('A`)達は月に願い事をするようです

2: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 16:39:16.93 ID:vPWFhTC2O
手は血塗れ。
服は血塗れ。
武器は血塗れ。
心も……血塗れ。
自分の姿を見て、絶望する。

「俺は……」

願い事の答えよりも、もっと側にある答え。
その答えに、最後の最後に気付いた。

『ふふふ、最高の喜劇だったわ』

『また、今度も観ようかしら』

『さぁ、願い事を叶えてあげる』

許さねぇ……。
いつか……。

「俺を、不老不死にしてくれ」

『つまらない、つまらなさ過ぎるわ……』

『もっと面白い物を期待してたのに……』

『……まぁ今回は良いわ、次に期待するから』

『あははははは!!人間なんて所詮、遊び道具よ!!!』



3: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 16:40:48.98 ID:vPWFhTC2O
クーとブーンは我が耳を疑った。
渡辺が、何百年も昔から生き続けている事。
渡辺が、月極の優勝者であった事。
クーとブーンは、シューへと滲み寄る。

川 ゚ -゚)「……どういう事だ」

(;^ω^)「あの娘は、一体」

太陽が沈み始め、空は夕焼けと夜空が交じり合っている。
まるでクーとブーンの心境を、映し出しているかの様だ。
そんな中、シューは全身を震わせながら、クーとブーンの質問に答えた。

lw;´‐ _‐ノv「おおおおおちつけ!まだ、あああ慌てるような時間じゃない!」

( ^ω^)「いや、シュー姉さんが落ち着けお」

lw*´‐ _‐ノv「てへっ」

舌を出し、シューは頭をコツンと叩いた。
本来の、シューのペース全開である。



5: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 16:42:11.43 ID:vPWFhTC2O
川 ゚ -゚)「どういう事か真面目に答えてくれ」

クーはしつこく食い下がる。
余程、渡辺の事が気になっている様子だ。
正気に戻す為に、手助けしてくれた。
そして、友達にもなってくれた。
クーは、真実を知りたかった。

lw´‐ _‐ノv「クーちゃん……あのさ」

シューは、真剣な口調でクーへと語りかける。

lw´‐ _‐ノv「真面目な時の私と、クーちゃん。似てなくなくない??」

lw;´‐ _‐ノv「まさかドッペルゲンガー!?私死ぬの?」

lw;´‐ _‐ノv「嫌だ!テレポーター!こやのなかにいる!」

一通り叫び終えると、シューは小屋の中へと颯爽と、入って行った。
クーは唯、呆然と立ち尽くしている。



6: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 16:44:03.44 ID:vPWFhTC2O
(;^ω^)「クー、気にしない方が良いお。あれが普段のシュー姉さんだお」

川 ゚ -゚)「……変わった従姉を持ってるな」

(;^ω^)「だおだお。シュー姉さんは意味不明だお」

川 ゚ -゚)「まぁ、私達も中に入ろうか」

クーとブーンは、小屋に入った。
小屋の中は埃の臭いが酷かったが、畳が敷かれており、
部屋の真中には、丸い卓袱台も置かれていた。
卓袱台の上には古めかしい電気スタンドが置かれている。
壁には古めかしい四角い窓。
昔、誰かが住んで居た生活臭が、仄かにする。
卓袱台を前にして、シューは座禅を組んでいた。
そして右手を差し出して、シューは口を開いた。

lw´‐ _‐ノv「業魔殿へヨーソロー。ささ、米は出せないが私の前に座り給え」

川 ゚ -゚)(;^ω^)「…………」



7: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 16:47:05.18 ID:vPWFhTC2O
シューの言葉を半分無視するかのように、クーとブーンは並んで座った。
ブーンは足を崩し座っており、クーは正座をしている。
四角い窓から入ってくる夕日が、三人を照らす。
数分間、静寂に包まれていた中、クーが静かな声でシューに話掛けた。

川 ゚ -゚)「……ふざけないで、渡辺の事を教えて欲しい」

その言葉にシューは真剣な表情をした。
クーに顔を向けて、先程までとは一転し、真面目な口調で語り出した。

lw´‐ _‐ノv「……渡辺さんは月に願いを叶えて貰った。
       『不老不死』という願い事。
       それからは、一睡もせずに各地を巡って生きて来た」

