ξ゚听)ξは夏服翻すようです

17: ◆uAn5dIn1Sw :07/05(木) 16:19 2FzGTel3O


第一話

泥と耳とダッフルコート




私が最期にこの目で見たのは自分から流れた『赤』に染まっていく白いラブレターだった。



……あれ?

何故私は自分の最期のことを知っているのか。

そして、ここは何処なのか。



ξ゚听)ξ「……冷たい」

私はくるぶしまで田んぼのような泥水に浸かって立っている。


私の周りには枯れ草色をした真っ直ぐに伸びる植物、
多分アシか何かの類が私の胸ぐらいの高さまで生えている。
冷たい水温は感じるが泥のあのまとわりつく感触はない。

……私は靴下と上履きを履いていた。
服装も制服のままだ。

ラブレターは?

ξ )ξ「ッ!」

ない。ポケットの中にない。



18: ◆uAn5dIn1Sw :07/05(木) 16:37 2FzGTel3O


ξ;゚听)ξ「ない!ない!どうして?」

泥で汚れることもかまわずに私は両手を泥水に突っ込んで泥の中を探る。
探れども探れども私の両の手は泥を掴むばかりだった。


私は両手がふやけるまで辺りを探り続けた。

ξ; )ξ「ない……」

もうやめよう。
諦めた途端に、私の体は力が抜けていった。
膝が折れ、泥水の上にへたれこむ。
スカートに、靴下に、下着に、泥水が染み込む。

もう泥だらけなんだ。
シャツが汚れても髪が汚れてもどうでもいい。

背中の力を抜き、泥水に浸る。
全身が泥水に浸ったら、底の浅いプールに寝そべったみたいでちょっと気持ちよかった。

……汚い泥水なのに。

寝そべって見上げた空は黄昏時の赤で、
雲は赤を薄めた橙色だった。



21: ◆uAn5dIn1Sw :07/05(木) 17:46 2FzGTel3O


体を泥にまかせながら自分の右手をあげ、
自分の右手を眺めてみる。

ふやけていて、泥だらけだ。

ふと、目を真横に向けた。

私の左には、人間の頭蓋骨のような形をした石があった。
石じゃないかもしれない。
ああ、やっぱりそうか。

上体をゆっくり起こす。背中と髪から泥水が流れ落ち、
泥水に波紋を作る。

私はきっと

死んでいるんだ。

そしてここは三途の川の途中なんだ。


ξ )ξ「は、ははは……」

乾いた笑いを浮かべて現実から目を背けることしかできない。

認められる訳がない。

自分のコツコツ積み重ねてきた人生が、
あの程度で、あんなにあっけなく終わっただなんて、
受け入れられる訳がない。



22: ◆uAn5dIn1Sw :07/05(木) 18:01 2FzGTel3O


ξ )ξ「はは、ははははは、は……」

ゆっくりと立ち上がって、歩き出す。
歩かないと、何かしていないと……

泥の上は足をとられて歩きづらい。
辺りにはただただ湿地とアシが広がっていて、
橋も無ければ建物も無い。

私の腕時計は泥水に浸かったためか、
八時二十四分で止まっている。
私の時間も止まっている。

雲が流れるだけの空は、色が変わらない。

私はこのままずっと、ここをさまよい続けるのだろうか。

泥んこの上履きを履いた足で爪先立ちして、
背伸びしてみた。


遠くに、四角い建物が見えた。

建物からは文明の光が見える。

ξ;゚听)ξ「誰かいるんだ!」



24: ◆uAn5dIn1Sw :07/06(金) 01:07 0EthyXiBO


蛍光灯の人工的な光が頼もしく思える。

でも、建物まではまだ遠い。

ξ;゚听)ξ「はぁ、はぁ」

息を切らして走っても、建物には近づけない。いや、近づいた気がしない。
なまじ見えないよりも見えながらなかなかたどり着けないほうが酷い。

少しずつ近づいてはいるのはわかる。
私は焦っている。

独りでいるのが不安で、
ここにいるのが不安で。



建物の真上にあった雲が見えなくなるほどの時間が経った。
ほんの少しずつだけど、水位が下がっている。
建物が近いんだ。



25: ◆uAn5dIn1Sw :07/06(金) 22:10 0EthyXiBO


建物の間近までたどり着いた。
転んで口に入った泥が口の中でジャリジャリする。
早くうがいがしたいな。

建物はコンクリートでできた学校のようだった。
広いグラウンドには芝生が茂っていて、体育館やプールもある。

不思議な学校だ。
辺りには湿地が広がり、道もないのに学校がある。
生徒は居るのかな?

ξ;゚听)ξ「おーい……誰かいませんか?」

返事の代わりに生暖かい夏の風が吹いた。

とりあえず校舎に入れるかな?



27: ◆uAn5dIn1Sw :07/07(土) 00:24 bTcZsnNRO


正面の玄関のガラス戸には鍵はかかっていなかった。
戸を横に滑らせて開け、校舎に入る。

玄関なので、げた箱が並んでいる。建物自体は普通の学校みたいだ。

この学校に生徒が居るなら、げた箱の中には靴があるハズだ。
他人のロッカーを開けるのは少し後ろめたいが、
開く。


ξ;゚听)ξ「……あった……」

茶色い革製のローファーが一足入っていた。
人気のない学校なのに、げた箱にはおそらく通学用の靴。
わからない。

たまたま置いていったのかも?

隣のロッカーも、そのまた隣も開けた。玄関にあるすべてのロッカーを開けた。

どのロッカーにも、通学用の靴が入っていた。


さらにわからない。
通学用の靴がロッカーにある。つまり、今生徒は学校の中に居るハズ。
なのに、窓からは蛍光灯が光るだけの空っぽな教室しか見えなかった。



28: ◆uAn5dIn1Sw :07/07(土) 00:41 bTcZsnNRO


教室に入って確かめるしかない。
流石に泥だらけの上履きで上がりこむのは気が引ける。
玄関に上履きを脱ぎ捨てて、
湿った靴下でリノリウムの廊下に足を踏み出した。


まずは一階から回ろう。
一の三 と書かれた表札のあるドアを横に滑らせた。


私の通っていた高校と同じぐらいの平凡な大きさの教室には、

机と椅子が一つ。
私の視線はその机と椅子に注がれる。
他の物が気にならない。


着席していたから。

暑苦しい真っ赤なダッフルコート。
烏の羽の色をした腰まで伸びるストレートヘア。
透き通るように白い肌。

川゚‐゚)

女の私から見ても魅力的な女性が一人、
一組だけの机と椅子に着席していた。



30: ◆uAn5dIn1Sw :07/08(日) 02:12 HzkQ1sndO


人が居て安心するのが半分、
得体の知れない女性が居て不安なのも半分。

話かけるべきだろうか?

川゚‐゚)

ξ;゚听)ξ「こ、こんにちは」

目が合った。
彼女の真っ赤な目と私の茶色い目の視線が合う。

川゚ー゚)

彼女の薄く、形のいい唇が横に広がった。

ゆっくりと広がり続けた。

ξ; )ξ「ひっ……」

背中に冷たい汗が流れた。
彼女の唇は裂けながら広がり続ける。

耳元まで唇が裂けた。



人間じゃない。



ξ )ξ「嫌ぁぁぁぁ!」





第一話 終了。



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