( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
2: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 22:24:16.81 ID:Sxst+Bdv0
  
第7話

カタカタ、とパソコンのキーボードを叩く音が聞こえる。
不規則に止まったり、長い時間続いたりしていて、少し集中して聞けば音楽にも聞こえなくはなかった。
目をつむり、その音に意識を集中してみる。

カタカタ、カタカタ。

狐「起きているんだろう?」

キーボードを叩いていた人物に声をかけられて、目を開けた。
まぶしい。部屋が明るい。
窓から日光が入ってきている。もう朝になっていたのか。

大きくあくびをして、身体を起こしてみる。
息を吐き、目をこすり、なんとか頭を覚醒させようとしてみた。
だが睡眠時間が足りないのか、なかなか意識がはっきりとしなかった。

狐「昨日はご苦労様だったね。報告が終わった途端に倒れるように寝てしまったから、そのソファで寝かせておいたよ」

すまない、手間をかけて、と言いかけて口をつぐんだ。
危ない危ない。仮にも相手は上司なのだ。ちゃんとした口調で話さないと、他の人間に示しがつかない。



  
3: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 22:26:21.56 ID:Sxst+Bdv0
  

川 ゚ -゚) 「すみません、お手数をかけて」

気を取り直して謝罪の言葉を口にしたクーは、ソファから降りて立ち上がった。
身体はまだライダースーツを着ていた。あのまま寝てしまったのか。

まあ、昨日の喧騒の中では仕方ない。

昨日は忙しかった。
突然行方知らずになったブーンを捜すために、捜査員と共に街を駆けずり回っていたのが、昨日の午後9時頃。
『影』に襲われていたブーンを助け、バイクでビルに戻ってきたのが午後11時。
ギコと名乗る謎の男や、倒れていた兵士の身元を確認するためにコンピュータをいじくり回し、ようやく形式上の報告書が出来上がったのが午前3時。

それから上司に報告書を提出して……そこで記憶がなくなっていた。
どうやら倒れてしまったらしい。

クーはため息をついた。あの程度で倒れてしまうとは軟弱な身体だ。
上司がコーヒーを淹れてきて、クーはお礼を言いつつそれを受け取り、一口飲む。
ブラックのコーヒーが身体中に染みわたった。



  
4: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 22:28:26.19 ID:Sxst+Bdv0
  

狐「『影』と戦ってすぐに調査と報告書作りだ。倒れてしまうのも無理はないさ」

川 ゚ -゚) 「はい……今は何時ですか?」

狐「午前7時。君が眠って3時間ぐらいかな……私も徹夜だったから、眠い眠い」

上司が笑ってそう言うが、あまり疲れの色は見えなかった。
日ごろの激務のおかげで、1日ぐらいの徹夜には慣れっこなのだろう。

昨日作った報告書が机の上にあるのを見て、クーはカップに入っていたコーヒーを一気飲みした。
少しだけ頭が冴えた気がした。これなら大丈夫。

さあ、話し合いの始まりだ。

狐「報告書、見たよ」

川 ゚ -゚) 「はい」

狐「ギコという男の正体は、結局わからずじまいかい?」

川 ゚ -゚) 「はい。政府のデータベースにも存在していませんでした」

狐「……ふむ、それなら君の推測通り、『赤坂』である可能性が高いなあ」



  
6: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 22:30:48.30 ID:Sxst+Bdv0
  
ギコ。
このビルのデータベースどころか、他のあらゆる所を調べても、その正体はわからなかった。
普通はそんなことはありえない。そんな扱いを受けるのはごく少数の人間に限られている。

ひとつは政府が隠したがっている者。
ひとつは裏家業を生業にしている者。
そして最後のひとつが、非公開組織の一員である者。

その3つのうち、ギコは「政府が隠したがっている者」だと、クーは推測を立てた。

狐「『赤坂』が動くとはねえ……」

川 ゚ -゚) 「少しは今回の出来事に関心があるということでしょう」

在日CIA、通称『赤坂』。
アメリカに本部を置き、東京の赤坂に拠点があるCIAの日本支部。諜報機関として、何十年間もこの日本で活動を続けている。
そこの調査員は、日本語を話し、日本人の顔をしているが、考え方や思想はまるっきりアメリカ式だとか。

