( ^ω^)ブーンは歩くようです

730: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:59:32.34 ID:ZC1hkslO0
  _
( ゚∀゚)「歩いて笑うツンデレが好きで、でも立場上それを許すわけにゃあいかず、
     結局足を切ることしか出来なかった俺から、おめぇはツンデレを救ってくれた。歩かせてくれたんだ。
     俺はおめぇに殺されることで、あいつの足を、あいつの夢を切り取らずにすんだ。
     伝統から解かれて、救われたんだ。そうやって、おめぇに別の道を与えられたんだ」

ニカッと笑い、彼は続けた。
褐色の肌の中、むき出されたジョルジュの歯。その白が、とても眩しかった。
それからニヤリといやらしく口の端を釣り上げて、彼は言う。
  _
( ゚∀゚)「だからさ、心配すんなや。こっちはこっちでやっていくからよ。
    そーいうわけで、ツンデレは任せたぜ? ただし、間違っても手は出すなよ?」



734: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:01:10.50 ID:ZC1hkslO0

(; ^ω^)「バ、バカ言うなお! どんだけ歳が離れてると思ってんだお!」

彼の一言にギョッとする。
そんな僕を見て腹を抱えて笑ったジョルジュは、少しの間を置き、はにかんだ笑みを見せる。
  _
(*゚∀゚)「ひゃひゃひゃ! じょーだんだって! 
     んな心配してねーって! なあ……親父?」

( ^ω^)「お? 今なんて……」

思わぬ言葉が会話の端に聞こえて、何と言ったかもう一度問いただそうとした僕。
そんな僕の肩をジョルジュが押す。背にした祭壇の方へ、僕の体はよろめいていく。

それから体勢を立て直した僕を指差し、ジョルジュが最後に、こう問いかけた。



736: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:01:35.19 ID:ZC1hkslO0






  _
( ゚∀゚)「さあ、俺に道をくれたブーンよい! 掴んだおめーの道の上で、それからおめーは、どこまで歩く!?」








741: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:03:34.27 ID:ZC1hkslO0
 
僕の顔へと向けられたジョルジュの人差し指。それが、ほんの少し横にスライドした。
今、彼の人差し指は僕の顔ではなく、僕の肩越しに僕の背後、祭壇の方を指し示している。

ゆっくりと振り返る。そこに、祭壇は無かった。
信者たちの腰掛けも、大聖堂の壁面も天井も、何もかもが消えていた。
その代わりあったのは、どこまでも続く空の色。

もう一度振り返ってみる。案の定、背後にジョルジュの姿はどこにも無く、
あったのは何年も前に通り過ぎたベーリング海峡の氷面。天に、空の青。地に、空を反射する氷の青。

そんな、僕とどこまでも続く青の間、ちょうどその真ん中に、もう一人、白衣をまとった男がぽつりと立っていた。


( ^ω^)「やあ、いつぞやはどうもだお」


なるほど、これまで見た幻の製作者は君か。悪趣味なことだな、内藤ホライゾン博士。

声が聞きとれるのが不思議なほどに離れた、僕と彼との距離。
互いの隔たりが目に見えてわかるその距離で会し、同じ肉体に宿る二つの意識の、最後の対談が始まった。



746: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:06:14.31 ID:ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「いかがだったかお、懐かしの面々との再会は?」

君の姿を見た瞬間に冷めてしまった。所詮、彼らは幻。
彼らの口が形作った言葉は、君が作り上げた戯言だったというわけだ。

( ^ω^)「軽く流されては困るお。あれは君と僕の体験から類推した、
      彼らの本音に限りなく近いであろう言葉たちだお。
      天才の類推を信用するか否か。判断は君に任せるお、ブーン」

