( ^ω^)が空を行くようです
- 3:VIP村人y :2006/11/30(木) 21:03:11.18 ID:DxktykC70
第九話 「FEEL」
突如として上空に出現した鋼鉄の舟は、
連合艦隊も、そしてブーン達二人をも大いに動揺させた。
高空の更に高空から降り注がれる砲弾の雨は、面白いように艦隊を崩していく。
一羽のスズメを相手にしていた最中に、いきなり鷹が現れたのだ。
ほとんどの艦隊はブーン達スズメよりも高空の鷹の方を危険視し、
彼らの砲台が、次々と上空へ向いていく。
現在二人に対して攻撃を繰り広げるのは、わずかな戦艦と後方の飛行機械だけ。
まあこれだけでも十分脅威なんだけれども、
今まで戦艦の海の中を孤立無援で渡ってきた二人にとって見れば、
目の前の相手など脅威であって脅威でなかった。
ブーンはその意気のままにアクセルを踏み込み、風の隙間を駆け抜けていった。
- 5:VIP村人y :2006/11/30(木) 21:06:43.65 ID:DxktykC70
ξ;゚听)ξ「……すごい」
後部座席のツンは、
連合艦隊の船を圧倒的な攻撃力で粉砕していく鉄の戦艦を見上げて呆けた顔をしている。
一方ブーンはというと、確かに上空の戦艦の勇姿にも目がいっていたが、
それよりもバックミラーに映る、
自分達の後方で連合艦隊の飛行機械を次々と撃墜していく
赤と青、二機の単座式飛行機械の動きに心を奪われていた。
(;゚ω゚)「……まるでダンスしているようだお」
赤と青の飛行機械の動きは、「飛ぶ」というより「舞う」と表したほうが正しい。
そんなことを呟きながら二機の飛行機械の動きに見惚れていると、
その更に後方から、連合艦隊のそれでない複座式の飛行機械が発光信号を送ってくるのが見えた。
- 7:VIP村人y :2006/11/30(木) 21:12:53.77 ID:DxktykC70
( ゚ω゚)「ツン!後方!発光信号だお!!」
ξ;゚听)ξ「……えっ!あ、りょ、了解!!」
ブーンの声にツンは上空から後方へと視線を移し、その発光信号を解読した。
ξ;゚听)ξ「『ついてこい』だって!」
( ゚ω゚)「把握した!」
ブーンは発光信号を送る後方の複座式飛行機械に向かい進路を変える。
複座式の飛行機械は空を垂直に駆け上がり、上空の戦艦へと向かっていった。
- 8:VIP村人y :2006/11/30(木) 21:13:47.56 ID:DxktykC70
「VIP」と思われる鋼鉄の塊は、他の戦艦と比べ明らかに異質異様なものだった。
基本構造は他の戦艦と同一。
しかし、普通の戦艦が我々の世界の空母、戦艦ように多少丸みを帯びた流線型であるのに対し、
高空に浮かぶ「風に乗る舟」は、
側面に張り巡らされた分厚い鉛色の鋼鉄板と、
そこから顔を出す無数の大口径の砲台を備え付けており、
それらが「VIP」を、戦艦ではなく空に浮かぶ要塞へと印象を変えさせていた。
その鉄の要塞の最下層、
ブーン達の位置からすると、要塞の真下部分に飛行機械の離着陸用の甲板が備え付けられており、
ブーンとツンの二人は先導する飛行機械に続いてその甲板へと降り立った。
- 9:VIP村人y :2006/11/30(木) 21:16:12.35 ID:DxktykC70
- _
( ゚∀●)「ほ〜!見事な着艦だな!」
下部甲板に着陸した二人に向かい、眼帯と眉毛が印象的な男が話しかけてきた。
無骨な眼帯とは対照的に、彼の口調や表情は柔和だ。
ブーンは前部座席から降りると、後部座席でぐったりしているツンをそこから降ろしてやる。
その間に眼帯の男は先導した複座式の飛行機械のパイロット達となにやら話を始める。
ゴーグルとヘルメットでその顔は確認できなかったが、
どこかで見た彼らのシルエットが、ブーンの目には焼きついていた。
- 14:VIP村人y :2006/11/30(木) 21:19:39.52 ID:DxktykC70
\ξ(^O^)ξ/「……ここは天国ですかそうですか」
その言葉に振り返ると、
甲板に力なく座り込んだツンの目が麻薬中毒者のそれとなっていた。
これはヤバイと瞬時に判断したブーンは、水筒の水をツンにぶちまける。
彼女はしばらく呆然として甲板にへたり込んでいたのだが、
突然正気を取り戻すと、立ち上がり、顔をくしゃくしゃにして少年の胸に飛び込んでくる。
ξ;凵G)ξ「あ――――ん!怖かったよ―――――!!」
(;^ω^)「おー、よしよしだお」
滅多に見せない「デレ」状態の幼馴染を、少年は優しく受け止めた。
しかし、そんな幼馴染の身体を受け止める少年の両足もまた、
先ほどまでの恐怖とそれから解放された安心感とでガクガクと震えていた。
- 17:VIP村人y :2006/11/30(木) 21:22:49.17 ID:DxktykC70
- _
( ゚∀●)「あー、あー、テステスパイパイ。
こちら下部甲板!こちら下部甲板!
