( ^ω^)は18歳になったようです

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:10:58.72 ID:BUS4TnEB0
第十八話『絶望』

(#)A`)「……これだな」

師匠の手がエロ本に触れる。
ただそれだけで空気が張り詰め、ボクらは息苦しさを覚えた。

(#)A`)「作者、厚み、金額、手垢、破れ、付録……オールグリーン」

辛うじて耳に届いた師匠の呟き。
敢えて、呟いたのだろう。ボクらに全てを伝える為に。

( ;ω;)「……」

( ;∀;)「……」

自然と涙が溢れてきた。
ボクらの為に、思考を声にするという危険を冒す師匠の心遣いに心を打たれたのだ。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:13:00.10 ID:BUS4TnEB0
(#)A`)「……左斜前方3mに敵影。フォーメーションRBにシフト」

正確な察知能力と精緻な本の位置移動。
師匠の隣を通り過ぎた男性は、師匠が本を持っていた事すら気付かなかっただろう。

(#)A`)「この足音は……20代前半女性二名。進路をT-Z方面へと軌道修正」

そう呟いた後の、釣り雑誌方面への軌道修正。
直後、師匠からは死角の場所から現れたギャル系の女性二名が通り過ぎる。



4: 第十八話 :2007/09/15(土) 00:15:03.55 ID:BUS4TnEB0
(#)A`)「周辺に敵影なし」

まるでリアルタイムで店内全ての情報を知覚しているかの様に、挙動は淀みなく自然。かつ優雅。
その姿を凝視しているボクらでさえ、気を抜けば師匠が何を保持しているのかを失念してしまう。
これが、人に意識させない事を極めた者の業なのか。

(#)A`)「このまま…………否。右方より新たな……この足音……は……」

師匠の表情が強張り、その動きが止まる。
師匠の感覚が敵を捕捉した事はその呟きで理解した。
だが、何故そこまで師匠が緊張する?
なぜ、回避行動を取ろうとしない?
何故――



5: 第十八話 :2007/09/15(土) 00:17:05.77 ID:BUS4TnEB0
(;#)A`)「なん、で……」

川 ゚ -゚)「やあ、ドクオ君。買い物かい?」

姿を現した敵。
それはつい先日、ボクらが見かけた女性だった。

(;#)A`)「そ、そうだけど……あれ、クーさんその服は……」

川 ゚ -゚)「諸事情によりここでバイトを始めてな。その制服だ」

(;#)A`)「そそそそっか……」

川 ゚ -゚)「うむ」

師匠の頬を一筋の汗が伝う。
ただそれだけの反応が、彼女の危険性を如実に伝えていた。



6: 第十八話 :2007/09/15(土) 00:19:05.19 ID:BUS4TnEB0
川 ゚ -゚)「で、同じ大学同じ学科のよしみで一つお願いがある。君にしか頼めない事なんだ」

(#)A`)「……え?」

川 ゚ -゚)「だから、君にしか頼めないお願いがあるんだ」

(*#)A`)「俺にしか、頼めない……」

彼女の言葉を反芻した後、師匠が俯き口を噤んだ。
時間にして十秒程度の僅かな沈黙。



7: 第十八話 :2007/09/15(土) 00:21:17.91 ID:BUS4TnEB0
川 ゚ -゚)「無理か?」

(*'∀`)「何でもやります!」

顔を上げた師匠はとても幸せそうな表情をしていた。
ついでに腫れも引いていた。
間違いない。完全に我を失ってしまっている。
下手をすると、自分がエロ本を持っているという事すら忘れているかもしれない。

(;゚∀゚)「……これってかなりヤバいぞ」

(;^ω^)「お……」

(;゚∀゚)「間違いねぇ、師匠のあの目は……恋する目だ」

なるほど。恋をしている者だからこそ分かる思考という奴か。
恋とは程遠い生活をしているボクは蚊帳の外ですかそうですか。
なぜか分からないがイラっとした。



8: 第十八話 :2007/09/15(土) 00:23:51.81 ID:BUS4TnEB0
(;^ω^)「もし、エロ本見られたら……」

(;゚∀゚)「もし俺が見られたとしたら……間違いなく自殺物だな」

(;^ω^)「でも、師匠なら……師匠ならきっと何とかしてくれる!」

そう、師匠は所詮一般人のボクらとは違うのだ。
きっと人知の及ばぬ方法でこの状況を打……は?

(;*'A`)「やめて!かーえーしーて!」

川 ゚ -゚)「この本を買うのだろう?ならば別に問題はない」

師匠はあっさりエロ本を奪われていた。



9: 第十八話 :2007/09/15(土) 00:26:21.05 ID:BUS4TnEB0
(;*'A`)「ホントやーめーて!」

川 ゚ -゚)「何でもすると言ったのは君だ。だから、私のレジ打ち練習に付き合ってもらう」

(;*'A`)「そ、そんなの聞いてないよぉー」

川 ゚ -゚)「安心したまえ、私が全身全霊を以ってレジに通させて頂く」

何故だろう、焦っていながらも何処か嬉しそうな師匠の表情が腹立たしい。

(;゚∀゚)「分かるッ……俺には痛いほど分かるッ……」

( ^ω^)「……何がだお?」



12: 第十八話 :2007/09/15(土) 00:28:57.75 ID:BUS4TnEB0
(;゚∀゚)「確かに師匠は辱められてる。けど、好きな人と戯れる嬉しさが勝っちまってるんだ!」

(;^ω^)「戯れるって……いじめっ子といじめられっ子にしか見えないお」

(;゚∀゚)「気にするな。それに、師匠はまだ見られてはいないッ!」

(;^ω^)「ッ!」

だからか。
エロ本を奪われているにも関わらず嬉しそうに出来る余裕はそれが理由か。
だからこその、オーバーアクションか。
彼女の視線を自分へ向け、本への興味を薄れさせる。
正に一石二鳥。この状況すら師匠の想定の範囲内だったのかッ!



