('A`)ドクオと( ^ω^)ブーンが旅行をするようです

9: 知事候補(石川県) :2007/04/29(日) 23:52:40.12 ID:G/mPLpJV0
第17幕:バスに揺られて


 ふたりが乗った市バスは、高く聳え立つビル群を横目にして整然とした大通りを走る。
 首都である東京には及ばないとは思うが、流石は世界のトヨタがある県か、名古屋の中心部は思ったより車が多い。
 車の量に見合ってか、とにかく道路がきちんと整備されていた。
 なんでも、幹線道路の中には100メートル道路、とかという俗称もあるようだ。

 長距離運送のトラックや自家用車など、ありとあらゆる車が走っている。
 その中に、ふたりが乗っているバスがあった。
 さっきから、停留所に停まったり信号待ちに引っかかったりと、随分とゆっくり走っている。
 ふたりは、バスの後方の、混雑時くらいしかあまり人が寄り付かないスペースに陣取っていた。
 車内には、彼ら以外にもちらほらと乗客の姿が見られた。
 乗客の大半は、市内を網の目のように走る地下鉄に流れてしまうものなのか、バスはそれほど混雑していなかった。



10: 知事候補(石川県) :2007/04/29(日) 23:54:15.72 ID:G/mPLpJV0
( ^ω^)「おっおー、なかなか名古屋も発展しているようだお〜」

 ブーンが車窓を眺めながら、弾んだ声で正直な感想を述べている。

('A`)「へえ、この『栄』って地域が、名古屋の中でも一番賑わっていそうだな……」

( ^ω^)「どうせなら、愛地球博をやってた時期に名古屋に来たかったお〜」

('A`)「そういや、愛地球博も2年前か。確か名古屋から地下鉄に乗って、リニモってのに乗り換えるんだったな」

( ^ω^)「おっお。リニアにも乗ってみたいお」

('A`)「諦めろ。しばらくはバスに揺られなきゃならないんだ」



13: 知事候補(石川県) :2007/04/29(日) 23:55:51.63 ID:G/mPLpJV0
 しばらくはバスに揺られなきゃならない。
 バスに乗っていると、こうも遅いものなのかとよく思われる。
 実際、今まで乗っていた新幹線と比べるとバスは格段に遅い。
 鉄道と比べ、バスは延着なんて日常茶飯事だ。
 ましてや、ふたりが乗っているのは送迎バスでも高速バスでもない、ごく普通の路線バスだ。
 景色の変化に乏しい路線バスでする旅ぐらい、退屈なものはないだろう。

 ふたりは、退屈という名のバスに揺られていた。
 暫らくは、暇つぶしに道行く人々や車種を眺めていたが、すぐにそれにも飽きる。
 長い間ただ単にバスに揺られているだけでは退屈なので、ふたりは駅で買ったおつまみに手を伸ばす。



16: 知事候補(石川県) :2007/04/29(日) 23:57:41.60 ID:G/mPLpJV0
( ^ω^)「――そう言えば、僕たちはいつまでバスに乗ってなければならないのかお?」

 スルメを奥歯で噛みながら、思い出したようにブーンは尋ねる。
 ふたりはもう、かれこれ30分はバスに揺られている。
 その中でもブーンは、行き先は愚か、大体の到着時刻すらも知っていなかった。

( ^ω^)「メモはドクオが持っている筈だから、何か知っているお?」

 少なくとも、メモは2日前の夜からざっと目を通していたが、隅々までは覚えていない。

 ――もとい。
 この旅自体、ある意味では、行き先もわからないミステリーツアーだ。



18: 知事候補(石川県) :2007/04/29(日) 23:59:05.68 ID:G/mPLpJV0
('A`;)「――じつは、俺にも分からんのだよ。メモにも書いてないんだ」

