( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
2: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:10:37.06 ID:Sxst+Bdv0
  
第6話

( ´ω`)(……)

孤児院。ブーンとヒッキーの共同部屋。

昼から夜まで、ブーンは1人、部屋の中に閉じこもっていた。
ヒッキーが親戚の家に行っているため、今日はずっと1人だ。
部屋はいつもよりも広く感じられた。

ブーンは何も考えていなかった。
考えたくもなかった、という方が正しいかもしれない。色々なことを考えすぎることで、頭が混乱してしまうのを避けていた。

もうクーや狐、しぃ達のことを考えるのは嫌だった。
『影』やら『人の子』やらについて考えるのも嫌だった。
明日一緒に遊ぶドクオたちについて考えるのも嫌だった。

とにかく、思考を手放していたかったのだ。ずっと、ずっと。



  
5: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:12:22.22 ID:Sxst+Bdv0
  

そういえば、引きこもり時代の時もこんな感じだったような気がする。
あの頃は未来について考えるのがとにかく嫌だった。

明日学校に行けばいじめられる。来年高校を卒業しても引きこもりのまま。何十年後かにはきっとホームレスになっているだろう。そんな考えばかり。
未来について考えることが憂鬱で、とにかくその考えを頭の隅に追いやっていた。

そんな風に思考停止へと自分を追い込んでいるという点で、今の自分と引きこもっていた時の自分は同じだ。
ということは、やはり引きこもりをやめても自分は何も変わっていなかったということなのかもしれない。

/ ,' 3「ブーン、いるかの?」

ドアの外から荒巻院長の呼ぶ声が聞こえた。

( ^ω^)「……なんですお?」

ブーンはドア越しに彼の声に応えた。
荒巻の声はいつもと同じく、しゃがれていて落ち着いた声だった。久しぶりに荒巻の声を聞いたような気がする。



  
6: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:14:13.52 ID:Sxst+Bdv0
  

/ ,' 3「おまえにお客さんじゃ。学校の関係者と言っておるが、どうする?」

( ´ω`)「お客かお……?」

学校関係者、と聞いてブーンは不思議に思った。
いったいぜんたい、こんな時間に誰が何の用だろう? 時刻はもう午後9時を回っている。

( ^ω^)「僕が出るお。ちょっと待ってくれお」

ブーンは少し身なりを整えて、部屋を出た。
荒巻に案内されて、ブーンは玄関へと急ぐ。

その間「先日のことが学校にばれて事情を聞かれるのか?」とか「成績のことでも言いにきたのだろうか?」など、
学校関係者がやってくる理由について思案してみたが、どうももっともな理由が見つからなかった。

( ^ω^)「お待たせしましたお。何の用ですかお」

( ,,゚Д゚) 「いや、ちょっとした用事があって来たんだ。ゴラァ」

訪問者の顔を見て、瞬時にブーンは気がついた。

この人は学校関係者じゃない、と。

彼の緊張感を帯びた顔つきと、鷹のように鋭い目を見れば、こちらの世界の住人ではないとすぐに気がついた。



  
7: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:15:07.25 ID:Sxst+Bdv0
  

( ^ω^)「……」

( ,,゚Д゚) 「とりあえず、人気がない所で話さないか? ゴラァ」

( ^ω^)「そうするお」

ここで何かがあっては、孤児院のみんなに迷惑をかけてしまう。

そう思ったブーンは、荒巻に許可をもらい、謎の男と共に外へ出た。
どこか人気がない所……なるべく人に迷惑をかけない場所へと、ブーンは足を進めた。



  
9: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:17:21.61 ID:Sxst+Bdv0
  

見つけた場所は孤児院から歩いて30分ほどの緑地公園だった。

ただ、緑地公園と言っても一般公開はされていない。
開発を行っていたニュー速市が、あと一歩で完成という所で事業から撤退し、中はお粗末なバリケードで周りを囲われたまま、放置されているのだ。

昼間は小学生の格好の遊び場になっているが、夜は時々DQNのたまり場になるくらいで、ほとんど人気がない。
実際に、周りを見渡してみても人の気配がまったくしなかった。

