( ^ω^)ブーンは歩くようです

807: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:28:58.32 ID:ZC1hkslO0
 
初めは、内藤ホライゾンの表情のように亀裂が走り、この氷面が割れ落ちてしまうのかと思った。
慌てて周囲を見渡してみた。しかし氷面は相変わらず、三百六十度、鏡のような滑らかさを保ったまま。

次に正面、彼方でたたずむ内藤ホライゾンを見た。
先ほど浮かべた亀裂のような彼の表情の歪みが、音の発信源なのではないかと疑ったからだ。

もちろん、そんなことなどあるはずがなかった。
天才の表情は依然として不自然に歪んだまま、しかしそこには亀裂など走っていなかった。

けれども、その音の原因が内藤ホライゾンであることに間違いはなかった。

( ^ω^)「これで僕の心配ごとは無くなったお。もう、君は大丈夫だお」

彼の足が氷に侵食されはじめていた。かなりの距離で相対していてもわかるほどに、だ。
音は、彼の足が氷漬けになった際に発せられたものだったのだ。

それを確認した瞬間、僕は氷の上を走り出していた。



810: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:30:49.63 ID:ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「ずっと、それだけが心配だったんだお」

氷の上、足もとから凍結し始めた内藤ホライゾンが寂しげにつぶやく。

( ^ω^)「君は、孤独を前に絶望した内藤ホライゾンが、贈り物としての意義を果たすために生み出した身代わりの意識。
      それだけのために君は生まれたんだお。でも、ドクオのおかげで、早々にそれは果たされたお。
      ドクオの存在は非常に喜ぶべきことだったお。けれど、同時に一つの懸念を生み出したお。それが、君のその後だお」

彼の足もとの氷が徐々に伸びていく。すねのあたりまで氷漬けになった彼は、
しかし、自分のことを気にする素振りなど欠片も見せず、僕を眺め、僕に語り続ける。

( ^ω^)「その後の君は、死に場所だけを求め続けたお。
      それが僕には……内藤ホライゾンには、あまりに申し訳なかったんだお」

駆けだした氷の大地は滑り、蹴る足の力の半分以上を吸い取っていく。
思うように前に進めない。氷に覆われていく内藤ホライゾンの姿は、遥か、遠い。



814: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:33:01.40 ID:ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「名前もなく、一方的に義務だけを押し付けられて、厳しい千年後の世界に
      死に場所だけを求めるようになった君という意識が、あまりに哀れでならなかったんだお。
      だから、君がこの世界に別の目的を見出すその時まで、僕はここで待ち続けようと決心したんだお」

その言葉を聞き、ぞくりとした。
彼の言葉の意味はつまり、もう待ち続ける必要はないということだったからだ。

氷に閉ざされ始めた彼の体。
侵食していくその氷は、彼の意思により、彼の望みにより動いているのだろう。

そんなことはさせない。

第一、君はまだ約束を果たしていないぞ。
君には聞くべきことがまだたくさん残っているんだ。

僕は一体何者だ? お前は一体何者なんだ?



823: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:34:45.00 ID:ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「ああ、そのことかお」

太ももの辺りまで氷漬けになった内藤ホライゾンが、短く呟く。
さびしげなその声を聞き、僕の感情は高ぶり始める。

もはや慣れ親しんだと言って過言ではないめまいが、いつものように僕へと迫ってくる。

( ^ω^)「激しい驚きや悲しみ、感情の高ぶりに駆られた際、
      君は必ずめまいを覚えたはずだお。まるで今の君のように。
      その意味がわかるかお?」

今まさに僕が体感しているめまいを言い当てて見せた天才。
それに動揺した僕は、彼の問いかけを聞くや否や、滑ってこけた。したたかに体を氷上へ打ち付けてしまう。

全身に痛みと冷たさが走る。それでも駆けだそうと体を起こせば、まだはるか彼方にある白衣の彼の顔は、
感情など判別できるわけがないにやけ顔のままで、その口が、とんでもないことを言い出し始める。

( ^ω^)「簡単だお。もとから君に、そんな感情なんてなかったからだお」



831: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:36:43.38 ID:ZC1hkslO0
 
彼の声を前に、立ち上がろうとした足が止まる。
信じられない言葉に呆然とする中、またしても襲ってくるくらみに頭を抱えた。

それでも、天才の回答は氷の上を容赦なく突き進んでくる。

( ^ω^)「君という意識は、内藤ホライゾンから後ろ向きな感情の多くを分離させることで作られたんだお。
      厳しい世界を、どこまでも歩き続けられるように。
      その中で、いつか贈り物としての意義を果たしてくれるように」

