('A`)ドクオと( ^ω^)ブーンが旅行をするようです

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/19(火) 02:24:37.71 ID:3YoNg9d20
第22幕:散策(後編)


 狭いvip峡とは言え、ふたりは随分長いこと歩いた。
 景色を見るという目的も然ることながら、誰か地元の人に会いたかったという気持ちもそれを
助けた。 だが、結局、畦道の脇に住んでいた老人以外に、誰も見つけることができなかった。

('A`)「vip峡も引きこもりが多いのかね?」

 ワイシャツの襟首を指で摘みながら、横のブーンに語りかける。

( ^ω^)「まさか、みんなこの時間帯になったら夕飯にしているんじゃないかお?」

('A`)「まさか。まだ6時にもなっちゃいないぜ?」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/19(火) 02:27:23.64 ID:3YoNg9d20
 いま、ふたりはvip峡を橙色に染めている西日を正面にして歩いている。
 時刻は5時45分ぐらい。目の前には、vip峡の西側へと渡る橋がある。そして、その向こうには旅館。
 このまま真っ直ぐ旅館まで歩いていったら、夕飯の時間に10分ほど残すことになりそうだ。

 それでも、取り立てて見るような場所は無かったので、足の向きを変えるおうなことはしない。
 時刻が進むにつれ、目に見る風景も、音風景も違ってくる。時折無く烏の鳴き声が、高い空に妙に響いた。

 橋を歩いていると、視界にはもうvip峡の西側だけが映るようになる。今夜は、もう東側に行くことは無いだろう。

('A`)「なあ、ブーン」

 ブーンのやや後ろを歩いていたドクオが、今度は前を歩いているブーンに問い掛ける。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/19(火) 02:29:24.96 ID:3YoNg9d20
( ^ω^)「ん、なんだお?」

 橋のほぼ中央で、ふたりは足を止めた。

('A`)「まだ、夕食の時間までちょっと時間があるよな?」

( ^ω^)まあ、10分そこらだから、有って無いような時間だお」

('A`)「その時間でさ……旅館の周りを少し歩いてみないか?」

(^ω^; )「えっ……」

 旅館に真っ直ぐ帰って、食堂に陣取ろうと思っていたブーンは、突然のドクオの提案に言葉を詰まらせる。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/19(火) 02:31:09.49 ID:3YoNg9d20
(^ω^; )「そんな……、ここまで来て、何なんだお?」

('A`)「――――森さ」

 早足で歩き出しながら、短くドクオはそう告げた。

(^ω^; )「森……かお? あの、旅館の周りに茂っている?」

 ドクオの背中を追いながらブーンが訊いてくる。

('A`)「――ああ。どうも、vip峡に来たときから何かが引っ掛かってな……」



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/19(火) 02:33:41.64 ID:3YoNg9d20
(^ω^; )「――森がどうかしたのかお?」

('A`)「覚えてないか? 香川で長岡さんが話していた内容を」

( ^ω^)「長岡さん……?」

 久し振りに聞く名だったので、どんなことを話していたか直ぐには思い出せない。
思い出すのに暫しの時間が掛かった。

( ^ω^)「もしかして、5年前の……?」

('A`)「――ああ」

 そう言うドクオの足は、段々速くなっている。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/19(火) 02:36:36.27 ID:3YoNg9d20
('A`)「5年前、ふたり組の男のうち、ひとりがvip峡でおかしな事件に巻き込まれた。――正確には、ふたりと言うべきか。
 で、少しの間行方不明になっていた男は、旅館の裏手にある森の中で発見された。そしてその時には、既にその男は……」

(^ω^; )「――もとの男じゃなくなっていた」

('A`)「そうだ。詳しい内容は分からないにしろ、一応確かめておく必要はあるだろう? 森に何か手がかりがあるかも知れない
 じゃないか」

( ^ω^)「そんな事言ったって、5年前の事なんか、僕らには……!」

 旅館の中庭までふたりが歩いてきたところで、ブーンが声を荒げそうになる。
 だが、不思議と、その次の言葉は彼の口からは発せられなかった。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/19(火) 02:39:01.63 ID:3YoNg9d20
('A`)「関係ない…………か?」

 どこか冷たい響きを孕んだドクオの声。

('A`)「もしかしたら、お前が被害者になるかも知れないんぞ? 取り返しのつかないことになっても良いのか?」

( ^ω^)「そんなの…………、推測の域を出ないお!!」

('A`)「ああ、所詮は推測さ。だがな…………」

 そこで、須臾の間が流れる。

('A`)「俺は、おかしくなんかなりたくない。だが、それ以上に俺は、おかしくなったブーンなんか見たくない。
 だから、お前の意志に関わらず俺は森に行くぜ。たとえそれが鎮守の森だとしても」

( ^ω^)「――――」

('A`)「そう言うこった。ほら、行くぞ」

 その言葉を残して、ドクオは足早に旅館の裏手へと向かっていった。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/19(火) 02:41:36.86 ID:3YoNg9d20


 6時の直前ということもあって、太陽からの光は幽かにしか旅館の裏手には届かない。盆地になっているvip峡は、
思ったよりも早く夜が訪れるようだ。
 旅館の裏手には、鬱々とした森が広がっている。周りが暗いことと、思ったよりも木が生い茂っていることから、
目を凝らしても森の内部の様子は、外からは分からない。旅館の裏庭と森との境には、一箇所、注連が引かれた部分があった。
注連が引かれている部分だけ生い茂っている森が途切れて、森の奥へと通じる道がある。

('A`)「さて、どうやらコイツが入り口みたいだな……」

(^ω^; )「――ドクオ? あと10分ぐらいで夕食の時間だお? だから……」

('A`)「お前も来い。なに、6時になったらどのみち引き返すさ」



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/19(火) 02:44:14.26 ID:3YoNg9d20
 そう言って、ドクオは森の中へと迷うことなく足を踏み入れた。

