( ^ω^)ブーンが心を開くようです
- 37: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:20:37.36 ID:Sxst+Bdv0
第8話
エレベータに乗っていてわかったことなのだが、このビルは地上10階まであるらしい。
このビルがどこに建てられているのか正確にはわからない(昨日バイクで連れてこられた時も目隠しをされた)。
病室の窓から外を見たことはある。周りは公園のような広場になっていて、場所を示すようなものはなく、正確な位置はわからなかった。
ただバイクが向かっていた方向から察するに、東京都内であることは確かだろう。
ブーンは、窓がひとつもない白い廊下を歩きながら、このビルは誰が建てたんだろう、と考えてみた。
クーの組織であることは間違いないが、それにしてはお金持ちな組織だな、と思った。
地下は3階まであるし、何より東京都内でビルを建てるなんて莫大なお金が必要だろう。
そういえば、前にドクオが「誰がこの組織のスポンサーなのか?」と尋ねていたっけ?
川 ゚ -゚) 「よし、ここだ」
8階の廊下を歩くこと数分。
ようやくひとつの扉の前に立ち止まり、ブーンはその扉の標識に目を移した。
『会議室』と書いてある。
これから色々と説明してもらうのだから、こういう所がちょうどいいのだろう。
クーがドアをノックして、ノブを回す。
- 39: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:22:43.34 ID:Sxst+Bdv0
中は暗かった。電気が消されている。
なかなかに広い『会議室』は、茶色い長机とパソコン画面を移すプロジェクター、ホワイトボード以外には何もない。
今、何か映像を見ているらしかった。
自分達が入ってきた瞬間にプロジェクターの映像が切れた。
席についていたのは狐としぃ、そしてドクオ、ショボン、ツンの5人。
ブーンは自分の大切な友達の姿を見た瞬間、涙が溢れそうになった。
(´・ω・`)「ブーン!」
('A`)「よぉ、ブーン。元気か?」
ξ゚听)ξ「元気そうね」
入り口で立ち尽くしている自分に、3人は近づいてきてくれた。
明るい声。血色のいい顔。3人とも元気そうだった。
- 40: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:24:40.13 ID:Sxst+Bdv0
ブーンは3人の顔を見た途端、また涙が溢れてきた。
( ;ω;)「み、みんな……ごめんだお」
(´・ω・`)「いきなり何を言うのさ」
('A`)「そうそう、こうなったのは仕方ねえって」
ξ゚听)ξ「あんたが謝ることないわよ」
3人の優しさが心に染みる。
自分のせいでこんなことになったというのに、なんて心が広いんだろうか。
「あんたのせいで!」と言われても仕方のないことなのに。
ブーンは途切れ途切れな言葉で「ありがとうだお」と感謝の意を述べた。本当に、心からのお礼だった。
狐「さあさあ、感動の再会はそれくらいにして、説明をはじめるよ」
パンパン、と手を叩き、狐が言った。
その横でしぃが「いいじゃないですか、もう少し話させてあげましょうよ」と言うが、確かに狐の言うとおりだった。
ここは早く説明を受けて、状況を確認しなければならない。
何しろいつまた、誰に襲撃されるかわからないのだ。
ここで保護を受けるのならば、ここのことを教えてもらうことも必要になる。
話し合いはきっと長時間にわたる。時間を無駄にしてはいられない。
- 41: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:26:50.36 ID:Sxst+Bdv0
( ⊃ω;)「ぐす……話を聞くお」
(´・ω・`)「そうだね」
('A`)「じゃあ、ブーンはここに座れよ。ツンの隣だ」
ξ゚听)ξ「なっ!」
('A`)「なんだ〜? 嬉しいのか?」
ξ////)ξ「だ、誰がブーンの隣で嬉しいわけないじゃないでしょ!」
(´・ω・`)「ツン、少し文法が変だよ」
3人のいつもの調子を目の当たりにして、ブーンは笑った。心から笑った。
久しぶりに笑えたような気がした。
狐「よし、準備もできたことだし、説明を始めるよ。『気』の説明はもうしたね?」
川 ゚ -゚) 「はい、ブーン君にもさきほどしました」
狐「よし、こちらもそれが終わった所だ……では、昨日君達を襲った奴らについて話そうか」
もうすでにツン達も『気』の説明を受けたらしい。