(^ω^; )「えっ、書いてないのかお……」 

 信号待ちでバスが停まる。
 そのとき会話をしていたのは彼らだけだったので、急にエンジン音が遠のいて、ブーンの声が一瞬車内に響いた。
 車内が一瞬だけ、しん、と静まり返る。
 空間に、誰かが押したブザーの音が鳴り響く。

 『次 停まります 危険ですので バスが停車してから 席をお立ちください』

 合成の音声か、吹き込みか分からないほどの機械的な女性の声。
 低いエンジン音が鳴るなか、ドクオも声のトーンを落として会話を再開した。



20: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:00:34.51 ID:JIyzTJ220
('A`;)ノ□「――ウソだと思うんなら、見てみろ。ホラ、何十分くらいバスに乗っていれば良いのかはおろか、
 どこのバス停で乗り換えるのかすらも書いてないぜ」

( ^ω^)「きっと見落としているんだと思うお。よく見れば、メモの片隅ぐらいには……」

 ブーンはドクオからメモを受け取ると、ショボのメモに目を落とした。
 そのあと、彼の眉間に皺が寄るのにはそんなに時間を要さなかった。
 まさか、ありえないと言った風に、メモの裏の白紙の部分を見たり、メモを高く昇った日の光に翳したりした。
 ――しかし、『名駅バスターミナル16番のりば』の部分ぐらいしか、メモには有意義そうな情報は無い。
 暫らくして、諦めたようにブーンが顔を上げた。



22: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:01:59.39 ID:JIyzTJ220
(^ω^; )「――――本当だお。駅の16番のりばから出るバスの終点で別のバスに乗り換えて、
 その終点でまた別のバスに乗り換えて、そこから更に乗り換える。でも……」

('A`;)「――結局のところ、『どの』バスに乗れば良いのかは指定されてない」

 沈黙。
 信号が青になり、発車するバスのエンジン音がいやに響く。

('A`;)「――乗り換えのバス停で、複数の路線の組み合わせがあるようなら、難儀しそうだな」

 参ったと言う風に、頭を掻きながら呟く。



23: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:03:35.08 ID:JIyzTJ220
( ^ω^)「まあ、ひとまずは『来た』バスに乗れば良いんじゃないかお? もしも乗り換えで迷うようなら、
 そのことをショボさんはメモに書いていた筈だお」

('A`)「ま、そうとも取れるかな……」

( ^ω^)「とりあえず、僕らは終点までこのバスに乗っていれば良いんだお。乗り換えのことは、終点に着いてから
 考えればいいんだお」

('A`)「そうだな。とにかく今の俺たちには、あまりにも情報が少ないしな……」

 バス停が近づき、左にウィンカーを出す。

 すこし荒いブレーキで減速して、バスが停まった。



26: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:05:30.93 ID:JIyzTJ220
 後方にある乗車ドアは閉ざされたままで、降車ドアだけが開く。

 車内を満たすのは、低いエンジン音と、パタパタと乗客たちの足音。

 どうやら、乗客の全員がこのバス停で降りるようだ。

 バス停の名前を見ても、東海地方にあまり縁がないふたりには、ここがどこかが良く分からない。

 窓際に座っていたドクオは、外に目を遣る。

 いつの間に大通りから抜けたのか分からないが、道路は片側2車線になっている。 

 町並みはと言うと、マンションや学校に、手狭ながらも駐車場を備えたコンビニなど。

 土地の使い方や建物の高さから察するに、ここは名古屋の郊外か衛星都市のようだ。

 目線を少し上げると、家々の屋根の向こう側に少し霞んだ山の稜線が見えた。



29: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:07:12.93 ID:JIyzTJ220
('A`)「けっこう長い間バスに乗っていたんだな……。さっきまで高層ビル街だと思ってたのに……」 

( ^ω^)「まあ、それが『旅行』ってものだお。旅先のことを何から何まで知り尽くしている旅なんて、風情がないお。
 ドクオは、さっきからネガティブな考え方ばっかりだお」