まさか彼らが関わっているとは。これは予想外の出来事だった。

今回の出来事に、元々アメリカはあまり興味を示さなかった。
合理主義で通しているあの国だ。予言などという眉唾物を好むはずもない。
こちらから接触を試みてみても、気のいい返事は返してくれなかったぐらいだ。

だが、ここでギコという捜査員が派遣された。
しかも彼は『影』と戦う能力を持ち、『人の子』に関しても多少は知識があるようだった。
もしかすると、アメリカに興味がなかったというのはフェイクで、もっと以前から今回のことに関して調査をしていたのかもしれない。



  
7: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 22:33:00.29 ID:Sxst+Bdv0
  

狐「ま、いいよ、『赤坂』に関しては。私が見た限りでも、彼は敵ではないと思う。味方でもないけどね」

川 ゚ -゚) 「そうですか……なら、あの兵士はどう考えますか?」

狐「兵装や身なり、顔の感じを見れば……たぶん、フランス辺りの外人部隊じゃないかなあ。スコープ越しにしか見てないから、はっきりとはわからないけど」

川 ゚ -゚) 「私もほぼ同意見です……どうやら、世界中の国の調査員や兵士が送られてきそうですね」

狐「楽しくなってきた……とは言えない状況だね。
また『リーダー』に資金回してもらえないか相談しないと、私達がもたないなあ」

う〜、あんな体勢でずっといたから身体の節々が痛いなあ、という呟きと共に報告書を机にしまいこんだ上司は、ちょびちょびとコーヒーを飲み続ける。

狐「ん〜……ブーン君達は?」

川 ゚ -゚) 「部屋で眠らせています。家の方には連絡をしておきましたから、心配ありません」

狐「そっか……そろそろ全てを話して、彼らを保護しないといけないね」

川 ゚ -゚) 「はい……」

もう彼らの意思や運命がどうのと言っていられる段階ではなくなった。
そのことはクーも了解していた。
このままではきっと、どこかの組織がブーン達を捕らえようとするはず。

それは避けたい。いや、避けなければならない。
この世界、しいてはその力の均衡を守るためにも。



  
8: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 22:35:05.64 ID:Sxst+Bdv0
  

狐「彼らが起きたら連絡してほしい。私も説明に立ち会うから」

川 ゚ -゚) 「わかりました」

返事をしつつ、クーは身なりを整えて出口へと向かった。

とりあえずライダースーツから着替えないといけない。
時間がなくてずっとこのままだったが、きっと身体の下は汗でムレているだろう。
早く着替えたい。気持ち悪い。

狐「あ、そうだクー君」

川 ゚ -゚) 「はい?」

上司に呼び止められ、クーは振り返る。

狐「よかったそのライダースーツをゆずってくれないかい? いいムレ具合なんだけ、」

言い終える前に、肉と肉がぶつかり合う音が部屋に鳴り響く。

クーの右ストレートが見事に決まり、上司の言葉がそれ以上続くことはなかった。

川♯゚ -゚) 「変態性をどうにかしてほしいものだ、まったく」



  
9: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 22:37:28.13 ID:Sxst+Bdv0
  



目覚めた時、どこかで見たことのある白い天井が目の前に広がっていた。

白いタイル状の天井。これはなんだっただろうか? 
そうだ。肩の治療を受けた後に目覚めた時の、あの病室だ。
確かあの時、しぃの姿をしていてしぃではない人と喋ったっけ。

そうか。昨日自分はクーに連れられて、ここで寝たんだ。

( ⊃ω^)「……朝……かお?」

ブーンは目をこすり、身体を起こした。

( ^ω^)(まだ7時過ぎたばっかりだお……こんなに早く目が覚めたのは久しぶりだお)

携帯のデジタル時計を見ながら、ブーンはベッドを降りた。
よく自分の姿を見れば、昨日孤児院から出たままの姿をしている。
赤いセーターに白いズボン。お気に入りの格好だが、暖房が効いた室内では少し暑かった。



  
10: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 22:39:34.04 ID:Sxst+Bdv0
  

背伸びをして身体をほぐし、少し回りを見渡す。
自分以外にベッドに寝ている人間が、3人いることに気がついた。

( ^ω^)(ドクオ、ショボン……それにツンも……)

