( ^ω^)ブーン系で読みとくおとぎ話のようです

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/03(日) 02:31:57.41 ID:OxQ1FTtzO
今は昔、命(タマ)取りの翁といふ者ありけり。
流石組のヤクザ組長の兄者と、その妻の弟者。
どうした訳か、二人の間には長い間子供が出来ませんでした。

(´<_` )「ごめんなさい。ぜんぶ、私のせいです」

( ´_ゝ`)「なに、焦るな。その内に出来るさ」

しかし、兄者の心中は決して穏やかなものではありません。
兄者と弟者は、五十歳という高齢なのです。
組員の間では今、後継者問題で揺れています。

( ´_ゝ`)(…………奥の手を使うか)

兄者の考える奥の手とは、借金の肩に娘を頂くという物です。
本当は男の子が欲しいのですがなりふり構っていられません。
そしてある晩のこと、二人は月から子供を授かりました。

――大人の事情で、そうなのです。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/03(日) 02:33:20.12 ID:OxQ1FTtzO
組員一同「おめでとうございます! これで我が組も安泰ですね!」

( ´_ゝ`)「三ヶ月前に生まれたんだが、何故かもう十六歳だよ!」

ξ゚听)ξ「………………」

兄者と弟者の間に出来た娘は、とても美しく、見るものを魅了します。
そんな姿から老夫婦は彼女を、

『巻き髪のツン』

と名付けました。
ツンは優雅な立ち居振舞いと、生まれ持った美しさで、
流石組の士気を上げ、勢力を広めて行きます。
これを見た兄者と弟者は、財布の中身を膨らませました。

( ´_ゝ`)「フヒヒ! ツンは良い娘だなぁ」

(´<_` )「時にあなた。ツンもそろそろ結婚の時期では無いかえ?」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/03(日) 02:34:52.10 ID:OxQ1FTtzO
この世界で生き残る為には、他の組のせがれと結婚させなくてはいけません。
兄者は早速知り合いの組長達に連絡を取り、ツンにお見合いをさせる事にしました。

ξ゚听)ξ「ダメね。こいつ顔がキモいわ」

ソファに座るツンは、見合い写真をポイとごみ箱に投げ捨てます。
美しさもさることながら、ツンは高飛車な事でも有名です。
元は心優しい少女でしたが、売られたせいで心が歪んでしまったのです。
そして、抗争の中で研ぎ澄まされた感覚、鍛え上げられた身体。
組で最強になったツンは、誰も逆らえなくなったのを良しとし、
流石組で自分のやりたいようにやっているのでした。

( ´_ゝ`)「そ、そうか。ならこっちはどうだ?」

ξ゚听)ξ「……そうね。こうしましょう」

ξ゚ー゚)ξ「『渡辺の命』を取って来た奴と結婚してあげる」

(;´_ゝ`)「………な!?」

(´<_`;)「そんな……無茶だわ………」



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/03(日) 02:36:20.46 ID:OxQ1FTtzO
――渡辺。

隣町、おとぎの国には凡そ千人で構成されている暴走族グループがある。
ヤクザですら尻尾を巻いて逃げる、そのグループの名称は赤頭禁。
吸血鬼と人間のハーフであるハインを筆頭に、数多の悪者達で構成されている。
悪魔、魔王、大妖怪、死神、大妖精など危なっかしい奴等がそうだ。

そんな悪者達の中でも群を抜いて有名なのが、渡辺である。
一見、極々普通の月兔の少女。
だがしかし、渡辺と対峙して無事に帰って来た者は数少ない。
奇跡的に命からがら生き延びて戻って来た者は言った。

『兔の皮を被った夜叉だ……』

と。

兔の眼は何故、赤いって?
それは涙を流しすぎたからだ。

――血の涙を、ね。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/03(日) 02:37:58.10 ID:OxQ1FTtzO
( ´_ゝ`)「ツン、いくらお前の頼みでもそれは無理だ」