川 ゚ -゚)「だからあんなに目が虚ろなのか……」

( ^ω^)「でも、何の為に寝ずに各地を飛び回って来たんだお?」

次に、シューはブーンに顔を向けた。
その顔は暗く、重く、ブーンは少し寒気を覚えた。
一言、たった一言をシューは口にした。
しかし、その一言はどんな長話よりも、濃い物であった。



9: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 16:48:54.74 ID:vPWFhTC2O
lw´‐ _‐ノv「月を殺す為」

川 ゚ -゚)(;^ω^)「!?」

『月を殺す為』に渡辺は今まで生きて来た。
クーとブーンは思考を張り巡らせるが、壮大過ぎて、追付かない。
一体何が、渡辺をそんな意思へと、駆り立てているのだろうか。

lw´‐ _‐ノv「私は渡辺さんから聞いた事を話している」

lw´‐ _‐ノv「だから、私の言葉は渡辺さんの言葉として聞いて」

夕日の色が、段々と暗くなって行く。
夜が近い。
嘲り笑う月が、もうすぐ姿を見せる。

lw´‐ _‐ノv「何百年も昔、王様や貴族が闊歩していた時代。
       渡辺さんはそんな時代に、貧民層として生を受けた。
       普通の生活もまともに出来ない日々。
       その中で、月に願い事をした。
       『大金持ちになりたい』と」



11: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 16:50:15.98 ID:vPWFhTC2O
川 ゚ -゚)「ちょっと待て。願い事は『不老不死』と言って無かったか?」

(;^ω^)「そうだお。願い事は一つだけの筈だお」

シューは、二人の言葉に耳を傾けた。
何か考えているのだろうか、口は一文字に閉じられている。
オレンジ色の夕日が徐々に消え、部屋を夜の闇が占拠し始めた。
ブーンが卓袱台の上に置かれている、
電気スタンドのスイッチを押そうと手を伸ばした時、
シューの声が響いた。

lw´‐ _‐ノv「私達と同じ。答えに辿り着いた。最後の最後で、だけど」

( ^ω^)「お?『頑張って働けば良かった』とかかお?」

暗闇で、うっすらとしか見えないシューの唇。
その唇がゆっくりと動き、ブーンの言葉を否定した。

lw´‐ _‐ノv「違う」

川 ゚ -゚)「なら、どんな答えなんだ?」



12: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 16:52:19.64 ID:vPWFhTC2O
すぐ側にある答えより、もっと側にある答え。
『人間』として、生きて行く為に必要な答え。
血に染まりに染まった渡辺は、最後に気付いた。
絡み付いた狂気の根を断ち切るのが、遅過ぎた。

lw´‐ _‐ノv「人を……。人を殺してはいけない」

川  - )(  ω )「―――」

部屋を静寂が、闇が、支配する。
静寂の中に、今まで殺して来た、月極達の断末魔の声が聞こえる。
闇の中に、血を浴びて笑っている自分の姿が映し出される。
クーとブーンは、喉の奥に熱い物が、込み上がって来るのを感じた。

川  - )「……もう駄目だ。今すぐ自首しよう」

(  ω )「……そうだお。それか、自殺しても良いお」

声にならない声で、ぶつぶつと呟く、クーとブーン。
項垂れ、力無く二人が倒れ込みそうになった時、光が灯った。



13: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 16:53:41.73 ID:vPWFhTC2O
シューが、電気スタンドのスイッチを押している。
それによって、周囲の物がはっきりと見える様になった。
シューは立ち上がり、窓に向かい歩き出した。
腰の下まであるシューの黒髪が、光で煌々と映る。
窓を開け、シューは空を見上げた。
そして、独り言の様に呟いく。

lw´‐ _‐ノv「何十人もの命を奪っておいて、自分一人の命で償う」

lw´‐ _‐ノv「ま、それはそれで良いと思う」

川; - )「そ、それは」

(; ω )「また自分勝手かお?ならどうすれば良いお……」

何十人もの命と、自分一人の命。
秤にかけたらどちらが重いのだろうか。
クーとブーンは、頭を抱え嘆き苦しむ。



14: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 16:54:50.91 ID:vPWFhTC2O
二人が狼狽していると『パン』と部屋に音が響いた。
驚き、音がした方向に二人は顔を向ける。
そこには両手を合わせ、二人の方向へと向いているシューの姿。