('A`)「ん、そうだな……」

( ^ω^)「そうだお」

 会話がひと段落つくころには、ふたりを除く最後の乗客が運賃箱に整理券と運賃を入れ、バスの外へと消えていった。

 乗務員はミラー越しに車内をざっと見て、降りる乗客が居ないことを確かめると、右にウインカーを出した。


 ふたりだけを乗せたバスが動き出す。

 バスは、ふたりだけのために動き出す。



31: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:09:09.41 ID:JIyzTJ220


 乗客がふたり以外に居なくなってから、30分はバスに乗っていただろうか。
 結局、新たな乗客を乗せることもないまま、バスは終点に着いた。
 運賃は1500円。バスにしては高い部類だろう。
 それだけ、長い距離をバスで過ごしたということだ。

 バスは最後の乗客であったふたりを降ろすと、バス停で待っていた数人の乗客を乗せてロータリーを転回したあと、
もと来た方向へと走り去っていった。
 
('A`)( ^ω^)「…………」

 エンジン音が急速に遠ざかり、バス停にはふたりだけが残される。
 バスがカーブを曲がって見えなくなるまで、ふたりはバスを見ていた。
 そして、バス停とロ−タリーに静寂が訪れた。



34: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:11:16.38 ID:JIyzTJ220
('A`)「さて……」

( ^ω^)「ひとまず、ここが終点みたいだお」

 ふたりが周囲を見回すと、前近代的な住宅が多く見えた。住宅と言っても、マンションじゃなくて、寧ろアパートの部類だろう。
そのほかにも、小規模の商店や一戸建てなどが見られる。それほど寂れてもいないだろうが、明らかにここは郊外だ。
 だが、市の中心部からは結構離れているはずなのに、アパートが多いということは、それでも多くの人々が住んでいるものだ。
 先ほどまでは結構太い道を走っていたものの、バス停のロータリーに続く道は対面通行だ。車の往来は、お世辞にも
多くない。商業用の車より、自家用車が多く見られた。
 電線には、スズメが2羽。
 空には薄い筋雲がたなびいている。
 そして、ロータリーはと言うと、アパート群に隣接するように位置している。



36: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:12:49.98 ID:JIyzTJ220
('A`)「――バス停に時刻表が載ってないかな?」

( ^ω^)「たぶん載っているはずだお」

 旅行鞄を片手に、バス停の方へと進んでいく。

( ^ω^)「――名古屋駅行き以外に、違う行き先がもう1本あるお」

('A`)「その行き先は?」

(^ω^; )「こっちの方だけ消えかかっているお。相当需要が無い路線みたいだお……」

 ブーンは時刻表に顔を近づける。額が付いてしまいそうだ。

( ^ω^)「――えーと、『vip高原前』ってなっているお」

('A`)「vipって名前があるんだから、多分それで正解じゃないのかな? で、肝心の時刻は?」



40: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:14:48.27 ID:JIyzTJ220
( ^ω^)「ちょっと待ってくれお……」

 ワイシャツの胸ポケットから閉じたままの携帯電話を取り出すと、サブウィンドウに目を移す。
 時折携帯を見ながら、ブーンは時刻表と睨めっこした。

( ^ω^)「ええと、今日は土曜日だから……。あと1時間後、1時10分に来るみたいだお」

('A`)「ってことは、今はもう12時か……」

 空に目を遣る。
 相変わらず薄雲が棚引いているものの、雲の間からは高く昇っている太陽が見える。
 日差しが強い。
 バスの中は冷房が効いていて快適だったが、いざ外に出てみると、立っているだけで全身から汗が出てきそうだ。



43: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:16:15.35 ID:JIyzTJ220
) ´ω`( 「それにしても、お腹が空いてきたお…」

