( ^ω^)が嫉妬するようです

15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと32,043秒 :2008/01/10(木) 21:10:12.81 ID:ZNuSlLAs0



家の玄関をくぐると、案の定母親はまだ帰宅していなかった。


だけどこれが僕の日常なのである。
最低でも午後八時を過ぎないと母親は帰ってこないし、
帰ってきても、疲れている母は食事の準備と入浴を済ませたらさっさと眠ってしまう。

学校でもそうだ。
人と喋るという行動に対して積極的になれないので、僕には長岡以外に話し相手がいない。
今日だって他の誰とも会話をしなかったし、したいとも思わなかった。

つまり僕は一人でいる時間が圧倒的に多いのだ。

寂しさを感じたことはほとんどない。
母親が僕を産んで間もなく離婚して、幼い頃からこんな生活を送っていたせいだろう。
要は慣れてしまったのだ。慣れてしまえば、何のことはない。

それに今日なんかはまだいいほうで、長岡と言葉を交わすことさえなく、
しかもその日が母親の帰りが特に遅い火曜日だったりすると、さすがの自分も気が滅入る。
今日は月曜日。明日が正念場だ。



17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと31,890秒 :2008/01/10(木) 21:12:10.23 ID:ZNuSlLAs0
居間の戸を開けると、誰もいない部屋は相変わらずがらんとしていて、静かだった。

時計を確認すると、まだ午後五時にもなっていなかった。
母親が帰ってくるまで、あと三時間以上ある。
何か食べるものが冷蔵庫にあっただろうか。どういうわけか、今日はいつもより腹の減りが早い。

僕は慣習に従いリビングの照明だけをつけて、
ソファのところに置いてあったリモコンを手に取り、テレビの電源を入れた。

夕方のニュースが流れている。

あまり視聴意欲が湧かなかったのでチャンネルを変えてみたが、
いずれも同じようなニュース番組ばかりやっていたので、
仕方なく最初に目に入った放送を見ることにした。

まあ、どのチャンネルに合わせても同じことだろう。
一瞬だけ映った映像を一瞥しただけで分かった。

どれを見ても、例の連続殺人事件に関することしか報道されていない、と。



20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと31,625秒 :2008/01/10(木) 21:14:42.07 ID:ZNuSlLAs0
とりあえず一旦キッチンまでいき、インスタントコーヒーを淹れることにした。
あのままテレビを見ていても大して意味はなさそうだ、と判断したからである。

ガスコンロの上に置きっ放しにされていたやかんをつかみ、水を適量入れ、火にかけた。

沸騰するまで暇なので、冷蔵庫の中をあさってみたが、
すぐに食べられそうなものはなく、調理しなければならない食材しか入っていなかった。

今度は食器棚の上にある、ちょっとしたスペースから探してみる。
ここにはお茶受けのお菓子や、朝に食べるパンなどが入れられていたりする。
主に母親が買ってくるものが詰められているので、何があるかは開けてみるまで僕も分からない。

見ると、いくつかの菓子パンが雑多に並んでいた。


そのことに気づいた時、やかんから蒸気が噴き出す笛に似た音が聴こえてきた。
ひとまず、パンは後回しにしなければ。

慌ててコンロの火を止めて、それからマグカップを取り出し、
コーヒー粉末とひとさじの砂糖を入れ、やかんのお湯を注ぎ、ポーションミルクを加えかきまぜる。
ホットコーヒーの完成である。

慎重にテーブルへと運んだ。テレビでは、中継先からの情報を伝えていた。
僕の知っているところだった。



22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと31,625秒 :2008/01/10(木) 21:17:14.97 ID:ZNuSlLAs0
棚の中にあった菓子パンを二つ持ち出して、
制服のままソファに深く腰掛け、液晶画面に視線をやる。


昨日、六人目の被害者が出た。

とはいっても、遺棄されていた男性の遺体が見つかったのが昨日というだけであり、
実際に殺されたのはいつなのか、未だ明らかになっていない。

遺体には深い刺し傷があったところから、凶器は刃物だと推測される。

遺体が置かれていた場所は人通りの少ないところだったが、
ジョギングをしていてたまたま通りかかった男性が発見したそうだ。


そのような嘘偽りのない客観的な事実を、若い女性キャスターがひどく真剣な口調で説明していた。
続いて、専門家らしき出演者が自分なりの考察を述べ始める。
隣にいた男性キャスターはうんうん頷きながらそのコメントに耳を傾けている。

けれど、やはり犯人に関する情報は公開されなかった。
現在も鋭意調査中だそうだ。



25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと31,625秒 :2008/01/10(木) 21:19:22.65 ID:ZNuSlLAs0
テレビ画面をぼんやり眺めながら、ふとつまらない思索にふけってみる。


今や、世間の関心はこのショッキングな事件の犯人が誰であるかということにのみ注がれている、
といっても過言ではない。

町を歩けば息をするようにでたらめな犯人の噂を聞くし、
学校でも、長岡はじめ、多くの同級生たちがこの謎に対しての推理を飛ばしあっている。

中には会ってみたいと言い出す者もいた。
連続殺人犯『二十一世紀のテッド・バンディ』は、長岡が熱弁していた本家のバンディ同様に、
一種のアンチヒーローとしての地位を築きつつあるように思える。


僕はあまりこの話題に対して積極的にはなれなかった。
他人との干渉が嫌なせいでもあるが、もう一つ、大きな理由がある。

それは僕がこの凶悪犯の正体を知っているからだ。

おそらく、世界中の誰よりも僕は犯人のことを熟知しているだろう。


すなわち、犯人とは僕なのである。



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