( ゚∀゚)ジョルジュはバトンを渡すようです
- 1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:26:56.85 ID:CsoimlSv0
視界が真っ暗になったり、真っ赤になったりと安定しない。
全身は火が着いたかのように熱いのに、身体の中の内臓は氷でもブチ込まれたかのように冷たい。
痛覚は嫌なくらいに存在しているのに、指一本動かすことが出来ない。
……。
あー、なんだろう、コレ。
周りの状況を確認しようにも、首を回すことすらままならない。
明滅している視界の中、眼球が映し出すのはただ雲ひとつない空しか存在せず、ここがどこであるかすらも理解出来なかった。
いや……ちょっと磯臭いから、海かもしれない。
意識は全然はっきりとして来ないけれど、少しずつ感覚がはっきりとしてきた。
全身が、恐ろしく痛い。
- 2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:30:27.77 ID:CsoimlSv0
あーなんでこうしてるんだろう?
何があったんだろう、というか、俺ってなんだったっけ?
何も、思い出せない。
目の前の空を無秩序に、不規則に、光景が目の前に現れては消えて、現れていく。
常識で考えて空にそんな光景が浮かんでるってことはありえないだろう。
ああ、もしかしたらこれは走馬灯ってヤツなのかもしれない、死ぬ前に自らの思い出を巡るっていう、アレ。
……あれって記憶喪失状態でも適応するんだ。
しかし、面白いモノで記憶喪失状態で自らの走馬灯を見たところで、なんだかつまらない映画を見たような気分になってしまう。
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:32:18.49 ID:CsoimlSv0
と、突然大きな振動が起きた。
地震か? と一瞬思ったけれども、どうにも違った。
誰かの声が騒がしく鼓膜を叩いているから、誰かが俺のことを揺さぶっているらしい。
まぁ、その声は何を言っているか聞き取れないのだけれども。
聞き取れないのだけれども。
その声を聞いた瞬間、何か、引き金を引いたような気がした。
変わり続けていた走馬灯がピタリと一つの光景で停止する。
そして、その光景がドンドン拡大して行く。
(*;ー;)「…………!」
耳に鳴り響く声が、徐々に小さくなっていく。
意識が徐々に飛びそうになる。
それは意識がなくなる、という意味合いではなく文字通り『どこかへ』飛んで行きそうになるという意味合い。
今更、どこに行けっていうんだろうか?
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:33:22.02 ID:CsoimlSv0
声が完全に聞こえなくなってしまう前に、どうしても知っておきたかったことがあった。
俺はその声に全力で耳を傾けた。
全てがノイズのように聞こえるが、その中でもたった一言だけ聞き取ることが出来た。
(*;ー;)「ジョルジュ……!」
そっか。
それが俺の名前らしい。
( ゚∀゚)ジョルジュはバトンを渡すようです
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:34:39.79 ID:CsoimlSv0
ζ(゚ー゚*ζ「じょっ、ジョルジュ」
誰かの声で、俺は目覚めた。
目覚めたというよりは、ワープしたという感じだ。
あれほど激しかった痛みは嘘のように消え去っているし、視界もはっきりしている。
ここはどうにも教室のようだ、。
そして目の前には不安そうにこっちを見つめる一人の少女。
長めの髪、小柄な体躯と控えめな凹凸、制服を着てるから多分中学生か高校生なのだろう。
けど、まるで小学生のように童顔。
瞳は捨てられた子犬のように頼りなさ気で、弱気オーラが全身から滲み出ている。
あー、えっと、誰だろう、この人。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:35:55.49 ID:CsoimlSv0
誰だかわからない、そもそも俺は死ぬ寸前だったはずなのに。
外でぶっ倒れていたはずなのにどうしてこんなところにいるのだろう。
自分自身がはっきりとしない、何かが抜け落ちている感じ。
まぁ、抜け落ちているモノは記憶だけれど。
( ゚∀゚)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「ダメだよジョルジュ、ちゃんと授業は聞いてなくちゃ」
お前誰だ?
