(*゚∀゚)の恋はリメンバーなようです

408: ◆sEiA3Q16Vo :10/17(水) 22:42 xZNmzPrDO


何か大切なものを無くしてしまった気がする。

言葉で表す事はできないけれど、とても大切なものを。

それが、辛い。

それが、悲しい。

それが、悔しい。

自分の胸に、穴が開いてしまった。その穴から空虚な風が通り過ぎて行く。

そこを埋めていたのは、とても暖かいものだった。今はそれは無く、内側から体が冷やされる。





温もりは、無い。



409: ◆sEiA3Q16Vo :10/17(水) 22:44 xZNmzPrDO


第十七話・こたえるおのれ



('A`)「お世話になりました」

从 ゚∀从「ん……」

病院の昇降口で軽く頭を下げるドクオに、高岡は言葉少なに頷く。

('A`)「それじゃ、これで」

地面に下ろしたボストンバッグを肩に掛け、ドクオは踵を返す。

从 ゚∀从y━・~「外因性ショックによる記憶障害」

煙草を手にする高岡の唐突なその言葉に、踏み出そうとした足を止められる。

从 ゚∀从y━・~「通称、記憶喪失。幼少期の記憶を無くしたり、数時間前の記憶が抜け落ちたりと症例は様々だ。今回の件は……」

('A`)「俺……“ドクオ”という人物に関する事が記憶から欠落した」

从 ゚∀从y━・~「……………」

高岡が言わんとした事を引き継いだドクオの言葉に高岡は沈黙で返す。

从 ゚∀从y━・~「リハビリを続けていれば記憶が戻る可能性はある……が」

('A`)「いつか分からないし、戻らないかもしれない」

从 ゚∀从y━・~「……あぁ」



410: ◆sEiA3Q16Vo :10/17(水) 22:46 xZNmzPrDO


('A`)「俺にできる事は……」

从 ゚∀从y━・~「……………」

再び、高岡は沈黙で返す。

从 ゚∀从「つーはお前を認識できていない。そんなお前が何を言っても意味が無い、逆に混乱を招くだけだ」

中程まで吸った煙草を地面に落とし、踏み潰す。

从 ゚∀从「医者は患者を治すのが仕事だ。治療の妨げになる可能性がある物は取り除く必要がある」

('A`)「だから俺を追い出す……って訳ですか」

前に向かって踏み出すはずだった足は、表情を変えずに続ける高岡に向けられ、一歩踏み出す。

('A`)「怪我もほとんど治った、治療の邪魔だ、だから出ていけ」

数メートルを隔てた距離を一歩ずつ詰める。

('A`)「そう、言うんだな」

一歩進むごとにその語気と地面を踏みしめる足に込められる力が強まる。



从 ゚∀从y━・~「だから?」



自らの眼前まで来た青年に向けて言い放ち、新たに取り出した煙草をくわえ睥睨した。



411: ◆sEiA3Q16Vo :10/17(水) 22:49 xZNmzPrDO


(#'A`)「――――ッ!!!」

冷淡に自身を見下ろす目に、勢い付いてそのまま吐き出そうとした言葉を抑え込まれ歯噛みする。

从 ゚∀从y━・~「良いか? 今は重要なのはお前の感情じゃない、患者の治療だ。だがお前がいればそれが出来ない。医者はボランティアじゃない、仕事だ」

(#'A`)「だけど俺は!!!」

从 ゚∀从y━・~「惚れた女を助けたい、か。だけどな、アイツはお前の事を憶えちゃいない」

叫ぶ様に語気を荒げるドクオに、高岡は冷淡な態度を崩さないまま続ける。

その間、反論する事を許されずドクオはただ下唇を噛み締める。

从 ゚∀从y━・~「……言いたい事はあるか?」

依然として冷徹な姿勢のまま、再び睥睨する。

(#'A`)「あぁ……分かったよ! アンタは大変立派なお医者様だって事がなッ!!!」

言葉を発する事を許されたドクオは、溜った怒気を叫びに変え、吠えた。

そのまま振り返る事無く、開かれた門まで駆け抜ける。噴き出しそうになる焦燥と怒気を振り払う様に。



从 ゚∀从「……スマン」

遠ざかるその背中に向けて呟き、高岡はうなだれた。

地面に向けられた視線の先には、フィルターを噛み潰された煙草が転がっていた。



415: ◆sEiA3Q16Vo :10/19(金) 23:28 QRSM1LUVO






(*゚ー゚)「お姉ちゃん、リンゴ剥けたよ」

(*゚∀゚)「アヒャヒャ、ありがと」

差し出された皿に乗るリンゴに刺さった楊枝を摘み、それを口に運ぶ。シャクシャクとした瑞々しい歯応えと、甘酸っぱい糖蜜が口の中に広がっていく。

(*゚∀゚)「ん〜、ンまい」

喜色を浮かべたまま次々と口に放り込み粗嚼する。

しぃはその様子を椅子に腰掛けたまま表情を変えず眺めていた。

(*゚∀゚)「……食べる?」

(*゚ー゚)「ん〜ん、いらない」

最後の一切れを口に入れる直前でその視線に気付き、少女に差し出すが、少女は微笑を浮かべ首を横に振った。

(*゚ー゚)「風が……冷たくなってきたね……」

(*゚∀゚)「そ〜だね〜」

(*゚ー゚)「これから……どんどん寒くなってくんだね」

(*゚∀゚)「アヒャヒャ……」

僅かに開けられた窓から、どこか遠くの景色を見続ける少女に、つーは怪訝な顔で頬を掻いた。



416: ◆sEiA3Q16Vo :10/19(金) 23:29 QRSM1LUVO


風に乗ってキンモクセイの香りが部屋に流れ込んでくる。

