( ^ω^)が嫉妬するようです

162:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと23,977秒 :2008/01/10(木) 23:25:43.73 ID:ZNuSlLAs0
15


僕が危惧していたとおり、長岡は今にも内藤に殺されそうになっていた。

僕がここに到着するまでに、
この古びた旧校舎でどんな悶着が繰り広げられていたのかまでは予測が及ぶ範囲ではないが、
どうやら今は、間に合ったことを素直に安堵するべきのようである。

警察を引き連れた僕の姿を見て、内藤は豆鉄砲をくらったような顔をしていた。


僕は以前から分かっていた。
犯人は、連続殺人鬼『二十一世紀のテッド・バンディ』は、彼なのだと。



(*゚ー゚)「内藤くん……僕は知ってたんだよ。君が連続殺人事件の犯人だって」



つとめて平静を取りつくろって、憐れみをこめた声で、僕は彼にそう言い放った。



168:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと23,760秒 :2008/01/10(木) 23:27:48.51 ID:ZNuSlLAs0
すべてを一から話すと長くなる。


とある夏の日の夜、僕はいつもより随分と遅くに外出した。
その日は火曜日だった。

僕は母親の帰りが遅い火曜日には外で食事を済ませるようにしているのだが、
その日の夕方、うとうととしていたらそのまま眠ってしまい、
目を覚ました時には午後十時を大幅に過ぎてしまっていた。

その頃にはもうほとんどの店は閉まっていたので、
仕方なく、僕はコンビニへ弁当を買いに行くことにしたのだ。


僕が内藤が犯人だと分かったのは、その時だった。


コンビニからの帰り道、僕は少し離れたところにクラスメイトである内藤の影を見かけた。
人気はまったくなかった。僕と、彼しか見当たらなかった。

内藤はズボンのポケットに両手を突っ込んで、目の焦点が定まっていない様子で歩いていた。
こんな時間に一人で何をしているのだろうと思い、しばらく彼の行動を見守っていたら、
彼は前方から来る小さな女の子とすれ違った瞬間、猛然とその少女を追いかけだしたのだ。
ポケットから出した彼の手にはナイフが握られていた。



173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと23,416秒 :2008/01/10(木) 23:30:15.21 ID:ZNuSlLAs0
それからのことはよく覚えていない。

彼が女の子にナイフを突き刺そうとした瞬間、僕は何も考えずに走りだして、ただちに帰宅した。
心臓がばくばくと興奮気味に鼓動しているのが分かった。

翌日、ニュースで昨夜の事件が大々的に取り上げられていた。
被害者の女の子は小学五年生の、将来に対する不安なんか一切ないような年齢の子どもであった。
状況や地域などの要素から、これまでに起きていた連続殺人事件と関連づけられ、
専門家が今回の事件は『二十一世紀のテッド・バンディ』によるものだという結論を下していた。

それはつまり、殺人鬼が内藤だということの証明だった。


けれど、僕はその恐るべき真実を誰にも言う気にはなれなかった。

人との干渉を極度に避けたがっていたのも動機の一つだが、本当は、もっと大きな理由があった。
僕は内藤に同情していたのだ。


なぜって、彼の境遇は、僕とあまりにも近すぎたから。



181:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと23,322秒 :2008/01/10(木) 23:33:08.44 ID:ZNuSlLAs0
僕と内藤は同級生だった。

どちらもクラスでは孤立していて、長岡しか話し相手がいなかった。
彼は誰にでも話しかける。
男女も、相手の性格も、外見も問わない。

また、内藤も僕同様に幼い頃から母子家庭で育っていた。
どうして僕がそんなことを知っているのかというと、以前、母親から聞かされたのだ。
僕の母親と彼の母親は同じ職場で働いている。
だから、火曜夜は唯一の家族の帰りが遅いという事柄も共通していた。

そのことを分かっていたから、内藤の殺人は火曜日の深夜に行われているのだろうとも予想できた。


――――そう、あの夜のように。

――――そして、今夜のように。


僕が内藤にそう独白すると、彼は顔を下げたまま、消え入りそうな声で呟いた。


(;^ω^)「でも、どうして僕がここにいるって、長岡を殺そうとしているって分かったんだお?」



185:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと23,416秒 :2008/01/10(木) 23:35:47.73 ID:ZNuSlLAs0
(*゚ー゚)「それは、長岡が今夜会う約束していたのは、僕だから」


僕は今日の下校途中、長岡に一緒に食事に行かないかと誘われたのだ。
彼は今晩母親の帰宅が遅くなることと、そんな時僕が一人で外食しに行っていることを知っていたので、
孤独な僕を気遣って誘ったのだろう。


(*゚ー゚)「……八時半に、長岡から電話があった」


彼は、内藤からどうしても断れそうにない急用が入ったと僕に伝えた。

僕はその時、瞬時にひらめいた。内藤が次の殺す対象に選んだのが、長岡である、と。
内藤の殺人計画を直感した僕は、長岡に待ち合わせの場所と時刻を訊き、警察に通報したのだ。

じゃあどうして自分がこの学校内にいるかというと、
通報したはいいが、長岡が心配でいてもたってもいられなくなって、僕もここにやってきたのである。
それだけ彼の安否が気にかかっていた。

けど、警察は現行犯でないと逮捕できないと言うので、
僕たちは内藤が犯行に及ぶ瞬間まで接近しすぎずに待ち伏せする必要があった。



188:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと23,241秒 :2008/01/10(木) 23:37:29.68 ID:ZNuSlLAs0
僕が全ての説明を終えると、内藤の右手から、からん、と乾いた音を立ててナイフが転がり落ちた。
彼の顔には虚無が貼りついていた。
無表情すぎて彼が今どう思っているのか読み取れなかった。

僕は、内藤がクラスメイトを殺害しようなどと考えるとは想像できなかった。
彼が自分へと繋がりそうな人間を殺すようなリスクを負うはずがないと高を括っていた。


(*゚ー゚)「とにかく、間に合ってよかった……」


僕は床に伏せている長岡に駆け寄った。
長岡の顔はまだ恐怖に青ざめていたが、なんとか立ち上がらせ、
僕は彼に肩を貸して警察が待ち受けるほうへと連れていき、保護してもらうよう頼んだ。


( ^ω^)「…………」


呆然から覚めた内藤は警察官数人に囲まれ、暴れることもなく、その両手首に手錠をかけられた。
内藤はそうされている間、神経衰弱気味にうっすらと微笑んでいた。
かける言葉が見つからない。
僕は傍観しているだけだった。



194:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと23,161秒 :2008/01/10(木) 23:40:35.38 ID:ZNuSlLAs0
( ^ω^)「僕は、君のことが好きだったんだお」


……そのぐらい、僕は知っていた。
おそらく、彼も彼の母親から僕と境遇が近いことは聞かされていただろう。
こんなにも似ている僕に内藤が共感や、あるいは好意を抱くであろうことは、予想がついていた。

だけど、僕と内藤の間には決定的な違いがあった。


内藤は孤独でもまったく平気でいられたけど、僕は本当は、孤独であることが嫌だった。


僕は互いに傷つきあいたくなくて人との接触を避けていたけれど、
できることならぽっかり空いた隙間を埋めたいと、心の奥底では願っていたのだ。

でも彼は違う。
彼の心には、人間として大切なものが欠落している。
そうでなければ、連続殺人などという、人の道を踏み外した行いに目覚めるはずがない。


いろいろと思考が脳内を縦横無尽に駆け巡るけれども、結局僕は内藤に、何の言葉もかけられなかった。



戻る16