ξ゚听)ξは夏服翻すようです

32: ◆uAn5dIn1Sw :07/08(日) 23:11 HzkQ1sndO


第二話 紺色と白骨と腐乱死体



私は自分の目が信じられなかった。

見たところ私と同年代の女性の唇がまるで都市伝説の
『口裂け女』
のように裂けたことを。


頭を整理しよう。
さっき私は『口裂け女』を見て、恐怖と積み重なった不安にマインドがパンクした。

そして今、私は消毒液臭い保健室のベッドに横たわっている。
一体誰が運んでくれたのだろう。
微かな期待を抱いて窓から空を見た。

やはり赤かった。


……それにしても手足がすーすーする。
胴体にも違和感。
でもどこかで触れた感触……

私はおそるおそる掛かっている布団をめくった。

ξ;゚听)ξ「!?」





紺色のスクール水着を着用していた。



33: ◆uAn5dIn1Sw :07/08(日) 23:53 HzkQ1sndO


川゚‐゚)「キミにはスク水が似合うな。私の見込みどうりだ」

ξ )ξ「ーーッ!」

保健室の先生の座る回転椅子に腰掛けるは『口裂け女』

布団をはねのけ、ベッドから飛び降りて身構える。
食われたくは……ない!

ξ;゚听)ξ「く、来るな!化け物!」

ベッドの枕を思いっきり掴み、投げつけた。

川 ‐([ ]「がっ、いたっ!」

距離にして五メートル、外れはしなかった。
『口裂け女』の顔面に枕が直撃して、
そのまま椅子ごと床に倒れた。


今のうちに逃げだそう。
何故かしっかり洗って干してあった私の制服のシャツ、スカート、靴下を掴んで保健室を抜け出した。

追ってこないでよ……



35: ◆uAn5dIn1Sw :07/09(月) 21:11 oqWj5Z+DO


後頭部を強打して悶えている口裂け女を一瞥。
チャンスだ。

急いで女子トイレに駆け込み、個室に閉じこもった。

ξ;゚听)ξ「ハア……ハア……」

とりあえず掴んでいる制服を身に付けよう。
生乾きだがスクール水着の上だ。関係ない。

個室の中で一人考える。
どうすれば逃げ切れるか。


トイレのドアが開く音がした。

カツカツとトイレのタイル張りの床を叩いて歩く音、
口裂け女のハイヒールの音だ。

……一番奥の個室のドアは開けないで……

私は息を殺して通り過ぎるのを待つしかなかった。



36: ◆uAn5dIn1Sw :07/09(月) 21:34 oqWj5Z+DO


『新入りは見つかったか?』

『残念だがまだだよ。ドクロ、じゃなかったドクオ。キミは玄関で待ち伏せたまえ』

『へいへい、口裂け女のクーさん』

新手の化け物がいる!
声しか聞こえないが、男のようだ。
私を追い詰める鬼は二人に増えたわけか。

いや、もっといるのかもしれない。


四面楚歌だ……

あの日を思い出す。
生まれつきの茶色い髪を馬鹿にされ、
のけものにされた幼い日のことを。

孤立して、尖っていた私に優しい声を掛けてくれたのは、ブーンだけだった。

ξ ;;)ξ『なんでみんなわたしのことキライなの?かみのけがちゃいろいのはヤなの?』

( ^ω^)『ぼくはツンちゃんのかみのいろなんかきにしないお!チョコレートみたいでおいしそうだお』


もう私はブーンのいる世界、透き通る青空の元には帰れない。

それが悲しくて

想いを伝えられなかったのが悔しくて

どうしようもなく寂しくて

私の感情を押し込めるプールはいっぱいになって


プールの底は抜けて、涙と嗚咽となって流れだした。



37: ◆uAn5dIn1Sw :07/10(火) 00:19 61kuvogRO


必死で嗚咽をかみ殺す。
居場所がバレるから。
それでも、溜め込んだ感情は流れだし続ける。

ξ ;;)ξ「うっぐ……ひっく……ブーン……」

足音が止まった。
ああ、もう私はおしまいなんだ。

それでもいいや。
もう怖くなくなる。
諦めればすべて楽になる。

個室のドアがゆっくりと開いた。


川゚‐゚)「すまない。怖がらせてしまったようだな」

ξ )ξ「好きにしてください。もう私は抵抗しません。早く楽にしてください」

川゚‐゚)「何を言っている。私は人を喰ったりはしない」

嘘だ。嘘っぱちだ。
優しい顔して詰め寄って一気にパクつくに違いない。
くどいことしないで既に終わっている私の人生を完全に終わらせてほしい。

川゚‐゚)「それに私は泥だらけだったキミの服を洗って干しておまけに下着まで変えてあげたのだがな」

ξ;゚听)ξ「へ?」

喰うんじゃ……ないの?