ここなら何が起こっても大丈夫だ。

運動場のような開けた場所。その端の方のベンチにブーンと男は並んで座った。
薄着だったので寒さで凍えそうだったけれども、緊張感が先立ってどうでもよくなっていた。

( ^ω^)「それで……僕に何の用なんだお」

( ,,゚Д゚) 「ここまで来たら分かってるはずだろ? だからここまで来たんじゃねえのか?」

ブーンは沈黙を答えにした。

やっぱりそうなのか。
けど、どうしてそんなに自分を欲しがるのだろうか? 世界が危機に瀕しているから?
そんなの、みんなでなんとかして解決すればいいじゃないか。

どうして自分だけこんなことになるんだ。

ブーンは意味もない怒りに襲われそうになり、深呼吸してそれを押さえつけた。
今はこの人に帰ってもらうことが先だ。



  
10: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:19:36.75 ID:Sxst+Bdv0
  

( ^ω^)「……僕は何もできないし、何もするつもりはないお」

( ,,゚Д゚) 「そうとは思わない奴が大勢いるんだ。お前がどう考えようとな」

男は体躯がよく、背も高い。灰色のスーツの下にある筋肉は、自分の何倍もの力を発揮できるのだろう。
顔はおじさんそのものだったけれども、その眼はギラギラと鋭かった。一瞬の隙も逃さないような、まるで格闘家のような輝きを持っていた。

そんな眼を持っている人間が来るということは、やはり狐が言っていた「自分を狙う組織の誰か」であることは確実だった。

( ,,゚Д゚) 「さてと……俺と一緒に来てもらおうか、ゴラァ」

( ^ω^)「なんでだお……どうしてみんな、僕を狙うんだお!」

ブーンが叫ぶように言うと、男は唇の片方を吊り上げ、「へっ」と鼻で笑った。

( ,,゚Д゚) 「そんな事態になっちまったからだよ。もう元には戻れない、そんな事態が起こってるし、起ころうとしてんだよ」

( ^ω^)「僕は普通に生きたいだけなんだお……」

ブーンの呟きはとても小さく、相手には聞こえていないようだった。
男は少しの沈黙の後、再び口を開く。



  
12: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:21:40.11 ID:Sxst+Bdv0
  

( ,,゚Д゚) 「……とにかく一緒に来てもらうぜ、『人の子』かもしれないからな、おめえは」

『かもしれない』?
そういえば狐が言っていたような気がする。
自分が『人の子』だと確信されなくても、疑いをかけられるだけの証拠が十分にあると。
そして、それはドクオ・ツン・ショボンも同じだと……

( ^ω^)(だとしたら、みんなもこんな状況になっているのかお?……そんな……)

心配になり、みんなに心の底から謝りたくなったブーンは、しかし次の瞬間身体を硬直させた。
男が懐から黒い塊を取り出したからだ。

それは、テレビや映画でしか見たことがないもので、本物かどうかはわからないけれども……明らかに拳銃の形をしていた。

( ,,゚Д゚) 「とにかく、来てもらうぜ。脅すのは好きじゃないんだがな、ゴラァ」

ブーンの眉間に照準を合わせて、右手の拳銃を構える男。
ブーンは何も抵抗する気が起きず、呆然と立ち尽くしていた。逃げることも返事することもできなかった。
ただ無力感だけが身体中を貫いていた。

( ,,゚Д゚) 「返事は?」

( ´ω`)「……」

( ,,゚Д゚) 「だんまりかよ……ん?」



  
13: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:23:50.00 ID:Sxst+Bdv0
  

突然、男の顔色が変わった。
拳銃を持つ右手を動かさないまま、目だけで周りを確認している。
自分の周りに全神経を傾けていることが、ブーンの素人目でも分かった。

( ,,゚Д゚) 「ちっ……意外と早いじゃねえか」

男は舌打ちをして、憎々しそうに言った。

男はぶつぶつと何事かを呟きながら、再び周りを見渡す。
「1、2……」と何かを数えているようにも聞こえるが、ブーンが周りを見ても何もいなかった。
男にはいったい何が見えているのだろう?

