( ^ω^)ブーンが心を開くようです
- 108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 18:49:41.78 ID:gx1gBjB00
第3話
川 メ゚ -゚) 「……」
(´゚ω゚`)「……」
(゚A゚)「……」
ξ;凵G)ξ「……」
クーは目の前の状況を見て、何も言えなかった。
そこには何も残っていなかった。
散々暴れまわり、自分にダメージを与え、壁や電柱を破壊しまわった『影』は跡形もなく消え去っていた。
今、感じられるのは何かが焼け焦げたような匂いだけだったが、それもまた冬の風で徐々に打ち消されていく。
破壊された街並みに目を瞑れば、そこには日常の空間だけが残っていた。
そして、自分と少年少女3人は、この「事態」に決着をつけた少年に視線を注いでいた。
- 109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 18:50:46.50 ID:gx1gBjB00
何が起こったのかは、詳しくはわからなかった。
クー自身、不意打ちによって受けたダメージで頭が働かなかったため、きちんとした記憶を持っていない。
だがひとつだけ覚えているのは、今は座り込んで動かない少年が、手の平から何かボールのような「光るもの」を出して、『影』を消滅させたこと。
あれはいったい何だったんだろうか? あんなものは初めて見た。
『影』を一瞬にして消滅させる力? そんなもの、普通の人間が持っているはずが……
ハッ!とクーは思い至った。
もしかして、あの少年が『彼』……『人の子』?
- 114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 19:04:27.45 ID:gx1gBjB00
- ξ;凵G)ξ「ぶ、ブーン? どうしたの? 目を開けなさいよ……」
(´・ω・`)「脈はあるな。だが、肩の傷の出血がひどい」
('A`)「救急車呼ぶぞ!」
いつの間にか少年少女達が、少年――ブーンというらしい――に寄り添っていた。
どうやらブーンという少年は気を失っているらしい。
クーが見た限りでは命の危険がないようだったが、肩の傷は放置しておくと危ないかもしれない。
いや、待て。ここは彼を助けておいた方がいい。
もし彼の肩の傷が『影』によってつけられたものなら、それを治すのは普通の病院では無理だ。
川メ゚ -゚) 「ふむ……」
クーは、自分の頭から流れてくる血を上着の袖で拭き取りつつ、ポケットから携帯を取り出した。
アドレス帳から目的の電話番号を呼び出し、すぐさま通話ボタンを押す。
呼び出しコールが3回なり、相手が出た。
『はい』
川 ゚ -゚) 「クーだ。『影』は片付けた。民間人の負傷者が1名。『彼』と思われる人物かもしれない。至急回収を頼む」
『わかりました。5分後にはそちらに着きます』
簡単な会話を済ませて、電話を切る。
- 115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 19:06:31.75 ID:gx1gBjB00
- 次にクーは、携帯電話を耳に当てている少年の肩に手を置いた。
救急車を呼んでいるのだろう、「は、はい。住所はニュー速町の……」という少年の声が聞こえた。
川 ゚ -゚) 「君」
('A`)「え、あ、はい?」
川 ゚ -゚) 「救急車は呼ばなくていい。私の仲間がもうすぐここに来る。彼らに任せておけばいい」
('A`)「え? いや、だけどブーンが……」
クーは少年の携帯を奪い取り、通話終了のボタンを押した。何か切羽詰った声が通話口から聞こえるが、気にしない。
('A`)「ちょ…」
川 ゚ -゚) 「任せてもらえればいい。病院に行くよりも確実に治すことができるから」
クーは少年に携帯を返すと、今度はブーンという少年の方へと近寄った。
「ブーン! ブーン!」と呼びかけ続けている少女。彼女は自分に気がつかない。
その一方で彼の傷口を押さえて止血しているしょぼくれた少年が、怪訝そうな表情でこちらを見ていた。
(´・ω・`)「あなたはいったい……」
川 ゚ -゚) 「後で詳しく話す。それよりも、その傷はどうやって?」
(´・ω・`)「痴漢が包丁を持っていて、それで切られた傷です。傷は深くはないけど、出血がなかなか止まらなくて……
川 ゚ -゚) 「そうか……」
- 116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 19:08:21.58 ID:gx1gBjB00
クーはひとつ安心した。
『影』につけられた傷でないのなら、治る見込みは高い。仲間を呼ぶ必要もないだろう。
まあ、ここは仲間を呼んで確実に治す方法を選んだ方がいいか……
クーはいまだ目を覚まさない少年の顔を見た。
その顔は気を失う直前の恐怖がまだ残っているのか、ひどく歪んでいる。
まるで子供がカンシャクを起こしたかのような表情。何かを否定し、何かから逃げようとしているような。
こんな子供っぽい少年が、『彼』かもしれないのか……
いまだ信じられない可能性に、クーは苦い笑みを浮かべた。
ブーン、という少年の名前を覚えておこう。
そうこうしていると、車の音が近づいてくるのが聞こえた。
川 ゚ -゚) (来たな)
クーは迎えの準備をし始めつつ、周りを見渡した。
どうやら誰もこの事態を見ていなさそうだ。
- 118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 19:11:51.31 ID:gx1gBjB00
- ※
何も分からなかった。
ただ白い光がそこにはあった。
(´ω`)(なんだお……この光は……)
すごく綺麗な光。白くて透明で、丸い風船のようになんだかふわふわとしている。
触れれば逃げ、離れれば追ってくる。まるでちょうちょのような光。
他には何もわからなかった。わかろうとも思わなかった。
ただその白い光を見ていれば、ブーンは幸せだった。
他には何も気にならなかった。
( ´ω`)(何か大事なことがあった気がするお……けど、別にいいお)
『それ』はいったいどこにいったのか?
