( ^ω^)ブーンは歩くようです
- 636: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:32:48.08 ID:ZC1hkslO0
エピローグ
ξ゚听)ξ「ねぇ、ブーン? あなたはいったい、どこまで歩くの?」
ツンデレが僕に問いかけた。顔を上げれば、切れ長の大きな目がまっすぐに僕の顔を見つめていた。
若さに溢れた彼女の瞳が老い始めたこの身には眩し過ぎて、僕は手にしたかじりかけの木の実に視線を落とす。
その赤の先に僕は、この身の奥底で緩やかにくすぶっている若かりし頃から続く情熱の火の一片を見出す。
( ^ω^)「さぁて……僕はどこまで歩くのかおね」
ツンデレではなく、握っていた木の実の赤にそう声を落とし、
僕は立木の幹に背を預け、揺れる木漏れ日の下、そっとまぶたを閉じる。
- 647: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:34:28.71 ID:ZC1hkslO0
-
さあ、僕はいったいどこまで歩く?
その問いかけの本旨はつまり、「僕の歩く意味はどこに終着するのか」ということ。
もっとも、問い主のツンデレはそんなに深くは考えず、興味本位で軽く尋ねたのだろうけど、
僕にとってのその問いは、人生の命題そのものであった。
これまで、流れるように宛てどもなく、果てどもない世界の上を歩き続けた。
出会って別れ、別れて出会いを繰り返すことで、
緩やかに流れ続ける時の中、僕の体は確実に老い、終幕へと向かい始めている。
以前のように望まなくても、死というゴールは向こうから近づいてきてくれている。
もしかしたらそれは、もうすぐ傍まで迫っているのかもしれない。
僕はもう、長くはないだろう。少なくとも、人生の折り返しがとうに過ぎてしまっていることは揺るぎない事実だ。
先延ばしに出来るほど、僕に時間は残されてない。そろそろ、答えを出す時期に達したのかも知れない。
( ^ω^)「だけど……まだ答えは出ないんだお」
そう言って、閉じたまぶたを開いた。そこにツンデレの姿はなかった。
- 650: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:36:18.49 ID:ZC1hkslO0
-
(; ^ω^)「お? ツンデレ、どこに行ったんだお?」
差し込む木漏れ日の下で、僕は立ち上がりあたりを見渡す。
しかしどこにもツンデレの姿はない。
僕がまぶたを閉じていた時間はそう長くはなかったはず。
少なくとも遠くへ行くだけの時間はなかったはず。
だとすれば、彼女はこの木の幹の裏側にでも隠れているのだろうか?
そう思って振り返り、背後にあるはずの木の幹を見た。
目に映ったあり得ない物体に驚いてしまって、僕は久方ぶりのめまいを覚える。
(; ゚ω゚)「違うお……この木は違うお!」
僕が背を預けていたはずの木が、別の木に代わっていた。
慌てて、幹の上で生い茂る葉たちを見上げる。葉たちは僕のすぐ目の前にあった。
登って実を取る必要がないほどその木の丈は低く、それ以前に、そこに赤い実など生っていなかった。
そして、僕はこの木を知っていた。だってこの木は、僕がこの世界で初めて目にした木なのだ。
- 660: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:38:11.19 ID:ZC1hkslO0
忘れるはずがない。忘れようがない。
丈の低い、ブロッコリーを巨大化させたような木。
赤い大地の上にあった、赤い大地の上にしかなかった木。
もう一度あたりを見渡す。予想通りの光景に、僕はまためまいを覚える。
赤い大地。点在する丈の低い木々。風に揺れるトウモロコシ畑。
