( ・∀・)見つめているようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:12:54.32 ID:a4Q0WM4A0
あの部屋。白い部屋の中だ。
ソファーに座った男性は、上体をのけぞらせ、背中をポキポキと鳴らした。

( ・∀・)「・・・・ふー」

彼はまた、テレビを見る。いや、見なければならないのだろう。
ポケットからタバコを取り出し、しばらく迷ったあと、結局それをしまった。

( ・∀・)「さて・・・」

テレビ画面。そこには、ある部屋が映っている。
この部屋とは違う、もっと物であふれた、洒落た部屋だ。
そこを、天井から見下ろしている。

そんな映像が、画面には映っている。

( ・∀・)「・・・」

彼はテレビを見る。いや、見なければならない。

見つめなければならない。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:13:42.90 ID:a4Q0WM4A0
ケース・3


とあるアパートの一室。男性と女性が、クッションに座って話している。
といっても、女性のほうが一方的に話しているだけだ。
男性はただただ、それに相槌を打っている。
小さな猫足テーブルの上には、空になったアイスの容器が数個、乗っている。

(*゚ー゚)「あのさー」

(,,゚Д゚)「・・・ああ」

(*゚ー゚)「ギコ君、ほんとアイス好きだよねー」

(,,゚Д゚)「・・・ああ」

(*゚ー゚)「キミが家に来ると、いっつもアイス無くなっちゃうしー」

(,,゚Д゚)「・・・ああ」



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:15:10.75 ID:a4Q0WM4A0
(*゚ー゚)「それより聞いてよー。学校の友達がさー」

(,,゚Д゚)「・・・ああ」

(*゚ー゚)「・・・」

(,,゚Д゚)「・・・ああ」

(*゚ー゚)「ねえ・・・」

(,,゚Д゚)「・・・ああ」

(*゚ー゚)「・・・」

(,,゚Д゚)「・・・ああ



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:17:16.35 ID:a4Q0WM4A0
ギコと呼ばれた男性。二十歳ほどだろうか。

彼はひたすら、目の前の女性の「眼」を見ている。
口を半開きにして、芸術作品を見るような目で、彼女の「眼」を見ている。

(*゚ー゚)「・・・私、シャワー浴びてくるね」

(,,゚Д゚)「・・・ああ・・・・・え?」

急に立ち上がった女性に、彼は初めて「・・・ああ」以外の返事を返した。

(*゚ー゚)「ちょっと時間がかかるかもしれない」

(,,゚Д゚)「ええー・・・・・・あ、うん。待ってるよ」

そして、彼女は浴室へ消えた。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:18:27.87 ID:a4Q0WM4A0
(#゚Д゚)「・・・くそ!」

シャワーの音を確認して、ギコは悪態をついた。
どうやら、彼女の「眼」を見れなくなったことが、相当悔しいらしい。

(#゚Д゚)「・・・」

彼らは付き合っている。
だが、ギコは彼女のことを好きではない。
彼女の「眼」を愛しているのだ。

(,,゚Д゚)「・・・ああー」

あの美しい瞳を眺めているだけでいい。まるで宝石のようだ。
深い青。それを、穢れなき純白が取り囲んでいる。
いままでに、あれほど心を動かされる「眼」を、見たことが無い。

彼はそう思っていた。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:21:58.76 ID:a4Q0WM4A0
(,,゚Д゚)「いや待て・・・」

本当にいいのか?見ているだけで、眺めているだけで、本当に自分は満足なのか?

(,,゚Д゚)「違う・・・」

手に入れたくはないか?自分のものにしたくはないか?
今、あの「眼」は彼女のものだ。
あれほど価値のあるものを、あんな女に持たせたままでいいのか?

(,,゚Д゚)「そうだ・・・あんなクソ女・・・・・ブタに真珠だ」

自分は、あの女が嫌いだ。
何かあるとすぐ泣くし、外にで出ると、人目もはばからずに引っ付いてくる。
料理も下手だし、胸もない。

あんなやつがあの「眼」を持つ資格はない。
自分こそ、あれを手に入れるべきだ。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:23:35.12 ID:a4Q0WM4A0
(,,゚Д゚)「もらおう・・・あれを、もらおう」

しかし、「くれ」と言って簡単にくれるだろうか。
無理だ。くれるはずがない。自分だったら、絶対にいやだ。

(,,゚Д゚)「なら・・・奪おう」

よし、奪い取ろう。相手は女だ。力でねじ伏せれば、楽勝だ。
眼を傷つけずに取り出す方法を、考えておかないと。

どうする?包丁か?いや、あれは刃が大きい。危険だ。
ハンバーグを切り分けるナイフなんかどうだろう。

(,,゚Д゚)「うーむ・・・」

フォーク・・・スプーン・・・スプーン?いいんじゃないか?スプーン。
あれなら、すくい取るように「眼」を取り出せそうだ。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:24:58.10 ID:a4Q0WM4A0
(,,゚Д゚)「決めた!スプーンだ!」