くらみを落ちつけようと、大きく息を吸い込んだ。
まるで内藤の回答を裏付けるがごとく、沈静していく感情の高ぶりとともに、くらみは確実に引いてく。

天才の声は、氷上を渡り続ける。

( ^ω^)「もっとも、あの時の内藤ホライゾンにはそこまで深く考える余裕はなかったし、
      それ以前に、意識を二つに分離させる方法さえ彼は知らなかったお。
      君は本当に偶然に、絶望した内藤ホライゾンの無意識のうちに作られて、
      けれど無意識の中でもそれを成し遂げたあたり、内藤ホライゾンは本当の天才だと言えるかもしれないおね」



837: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:38:33.16 ID:ZC1hkslO0
 
自画自賛の彼の言葉を受け、僕はまた氷上を駆けだした。

彼方には、腰のあたりまで氷に侵された内藤。
彼の纏う白衣の裾は、もう風になびいてなどいなかった。

( ^ω^)「でも、そんな君にも、あるはずのない感情を表に出さなければならない時があったお。
      そんなとき、備わっていない感情を君はどこから調達していたのか。
      簡単だお。僕から調達していたんだお。だからこそ、その際、君はめまいを覚えざるを得なかったんだお」

氷の大地にも慣れた。駆けるスピードを増しながら、僕は尋ねる。

それはおかしい。仮に僕と君が本質的に異なる存在ならば、
人体に備わる防衛機制によりそんなことも起こり得るかもしれない。

しかし君は以前、僕と君は本質的に同じ存在だと言っていた。

だとすれば、百歩譲って僕に悲しみや驚きがないとして、
君からその感情を借り受ける際、なぜ僕がめまいを覚える必要があるんだ。



846: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:40:34.20 ID:ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「確かに、君と僕とは元は一つ、内藤ホライゾンから分離した本質的に同一の意識だお。
      でも、ある一点で君と僕は絶対的に異なっているんだお。だから、僕たちが一つに戻ることは
      あの時を除いて一度もなかったし、そんな異なる意識の僕から感情を借り受けようとすれば、
      めまいという拒否反応が出てしまうのもしょうがないことなんだお」

徐々に、だが確実に、内藤ホライゾンの姿が近づいてくる。僕が彼へと近づいていく。

上半身の下半分まで氷に侵食されてしまった彼は、まだ氷漬けになっていない右手で自らの顎を撫で、
にやけ顔のまま、しみじみと考えこむように顔をうつむけ、続ける。

( ^ω^)「しかしまあ、人間の肉体や意識っていうのは不思議なもんだお。
      持っていないけれどそれが必要な状況に置かれ続ければ、代替となる回路を生み出すようになるんだお。
      君も同じだったお。君にはそんな感情なんてなかったけど、歩き続ける中で様々な経験をし、
      その中でいつのまにか代替回路を構築して、いつしか、ある程度の驚きや悲しみなら出せるようになっていたお。
      もっとも代替回路ではやはり不完全で、感情がある一定の域を越えれば、僕から感情を借りるしかなかったんだけど」

そして、にやけ顔は再びこちらへと顔を上げた。

天才は胸のあたりまで氷漬けとなり、その肩までも氷に侵食され始めていた。
ぎこちない素振りで右手を上げた彼は、駆けてくる僕を指差し、にやけ顔のまま、続ける。

( ^ω^)「そして、君は天才なんかじゃないお」



850: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:42:43.25 ID:ZC1hkslO0
 
あからさまに、僕の反応を期待した彼の仕草、言葉。しかし僕はというと、まったく驚いてはいなかった。

当たり前だ。そんなことなど当の昔から疑っていて、サナアでそれは確信に変わっていたのだから。
だから僕は、何の反応も見せず、駆け続ける。足を動かすたびに、口を動かす内藤の顔が近づいてくる。

( ^ω^)「たとえばあの時、ショボンから食べられる野草について学んだ時、君はそのことを痛感したはずだお。
     君は千年前の野草について知識はありながら、けれどそれを千年後の生態系に応用し当てはめることが出来なかったお。
     それが、君が天才からは程遠い存在だということを、最も端的に表していたんだお」

