( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
2: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/17(火) 16:35:01.52 ID:L8OxtIBI0
  
第5話

( ^ω^)「……おいすー」
('A`)「おう……」
(´・ω・`)「おはよう……」

朝。ブーン達は目覚ましの音に目が覚めると、まっさきに挨拶をした。
外はすがすがしい朝を迎えていたが、なんだかこちらは精神が疲れていた。

結局昨日の夜は、ドクオの部屋で男3人仲良く雑魚寝した。
ショボンとドクオが「掘る」「掘らない」の格闘をしていたのは置いてといて、ブーン達はそれぞれあまり眠れない夜を過ごしていた。

最初は3人で学校での話やテレビの話をしていたが、寝る頃になると誰も喋らなくなる。
ブーン自身、その日起こった出来事について考えることで頭が一杯で、喋る余裕などなくなっていた。きっと他の2人も同じだったのだろう。

結局寝たのは夜中の4時ぐらいになってしまった。

そのため、自分もドクオもショボンも、目の下に黒い隈を浮かばせていたのだった。

ドクオの部屋がある2階から下に降り(ドクオの家は一戸建てだ)、居間に入る。
するとそこにはツンが1人でソファに座っていた。



  
3: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/17(火) 16:36:54.20 ID:L8OxtIBI0
  

ツンはブーン達とは違って、この居間で寝床を敷いていた。
無論、『男と寝るわけにはいかない』という彼女の希望に沿った結果だ。

ちなみに彼女は風呂やら着替えやらを、一度自分の家に帰って済ませてきている。
親にどういう言い訳をしたのか不思議だったが、彼女曰く「口八丁でなんとかなるものよ」らしい。

ツンは昨日の夜中2時ぐらいまでブーン達と一緒に喋っていたが、それからは下にいって寝てしまったと思っていた。

だが、見たところ布団を使った形跡はなく、どうやら彼女も眠れない夜を過ごしていたらしい。

ξ゚听)ξ「……」

( ^ω^)「ツン?」

買プ听)ξ「あ!……なんだ、起きてたの? 早いわね」

テレビもつけずに1人で何をしていたの? とは聞かなかった。
きっとツンも色々と思うことがあったのだろう。目の下の隈を見れば分かる。



  
4: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/17(火) 16:38:43.88 ID:L8OxtIBI0
  

ブーン達はまず朝食を作り始めた。
昨日は晩御飯を食べることができなかった。食べるような気分になれなかったのだ。
そのため、今はものすごくお腹が空いていた。

ドクオの家の冷蔵庫から少々材料を拝借して、ブーン達は共同作業で朝食を作った。

今日の朝のメニューは白米と焼き魚と味噌汁、漬け物だ。ほとんどがツンとショボンが作ったもので、自分とドクオは役立たずもいいところだった。

( ^ω^)「うはwwwwこの焼き魚テラウマスwwwwwツンが作ったのかお? これならすぐにお嫁にいけるお」

ξ゚听)ξ「残念でした。それはショボンが作ったのよ」

(´・ω・`)「ありがとう、ブーン。よかったら僕の嫁に)ry」

( ^ω^)「だが断る」

腹を膨らませると、だんだんとテンションが戻ってきた。
友達と喋ったり、普通の朝ごはんを食べたり……
日常的な生活を送っていくうちに、昨日のことを忘れられるようになってくる。



  
6: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/17(火) 16:39:46.22 ID:L8OxtIBI0
  

('A`)「さて、学校に行くか」

( ^ω^)「今日も遅刻しないですむお」

ξ゚听)ξ「あんたが3日連続遅刻しないのも珍しいわね」

(´・ω・`)「やる気があるのはいいことだよ。その調子で僕と)ry」

( ^ω^)「だが断る」

昨日着ていたものと同じ制服とシャツを着て(ツンは着替えを持ってきていたが)、ブーン達は学校へと向かった。

学校の授業の話をしたり、今日の昼ごはんはどうするか相談したり……

僕達の時間は、だんだんと円の形へと復元していく。



  
7: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/17(火) 16:41:50.95 ID:L8OxtIBI0
  


とあるビルの一室。
狭いけれども、自分だけにあてがわれた仕事用の部屋――いわば専用の「雑務室」にて、クーは1本の電話を受け取っていた。
灰色のテーブルと椅子、そして折りたたみベッドでしかない質素な部屋を眺めながら、クーは通話口から聞こえる神妙な声に耳を傾けていた。