ドクオが小声で「俺もそういう力があるのか?って聞いてみたけど、『ぜんぜん素質がない』ってしぃさんに言われちまったww」と小声で笑いながら話してくれた。
他の2人もそういう力はないらしい。その方がいい。変な力を持っているのは自分一人で十分だ。
- 42: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:28:54.37 ID:Sxst+Bdv0
それから、昨日の襲撃者についての話になった。
それらは驚くべきことばかりだった。
在日CIA――通称『赤坂』という組織の一員であると推測される、ギコ。
自分やツン達を襲った、フランスやイギリス等ヨーロッパの特殊部隊。
その他、今の日本には様々な国の様々な組織の部隊が潜入をしているらしい。
まさか、国が絡んだ事態にまで発展しているとは思えず、ブーンは口をあんぐりと開けて呆然としてしまった。
狐「――というわけだ。今現在、この国には各国の特殊部隊がぞくぞくとやってきている。オールスター総出演、という感じでね」
(;^ω^)「……」
(;'A`)「……」
(´・ω・`)「……」
ξ;゚听)ξ「……」
何も言えなかった。
ブーンというたった1人の少年のために、ここまでのことが起こっている。
それが信じられず、けれども信じるしかなく、ブーン達は黙って狐の話を聞いていた。
- 43: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:30:56.79 ID:Sxst+Bdv0
狐はホワイトボードに書かれた「CIA」「外人部隊」「ブーン」といった単語を消し、「さて」と区切りの言葉を置いた。
狐「事態はけっこう深刻なんだ。このままだと、いつどこかの組織がブーン君を連れ去ってしまうかわからない。それだけはどうしても避けたい」
狐がホワイトボードに、赤字で大きく「保護」という文字を書いた。
狐「そこで、ブーン君を私達の組織で保護したい。悪いようにはしない。君の自由は保障されているし、危険なことは一切させない。ここにいてくれるだけでいい。
これは強制じゃない。けれども強く勧める。このまま外にいては危ないということは、昨日実感しただろう?」
ブーンはその言葉に強くうなずいた。きっと、このまま外にいても、色々な人たちに襲われる。
それが昨日の事件で実感できた。
- 44: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:33:02.64 ID:Sxst+Bdv0
狐は話を続ける。
狐「もちろん、君の力を利用しようとも思っていない。私達は保護したいだけなんだ」
(´・ω・`)「保護だけ? 本当にそうなんですか?」
ショボンが急に口を挟む。
それは疑いをかけていることがありありとわかる口調であり、狐は困ったように微笑んだ。
狐「疑う気持ちはわかる。けれども、私達の組織は力を使うことが目的じゃないんだ。各国、各組織のパワーバランスを崩壊させないこと。それが私達の組織の目標だ」
(´・ω・`)「自分も使わないし、他人にも使わせない。だからこそ保護する……そういうことですか?」
狐「そういうことだよ。パワーバランスの安定。それが目的なんだ」
('A`)「『影』を倒すこともそれにつながるってのかい?」
今度はドクオが話に割り込む。
狐は「もちろん」と答えた。
狐「『影』という不安要素があるから、世界のバランスが崩れ始めている……それを元に戻すには不安の種を解消するしかない。そういうことさ。
どうだい、ブーン君? 君の安全は保障されるし、こちらも不安の種がひとつ取り除かれることになる……悪い話じゃないと思うけど」
( ^ω^)「僕は……」
- 46: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:34:44.53 ID:Sxst+Bdv0
('A`)「ちょいまち」
何か言おうとした途端、ドクオが言わせまいとでもいうかのように口を開いた。
驚いてドクオの顔を見ると、「もうちょっと待て」というアイコンタクトをもらい、ブーンは口を閉じることにした。
狐「なんだい? ドクオ君」
('A`)「これが最後の質問なんだが……そういうことを目標にしてるってことは、並大抵のバックはついてないはずだ。前にも聞いたけど……スポンサーはどこなんっスか?」
狐「それは……」
以前、「聞かない方がいい」と言われた質問。
それだけ危険な質問だというのに、ドクオはどうしてまた同じ質問をしたのだろうか?