信じられるわけないだろう、常識的に考えて。

( ^ω^)「そうかお。なら、この話題はこれでおしまいだお。
      さて、ちょうどいい機会だし、いつかの約束通り、『君の歩く意味』を教えてもらおうかお」

一方的に作り出した幻を見せて、この期に及んでまだそんなことを口にするか。
まったくもって、偉そうなもの言いだけは天才の名に恥じないな。内藤ホライゾン博士。

( ^ω^)「褒め言葉として受け取っておくお」

それっきり、千年前の天才は能面のようなにやけ顔のまま、遠くから僕を見つめ続けるのみ。
以降、彼はいっさい何も話そうとはしない。



747: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:07:52.13 ID:ZC1hkslO0

しかし、彼の言うことももっともだ。

そろそろ僕も、「歩く意味」にある程度の結論をつける時期にある。
とりあえずの意味をここで見出しておいて、困ることなど有りやしないだろう。

どこまでも続く空と氷の狭間にたたずんで、ゆっくりとまぶたを閉じ、僕は考える。

僕の歩く意味。歩いてきた意味。

十数年歩き続けた今、その道程をこうやって振り返ってみて、
すべてがかっちりと噛み合う、そこから何かを結論付けられるだけの意味が果たしてあるのだろうか?

歩き続けた道の上、これまで僕は、いったい何をしてきたのだろうか?



750: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:09:45.73 ID:ZC1hkslO0
 
始まりは、墓地のように静まり返った地下施設の中。
地上に出て、腐り落ちたクーという名の女の死体を赤土の下に埋めた。

辿りついた石の町に、千年前の知識を伝えた。

そこに根付き芽吹いていたミサイルという名の神を、ドクオという名の青年とともに燃やしつくした。
焼け野原のその上に、ギコとしぃちゃん、ドクオの愛した村の子どもたちへ、未来という名の種を植えた。

北上し、一匹の狼の子と出会った。親と死に別れた彼にビロードという名前を付け、場所をユーラシアへと移した。

永久凍土の上、降り始めた千年後の雪の中に身を伏して、一人の旅人と一匹の旅犬に命を救われた。
シベリア鉄道の線路上、ショボンとちんぽっぽという名の彼らに「歩き続ける」という道を与えられた。
その礼というほどでもないが、彼らにもすかうという名の神の国を見せた。

旅の友であった犬の家族と別れ、受け取ったナイフを携え、場所を南へと移した。

発展した内陸の町へたどり着いた。商人たちを引き連れ、かつての聖地へと旅した。
忘れ去られたもう一つの聖地を目指し、その道中、ヒッキーをはじめとして、多くの人間を殺めた。

失われた、荒廃した神の住まいで、一人の青年と出会った。無理やり連れていかれる形で、場所を南の果てへと移した。

白い縁取りが鮮やかな誇りの町に、持っている知識のすべてを置いた。
千年前の女性とよく似たツンデレという名の女性に、足を与えた。
足を奪うしかなかったジョルジュという名の青年に、道を与えた。

「歩き続ける」という道を自分のものとし、歩きたいと願った女を引き連れ、それからも歩き続けた。



757: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:12:23.11 ID:ZC1hkslO0

確かに振り返ってみれば、歩き続けた道の上、僕はそれなりにたくさんのことを成してきた。

しかし、それだけだ。
そこに断片的な意味こそ見つけられはすれ、共通する一本の芯だけはどうにも見つけられることはない。

やはり僕には、歩く意味なんてなかったのだろうか?

思えば浮雲のように千年後を漂うだけで、
誰かという名の風のおかげでようやくどこかへ辿りつくということを繰り返し続けただけの僕には、
そこに一つの意味を見出すなど、初めから不可能なことだったのだろうか?

まぶたを開く。目の前にあったのは相変わらずの、
境目の見えない空と氷の青と、その真ん中にたたずむ白衣の内藤ホライゾンだけ。

白衣の裾が風に揺らぐ。何も言えない僕に向けた、彼の声が響いてくる



760: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:13:58.50 ID:ZC1hkslO0

( ^ω^)「まさか、本当にわからないのかお?」

遠目にも、心底呆れ果てた様子の彼の顔がハッキリと見てとれた。
けれど、悔しいけれど、僕には何の反論もできない。

( ^ω^)「こんな簡単なこと、てっきりわかっているとばっかり思ってたお。
      やっぱり君は凡人なんだおね。まあ、内藤ホライゾンがそんな風に君を作ったんだけど」

さらりと重大なことを言ってのけた内藤ホライゾン。
僕がそれについて問いただそうとした直前、彼が続けた。

( ^ω^)「今、君の手の中に残っている『もの』。それはいったいなんだお?」



766: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:15:39.68 ID:ZC1hkslO0
 
僕の手の中に残っている「もの」?