両上腕部まで氷漬けになった彼。僕へと向けられた右腕が下ろされることは、もう無いだろう。

( ^ω^)「君は天才じゃない。天才の肉体を共有していたから、そこに備わった知識を引きだすことが出来ただけ。
      記憶に関しては多少なりとも肉体の恩恵を受けていたけど、それらを昇華し新たな知識を生み出すことは、
      君にはほとんど出来なかったはずだお。確かに君は、ジョルジュから『頭がいい』と言われていたお。
      けれど実際は、僕の脳みそとジョルジュの頭が良かっただけの話だお。君の知識のひけらかしを即座に理解した
      ジョルジュの頭が良かったのであって、君の方はというと至って普通、凡人レベルの思考体系しか備わっていないお」

僕を指差す彼の右人差し指、それまでもが凍りついた。確実に僕は彼へと近づいていた。

けれども、まだ遠い。遠すぎる。眼に見える距離だというのに、
それは永遠に辿りつけない隔絶のように思えて、それでも僕は諦めることなく、両足へ力をこめる。



856: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:44:28.63 ID:ZC1hkslO0

( ^ω^)「でも、君という意識は凡人だったからこそ、ここまで歩き続けられたんだお」

首まで氷に侵された内藤。間もなく、その顔面も氷に閉ざされるであろう。
おそらく最後になるであろう彼の表情は、やっぱりにやけ顔のままだった。

その声が、響く。

( ^ω^)「天才っていうのは、常に破滅と隣り合わせの存在なんだお。
      頭が良すぎるから。馬鹿にはなれないから」

変わらないにやけ顔でそう呟く彼の声は、自嘲を通り越して自らを諦めているように感じられた。

彼の顎が、氷に閉ざされる。僕はまだ、辿りつけない。



863: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:46:18.48 ID:ZC1hkslO0

( ^ω^)「凡人は馬鹿だからこそ、逆境の中でもわずかな希望に向かっていけるお。そこに道を切り開けるんだお。
      でも天才は、そのわずかな希望さえ見出すことが出来ないお。その可能性の低さを瞬時に理解してしまうからだお。
      その点において、天才は劣等種なんだお。それが、人間という種に天才がごくわずかしか存在しいない所以だお。
      だからこそ僕は、千年後の世界に絶望したまま、こうやって動きだすことが出来ないでいるんだお」

とうとう口まで凍りついてしまった内藤ホライゾン。しかし、彼の声は依然響いてくる。
まるでこの氷の世界全体が声を発しているように、低く、深く。

それを走りながら聞き、僕はハッと気づく。

目の前の内藤ホライゾンは、単なる人形、彼の意識の象徴に過ぎないのだと。
この氷の世界全体が、内藤ホライゾンという意識そのものなのだと。

ならば、僕は改めて問わなければならない。

こんな芸当まで成し遂げてしまう内藤ホライゾン。君は一体、何者だ?



871: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:48:20.34 ID:ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「僕かお? これも簡単だお。というか、さっきも言ったお。
      内藤ホライゾンから君に備わった感情を差し引いた意識、それが僕だお」

眼の下まで氷に覆われた内藤ホライゾンの姿を模した人形。
氷に固められたその口はもちろん動いてはいない。

声は、僕の周囲、氷の世界全体から響いていた。

( ^ω^)「だから僕は人格的には内藤ホライゾンで、けれど欠けているものがある以上、
     やっぱり僕は彼ではないんだお。そういう意味で、僕は内藤ホライゾンではないし、君のように名前もないお。
     そして、僕に欠けているもの。それは、例えば笑いとか、そういう前向きな類の感情、だお」

その時、僕が近付きつつあるまだ閉ざされていない内藤の両眼が、不自然に歪んだ。
それは、ツンデレが「歩きたい」と叫んだあの時、決して泣くまいと彼女が形作っていた、不自然なあの笑顔そのもの。

( ^ω^)「もちろん、君と同じように、僕も君から『笑い』という感情を借り受けることが出来るお。
     だけど、そうする必要がなかったし、これからもそうなんだお。だって僕は、ずっとここに独りっきりだから」

いびつな形で歪んで止まった彼の両眼。その不自然さのせいか、彼を覆っていく氷の浸食が急に止まった。

これ幸いにと、僕は駆けだす足に最大限の力をこめる。
体で風を切りながら、彼をここに繋ぎとめるため、僕は問いを投げかける。

では、最後の質問をしよう。君と僕とが一つに戻ることのない理由。

完全に氷漬けになる前に、それを聞かせてもらいたい。



879: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:50:28.55 ID:ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「……君は、この世界を肯定しているお。
      そして僕は、この世界を認めるわけにはいかないんだお。
      それが僕と君とを分かつ、たった一つの、決して相容れることのない理由だお」