そう伝えようと口を動かした。
( ゚∀゚)「デレ、授業は寝て聞くもんなんだぜ?」
俺は、別の言葉を口に出していた。
すらすらと口から流れる言葉、そこまで来てようやく身体が勝手に動いていることに気が付いた。
意識もはっきりとしているし、感覚もある、。
けれどそれは自分の意思とは関係がない。
……どうなっている?
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:37:59.76 ID:CsoimlSv0
ジョルジュ。
ここに来る前に聞いた名前。
多分それが俺の名前であることには間違いない。
それは当てはめたピースのようにしっくりと来るからだ。
そして多分この身体も、俺のモノだろう。
なんと言うか、ひどく馴染んでいる。
けれど、言う事を聞かない。
……もしかして、これは俺の走馬灯の中なのではないだろうか?
それならば辻褄が合う。
それはすでに過去の出来事なのだから、俺には修正が出来ないのだ。
まぁ、走馬灯の中に飛ぶ、ってこと自体が非現実的であるが。
多分、夢みたいなものだろう。
デレ、と俺が呼んだ少女はちょっとだけ怒ったような表情をする。
全く怖くないんだけれども。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:39:26.66 ID:CsoimlSv0
- ζ(゚ー゚*ζ「そっ、そんなことないよ。ちゃんと勉強しなきゃ、大変なんだから」
( ゚∀゚)「何が大変なんだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「それはもう……ええっと、とにかく大変なんだよ……将来とか、そういうことが」
( ゚∀゚)「いや、大丈夫だよ。お前、俺が言ってるんだぜ? 大丈夫じゃないわけないだろうが」
ζ(゚ー゚*ζ「それは……そう、かもしれないけど」
おいおい、正しいこと言っているのは俺じゃなくて、お前の方じゃないか。
何で、この子は自分を貫こうとしないんだろう?
俺の言っていることは支離滅裂だ。
俺が言ってるから、なんて何の根拠もない。
それなのに彼女は俺の言っていることをあっさりと受け入れようとしていた。
俺は間違っているのだから、お前が訂正しなければいけないのに――――。
ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュが言うなら、そうなのかな」
( ゚∀゚)「そうそう」
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:41:29.99 ID:CsoimlSv0
……。
釈然としない。
過去の俺はいったい何をやっているのだろうか?
もやもやとした気持ちが胸の中に広がった。
※
しばらく記憶を眺めていて、俺のことが少しずつ分かってきた。
この女の子――デレは俺の幼馴染みらしい。
そのせいかどこに行くときも後ろからちょこちょことくっついて来る。
クラスメートからも色々とからかわれるほどだ。
けど、デレには友達が少ない。
人見知りが激しいタイプらしく、誰かと話す時はいつも俺の後ろに隠れていて
俺が常に間に入って意思疎通をしている感じだ。
別段付き合いが悪かったりするわけじゃないので、悪い印象はあまり持たれてないのが救いだけど。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:42:44.04 ID:CsoimlSv0
とりあえず俺が感じた印象は……弱いな、というモノだった。
学校の昼休み。
デレはやはり俺の傍で、テレビのCMで見る感じの雑誌を読みながらため息を付く。
ζ(゚ー゚*ζ「はぁ、何で水着ってこんな高いんだろうね」
( ゚∀゚)「明らかに布地の量と値段が反比例してるよな。
スクール水着でも着れば?」
ζ(゚ー゚*ζ「……それはちょっと、それにもう中学の時の水着なんて入らないよ」
( ゚∀゚)「嘘つけ。絶対スリーサイズ変化してねえだろ」
ζ(゚ー゚*ζ「身長は伸びてるのっ! 身長が変わっても水着は入らなくなるのッ!」
( ゚∀゚)「つまり、スリーサイズは変化してないと」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
( ゚∀゚)「……」
ζ(゚ー゚;ζ「うっ、海に行きたいな〜♪」
あっ、話逸らしやがった。
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:44:39.44 ID:CsoimlSv0
( ゚∀゚)「誰の子を?」
そして俺も壮絶なボケを返していた。
デレは顔を真っ赤に染め上げながら、しばらく口をぱくぱく開閉している。