自分やツン達はどうなったのか?
あの強い女性はいったい何者なのか?
そんなことがどうでもいいと思えるほどの白い光が、目の前に広がっている。
- 119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 19:13:57.83 ID:gx1gBjB00
( ´ω`)(お……?)
だが、それも長くは続かなかった。
徐々に周りが黒く塗り固められていく。
白い光は徐々に薄れていき、自分の目は何も見えなくなっていく。
目覚めるのかな? とブーンはふと感じた。
これは夢だったのだろう。今から目が覚めるから、こうやって周りが黒くなっていくんだ。
夢か。夢ならもっと見ていたいなあ、この光は。
黒い影はすでに視界全体を覆いつくした。ブーンは目を瞑り、5秒だけ時間を数えて開けた。
( −ω−)「……お?」
まず見えたのは、白い天井。
タイル状の、なんの変哲もない白くて綺麗な天井。
少し目を動かしてみると、自分に白い布団が被せられているのがわかった。どうやら自分はベッドに寝かされているらしい。
目だけを動かして周りを見てみる。棚、テレビ、花瓶に入った花、白いドア。
徐々に見えてくる風景は、自分がイメージしている「病院の個室」とぴったりと一致していた。
- 120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 19:15:45.07 ID:gx1gBjB00
ちょっと身体を動かそうとしてみる。
だが動かない。なんだか鉛を乗せられたかのように、身体がぴくりとも動かない。
金縛りというやつだろうか? 頭が目覚めているのに、身体の筋肉は休んでいる状態。それが金縛りと聞いた。
対処方法は、とにかく待つこと。身体が完全に目覚めるまで待っているしかない、と昔ショボンに聞いた。
( ^ω^)「お……口はきけるお……」
声を出してみると、案外大きい自分の声に驚いた。
いや違うな。この部屋があまりにも静か過ぎて、余計に自分の声が響いてしまうのだ。
頭と口だけは働き、他の部分は動かない。そんな時間をブーンは刻々と過ごしていく。
と、そこで突然部屋のドアが開いて、ブーンはびくりと身体を震わせた。
入ってきたのは小柄な女性。
白いセーターと白いズボンを着ている彼女は、こちらを見て柔らかな笑顔を浮かべる。
タン、タン、という足音が静かな部屋に響き渡り、女性はブーンのベッドの横に立った。
(*゚ー゚)「……」
( ^ω^)「……誰だお?」
- 121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 19:18:46.96 ID:gx1gBjB00
女性は立ち尽くしたままで何も喋らなかった。
静かにこちらを見下ろしている。
その顔はいまだ柔和な笑みを浮かべており、まるで母親が子供に向けて笑いかけているかのようだった。
(*゚ー゚)「……はじめまして」
女性が口を開いた。
( ^ω^)「は、はじめましてだお! 君は誰なんだお?」
(*゚ー゚)「私は……あなたの従者です」
従者?
意味がわからず、ブーンは眉をひそめて「ど、どういう意味だお?」と聞き返した。
だが女性は笑みを浮かべるだけで、何も答えない。
なんだ? この女性はいったい誰なんだ?
(*゚ー゚)「私はあなたの従者であり、道しるべであり、ゲシュタルトです」
( ^ω^)「げ、げしゅたると?」
なんだ? なんなんだ?
この女性はいったい何を言っているのだろうか?