『――というわけです。おそらく、今日の内に動きがあるかと』

川 ゚ -゚) 「そうか……昨日の出来事は隠蔽できそうか?」

『全力で行っています。報道やネットで漏れることはありません。ただ、口コミの場合は完全に行うことは難しいかと』

川 ゚ -゚) 「私がとっさに回りを見渡した限りでは目撃者はいなかったはずだがな……監視は行っているな? 彼らの様子はどうだ?」

『普通に学校へ通っているように見えますが、どうも他の生徒と距離を置いているように見えます』

川 ゚ -゚) 「そうか……」

それも仕方ない、とクーは思った。
あんな出来事に巻き込まれた後なのだ。普通の日常に少し違和感を覚えるのも無理はない。
異常な事態に陥っていた人間が普通の生活に馴染むのは困難なこと。
たとえば、戦争に行った人間が、国に戻った後「戦争の後遺症」に悩まされていたりするように。



  
8: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/17(火) 16:43:58.26 ID:L8OxtIBI0
  

川 ゚ -゚) 「じゃあ、引き続き監視を続けてくれ」

『わかりました』

電話が切れて、クーは受話器を置いた。
そして、大きいため息をつき、自分は悪い人間だなと思った。

ブーン達に「これ以上干渉しない」と言ったのに、結局自分達は彼らに監視をつけている。
本当はこんなことしたくはないというのが本音だが、仕方ないのだ。やらなければならない理由があるのだから。

クーは椅子から立ち上がり、部屋を出た。
廊下には誰もいなかった。まだ朝の8時だからなのだろう。他のが起きてくるにはまだまだ早い。
クーはゆっくりと廊下を歩き続ける。

ひとつのドアの前に立った。『所長室』という看板が掲げられているそのドアの前。
きっと今の時間起きているのは、自分と、この部屋の主ぐらいなものだろう。

川 ゚ -゚) 「失礼します」

クーは静かにドアを開けて、部屋に入った。中は、意外にも電気が点いていて明るかった。
暗い部屋が好みのこの人物にしては珍しいことだった。



  
9: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/17(火) 16:46:02.78 ID:L8OxtIBI0
  

狐「はい……はい。それは分かっています。けれども私達にも事情というものがありまして……」

ブーン達には『狐』と名乗り、自分達には『所長』と呼ばれている部屋の主は、ソファに寝転びながら電話をしていた。
部屋が明るいのはこのせいか。

狐「わかりました、はい……はい。大丈夫です。被害を出すような真似はしませんので……はい、それでは」

上司は電話を切り、ひとつ息を吐いて「あぁ〜……」と声をあげた。
この男にしては珍しく疲れているのだろう。

川 ゚ -゚) 「所長」

狐「おや? 何か用かい?」

狐はいまだ寝転びながら、こちらに視線を合わせてきた。
どうもやる気と行動のギャップが激しい男だ、この人は。



  
10: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/17(火) 16:48:06.66 ID:L8OxtIBI0
  

川 ゚ -゚) 「電話ですか?」

狐「ああ……まあね。心配性のリーダー様からだよ。『どうして【重要人物】を帰すような真似をしたんだ!』ってね。ずいぶんお怒りのようだ」

川 ゚ -゚) 「きっと中国やアメリカ辺りから牽制球でも受けたんですよ」

狐「だろうね……もうすこし冷静になってほしいんだけどねえ。で、、用は?」

川 ゚ -゚) 「監視報告です。今のところ異常はなし。『影』の気配もありません」

狐「そうかい。ご苦労様」

狐は立ち上がり、懐からタバコの箱を取り出した。
1本口に加え、ライターを探す。

だがライターを見つけた所で、こちらの表情に気付いたのか「あ、ごめんごめん」と謝りながらタバコを箱に戻した。

狐「君がタバコ嫌いだってことを忘れてたよ」

笑いながらそう言う狐に、じと目で彼を見ていたクーは「タバコ、やめたのでは?」と質問を投げかけた。

狐「ストレスが溜まると吸いたくなるものなんだよ」

タバコの箱をポケットにしまいこみつつ、狐は苦笑して答えた。



  
11: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/17(火) 16:50:07.75 ID:L8OxtIBI0
  