('A`;)「急に空腹そうにするんじゃない。気味悪いだろが……」

 言いつつ、ドクオは下腹部に手をやる。

('A`)「――そういや、腹が減ったな」

 バス停にはシェルターが無かったが、良い天気だし作り付けのベンチもある。
 車内でおつまみを少々食べたけれども、ふたりの腹は少々空いてきていた。

('A`)「じゃあ、駅弁でも食べるとするか?」

( ^ω^)「賛成だお」

 ふたりはベンチのぞばに旅行鞄を下ろすと、ドクオが持っていたキオスクの袋の中から弁当をお茶を取り出す。



47: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:17:46.14 ID:JIyzTJ220
('A`)「ホレ。ちょっとしたピクニック気分だな」

 ドクオは、弁当ふたつにお茶を1本をブーンに手渡す。

('A`;)「――それにしても、お前は本当に弁当をふたつも食べるのか……?」

( ^ω^)「弁当ふたつぐらい、朝飯前だおー」

('A`)「いまは昼飯時の筈なんだがな……。まあいいか」

 ふたりはそれぞれの駅弁に箸を伸ばす。
 まずは、ふたりとも味噌カツ弁当だ。
 バスの冷房の所為か弁当は少々冷えているものの、外が暑いのでこういうのも悪くない。
 濃い味付けの味噌カツと一緒に飲む静岡の緑茶が美味しかった。



49: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:19:12.63 ID:JIyzTJ220
 空に浮かぶ雲は、ゆっくりと西風に吹かれている。
 バス停の近くには公園があり、常緑樹の葉がサワサワと擦れる音が耳に涼しかった。

( ^ω^)「味噌カツ美味しいお〜」

('A`)「ん。たまには野外で食べる弁当ってのも悪くはないな」

 駅前は埃っぽい空気だったが、ここの空気は幾分澄んでいる。
 普段は食べない駅弁だけに、ふたりの箸はどんどん進んだ。

 15分もしないうちに、ふたりは味噌カツ弁当を食べ終えた。
 いま、ドクオは食後のお茶を飲んでいる。
 そして、ブーンはと言うと、ひつまぶし弁当に舌鼓を打っていた。



52: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:20:27.16 ID:JIyzTJ220
('A`)「よく食べるなぁ。晩飯大丈夫か?」

( ^ω^)「まだ12時台なんだから、幾ら食べても消化されているお!!」

('A`)「ま、それもそうか。ところで、お茶がもう無いようだが?」

( ^ω^)「む、今気づいたお。お金出すから、買ってきてくれたら嬉しいお」

('A`)「仕方ねぇな……。伊○衛門でいいか?」

( ^ω^)「熱いお茶でなければ、何でもいいお!!」

('A`)「把握した。ついでに弁当ガラも公園のクズかごに捨ててくるわ」



55: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:22:00.62 ID:JIyzTJ220
 そう言い残して、ドクオはベンチから立ち上がり、公園の方へと歩いていった。
 日本には全国どこにでも自販機があるもので、公園にも当然のように備え付けられている。  
 殆んどの自販機は赤いアレなイメージがあるが、ここの自販機は青いやつだった。
 ドクオは弁当ガラを捨てると、ブーン用のお茶と、自分用に夏限定らしいアイスコーヒーを買った。
なんでも、『地中海ブレンド』だとか。缶には、いい男のロゴマークがあった。

('A`)「買ってきたぞ、ブーン」

 左手に缶コーヒー、右手にペットボトルを持ってドクオがバス停のベンチに戻ってきた。

( ^ω^)「おっ、待ってたお。濃い味付けの食べ物には飲み物が欠かせないお」

('A`)「あとで代金150円な。忘れるんじゃないぞ」

 ベンチに腰かけ、缶コーヒーを開けながらそう付け加える。



57: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:22:45.04 ID:JIyzTJ220
(^ω^; )「旅館の貸しと合わせたら、15150円の貸しかお。ちゃんと返すお」