駆け続ける僕の視界で、内藤ホライゾンの姿は確実に近づいてくる。
氷全体から響いているはずの彼の声が、近づいてきた不自然な笑顔から発せられたように感じた。

( ^ω^)「僕は、ずっと君の後ろで、君の旅路を眺めていたお。
      君が僕に備わる後ろ向きな感情に影響を受けないよう、さっきみたいに距離をとりながら」

確実に距離が縮まった僕と、頭部以外のほとんどが氷漬けになった内藤ホライゾン。

「氷に覆われているからこそ、もう僕からは何の影響を受けないのだ」

そう言いたげに、彼の顔は歪んでいた。

( ^ω^)「君の旅は、君がツンデレに言った通り、辛いことばかりで、楽しいことなんかほとんど無かったお。
      そんな中、君がこの世界を否定すれば、きっと僕たちはまたひとつに戻れたお。
      そうやって再び現れた内藤ホライゾンは、失敗した自らの死をやり直して、この世界から消えていたはずだお。
      そして僕は、ちゃっかりそれを望んでいたりもしたお。だって、僕は死にたいんだお」



884: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:52:18.46 ID:ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「でも、君は歩き続けた。様々な人間に出会い、様々な風景に胸震わせて。
      それこそが、君がこの世界を肯定している何よりの証拠なんだお。
      ヒッキーを殺した時、君は流せるはずのない涙を流すほど、世界の厳しさに打ちひしがれたはずだお。
      だけど、それ以後も君は歩き続けた。歩き続けて、そこに道を繋げたお。まったくもって見事だったお」

響く賞賛の声。しかし、嬉しくも何ともなかった。
近づいてもまだ届かない彼の姿に手を伸ばしながら、僕は叫ぶ。

なら、君がこの世界を認めればいいだけの話じゃないか。君ほどの天才なら、誰もが君を必要としてくれる。
天才である君ならば、僕なんかとは比べようもない太い糸を、千年前から今に繋ぎ続けることが出来たはずだ。

なのに、どうして君は、この世界を認めようとしない?



890: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:54:06.52 ID:ZC1hkslO0

(  ω )「……認めようとしたお。
     いや、ツンデレを救い出す際、僕は一度だけこの世界を認めたお。
     だから僕たちは、あの時、一つに戻れたんだお」

響いてきた声は震えていた。
その声に呼応して、僕が踏みしめる地面、幻全体がわずかに震え始める。

止まっていた氷の浸食が、ゆっくりではあるが確実に、もとの速度へ戻っていく。

(  ω )「だけど……この世界にはやっぱり、僕が欲しかった未来なんてなかったんだお」

震え続ける声、大地。氷の中の内藤ホライゾンの人形は、今にも泣き出しそうな表情をしていた。



896: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 19:55:43.25 ID:ZC1hkslO0
 
(  ω )「ツンによく似たツンデレ。彼女をツンだと思い込んで、彼女にツンと僕の別の未来を見たかったんだお。
     だけど、実際に救いだしたツンデレは、僕の胸で泣き叫ぶだけだったお。
     きっとツンを冷凍睡眠に入らせることに成功しても、ツンは彼女と同じように泣いたと思うお。
     それを否定して、ツンデレをツンじゃないと認めれば、もとからこの世界には
     僕とツンデレの未来なんてなかったことになるお。それなのに、この世界を認めるわけにはいかないお」

そして内藤ホライゾンの表情が、歪んでいく。
それは誰の目にも明らかな、悲しいほどに板についた一つの表情。

直視するのがあまりに耐えられなくて、僕は走りながら、地面へと顔をうつむけた。

(  ω )「なら、それ抜きに、別の観点からこの世界を認めればいいという話になるお。
     でも、そんなこと出来るわけがないお。だって僕は、クーからこの世界で永遠に一人だと言われたんだお。
     そして、僕もそれを認めてしまったんだお。だから僕は、地下施設の中で死のうとして、結局は死ねなかったお。
     そんな世界、どんな観点からも認められるはずがないんだお。認めるわけにはいかないんだお。
     だってそれは、クーの言った僕の孤独を肯定するということ、つまりは僕自身を否定することになるんだお。
     天才は自尊心が強いんだお。そんな僕に、自分を否定することなんて出来なかったお」

幻の中で響く彼の声が、僕には踏みしめている氷の大地と同じように冷たく感じられた。

「この冷たさを、天才はどう表現するのだろう?」 

そんな場違いな疑問を思い浮かべながら、僕は駆けた。



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