川 ゚ -゚) 「……叱られたからですか?」

狐「それもあるけどね……誰かの運命を変えてしまうようなことをやる時は、いつもストレスが溜まるものなんだよ、私は」

それがブーン達のことを言っているのはすぐにわかった。
きっと彼も、監視体制を敷いていることに罪悪感を覚えているに違いない。

私と同じで。

狐「思うんだよ……彼らは彼らなりに日常を持っている。普通の、ごく平凡としたものだ。
  学校に通って、勉強をして、恋人を作って、将来に夢を見て……そんな彼らの日常を変えてまで、守りたいものを守る権利が私達にはあるのか、ってね」

川 ゚ -゚) 「しかし、これは必要な体制です。万が一のことがあれば、本当に守りたいものが守れません」

こう言いつつ、心の底では(これは偽善だな)とクーは思っていた。

万が一? 必要?
まだ起こりもしていない危機に不安を覚えて、人を不幸にすることなんだぞ?
これは必要なことなのだろうか? あらゆる人を不幸にしないことが必要なんじゃないのか?

理屈ではなく感情から発する疑問だった。クーは最近、この疑問に悩まされ続けていた。
答えはどうやっても見つからず、いつも堂々巡りに終わってしまう。
合理と人情。ふたつの意思がせめぎあっている。



  
12: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/17(火) 16:52:06.82 ID:L8OxtIBI0
  

それは狐も同じなのだろう。
「まあね。だから、私はタバコに逃げるんだよ」と、再びタバコの箱を取り出しながら言った狐の顔は苦渋に満ちていた。

狐「必要なのだから仕方ないとはわかってる。けど考えてしまうんだ。もっと彼らの日常に影響を与えない方法はないものか……運命を変えたくはないからね」

「けど」

突然、第三者の声が割り込み、クーと狐は同時に部屋のドアへと視線を移した。
そこには私服姿で、今家からここにやってきたばかりという格好のしぃが立っていた。

(*゚ー゚)「けど、運命は私達が変えずとも動いてしまいます」

狐「……」
川 ゚ -゚) 「……」

(*゚ー゚)「なら、よりよい方向へと導くのが私達の仕事……私はそう思うようにしています。これも一種の逃げかもしれませんが」

思わず彼女の顔を凝視してしまう。
彼女は確かな信念を持った勇ましい顔でこちらを見返してきて、クーは不自然に視線を逸らした。



  
13: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/17(火) 16:54:07.35 ID:L8OxtIBI0
  

しぃもまた、自分と同じ疑問に苦しんでいたのだろうか?
もしくは『あんな』状態の姉を持っているから、そういう結論に至ったのだろうか?

おそらく後者なのだろう。
彼女の姉の運命は、誰が何かをしたわけでもなく『変わってしまった』。
こういう答えに至らない限り、きっとしぃは罪悪感に耐えられなくなってしまうのだろう。

ならば、自分の答えは?
クーはそう考えて、何も思いつけない自分に呆れた。どうして答えも出せないまま行動しているのだろう。

いや、もしかしたら、ため息をついて逃げに走ることが自分の答えなのかもしれない。
なんて貧相な答えだろう。

狐「そうだね……そういう考えを持ってないと、こういう仕事はできないのかもだね……」

狐の声が部屋に響いた。
その顔は非常にしょぼくれていて、きっと自分もあんな顔をしているのだろうと、クーは思った。



  
14: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/17(火) 16:55:55.11 ID:L8OxtIBI0
  



その日は何事もなく過ぎていった。
あんな出来事があったなんて思えないほど、穏やかな時間が流れていた。

クラスメイトは相変わらず明るかったし、数学の先生は昨日と変わらず厳しい態度で授業を行っている。
体育の授業は長距離走だったため、寒空の下をひいこら言いながら走った。そのせいで次の国語の時間は寝てしまった。

昼休みはいつもどおりツン・ショボン・ドクオの3人と一緒に食べて、午後からの授業も普段どおりに受けた。

けれども、違っていた。何かが違っていた。

その感覚は徐々に心を蝕んできて、外に向かう活力を失わせる。
ツン達以外のクラスメイトと喋る気を失くさせ、授業中も休み時間の間もぼーっとした時間を過ごしてしまう。

ちゃんと日常に戻ったと思ったのに、どうしてこんなことになるんだ?