 言って、ペットボトルのフタを捻り開けると、ブーンは冷えたお茶を喉に滑らせた。

( ^ω^)「ぷあ〜っ。暑いときに冷たいものを飲むのは最高だお!!」

('A`)「これがキンキンに冷えたビールなら、もっと良かったんだがな……」



60: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:24:28.06 ID:JIyzTJ220
 12時40分にもなると、ふたりは食べるものも食べ、飲むものも飲んでしまっていた。
 バスが来るまでおよそ20分、ゆったりとした時間が流れる。
 日差しが強い。
 ベンチには木陰など陽光を遮るものは無く、日差しが直にふたりに降り注ぐ。

(^ω^; )「…………」

('A`;)「…………」

(^ω^; )「…………ちょっとトイレに行ってくるお」

('A`;)「…………おう」

 うだるような(実際、ふたりはうだっていたが)暑気の中、ブーンは公園のトイレに行った。



62: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:25:38.74 ID:JIyzTJ220
('A`;)「暑ちち……確か、汗拭きタオルか何かでも無かったかな?」

 ドクオは自分の鞄の中をまさぐる。

('A`)「おっ……?」

 汗拭きタオルに丁度よさそうなハンドタオルが出てきたが、それよりも目を惹くものが出てきた。

('A`)「これは……」

 手にしたのは文庫本。
 タイトルは『鉄道員』。
 まさしく、第2幕でショボの本屋で買ったものだ。



65: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:27:43.46 ID:JIyzTJ220
('A`)「ふーん、待ち時間に良いかも知れないな。実際、JRのシーンでは使う暇が無かったけど……」

 そんな事を呟き、パラパラとページを捲ってみる。
 作中でも題名が頻繁に変わるところを見ると、これは短編集のようだ。
 『鉄道員』のタイトルのとおり、表題作の『鉄道員』がトップに来ていたが、4作目までページを繰ってみると、
意外なことにバスの単語が目に飛び込んできた。

('A`)「『角筈にて』か。どんな作品なんだろうかな……っと」

 ここでリアルの作品のことを書き連ねるわけにも行かないから、内容については割愛する。
 でも、良い作品だと思うよ。うん。

 表題作とかの3作は飛ばして、まずは4作目を読みにかかる。
 ハンドタオルを首筋にかけ、ドクオは熱心に読書をしている。
 読書ってヤツは、なかなか始められないクセに、いざ始めだすと周りの世界が見えなくなるから厄介だ。



68: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:29:44.62 ID:JIyzTJ220

(^ω^; )「……まさか、公園のトイレでリアルにハッテンしているとは思わなかったお……。
 出るもの(性的じゃない意味で)も満足に出なかったお……」

 ドクオが読書に耽っているころ、用を済ませたブーンが公園のトイレから帰ってきた。
 
( ^ω^)「おっ? 読書かお?」

 背後からブーンが声を掛ける。
 それまで読書に熱中していたドクオは、急に話しかけられたので少しびっくりした。

('A`)「ああ、ブーンか。暇つぶしに、ショボさんの本屋で買った文庫本を読んでいた所だよ」

( ^ω^)「ふーん。直射日光の下での読書は目に悪いから、十分注意するんだお」

('A`)「どういう風に注意すればいいのかよくわからないが……、分かったよ」

 顔を上げていたドクオは、再び読書に戻る。 

( ^ω^)「じゃあ僕は、ショボさんのメモでも読み返しているかお……」

 ポケットから四つ折りにされたメモ用紙を取り出して、日の光の下でそれを広げる。
 相変わらず書いてある内容に変わりは無かったが、それでも時間つぶしにはなった。



71: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:31:29.42 ID:JIyzTJ220

 12時50分。
 ロータリーに、けたたましいエンジン音が聞こえてきた。
 見ると、1台のバスが、ふたりがもと来た道とは反対方向からロータリーに進入してきた。

( ^ω^)「おっ? 発車まで時間があるはずなのに、もうバスが来たお」

('A`)「ありゃ、本当だ」

 バスは、ゆっくりとロータリーを回ってふたりの許へとやって来る。車内には、乗務員の姿しか見えない。
 ふたりの前でバスは停車して、降車扉だけが開かれる。
 バスからは、誰も降りてくる気配はない。
 乗務員が運転席から立ち、バス車内の点検をする。何か乗客の忘れ物でもないか、確かめているのだろう。
 バスの一番うしろまで歩き、異常がないことを確かめると、乗務員は再び運転席に戻ってくる。
 そして、バスの側面の方向幕が回転しながら、乗車扉が開いた。