lw´‐ _‐ノv「それは後で考えればおっけ。話はまだ途中」

川  - )「渡辺の……願い事の話か……」

シューは頷くと両手を放し、窓辺へともたれかかった。
そして、再び語り始めた。

lw´‐ _‐ノv「渡辺さんが願い事を叶えて貰おうとした時、月は言った」

『また、今度も観ようかしら』

lw´‐ _‐ノv「ってね。つまり」

シューが話を続けようとすると、ブーンの叫び声が遮った。



17: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 16:56:58.60 ID:vPWFhTC2O
(# ω )「今度とは僕達の事かお!?
       僕達を月は嘲り笑っているのかお!?」

シューは一つ頷いて、話を続ける。

lw´‐ _‐ノv「また今度開催される愚かな殺し合い。
       その為に、渡辺さんは不老不死へと願い事を変えた。
       各地を一睡もせずに巡り、やっと今回の『異変』に辿り着いた」

川;゚ -゚)「異変……とは……?」

シューは窓辺から離れ、卓袱台の前へと戻り、座禅を組んだ。
そして、顔を真っ直ぐに向け、クーとブーンを見えない目で射抜く。
見えない物が見える、シューの閉じられた目が、二人を捉える。
二人は身体の中で、何かが蠢いているかの様な感触を覚えた。
シューは大きく呼吸をして、二人の心を潰す言葉を、口にした。

lw´‐ _‐ノv「ドクオ君」

川;゚ -゚)「何?」

(;^ω^)「ドクオ?」



19: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 16:58:17.08 ID:vPWFhTC2O
クーとブーンは、思考がシューが言った言葉に、追い付けなかった。
シューが言うには、つまり『異変はドクオだ』という事である。
しかし、全く意味が分からない二人は、目を白黒とさせた。

川;゚ -゚)「全く意味が分からない……」

(;^ω^)「異変はドクオ……?」

lw´‐ _‐ノv(……ごめん。ブーン君、クーちゃん)

シューは、ブーンとクーを見遣る。
目の見えないシューに、ひしひしと伝わる二人の感情。
疑問、焦躁、不安、それら全てを受け入れ、シューは口を開いた。

lw´‐ _‐ノv「ドクオ君は生まれつき、狂気を孕んでいた」

(;^ω^)「それは月が仕掛けた事では……」

シューは首を左右に振った。
否定の証に、ブーンは息苦しくなったが、話の続きを聞こうと沈黙する。



21: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 16:59:58.98 ID:vPWFhTC2O
lw´‐ _‐ノv「ドクオ君は生まれ付き、狂気を持っている。
       自分では気付いていなかったようだけど。
       月はドクオ君の『狂気』に興味を持ち、付け込んだ。
       付け込んだと言っても、唯ドクオ君を眺めてただけだけど」

(;^ω^)「……いつ?僕達が戦った時かお?」

シューは、ブーンの疑問を聞くとその場に立ち上がった。
そして、天井を見上げながら口を開く。

lw´‐ _‐ノv「凡そ十二年前、満月の夜、ドクオ君は御両親を殺害した」

川;゚ -゚)(;^ω^)「!?」

クーとブーンは、驚きを隠せず立ち上がった。
そして、シューの側へと駆け寄る。
クーは、シューの眼前に立ち、縋る様な目を向ける。
ブーンはシューの右腕を掴み、激しく揺さぶった。



23: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 17:01:46.43 ID:vPWFhTC2O
川;゚ -゚)「生まれつきの狂気なんて……有り得ない」

(#^ω^)「嘘だお!ドクオはそんな奴じゃないお!月がさせたんだお!!」

シューは天井から顔を降ろし、ブーンとクーを見遣った。
そして、優しく二人の頭を撫でながら話掛ける。

lw´‐ _‐ノv「クーちゃん、それは有り得るよ。
       人は一人一人、心を持っている。
       優しい心だったり、嫌味な心だったり様々。
       その中に狂った心があっても、何ら不思議では無い。