自分のせいで襲われた3人が、それぞれのベッドで眠っていた。
昨日ここに連れてこられた時、彼らはすでに眠っていたのでまだ話をしていない。

ブーンは彼らの顔を見ながら、ふぅ、と息をつく。
こうやって無事な3人の顔を見ることができて本当によかった。
もしあの兵士達のように死んでいたら……きっと自分も生きてはいられなかっただろう。
自責の念に耐えられなくなる。

( ´ω`)(……みんな、本当にごめんだお)

自分が『人の子』だかなんだかわからないものだから、こんな事件に巻き込んでしまった。
謝りたくても謝りきれないほど、彼らには申しわけなかった。

ブーンは数十分ほど彼らの顔を眺めた後、ふと外に出てみたくなった。
理由はない。ただなんとなくだ。

ドアを開けて、廊下に出てみる。

廊下は静けさで一杯だった。誰もいなければ、何も聞こえない。
静寂の音だけが耳をつんざき、なんだか気持ち悪くなってくる。

まるで昨日の夜の公園みたいだ。



  
12: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 22:41:53.10 ID:Sxst+Bdv0
  

( ^ω^)(そういえばクーさんは『全て話す』って言ってたけど、クーさんはどこにいるんだお?)

昨日は疲れて寝てしまったので、結局話は聞けずじまいだった。
早く聞きたい。

もう、無視することはできない。自分に関係していることは全て聞いてしまいたかった。

そんなことを考えながらふらふらと歩き続けていると、『所長室』と銘打たれた部屋のドアが開いた。

部屋から出てきたのは、まだライダースーツを着ていたクーだった。

川 ゚ -゚) 「む、ブーンか。おはよう」

クーが慌てて『所長室』のドアを閉める。
部屋の中で誰かが倒れているのが見えたが、気のせいだろうか?

( ^ω^)「おはようだお。なんだか目が覚めちゃったお」

川 ゚ -゚) 「そうか。まだ他のみんなは起きていないんだろう? 話は後でやるから部屋で待っててくれないか」

( ^ω^)「わかったお」

ブーンは素直に部屋に引き返そうとした。
と、そこでクーが「ん、そうだ」と突然ブーンの肩を掴んで、引き戻した。



  
14: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 22:43:58.16 ID:Sxst+Bdv0
  

( ^ω^)「な、なんだお?」

川 ゚ -゚) 「少し調べてみたいことがあるから、私についてきてくれないか?」

( ^ω^)「なんだかよくわからないけど、わかったお」

別に拒否する理由もなく、ブーンは彼女の言うとおりに後をついていった。

クーはエレベータに乗る。どうやら地下へ移動するようだ。

( ^ω^)(……はっ!)

エレベータに乗っている間に、ブーンはあることに気がついた。

(*^ω^)(そういえば、こんな綺麗な人とふたりっきりになるなんて、初めての経験だお)

エレベータの階数表示を見上げるふりをして、クーの横顔を盗み見してみる。
初めて出会った時から思っていたことだが、クーはとても端整な顔立ちをしていて「綺麗」という言葉がそのまま当てはまるような女性だった。

こんな女性と、エレベータという密室でふたりっきり。

その事実に気付いた時、ブーンは人知れず興奮してしまった。

(;^ω^)(いったいこれから何をするんだお……なんだか緊張してきたお)

昨日の恐怖も忘れて、こんなことを考えてしまう自分の節操のなさに呆れつつ、微妙に勃ってきた股間を前かがみになって隠した。
呼吸はハァハァと荒い。



  
15: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 22:46:23.31 ID:Sxst+Bdv0
  

エレベータが目的の階に到着した。エレベータのドアが開き、ブーン達は地下1階に降りる。
地下も上とは大差はなく、白い壁にドアと窓が多少ついている廊下が延々と続いていた。

川 ゚ -゚) 「ここだ」

クーが一番奥の部屋の前に立ち、障子を開いた。上には『剣道場』と書かれていた。

それを見たブーンは、またしても妙な妄想に取り付かれた。

(;^ω^)(け、剣道場かお? いきなりコスプレとは、予想外だお)

どんどんと加速していく妄想は、部屋の中に入っても止まらなかった。

中は普通の剣道場だった。
床は板張り、壁には竹刀や掛け軸が飾られており、高校で一度だけ入った剣道場を思い起こさせた。

クーが飾られた竹刀を一振り手に取り、「ふむ」と頷いた。

(;^ω^)(ま、まさか後ろに竹刀を入れられるのかお!? アナリスクで鍛えているとはいえ、ちょっときついお!)

