( ^ω^)悪意のようです

155: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:40:13.10 ID:ZgCYV95x0
6章



 昼間だと言うのに、その部屋は暗かった。
壁には無数の印刷物。
紙の上で笑う女の子は、四方の壁を包み、天井までにも存在した。

机には黒い油性ペンの文字。

『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』
『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』……折り返し。

床には叩きつけられ壊れたままの目覚まし時計が転がり、
びっしり『愛』と書き込まれた紙が、何枚も散らばっている。



159: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:41:27.94 ID:ZgCYV95x0
('A`)「……」

 そんな異常な部屋で、ドクオはヘッドホンをしながらネットサーフィンをしていた。
ヘッドホンから漏れる音は、その想い人の声、そしてその周辺の音。
彼の日課となった盗聴作業である。

('A`)「……フ、フフ。わかるわかる」

 聞こえてくる声に、届かぬ相槌を打ってドクオは笑った。
かと思えば今度は急にその表情を曇らせ、
雄叫びを上げながら机に拳を打ちつけた。

(#'A`)「あああああ! くそぉぉぉぉぉぉ!」

 ディスプレイ脇のティッシュ箱に目を向ける。
そこに突き刺さっていたバタフライナイフの柄を掴むと、
乱暴に振り回し、箱から刃を抜いた。



162: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:43:32.44 ID:ZgCYV95x0
(#'A`)「くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! ああああああああああ!」

 プラスチックのキーボード目掛けて、
まるでハンマーのようにガンガンとナイフを振り下ろす。
しかしストレスが発散しきれないと感じると、
今度は机をやたらに切りつけ、ナイフを床に抛った。

 そしてキーボードを破壊すべく、拳をホームポジションの辺りに打ちつける。
ディスプレイには意味のない文字の羅列が並び、床にはキーが散らばり、
やはり意味のない文字列が並んだ。

 キーボードを破壊し満足したのか、
ドクオは最早使い物にならないキーボードを机の上から投げ捨て、
引き出しからノートPCを取り出しLANケーブルを繋いだ。



164: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:44:53.74 ID:ZgCYV95x0
('A`)「……ごめんね、ごめんね、しぃ。ビックリしちゃったよね」

 俯いたままどこを見るとも無くブツブツと呟くと、ノートPCを即座に起動させ、
ドクオは再びネットサーフィンを始めた。
デスクトップは未だに点いたままで、ヘッドホンからの音も依然変わらないのだが。

('A`)「……そうだ、この前ブログで見た……」

 呟くと、ドクオは流れるようなタイピングでアドレスを手打ち入力し、
軽やかにエンターキーを押した。
画面に表示されたのは、簡素なデザインのサイトだった。

('A`)「へえ……」

 背景は黒一色。
BGMは一切流れず、ただ古印体の赤字で『奈落』と書かれたサイトのタイトルと、
その下方に下線が引かれた『入水』と言う文字のみが書かれていた。



166: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:46:01.08 ID:ZgCYV95x0
('A`)「奈落……ねえ」

 プロキシのチェックを今一度し、サイトのソースをざっと調べた後、
ドクオは入水の文字をクリックした。

 程なくして開かれたページは相変わらず黒い背景のままだった。
だが、その代わりスクロールしても画面中央に付きまとってくる鬼のような顔があった。

 赤い顔色で、眼は見開かれ金色に輝いている。
大層豪華な帽子を被り、顔中に深いしわを作って笑っていた。

 マウスのホイールを転がし、ただその顔があるだけのページをスクロールし続けると、
やがて何も見つからぬままにページが終わった。



168: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:47:10.42 ID:ZgCYV95x0
('A`)「……クサいな」

 タブキーを一回押す。
それだけで容易に背景と同じ色をしたリンクの張られたドットが発見された。

('A`)「子供騙しかっての」

 そのままエンター。マウスポインタが一瞬砂時計に変わり、ページが切り替わった。
その先のページでドクオが見たものは、その名も大仰な閻魔帳なるものだった。

('A`)「……マジかよ。ただの噂かと思ってたが、こりゃあ……」

 記されている文章の数々に、
ドクオは知らず知らず息を飲み、冷や汗が流れるのを感じた。
そこには更新月日と共に、名前と、【詳細】という文字が書かれていた。



170: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:48:38.34 ID:ZgCYV95x0
 それだけならば大した問題ではないのだが、
問題なのは、それら全てに更新月日よりも“後”に位置する、
死亡月日が書かれていたことである。

 つまりこのサイトの更新者は、
あらかじめこれらの人物がいつ死ぬかを、知っていたということになる。
そこでドクオは、すかさず検索エンジンにキーワードを叩き込んだ。

('A`)「六月二十五日、荒巻スカルチノフ……ナイフでメッタ挿しにされ失血死。
   ……次、七月九日、斉藤またんき……鈍器で後頭部を殴られ死亡……」

 頭の中をグルグルと思考が駆け巡る。
これが事実ならば、サイトの管理者は予言者か、
もしくは大々的に殺人予告をしていることになる。
勘違いの可能性はないか。サイトの信憑性は。時間の前後関係は。



172: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:49:43.37 ID:ZgCYV95x0
('A`)「いや、別に全部が事前に書き込まれていたと決まったわけじゃないか」

 検索窓を開き、あらゆるサイトから情報を集める。
掲示板、ブログ、個人ニュースサイト。
調べてみると、水面下では二三ヵ月前からそれなりの話題性があったらしい。

('A`)「どうも、マジっぽいな……」

 多くを語らぬ不気味な殺人者予告はなかなかの盛り上がりようで、
姿も見えない実行犯は『閻魔』と呼ばれ、
既にある種のカルト的とも言える人気が涌いていた。

('A`)「これを利用すれば、奴に制裁を……」

 呟き、ドクオは更に情報を集め始めた。
その口元は醜く歪み、耳には既にしぃの声は届いていない。
ただ激しくタイピングしながら、『制裁』と何度もうわ言のように呟いていた。







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