(*゚∀゚)の恋はリメンバーなようです
- 51: ◆sEiA3Q16Vo :06/16(土) 16:15 W7hGlmW0O
第三話・いいおとこ
病室に乾いたノックの音が響く。
『診察だよ〜』
ノックに続き、明るい声が聞こえてくる。しかし、それに対する返事は待てども聞こえてこない。
『アヒャ?』
声の主が扉の向こうで首を傾げている姿が容易く想像でき、そして数秒の間を置く。
『失礼しま〜す』
ガラガラと扉を開き。
(*゚∀゚)「……………」
つーは、目の前の光景に目眩を覚えた。
そこには、数分前には人が居た痕跡が残る、空のベッドだった。
(*゚∀゚)「ヤバイね、マジで」
言うが早いか、つーは病室を飛び出し廊下を駆ける。
病室の入り口に掛けられた札には、『810号室』と書かれていた。
- 52: ◆sEiA3Q16Vo :06/16(土) 16:17 W7hGlmW0O
(*゚∀゚)「診察だよ〜」
アタシはいつも通り、扉を開ける前の挨拶をする。
悪い人ではないんだけど、まぁこの病院では上位に入る変人、いや変態だね。
(*゚∀゚)「アヒャ?」
いつもなら直ぐに返事が聞こえるはずなんだけどな。
いくら待っても返事が返ってこない。
(*゚∀゚)「失礼しま〜す」
とりあえず、扉を開けてみる。
(*゚∀゚)「……………」
いねーでやんの。
何? 狩りの時間ってか?
(*゚∀゚)「ヤバイね、マジで」
被害者が出ちゃ洒落にならない。
アタシは急いで病室を飛び出す。
連れ帰ったら縛っとこう。
うん、それが良い。
それが世の為人の為。
目指すは人の出入りが多いロビー。
頑張れアタシ。
負けるなアタシ。
白衣の天使は今日も行く。
- 54: ◆sEiA3Q16Vo :06/16(土) 19:21 W7hGlmW0O
('A`)「あ〜あ、さっさと外れねーかな」
杖を突きながらロビーを歩くドクオは、足に巻かれたギプスに目をやりながら悪態を突く。
ギクシャクとした動きが危なげで、今にも転びそうだった。
(;'A`)「うぉあっ!?」
案の定、バランスを崩しそのまま前のめりに倒れそうになり――
??『おっと、大丈夫か?』
倒れるドクオの体を逞しい腕が後ろから抱きとめる。
(;'A`)「す、すいません」
謝罪の言葉を述べながら慌てて振り返るドクオの視界には。
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ABE「大丈夫か? 少年」
いい男が、いた。
- 55: ◆sEiA3Q16Vo :06/16(土) 19:22 W7hGlmW0O
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TAKAKAZU ABE
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テレレッテレーレー テレレッテレーレー テレッテ テレッテ テッテテレレレレー
- 62: ◆sEiA3Q16Vo :06/18(月) 20:58 hAXAdXHTO
(;'A`)「すいません、助かりました……」
ABE「なぁに、良いってことよ。困った時はお互い様さ……俺は阿部高和。ただの自動車整備工さ」
(;'A`)「はぁ……」
いい男――阿部高和はそう言うと、にこやかに笑い白い歯を覗かせる。
――阿部高和。
彼の詳細を知る人間は少ない。
分かっている事は、しがない自動車整備工で青いツナギをこよなく愛し、そしてノンケまで食ってしまうちょっとワルっぽい、いい男だという事だけである。
ハッテン場である公園のベンチに腰掛け道行く若者を品定し、お眼鏡に叶った者に対してお決まりのセリフを言うのだ。
『やらないか』
――と。
尚、この『やらないか』は?を付けない事が重要である。
熟達したテクニックとユニフォームのツナギに包まれた逞しい肉体。そして何でも試そうとする度胸。
その全てが、阿部高和という男がいい男として存在するための重要なファクターとなるのだ。
- 63: ◆sEiA3Q16Vo :06/18(月) 20:59 hAXAdXHTO
ABE「ところで少年。何か悩みでもあるのか?」
(;'A`)「何で分かるんスか?」
ABE「いい男ってのは勘も良いんだぜ?」
(;'A`)「はぁ……」
阿部の言葉にドクオは再度気の抜けた返事を返す。
ABE「悩みがあるなら俺が聞いてやるさ。なぁに話せば意外と楽になるもんだぞ」
阿部はそう言うと、ロビーに備えられたソファーに座り、背もたれに手を掛けながら足を組む。
