吉良吉影が雛見沢にやってきたようです
- 1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:18:16.10 ID:HD1nx1k70
- 「次はあなたに、絶対に勝ってみせるわ」
私は目の前の殺人鬼にむけて言った
男は、私が反抗の気持ちを宿していることを察し、少し苛立ったようだ
男は少し間をおいて、言う
「…勝つ。私はそういった争い事の類が…嫌いなんだ。
『植物の心』のような人生を…。それが私が最も望むことだからね」
- 2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:20:03.92 ID:HD1nx1k70
- 「じゃあこれは何?」
「趣味なんだ…。爪が伸びるのを止められる人間がいるか…?
いない…同じさ。人間の性も…誰にも変えられない」
私は爪切りを手渡す。奴に頼まれた爪切りは、もう2分前ぐらいに終わっていた
「言い直すわ」
「勝利するというよりも、剥奪する。あなたの望む『平穏』は、全て私が奪ってみせるわ。
もともとその『平穏』は、私が最も望んだものだから」
彼は優越感に浸った表情で私の肩に手をかけた
私の意識はそこで逆流した
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:22:06.74 ID:HD1nx1k70
- 小さな村だった。
等間隔に仕切られた田んぼと、そこで働く何人かの人の影
その回りには、緑に彩られた、何処まで続くかわからない大きな山
杜王町よりも眩しい、太陽が私の顔を照らした。
本当のことを言えば、私はまだまだ杜王町にいたかった。しかし…『こうなってしまったもの』は仕方が無い。
私は新たな平穏を見つけることにしよう。この雛見沢村で。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:24:16.57 ID:HD1nx1k70
- 事情を話そう。
今からつい半日前の話である
私は焦っていた。
後ろから迫りくる敵(仗助と承太郎)。もう顔も名前もバレてしまっていた。
そこで知っての通り、エステシンデレラに逃げ込み、まんまと違う人間となって逃げ伏せた訳だが、
「そこから」である
『あなたー』
私、いや川尻浩作にかけられる声。若い女性だ。恐らく…この男の妻といった所だろう
『なんだ』
『なんだじゃないわ。探したのよっ…。本当にドンくさいんだから。』
『…すまない』
『さすがに、切符を無くしたってことは無いでしょうね』
『(切符…?)…ああ、あるよ』
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:26:16.87 ID:HD1nx1k70
- 財布の中にあったのは、杜王町から遠く離れた××県行きの切符。
どうやら最後の買い物を済ませた後、実家のある××県に引っ越す予定だったらしい。もう荷物は送ってあるとまで言う。
この杜王町で暮らすと決めた…この吉良吉影が、こんな形で引っ越すことになるだなんて…
父さんに挨拶が出来なかったことは気がかりだが、引越しを辞めることも当然出来ず、私はこの杜王町を離れることになった。
ただし、いいことはある。それはその仕事場はこの川尻浩作にとって新しい仕事場ということになるということだ。
そこでは私は『川尻浩作』を真似る心労は無いし、多少のことは『引っ越したばかりで慣れてないから』ということに出来る。
それは私にとって、とても楽なことだろう。悪いことばかりでは無い
私は雛見沢の地面を踏む。電車を降りると、外はもう真っ暗だった。
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:29:12.13 ID:HD1nx1k70
- 時計を見る。7時。なんてことだ…。まだ8時にもなっていないじゃないか
これが田舎か。街灯の無いこの田舎では、この時間にしてこの暗さは当たり前なのかもしれない。
家につく。曇りガラスの貼った黒い鉄の扉を開けると、そこは安そうな大理石の玄関。
荷物はまだ届いていない。
居間へのドアを開けると、そこには本当に何もない。私はとりあえず床の中央に座る。
その時、
ピンポーン
「…?」
誰だ?