喜びで、胸がいっぱいになった。
あれが自分のものになる。毎日見ることができる。
あの女の余計な顔を視界に入れずとも、鑑賞することができるんだ。

(,,゚Д゚)「スプーン、スプーン・・・」

ふと、アイスを食べたときに使った、安物のスプーンが目に入った。
さすがにこんなスプーンで「眼」を取り出そうとは思わない。
もっと高くて、金属でできた良いスプーンでなくてはいけない。

(,,゚Д゚)「いや・・・そうか!」



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:26:06.08 ID:a4Q0WM4A0
自分は天才だ。

「眼」を取り出して自分のものにしたとしても、やがて時間が経てば腐ってしまう。
そうなる前に、食べてしまおう。「眼」を食べるんだ。
さぞかしおいしいだろう。
大好物のアイスなんかよりも美味であることは間違いない。

間違いは、ないんだ。

(,,゚Д゚)「よく噛んで・・・飲み込むんだ」

そうすることによって、「眼」は自分の体内に取り込まれ、一体化する。
素晴らしい。自分が「眼」となるのだ。

(,,゚Д゚)「・・・ひひ」



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:27:45.16 ID:a4Q0WM4A0
さて、そろそろ彼女がシャワーから上がってくる頃だろう。
おっと、念のため包丁も用意しておこう。
暴れた時のためだ。「眼」は決して傷つけない。
腹か首でも切りつけて、おとなしくさせるんだ。
それから、「眼」を抉り出す。
傷つけないよう細心の注意を払いながら、視神経を優しく千切る。


『ギコくーん?ごめーん、待たせたー?』

浴室のドアの向こうから、くぐもった声が聞こえてきた。
ギコは包丁とスプーンを両手に握り、ドアが開くのを待ち構える。

(,,゚Д゚)「・・・ああ、待ったよ。待ったとも。さあ、早く―――――」

『えへへ、ごめんねー。ちょっと手間取っちゃってー』



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:29:07.33 ID:a4Q0WM4A0

ドアが開き、ギコの彼女が出てきた。
バスタオルを身体に巻いて、顔を赤く染めている。

飛び掛ろうとしたギコは、彼女を見て動きを止めた。
そして絶句した。

(;゚Д゚)「・・・なん、で・・・・」

(* ー )「すごく痛かったんだからー。血も止まらなくてさー」

(;゚Д゚)「・・・なんなんだよ・・・」

(* ー )「あーあ、床汚しちゃった・・・あとで掃除しなきゃ・・・」

(;゚Д゚)「なん、なんだよ・・・なんで・・・!」

(* ー )「・・・ふふ」



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:30:37.28 ID:a4Q0WM4A0
彼女の両目から、両目があったところから、大量に噴き出す血液。
それが、床にボタボタとたれている。

(#゚Д゚)「なんで・・・・・・」

(#゚Д゚)「眼がねえんだよ!」

彼女が巻いているバスタオルは、胸から腹にかけて、真っ赤に染まっている。
そして彼女には、「眼」が無かった。

(* ー )「私ねー、気づいてたんだよ」

(#゚Д゚)「ああ!?」

(* ー )「ギコ君が・・・私を愛していないこと」

(#゚Д゚)「ふざけんなよ!てめえ!勝手なことしてんじゃねえよ、クソ女が!」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:31:58.74 ID:a4Q0WM4A0
(* ー )「あなたは、私の「眼」が好きなんだ・・・知ってたよ、ずっと前から」

(#゚Д゚)「うるせえ!チクショウ!なんでだよ・・・・どこに!」

(* ー )「でも、私は認めたくなかった・・・だから今日、賭けに出たの」

(* ー )「麻雀もパチンコも競馬もやったことのない私の、人生で最初の賭け」

(#゚Д゚)「どこへ!やった!俺の『眼』を、どこへやった!返せ!
    あれは俺のものだ!返せよ!」

ギコは血溜りを踏みつけ、しぃの首をつかんだ。
血管を圧迫されたせいか、彼女のからっぽの眼孔から、さらに血が噴出する。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:33:35.66 ID:a4Q0WM4A0
彼女はそれでも、ギコに話しかける。