ドクオの意図が読めず、ブーンは首をひねった。
狐「……」
狐は黙ったまま何かを考えていた。
答えるべきか迷っているのか、それとも言う内容を吟味しているのか。
頭を何度も掻いている彼の顔は苦渋に満ちている。
- 48: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:36:52.06 ID:Sxst+Bdv0
(*゚ー゚)「ドクオくん、それはちょっと……」
狐「いや、答えよう」
しぃがたまりかねず口を挟むが、狐がそれを止めた。
狐の顔は決意に満ちている。
しぃはそれを戸惑った表情で見つめていた。
(*゚ー゚)「しかし、所長。これを言えば彼らが……」
川 ゚ -゚) 「私達で守ればいいだけの話だ……そうだろう? しぃ?」
今度はクーが口を開く。彼女も狐と同意見らしい。
2人に説得される形となったしぃは、少し黙って考え、「そうですね……」と仕方なさそうに言った。
(*゚ー゚)「私達はそのためにここにいるんですしね」
川 ゚ -゚) 「そういうことだ」
しぃとクーが何か含みのある視線を交わしている。それは2人だけの共通した思いが込められているように見えた。
狐「では答えるよ、ドクオ君」
狐が意を決した表情で言った。
ドクオもまた、緊張した面持ちでそれに応える。
('A`)「はい」
狐「私達のバックはね……」
- 50: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:39:35.45 ID:Sxst+Bdv0
- (´・ω・`)「日本そのもの」
みんなの顔色が変わった。
一斉にショボンの方へと顔を向けた。もちろん、驚いたから。
ショボンは相変わらずの(´・ω・`)顔で「ん?」とみんなの顔を見渡した。
そして、ゆっくりと口を開く。
(´・ω・`)「やあ(´・ω・`)
ようこそバーボンハウスへ。
このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。
うん、『また』なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、この言葉を聞いたとき、君は、きっと言葉では言い表わせない『ときめき』みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい、そう思ってこの言葉を言ってみたんだ
じゃあ、注文をきこうか・・・」
(;'A`)「いや、違うだろ、反応の仕方が」
(´・ω・`)「すまない」
狐「き、君はどうして知ってるんだい?」
(´・ω・`)「それもすまない。適当なんだ」
- 52: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:41:33.65 ID:Sxst+Bdv0
当たってたの? とでも言いたげなショボンの顔。
拍子抜けした空気が会議室中を通り過ぎた。
まるでバーボンハウスをくらったかのような気の抜けよう。
いや、バーボンハウスなのだけれども。
( ^ω^)(さすがショボン、とらえどころが違うお)
一方の狐は言いたいことを言われてしまった落胆を顔に浮かべ、冷や汗をぬぐう。
あ〜あ、かわいそうに、とブーンは思った。
狐が「と、とにかく」となんとか話を元に戻す。
狐「ショボン君の言うとおり、この組織の後ろ盾は日本という国そのものだ。というより、この国が作った組織と言ってもいい」
('A`)「そんなこと、初めて聞いたんだけど」
狐「そりゃあそうさ。この組織は非公開組織なんだから。一般には知られてないよ」
- 53: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:43:45.86 ID:Sxst+Bdv0
川 ゚ -゚) 「今のご時勢だ。もしこの組織の存在がばれれば、現政権は窮地に追いやられるし、他の国からも色々と非難されるだろう。
だから、この組織については秘密にしておかないといけない。
何しろ武器を使って実際に戦闘しているんだからな。『影』とも『人間』とも」
ξ゚听)ξ「人間とも?」
その言葉を聞いて、ブーン達の身体が固まった。
人間と戦っている? ということは、もしかして銃を使って人間を殺したりしているのだろうか……?
狐「……こんな仕事をしているからね。きれいごとだけじゃ済まされないのさ。もっとも、そういうことは嫌いだけどね」
狐のその言葉を聞いて、やはりそうなのか、と思った。
だが、仕方ないことなのだろうと同時に思う。
完全武装した兵士が街中の公園で銃をぶっ放すのだ。自分の身体を守るためにも、そういう行為もしなければならないのだろう。
- 54: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:45:35.85 ID:Sxst+Bdv0
狐「……それで、返事をもらえるかい?」
( ^ω^)「……」
ブーンはドクオの顔を見た。
「もう俺はいい。お前の好きにしろ」と言っているのが目でわかった。
ショボンを見た。
「まあ、別に僕はどっちでもいいよ」と興味なさそうに言っているのが分かる。
ツンを見た。
「あんたの好きにしなさい」。これは一番よくわかる。
彼女が目を細めて興味なさそうな顔をしている時は、「自分で考えろ」というサインが出されている時なのだ。
ブーンは考える。
これ以上、外にいてもいいのかどうか?