妄想はまだまだ止まらない。

川 ゚ -゚) 「よし……それではブーン、準備はいいか?」

( ^ω^)「ちょ、ちょっと待ってくれお!」

川 ゚ -゚) 「なんだ?」



  
16: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 22:48:16.91 ID:Sxst+Bdv0
  

( ^ω^)「ライダースーツを着たままのプレイは、初めての僕にはやりにくいお! もう少し脱がしやすいのをお願いするお!」

ブーンの言葉に、クーは首を傾げた。

川 ゚ -゚) 「何を言っているのかよくわからんが……確かにずっと着っぱなしだったな。少し待ってくれ。今脱ぐから」

クーがそう言うと、おもむろにライダースーツを脱ぎ始めた。黒いカーボン製のスーツをするするっと脱いでいく。
下には白いTシャツとGパンを着ていたが、その姿を見た瞬間、ブーンは鼻血が出そうな勢いで興奮し、目を血走らせた。

(*^ω^)「ちょwwwwwそれ、なんてサービスショットwwwwww」

透けていた。汗で。

川 ゚ -゚) 「ん? ああ、気にするな」

(*^ω^)「無理スwwww」

川 ゚ -゚) 「ブラジャーが見えているぐらいではないか。興奮するほどのものではないだろう
      ……仕方ない。ちょっと待ってろ。確かここに袴があったはずだ」

クーが近くの押入れらしき扉を開いて、中から剣道用の袴を取り出した。
着替えてくる、と言って別室へと姿を消す。



  
17: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 22:50:31.48 ID:Sxst+Bdv0
  

数分後。

川 ゚ -゚) 「これでいいだろう」

上は白く、下は灰色の普通の剣道の袴。
男用なので少し大きいようだが、そのミスマッチ感がまたイイ!とブーンは思った。

(*^ω^)「透け透けプレイもいいけど、やっぱりコスプレが一番だお」

川 ゚ -゚) 「コスプレ? 何を言っている。これから調べることがあると言っただろう」

( ^ω^)「ほえ?」

川 ゚ -゚) 「あの光を出してみろ、今ここで」

クーの顔が急に真剣味の帯びたものになり、ブーンは(なんだコスプレじゃなかったのか)と残念がりつつ、クーの言うことをよく聞いてみた。

どうやら、彼女は今ここでブーンの力の正体を見極めたいらしい。

彼女の意思を汲み取り、ブーンは協力することにした。



  
18: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 22:52:37.26 ID:Sxst+Bdv0
  

光、というのはおとといの光の弾や、昨日出した光の壁のようなもののことだろう。
いきなり出せと言われてブーンは困惑したが、形だけでも手を前に突き出してみた。

( ^ω^)「どうやって出すんだお?」

川 ゚ -゚) 「それはわからんが……とりあえずやってみてくれ」

( ^ω^)「把握した」

とりあえずブーンはやってみることにした。

( ^ω^)「ふーんん!」

出ろ、出ろと念じ、気合を入れる。

出ない。

( ^ω^)「いくお! 『光弾』!」

とっさに技の名前を作って叫んでみる。

出ない。

(♯^ω^)「これでもくらえええええ!」

目の前に敵がいるつもりで手を振ってみる。

出ない。



  
19: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 22:54:49.64 ID:Sxst+Bdv0
  

それから10分ほど、光を出そうと奮闘したが、どうやっても出なかった。
テレビやゲーム、漫画で見たような必殺技の動作を真似てみたが、出なかった。

光のひとかけらも出ない。
まるで便秘みたいだ、とブーンは思った。

(;^ω^)「はぁ、はぁ、はぁ」

川 ゚ -゚) 「んー、まだ自由に操れないということか?」

( ^ω^)「そ、そうみたいだお」

竹刀をボンボンと手で叩きながら、クーは何事かを考え始めた。
ブーンは息も切れ切れになりつつ、なんだか喉が渇いたなあ、とのんきなことを考えている。

そういえば、クーが竹刀を持っていると昨日の戦いのことを思い出す。
あの見事な日本刀さばき。『影』の攻撃を避け、的確な攻撃を与える身のこなし。
もしかすると、クーは剣道をやっているのかもしれなかった。
今もよく見れば、竹刀の扱い方が上手いように思える。