突然の問いかけに、慌てて両手のひらを開いた。そこにはもちろん何もない。
あからさまなため息が氷上を伝う風に乗り、こちらへ届いた。

( ^ω^)「……そうじゃないお。君が腰にぶら下げているそれはなんだお?」

風に乗ってきた言葉に従い、僕は自分の腰のあたりを見る。
そこにあったのは、ちんぽっぽから受け継いだショボンさんのナイフ。
連なる内藤ホライゾンの声が響く。

( ^ω^)「君が着ている超繊維の服、原色の羽織。懐に隠し持った打ち止めの銃。
      引きずって歩くそり。その上にあるエスキモーたちのテント、超繊維の袋。その中にあるショボンの絵。
      君とともに歩くサナアの花嫁。彼女の腰にぶら下がった銀色のジャンビーヤ」

次々と僕の傍にあるものたちの名が呼ばれていく。
白衣のポケットに両手を入れた彼の声は、氷上の先から止むことなく続いていく。

( ^ω^)「そこに君が手放した『もの』たち、それらすべてを含め、もう一度振り返ってみるお。
      君の歩いた道のりを、『もの』という観点から振り返って、もう一度、だお」

言葉に従い、再びまぶたを閉じる。もう一度、辿ってきた道のりを振り返る。



771: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:17:20.52 ID:ZC1hkslO0
 
始まりは、クーが自ら命を絶ち、内藤ホライゾンもそうしようと手に取った一丁の銃。

そこから僕は生れ、超繊維の服と袋、たくさんの銃の弾、書物、ひと粒で三日腹の膨れる夢の食糧、
千年前の存在たる彼らを携え、千年後の世界の上を歩きはじめた。

ドクオの村へたどり着き、千年前の知識を伝えた。彼らの衣装である原色の羽織をもらった。
アヘンを拒み、ミサイルとドクオを失い、その代わりにドクオの石槍を得て、次は北へと歩きはじめた。

道中でビロードと、彼の両親の毛皮を得た。雪の中、ロッキー山脈内の村で香辛料の種を譲り受けた。
途中で出会ったエスキモーたちから、ドクオの石槍と香辛料の種を引き換えに、テントやそり、防寒具を手に入れた。

ユーラシア北部で、命を繋いでくれた夢の食糧を失った。知識を繋いでくれた書物を燃やした。
その代替としてベルカキト近辺まで辿りつき、ショボンさんとちんぽっぽに命を拾われた。

シベリア鉄道の線路上、そりと荷物を引きずり歩き、点在する村々に知識を伝えた。
ショボンさんに旅する術と、進むべき道を教えてもらった。



779: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:19:45.00 ID:ZC1hkslO0
 
ビロードとちんぽっぽが、三匹の子犬とエスキモーのそりが、モスクワへと運んでくれた。
彼らと毛皮を失うかわりに、ショボンさんの絵と荷物、そしてナイフを受け継いだ。

繁栄を取り戻し始めていた中東で、旅の荷物と引き換えに通過を手に入れた。
通貨と引き換えに食料やラクダ、情報を手に入れた。

忘れられた聖地への道半ば、懐の銃が、ヒッキーやその他多くの人間を貫いた。
その代わり、同じ数だけ僕の命を救ってくれた。

千年前の知識が、僕とジョルジュを出会わせてくれた。サナアに導いてくれ、一時の安寧を与えてくれた。
彼らによって続けることの出来た旅が、僕とツンデレを繋いでくれた。