どうにもあまりのセクハラ発言にすぐさま反応しきれないようである。
まぁ、この発言に即理解出来るのもアレだとは思うけど。
しばらく立って、ようやく喉から声を捻り出す。
ζ(゚ー゚*ζ「海、シーだよ、シー! 泳げる方の海に行って遊びたいなっ! って思ったの!」
( ゚∀゚)「海ねえ……俺、あんまり好きじゃないんだよなぁ」
ζ(゚ー゚*ζ「えっ、そうだったの? まぁ、確かにジョルジュと海って行ったことなかったけど」
( ゚∀゚)「プールは行ったけどな……だって海って砂の処理面倒だし、目開けにくいし、髪パサパサになるし。
砂の処理が面倒だし、すげえ磯臭くなるし、着替えとかいちいち場所確保するのも面倒だし……。
特に砂の処理とか面倒だからさ」
ζ(゚ー゚*ζ「砂の処理が三回言うほど嫌なんだね……」
素晴らしいほどにやさぐれ者の理屈である。
だけど、気持ちはとても分かる、というより俺の想いそのままだ。
流石は俺自身というべきなのだろうか。
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:46:13.67 ID:CsoimlSv0
デレは大きくため息をつきながら、諦めの表情と共に言う。
ζ(゚ー゚*ζ「でも行きたいなぁ」
( ゚∀゚)「嫌だ。そうだな、お前が一人でも頑張れるようになったら行ってやるよ」
ζ(゚ー゚*ζ「……いや、今も普通に頑張ってるから! 勉強とか、何でも一人でやってるから!」
その反論は、至極当然かもしれない。
けれど、多分、俺が言いたいことはそういう意味合いじゃないのだろう。
この子はこのままじゃダメだ。
もしも今、俺がいなくなったら、学校で孤立してしまう。
誰とも話すことも出来ずに、自らの意思も通せずに、常に独りになって、潰れてしまう。
それじゃあ、ダメなんだ。
俺は思う、彼女には……いや、デレには――――。
『もっと強くなってもらいたい』
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:47:24.32 ID:CsoimlSv0
想いが、重なった。
それは今の俺と、この記憶上での俺の考えていることが、ピタリと一致したのだと本能的に理解する。
ばらばらになっているジクソーパズルの角を見つけたような、感覚。
同時に、頭の中に映像や情報が一気に押し寄せてきた。
一瞬くらりとするものの、それはすぐに収まる。
これは……記憶?
俺の名前は、そうだ、ジョルジュ。
そして、デレは小さい頃からずっと一緒だったじゃないか。
いつも後ろからくっついて来て、弱気で、いつも俺が守ってあげていたような気がする。
そして俺は思っていたんだ、守りながら、もっとデレには強くなって欲しいって、思っていたんだ。
後は…………ダメだ、思い出せない。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:48:11.27 ID:CsoimlSv0
でも、少しだけ記憶を取り戻した。
それは『ジョルジュとデレの過去』の記憶。
( ゚∀゚)「なんで……忘れてたんだろう」
そう、呟いた。
呟くことが出来た。
それは、本来の記憶には、多分在りえない行動。
記憶とは違う行動を行った時点で、その過去の映像は崩壊する。
一瞬、テレビの砂嵐のように視界がぶれて、そのまま俺の視界はブラックアウトしてしまう。
そして、また意識が飛躍する。
……
…
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:49:38.09 ID:CsoimlSv0
※
( ゚∀゚)「俺を呼び出したのは、君か?
今度は外だった。
また他の記憶に飛ばされたらしい。
そこではまた俺は指一つ動かせないし、声も出すことが出来ない。
良く分からないが、まだ記憶を取り戻す必要がある、ということなのだろう。死に際に思い出して何の意味があるのかは不明だが。
(*゚ー゚) 「うん、私が呼び出したの」
( ゚∀゚)「さいですか」
(*゚ー゚)「さいなのです」
どうにも他に人がいたらしく、言葉が返ってきた。
俺は慌てて意識をそちらに向ける。
記憶は巻き戻しが効かない、可能な限り過去の情報を取りこぼすのは避けたいところだ。
考えることは、多分後でも出来るだろうから。
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:51:04.01 ID:CsoimlSv0
目の前にはまた女の子がいた。
しかし、見た目の印象としてはデレとは対極的。
ボーイッシュな短めの髪、身長は多少高めでスタイルも良い。
顔立ちは整っているもののどこか意思の強さを感じさせる。
……んで、俺は何で呼び出されているんだろうか?