( ,,゚Д゚) 「6人か……まぁ、なんとかなるか」

男がそう呟くと、次には大口を開けて大声でがなりだした。

( ,,゚Д゚) 「周りにいる奴ら!! そこから撃てば、こいつにも当たるぞ!! いいんだな! ゴラァ!」

男の声がこだました瞬間、一筋の赤い光が男の身体の上をなぞった。
細くて、はっきりとした線のような光。

映画で見たことがある。これは夜間照準用のレーザサイトだ。赤いレーザ光が照準を的確にする、だったか?

そう思うと同時に、6本の赤いレーザが男の身体の上を這った。



  
14: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:26:32.79 ID:Sxst+Bdv0
  

( ,,゚Д゚) 「ちっ! おめえはそこで伏せてろ!」

そう叫ぶと、男はいきなり走り出す。
直後、男が立っていた位置に火花がはじけ、ブーンは恐怖で腰が抜けた。

なんだ? 今のは?

走り出した男は、南の方角にある公営トイレの方へと向かっていった。
そこからは赤い光が出ておらず、敵がいないと思ったのだろう。
赤い光は主に北側の茂みから出ている。きっとそこに誰かがいるのだ。

ヒュン、という何かが通り抜けた音がしたと思った途端、走る男の後を追うように火花が飛び散っていく。
男がトイレの壁に隠れると、今度はトイレの壁の上を火花が飛び散り、鉄同士を当てたような硬質な音が次々と発せられていく。銃弾が着弾しているのだ。

間違いない。今、目の前で銃撃戦が行われている。こんな市街地の公園で。
銃弾の発射音が聞こえないのは、たぶん消音装置か何かつけているからなのだろう。これもゲームか何かで聞いたことがある。サプレッサーだったか?

ブーンは腰が抜けたまま動けず、口を開けっ放しにしてその光景を見ていた。



  
15: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:28:38.02 ID:Sxst+Bdv0
  

茂みの中から出てくる赤い光と、男が隠れているトイレの壁。
首を振るようにして左右を見て、ブーンは一層恐怖にかられた。

(;^ω^)(な、なんでこんな所で戦争みたいなことをやってるんだお!)

どうしてこんなことが起こっているのかまったく理解できず、ブーンはその場から動けなかった。

6本の赤いレーザはまだトイレの壁の上を這っていた。
男は長い間壁を背にして隠れていたが、銃弾の波が少し収まると、手だけを壁から出して銃の引き金を引く。

爆竹が爆発したような乾いた音が響いて、ブーンは身体を飛び跳ねさせた。

この音を聞くと、いっそう目の前で銃撃戦が展開されている現実を実感した。

(;^ω^)「ど、どうすればいいんだお……」

男はその場で伏せろと言ったが、正直早くここから逃げたい。
さっきからヒュンヒュンと銃弾が通りすぎる音が聞こえているのだ。怖く怖くて仕方がない。



  
16: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:31:39.02 ID:Sxst+Bdv0
  

けど、立ち上がれば銃弾が当たるかもしれないし……
自分を「捕まえる」ことが目的なのだろう、周りの人間は自分を避けて銃を撃っているようだが、それでも何かの間違いがあるかもしれない。

パンパン!という2発の銃声が聞こえて、またブーンはびくりと背筋を震わせた。
四の五の言ってられない。ここにいれば……死んでしまう!