客人の飛行機械、及び副艦長と整備長の飛行機械収容完了!
赤と青、その他の飛行機械部隊もまもなく着艦予定!どーぞー!」
しばらく互いの無事を確認しあっていた二人の視線の先では、
眼帯の男が甲板の壁に備え付けられている艦内用の通信機器のようなものに向かい何かしゃべっていた。
その言葉に、甲板の整備班らしき人々があわただしく動き始める。
赤と青、二機の飛行機械とは何者なのだろうか?
ブーンがそんなことを考えていると、眼帯の男が二人の方へと歩み寄ってきた。
_
( ゚∀●)「いやー、お疲れさん!!俺はジョルジュ長岡!よろしくな!!」
(;^ω^)「あ、どうもですお……」
突然握手を求められたブーンは、一瞬戸惑いつつ、差し出された手を握り返した。
_
( ゚∀●)「到着したばかりで悪いんだけど、まだ仕事は終わりじゃないんだなぁ、これが!
そんじゃ、付いてきてもらうよ!!」
そうまくし立てると、
ジョルジュ何某はニコニコと笑いながら上へと続く階段を上り始める。
その後姿を、ブーンとツンは慌てて追いかけた。
- 19:VIP村人y :2006/11/30(木) 21:24:48.33 ID:DxktykC70
階段をひたすら上りに上り、それから狭い通路を何度か曲がったその先に、
艦長室というプレートの張られた扉があった。
その前に眼帯をはめた男がブーン達を引き連れてやってきた。
艦長室とはとても思えない、他の部屋のものと大して変わらない粗末な扉。
彼はその前に立ち止まると、うやうやしく姿勢を正した。
_
( ゚∀●)「ういーっす!ジョルジュ長岡副整備長でありまーす!!」
「うん。入っていいよ」
中から聞こえてくる間延びした声を合図に扉を開けると、
彼らの目の前にこじんまりとした部屋の様子が広がった。
一つの鉄製のテーブルに、それを挟む様にして備え付けられた二つのソファ。
その片側に座っていた八の字眉毛の背の高い男が、ブーン達二人に対面のソファに腰掛けるように促す。
(;^ω^)「……失礼しますお」
(´・ω・`)「ん」
一声かけてそこに座るブーン。
彼に続いて、ツンもおずおずとその隣に腰掛けた。
眼帯の男、ジョルジュ何某は八の字眉毛の男の後ろに立つ。
そして、会談が始まった。
- 24:VIP村人y :2006/11/30(木) 21:28:16.15 ID:DxktykC70
(´・ω・`)「さて、ここまでよくたどり着いてくれたね」
どうやら艦長らしいその男は、テーブルの上に置かれたお茶をすすりながら言う。
(;^ω^)「それはもう……仕事ですから」
ツンはいつもの仕事口調を保ったつもりだったが、
緊張で少し声が裏返っていることを自覚した。
(;^ω^)「それで……こちらがお届けの書簡ですお」
緊張した面持ちの二人は、テーブルの上に書簡を置いた。
しかし、次に目の前に座った男から発せられた言葉に二人の表情は一変する。
(´・ω・`)「ああ、それね。君達が開けて読んでよ」
- 26:VIP村人y :2006/11/30(木) 21:30:19.45 ID:DxktykC70
(;^ω^)ξ;゚听)ξ「「……」」
その言葉に対し、二人は口をポカンと開ける。
それもそのはず、届け物の書簡の中身を閲覧するなど、
郵便を生業とする二人にとってはタブーもいいところだった。
(;^ω^)「いや……それはさすがに……」
対応に困ったブーンが、何とか言葉を発する。
しかし、そんな彼をものともせず、艦長はただ「いいから」と言うだけである。
仕方なくブーンがテーブルの書簡を手に取りチラリと目線をあげると、
その先では眼帯の男がニヤニヤと笑っていた。
その様子を不審に思いながらも、彼は書簡の封をあけ、手紙を読み始める。
やがて少年の目が、見る見る内に見開かれていく。
- 28:VIP村人y :2006/11/30(木) 21:33:42.63 ID:DxktykC70
ξ;゚听)ξ「……ねぇ、ブーン?なんて書いてあるの?」
少女は、尋常じゃない表情の幼馴染を見て心配そうにささやく。
その返答として、少年は手紙を音読する。
(;゚ω゚)「……『貴君等を、戦艦VIPの乗員として迎え入れる』」
ξ )ξ ゚ ゚ 「あぼーん!!」
手紙を読む顔を静かに上げた少年の前には、
眼球が飛び出した少女と、ニヤニヤと笑みを浮かべる長岡、
そして、なんら表情を変えることのない八の字眉毛の姿があるだけだった。
第九話 おしまい
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