遠くに聞こえる、レッドリバーのせせらぎ。
(; ゚ω゚)「ここは……まさか……」
川 ゚ー゚)「やあ。久しぶりだな」
眼を見開いたまま、呆然と周囲の景色に気押されていた僕の足元から、記憶にあった声が聞こえた。
- 666: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:39:42.52 ID:ZC1hkslO0
恐る恐る足もとに視線を落とせば、赤い地面の上には、腐り落ちた彼女の死体。
その瞳が僕を見上げ、その口が僕へ語りかける。
川 ゚ー゚)「いかがだったかい、千年後の世界は?」
(; ゚ω゚)「う……あ……」
クー。孤独に耐えられなかった女。ここにあるはずのないその顔は笑っていた。
血のように赤い大地の上、這うように右手を伸ばした彼女は、僕の足をつかみ、言う。
川 ゚ー゚)「出会い、別れ、孤独に戻り、代替を求めるようにまたさすらい、
また出会い、しかしまた別れ、そうやって君は歩いていく。
今、君の隣にいる彼女。けれども彼女もまた、ツンと同じように君へと想いを寄せることはない。
彼女はツンと同じように君の元を離れ、いつか君とは別の道を歩くだろう。
そして、いつか君は死ぬ。出会って別れ、出会って別れを繰り返した先で、私と同じように、孤独に」
逃げるように右足を持ち上げ、赤い大地の先へ駆けだした。腐り落ちていた彼女の手は簡単に振り払えた。
けれど、最後に聞こえた彼女の声だけは、どうしても振り払うことは出来なかった。
- 670: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:40:27.25 ID:ZC1hkslO0
-
川 ゚ー゚)「さあ、内藤の代弁者たるブーンとやらよ。果てなく巡る孤独の中で、それでも君は、どこまで歩く?」
- 673: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:42:05.23 ID:ZC1hkslO0
走った。僕は走った。赤い大地の上を渡り、緑の草原地帯を通り過ぎ、
昼の青空の下を、夕刻の茜色の下を、クーの声を振り払うように、僕は夢中で駆け抜けた。
そして気がつけば、暗く深い、永い森の中を走っていた。
唐突に現れる木々の枝葉が僕の皮膚を薄く裂き、
不安定な山の斜面が僕の体を倒れこませようと黒の中で笑う。
その先に僕は、燃える松明の火を一つ見出し、それを道標とし、ひたすらに夜の森を走り続けた。
そして、道は開ける。見上げれば満月。見下ろせば芥子の畑。
その先には、神の木として奉られた遺物と、石斧を手にした大男のシルエット。
(; ゚ω゚)「……そんな……君は!」
- 679: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:43:41.22 ID:ZC1hkslO0
-
('∀`)「やぁ、ブーンさ! ふひひ! 久しぶりだっぺなぁ!」
ドクオ。神殺しに挑んだ男。満月の下、変わらない不細工な笑顔で僕を出迎えてくれた彼。
懐かしさに胸が締め付けられる。駆け寄り、大きなその手を握り締めようとした。
けれども、即座に表情を変え、手のひらをこちらへ向け、僕を制したドクオ。
石斧の柄をドンと地面に突き、彼は続ける。
('A`)「神はオラが殺す。殺して、ギコやしぃたちの未来を作るんだぁ。
だども、神が消えた世界じゃあ生きられねぇ人間もいる。狂っちまう人間もいる。
ブーンさ。おめさんはどうだべか? 神さ消えたこん世界で、それでもおめは歩き続けられるか?」
ドクオが石斧の柄を地面から引き抜いた。それから笑って、僕の答えを待たず、言う。
('∀`)「ふひひ! 馬鹿なこと聞ぃちまっただなぁ! すまんこったぁ!
