(*゚∀゚)の恋はリメンバーなようです

425: ◆sEiA3Q16Vo :10/23(火) 23:13 32zS0gaXO


第十八話・のむならきょうげつぐりーん



(*'A`)「やっぱ沙都子タンだよな、常識的に考えて」

('□`*)「異論は認めない」

男達はお互いのグラスに透明の液体を注ぎ合い、乱暴にうち鳴らすと液体をそのまま燕下する。

頬は紅潮し、目尻は下がり、卓上に拳を何度も打ち付ける。

ミ,,゚Д゚彡「魅音だろ……常考」

(*'A`)「あ〜あ〜、分かってない、分かってないよ大将!」

('□`*)「これは祟殺しからやり直しだな」

(*'A`)「てか沙都子タン無くしてひぐらしは語れねぇって話だよべらんめぇ!」

('□`*)「分かってんじゃねえかブラザー。オラ、もう一杯行け」

マスクで口を覆った男は、ドクオの肩に腕を回すとグラスに液体を注ぐ。

(*'A`)「おま、こんなに呑めねぇよ〜」

('□`*)「行ける行ける、やっちまいな!」

(*'A`)「じゃあお前も呑めよ〜」

('□`*)「仕方ね〜な〜」

ドクオは男から大瓶を受け取ると、男のグラスに酒を注ぐ。

(*'A`)「沙都子タンに〜」

('□`*)「ひぐらしに〜」

ミ,,゚Д゚彡「竜騎士に〜」



      『乾杯』



426: ◆sEiA3Q16Vo :10/23(火) 23:14 32zS0gaXO


酒! 飲まずにはいられない!

人間はアルコールを摂取すると極端に判断力が低下する。言うなれば、思考と行動の間にフィルターが掛けられる感じだ。

やらない方が良い、と理性が言うが、別に良いじゃないと鈍った思考が理性を抑え込み普段はしない行動に走らせる。

例えば、オナ禁をしようと決意するとしよう。
決意の後にアルコールを摂取するとその決意が溶けて流れてしまう。

アルコールには若干の催淫効果をもたらす。その上での思考能力の低下だ。

気が付いた時には既に遅い。

独特の芳香を放つティッシュの塊が幾つも床に転がっている。

意思という牙城を、アルコールは容易く突き崩してしまう魔性を持っている。

強い決意があれば、意識をしっかりと保つ事が出来る。しかし、一度その魔性に溺れると全ての事柄がどうでも良いと自堕落な誘惑に容易く屈服してしまうのだ。

お酒はたしなむ程度がほど良い。

忘れたい事があるならば、浴びる程飲み、そして忘れる。緩急さえ付ければ、アルコールは良き友人となるだろう。



427: ◆sEiA3Q16Vo :10/23(火) 23:15 32zS0gaXO


アルコールは、非常に有効な緩衝剤となり得る。
溶けた思考により、本音を掻き出され、互いの意思の疎通を可能にする。

ろれつが上手く回らず、会話が成り立たない場合もあるが、そこはまぁ場の雰囲気とかそんなので乗り切れば多分大丈夫だと思う。

会話の内容は憶えていなくても、楽しんで呑んだ事実さえあれば後は口八丁手八丁。

アルコールは使い方次第では強力な武器となり得る。




(*'A`)「……以上の点から沙都子は俺の妹と結論付けられる」

('□`*)「いや、その理論はおかしい」

('A`)「おかしくないって」

('□`)「おかしいって言ってんだろ、糞餓鬼」

('A`)「あ? やんのか、コラ」

('□`)「おk、表出ろや」







ミ,,゚Д゚彡「一分魅音」

('A`)『阻止』('□`)

ミ,,゚Д゚彡「……………」



432: ◆sEiA3Q16Vo :10/28(日) 00:06 7xBCphcJO






ラブホの正面。

おでん屋の裏。

そこには、小さな公園がある。

街灯に照らされたベンチ。

小さなジャングルジム。

何か数人がかりで高速回転させて捕まっている奴を放り出す遊びをするための球体状の名も知らぬ極悪な遊具。マジで死ぬからアレは撤去しろよファッキン役所。

そんな平穏な日常をかもしだす、小さな公園だ。

街灯も少なく、バーでちょっぴりほろ酔い気分になった若いカップルが『良いじゃねえかよ〜』『んもぅ、馬鹿ぁ』とムラムラした所で『お、ラブホじゃん』『行っちゃう? 行っちゃう?』とお決まりの流れでチョメチョメしちゃう。



