( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
60: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:54:48.63 ID:Sxst+Bdv0
  

幕間 ―祭りの準備は進行中―

暗くてじめじめした所は苦手だった。
何も見えず、何も聞こえず、ただ湿り気のある空気だけが肌に直接感じられるような空間は、嫌いで仕方なかった。

もちろん理由はある。子供の頃の記憶のせいだ。

自分の故郷は田舎だったので、ひとつひとつの家の敷地がかなり広かった。
おそらく都会では何億もするほどの広さの土地を、農家を生業としたその土地ではさも当然のように住人が持っていた。
自分の家もそうだった。たぶん、今のマイホームよりも数倍は広い家だった。

その家のある一角に、物置小屋がある。
そこは母屋からも遠く離れた場所にあった。
また池の近くにあったため、その小屋の中は暗くて、静かで、とてもじめじめしていた。



  
61: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:56:41.65 ID:Sxst+Bdv0
  

親に叱られた時、「反省」と称してその物置小屋にいつも入れられていた。
何か危険なものがあるわけではない。そういう恐怖があるわけじゃない。

だが、暗くて静かな部屋に長時間入れられると、なんだか自分の心が塞ぎこんでいき、自分の頭が徐々に別のモノに変質していくかのような恐怖を覚えた。

それはとても怖かった。自分が自分でなくなるかのような。子供心にも「狂う」ということが理解できるような。

だから、たとえ自分が悪くはないと思っていても、その小屋に入れられれば自分は観念した。親に謝った。
それは屈辱的なことだったが、自分が変質する恐怖に比べればはるかにマシだった。

そんな記憶があるから、あの糞真面目なリーダー曰く『隠れみの』らしいこの場所にも、自分は嫌悪感で一杯になってしまっている。

( ,,゚Д゚) 「そう……そうだ。あのガキが『運命の鍵』だということは間違いねえよ、ゴラァ」

生唾をひとつ吐き出すことで、ギコは何度言っても事情を理解しない電話相手への苛立ちを紛らわした。



  
62: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 23:58:28.90 ID:Sxst+Bdv0
  

こんな場所、1分1秒でもいたくはないのに、どうしてこのお偉いさんは話を聞かないんだ、こんちくしょう。

( ,,゚Д゚) 「わ〜ってるよ。ガキの居場所? 知らねえよ。どこかに逃げたんじゃねえのか? そこは俺の仕事じゃねえしな」

どうしてこんな場所で電話をしなければいけないのか?
リーダー曰く「大都会の中で、人目を避けられる場所なんて滅多にないから仕方ない」らしいが、こんな廃工場の奥深くで電話しなくてもなあ……

( ,,゚Д゚) 「はいはい、わかったよ。で、俺はまだ調査を続けるんだろ? わかったわかった……」

いらいらが限界に達し、ギコは携帯電話を握りつぶしそうになった。

( ,,゚Д゚) 「はい了解了解……じゃ、またな、ゴラァ」

ふぅ。

通話終了のボタンを押して最初に出たのはため息だった。安堵のため息だ。



  
64: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/19(木) 00:00:24.34 ID:iemd1ZZ80
  

報告というやつは面倒で仕方ない。
特に、気乗りがしない仕事の報告は。

日本人であり日本人ではない彼ら……『赤坂』への定期連絡ほど、ギコにとって面倒なものはなかった。
彼らは、こちらが見たり聞いたりしたことを、重箱の隅をつついてくるかのように聞き出してくる。
万が一嘘でもつこうものなら、自白剤中毒者への道へご案内〜、だ。そういう組織なのだ、彼らは。

自分のような立場の人間は特に報告には気を揉まなくてはいけないのだが、にしても面倒だった。

( ,,゚Д゚) 「はぁ……今度はこっちだな」

ギコはカバンの中からもう1台の携帯電話を取り出した。
『赤坂』への定期連絡用のモノは懐にしまい、もう1台の携帯に番号を入力する。



  
65: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/19(木) 00:02:11.50 ID:iemd1ZZ80
  

さて、こちらが本命だ。
こっちには、「本当に」今日見たこと聞いたことを話さなくてはならない。自主的に。

ギコは通話口から聞こえるコール音を耳にしながら、今日起こったことを再整理する。

ブーンという少年のこと。
あの兵士たちのこと。
突如現れた『影』のこと。
そして、あの刀を使う女性のこと。

『俺だ』

相手が電話に出て、ギコは自分の名前を名乗って、話を始めた。

さて、リーダー様や、おてんば娘、奇妙な兄弟達は元気かな?

幕間 終わり



戻る第9話第9話(携帯用1ページ目)へ