(^ω^; )「――――――」

 暫らくの間、ブーンは森の入り口に立ち尽くし、遠ざかるドクオの背中を見ていた。
  
(^ω^; )「――――――ああもう!」

 ドクオの背中が木立に隠れてしまうかしまわないかという瞬間、ブーンの足も動き始めた。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/19(火) 02:44:56.11 ID:3YoNg9d20
 日の光は、完全といって良いほど森の中には届かない。頭上に鬱蒼と追う茂った広葉樹が光という光を遮蔽してしまう
からである。少し強い風が吹き抜けるたびに、森全体が妙な一体感を持ってざわめく。背中を撫でる風が妙に気味悪かった。
 歩いている径は、周囲に生えた木の根が縦横に張り巡らされて、起伏に富んでいる。気を抜くと足許を掬われそうで、
ふたりは歩くだけでもかなり神経を遣った。長岡がタクシーの中で言っていた、村人も普段利用しないと言うのはどうやら
かなり正鵠を射ているようだ。
 足許には、夏場だというのに枯葉が敷き詰められている。流石に、時期が時期だけあって枯れ葉は半腐して固い土との間に
緩衝を形成していた。
 体にまとわりつく、冷気を孕んだ空気もあいまって、今この瞬間が初夏だということを用意に忘れさせてくれる。

 革靴にも関わらず、ドクオは森の中を確かな足取りで歩いている。だが、足許がよく見えないために携帯電話のバック
ライトで照らしながら進んでいるため、その足取りは決して速くはない。うしろに続くブーンはと言うと、幽かに見える
前を歩くドクオの背中を追いながら、足音を頼りに息を上げて進んでいた。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/19(火) 02:45:43.93 ID:3YoNg9d20
(^ω^; )「ドクオ〜、いつまで歩くつもりかお?」 

 その通りだった。
 6時になったら引き上げるとか言っていたドクオは、その6時になっても一向にその歩調を緩める気配を見せない。

('A`)「――少し黙ってろ。多分もう直ぐだ」

 少々苛ついた口調でドクオは切り返す。

(^ω^; )「全く……、何を根拠に…………。『もう直ぐ』で、直ぐに終わったためしは無いんだお…………」

 不満を口に上しているブーンのことは気にせず、ドクオはただ前へ前へと足を進ませる。この視界の悪い森の中では、
どれほど歩いたのかを距離的に把握するのが困難であるので、ブーンが苛立つのも無理はなかった。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/19(火) 02:46:38.93 ID:3YoNg9d20
('A`)「――――――ん?」

 ブーンが空腹からも来る苛立ちを募らせる頃、光を翳して歩いていたドクオが、何かを見つけてその足を緩める。

( ^ω^)「どうかしたのかお?」

('A`)「ブーン、見てみろ」

 そう言うと、ドクオは携帯のライトを水平に翳した。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/19(火) 02:48:52.61 ID:3YoNg9d20
 いつの間にか、天蓋と小径は途切れていた。
 いま立っているのは、ちょっとした広場になっている。具体的な広さは分からないが、だいたい100平米はあるだろう。

( ^ω^)「――行き止まりかお?」

('A`)「――いや、正確には違うな。この道自体が、此処に通じていたんだよ」

( ^ω^)「――此処に何かあるのかお?」

('A`)「お前も携帯を出して見てみろ。ほら、そこに黒っぽいのがあるだろう?」

薄暗闇の中、ドクオが広場の奥まった方を指差した。

( ^ω^)「――いったい、この空間に何があると言うんだお?」

 半ば疑いながら、ブーンは携帯電話を取り出す。そして、LEDのライトをドクオが示した方向に指してみた。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/19(火) 02:50:14.45 ID:3YoNg9d20
(^ω^; )「――――これは?」

 そこにあったのは、古びた百葉箱のようなモノだった。形からして、明らかに人工物だというのは分かるが、それが
何なのか、暗がりも手伝ってか直ぐには分からなかった。

('A`)「祠だよ。どうやら、この森全体がこの祠のための物なのだろう」

( ^ω^)「まさか、鎮守の森と言うのは、この祠のためだと……?」

('A`)「ああ。俺の勘が正しければな」

( ^ω^)「でも、そう判断するのは根拠が足りないような気がするお」

('A`)「――ブーン、お前、鼻は利くか?」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/19(火) 02:51:32.48 ID:3YoNg9d20
 突如、脈絡もない質問を投げかける。

( ^ω^)「自分は蓄膿持ちじゃないから、人並みには鼻は利くと思うお」

('A`)「なら、歩いている途中で、ツンとした匂いを感じなかったか? 植物の花の匂いなんだが……」

( ^ω^)「ああ、文章力がないから表現できないけど、鼻につく匂いなら何度か感じたお。でもそれが何か?」

('A`)「姫榊だよ。祭祀のときに使う木だ。ソイツが植わっているんなら、この祠で何か祭祀をするには好都合じゃないか?」

( ^ω^)「――この祠には、何が祀られているんだお?」

('A`)「見た感じ、鍵が掛かっているようだ。俺には分からんよ」

 平然とした口調で、ドクオはそう告げる。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/19(火) 02:52:44.18 ID:3YoNg9d20
( ^ω^)「なんだ、そんなどうでも良さそうなことでこの森に僕を連れてきたのかお?」

('A`)「――お前、気づかなかったのか?」

( ^ω^)「――え?」

('A`)「俺は、足許を照らしながら、足跡を辿ってここまで来たんだよ。それも、かなり新しい足跡だ」




第22幕:散策(後編)                      了



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