川  - )「…………」

クーは、暗い表情で沈黙した。
心の形は一人一人、色々な形をしている。
心の色は一人一人、様々な彩りを持っている。
そして、心そのものは一人一人、色々な特性を持っている。
ドクオは、そんな無限にある『心』の中の一つ、『狂った心』の持ち主。



24: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 17:04:09.61 ID:vPWFhTC2O
lw´‐ _‐ノv「そしてブーン君、月が仕組んだ事じゃないよ。
       ドクオ君は無意識下の元で人を殺した。
       まぁ、私が想像するに、月という人物はとても高慢なようだ。
       きっと『自分が仕組んだ』と思い込んでいるだろう。
       ぶっ飛んだ思考の持ち主、私は知り合いに欲しく無い」

( ;ω;)「信じない、僕は信じないお!」

ブーンは泣きながら、掴んでいるシューの右腕を強く握る。
ドクオは、生まれ持っての殺人狂。
月は高慢で、そんなドクオにとり憑いた。
そして今は、殺し回っているドクオを見て嘲り笑っている。
ブーンは頭が狂いそうになり、シューの右腕を放し、座り込んだ。

そこに、再び『パン』という大きな音が響いた。
ブーンとクーは、再び驚き、音の主へと目を向ける。



26: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 17:06:14.20 ID:vPWFhTC2O
lw*´‐ _‐ノv「今日も、良い米日和だ」

そこには、先程とはまるで調子の変わったシューが居た。
手には、何処からか取り出したのか、クラッカーを持っている。
クラッカーから放たれた、小さな紙がひらひらと、地面へと落ちて行く。

lw*´‐ _‐ノv「もう、おっけでしょ?全部分かったっしょ?っしょ?」

軽いノリでクーとブーンへ、シューは問掛けた。
二人は力無い声で、シューへと返答する。

川  - )「……ドクオを完全に狂わせたのは私達だ」

(  ω )「正気になれた今なら分かるお。あの晩のドクオは変だったお」

クーとブーンの返事を聞き、シュー頷いている。
そして、再び座禅を組んで座った。



28: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 17:07:52.43 ID:vPWFhTC2O
lw*´‐ _‐ノv「渡辺さんも、何とか軌道修正しようとしたんだけどね。
        あの人は本当に人付き合いが下手。
        カウンセリングも微妙。
        美味しいご飯でも食べて出直して欲しい」

川 ゚ -゚)「軌道修正?」

クーはシューが喋った一つの単語に、疑問を覚えた。
その疑問に対して、妙なノリを崩さずシューは答える。

lw*´‐ _‐ノv「クーちゃんとドクオ君は昔、此所でよく遊んだ。
        渡辺さんは、月が仕掛けた罠のドクオ君を何とかしようとした。
        しかし、その策は失敗に終わった。
       三行きたこれ!?」

lw;´‐ _‐ノv「あっ、四行になっちゃった……」

シューは頭を抱え、卓袱台へと突っ伏した。
何やらぶつぶつと、呟いている。
そんなシューを見遣りながらクーは、昔を思い出していた。



30: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 17:09:45.25 ID:vPWFhTC2O
川 ゚ -゚)(そうか……あの時の友達はドクオだったのか……)

川 ゚ -゚)(ドクオ、渡辺すまなかった……)

クーは、深く反省をした。
あの時を、思い出しながら。
クーが目を瞑り、胸を締め付けられていると、怒鳴り声が響いた。

(#^ω^)「ムカついて来たお!月の野郎、僕達を目茶苦茶にしやがってお!!」

(#^ω^)「僕は月を叩きのめすお!自分がした責任はその後に取るお!!」

川 ゚ -゚)「そうだな。渡辺の気持ちが分かった。私も月をぶん殴りたい気分だ」

クーとブーンの声を聞いて、シューは机から顔を勢いよく起こした。
目元には涙の跡。
シューは先程の失敗で、マジ泣きしていた様だ。
シューは笑顔で、二人へと語掛ける。

lw*´‐ _‐ノv「月を倒すと言うのか、勇者達よ」

川 ゚ -゚)「うむ、流石に許せん」

(#^ω^)「フルボッコにしてやんお!!」



31: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 17:11:07.55 ID:vPWFhTC2O
クーとブーンの固い決意。
今、月という魔王を倒しに行く勇者が、誕生した。

