(*゚∀゚)の恋はリメンバーなようです

468: ◆sEiA3Q16Vo :11/18(日) 01:39 NkxvwSX1O


第二十話・らんなー




――少年は走る。



足を踏み出し、地面を蹴る。

冷たい空気が体を切る。

しかし、少年の内から放たれる熱が、胸の奥から沸き上がる思いが、それを振り払い体を突き動かす。

肺に送った酸素が瞬時に消費され再び口腔に戻り、白い蒸気となって吐き出される。

それでも少年は走る。

全身の筋肉が休息を求めて悲鳴と抗議の声を上げている。

それでも少年は走る。

太股の筋肉が小刻に痙攣する。

それでも、彼の足は前に進み続ける。進まなければならない。

この気持ちを伝えたい。

君に微笑みを与えたい。

だから、待ってて欲しい。

少年は再びその足に力を込める。



469: ◆sEiA3Q16Vo :11/18(日) 01:40 NkxvwSX1O


いつか、この手に抱いた温もりが、まだ残っている。

あの温もりを、もう一度この手に抱きたい。

そう思うと、全身にまとわりつく疲労など、どうでも良くなる。ただ前に進むだけだ。

余計な考えも、下らない苦痛も、全てがどうでも良い。



ただ、彼女に会いたい。



その為に、彼は走る。

('A`)「……見えた」

やがてドクオの視界に、白い尖塔の様な建物がその姿を現す。

目的地は、すぐそこに。

少年は前へ、前へと進み。

その敷地に足を踏み入れる。



470: ◆sEiA3Q16Vo :11/18(日) 01:41 NkxvwSX1O


(;'A`)「――ッ!?」

敷地に足を踏み入れたドクオは、病院の入り口に立つ二つの影を視認する。

( ´_ゝ`)「よう、ドクオ」

(´<_` )「そんなに急いで、どこに行くんだ?」

('A`)「……ちょっとな」

そう言ってドクオは二人の間を通り、ロビーに足を踏み入れようとする。

( ´_ゝ`)「おっと」

(´<_` )「残念ながらそうは行かないな」

( ´_ゝ`)「ここを通りたかったら俺達を倒
――――
-/⌒ヽ ――
f ハ    ̄ ̄ ̄
| i( 'A`)、_____n
ヽ勿ヽ  ) _ニ≡;;
―- V /イ ̄ .∵∴)
―― / / ヽ  /⌒ ヽ
__ 丿/ヽノr-/ / ノ ハ
_ 巛ノ _ L_ノ  /ノ
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 ̄    ( < /
 /7「|ロロ \ \
〈/ |」  _/(_ノ
   _ (_ソ
   コ|
    ̄





『へへっ……こんな人生も……悪く…な、か……』

『兄者!? 兄者ァ―――!!!』



471: ◆sEiA3Q16Vo :11/18(日) 01:44 NkxvwSX1O


なんという運命の悪戯ッ!!

互いを分かりあったはずの友人同士の確執、そしてその果てにあった戦い!!

兄者とドクオ、二人の少年は己の性義を信じ互いに死力を尽すッ!!

ぶつかり合う拳と拳!!

ほとばしる波紋!!

飛び散る精子!!



