ξ゚听)ξは夏服翻すようです

101: ◆uAn5dIn1Sw :07/22(日) 00:15 le3dz7L1O


第七話 先輩と回廊とクー



('A`)「先輩達は俺達にいろいろと教えてくれた。俺達がもう死んでいることとかをな」

部屋にはプラスチックを燃やした時特有の臭いが充満した。

('A`)「俺とクーはほぼ同期にここに来た。クーのほうが少しばかり先だったよ」

待機画面の青がカーテンを締め切った室内を明るくする。暗く、青く。

('A`)「先輩達もまた、未練を残して死んだ連中だった。みんなで必死になって成仏する方法を探してた」

淡々と話す彼はまるで遠い昔を回想するようだった。

('A`)「でも、先輩達は少しずつ、みんな成仏した。残ったのは、俺とクーと俺よりちょっと後に来たジョルジュだけになった」



102: ◆uAn5dIn1Sw :07/22(日) 00:34 le3dz7L1O


('A`)「お前さんが来るまで、けっこうな間があった。

地獄だったよ」

ξ;゚听)ξ「地獄………」

('A`)「刺激がない。きっかけがない。だから誰も成仏できない。色んなことを何度も試した。

でもダメだった」

『俺達は停滞の無限回廊をさまよっていたんだ』とドクオさんは呟いた。

誰も成仏できない地獄。ずっとこの限られた世界に存在し続ける地獄だ。

('A`)「お前さんはいいきっかけになってくれた。ジョルジュは成仏できて幸せだったさ」

ジョルジュさんのことでまだ喉につっかえていることがある。
クーさんだ。

ξ )ξ「クーさんは……どんな人なんですか?知りたいです」

('A`)「……唐突だな。
まあ、言いたいことはわかるよ。あいつが青鬼なのかってんだろ?」

ξ; )ξ「な……なんで……」

何故見透かされているの?



103: ◆uAn5dIn1Sw :07/22(日) 21:08 le3dz7L1O


('A`)「だってあいつさ。表情少なくてわからんかもしれないけどよ、優しいんだぜ?あいつは気付けてないけどな」

ξ )ξ「そう……ですよね……」

あやふやだった仮説に確証ができた。
ドクオを信じれば、クーさんは青鬼だ。
自らを悪役としてまで、ジョルジュさんを楽にしたんだ。

本当のクーさんは卒倒した私を介抱してくれたほうで、私に襲いかかったのは演技だったのかも。
……都合の良い考え方かな。
でも、信じたい。

ξ゚听)ξ「私、クーさんを楽にしたい。クーさんは……クーさんは……」

('A`)「落ち着けよ。クーは多分屋上だ。
……頼んだ」


ξ゚听)ξ「はい!」

私は屋上に続く階段を駆け上る。二段飛ばして、力強く。

強気な私、頑張って。



104: ◆uAn5dIn1Sw :07/22(日) 21:26 le3dz7L1O


クーさんは強い女性だ。
友達に最後に嫌われて刺される覚悟なんて私にはできない。
青鬼が幸せになったっていいじゃない。

勝手な推測だけど、クーさんは生前から青鬼のように生きてきたのだと思う。
自分を犠牲にして。
今後はクーさんが赤鬼になるべきなんだ。

屋上と校舎を隔てる錆び付いた蝶番の扉を開いて、屋上に飛び出した。
赤い空が広がっている。


生暖かい風が彼女の長い黒髪をなびかせる。
体育座りで屋上の真ん中に縮こまるクーさんは、とても小さく見えた。



108: ◆uAn5dIn1Sw :07/23(月) 22:32 si+OKuE9O


ξ゚听)ξ「クーさん」

ゆっくりと近づき、背中に声をかけた。

川 ‐ )「近づかないほうがいいぞ?また君を襲いたくなったら、私は君を骨の芯までしゃぶり尽くすだろうからな」

クーさんは顔をダッフルコートの袖に埋めたままに答えた。
ここで引いちゃ駄目だ。

ξ;゚听)ξ「嘘っぱちです!本当は、本当は」

川 ‐ )「腐りかけの奴や、骨だけの野郎よりは美味しそうだな」

言いたい言葉を遮るのはやめて!

ξ;゚听)ξ「本当はジョルジュさんのための芝居だったんでしょ?」



112: ◆uAn5dIn1Sw :07/24(火) 16:47 hhlpZKDPO


川 ‐ )「ジョルジュなんて嫌いだよ。さっきは痛かったしコートに穴空いたしな」

ξ;゚听)ξ「見え透いた嘘はやめてください!」

川 ‐ )「………」

彼女は黙って立ち上がると、屋上の端までゆっくりと歩き、
屋上の落下防止のフェンスに腕を組んで両肘をついた。

川゚ー゚)「バレバレだったか」

横で同じように肘をついている私にニヤリとしている。

ああ、よかった。
信じて間違いはなかった。

しばらく口を真一文字に閉じ、どこまでも続く泥の海を眺めていたクーさんがふと、呟いた。

川 ‐ )「怖い思いをさせてしまって悪かった」

バツの悪そうな顔をして視線をそらすクーさん。でも

ξ゚听)ξ「気にしてませんよ。ジョルジュさんのためだったんですよね」

川゚‐゚)「そうだよ」

川 ‐ )「最後に顔を見られなかった。あの役をすると決めた以上、覚悟はできていた。

でも、やっぱり後悔している」

青鬼は、嘆いた。
私にできるのは、本当のことを告げるのみだ。

ξ )ξ「……幸せな顔をしてました。 何かを成し遂げた人の顔でした……」



113: ◆uAn5dIn1Sw :07/24(火) 17:15 hhlpZKDPO


川 ー )「そうか」

彼女は、一言そう吐くと、右手を空にかざして自分の右手を見つめた。

川 ー )「みてくれ。体が軽いんだ」

赤い空にかざした右手の平がガラスのように透け、彼女の右手が空の赤に染まった。

彼女は楽になったんだ。

自らの身を呈して得られた結果が、成果が、ジョルジュさんの結末が、
彼女を満たしたんだ。

川つ‐;)「最期は笑っていたいのにな……止まらないよ……」

儚く紅い光が彼女から飛び立っていた。光は空に溶ける。
屋上の扉が開き、黒い学ランのドクオさんが現れ、

('A`)「泣いてもいいじゃんか」

霞み、薄くなったクーさんを後ろから

抱きしめた。



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