おめが歩けないわけがね! オラが知ってるおめぇなら、どこまでも歩き続けられる!」
そして、ドクオは石斧を振りかぶる。
けれども逃げるべき僕の足は、地面に縛りつけられたまま動かない。
振りかぶられた石斧がそびえ立つ神の木へと向かう。満ちた月が僕たちを照らす。
ドクオの声が、夜に響く。
- 680: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:44:07.83 ID:ZC1hkslO0
('∀`)「さあ、神の名さ持つブーンさ! 神さいねぇ世界の上で、それでもおめは、どこまで歩く!?」
- 685: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:45:38.42 ID:ZC1hkslO0
強い光が目の前で発した。
それはきっと、すべてを燃やしつくす赤い爆発だったのだろうけど、何のことはなかった。
ただ、その光は強すぎて、僕には真っ白にしか感じられなかった。
同時に発した爆風で、僕の体は木の葉のように宙へと舞いあがる。
ふわりふわりと中空を漂い、やがて引力に惹かれた僕の体は、大地の上と叩きつけられる。
しかし、衝撃はほとんどなかった。
背中には、まるで深く降り積もった雪の上に落ちたような、柔らかい感触。
むくりと起き上がる。感触通り、あたりは一面、雪に覆われた白の世界。
その真ん中に、僕は信じられない光景を見た。
(´・ω・`)「あっはっは。まいったねこりゃ」
ショボンさんが雪の上にかがみこみ、野糞をしていた。
- 694: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:47:42.77 ID:ZC1hkslO0
-
「ショボンさん、あんた何してはるんですか?」
そう叫びたくなるほどに残念な光景。
それを前に目を見開いた僕の傍に、突然彼が姿を現した
(*><)「わかんないです! わかんないです!」
( ^ω^)「おお! ビロードじゃないかお! 久しいお!」
白の上をこちらに駆け寄ってきた銀色。
嬉しそうに尻尾を振りしだきならが僕へと飛びかかり、僕の頬を舐めたそれはビロード。
僕が生まれて一番長く同じ時間を過ごした仲間。
兄弟と呼んで差し支えない唯一の存在。
( ^ω^)「ビロード……また会えて嬉しいお……元気にしていたのかお?」
(*><)「わかんないです! わかんないです!」
彼との再会が嬉しくて、取り囲む世界の異常さを忘れ、僕は彼を抱き寄せた。
雪の上でも暖かいその体を、いつかのように、ギュッと強く。
- 699: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:49:12.83 ID:ZC1hkslO0
(´・ω・`)「いやー、やれやれ、オーチンハラショー。
大変素晴らしい便だった。やっぱりこの葉っぱは最高だね」
そんなとき、うんこさんが満足気な顔でこちらへと歩いてきた。
しかしうんこさんは、僕から一定の距離を置いたところで立ち止まる。
うんこさんは手にしていたあの葉っぱを雪の上にはらりと落とすと、穏やかな声でビロードの名を呼ぶ。
(´・ω・`)「ビロード君。ブーン君はまだ、こちらには来ていないんだ。
違う世界に住む僕たちは、彼と手を取り合ってはならない。気持ちはわかるが、そのくらいにしたまえ」
( ><)「わかってます!」
かつて一度だけ僕に放った答えを返したビロードは、僕から離れ、うんこさんの足元へと駆け出して行く。
そして、白の上に並んで立ち、距離を置いて僕を見据えた一匹と一人。一人の口が、ゆっくりと開く。
- 703: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:50:44.97 ID:ZC1hkslO0
-
(´・ω・`)「僕は神話の道の先に、僕が望んだ夢を見た」
舞い散り始めた雪の中、ショボンさんの声が聞こえた。
その中で、彼が笑っているのが、うっすらと見えた。
(´・ω・`)「そして、僕は生きる意味を後付けることが出来た。
ありがとう、君たちのおかげだ。僕の言いたいことはそれだけさ」
次第に強くなり始めた舞い散る雪。その中で、
ショボンさんは昔と変わらない暖かな眼差しを僕に贈ってくれていた。
(´・ω・`)「ブーン君、いつの間にか君は僕と近しい歳になってしまったね。
時の流れは緩やかなようで、意外に速いものなんだね。さて、そんな老い始めた君に、
特に何の心配もしていないが、便宜上、この問いを投げかけよう」
その一瞬、視界から吹く雪たちが消えた。
しっぽを振りながら僕を見つめるビロードがハッキリと見えた。
僕を指差すショボンさんがハッキリと見えた。
彼らが問いかける声が、僕にはハッキリと聞こえた。
- 711: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:51:38.43 ID:ZC1hkslO0
