( ^ω^)が嫉妬するようです
- 44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと30,306秒 :2008/01/10(木) 21:39:03.03 ID:ZNuSlLAs0
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ある日の昼休み、長岡が興奮した様子で僕の元にやってきた。
( ゚∀゚)「これ、見てくれよ!」
言いながら彼は茶色い革表紙の手帳を差し出してきた。見覚えのないものだった。
ページをめくると、細部まで詳しく書きこまれた市内の地図と、六つの赤い×印があった。
( ゚∀゚)「殺人事件のあった現場をまとめてみたんだ」
訊けば、かねてよりこのマップの作成に励んでいたらしい。
×印は発見現場、すなわち遺体が置かれていた場所を示していて、
さらにページをめくって先を読み進めると、
発表されていた被害者の名前、性別、年齢、特徴などのデータが、六人分載せられていた。
それはまったく、僕の記憶と齟齬がなかった。
- 47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと30,082秒 :2008/01/10(木) 21:41:23.81 ID:ZNuSlLAs0
- ( ゚∀゚)「ここから分かる部分もあると思うんだ」
彼は刑事みたいな行動を平気でやってのける。
いわく、彼は朝から僕以外のクラスメイトにもこの手帳を見せて、いろいろと考察しあっていたそうだ。
クラスメイトの中には、彼同様に犯人の正体を暴こうと考えている人も結構いたから、
議論はきっと白熱したことだろう。
( ゚∀゚)「なあ、内藤も何か、犯人はどんな奴だとか、そういった予想を持ってないか?」
悪いけれど、僕からは、何も言うことはない。
言えるはずがない。
( ^ω^)「ごめん、僕はないお」
僕は初めて、はっきりと声に出して長岡の申し出に拒否をした。
- 48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと30,306秒 :2008/01/10(木) 21:43:33.04 ID:ZNuSlLAs0
- ( ゚∀゚)「うーん、そっかぁ……」
まさか、自分が巷を騒がせている『二十一世紀のテッド・バンディ』その人ですと、
宣言できるわけがないだろう。まして長岡にだ。
( ^ω^)「でもたぶん、犯人は僕たちとは遠いところにいるんだと思うお。
殺された人たちはみんな、僕らが知らない人ばかりだから……」
適当に言葉を継いで、ごまかした。この嘘は長岡を傷つけない嘘だろう。
知らないほうがいい真実もある。
( ゚∀゚)「ふぅん、なるほどなぁ。よし分かった、ありがとな」
長岡は人と人との間を器用にすり抜けながら、また違うクラスメイトのところへと歩み寄っていった。
その人との談笑を終えると、今度は女子生徒にも話しかけた。
彼は男女を問わず、誰にでも平等に接する。
ゆえに僕のような無口で目立たない人間にも気さくに声をかけてくれるのである。
- 52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと29,964秒 :2008/01/10(木) 21:46:59.20 ID:ZNuSlLAs0
- 長岡が手帳を渡すと、その女子生徒はページをぱらぱらとめくり、すぐに返却していた。
彼女はあまり真剣に読んでいないように見えた。
その証拠に、彼女は長岡に問いかけられても、話半分に相槌を打っているだけであった。
( ゚∀゚)「あー、まあそうなんだけどさ……」
そんな、ちっとも懲りていないような声が聞こえてきた。
僕は考える。
長岡はじめ、いろんな人たちがこの事件の真相を追い求めているが、
今のところ、誰一人として近づけていない。
犯人につながる物品も、疑わしげな人物も、すべては彼らが憶測の範囲で語りあっているだけで、
いずれも核心に触れることなく波打ち際の砂に書かれれた文字のように消えていく。
多くの人々がやっていることは、急流の川底から一粒の砂金をつかみ取ろうとする老婆と同じくらい、
または、大草原でひらひら舞う一匹の蝶を捕まえようとしている子どもと同じくらい、無謀だ。
『二十一世紀のテッド・バンディ』は、こんなにも近くにいるというのに。
- 55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと29,527秒 :2008/01/10(木) 21:50:08.98 ID:ZNuSlLAs0
- 時々自分でも分からなくなる。
どうして、自分は人を殺そうとするのだろうか。
……たぶん、僕がいつも独りであることが原因なのだと思う。
孤独を厭だと感じない、その代償として、殺人をすることで充足を得ようと脳が指示しているのだろう。
人は心が空っぽでは生きていけない。
殺傷行為が僕という人間を人間たらしめる要素の埋め合わせだなんて、ばかみたいだ。
僕は誰よりも人間らしくないのだ。
今月に入ってからはまだ殺人鬼は姿を現していない。
それはつまり、僕の中で殺人衝動を抑えつけている状態が続いているということ。
町は僕であり、殺人鬼は自分の心に潜む渇望である。
僕からそのどす黒いものが目覚めるということは、町に殺人鬼が来襲する、その時の到来なのだ。
そして今。
長岡に被害者たちの情報を見せられてから、僕の脳裏に殺戮を行った時の恍惚が蘇ってきている。
僕の中で、何かが蠢き始めている。
黒板にチョークで刻まれた日付から、今日の曜日を確かめなおした。
今日は火曜日だった。
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