  
15: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/17(火) 16:57:42.45 ID:L8OxtIBI0
  

「ねえ、ツン? ちょっと元気なくない?」
「風邪でもひいた?」
ξ゚听)ξ「え? そ、そう? ちょっと寝不足だから、眠たいだけ。大丈夫大丈夫」

「ドクオー。頼んでたDVDは?」
('A`)「あ、すまねえ……忘れたわ」
「珍しいな〜。お前が忘れるなんて」

「ショボンさん! 今日、部活に助っ人に来てくれませんか!」
(´・ω・`)「ん……すまない。今日はやる気が出ないんだ」

ツンもドクオもショボンも、そして自分も、みんな違和感の波に打たれていた。

その違和感を覚える原因は何なのか……

環境や状況の方は何も変わっていない。学校もクラスメイトも、みんな普通だ。
普通に暮らして、普通に喋っている。『影』だとか『人の子』だとか知っている人だっていない。

ということは、変わってしまったのは「自分達」なのだ。
あんなことを知ってしまった後に、こんな普通の日常に関わることはできない。

『状況』は変わってしまった。

僕達の内にある世界はまったく別なものに変化してしまった。

そんな違和感が僕達の中にある。



  
16: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/17(火) 16:59:39.02 ID:L8OxtIBI0
  



( ^ω^)「やっぱり遊びにいけないのかお?」

('A`)「あ〜、そうだなあ」

(´・ω・`)「どうも気分が乗らないんだよね」

ξ゚听)ξ「私、さすがに2日連続で帰りが遅くなるのはまずいのよね」

放課後。学校の校門前。曇りがちな天気で、太陽の姿はあまり見られない中。

大勢の生徒が下校していくのを横目にしながら、ブーン達はどこかに行こうか行くまいかを決めるために、長い間話し合っていた。

意見はどうにも分かれてしまっている。
ブーンはなるべく遊びに行きたかった。胸の内にある違和感を取り除くため、何も考えずに遊びまくりたかった。
だから、放課後になって3人に「どこかに遊びに行かないかお?」と聞いてみたのだ。

けれども、3人はあまり乗り気ではなかった。
ドクオはどちらでもいいみたいだったが、特にショボンとツンが遊びに行きたがらない。
「やる気が出ない」「めんどう」「早く帰りたい」。
そんな台詞が次々と飛び出し、なかなか結論が出ない。



  
17: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/17(火) 17:01:40.75 ID:L8OxtIBI0
  

('A`)「あ〜、じゃあこうしようぜ。明日は土曜だから、明日の朝から遊びまくるってことで」

ドクオの提案はなかなかよかったけれども、ブーンは賛成できなかった。
明日、一日中遊び呆けるというのもいいだろう。きっと嫌なことも面倒なことも忘れて、楽しい時間を過ごせるに違いない。

けれども、『明日遊ぶ』というイメージが自分の中にまったく存在しないのだ。
本当に明日がやってくるのか? 
いつもどおりに朝起きて、いつもどおりにみんなと遊べるのか?

それが分からず、それぐらいなら今遊んでしまいたかった。

ξ゚听)ξ「それならいいわよ」
(´・ω・`)「うん、明日なら」

('A`)「じゃあ、決定だ。いいだろう、ブーン?」

( ^ω^)「……いいお」

でも、自分の思いを言葉には出せなかった。出すのが怖かった。

こんなことを言えば、みんなの違和感をさらに高めてしまうだけだから。
そんなことを言えば、この日常がすぐに壊れてしまうから。



  
18: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/17(火) 17:03:28.62 ID:L8OxtIBI0
  

今自分が歩いているのは、ガラスのような道の上なのだ。叩けばすぐに割れて、下のなんだかわからない世界に引き込まれてしまう。

だから、今は何も言わない。言えない。

普通に日常に生きていくことを演じよう。


演じる?
自分は演じているのか? なら、本当の自分はどんなだ?

(´・ω・`)「じゃあ、明日の朝10時にここで会おう」
ξ゚听)ξ「ブーン、寝坊するんじゃないわよ」
('A`)「言いだしっぺなんだからな」

( ^ω^)「わかったお。また明日会うんだお! 絶対だお!」

そうしてドクオ達とはお別れした。
2日連続で放課後遊びに行かなかったのは初めてのことだった

第5話 完



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