「はい。」
「今日引っ越してきた川尻さんのお宅ですね。あの、挨拶に来ました」
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:31:14.30 ID:HD1nx1k70
- 「挨拶…」
(ガチャ)
「隣に住んでいる竜宮といいます。」
「竜宮さん。(可愛らしい子だな)」
「これからよろしくお願いします」
「これはご丁寧に、こちらこそよろしくお願いします」
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:33:08.80 ID:HD1nx1k70
- 「あがっていくかい?」
「あっ、え、遠慮します」
「確かにあがっても何も無いからね、ハハハ」
「引っ越してきたばかりみたいですもんね、それでは、おやすみなさい」
(ガチャリ)
「…随分と礼儀正しい子だな。あの糞ったれ仗助にも見習わせてやりたいぐらいだ」
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:35:19.66 ID:HD1nx1k70
- 私は部屋の中に入る
川尻の妻は、私をちょっとだけ怪訝な眼差しで見つめていた
「何だ」
「あなた、随分と女の子と喋るのが楽しそうね」
「…当たり前だ」
「そうね」
何か文句でもあるのかこの女は…
「散歩行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:37:19.30 ID:HD1nx1k70
- 私は家を出た後、大きく息を吐き出した
「フゥー〜〜ッ、空気が重い!」
一人暮らし、人を入れてもたまに彼女を家に入れるだけの、そんな生活を経験してきた私にとって、
この空気は何とも耐え難いものだった。
会社でこのような空気になっても、いつも私は体よく抜け出し、平穏が待つ自分の家へと帰ったものだ。
それが何故どうしてッ…わざわざ家に帰ってまで、このような『重い空気』を耐えなければいけないんだ
「(殺すか…)」
ならば川尻の息子は誰が育てる
どう考えたってますます負担が大きくなるだけだぞ?
「いや、殺すならば早人の方がいいな。早人がいるからこそくっついているような夫婦だ、この一家は」
恐らく、崩壊する。
いや、しかしそうしたならばあの女、この家を引き取ることを主張するかもしれないな…まだローンがあるとも言っていたこの家を
それはつまり、この「私」に、好きでもない女の為にローンを払いながら、都内の小さいアパートにでも住めと言っているのか!
それでも確かにッ…この空間であと何日も暮らすよりかはずっとが「マシ」…だが
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:39:30.56 ID:HD1nx1k70
- いや、どちらにしても。まだ私は川尻となってから一日もたっていない
こんな状況で人を殺せと…?いやいやいや…私は杜王町から離れている。どう考えても大丈夫だ…
しかし…、私が消えた日と同じ日に杜王町から引っ越した一家がいて、
それも、その妻と子供が、その近い内に死んでいるという「事実」を…奴らが見つけたらっ?
「無理だ…悔しいが、これが結論だな」
一応、この空気の澄んだ夜の散歩だ
とりあえず私は自動販売機を探して歩くことにした。
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:41:22.69 ID:HD1nx1k70
- 飲み物なら駅で買った分がある。ただ私は、無性に自動販売機に行きたくなったのだ。
恐らくあの家で飲むよりかは、随分と渇きがおさまるだろう。下手にあの家で飲むと逆に喉が渇くことだって充分ありえる
しかし、10分程歩く内に、私はこの雛見沢には自動販売機すら無いことに気付く。
たばこの自動販売機ならさっき見つけたのに…
「くすくす…」
笑い声。この時間ですら、もう外を歩くものは少ないのに。
声の先…には、長い髪をした、小さな女の子がいた
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:43:09.10 ID:HD1nx1k70
- 「いい夜ね」
「そうだな。君は一体、何をしているんだ?」
よく見ると、横に巫女装束を着た女の子がもう一人。無言で、ただジッ…とこちらを見ていた
「あなたよね。ここから15分ぐらい歩いた所にある家に引っ越してきた、川尻浩作って人」
「…?」
引っ越してきた事実は知っていても、私の顔までもを知っているだなんて
こいつ…、スタンド使いか?
「何故…知っている」
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:45:04.20 ID:HD1nx1k70
- 「さぁね」
「り…梨花ぁ…」
「(黙ってて羽入…今こいつは私を殺せないはず)」
「全部知っているわ。例えば…あなたの」
私は咄嗟に身震いする
「性癖とかね」
「ほう…(こいつ…一体…)」
「くすくすくすくす」
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:48:06.17 ID:HD1nx1k70
- 「手首。それも若い女の手首がいいんでしょう?」
「何が目的だ」
「あなたのことは全て知っている。園崎家はあなたを警戒しているわ」
園崎……聞いたことがあるな。確かここら一帯でデカい顔してる、名門の家で
川尻浩作の転勤先も、確か園崎の息がかかっているだとか、そんな話を妻から聞いたことがあるな
『ぺこぺこするのは得意でしょ』とか言って…思い出すのも腹立たしいが…
「その園崎が、私に何を」
「目的というのならば、それは忠告よ。あなたはここでは大きなことをしない方がいい。
そうでないと、何があなたを大変な目に合わせるかわからないわ」
「何が…?」
この女
「大変な目にあわせるとしたら、それは園崎家しか無いんだろう?」
「飲み込みが早いわね。そう限った話でも無いけれど、
…そういうニュアンスでいいわ」
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:51:02.76 ID:HD1nx1k70
- この女ッ!
