( ^ω^)が嫉妬するようです
- 26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと31,225秒 :2008/01/10(木) 21:21:28.77 ID:ZNuSlLAs0
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翌日の下校時間、僕の隣には変わらずに長岡がいた。
今日は九月らしい、暑くもなく寒くもない、過ごしやすい穏やかな気候だった。
郵便局横の角を曲がると、そこにあった電信柱に「凶悪犯、情報求ム」と、
太い油性マジックででかでかと書かれてある紙片が貼られていた。
見るからに自主的な張り紙である。
どこかの目立ちたがり屋が、例の犯人を捕獲して、一躍有名になってやろうと企画しているのだろう。
そんな簡単に、見つかりはしないと思うのだが。
(;゚∀゚)「あーあ、今週末までに新出英単語二百個暗記とか無理だろ……」
僕たち二人の会話はいつも、こんな風にたわいない話から始まる。
長岡が愚痴半分の話題をふって、そして僕はただ黙って彼の発言に首肯する。
そのため僕らから聴こえてくる音声は常に一つだけである。
- 28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと31,049秒 :2008/01/10(木) 21:23:01.03 ID:ZNuSlLAs0
- 学校で何があったか、今何を考えているか、などといったようなことは、僕からは決して口に出さない。
長岡も詮索してこなかった。
どうやら彼は僕のよき理解者でいるつもりらしい。
彼が僕の思考を完璧に読めているとは、とてもじゃないが思えないけれども。
でも僕にはそんな長岡のスタンスがありがたかったし、
依存しすぎることもないので、適度な距離感をもって接することができた。
はっきり言って、僕にはコミュニケーション能力が他の人よりも著しく欠けている。
単に交流したいという欲求を抑えつけているだけなのか、
あるいは、そもそも誰かと触れ合おうとする好奇心が、生まれつき備わっていなかったのか。
一つ言えるのは、こうした僕の人格形成に、
母親と二人っきりで暮らしているという環境が影響しているのは間違いない。
そう考えると、おそらく、『僕』という人間はその両方が起因して作り上げられているのだろう。
先天的に与えられた、接触、つまり争いを招くようなことを忌避する性質。
後天的に植えつけられた、自分の中で湧き起こる衝動を制御しようとする作用。
この二つによって錬成された存在が、僕なのだ。
- 31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと30,974秒 :2008/01/10(木) 21:25:19.69 ID:ZNuSlLAs0
- けれども、長岡は僕の心の隙間に入りこんでくる。
その手口は巧妙で、僕を絶対に傷つけようとはしない。
誰とでも打ち解けられるという彼の性分は、きっと天賦の才能だと思う。
そんな長岡の一言一言が、孤独に浸っていた自分にはとても優しかった。
ずっと聞いていたいと思えるほどだ。
なので僕は自分からは語らない。僕の何気ない言葉が、ともすれば彼を傷つけかねないからだ。
( ゚∀゚)「でも、もうじきセンター試験だしなぁ」
長岡はため息まじりに呟いた。
高校の最高学年である僕たちには、来年明けてすぐにセンター試験が控えている。
当然その心配もしなければならない。
彼は遠くの大学への進学を希望していて、僕とはまるで進路の希望先が違う。
僕が出願を予定しているのは地元の大学だった。経済的にそこしか選択肢がなかったのだ。
- 32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと30,974秒 :2008/01/10(木) 21:27:23.48 ID:ZNuSlLAs0
- ( ゚∀゚)「お前、二百個も覚えられる?」
僕は一瞬だけ迷って、ただちに「できる」と声に出して答える代わりに軽く頷いた。
( ゚∀゚)「うひゃあ、マジかよ。俺は無理かもしれないな……さすがにさ」
長岡は珍しく弱音を吐いた。
本当のことを言うと、僕も単語をすべて覚えきるなんて不可能だと考えている。
それでも「できる」と意思表示したのには理由がある。
彼は僕なんかよりもずっと頭がいい。
僕ができるようなことは、彼も大抵できていた。彼自身もそのことは分かっていた。
ならば今回のケースでも、僕が「できる」と言ってしまえば、
長岡は「自分も可能なんじゃないか」と思えるようになるのではないか。
要するに彼への隠れたエールである。
こっそり発破をかけたわけだ。
- 35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと30,715秒 :2008/01/10(木) 21:29:50.53 ID:ZNuSlLAs0
- ( ゚∀゚)「まあ一応がんばってみるか!」
こちらの思惑が通じたのか、長岡は先ほどよりも明らかに力のこもった声でそう言った。
僕は決して長岡を傷つけようとは思わない。
かといって、直接彼に対して何か伝えることもしない。
そんな冒険ができるような勇気は、あいにく、持ちあわせていないのだから。
( ゚∀゚)「そういえば、今日だっけ? お母さんの帰りが遅くなるんだろ」
そう、今日は火曜日だ。母親は深夜を迎えるまで帰ってこない。
( ゚∀゚)「大変だよな」
彼の言う大変とは、たぶん、僕と母親の両方にあてられた労いの言葉だろう。
嘘ではない、正直な同情の気持ちがこもっていた。
それでいてわざとらしくなかった。
- 38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと30,974秒 :2008/01/10(木) 21:31:37.85 ID:ZNuSlLAs0
- 僕ら親子の糊口をつなぐために、
母親が身を削って夜通し働いてくれていることを思うと、胸が苦しくなる。
( ゚∀゚)「また明日な。ちゃんと飯食えよ!」
長岡の家付近まで来たところで、彼は片手を上げて別れの挨拶を告げた。
ならって僕もそうした。
彼の住宅は僕のとは比べものにならないくらい大きくて、
白く清潔な壁は目に眩しく、全体の外観にいたっては、観察するだけで圧倒されるほどだ。
羨ましい、と素直に感じた。
中にお邪魔させてもらったことはないが、きっと内装も立派なのだろう。
扉を開き、住みなれた我が家へ戻っていく長岡の背中を見送りながら、
僕は門の前に立って、今日あった出来事をふりかえっていた。
彼が殺人鬼に関する話をしなかったのは、久しぶりだった。
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