75: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:32:45.70 ID:JIyzTJ220
('A`)「ちょっと荷物を乗せておいてくれないか? 発車するまでに俺もトイレに行ってくるからさ」

( ^ω^)「任せとけお。でも、ハッテンしている人達を刺激しないように気をつけるんだお」

('A`;)「なんだか行く気が失せてきたな……」

( ><)「うー、トイレなんです!!」

 ふたりが会話をしている横で、乗務員と思しき男がバスから駆け出してきた。

( ^ω^)「今行くのが良いお。乗務員がいなけりゃ、バスも発車しないお」

('A`)「……まあ、ひとりでハッテン中のトイレに行くよりかはマシだから、行ってくるわ」

 すこし早足で、乗務員に遅れてドクオもトイレに向かった。



80: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:34:40.67 ID:JIyzTJ220


( ><)「このバスは、vip高原前ゆきなんです。まもなくドアが閉まるんです」

 乗務員のアナウンスにより、ドアが閉められる。案の定、乗客はふたりの他にはいない。

( ><)「発車するんです!!」

 バスが、大きなエンジン音を立てて発車する。
 ここに来るのに乗ってきたバスと比べると、明らかに旧式のシロモノだ。
 しかし、車内には軽く冷房が効いていて涼しい。外にいるよりかは断然快適でいられる。

('A`)「さて、これで1回目の乗り継ぎは終了したな……っと」



82: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:36:31.24 ID:JIyzTJ220
('A`)「まあ、良いじゃないか。これからは市街地を走ることも無さそうだし、信号待ちも減ることだろうよ」

( ^ω^)「なるほど、そういう考え方もアリだお」

('A`)「まあ、昼寝でもしていたら良いんじゃないか? どうせ終点で降りるんだ。寝過ごすことも無いだろうよ」

( ^ω^)「なんか、通勤帰りで疲れて、電車の中で寝るのと勝手が違わないような気がするお……」

('A`)「良いじゃないか。昼飯食ったら眠くなってきたんだ。旅行中とはいえ、景色ばかり見るのが旅行じゃないだろう?
 それに、まだ景色らしい景色も見えそうにないだろうが」
 
 たしかに、まだバスは住宅街を走っている。視界は狭く、お世辞にも車窓は良い景色だとは言えない。



90: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:39:46.16 ID:JIyzTJ220
( ^ω^)「あと2回も乗り継ぎするのかお……。少し面倒だお」

('A`)「まあ、良いじゃないか。これからは市街地を走ることも無さそうだし、信号待ちも減ることだろうよ」

( ^ω^)「なるほど、そういう考え方もアリだお」

('A`)「まあ、昼寝でもしていたら良いんじゃないか? どうせ終点で降りるんだ。寝過ごすことも無いだろうよ」

( ^ω^)「なんか、通勤帰りで疲れて、電車の中で寝るのと違わないような気がするお……」

('A`)「良いじゃないか。昼飯食ったら眠くなってきたんだ。旅行中とはいえ、景色ばかり見るのが旅行じゃないだろう?
 それに、まだ景色らしい景色も見えそうにないだろうが」
 
 たしかに、まだバスは住宅街を走っている。視界は狭く、お世辞にも車窓は良い景色だとは言えない。



93: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:41:08.95 ID:JIyzTJ220
(^ω^; )「まあ、そうだろうけど……」