ショボンさんのナイフが時間をくれた。
最後の銃弾が、ツンデレに足を残してくれた。ジョルジュに道を開いてくれた。

そして今、僕の手には、内藤ホライゾンが声に出したものたちが残っている。
失ったもの。残っているもの。その中の一つでも欠けていたら、僕は今、ここにはいない。


ああ、そうか。彼らはすべて――



786: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:21:36.18 ID:ZC1hkslO0

( ^ω^)「……一本の糸で繋がっているんだお」

内藤ホライゾンの声が聞こえて、僕は再びまぶたを開いた。
眼前に広がる薄かった空と氷の青が、いつの間にかはっきりとした色彩を帯びていた。

( ^ω^)「繋がっているその糸。その始まりはどこにあるんだお?」

決まっている。はっきりとわかる。千年前だ。

( ^ω^)「その通り。つまりはそういうことだお。
     『者』や『物』で繋がった糸は千年前から続き、今も君が千年後の世界に繋ぎ続けている。
     もちろん、それは『もの』だけじゃないお。君はその糸の途中に、君が出会った千年後の人々、
     彼らの想いや生きざまを新たに結びつけ、先へと繋げ、そこからまた何かを生み出し、繋げていった。
     そうやって、君は歩いてきたんだお」

ああ、そうか。そうだったのか。そういうことだったのか。



793: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:23:13.77 ID:ZC1hkslO0

振り返れば、僕の後ろにはこの手に残っているものたち、失ったものたち、
彼らが繋いでくれた、彼らとともに繋いできた糸があって、
それは幾重にも重なりあい、太い縄のようになって、僕たちと千年前を繋ぎ続けていたんだ。

そして、それを僕がこの世界に、千年後の世界に、伸ばし続けていったんだ。

( ^ω^)「そうだお。君の歩いてきた意味っていうのは、
      これからも歩く意味っていうのは、そういうことなんじゃないのかお?」

聞こえてきた内藤ホライゾンの声とともに、すべてがカッチリ噛み合った。

歯車が回り始めた。
決して開くことはないと思っていた扉が、音を立てて開き始めた。

その扉の向こう側に、僕の進むべき道が、今、はっきりと見えた。



796: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:24:57.45 ID:ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「まさか、これも『誰かから与えてもらったものだ』なんて言い出さないおね?」

遠く、氷の真ん中から聞こえてきた声にハッとする。
僕の視線の先には、白衣のポケットに両の手を入れたままこちらを見続ける天才の姿。

( ^ω^)「方法は誰かから与えられることが出来る。でも、結果が与えられることは絶対にないんだお。
      つまり、この場合の『歩く意味』っていうのは、誰かから与えられることはあり得ないんだお。
      そして、君の歩いた道にはとっくに意味があったんだお。僕はそれに気付くためのヒントを与えただけ。
      君が気づかなかっただけで、歩く意味はもう、君の中にあったんだお」

どこから吹いているのかわからない氷上の風。
その真ん中でたたずむ白衣の天才の姿は、距離があるにもかかわらず、僕にはとてつもなく大きく思えた。

( ^ω^)「では、それを踏まえた上で、僕はもう一度君に尋ねるお」

彼の発した呟きほどの小さな声が、僕にはとてつもなく大きく聞こえた。



797: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:25:20.14 ID:ZC1hkslO0







( ^ω^)「さあ、内藤ホライゾンの欠片であるブーン。千年前から続くその体で、これから君は、どこまで歩く?」








803: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:26:55.16 ID:ZC1hkslO0
 
僕が目指すべき場所。旅の目的地。歩みを止める終着点。
ついさっきまで見当もつかなかったそこが、歩く意味を知った今、はっきりと目の前に浮かんできた。

僕が目指すべき場所は、歩く意味が帰結する地点。
旅の目的地は、千年前から続く長く太い糸を結びつけ、繋ぎとめられる場所。
そここそが、十数年にも渡る、そしてこれからも続くであろう僕の、歩みを止めるべき終着点。

そんな場所など、この世界には一つしかない。


これから僕は、――――まで歩くのだ。


( ^ω^)「……そうかお。それはなによりだお」

僕の生涯のすべてを含んだ回答に、そっけない言葉だけを返した内藤ホライゾン。

それから白衣の良く似合う天才は、依然ポケットに両手を突っ込んだまま、
変わらない能面のようなにやけ顔をほんの少し、本当に少しだけ、歪めた。

その歪みが、僕にはあるはずのない表情を無理やり形作ろうとした結果に生じた、とても悲しい亀裂に思えた。

そして僕が回答の見返りを受け取るため質問を発しようとした瞬間、
ベーリング海峡の氷上を模した幻の中を、ぴしりと、まるで氷が割れる時のような甲高い乾いた音が一つ、響き渡った。



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