(´<_`;)「ああ、可愛いツンや、考え直しておくれ」

ξ゚听)ξ「――黙りなさい。あいつ邪魔なのよ」

ツンはふたつの拳銃を兄者と弟者の頭へと突き付けます。
全く隙の無い、手慣れた動作でした。
ツンは来るところまで来ちゃったようです。
両手をあげて兄者は震えながら言いました。

(;´_ゝ`)「おkおk。そうしよう」

(´<_`;)「どうしてこんな事に。あぁ、神様!」

――――

それから二ヶ月が経ちました。
やはり、とも言うべきでしょうか。
渡辺を攻撃した組は無事に潰されていきます。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/03(日) 02:39:25.70 ID:OxQ1FTtzO
ξ゚听)ξ「全く使えないわねー」

着物姿でよしずの陰に座り、ツンは涼んでいます。
遠くから蝉の鳴く声が聞こえてきます。
大きな庭に鹿威しの音がカコーンと響きました。
大変風流です。良くできました。

(;´_ゝ`)「大変だーーーー!!!」

でも、そんな風流を打ち破る者が現れました。
縁側を時々こけそうになりながらもツンに駆け寄る兄者。
手には何やら手紙のようなものを持っています。

ξ#゚听)ξ「うるさいわね! パパ、もっと静かにできないの?」

(;´_ゝ`)「まずいんだよまずいんだよ!」

兄者はツンへ一枚の手紙を渡しました。
真っ赤に染まっていて、何だかベトベトします。

ξ゚听)ξ「何よ、これ」



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/03(日) 02:41:24.73 ID:OxQ1FTtzO
ツンは手紙を読みます。
そこには女の子らしい小さな文字で、こう書かれていました。

『拝啓、流石組のお姫さま。
 お姫さまは月から来たんだってねぇー?
 だったら次の満月の夜に
 月へと帰らせてやるよぉー!?
       わたちゃんより』

ξ゚听)ξ「これは…………」

刺客に怒った渡辺の反撃の宣戦布告でした。
捕まえた刺客をあれやこれやして、主犯を吐かせたのでしょう。

(;´_ゝ`)「せ、折角だから俺は逃げるぜ!」

ξ゚听)ξ「待ちなさい」

ツンは静かにそう告げ、逃げようとする兄者の足元を銃で撃ち抜きました。
足が止まり、恐怖で立っていられなくなります。
お姫さまの心は氷で作られているのでした。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/03(日) 02:43:14.46 ID:OxQ1FTtzO
そして満月の夜が訪れました。
ツンは兄者に命令し、全ての組員を動員させました。
その数、326人。これだけ居れば安心ですよね。
着物姿で縁側に座ってツンは満月を見上げます。

ξ゚听)ξ「………………」

ハーレー「ズバロロロロロロロロロロロロ!!!!!」

ξ゚听)ξ(…来た)

月の使者、兔の鳴き声が聞こえてきました。
組員全員に緊張が走ります。

( ´_ゝ`)「敵の数は!?」

組員「そ、それが渡辺一人です!」

(;´_ゝ`)「狂ってやがるッッ!!」

ξ゚听)ξ「ふふふ、良い度胸じゃないの」



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/03(日) 02:45:07.58 ID:OxQ1FTtzO
突如、大きな音と共に壁が崩れました。
渡辺がハーレーで強引に突入したのです。
驚いた組員達は、その方向へと銃を向けました。

从#゚ー゚从「こんばんはだよぉー!」

渡辺はのんびりとした声で、挨拶をしました。
いついかなる時でも挨拶はきちんとしましょう。
満月の白く柔らかな光が渡辺を映し出しました。
白い特攻服には『守護月天』と刺繍されています。
髪は白く、頭には兔耳が伸び、愛らしくぴょこぴょこ動いています。

――そして、眼は赤く、狂気そのものだ。

ξ゚听)ξ「撃ちなさい!!」

バキューン。
ツンの怒号を合図に、渡辺へとたくさんの銃弾が飛びます。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/03(日) 02:46:35.80 ID:OxQ1FTtzO
从#゚ー゚从「あれれぇー!? 止まって見えるよぉ!?」

渡辺はハーレーに跨がったまま、木刀を引き抜きました。
夜空にかかげたその木刀を、斜めに振り下ろします。
すると、どうした事でしょう。
全ての銃弾が一刀両断されたではありませんか!