  
20: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 22:57:08.45 ID:Sxst+Bdv0
  

川 ゚ -゚) 「ふむ……では」

手に持っていた竹刀を唐突に構えたクー。
これは……確か正眼の構えと言っただろうか? 剣道の試合で見るような基本的な構えなのだが……

怖い。
剣先からクーの殺気が感じられるようで、ものすごく怖い。

川 ゚ -゚) 「……」

(;^ω^)「あうあう……」

じりじりと近づいてくるクー。
今にも竹刀を振り下ろしてきそうで、ブーンは我知らず後ずさりする。

クーの竹刀がゆらりと揺れる。気のせいか竹刀が光っているようにも見える。
彼女の目の色も変わる。

来る。面打ちだ。

川 ゚ -゚) 「面!」

( ^ω^)「あう!」

見事な面打ちがブーンの頭に決まり、竹刀独特の「パーン」という音が剣道場に響いた。



  
23: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 22:59:13.22 ID:Sxst+Bdv0
  

竹刀であっても、生身に打たれればかなり痛い。
ブーンは頭を抱えてしゃがみこんだ。

( ;ω:)「お、お、痛いお」

川 ゚ -゚) 「む、おかしいな。こうすればあの光の壁が出ると思ったんだが……」

( ;ω;)「いきなり竹刀で殴るなんてひどいお」

川 ゚ -゚) 「すまんすまん。手加減はしたんだが……当たったのはどこだ? 見せてみろ」

クーがブーンの頭に手を添え、竹刀が当たった場所を探る。
少したんこぶができてしまったようで、クーに触れられた瞬間に刺すような痛みに襲われた。

川 ゚ -゚) 「たんこぶができてしまったか……あとでしぃに治してもらうといい」

( ;ω:)「お、お……」

川; ゚ -゚) 「あ〜、泣くな、ほら。頭を撫でといてやるから」

( ;ω;)「お、お……ありがとうだお。けど撫でられると少し痛いお」

クーに頭を撫でられるのは嬉しかったものの、たんこぶに触れられるとけっこう痛い。



  
24: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:01:26.14 ID:Sxst+Bdv0
  

痛みが引くまでかなり時間がかかったが、30分もするとマシになってきたので、クーとの話を再開することにした。

川 ゚ -゚) 「で、だ……どうやら自由自在に操れるわけではないようだな」

( ^ω^)「そうみたいだお。あの光を出した時はなんだかいっぱいいっぱいで、どうやって出したかなんて覚えてないお」

川 ゚ -゚) 「ふむ……仕方ないか。『気』の使い方もままならないだろうしな」

( ^ω^)「『気』? もしかして実力がインフレしまくる某格闘アドベンチャー漫画で出てくるやつかお?」

川 ゚ -゚) 「その某格闘漫画が何かは知らないが……『気』は、他にも生体エネルギーやらオーラやら色々と呼び名がある。
      まあ、特殊な能力を持つものが扱える力だと思ってもらえればいい」

( ^ω^)「クーさんは使えるのかお?」

川 ゚ -゚) 「ああ。だから『影』と戦えるんだ。順を追って説明しようか。
      おととい昨日と、『影』を見て何か気付いたことはなかったか?」

そう問われて、ブーンは兵士達と『影』の戦いのことを思い出した。
あの時、兵士はマシンガンの銃弾をこれでもかと浴びせていたのに、『影』にはまったく通用しなかった。
まるですり抜けたみたいだった。



  
26: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:03:31.32 ID:Sxst+Bdv0
  

( ^ω^)「兵士みたいな人たちが銃を撃っても、『影』にはぜんぜん効かなかったお」

川 ゚ -゚) 「そうだ。『影』には普通の武器はまったく通用しない。
     『気』をコントロールして、『気』を周りに張りめぐらした武器で攻撃しなければいけないんだ」

そうだったのか。
だから、銃弾は効かなくてギコの弓矢は効いたのか。
とすると、ギコも『気』が扱えるのだろうか……?