(´・ω・`)「さあ、意味を求めた旅人ブーンよ。終わりに近づく生の中で、それでも君は、どこまで歩く?」
- 716: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:53:12.43 ID:ZC1hkslO0
雪風が僕らを引き離した。吹雪といって差し支えないほどになっていたそのせいで、
ショボンさんとビロードの姿はおろか、一寸先にあるものさえ、僕は見ることが適わなかった。
そして吹雪が色を変える。白から黄土色へ。頬にあたるのは雪ではなく砂となった。
砂塵となった吹雪はすぐさま弱まり、消える。
その後現れた大地には、雪の代わりに砂が敷き詰められていた。
夜となっていた空には、いつかの満月が浮かんでいた。砂漠の真ん中には、彼がいた。
(-_-)「お久しぶりです……ブーンさん……」
ヒッキー。僕に殺された心優しい少年。
他に音の無い砂ばかりの世界に、全身を血で染めた彼の声は響く。
- 720: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:54:42.51 ID:ZC1hkslO0
-
(-_-)「あなたが旅する理由なんて……僕は知りません……
だけど……どんな理由があっても……僕たちはあなたに殺された……それだけは確かなんです……
死んだらそれまで……何もない……殺された人々にもやりたいことがあって……
でも……それきりなんです……」
僕は、途切れ途切れのヒッキーの言葉を、反論することなく聞き続けた。
なぜなら、彼の言うことのすべてが正しかったからだ。
(-_-)「そうやって……誰かの命を切り取ることで……あなたは歩いて来たんです……
あなたの身勝手な……僕が知るよしもなかった……旅する理由のためだけに……
それを認める人もいる……でも……あなたに殺された僕たちは……あなたを決して認めない……
あなたの進む道の先……あなたが手にするすべてのものを……僕らは全力で否定します……」
その時、ヒッキーの背後に、無数の人影が浮かび上がった。
名も知らない、正確な人数さえも覚えていない、僕に殺された人間たちの影。
彼らの想いを代弁するかのように、最後にヒッキーが、こう残した。
- 721: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:55:10.64 ID:ZC1hkslO0
(-_-)「さあ……僕らを殺めたブーンさん……血と恨みにまみれたその足で……それでもあなたは……どこまで歩きますか?」
- 726: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:56:40.51 ID:ZC1hkslO0
強烈な風が吹き、再び砂たちが宙を舞った。
砂塵はヒッキー達の言葉だけを残し、彼らをどこかへと連れ去ってしまった。
そして舞いあげられた砂たちは夜空を覆い、互いにつながり合い、一つの建物として形を持ってゆく。
彼らが形作ったのは、ほころびながらも、それでいて威圧感と優雅さを失わないメッカ大聖堂の天井。
砂の消えた地面からは、左右二列に配置された腰掛けと、その真ん中、祭壇へと続く通路が現れる。
夜の砂漠は遺跡へと変わった。
その通路の真ん中で、祭壇を向く形でたたずんでいた僕は、突如、背後に殺気を感じ取る。
懐の銃を抜き振り返った。背後にいた彼の眉間に銃口を突き付ける。突きつけながら、僕はほほ笑む。
( ^ω^)「やあ、久しいお」
- 728: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:58:11.11 ID:ZC1hkslO0
- _
( ゚∀゚)「ひゃひゃひゃ! まーた負けちまったか!」
振り返った先、目の前にいたのはジョルジュ。伝統に縛られていた花婿。
東洋の武術、空手で言う前屈の姿勢の彼の右手が、あの時と同じように僕ののど元へと伸びていた。
しかし、その手には何も握られていなかった。ジャンビーヤは、そこにはなかった。
ジョルジュの額に突きつけた、弾の入っていない銃を懐に仕舞う。
彼はは口では悔しがりながらも、平時と変わらずへらへらと笑っていた。
その後表情を引き締めた彼は、すくりと背筋を伸ばし、姿勢を正して、言う。
_
( ゚∀゚)「伝統と立場があった俺には、ツンデレの足を切らないわけにはいかなかった。
だけど、あんたがツンデレに道をくれて、あいつは歩くことを選んだ。
伝統に縛られた俺は、それでも、あいつが歩くことを許すわけにはいかなかった
だから、最後に俺はは持てる力のすべてを出しておめぇに挑んだ。挑むしかなかったんだ。
でも、それでも、おめぇは俺を負かしてくれた。俺を殺してくれたんだ」
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