胸の奥を膨らませる様な柔らかな香りが二人の鼻孔を擽り、そして薄れていく。

冷たい空気で引き締められた鼻孔に、暖かさを感じさせるその独特の匂いが満たされる感覚は心地好く、僅かな風に乗って幾度も病室を巡っていた。

(*゚ー゚)「ねぇ、お姉ちゃん」

(*゚∀゚)「何?」

(*゚ー゚)「もし、お姉ちゃんが大切な人の事を忘れちゃったら……どうする?」

そんな穏やかな香りに満ちた病室で、少女は沈んだ面持ちで問掛けた。

(*゚∀゚)「アヒャヒャ、それは記憶喪失とかそんなのかな?」

(*゚ー゚)「……うん」

(*゚∀゚)「そりゃあ…………」

人指し指を立てて言葉を発せようとするが、そのままの状態で数秒硬直し、やがて腕を組み唸り始める。
 _,._
(;゚∀゚)「どうすんだろ」

(*゚ー゚)「……どうするんだろう、ね……」

眉間に皺を寄せ、必死に考え込むつーを見て、少女は寂しげな笑みを浮かべていた。



416: ◆sEiA3Q16Vo :10/19(金) 23:29 QRSM1LUVO


風に乗ってキンモクセイの香りが部屋に流れ込んでくる。

胸の奥を膨らませる様な柔らかな香りが二人の鼻孔を擽り、そして薄れていく。

冷たい空気で引き締められた鼻孔に、暖かさを感じさせるその独特の匂いが満たされる感覚は心地好く、僅かな風に乗って幾度も病室を巡っていた。

(*゚ー゚)「ねぇ、お姉ちゃん」

(*゚∀゚)「何?」

(*゚ー゚)「もし、お姉ちゃんが大切な人の事を忘れちゃったら……どうする?」

そんな穏やかな香りに満ちた病室で、少女は沈んだ面持ちで問掛けた。

(*゚∀゚)「アヒャヒャ、それは記憶喪失とかそんなのかな?」

(*゚ー゚)「……うん」

(*゚∀゚)「そりゃあ…………」

人指し指を立てて言葉を発せようとするが、そのままの状態で数秒硬直し、やがて腕を組み唸り始める。
 _,._
(;゚∀゚)「どうすんだろ」

(*゚ー゚)「……どうするんだろう、ね……」

眉間に皺を寄せ、必死に考え込むつーを見て、少女は寂しげな笑みを浮かべていた。



418: ◆sEiA3Q16Vo :10/21(日) 00:21 y760nOy8O


しばらく歩けば、灰色の街を抜け出していた。全くと言って良いほど人通りが絶え、街灯も申し訳程度にしか配置されていなくおざなりな光量が道を照らす。

首を巡らせ、背後に広がる絢爛な輝きを持った灰色の街をしばし眺める。

その光景は、光を使ってそれに向かう虫を集める檻にも見え、そう思いながらも自身も多分に漏れずその光に誘われた一介の虫だったと気付き、苦笑した。

('A`)「……だったら何でこんな所に来たんだろうな」

苦笑したまま星が見えない空を眺める。目に写るのは真っ暗な天井と、ラブホテルだけだった。

('A`)「ラブホ……か」

自分には無縁のものだと再び苦笑すると、その下の道端に小屋の様な物を見付ける。

僅かな街灯の明かりに照らされ、赤い提灯を下げた小屋は、この時期のコンビニに充満する馴染みの香りを漂わせていた。

('A`)「おでんの屋台か」

ひくつかせた鼻が、その香りを捉えると胃袋が盛大に抗議する。

('A`)「これは行くべきだと運命が言う。運命、それはディスティニー」

寒さで鈍った頭でそんな言葉を発すると、屋台に向けて足を運んだ。



419: ◆sEiA3Q16Vo :10/21(日) 00:40 y760nOy8O


('A`)「う〜〜オデンオデン」

今、オデンを求めて全力疾走している僕は病院に通っていたごく一般的な男の子。

強いて違うところをあげるとすれば幼女に興味があるってとこかナ――。

名前はドクオ。

そんなわけでラブホの前にあるオデンの屋台にやって来たのだ。

ミ,,゚Д゚彡「ヘイらっしゃいだゴルァ!!!」

ふと見ると、椅子に一人の若い男が座っていた。







('□`)「店長、ガンモ」



420: ◆sEiA3Q16Vo :10/21(日) 00:42 y760nOy8O

('A`)「……………」

ミ,,゚Д゚彡「ご注文は何にするんだゴルァ!!!」

首を真横に向けたままのドクオに、店主の怒鳴り声に近い勢いの声がかけられる。

しかし、その声が届いていないのか、ドクオは自分の隣に座る男から視線を外さない。

('□`*)「ハムッ、ハフハフ、ハフッ!!!」

男は僅かにマスクを持ち上げ、その隙間から器用にガンもどきを滑り込ませる。

油揚げに似たジューシィな食感のそれは真っ白な湯気を上げ、一口噛むごとに熱い汁が押し出され皿に溢れる。

キメの細かい、蜂の巣を押し潰した様な内部にタップリと汁が詰まり、一噛みごとに口の中で汁とガンモが踊り濃厚な味が広がっていく。



ミ#,,゚Д゚彡「何にするんだって聞いてんだろうがゴルアァッ!!!」

('A`;)「だ、大根で」

業を煮やした店主の怒鳴り声に大慌てで目に付いた物を注文する。

店主は頷くと、皿と割箸を取り出しドクオに手渡す。



('□`)「契約だ」

('A`)「……何?」

('□`)「約束は果たした。次はお前の番だよ、糞餓鬼」

二つを受け取るドクオに、男は唐突に言った。

その声は、暖かな屋台の中でも関わらず、冷え切っていた。



第十七話・完



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