川 ゚ -゚) 「初めて会った時、私はツン君から借りた傘で戦っていただろう? 
      あの時は『気』を傘の周りに張りめぐらせていたから攻撃できたんだ」

( ^ω^)「そうなのかお……けど、どうして銃とか、もっと強い武器で攻撃しなかったんだお? 
       弾の周りに『気』を張れば、『影』にも当たるお」

川 ゚ -゚) 「ふむ、なかなか鋭い質問だな。飲み込みも早い」

クーが感心したように言った。
そして、竹刀に手を添えて、刀の部分にこすりつけはじめた。
それを続けていると、なぜか刀の部分が光り始めたのがわかった。

そうか。今ここで『気』を竹刀の周りに張っているのか。
しかし、以前はこんなものは見えなかった。どうして今になって見えるようになったのだろうか?



  
27: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:05:35.59 ID:Sxst+Bdv0
  

そんな疑問を抱いていると、クーが話を再開した。

川 ゚ -゚) 「光っているのが見えるか?」

( ^ω^)「見えるお……前は見えなかったのに」

川 ゚ -゚) 「そうか。『気』の才能が開花し始めたんだろうな。使い手には『気』が見えるから」

クーが竹刀を一度振ると、光は消えてしまった。『気』を張るのをやめたのだろう。

川 ゚ -゚) 「今のが『気』だ……で、どうして銃にもこんな風にしないのか? という質問だったな?」

( ^ω^)「そうだお」

川 ゚ -゚) 「まず、ひとつ話しておこう。『気』はそれ単独では使えない。何か媒介となるものが必要なんだ。
     『気』だけを飛ばしたりすることはできない」

( ^ω^)「そうなのかお? ということは、絶対に武器が必要だということかお?」

川 ゚ -゚) 「一部例外はあるが、たいていはそうだ。そして、その媒介となる武器と使用者には相性というものがある。
      刀が得意なものもいれば、弓矢との相性がいいものもいる」

クーは竹刀を一振りしつつ「私の場合は刀だ」と付け加えた。



  
28: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:07:42.59 ID:Sxst+Bdv0
  

川 ゚ -゚) 「相性が悪い武器を使えば、『気』を張ることはできない。たとえ私が銃弾の周りに『気』を張ろうとしても、たちまちに『気』は散ってしまうだろうな」

( ^ω^)「……傘を使えたのはどうしてだお?」

川 ゚ -゚) 「私は、刀に似たものなら大抵相性がいいんだ。使ったことはないが西洋のサーベルでもいいし、極端に言えば孫の手でもいい。
      一番実力を発揮できるのは日本刀だがな」

クーはそう言って、竹刀を壁に戻した。

ブーンはそれを眺めつつ、頭の中で今聞いたことを整理する。

『気』……こういう力が本当に存在するなんて、思いもよらなかった。
いや、こういう力の使い手になって物語の主人公になりたいという妄想をしたことはある。けれども実際に使い手かもしれないと言われると……なんだか不思議な感覚だ。
嬉しいとも恐ろしいとも思えない。ただ単に納得していた。

