID:yHSYnGmOO
川 ゚ -゚)「太陽が登っている間から、殺し合うつもりか?」

クーはベンチから腰を上げ、霜月を出す。
そしてガサリ、と葉を散らした音と共に、気配が大きくなる。

川 ゚ -゚)(速い……残像しか捉えきれん)

川 ゚ -゚)「……きた」

クーが霜月を縦に振るう。
すると、金属音が木霊した。

「あれれー?強いんだねー?」

川 ゚ -゚)「お前もな」

霜月の鍔に一本のナイフ。
そして、もう一本のナイフの刃先は喉元ギリギリだ。
クーが右手で、相手が延ばした手首を掴んでいる。



27: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 23:06:35.99 ID:yHSYnGmOO
从'ー'从「殺し合いとか、そんなのどうでも良いよぉー」

从'ー'从「私は渡辺。キミとお友達になりたいなぁー」

川 ゚ -゚)「……なら武器をどけろ」

从'ー'从「分かったよぉー」

渡辺はそう言うと、一瞬で10m程後ろへと飛び退いた。

川 ゚ -゚)(何だ、こいつは)

クーは、渡辺と名乗った少女をじっと見る。
恐らく、高校生ぐらいだ。
外ハネセミロングの黒い髪はボサボサで、目は黄色い。
月とはまた違う黄色さ、カラーコンタクトだろうか。
昼間なのに、ヨレヨレの薄いピンク色のパジャマを着ている。
しかも、夏なのに長袖だ。
しかもしかも、緑色の大きなショルダーバッグを肩から下げている。

今は曲芸師の様に、くるくると二本のナイフを回転させ、遊んでいる。
渡辺を見れば見る程、頭がおかしくなりそうになる。

川 ゚ -゚)(む、私も頭がおかしいのだったな)



29: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 23:11:18.59 ID:yHSYnGmOO
当然の事すら、忘れてしまいそうなくらい渡辺はおかしい。
クーが、そんな事を考えていると、突然渡辺の叫び声が響いた。

从;'ー'从「刃を掴んじゃったぁー!痛いよぉー!」

渡辺は慌てふためき、あちこち走り回っている。
そして、今度は何も無い所で躓き、倒れた。

从;ー;从「ふえぇーん!痛いよぉー」

川 ゚ -゚)「…………」

クーは考える事をやめた。
『渡辺は理解不能である』クーはそう定義した。
霜月の姿を消し、渡辺へと近寄る。
そして、話掛けた。

川 ゚ -゚)「私の名前はクー。お前は馬鹿か」

从;ー;从「馬鹿かって……。心も痛いよぉー!」

地面に倒れたまま渡辺は、両手両足をジタバタさせる。
駄目だこいつ……早く何とかしないと……。
クーは渡辺を抱き起こし、ベンチへと連れて行った。



31: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 23:14:04.96 ID:yHSYnGmOO
川 ゚ -゚)「渡辺、一つ聞こう。今の精神状態が正常か?」

クーは隣で足をぱたぱたと、せわしなく動かせている渡辺に問いかけた。
月極は日の出と共に、正常に近い精神状態に戻る筈である。
昼間から殺し合いをしようなどとは、夢にも思わない。
にも関わらず、渡辺はクーへと襲いかかった。

从'ー'从「お友達になりたかったからー」

川 ゚ -゚)「…………」

どうやら、渡辺から正常な答えを期待する事は、不可能みたいだ。
よく見れば黄色い目は虚ろで、目の焦点も合っていない。
麻薬でもキメているのだろうか。
渡辺の呑気な声に、クーは頭痛がした。

从'ー'从「お友達になりたかったから襲ったのー」

从'ー'从「駄目?」

渡辺は足を止め、クーの顔へと覗き込みながら答えた。
虚ろな黄色い目は、空洞の様に穴が開いている、そんな感じがした。



32: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 23:16:38.43 ID:yHSYnGmOO
川 ゚ -゚)「駄目だな。友達になりたいならそんな事はしない」

クーは渡辺から目を背けながら、返答した。
これ以上、渡辺の目を見ていたら、吸い込まれそうだった。

从'ー'从「ふふ、クーちゃんは正常なんだね」

川 ゚ -゚)「正常?私は昨晩も狂っていたぞ」

静寂が訪れる。
蝉の鳴き声が聞こえる。
太陽の光が降り注ぐ。

从'ー'从「よいしょっとぉー」

渡辺はベンチから飛び上がる様に立ち、歩き出す。
そして、少し放れた所でくるりとクーへと体を向けた。
表情は、太陽の光が眩しすぎてよく見えない。

川 ゚ -゚)「渡辺」

クーが何か話掛けようとしたが、渡辺の声によってかき消された。

从 ー 从「クーちゃん!」



34: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 23:18:33.71 ID:yHSYnGmOO
凛とした渡辺の叫び声。
先程までの呑気な声とは違う。
クーはいつかどこかで見た、聞いた、覚えてた、感じてた。
懐かしいメロディーを思い出させるかの様な、声。

从 ー 从「本当の本当に狂ってた?
     クーちゃんは本当に狂ってた?
     なら、自分から望んで狂ったの?
     いつでも、クーちゃんは変えられた筈だよ。
     ちゃんと頑張った?ちゃんと努力した?
     負けないで、流されないで、逃げない様に。
     覚えてて、私はいつでも、あなた達を見てるから」

矢継早に、かつ一方的に話した渡辺は息をついた。
クーは身動きせず、ただベンチに、座っている。

从 ー 从「ふぅ、いっぱい喋るのは苦手だよぉー」



35: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 23:20:52.52 ID:yHSYnGmOO
再び呑気な調子の声に戻った渡辺、やっとの思いでクーは口を開く。
まるで、今まで魔法で口を封じられていた様な感覚だった。

川 ゚ -゚)「……渡辺、お前は、何を言いたい」

クーの声を聞いた渡辺は、背を向ける。
そして、右腕を上げ、大きく左右に振った。

从  从「ばいばーい!またねぇー!!」

渡辺は、大声で叫ぶと姿を消した。
光の中に、消える様に居なくなった。
クーはただ茫然としている。

川 ゚ -゚)「頑張る?努力?どういう事だ」

クーの頭痛は、益々酷くなった。



37: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 23:23:56.30 ID:yHSYnGmOO


今回は、負けない。
あの時は気付くのが遅過ぎた。
誰もが美味しい蜜に誘われ、狂っていた。
遅過ぎたんだ。

だけど、今回は違う。
こちらからも、仕掛けて置いた。
時間が来たら、起動するトラップを。
あなたが仕掛けたトラップと。
こちらが仕掛けたトラップと。
どちらが、勝つか勝負しよう。

どうか、狂気に囚われないで。
狂気と正気は、いつも隣合わせ。
だから、分からなくなる。

人は、すぐ側に答えがあるのに、気付かない。
すぐ側に答えがある故に、気付けない。
どうか、そんな簡単な答えに、気付いて欲しい。

人は、そんなに、愚かではない。



38: ◆iFirHT6FV. :2007/08/12(日) 23:25:25.92 ID:yHSYnGmOO
第四月話

『死面楚歌』


終わり。



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