13: 第十八話 :2007/09/15(土) 00:31:13.38 ID:BUS4TnEB0
( ゚∀゚)「こんな時にもサプライズを忘れてないなんてさすが師匠だぜ」

( ^ω^)「まさに超一流のエンターティナーだお」

( ゚∀゚)「どさくさにまぎれておっぱい触ろうとしてるし」

( ^ω^)「正直そこは引くわ」 

ボクらはガキみたいに目を輝かせて師匠のショータイムを見つめていた。
夢の様な、現実離れした光景に完全に入り込んでいたんだ。



14: 第十八話 :2007/09/15(土) 00:34:01.67 ID:BUS4TnEB0


だけど、悪夢は気を抜いた瞬間に襲い掛かってきた。


川 ゚ -゚)「それじゃあレジに…………そういえば、これはどういった本なんだ?」

(;'A`)「あぁっ!見ないでぇー!」

師匠の顔が一気に青褪める。
だが、そんな事など気にせず彼女は開いてしまった。
エロ本を。

川 ゚ -゚)「ふむ……なるほど……」

奪い取ろうとする師匠の手を巧みに掻い潜りながらも彼女は読書を止めようとせず、それどころか……



15: 第十八話 :2007/09/15(土) 00:36:01.71 ID:BUS4TnEB0
川 ゚ -゚)「『駄目だよ……僕らは兄妹なんだよ?』『兄上を……誰にも渡したくないんだ……』」

(;゚A゚)「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

あろう事か、情感をたっぷり込めて朗読し始めたのだ。

(; ∀ )「……うわぁ」

(; ω )「……きっついお」

何という悪夢。何たる生き地獄。何たる羞恥プレイ。思わず勃起した。
見ているこちらでさえ精神が崩壊しそうになる。
傍観者である僕らでさえそうなのだ、当事者からしてみれば絶望すら生温い筈だ。
それなのに、言葉に出来ないほど辛い筈なのに、

川 ゚ -゚)「『んっ…中に、兄上のが出てる……あたたかい……』」

(;゚A゚)「お願いだからッ……後生だから……」

それでも師匠は倒れなかった。勃起しつつも。
言葉に精神を抉られ、羞恥に魂を焦がされて尚、二本の足で立っていた。



17: 第十八話 :2007/09/15(土) 00:38:06.32 ID:BUS4TnEB0
( ;ω;)「何で、立っていられるんだお……」

( ;∀;)「決まってるじゃねえか……愛の力だよ」

愛。そんな物で人はここまで耐えられるのか。
愛で人はここまで強くなれるのか。

川 ゚ -゚)「『じゃあ女の子にちんこついてたら?』」

(;゚A゚)「なめたい!ふしぎ!」

川 ゚ -゚)「『ですよねー』」

愛ってすごい!ふしぎ!



18: 第十八話 :2007/09/15(土) 00:40:08.29 ID:BUS4TnEB0


〜〜〜


どれほどの時間が経っただろう。

川 ゚ -゚)「……ふぅ」

溜息と共に彼女が本を閉じた。
それが意味するものは悪夢の終焉。

(; ω )「助かったのかお……?」

(; ∀ )「多分……な……」

(* ω )「パンツが気持ち悪いお……」

(* ∀ )「俺も……」

誰一人死ななかった幸運を神に感謝した。
ガビガビになったパンツは気持ち悪い事この上ないが、命があるだけ儲けものだろう。
ボクらは助かったのだ。もう、全ては終わったんだ……



19: 第十八話 :2007/09/15(土) 00:42:36.27 ID:BUS4TnEB0
川 ゚ -゚)「ところでドクオ君」

(;゚A゚)「ナ、ナニ……?」

そう、悪夢は……

川 ゚ -゚)「男性というものはこういうのが好きなのか?」

(;゚A゚)「……エ?」

(  ω )「……え?」

(  ∀ )「……え?」

なにも、終わってなどいなかった。
今までの行為は全て布石だったのだ。
ならば、次に放たれるのは情け容赦の無い、必殺の一撃。



20: 第十八話 :2007/09/15(土) 00:45:56.00 ID:BUS4TnEB0
川 ゚ -゚)「時期がきたら、こんな風に彼を誘惑してみようと思ってな」

(;゚A。)「……カ…レ?」

彼女の言葉が意味するのは片思いの終焉。

川*゚ -゚)「ここの店長をやっているショボンさんが、ようやく首を縦に振ってくれたんだ」

彼女の言葉は、師匠の精神を完膚なきまでに粉砕した。

( A )「…………」

もう、師匠の耳には言葉など届いていなかっただろう。

川 ゚ -゚)「もうな、昨日など嬉しくて……ドクオ君?」

やめてくれ。それ以上追い討ちをかけないでくれ。師匠のライフはもうゼロだ。



22: 第十八話 :2007/09/15(土) 00:47:58.39 ID:BUS4TnEB0
( A )「…リ…グ………コンティオ……」

そう呟いた師匠の体が小さく揺れ、そのまま、糸の切れた人形のように、前のめりに倒れた。


少しだけ、腰を浮かせて。


( ;ω;)「師匠ォ――――――!」

( ;∀;)「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

ボクらは、何も出来なかった。
見ている事しか、出来なかった。


少しだけ、腰を引いて。

第十八話『副題:女の知り合いに見られると死ぬる』糸冬



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