lw´‐ _‐ノv「ふーむ、なら一つ問題がある」

川 ゚ -゚)( ^ω^)「??」

lw´‐ _‐ノv「渡辺さんによると、月は優勝者の前にしか姿を現さないそうだ」

川;゚ -゚)(;^ω^)「―――」

優勝者の前にしか姿を現さない月。
それはドクオを殺し、尚且つクーかブーン、
どちらかが死ななければいけない、という事である。
月はどこまでも姑息で、卑怯で、狡猾であった。
まさに、魔王が為せる、業。



32: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 17:12:44.67 ID:vPWFhTC2O
勇者は時として、避けられぬ選択肢に悩む。
葛藤し、抗い、そして選ぶ。
誇らしく、ただ前だけを見て。

( ^ω^)「ドクオを倒すお……そして僕が死んで、クーに生きて欲しいお」

川 ゚ -゚)「何を言う。私は人を殺し過ぎた。ブーンこそ生き残るべきだ」

(;^ω^)「僕よりクーの方が強いから、月を倒せる可能性が高いお」

川 ゚ -゚)「いや、ブーンの方が強いだろう。あの晩、手も足も出なかったぞ」

そんなクーとブーンの会話を聞き、シューは立ち上がった。
そして、鼻歌を奏でながら小屋の外へと、歩いて行く。

lw*´‐ _‐ノv「ふんふふふーふ、ふふふ、ふふふん♪」

( ^ω^)「シュー姉さん、どっかに行くのかお?」



34: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 17:13:56.13 ID:vPWFhTC2O
ブーンの問掛けに、シューは鼻歌を止め、あっさりと答える。

lw´‐ _‐ノv「いやー、運動しようかと」

( ^ω^)「運動?こんな時間にかお?」

lw´‐ _‐ノv「うん、貴方達は私の米運動をそこで見てて。
       激しい運動だから、もし私が死んだら此処に墓を立てて」

川 ゚ -゚)「どんな運動だ」

シューは再び鼻歌を奏でながら、外に出て行く。
クーとブーンは部屋の中から、その様子を見ている。
小さくなって行くシューの背中。
そしてある程度小屋から離れた所で、シューはクーとブーンの方へと向きを変えた。

lw´‐ _‐ノv(嫌。本当に嫌。でも、これしか無い)



35: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 17:16:04.16 ID:vPWFhTC2O
シューは、大きな声で叫んだ。

lw´‐ _‐ノv「渡辺さんは、貴方達が月を倒してくれるのを、確信しているらしい!」

lw´‐ _‐ノv「じゃ、あとは頼んだ!よろしく!」

シューは叫び終えると、右腕を前に伸ばした。
ブーンは、シューの真相を語る長話の中で、忘れていた。
故に、シューを計算の内に入れて無かった。
あの構えは―――。

( ゚ω゚)「シュー姉さん!!」

ブーンの叫び声を無視し、シューは口を開く。

lw´‐ _‐ノv「この愚かな連鎖を断ち切れ『神無月』」

途端、眩しい光がシューを包み込んだ。
数秒後、光が晴れて、シューの姿が視認出来る様になった。
シューの手には、大きな鎌の柄が握られていた。

lw´‐ _‐ノv「いっくぞぉ―――『満月』」

シューは、神無月を天高く、放り投げた。



36: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 17:17:41.14 ID:vPWFhTC2O
神無月は白く光を輝かせながら回転し、夜空へと上昇していく。
白く輝く神無月が、満月の様に見えた。
神無月が限界地点に達し、今度は降下し始めた。

( ゚ω゚)「まさかまさかまさか」

川;゚ -゚)「シューさんはもしかして」

( ゚ω゚)「駄目だお!!」

瞬間、ブーンの姿は消え、シューの身体を両手で押していた。
しかし、シューの身体は微動だにしない。

( ゚ω゚)「クー!神無月を!」

川;゚ -゚)「分かっている!霜月!」

霜月を手にしたクーは、目にも止まらぬ速度で神無月へと飛んだ。
霜月で神無月を斬るが、潰す所か、軌道を変える事すら出来ない。



38: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 17:19:11.03 ID:vPWFhTC2O
川;゚ -゚)「くっ!小望月!」