(* ー )「眼を失った私を、ギコ君は愛してくれるのか。愛してくれないのか。賭けだよ。
    ねえ、ギコ君・・・」

(#゚Д゚)「だ!か!ら!言えよ!どこへやったんだよ!眼を!どこへやったんだよ!」

彼女は顔を伏せる。その拍子に、さらに血が、ボトッ、とこぼれ落ちた。

そして言う。

(* ー )「・・・食べた」




(#゚Д゚)「・・・・・・は?」



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:35:11.96 ID:a4Q0WM4A0
(* ー )「食べたよ。ちゃんとよく噛んで、噛み砕いて、飲み込んだよ。あなたの分は、残ってない」

(#゚Д゚)「は・・・」

(* ー )「私の料理より、ひどい味だったよ。それよりさ、ギコ君」

(#゚Д゚)「・・・」

(* ー )「私のこと、愛してる?眼のない私でも、愛してくれる?」

カランッと、金属の落ちる音が聞こえた。
ギコが何かを、取り落としたらしい。

(* ー )「愛してほしい・・・見た目なんかじゃなくて、モノなんかじゃなくて・・・私自身を」

(,,゚Д゚)「・・・」

(* ー )「愛して欲しい・・・それだけだよ」

(,,゚Д゚)「・・・しぃ」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:36:04.45 ID:a4Q0WM4A0
バスタオルから血が滴り落ちる音だけが、聞こえている。

(* ー )「・・・」

(,,゚Д゚)「・・・」

血溜りの横に、金属製のスプーンが、落ちている。
そう、スプーンだけだ。
もう、必要のないものだ。

(* ー )「あなたは今、何をしているの?何も見えないよ・・・私を、抱きしめようとしているの?
    ・・・私を愛せるか、悩んでいるの?」

(,,゚Д゚)「・・・あのな、しぃ」



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:38:02.46 ID:a4Q0WM4A0
――――いつだったか、大切にとっておいたアイスを、しぃに取られたことがあった。

必死に謝る彼女を前に、俺は笑って許してあげた。

(,,゚Д゚)『たかがアイス。また買ってくればいいことだよ。
    コンビニに行ってくるけど、他に買ってきて欲しい物ある?』

彼女はあの「眼」を潤ませて、「何もいらない。ギコ君がいれば、他には何も、いらないよ」
と言った。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:39:56.16 ID:a4Q0WM4A0
その日の夜は悔しさで眠れなかった。


きっと今夜も、眠れないだろう。


(,,゚Д゚)「お前の賭けは、人生で最初の賭けじゃない」

(* ー )「・・・ギコ君」

(,,゚Д゚)「お前の人生、最初で最後の賭けだ。それも、失敗だよ。このクソ女」

人間の物とは思えない形相で、だがしかし、ごく静かな声で、彼は言った。

(,,゚Д゚)「見えないなら教えてやる」



(,,゚Д゚)「俺は今、お前を殺そうとしているんだよ」



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:42:40.08 ID:a4Q0WM4A0


あるアパートの一室に、悲鳴と怒号が飛び交っている。
前者は女性のもの。後者は男性のものだ。

血が噴き出し、肉片が飛び散り、骨が砕ける。
華奢だった女性の身体は、瞬く間にバラバラになった。

悲鳴は数秒で収まったが、怒号はいつまでも響き渡った。

(#;Д;)「かえせよ!俺の!眼を、かえせよ!クソ女!ふざけんじゃねえ!チクショウ!」

その凄惨な部屋の様子を、何かが見つめていた。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:44:01.01 ID:a4Q0WM4A0


そう、何かだ。
アパートの屋根を突き抜けて、上空から見つめているものがいる。

何かが見ている。
上空から、見つめている。

その視線に気づいている者は、あまりにも少ない。

だが、見つめているんだ。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:45:30.17 ID:a4Q0WM4A0



( ・∀・)「・・・はっはっ」

男だ。あの、白い部屋の中でソファーに座っている男。
テレビの内容がおかしかったようで、初めて笑い声を上げた。

( ・∀・)「・・・ふふっ」

コーヒーを一口。しばらく葛藤してから、ついにタバコを吸い始めた。
禁煙でもしていたのだろうか。

( ・∀・)「そうなんだよなあ・・・どうかなあ・・・」

テレビ画面。やはり、先ほどとは違う光景を映している。
一口大きくタバコを吸って、煙を吐き出す。

( ・∀・)「これは・・・」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/15(金) 01:47:04.33 ID:a4Q0WM4A0
ある一軒家。それを、上空から捉えた映像。
その家の持ち主は、裕福な家庭のように思える。
敷地は広く、自動車も数台ある。

カメラがズームしていき、建物の屋根に映像が接近していく。
やがて屋根を通り過ぎ、屋内の様子が見えた。

この映像を映しているカメラは、どういう仕組みなのだろう。

分からない。

( ・∀・)「・・・」

一組の夫婦が寄り添っている。
彼は黙って、その映像を見つめている。



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