周りを見れば、すぐ近くに建物がある。
どこかの裏庭のようだ。
そして、俺も彼女も制服(デレのと同じものだ)を着ているってことは、また学校か。
(*゚ー゚)「……」
女の子は涼しげな表情をしている、と言いたいところだがどこか挙動がおかしい。
こちらの様子を伺うというか、周りの様子を気にしているというか。
しばらくして、彼女は意を決したようにキッと表情を引き締めた言葉を紡いだ。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:52:34.24 ID:CsoimlSv0
(*゚ー゚)「あのさ、あなたとデレさんって付き合ってるの?」
( ゚∀゚)「……は?」
(*゚ー゚)「いや、その、だからね。ジョルジュくんとデレさんってのは恋人同士なのかなって聞いたのよ」
あー。
うん、多分こういう質問は今まで何度もされていたと思う。
俺とデレの普段の行いを見てればそう思われるのも、認めたくはないが、納得だった。
だからなのだろう。
俺の口からはとても言い慣れている言葉が勝手に走り出す。
( ゚∀゚)「違う。アイツは幼馴染みであって、それ以上でもそれ以下でもない」
(*゚ー゚)「ふーん、本当にそう言って切り返すのね」
( ゚∀゚)「……」
なんだろう、この人喧嘩売りに来たのだろうか?
とか思っていたのだが、どうにもその言葉も自らを冷静だと見せるためのフリらしい。
視線はさっきからちょろちょろ動きまくりで、その両手は空気で綾取りをするかの如く、怪しく動いている。
……本気で何なんだろう、この人。
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:54:10.64 ID:CsoimlSv0
(*゚ー゚)「えっと、それじゃあ、さ」
その言葉を合図に、彼女は感情を隠すのをやめた。
顔は真っ赤に染め上がり、両指先を胸の前で合わせている。
そんな分かりやすい感情を出されたら、流石の俺もこの先の展開を予想せざるを得ない。
(*゚ー゚)「私と――――付き合ってみない?」
( ゚∀゚)「……は?」
(*゚ー゚)「いやー、ちょっと前から気になってたのよね。でもいつもデレさんと一緒だから声かけにくかったというか。
何かさり気なく優しいところとかすごい格好良いなー、って前から思ってたり」
( ゚∀゚)「……」
(*゚ー゚)「……えっと、出来れば反応を頂きたいのですが」
(;゚∀゚)「あっ、いや、すまん、あまりに突然の出来事で意識が一瞬飛んでた」
その言葉に女の子は不満そうに眉を潜める。
これって、告白だよな……。そう自覚して自らの頬が熱くなる。
記憶が乏しいから分からないけど、多分これが初めての告白なのではないだろうか?
多分そうだ、そうに違いない。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/26(日) 10:55:17.32 ID:CsoimlSv0
胸の内からこみ上げる嬉しさ。
多分、今の俺と過去の俺はこの瞬間共感しているだろう。
その嬉しさの裏にある、重たい想いすらも。
( ゚∀゚)「あー、嬉しいし、断る理由は本当はないんだけど、やっぱり無理だわ」
恋人とか、作ってられるような立場では、生憎ない。
昔からずっと一緒にいた相棒はあまりにも弱いから、俺が一緒にいてあげなくてはならないから。
そして、彼女を俺が強くしてあげなくちゃいけないから。
それは、独善かもしれない。でも、それは約束だから。
……約束?
誰と、こんなことを約束したんだっけ?
それを思い出そうと記憶の扉を開けようとする前に、彼女が口を開いた。
(*゚ー゚)「あちゃー……やっぱりそうなのね。うん、それじゃあ仕方がないわね」
彼女は。
予想していたと言わんばかりの口ぶりでそう呟いた。
そこに残念そうな表情はない、それどころかむしろ嬉しそうに彼女は微笑んでいた。
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