クーは全力を出し、神無月を連続で斬り付ける。
木々を揺らす、衝撃波。
辺りに響く、金属音。
しかし、相手は最強に属する技、満月。
回転を止めず、下降していく。
クーは、神無月の柄を掴もうとしたが、手を弾かれた。

( ゚ω゚)「ちっくしょおおおお!文月ぃぃ!!」

ブーンも、シューから両手を放し、神無月へと飛び上がる。

( ゚ω゚)「ぶっ潰せお!宵待月!!」

ブーンも全力で神無月を、叩き斬ろうとする。
力強い連続技が、神無月を襲う。
だが、神無月はビクともしない。
ただ、ただ、回転しながらシューに向かい降下して行く。



41: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 17:20:50.42 ID:vPWFhTC2O
lw´‐ _‐ノv「ほう……」

月極二人を相手にしてこれ。
もしかして私、最強?
でも、人を殺すだなんてしたくない。
ただ戦わずに、じっとしてるのも嫌。
だから、私は決めた。
渡辺さんから、話を聞いた時から決めていた。
ブーン君とクーちゃん。
どちらかは分からないけど、月を倒してくれる。

ああ、そう言えば貴方達は今、何をしているか分かる?
人を助ける為、必死に戦っているんだ。
そういう人達を、何て呼ぶか知ってる?
人々は、そういう人達を。

lw´‐ _‐ノv「勇者って呼ぶ」

シューの背中を、神無月の刃が貫いた。



43: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 17:22:20.26 ID:vPWFhTC2O
( ゚ω゚)「お……」

川  - )「くそ……」

間に合わなかった。
力が足りなかった。
ブーンとクーは、地面に着地し、呆然と立ち尽くしている。
シューの身体がゆっくりと、地面に倒れて行く。

( ;ω;)「シュー姉さん!?」

川  - )「っ!」

クーとブーンは、シューに駆け寄り、抱き起こした。
月の光に映える、白いシューの顔。
小さく口を動かし、弱々しく呼吸をしている。

川;゚ -゚)「ブーン、救急車を!!」

( ;ω;)「分かったお!」

しかし、その手をシューが払い除けた。
そして、笑顔で、消え入る様な小さな声でシューは言った。



44: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 17:23:55.07 ID:vPWFhTC2O
lw*´‐ _‐ノv「激しい運動だったでしょ?」

( ;ω;)「シュー姉さん、馬鹿な事言うなお!今救急車呼ぶからお!」

lw*´‐ _‐ノv「いらない、私は不死身。此処で米神様として生きよう」

川  - )「何故こんな……」

クーの悲愴に溢れる声に、シューは反応した。

lw*´‐ _‐ノv「貴方達を勇者にする為……。そして、月を倒させる為」

川  - )「馬鹿な……。こんな事、悲しいだけだ」

小さくなって行く、シューの声と息。
シューは最後の力を振り絞り、笑顔で口を開く。

lw*´‐ _‐ノv「そう、人が死んだら悲しい……。
        人が死んだら悲しいだけ……。
        だけど、それを『美』と捉え、笑う者がいる……」



45: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 17:25:32.32 ID:vPWFhTC2O
シューは視線を月に移す。
人の死を『美』とし、嘲り笑う者の姿があった。

lw*´‐ _‐ノv「かーなり……許せないよねー……。
        ちょっと…説教して来て……くれない?」

( ;ω;)「分かったお!だから、もう喋らないで欲しいお!」

川 ; -;)「分かった。説教どころかぶん殴ってやる」

クーとブーンは、涙を流しながらシューを抱き締めた。
シューは、震える手でブーンとクーの頭を、撫でてあげた。
そしてシューは、自分の身体を抱き締めている、
クーとブーンの姿を、じっと見つめる。

lw*´‐ _‐ノv「見つけた……ご飯の白い色って」

『幸せの色』



47: ◆iFirHT6FV. :2007/08/19(日) 17:28:13.82 ID:vPWFhTC2O
第九月話

『優者二人』


終わり。



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