嗚呼、人は何故争うのか。
全員が、ただ人を愛しただけなのに……。

…事実だけを記そう。

兄者は病院のマットに崩れ落ち………そのまま放置された。

兄者は…………。

本当に変態だったし………。
その時まで彼の心にはそよ風が吹いていた。
腐ったドブ川のような性癖。

兄者をマットの上に転がすと……………。

('A`)「俺の心の中にはもう……雨が降る事さえない」

そうつぶやくとドクオはロビーへの扉を開き、身を投じた。

まだ兄者にかすかな脈があることも知らずに……。



472: ◆sEiA3Q16Vo :11/18(日) 01:48 NkxvwSX1O


( ´_ゝ`)「……………」

(´<_` )「生きてるか、兄者」

( ´_ゝ`)「お〜……」

上から覗き込む弟者に、投げやりな口調で答えてゴロリと転がり、そのまま仰向けに空を見る。

(´<_` )「結局、言えず仕舞いだったな」

( ´_ゝ`)「いや……言わなくても大丈夫みたいだったな」

兄者は口元に微かな笑みを浮かべると、大の字に手足を投げ出す。

( ´_ゝ`)「説教の一つもしてやろうかと思ったが……いらん心配だったみたいだ」

(´<_` )「流石だな、兄者」

( ´_ゝ`)「言葉でなく、心で理解させるのは兄貴の特権だからな」

(´<_` )「列車の車輪に巻き込まれてしまえ」

( ´_ゝ`)「頑張れよ……ドクオ……」

(´<_` )「聞けよ」

空はどこまでも青く。
兄者は姿が見えない友の背中に向かって、そう呟いた。

(´<_` )「……アレ? 俺の見せ場は?」

( ´_ゝ`)「よう、ロギンズ師範代」

(´<_` )「黙れ」



476: ◆sEiA3Q16Vo :11/23(金) 00:34 kHxR1OvPO


ドクオは走る。超走る。やるせないほど走る。今なら光る風とか追い越せそうな勢い。

それぐらい走る。

ヤツはブラジルが産んだ英雄、世界最速と言われた全盛期のアイルトン=セナを超えるね。シューマッハ? あぁ、F1界のジャイアンツだろ?



心臓のアイドリングを更に早め、手足の指先には酸素が回らず痺れ始める。

それでもドクオは、速度を緩める事なく走り続けた。



477: ◆sEiA3Q16Vo :11/23(金) 00:35 kHxR1OvPO


不意に、紫煙の香りがドクオの鼻を突く。



从 ゚∀从y━・~「何しに来た?」

辺りに紫煙を漂わせながら、高岡はドクオの行く手を遮るべく廊下に立ち塞がっていた。

('A`)「……………」

応える必要など無いと、ドクオは黙したまま強めた視線で高岡を睨む。

从 ゚∀从y━・~「フゥー……」

溜め息なのか、紫煙を吐き出しただけなのか、高岡は大きく息を突いた。

低血圧っぽいわけじゃあない。

从 ゚∀从y━・~「あ〜……今から独り言を言う」

('A`)「……?」

从 ゚∀从y━・~「最近、車に撥ねられて入院してる巨乳がいるんだがな、今は可愛いロリっ娘と一緒に屋上で逢い引きだ」

怪訝そうな表情を浮かべるドクオを見もせず、天井に向けて吸った煙を吐く。

その口元は、若干にやついた様に持ち上がっている。

从 ゚∀从y━・~「……行けよ」






('A`)「ありがとう、ございます……高岡さん」

壁に持たれる様に道を開けた高岡の横を、ドクオは駆け抜ける。



从 ゚∀从y━・~「……俺もヤキが回ったもんだな……」

苦笑し、短くなった煙草を揉み消すと、新たに取り出し火を点ける。

大きく息を吸い煙を肺に取り込み、吐き出す。

煙が視界を白く淀ませるが、やがてそれは空気と混ざり、晴れていった。



478: ◆sEiA3Q16Vo :11/23(金) 00:36 kHxR1OvPO


('A`)「着いた……」

階段の踊り場から見上げた先の扉から、長方形の形で光が漏れ出ていた。

('A`)「……………」

ここに来るまでの間で、すっかり乱れた呼吸をゆっくりと整える。

呼吸は正常に、そして一定に。

しかし、心臓の動悸だけは変わらず早鐘の様に鳴り続けた。

何度も。

何度も深呼吸をする。

それでも、鼓動の速度は変わらず、鳴り続けていた。



479: ◆sEiA3Q16Vo :11/23(金) 00:37 kHxR1OvPO


階段に、一歩踏み出す。

こめかみから流れた汗が、頬を伝わり顎に向かう。



扉を開けて、彼女に伝えたい。

……何を伝える?

甘い言葉や、戯曲のような台詞でも言うのか? 着飾った言葉がはたして彼女に言うべき事なのか?



違う。



伝えたいのは。

言いたいのは。

今の自分の気持ちだ。そしてそれは、“彼”の心でもある。

出会って間もない彼女。

彼女の事を自分は何も知らない。
何が好きで、何が嫌いなのか。

だけど、知っている。

彼女の笑った顔。
屈託のない笑顔を。

彼女の泣いた顔。
辛さを溢した泣き顔を。

知っている事はそれだけだ。

それだけで、十分だ。

彼女の笑ったり、泣いたりする、その純粋な部分に自分は惹かれたのだから。



気付けば扉は目の前だ。

冷たいドアノブに手を掛け。

それを、回した。



第二十話・完



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