('A`)「そんなもんさ。じゃあ、俺はバスの後ろで横になってくるわ」

 言い残すと、ドクオは自分の旅行鞄を持ってバスの後方へと向かう。
 どさっ、と座席に鞄を乗せると、それを枕にしてドクオは眠り始めた。
 
(#^ω^)「まったく、行儀が悪いお……(ビキビキ)」

 バス車内で座席を占領して眠りだすなんて、迷惑この上ない。
 しかし、いまは迷惑になるような乗客は乗っていなかった。

( ^ω^)「……僕もひと眠りするとするかお」

 どうやらブーンにも睡魔がやってきたようで、そのまま前の座席の背に頭を擡げて眠り始めた。



96: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:43:24.15 ID:JIyzTJ220





               (=ω=) 居眠りタイムです





102: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:46:15.18 ID:JIyzTJ220

( ><)「――終点のvip高原前なんです!!起きて下さいなんです!!」

( ´ω`)「んん、んお?」

('A`)「むむむ……?」

 乗務員が、バスの後方で完全に眠り込んでいるふたりを揺すっている。
 しかし、彼らの眠りは相当深かったようで、なかなか起きる気配を見せない。

( ><)「起きるんです!!起きるんです!!」

 乗務員は、必死になってふたりを揺り起こそうとしている。
 だが、それでもふたりは起きようとしない。
 苛立ちと焦りが、乗務員にどんどん募っていった。



106: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:48:23.66 ID:JIyzTJ220

 そのとき / 乗務員の / 意識が / 反転した

( <●><●>)「――起きないようなら、永遠の眠りに連れて行ってやってもいいんだぞ?」

 全ての者の脳髄に響くほどの、圧倒的な響きを持った声が、彼の口から発せられる。
 それは、決して聞き逃すこと能わざる声。
 たとえ、耳を塞いでいたとしても、鼓膜を破壊していたとしても、声の届く限り万人の耳に強烈に届いただろう。

('A`;) 煤i゚ω゚; )「おおおおおおおおおおっ?」

 実際ふたりは妙な恐怖感に囚われたようで、眠りから一瞬にして覚醒した。

( ><)「着きました!! vip高原前なんです!! 運賃は1000円ちょうどなんです!!」



111: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:51:00.45 ID:JIyzTJ220
('A`;)「あ、ああ、はい……」

(゚ω゚; )「いや、眠り込んでしまって、本当にすみませんでしたお……」

 ふたりは、財布からそれぞれ1000円と、始発からの整理券を提示する。

( ><)「ご乗車ありがとうございましたなんです!! またのご利用をお待ちしております!!」

 運賃を貰った乗務員は、スタコラと運転席へ戻っていく。
 呆然としたふたりを残して。

('A`;)「なんだか、よく眠れたはずなのに、悪い目覚めだったような気がするな……」



114: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:52:54.83 ID:JIyzTJ220
(^ω^; )「僕もそう思うお……」

 ふたりは鞄を持ち上げ、古いバス特有の段差を降りると、降車扉から外に出る。

( ><)「ありがとうございました!!」

 降車扉が閉まり、けたたましいエンジン音を立てて、バスがそのままの進行方向で走り去った。
 後方の方向幕は『回送』になっていた。
 ふたりが降りたバス停は対面通行の道に造られていた。一見したところ、そこらへんのバス停だ。
 
 辺りは、ちょっとしたスカイラインになっている。
 けっこう標高が高いようで、山々がかなり近くに見えた。辺りには気持ち良い風が吹いている。



115: 女流棋士(石川県) :2007/04/30(月) 00:53:38.85 ID:JIyzTJ220
('A`;)「さて、ここでも乗り換えしなければならないのか……」

(^ω^; )「正直、観光する時間は残っているかお……?」

 時計を見ると2時。
 vip峡に着くのは何時になることやら、と、うすうす不安になっていた。

 しかし、

 突然、ふたりの背後で声がした。


从 ゚∀从 「その心配には及びませんよ、ハハハ」



第17幕:バスに揺られて                     了



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