ドクオはその場に立ち尽くしたまま、思案する様に眉間に皺を寄せていた。
('A`)「自分が知らない人間が……自分の名前を知っていた時……どうすれば良いと思いますか?」
ABE「……すまん、悪いが頭に異常のある患者だったか?」
(;'A`)「俺も言ってて訳分かんないッス」
憐れみを込めた阿部の眼差しを向けられながら、ドクオは再び眉間に皺を寄せながら首を傾げる。
ABE「……言いたい事は何となく分かるがな」
言いつつ、阿部は天井を仰ぐ。
視線の先で、光量が抑えられた電球が遥か高い所にある天井に規則正しい列で並べられ、頼りない光を放っていた。
- 64: ◆sEiA3Q16Vo :06/18(月) 21:00 hAXAdXHTO
ABE「……女か?」
天井からドクオに視線を戻し、射抜く様な瞳でドクオを縫いとめる。
('A`)「……そうッス」
ABE「……チッ」
肯定の返事に、阿部は短く舌打ちする。
ABE「女は興味の対象外なんだがな……」
今度は阿部が眉間に皺を寄せながら口の中で短くぼやく。幸か不幸か、それがドクオの耳に届く事は無かった。
ABE「相手を知らないのに、そいつはお前を知ってる。……つまりはそう言う事か?」
('A`)「そうッス」
ABE「……………」
異性に興味を持たない阿部にとって、この手の質問は鬼門だった。
しかし、阿部はこの少年の悩みがどの様な物であれ、親身になって考えるだろう。
何故なら彼は、いい男だからだ。
ABE「それなら――」
僅かにソファーから身を乗り出し、阿部が口を開こうとしたその時だった。
(*゚∀゚)「……や〜っと見付けたよ……」
その声に振り返る二人の目には、肩で荒く息を突くつーの姿が写っていた。
- 66: ◆sEiA3Q16Vo :06/20(水) 12:36 f46i0PSnO
(*゚∀゚)「……………」
うお〜い、マジかよ。
このタイミングで遭遇しちゃうのかよ、アタシ。
しかも阿部さんも一緒かよ。
アレか? 一挙両得ってやつか?
タイミング悪すぎなんだよコンチクショー。お約束かよ。
('A`)「……………」
ABE「……………」
しかも微妙な空気流れちゃってるしさ。どーすんだよ。修正不可能じゃん。
(*゚∀゚)「……あ〜、その、何だ……」
この場を上手く乗り切れ、アタシ。頑張れ、アタシ。落ち着け、アタシ。
ABE「病室に戻れって言うんだろ? 分かってるさ」
阿部さんはそう言うと、ソファーから身を乗り出す。
体を屈め、アタシに見える様に顔を傾けると一度だけウィンクした。
ABE「まだ本調子じゃないからな、おとなしくするさ。じゃあな、少年。また会おうぜ」
阿部さんは優雅な仕草で立ち上がると、ドクオの肩に手を当て、ロビーを横切っていく。
……阿部さん、流石だよ。
アンタ、本物のいい男だよ。
やけにドクオに熱い視線を送っていたのはこの際気にしないでおこう。
(*゚∀゚)「あのさ……」
アタシは意を決して、ドクオと向き合い、口を開く。
……折角のチャンスなんだ、ハッキリさせておこう。
- 67: ◆sEiA3Q16Vo :06/20(水) 12:37 f46i0PSnO
('A`)「……………」
うわ〜、マジかよ。
このタイミングで遭遇しちゃうのかよ、俺。
まだ阿部さんからアドバイス受けてないんだけど。
(*゚∀゚)「……………」
ABE「……………」
頼む。
頼むから誰か喋ってくれないか。この沈黙に耐えられそうにない。
(*゚∀゚)「……あ〜、その、何だ……」
おずおずと、あのナースが口を開く。……何だよ。
体の前で手を組んで、モジモジしたその仕草。ヤベェ、勃起しそうだ。
ABE「病室に戻れって言うんだろ? 分かってるさ」
阿部さんはそう言うと、ソファーから身を乗り出す。
脇腹を押さえながら、軽く身を屈めてゆっくりと立ち上がる。
ABE「まだ本調子じゃないからな、おとなしくするさ。じゃあな、少年。また会おうぜ」
阿部さんはそう言って、俺の肩に手を当てる。
……耳に息を掛けないでくれ。
後、密着し過ぎだ。
ABE『男は度胸だ。頑張れよ……少年』
去り際に、俺だけに聞こえる様に阿部さんは耳元で囁く。
……んな無茶な……。
(*゚∀゚)「あのさ……」
あのナースが、顔を赤らめながら俺を見ている。その、はにかんだ仕草を見ていると……何とも言えない気持ちになる。
……何だ、この胸の奥から込み上げてくる感覚は。
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