そんな、平穏な公園だ。



433: ◆sEiA3Q16Vo :10/28(日) 00:07 7xBCphcJO


だが、その平穏さは鳴りを潜め、今は剣呑な雰囲気に包まれている。

街灯が二つの影をぼんやりと伸ばし、輪郭を形取っている。

その二つの影は、長さは違えどひどく似通った形で地面に写されていた。



('A`)「何なんだよ……お前」

僅かに短い影が、苛立ちを含んだ声で片方をなじる。

('□`)「ポイズンジャック……ただのヤブ医者だよ」

同様に苛立ちを隠さず、挑発めいた口調で影は答えた。

('A`)「真面目に答えろよ」

('□`)「答えてどうするんだよ、糞餓鬼」

('A`)「それを決めるのはお前じゃない、俺だよ」

('□`)「……………」

ふ、と剣呑な雰囲気を鞘に収め、男は目を細める。

どこか郷愁を含んだ視線に、ドクオは僅かにたじろいだ。



434: ◆sEiA3Q16Vo :10/28(日) 00:08 7xBCphcJO


('□`)「……つー」

('A`)「……?」

('□`)「“アイツ”の名前だよ」

アイツ。

それだけでドクオは男が指す者を理解する。

('□`)「アイツは……いつも笑っていたよ。どんな時だってな」

男は目を細めたまま天を仰ぎ、過ぎ去った時間に思いをはせる。

('□`)「寂しいくせに、無理に明るく振る舞って……」

過ぎ去った時間は、既に過去となり自身の手から溢れていく。

('□`)「あったかい奴だった」

溢れ、残ったのは思い出という記憶の残覗だけだ。

('□`)「そうだろ?“俺”」

('A`)「あぁ、だから惚れたんだよ。俺達はな」

仰いだ空から視線を戻し、男は自嘲気味に言うと、ドクオは平坦な口調で答えた。



435: ◆sEiA3Q16Vo :10/29(月) 00:26 b+JaWSgaO


('□`)「やっぱ気付いてたか」

男は苦笑し肩をすくめる。

('A`)「当たり前だ。自分の顔は自分が良く知ってる」

変わらず、ドクオは平坦な口調のまま拳を握り締める。

('□`)「なら、契約を果たせ」

('A`)「何だよ……契約って」

('□`)「お前なら分かるはずだ。ココは同じだからな」

言って男は自身の胸元を指差す。

('□`)「アイツを……つーを頼む。他の誰でもない、お前がアイツを守ってやれ」





('A`)「何で俺なんだよ」



436: ◆sEiA3Q16Vo :10/29(月) 00:27 b+JaWSgaO


苛立ちが募る。

言いようの無いもどかしさが喉の奥でざわつく。

何故、との疑問よりも。
ふつふつと沸き上がる苛立ちが胃を締め付け、呼吸が細くなる。

イライラが抑えられない。

今すぐ目の前の男を殴り倒してしまいたくなる。



(#'A`)「何で俺なんだよッ!!!」

喉元で溜りに溜った澱を吐き出す様にドクオは吠えた。

いつの間にか足を踏み出し、気付けば男が羽織るコートの襟元に掴みかかっていた。

(#'A`)「あの人は待ってたんだよ! ずっと……ずっとお前を待ってたんだよ! 俺じゃない、お前を待ってたんだよッ!!!」

('□`)「……………」

(#'A`)「寂しくても明るく振る舞っていた? いつも笑っていた? そうさせたのは誰だ!? お前だよッ! 何であの人を悲しませるんだよッ!!!」

('□`)「……………」

(#'A`)「答えろよッ!!!」

前後に、拳を打ち付ける様にしてドクオは掴んだ襟を揺らす。口腔からほとばしる叫びと併せ、それは激しさを増していく。

やがて、衝撃に耐えきれなくなったコートのボタンが千切れ、僅かに男の胸元をはだけさせる。



437: ◆sEiA3Q16Vo :10/29(月) 00:28 b+JaWSgaO


('□`)「もう、答えている」

(#'A`)「何を――」

冷めきった男の言葉にドクオは勢いに乗せたまま顔を持ち上げ、絶句した。



('□`)「……見えるか?」



頼りない街灯の明かりに照らされたそれを、ドクオは目にする。

口を覆ったマスク。

襟が開き、露になった首筋。

その下には、街灯の光を受けて鈍く光る金属があった。衣服や、肉体ではなく、金属が。

シルエットだけならば、それは人間のそれである。
しかし、今ドクオの目の前には人体が一生かかっても放つ事が無い冷たい光を反射している。

金属板が重ねられ、鋲が撃たれ、彼の視線と同じくそれは冷えきっていた。

('□`)「俺はもう、人間じゃないんだよ。生身の部分なんて……もう無くなったよ」

(;'A`)「……………」

('□`)「こうやって思考して喋っているのは俺の人格をインストールした人工知能。果たしてそれが“ドクオ”という人間の思考と言葉なのか判断できない」

(;'A`)「あ……ぅ……」

('□`)「そんな俺を……アイツに見せる事はできない」



438: ◆sEiA3Q16Vo :10/29(月) 00:30 b+JaWSgaO

('A`)「でも……あの人は……」

('□`)「記憶を無くした、か。記憶なんて曖昧なものだよ……大事なのは、もっと根源の所だ」

襟元を正す男に、ドクオはうつ向き下唇を噛み締めながら吐露する。

それに対しての男の答えに、ドクオは僅かに顔を上げた。

('A`)「……何だよ」

('□`)「“心”だよ」

男は僅かに目を細め、言った。

そこには、剣呑な雰囲気ではなく、もっと穏やかな光が宿っていた。

そんな視線を真っ直ぐに受け止め、ドクオも同じ様に目を細めた。

そして。






(#'A`)「こいつはくせえッー! 厨二以下のにおいがプンプンするぜッ――――ッ!!」

そう言い残し、ドクオは脱兎のごとく駆け出す。

('□`#)「糞餓鬼イイイィィィィィッッ!!!」

(#'A`)「うっせバーカバーカ! 何が心だよ! くせえにも程があるわ!」

遅れて駆け出した男に、首だけ振り返りなおも叫び続ける。

(#'A`)「だから! そんなくせえお前の代わりに!」

('□`#)「代わりに何だ!」





(#'A`)「俺が、あの人を守ってやるよ!」





('□`#)「よし! 行ってこい糞餓鬼!」

公園の入り口を越え、ドクオは走り続けた。振り返ること無く、走り続けた。





ミ,,゚Д゚彡「……面倒な性分だな。あいつも」

('□`)「まぁ、俺ですからね」

ミ,,゚Д゚彡「違ぇねえな」

いつの間にか男の後ろに立っていた店主は、そう言うと豪快な笑い声を上げた。

ミ,,゚Д゚彡「……ところで」

('□`)「?」

ミ,,゚Д゚彡「金、払えよ」


月明かりの下で。

完璧な土下座を見せる男の姿が、そこにあった。



第十八話・完



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