言っている言葉の意味すら分からず、ブーンは首をひねった。
- 127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 19:44:52.10 ID:gx1gBjB00
( ^ω^)「君の名前はなんなんだお?」
(*゚ー゚)「名など必要ありません。意味を持つだけの存在ですから」
やっぱりわからない。
まるで学校の先生の言葉をもっと難しくしたかのような話に、ブーンは混乱した。いったいなんなんだ……
(*゚ー゚)「あなたはこれから、様々な可能性の中で1つの道を選ばなくてはなりません。
私はあなたに付き従い、全ての道を示します。パプテスマはすでに与えられました」
(;^ω^)「意味がわからないお! いったい君は何者なんだお!」
質問には答えず、女性はブーンの額に右手を置いた。優しく、子供をあやすかのような動作で。
(*゚ー゚)「あなたと私に、人の祝福があらんことを……」
その言葉と同時に、ブーンは自分の意識がなくなっていくことを自覚した。この女性の手の平が自分の眠りを誘っているかのようだった。
最後に再び女性の微笑が垣間見れて、ブーンは意識を手放した。
- 131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 20:03:15.57 ID:gx1gBjB00
- ※
川 ゚ -゚) 「――『影』が現れた状況と、ブーンという少年についての報告は以上です」
男「ふむ……」
クーは暗い部屋で、またこの男と話し合いをしていた。
机を挟んだ上司と部下として、先ほどの出くわした「事態」についての説明をしていた。
異様に強かった『影』と、不思議な力を使ったブーン。
それらの話をした後、男は思案顔で腕を組んだ。
男「可能性はあるかもしれない。その光の弾を出した少年だが……それがどのようにして出されたのかわからなかったのかい?」
川 ゚ -゚) 「はい。戦闘による負傷のため、意識がはっきりとしておりませんでした。
ただ感覚としては、私よりもしぃの能力に近いものがあると思われます」
男「しぃ君か……話を聞く限りでは、しぃ君とはまた違う能力だと思われるけどね」
川 ゚ -゚) 「その可能性もあります。何にしろ、彼の能力は今のところ不明です」
男は頭を掻いて、うなりながら考え事を始める。
この上司は考え事をする時、頭を掻く癖がある。
難しい問題になればなるほど、何度も頭を掻くのだが、この時彼は十数回頭を掻いた。
それほど判断に困っているのだろう。
- 133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 20:08:06.36 ID:gx1gBjB00
- と、何か思いついたのか、男が机の上の電話機の内線ボタンのひとつを押した。
「しぃ君を呼んでくれ」というのは、おそらく外で待機している秘書に向けて言った言葉だろう。
数分待つと、ドアがノックされる音がした。
男が入るように告げると、ドアがゆっくりと開き、1人の女性が部屋に入る。
しぃ。自分と同じ組織に属する仲間。数多くの同僚の中でも、自分がもっとも仲良くしている女性だった。
(*゚ー゚)「お呼びですか?」
しぃは紺色のスーツに身を包み、かわいらしくお辞儀をしながら用件を尋ねる。
男は再び席につきつつ、「少し聞きたいことがあるんだ」と言った。
男「あの肩に怪我をした少年――ブーン君なんだが、確かあの傷は君が治したんだな?」
(*゚ー゚)「はい。少々出血が多かったものの、今はほとんど治っています。おそらく今日中には家に帰ることができるでしょう」
男「うん、それはいいんだ……聞きたいのはね、彼を治療している途中、何か変わったことは感じなかったかい?」
(*゚ー゚)「変わったこと、ですか? そうですね……」
しぃが目を伏せて考え込む。
- 135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 20:12:17.26 ID:gx1gBjB00
川 ゚ -゚) 「彼が『人の子』である可能性が出てきているんだ。どんな些細なことでもいいんだが……」
少し口を挟んでみる。
(*゚ー゚)「そうなんですか? けど……あまり普通の人と変わりがないように思いました。
私が『気』を送り込んでも、拒絶反応のひとつも示しませんでしたし……」
しぃが困惑した顔で答える。きっとあんな少年が『人の子』であるかもしれないという事実に戸惑っているのだろう。
自分だって同じだ。まさか何年も前から危惧されていた存在が、まさか彼のような少年であるはずがない……そう思いたかった。
男はしぃの話をメモに取り終えた後、顔を上げて笑顔を浮かべた。
男「うん、そうか……ありがとう」
(*゚ー゚)「いえ、用件は以上で?」
男「ああ。自分の持ち場に戻ってくれ」
(*゚ー゚)「はい。では、これから病室の方を回りますので……」
男「ん? ちょっと待ってくれ」
部屋を出ようとするしぃを、男は呼び止めた。
- 136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 20:16:06.46 ID:gx1gBjB00
- しぃは「はい?」と首をかしげる。
男「これから病室を回るのかい? なら、少年の所にも?」
(*゚ー゚)「はい。友達の方達も一緒にいるので、彼らに怪我の説明をしようと思っていたのですが」
男「ふむ……ちょうどいい。私達も一緒に行こう。今回のことに関する説明もしたいしね……そうだね? クー君」
川 ゚ -゚) 「はい。彼が『人の子』である可能性がある以上、保護を考えなければならないかもしれませんし」
男「だね。じゃあ、行こうか」
男はしぃとクーの背中を押して、部屋の外へと向かった。
クーはいつまでも軽いこの上司に不安感を覚えつつも、もう「事態」が始まっているこの現状を鑑みて、改めてため息をついた。
やれやれ、これから忙しくなりそうだ。
第3話 完
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