( ^ω^)「に、逃げるお」

そう思って立ち上がると、不思議なことに茂み側からのレーザサイトの光が消えた。

ブーンは疑問に思って茂みへと目をこらすと、唐突にグギリという何かが折れ曲がった音が聞こえた。

( ^ω^)「な、なんだお?」

茂みの方は静かだった。何も聞こえず、何も見えない。さきほどの奇妙な音以外には、夜特有の静寂さが広がるだけだった。

そうしている間に、謎の男がトイレの壁から身を現して、中腰のままこちらへと走り寄ってきた。

( ,,゚Д゚) 「まずいな。奴が出るぞ。ここは逃げねえと」

( ^ω^)「奴? 奴ってなんだお?」

( ,,゚Д゚) 「議論している暇はねえ! 早く走るんだ!」

また、グギリという音が聞こえた。



  
17: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:33:54.35 ID:Sxst+Bdv0
  

(;^ω^)「こ、この音は何なんだお」

( ,,゚Д゚) 「ちっ、出るぞ。早く逃げねえからこういうことになるんだ」

グギリ ゴギリ

3回目、4回目の音が聞こえる。

それと同時に、茂みの中から人影が2つ飛び出してきた。
両方とも、ヘルメットと厚手のボディスーツみたいなものをつけていて、手には大きめのマシンガン?らしきものがあった。
テレビでイラク戦争の現地のVTRを見たが、そこに写っていた兵士のような格好をしていた。頭にはゴーグルのようなものもつけている。

2人の兵士みたいな人達は手に持つマシンガンをこちらには向けず、茂みへと向けていた。何やら奇声をあげながら。

兵士A「く、くそぉぉぉぉ!」

兵士B「あああああ!」

引き金を引く兵士達。

だが、それも意味をなさないのか、片方の兵士の頭が突如なくなった。
今度は何の音もなかった。

頭がなくなった兵士の身体が地面に倒れる。

これは……一緒だ! あれと!



  
18: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:35:50.19 ID:Sxst+Bdv0
  

兵士B「ああああああああ!」

1人残った兵士の前に、奴が現れた。

そう……『影』と呼ばれる黒い物体が、そこにはあったのだ。

兵士B「あああああ!!!!」

兵士は銃の引き金を引き続ける。
しかし、銃弾はまるで当たっていないかのように見えた。
『影』の後ろの木には銃痕がつけられていくのだが、『影』には何ひとつダメージを与えていない。

もしかして、銃弾がすり抜けているのか……?

( ,,゚Д゚) 「ったく……あんなもんは何も役にたたねえよ、奴には」

隣にいた男の、ため息混じりの声と共に、最後に残った兵士の頭が『影』に覆われ、そして消えた。
兵士の身体は地面へと倒れ、動かなくなった。

全てあの時と同じだった。痴漢男の頭が消えた、あの時と……



  
20: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:38:04.32 ID:Sxst+Bdv0
  

( ,,゚Д゚) 「めんどうなことになったな、ゴラァ」

( ^ω^)「ど、どうするんだお……」

( ,,゚Д゚) 「倒すしかねえな。お前は後ろに引っ込んでな。ゴラァ」

男がブーンの前に立つ。そして、懐から小さな弓を取り出した。
それは男の腕の半分もないような長さだった。ボウガンよりもまた小さい。

( ,,゚Д゚) 「携帯用しかねえが……仕方ねえ!」

男はまた懐に手を伸ばし、今度は矢を取り出す。

左手に弓、右手に矢を持ち、構える。
弦を思いっきりひっぱり、男は矢を放った。

影「ギャアアアアガカガイアエ!!!」

なぜか、それは当たった。

兵士の銃弾はすり抜けたのに、男の矢は当たったのだ。
間髪いれず、男が2つ目、3つ目の矢を放っていく。

全てが命中し、『影』の身体が少しひるんだ。

だが、



  
22: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:40:08.63 ID:Sxst+Bdv0
  

影「ガアアァァ!!!」

( ,,゚Д゚) 「ちっ、やっぱり無理か」

矢だけでは『影』は倒せなかった。
矢は刺さっているものの、致命傷にはなっていない。
男は『携帯用』と言っていたので、きっとそれほど攻撃力がないのだろう。

まずい。このままでは男も自分もやられてしまう。

(;^ω^)「ど、どうするお……」

『影』を倒せるような人……誰か、誰か助けを呼ばないといけない。

けど、いったい誰がいる……?

( ^ω^)「そ、そうだお!」

ブーンは思い出した。
『何かあったらここに電話をくれ』と言って、電話番号を渡してくれたクーのことを。

ブーンは急いでポケットから昨日もらった紙を取り出し、書かれていた番号に携帯で電話をする。
今は彼女を呼ぶしかない。彼女だけが頼りだった。



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