「浮いているッ!スタンド能力かッ!」
目の前の女は、浮いていた。
おかっぱ頭の方じゃあない!巫女装束の方だッ!
よく見ると頭に角までがあるぞッ!こいつはどう見たって人間じゃない!
「この女、人間じゃないな」
「知っているわ」
「そりゃあ人間じゃないことは見ればわかるからな。能力は?」
「違う、あなたが羽入が見えることを知っているってこと」
「子供だと思って、私が手を出さないとでも思っているのか?」
「思ってないわ。『手』…一度出されたもの」
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:54:11.88 ID:HD1nx1k70
- 「今まで何十人もの女の子を殺したッ!
初めての殺しは18才の時!
そしてあなたが一番嫌うのは…自身の平穏を奪われることよ!」
「…」
「あなたの本名は、『吉良吉影』」
馬鹿な
「間違いだな。何を言っているのかさっぱりだよ」
「今さら誤魔化そうったって無理よ。この事実。私どころか、何十人もの人が知っている。
私を殺そうったって無駄よ。この瞬間、あなたは監視されてないとも言い切れない、でしょう」
「お前を殺せば足がつくってか…」
「私達があなたに求めるのは、この村で『何もしない』こと。
この村はいい村よ。前までにどんな罪を犯そうとも、全て無かったことにしてくれる、「罪を沢に流す」、そういった村。
私は雛見沢御三家の一つを継ぐもの。古手梨花。この私があなたに言い渡す」
「ふぅ…」
私は両手をあげるジェスチャーをする
「……降参だ。もう何もする気がおきないよ、…君に手を出すだなんて、そんな」
「…」
「私が降参だと言っているんだ。今日はもう早く帰ってくれ」
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/16(土) 23:57:10.23 ID:HD1nx1k70
- 怪しげなおかっぱ頭の女、古手梨花と、その古手梨花が操る怪しげなスタンド(?)
二人は夜道を歩き去って行く。辺りには静けさだけが残った。
「…成功かしら」
「わからないのです」
「奴、園崎家が全てを知っているって、何%ぐらい信じたと思う?」
「本当の所、そこまで信じてないと思うのです。梨花がどれだけ奴の本性を言い当てようとも、奴の目には所詮梨花は子供なのです」
「…そうよね、でも、決めたから。今度は、惨劇を防ぐために、絶対にやれるだけのことはやるのよ
絶対に…防ぐ」
「もう起こってしまったのです」
「そういうことは言わないの。彼女はまた、私達の元に戻ってくるわ。だって前がそうだったんだもん」
「奴が来るのはここ数100年のうちまだ二回目なのです。今回は諦めて、また次の機会にかけることも出来るのですよ」
「圭一は沙都子の伯父が帰ってくる絶望的な状況すら脱したわ。今回の相手は完璧に殺人犯。
彼が現場から持ち去るっていう手首を押さえればいい。それで、警察を呼ぶ、終わりよ」
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/17(日) 00:00:09.60 ID:s1J4wEtl0
- 今の会話でわかったこと…それは
古手梨花はスタンド使い
その一点だ。それ以上の情報も、それ以下の情報も無い
恐らく、あの人間型のスタンドで情報を集めたが、如何せん誰も信じてくれず、私に直接言い渡すことを選んだという訳だろう
(それでも奴を殺していないのは私が1%程奴の言うことを信じているから…と
奴が私に直接訴えかけてきた事実は、とどのつまり、『それぐらいの方法しか無い』とも取れるから…)
「私はこの生き方を変えないよ、いや、変えられない」
私は何もない空間に向けて呟く
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