川 ゚ -゚) 「ちなみに、『気』は人間相手には何の効力ももたないから注意しておけ。」

( ^ω^)「そうなのかお? 『気』を張った武器で攻撃したら、通常の3倍の攻撃力になったりしないのかお?」

川 ゚ -゚) 「ならない。例外はあるものの、『気』は『影』相手にしか役に立たない。人間と戦う時は普通に拳銃で使った方が楽だ」

クーが懐から拳銃を取り出す。
だが、ブーンはそれを見て昨日の恐怖が蘇ってきて、「ヒッ」と声をあげてしまった。



  
29: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:09:50.13 ID:Sxst+Bdv0
  

ブーンの恐怖に気付いたのか、クーはすぐに銃をしまいこんで申し訳なさそうに頭を下げた。

川 ゚ -゚) 「すまない。普通なら拳銃を見ただけで怖いものだな……配慮が足りなかった」

( ^ω^)「い、いや……いいんだお。それで……僕はいったいどんな力を持っているんだお? 今話してくれた『気』を使えるのかお?」

その質問に対して、クーは難かしい顔をした。
まるでその質問が来るのはわかっていても、来てほしくなかったというような顔だった。

川 ゚ -゚) 「はっきり言おう……わからないんだ」

( ^ω^)「なんですと?」

川 ゚ -゚) 「先ほど、『気』は単独では使えないと言ったな? だが、ブーン。お前は違っていた。あの光の弾は何の媒介もなしに発生している」

( ^ω^)「そういえば……光の壁もそうだったお」

川 ゚ -゚) 「しぃの力に似ているとも思ったのだが……」

しぃの力、とは怪我を治す力のことなのだろう。
似ている? ということはどういうことなのだろうか?



  
31: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:12:10.72 ID:Sxst+Bdv0
  

こちらの疑問に気付いた様子のクーが、話を続ける。

川 ゚ -゚) 「しぃもまた『気』の使い手だが、さきほど言った『例外』に当てはまる。
     普通とは違って、彼女の能力は『気』を相手に送って怪我の治癒を早めることにある。人間相手にも効くということだ。
     その上媒介は必要ない。手をかざすだけで傷を治すことができる」

ふむふむ、とブーンはうなずいた。

川 ゚ -゚) 「しかし、それは手が触れるほどの距離でなくてはならない。
     君のように長距離に渡って『気』を発生させられるなんてことは、彼女にはできない。ましてや『影』を倒すなんてことも。
     というより、そもそも君が出している光が『気』なのかどうかもわからない。なにせ、使い手ではないツン君達にも見えているのだから」

では、いったい自分の力とは何なのだろうか?

単独で『気』のようなものを発生させ、それで『影』をやっつけられる能力。

それが自分の力なのだろうか……そして、それが『人の子』の力なのだろうか?



  
32: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:14:23.26 ID:Sxst+Bdv0
  

川 ゚ -゚) 「君が『人の子』であるかどうかはわからないが……
     そんな力を持っているんだ。私達の組織に協力してくれたらありがたいんだがな」

そう言った後、クーはしまったという顔をして「すまない、失言だった」とブーンに頭を下げた。

川 ゚ -゚) 「君は一般市民だ。普通の日常を生きている人。たとえ特異な能力を持っていても、『影』と戦うような世界に入るべき人ではない」

( ^ω^)「……だけど、僕は」

ブーンが言い出す寸前に、携帯電話特有の電子音が言葉を遮った。
自分ではない、クーの携帯だった。
脱ぎ捨てたライダースーツから携帯を取り出した彼女は、すぐに電話に出た。

川 ゚ -゚) 「はい、クーです。はい……」

クーが電話で話している間、ブーンは考えた。



  
33: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:16:09.14 ID:Sxst+Bdv0
  

自分はまだ『一般市民』なのだろうか? と。
普通の日常を生きる、普通の人間なのだろうか? と

果たして一般市民がこんな場所にいるのだろうか?
日常を生きる者が『気』や『影』の説明をしてもらうだろうか?
普通の人間が『人の子』と呼ばれたりするのだろうか?

( ´ω`)(もう僕は……戻れないのかもしれないお)

様々なことを知ったこの3日間。
その間に自分の世界観は大きく変わり、自分がなすべきこととやりたいことも変わってしまった。

以前は普通に学校に行っていればよかったはずなのに、今は世界を導く『人の子』であるかもしれず、色々な組織から逃げないといけなくなった。

そんな自分はもう日常に戻れないのかもしれない。



  
35: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:18:21.15 ID:Sxst+Bdv0
  

川 ゚ -゚) 「はい……わかりました。それではそちらに向かいます」

クーの電話が終わり、ブーンは彼女に向きなおした。
終わりのない思考はとりあえず心の底に封印しておいた。

川 ゚ -゚) 「他の3人が起きたようだ。今、しぃと所長が事態の説明をしている」

( ^ω^)「そうかお……」

川 ゚ -゚) 「私達も部屋に戻ろう。そこで私達のことと、私達が知っていることを全て話す」

( ^ω^)「わかったお」

ブーンとクーは剣道場を出て、部屋へと向かった。

ブーンの心にはいまだ、自分のことと周りのことについての真っ黒な不安が溢れていた。

第7話 完



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