危険を省みずにいつもの生活を送りたいのか?
きっと、外にいればみんなに迷惑がかかる。
ツン達以外にも、色々な人に迷惑をかける。
ならば、答えはひとつだ。
- 55: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:47:49.46 ID:Sxst+Bdv0
( ^ω^)「……ここにいるお」
そういった瞬間、狐の顔が安心したように緩んだ。
狐「そうか。それはよかった。悪いようにはしない。孤児院への連絡は私達がなんとかするよ」
孤児院とはもうしばらくお別れなのだろう。
荒巻、ヒッキー、お手伝いさん、子供達……まるで家族のような人たちだったが、次に会うのは先のことだろう。
みんな、元気でやってくれるだろうか。
学校もそうだ。
せっかく不登校から脱して、行けるようになったのに……もったいないなあ。そういえばもうすぐ期末テストだった気がする。
あ〜、受けなきゃ卒業できないかも。
そんなことをつれづれと考えていると、狐が思い出したかのように「あ、そうだ」と口を開いた。
狐「ショボン君、ドクオ君、ツン君。君達はどうする?
たぶん、もうブーン君が『人の子』かもしれないっていうのはばれているから、
君達が外に出ても襲われることはないと思うんだけど……」
そうか、昨日ギコに自分の力を見られたっけ。
在日CIAを通して、色々な組織にそのことがばれるのかもしれない。
CIAが意図的に情報を漏洩しようとはしないだろうけど……たぶん、もうツン達が襲われることはないだろう。
- 56: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:49:28.94 ID:Sxst+Bdv0
3人は困惑した表情でそれを聞いていた。
けれどもそれは一瞬で、何か示しあわせたように顔を見合わせた3人は、さも当然のように「ここにいますよ」と口をそろえていった。
('A`)「ま、ここまで聞いておとなしく帰してくれるわけないと思ってたし、覚悟はできてるさ。マンドクセエけど」
(´・ω・`)「というより、もう家に『しばらく旅するから』って言っちゃった」
ξ゚听)ξ「ここで逃げるなんてなかなかできないわよね、やっぱり。何かできることがあったらやりたいし」
3人はどうして……こんなにも優しくて、こんなにも勇気があるのだろうか。
怖くはないのだろうか?
嫌にはならないのだろうか?
家に帰りたいとは思わないのだろうか?
何か、3人にはここにいたいと思える原動力があるのだろうか?
ならば、自分は……
- 58: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:51:30.00 ID:Sxst+Bdv0
狐「そうか……歓迎するよ、うん」
(*゚ー゚)「人手はいつだって足りませんしね」
川 ゚ -゚) 「ああ」
あちらの3人が笑っていた。
ブーンはそれを見ながら、思った。
いったい、自分は何ができるのだろう?と。
狐「そういえば、私達の組織の名前を言ってなかったっけ?」
('A`)「ああ、そういえば聞いてないっスね」
狐「うん、私達はね『VIP』って言うんだ」
ξ゚听)ξ「『VIP』……『Very Important Person』の略ですか?」
狐「いや、『Vacant Innominate People』の略さ」
- 59: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:53:05.92 ID:Sxst+Bdv0
('A`)「え〜と……なんて意味だ?」
ξ゚听)ξ「少しは勉強しなさいよ。『うつろで匿名の人々』よ」
(´・ω・`)「変な名前だね」
狐「ただの皮肉さ。予言や『影』なんていう、あるかわからないもののために建てられた組織だからね。
なのに頭文字を取れば『VIP』。お偉いさんは皮肉が好きなのさ。
ま、それはともかく……ようこそ『VIP』へ。歓迎するよ」
ブーンは思った。
これからはまったく違う世界の中で生きていくのだろう、っと。
第8話 完
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