(;´_ゝ`)「あんなんまじ無理!」

(´<_`;)「渡辺ちゃん、流石だわ……」

ξ;゚听)ξ「ちょ、こらー!!」

兄者と弟者、そして組員達はツンを置いて逃げて行きました。
大きな庭にはツンと渡辺だけが残されました。
ツンは、また売られたあの時のように、ひとりぼっちです。
一人では夜叉に勝てるはずがありません。

ξ;;)ξ「ばっかやろおおぉぉぉぉぉ!!!」

満月に向かってツンは泣き叫びました。
その声は遥か遠く、神が住まう月には届きません。

从#゚ー゚从「…………………」



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/03(日) 02:48:09.01 ID:OxQ1FTtzO
ξ;;)ξ「うっ……ぐすっ……」

从#゚ー゚从「Hey! Princess? Stand up!」

地面に膝をついたツンの耳に声が届きました。
顔を上げると、ファイティングポーズをとっている渡辺がいます。
渡辺の姿に満月は隠されて見えません。

ξ#;;)ξ「っっ! こんのぉぉ!!」

从#゚ー゚从「――!」

ツンはやり場の無い怒りの矛先を、渡辺に向けました。
不意打ち気味のボディブローです。
それはあっさりと渡辺のお腹に届きました。

ξ;;)ξ(あ……れ……?)

ξ;;)ξ(……いける?)

続けざまにツンはもう片方の拳を、渡辺の顔に向けて放ちました。
しかし、それは渡辺の手に軽々と受け止められました。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/03(日) 02:50:12.22 ID:OxQ1FTtzO
从#゚ー゚从「そう! 最後に頼りになるのは自分自身ッッ! その力ッッッ!!」

穏やかな甘い声で渡辺はツンに言います。
それから、ツンの胸に膝蹴りを入れました。

ξ;;)ξ「う…くっ! でも……」

ξ#;;)ξ「そこまで痛くない! 私が負った心の痛みはこんなモンじゃない!!」

掴まれている手を振りほどき、ツンは腹の底から吼えました。
凍っていた心を燃やし、ありったけの力を身体へと注ぎます。
首への回し蹴り、鳩尾に迫る拳、連続攻撃を避けながら、渡辺も鳴きます。

从#゚ー゚从「信じるその道を進むだけだよぉー!?」

ξ#;;)ξ「どんな敵でも味方でも構わないわ!!」

      クロスカウンター
――この手をはなすもんか。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/03(日) 02:51:51.60 ID:OxQ1FTtzO
――――

二人は白く綺麗な満月を寝転んで見ています。
数時間にも渡る死闘で、もう、全身ぼろぼろです。

ξメ゚听)ξ「……私、案外やれんじゃん」

从メ ー 从「それは私を倒してから言った方が良いよぉー」

ξメ゚听)ξ「……なんで武器を使わなかったのよ?」

渡辺の木刀、ティルトウェイトを使っていればツンなど一瞬だったはずです。
それなのに使わなかったのは、何故なのでしょう。

从メ ー 从「さてねぇー? 忘れちまったよぉー?」

ξメ゚听)ξ「兔って頭悪いのね」

ツンは知りません。
叫び声は月に住まう神々には届きませんでした。
けれど、渡辺の心にはしっかりと届いていた事を。

――――



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/03(日) 02:52:45.14 ID:OxQ1FTtzO


第三話「月まで届け。真赤な叫び」



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