川゚‐゚)「まだ私を人を喰う怖い化け物だと思っているのか?
私は極めて善良な口裂け女のクーだ」

善良……な?

口裂け女?



38: ◆uAn5dIn1Sw :07/10(火) 00:43 61kuvogRO


ξ;゚听)ξ「え……?」

川゚‐゚)「まあ細かいことはさっきの保健室で話そう。ついてきたまえ、L高二年生のツンさんとやら」

何故私の名前を知っているの?

何もわからないままに、
私は保健室に連れて行かれた。


川゚‐゚)「それではまず、この学校について説明しよう」

回転椅子に座ったクーさんは続ける。
警戒は解かない。

川゚‐゚)「ここは、『現世』に未練のある高校生の集まる、『あの世』の学校だ」

つまりは……

ξ゚听)ξ「死後の世界ってことですか?」

川゚‐゚)「ザッツライト。キミはこれからここで現世への未練を断ち切り、成仏して生まれ変わらなければならない」

ξ;゚听)ξ「じゃあ私は」

川 ‐ )「未練を捨てるための時間を過ごすための学校なんだよ。ここは」

頭の中がこんがらがってきた。

私は……ブーンのことを諦めなくちゃいけないの?
頭を抱えたら、乾いた泥がパラパラと落ちてきた。

川゚‐゚)「まだ髪が泥だらけだったな。シャワーを浴びながらゆっくり考えるといい。
シャワー室はプールの横だ」

ξ )ξ「……はい」

おぼつかない足取りで、私はシャワー室に向かった。



39: ◆uAn5dIn1Sw :07/10(火) 23:09 61kuvogRO


シャワー室までの道のりに、何ら問題はなかった。

服を脱ぎ捨て、シャワーの蛇口をひねった。
真っ赤な血液が流れたりすることはなく、
温かいシャワーの水流が私を包んだ。


髪は泥でじゃりじゃりする。
両手両足の爪にも泥が詰まっているのを洗い流した。

未発達な胸を見つめて想うのはもう逢えない幼なじみのこと。

ξ ;;)ξ「なんで……なんで私ばっかり……」

ブーンを諦め、忘れるなんて私にはできっこない。

あのクーさんはどうなのか。
あの人もまた、私のように想いが捨て切れなくて、
ここに残っているのではないのか?

そう思いたい。
でなければあの人は自分のことを棚に上げて私にブーンを捨てさせようとしていることになる。

そんなことはなく、
ただ先輩としての忠告かもしれない。

それでも、私のワガママであっても、
ブーンには気持ちを伝えたい。

……私はどうすればいいの?

頭を抱えてうずくまっても何も変わらない。

シャワーの降らす土砂降りの湯の雨に、ずっと私は身を打たれていた。



43: ◆uAn5dIn1Sw :07/11(水) 20:45 rU4VFzmIO


ブーンと遊んだ日々はとても満たされていた。
あいつはゲームが上手くて、
得意だって言っていたゾンビを銃で打ち倒すゲームでは見事なプレイを見せてくれた。

今じゃ私が銃のない主人公だ。
化け物に囲まれて不安と悲観の中で気休めのシャワーを浴びている。

助けてよ……

ゲームみたいに化け物の頭を撃ち抜いてみせてよ……


ガラッ
   _  
  ( ゚∀゚)
⊂ 腐 ⊃
  | つ|
  し⌒J
チンチィン ドオオオオオン


「シャワー最高!!!!!11」


ξ )ξ ゚ ゚

メンタマ プオオオオン

はだかの ゾンビが あらわれた



46: ◆uAn5dIn1Sw :07/11(水) 23:37 rU4VFzmIO


ξ; )ξ「あ……あ……」

シャワー室のドアを開けたのはところどころ体の腐った『ゾンビ』

ゲームにそのまま登場しそうなゾンビだった。

(;゚∀゚)「お……おお……?」

ξ )ξ「い……嫌……」

(;゚∀゚)「おっぱい……足りねえ……」

ξ )ξ「嫌あああああああ!」

全裸の腐乱死体に追い詰められた私は叫ぶしかなかった。



('A`)「どうした?ジョルジュ?なんかあったか?」

浅はかだった。
悲鳴に反応して、今度は学ランを着た骸骨が現れた。

もう理解できない。
したくない。

したくないしたくないしたくないしたくないしたくない嫌嫌嫌嫌嫌嫌




シャワーの音が次第に遠くなり
タイル張りの天井が霞んで見えた。



第二話 終了



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